元宮チアキではなく、“元”チアキ 作:元宮チアキ以外の誰か
私は嬉しいよ
私はマコトでもイロハでもサツキでもイブキでもないけど、祝福の言葉を送らせてほしい
拝啓
これを読んでいる誰かへ
あなたは『元宮チアキ』という少女を愛していますか?
好きですか?
私は、分かりません。好きなのか嫌いなのかも。
__だって、何も知らないから。
元宮チアキ
ゲヘナ学園における生徒会、
カメラを持ち歩き、様々なことを記録していく陽気な少女
他のメンバーと同じく、イブキを溺愛している
それだけ
『私』はそれ以外、彼女のことを何も知らない。
年齢も学年も誕生日も身長も体重も趣味も声帯も……
__何も、知らない
好きなもの、嫌いなもの、いろんなものがあると思う。
じゃあ、ここで質問。
あなたは『ジニルミカ』というキャラは好きですか?
この質問には誰もが『いや、知らないけど』ってなるに違いない。
今の自分は、これだ。
好きになるにも嫌いになるにも、何も知らないのだから答えられない。
――
『私』はファインダーを覗き込み、目の前でお絵かきをしている小さな子供をファインダー越しに見つめる。一眼レフのカメラは、お絵かきに夢中な子供の姿を捉えたが、ファインダーの中の子供はお絵かきに夢中で私の視線に気付く様子はない。
パシャリ、とシャッターを切る。
子供の写真を撮る、という行為が楽しいのか、それともファインダー越しに見える子供の仕草に心を奪われたのか、はたまた、『義務感』なのか。
それは分からない。ただ私は夢中でシャッターを切り続ける。
ファインダーの中の子供はお絵かきに夢中で、私が写真を撮り始めたことにすら気付いていない。
「できた!」
描いていた絵が完成したのか、子供がそう声を上げた時、満面の笑みを浮かべた。
それはそれは幸せそうで、純粋で、私には無い輝きだ。
私は、その瞬間を見逃すことなく、シャッターを切った。
パシャリ
「あ!チアキ先輩が写真撮ってる~!」
そこで子供、イブキはようやく『元宮チアキ』の存在に気が付いたようで、こちらへと振り返る。そして、『私』とファインダー越しに目が合うと再び満面の笑みを浮かべた。その笑顔を記録するべく、私も再びシャッターを切る。
パシャリ
「……イブキちゃんは可愛いねぇ」
私は小さく呟く。ファインダー越しにイブキが『チアキ』に向ける笑顔はやはりとても眩しくて、 私は思わず目を細めた。イブキが『チアキ』に向けているのは、ただ無邪気さから来る笑顔なのだろう。私がイブキに向ける笑みとは全くの別物だ。私は『チアキ』とは違い、偽りだらけの汚い人間だから。
__でも、この笑顔は好きだ
そんなことを思いながら私は何度も何度もシャッターを切った。イブキは屈託のない笑みを浮かべる。
イブキは知らない。自分がどんな理由で写真を撮られているのか、『私』がどんなつもりでカメラを向けているのかを。
無邪気にこちらへ手を振るイブキをファインダー越しに眺めながら、私は口角を上げた。
――
また、夢を見る。
いつもと同じように、夢の中で『彼女』を追い求める夢だ。
「チアキせんぱーい!」
イブキが無邪気な笑顔で抱き着いてくる。
それを写真で記録する。
「チアキ、頼まれてた新聞の文章、考えてきたわよ」
サツキが新聞の1コーナに載せる原稿を渡してくる。
それを確認して、印刷する。
「げっ……見なかったことにしてくれませんか」
イロハがサボっている場面に出くわす。
それを受け取った
「キキキッ!よくやったなチアキ!これで私の名声は……」
マコトが『チアキ』を褒めている。
それを素直に受け取る。
万魔殿は、ゲヘナは、キヴォトスは、何とか回っている。
この顔面に『元宮チアキ』を張り付けた化け物でも案外何とかなるものだ。
__本当か?
楽しく笑いあっている万魔殿のメンバーをファインダー越しに見る。
万魔殿は、ゲヘナは、キヴォトスは、本当に何も問題がないだろうか?
__返せ
私はそう自問自答する。
答えは、否だ。
『私の体を!未来を!!返してよ!!』
後ろから『元宮チアキ』が『私』を壊していく。
『中身』を取り出そうと、引き裂き、壊して……
「……っ!?」
目が覚めた。
「はぁっはあっ…………」
呼吸を落ち着けながら、寝る前に用意していた水を口に含み、『罪』と一緒に飲み込む。
あれは『元宮チアキ』だ。
きっと本物の。
もしくは『私』が想像で作り出した『偽者』
__本物のチアキはあんなことしないはずだから
偽者が作った偽者、ということだろうか。
何と滑稽なことか。
「ははっ…………」
自分で自分をあざ笑いながら、ベッドの横に設置した小さな鏡を見る。
酷い顔をしていた。
当たり前だ。
1人殺しているのと同義なのだから、人殺しの顔をしている。
でも、『元宮チアキ』はこんな顔をしない。
ぐにぐにと顔の肉をほぐして『元宮チアキ』の顔にする。
__チアキは、陽気で明るい子だから
「……よし」
壁に貼り付けたイブキの書いてくれたイラストを見て、微笑む。
__チアキはイブキが大好きだから
チアキは目元に隈なんて作らない。
だから、早く寝よう。
飲み込んだ『
元から真っ黒だった意識が闇に落ちると、どこへ行くのだろうか。
ベッドと机と、椅子。壁に貼り付けられた何枚かの写真とイブキの絵。
それしかない部屋で、『私』は今日も眠る。
ああ、『チアキ』は部屋に何を置いているのだろうか。
どんな生活をしているのだろう。
私は、知らない。『元宮チアキ』のことを、何もかも。
__誰か、教えてほしい。
――
「マコト先輩は……これ!」
イブキは長い猫、『ウェーブキャット』というキャラクターのぬいぐるみを手に取り、かごに入れる。
「そうですね。マコト先輩は猫が好きだからきっと喜んでくれると思いますよ」
付き添っているイロハはそれを肯定する。
2人は日課の
「サツキ先輩はこれ!」
続けてサツキの分もかごに入れる。すでにかごにはイロハとイブキのお菓子も入っている。
残りは、チアキの分だ。
「う~ん……」
「……どうしました?」
ササっと決まったマコトとサツキのお土産と違い、イブキはしばらく悩みに悩んでいた。
「チアキ先輩には何がいいんだろう……」
イブキは『彼女』の好きなものを知らない。
だから、頼れる先輩に訊ねる。
「イロハ先輩は、チアキ先輩が好きなもの、知ってる?」
「…………そうですね」
イロハは、考えた。
「イブキが選んだものなら、きっと何でも喜んでくれるはずですよ」
「そうだね!」
ニコニコと笑顔で答えたイブキは、マコトと色違いの物をかごに入れ、レジに向かった。
その後をイロハも付いていく。
(……本当に何が好きなんでしょうね、チアキは)
誰も、『元宮チアキ』のことを知らない。