元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

15 / 35
幕間です。

【業務連絡】
諸々を鑑みて今回以降のサトカ周りに修正を加えていたので昨日は投稿できませんでした。連絡が遅れてしまい申し訳ありません。

なお、これに伴って前話までの内容が変更されるようなことはありません。

今後投稿される話で不自然に文章が抜けている個所があったら修正の跡なのでこっそり教えてください。


チアキではなく、エイミ その2

 

「お疲れ様です」

 

和泉元エイミが、サトカ捕獲のための資料を読みこんでいると、部屋に入ってきた飛鳥馬トキがアイスティーを目の前に置いた。

 

「……ありがとうございます」

 

それを手に取ると、エイミは一気に半分ほど飲みこむ。冷えた液体が喉を通り抜けて心地よい。

 

和泉元エイミは、生まれつき体温がかなり高く、それに伴って発汗量が多くなってしまっていた。そのため、服をまともに着ることができず、摂取する水分も多くなってしまうのだ。

 

そのせいで周囲に避けられていたが、リオ会長が拾ってくれたおかげで、今は『特異現象捜査部』という居場所があるし、明星ヒマリにも出会えたのだ。感謝してもしきれない。

 

「的場サトカ……私自身も直接お会いした訳ではありませんが、最初は純粋に『治療』を追求する生徒だったとリオ様からはお聞きしていました。それが今はBMで違法な薬物を売っているとなると……残念ですね」

 

そんなエイミとほぼ同じような立ち位置である飛鳥馬トキは、資料を手に取って読み始めた。

 

「去年のことですし、正直に言ってしまうと私もサトカ本人のことをよく存じ上げないのですが……やはり、リオ会長やヒマリ部長にとっては因縁残る生徒ということでしょうか」

 

ヒマリにもサトカが見つかったと報告した時、エイミはヒマリの顔色が一瞬悪くなったのを見逃さなかった。資料にある通り、やはりサトカはミレニアム内では未だにあまり良いイメージを持たれていない生徒なのだろう。それにしては、少々学内ではネタ半分で扱われているようにしか思えない。

 

ヴェリタスの活動費が不足した際に、ふざけているのかそれとも大真面目に言っているのかは分からなかったが、マキがサトカの懸賞金で賄おうとしていたことをエイミは思い出していた。喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉があるように、少しすればその脅威も薄まってしまうのかもしれない。

 

実際、エイミ自身もサトカに対して『かつて問題行動をしていたらしい生徒の一人』以上の認識はしていなかった。しかし、ヒマリ部長やリオ会長のように実際に相対した生徒にとってはその脅威はいまだ健在なのだろう。

 

「その時はリオ会長も相当悩んでましたからねぇ。会長は少し口下手なところもありますし」

 

トキが、やや砕けた口調で話し始めた。それに本人に聞かれてはいないとはいえ、従者としてそういうことを陰で言うのはどうなのだろうかと、エイミは若干眉を顰める。

 

「今は時間割の上では休み時間なので業務外です。知っていましたか?昼休みは就業時間外で給与は発生しないんですよ。なのでここに居るのはメイドの飛鳥馬トキではなく、ただの飛鳥馬トキです」

 

そんなエイミの表情を見たトキは、心底不思議そうに話し始めた。

 

「……そうですか」

 

エイミにとってただ一人とも言える同僚の飛鳥馬トキは、こうして時たまに自由になるところがある。かつて周囲から避けられていた経験から、『交友関係』の感覚がイマイチつかみ切れていないエイミは、そんなトキのことが若干羨ましくあり、ありがたいものでもあった。

 

「それに、ここに居るのは書類上では『同級生』なので別にかしこまる必要はないと思いますが……」

「そうは言っても、私にとっては『先輩』なので」

 

トキは、エイミよりも年上だが、いろいろあって留年しているので、書類の上では同級生である。だが、エイミにとってトキは紛れもなく先輩だった。どうしても同級生と話すときのような雰囲気で話すことができない。

 

いや、同級生(マキ)と話す際も一方的に話しているのを聞いているだけのような気がしてきた。そもそも、自分から話しかけることも少ないような気がする。

 

「まぁ、確かに私は先輩でもありますが……同級生として他人と会話ができるのはここぐらいですよ」

「……そうですか」

「本音で話し合える相手が一人ぐらいは居ないと、心が持ちませんからね。私は立場の都合で秘匿されていますし、リオ様とはそういう関係でもありませんし……」

 

確かに、トキは秘匿されている立場である。本来特異現象捜査部というか、エイミも同様の立場であるはずだったのだが、シャーレの活動開始に伴い『セミナーの下級役員』として表に出るようになった。そこからデカグラマトンの宣戦の布告を受け、ヒマリが特異現象捜査部の部長となってからは方針を転換、シャーレと協力する都合上『特異現象捜査部』も表に出されるようになったのだ。しかし、『特異現象捜査部』の存在自体を知る人はまだまだ少ない。

 

「あなたぐらいなものです。こうして自由に『おしゃべり』ができる相手というのは」

 

トキは、まっすぐこちらを見つめていた。

 

「まぁ……私と違って『愉快なお友達』がたくさんいるあなたはイマイチそのありがたみが分かっていないのかもしれませんね」

「……そこまで友達が多いとは思っていませんが」

 

トキのその言葉に、エイミは納得がいかなかった。コミュニケーション、というよりは距離感の掴み方が苦手であると自負しているからだ。

 

「自覚してないんですか?」

「ええ、まぁ、お恥ずかしながら……」

 

エイミは、少しだけ申し訳なくなり、無意識のうちに首の後ろを触っていた。やはり、『交友関係』という概念に関しては今でもそれほど理解できているとは思えない。

 

「そうですか……まずヴェリタスとは仲良くしてますよね」

「ヒマリ部長と付き合う都合上、仕方ないことだと思っていますが……」

「仕方なくないです。ヴェリタスからヒマリ部長が取られているのに反発がほぼ無いのは、あなたへの信頼の証でもあると思っていますよ」

「そうでしょうか」

 

確かに、ヴェリタスの面々は同級生であるマキを筆頭にそれなりに絡んでくるし、副部長である各務チヒロは、サトカの発見にも一役買ったハッキングの技術を私に叩きこんできた。ヴェリタスに引き抜こうとする打算あってのことのように考えていたが、トキが言うにはどうも違うらしい。

 

「C&Cの先輩方にも可愛がられているでしょう?」

「それは……一応セミナー傘下のエージェントとしての付き合いと言いますか……」

「あの」

 

トキは、少々ムッとしていた。

 

「……はい」

「穿った見方をしすぎです」

 

穿った見方。それは物事の本質を的確に捉えているという意味の言葉だが、世間一般では捻くれているという意味で使用されることが多い。今回の場合は文脈から考えて後者だろう。

 

「…………」

 

エイミは、何も言い返せなかった。

 

今までただただ純粋に隣に居たいという関係の友人は、エイミの近くに居ないに等しかったのだから仕方ない。そういう思想への理解度が低いのだ。

 

「今まで『他人』というものをあまり気にしてこなかったあなたのことですから、よく分かっていないだけだと思っていますが……そういう考え方は行き過ぎると嫌われてしまいます」

「分かりました」

「……自分ではそう思っていなくても、周囲の人々は自分の想像以上にあなたのことを気に入っているはずですよ」

 

エイミは、目を合わせられなかった。

申し訳なくなってしまったのか、それとも恥ずかしくなってしまったのかは、エイミ本人にも分からない。

 

「もう少し肩の力を抜いて、リラックスしましょう。揉んであげます」

 

トキは、エイミの後ろに立つと、肩を揉み始めた。

 

「悩みを打ち明けられる友人だとか、ありのままの自分でいられる場所が無いと、生きづらいと思っていますよ。私は」

 

 

 

――ああ、やっぱり『飛鳥馬トキ』は私にとって『先輩』だ

 

 

 

 

 

「……とは言っても、『友達』は多少選んだ方が良いとは思いますけどね」

 

トキの肩揉みは、いつの間にか全身のマッサージへと移行していた。

 

「友達として……いえ、リオ様に仕える従者として言わせてもらいますが、あなたの『シャーレでの交友関係』はどうなってるんですか?」

「……さっきと言ってることが違くない?」

 

心なしか、マッサージに込められる力が強くなった気がする。

 

「あなたがシャーレでの任務でよく一緒になる生徒と仲良くするのは構いませんし、リオ会長も歓迎していましたが……それにしては『相手』が相手じゃないですか」

「そうかなぁ……」

「よく思い返してみてください」

 

エイミは、トキに体を全身を揉み解されながらモモトークに登録されている連絡先を思い返した。シャーレでの任務で何回も一緒になる生徒とは、連絡先を交換している、いや、交換させられたのが正しいか。

 

「えっと……まず、一番回数が多いのは鰐渕アカリ、シャーレに入部してからの任務でほとんど一緒になってる気がする」

「…………」

「その次に多いのは多分、便利屋68のムツキとカヨコ……」

「全員、ゲヘナの問題児(爆発タイプ)じゃないですか」

 

言われてみれば、その通りである。

早い段階で加入した(入手が楽な)生徒のうち、戦闘が得意な生徒は限られてくると考えていたから、そこまで深く考えてはいなかった。

 

「いやでも、最近はシャーレに加入した生徒も増えて……ほら、レッドウィンターの間宵シグレと一緒になることが増えてきたし……」

 

携帯を取り出し、モモトークの画面をトキに見せる。まだ会話らしい会話はしていないが、彼女の連絡先は一応登録していた。

 

まぁ、鰐渕アカリが連絡先を交換していたからその流れで交換しただけなのだが。

 

「……彼女も停学処分になるような問題児(爆発タイプ)と、データにありますが」

 

エイミは、何も言い返せなかった。

 

「リオ様は心配していましたよ?エイミが間違った方向へ行ってしまわないようにミレニアムで居場所を与えたのに問題児(爆発タイプ)とばかり仲良くしている、と」

 

そう言われると、その通りでしかない。

 

先生はどういう考えでメンバーを選んでいるのだろうか。問題児(爆発タイプ)問題児(爆発タイプ)でまとめておいた方が扱いやすいとか、そんなところかもしれない。

 

 

――じゃあ、自分も問題児(爆発タイプ)なのか?

 

 

確かに、どちらかといえば自分も問題児(爆発タイプ)側の生徒だとはエイミ自身も思っていた。

 

制服はきちんと身に付けられないし、揉めたことも多々ある。それでいて感情が読みにくく、人付き合いも悪かったのが、和泉元エイミである。

 

ミレニアムに入学してからは、受け入れられているとは思っているが、和泉元エイミの『本質』は何も変わっていないのだろう。

 

『メイドの飛鳥馬トキ』と『ただの飛鳥馬トキ』がどちらも結局飛鳥馬トキであるように。

 

 

本質が変わっていないからこそ、今こうしてミレニアムで『普通に』生活できていることには、感謝しなければいけない。

 

 

 

 

 

マッサージを終え、満足げな顔をしている飛鳥馬トキを横目で見ながら、エイミはマッサージのために脱がされた服を着直す。

 

ふと、エイミの携帯から、軽快な通知音が響いた。先ほどから開きっぱなしにしていたモモトーク画面を確認すると、一件のメッセージが届いていることを示す通知が出ている。

 

『アカリ:そっちでたぬきの肉とか売ってる店知りませんか』

 

送り主は、鰐渕アカリだった。噂をすれば何とやらというやつだろうか。

 

『エイミ:すみません。知りません』

『アカリ:ですよねぇ』

『アカリ:(頭を下げている変な鳥のスタンプ)』

 

エイミは、会話が終わったことを確認してから、メッセージを数日分遡った。自分が送ったとあるメッセージまで辿り着くと手を止める。

 

『エイミ:元宮チアキさんのことを、知っていますか?』

 

チアキの調査を始めた時、ヒマリが真っ先に思いついたのが『何故かゲヘナの生徒と交友関係が広い』エイミにチアキのことを聞いてきてもらえないか、ということだった。それで原因がつかめれば、調査はそこで終わるからだ。ヒマリとしては、これを利用しない手はない。(エイミの交友関係をもう少し深堀りしたいという個人的な興味もあった)

 

『アカリ:政治ですか?』

 

アカリから返ってきたのは、そんなメッセージだった。

自分が特異現象捜査部ということを、先生以外には大々的には公表しておらず、シャーレに加入してからは『セミナーの下級役員』と名乗っていた。セミナー傘下の組織であるから嘘は言っていないのだが、そんなエイミが万魔殿の生徒のことを突然訊ねてきたとなると、何らかの政治的思惑を疑われてしまっても仕方がない。

 

『エイミ:いえ、先輩が週刊万魔殿を読んで気になることがあったみたいなので』

 

これも、嘘ではなかった。

 

『アカリ:そうですか』

『アカリ:単刀直入に言うと、嫌われてます』

『アカリ:なので知りません』

『エイミ:すいませんでした。変なことを聞いてしまって』

『アカリ:いえいえ』

『アカリ:そんな気にしてませんよ』

『アカリ:(変な宇宙人が「気にするな」と言っているスタンプ)』

 

その後、エイミはチアキを調べるために直接ゲヘナへ乗り込んだ際、一応菓子折りを持って行った。美食研究会がその場で全部食べていたから少なくとも怒ってはいないだろう。

 

 

エイミは、思考の時間軸を現在に戻した。

 

結局、チアキの身には何が起こっているのだろうか。

数日間の調査では原因らしい原因が見つからず、原因を見つける前にサトカを見つけてしまったのだ。

 

勝手な印象では、サトカに付け込まれているとしか思えなかった。しかし、どうも資料等を確認する限りでは、方法はどうであれ彼女なりには『治療』の信念を掲げている。情報が正しいのならば、一応『患者』であるはずのチアキを追い詰めるようなことはしないだろう。

 

 

 

チアキが悩んでいる原因が不明瞭なままサトカを捕まえてしまっていいのだろうか。

 

 

 

しかし、ミレニアム側の意見としてはサトカを放置するわけにはいかない。が、チアキの問題はゲヘナの問題なのだから、あまり首を突っ込み過ぎるのも良くないのではないかと思う。自分が言うのも少々アレだが。

 

一応、リオ会長にも伝えたし、具体的な解決案を出してきたものの、どうも気がかりである。

 

「……どうかしましたか?」

 

しばらく考え込んでしまったのだろう。不審に思った飛鳥馬トキが顔を覗き込んでいた。

 

「いや……コミュニケーションって難しいなって、思っただけ」

 

 

 

 

 

以下、蛇足。

 

 

 

 

 

「……そう、リオ会長はそこが良いんですよ」

「そっか……楽しそうだね」

 

エイミは、それから十数分程度適当に雑談をしていた。

 

「はい。それはそれは……おっと、もうすぐメイドの飛鳥馬トキに戻らないといけない時間ですね」

 

飛鳥馬トキが、腕時計を確認すると、休憩の終了時刻が近づいていた。

 

「最後に『ただの友達の飛鳥馬トキ』として、『C&Cの飛鳥馬トキ』として一応言っておきます」

 

そう言うとトキは、おもむろに立ち上がると、突然エイミに飛び掛かって首元のネクタイを掴んで締め、そのまま床で抑え込んだ。反応できる速度での攻撃だったが、エイミはあえてそのまま受けることにした。

 

 

「……急に何?」

 

ネクタイを締められているが、鍛えているので呼吸が詰まることはない。それをトキも分かっているからこその行為だろう。

 

「こんな感じにあなたが無理やり『何か』をされるようなことがあれば、相手がシャーレだろうが何だろうが、私とリオ会長は助けに行きますよ」

 

トキは、今日一真剣な顔つきだった。青い瞳がエイミの顔寸前に迫り、まっすぐに見つめている。

 

「いや、問題児だのなんだの言われてるけど……言われてるほど極悪ではないと思ってる、よ。先生の言うこともちゃんと聞いているし」

 

やはり、リオ会長は私の交友関係が心配なのだろう。

 

だが、心配されるほど悪い関係ではない。確かにまあ『悪いこと』をしていることもある生徒たちだが、それがエイミ自身に向いたことは一度もなく、先生が来てからはややマイルドになっている……らしい。(出典:先生との雑談)

 

「だから、リオ会長にも伝えておいて。私はちゃんとシャーレでも友達が……」

「いえ、現在リオ様が一番気にしているのはヒマリ部長とのことです」

「……?」

 

エイミは、ふざけているのかとも思ったが、トキの瞳は変わらず真剣であった。

 

「先ほども言いましたが、言いにくい悩みを打ち明けられる関係の友人が一人ぐらいは居た方が良いです」

「はぁ……」

 

その言葉には、妙に説得力があった。間近に『そういう人』がいるかのような言い草である。

 

「そしてあなたに対しては、私が担うべき役割だと考えています」

 

トキは、ネクタイを締める手を離し、そのまま整え始めた。

その最中も、エイミはトキが何の心配をしているのか振り返ってみたが、全く心当たりがない。

 

万魔殿の生徒の調査に駆り出されたことを言っているのだろうか。

 

「ですから、嘘や隠し事はせずに気持ちを正直に教えてください」

 

 

 

 

 

「明星ヒマリの性癖に無理やり付き合わされていませんか?」

「……?」

「数日前、リオ会長が信じられないほど心配していました。シャーレでの交友関係が問題児ばかりだと知った時よりも」

「いや、何のこと?」

 

 

 

「明星ヒマリが和泉元エイミを椅子に組み込んで、白昼堂々楽しんでいたという報告があるのですが」

 

「ああ、この前のことね」

「はい。それを聞いたリオ会長は、まさかヒマリがエイミに無理矢理迫っているのではないか、人選を間違えてしまったのではないかと不安で不安な様子でした」

 

当番だった部長の付き添いで車椅子としてシャーレに行った時のことか。エイミはようやく合点がいった。

 

「それでもヒマリにもエイミにも聞けなさそうにしていたので、こうして私が聞いている、という訳です」

 

しかし、そこまでのことだろうか。

 

「もし、明星ヒマリに無理やり迫られているのなら……」

「いや、それなら大丈夫。部長が考案した画期的なシステムで、私の体温で部長を温めつつ車椅子内部に組み込んだ冷房と部長の体温で私の体を……」

 

そこまで言ったところで、トキがエイミの額に手を当ててきた。

 

「熱は……ありますね。いつも通りです」

 

トキは、エイミがほぼ平熱であることを確認すると、小さくため息をつく。なんだ、熱でも出していて欲しかったのか。

 

「お互いに合意の上、ということですね」

 

強く、念押しするようにトキが問いかけてくる。

 

「うん。部長は温められて嬉しい、私は冷やされて嬉しい、Win-Winの関係だよ」

「まぁ……本人同士がその状態で納得しているなら私からは特に言うことはありません。リオ会長にもそう伝えておきます」

 

少し複雑そうな顔をしながら空になったアイスティーのグラスを持ち、メイドの飛鳥馬トキは立ち去っていった。

 

「今回はそういう話でした、ということでまたいつか。ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

作戦実行前だというのに、妙に疲れたような気がする。トキにマッサージしてもらったというのに、だ。

 

それでも、作戦に支障はない。

BMで目立たないように用意したボロボロの軽トラに必要な装備を積み込んで、エイミは準備を完了させた。

 

「…………」

 

出発する前に、エイミはミレニアムサイエンススクールの校舎を眺めた。

 

オレンジ色に染まった校舎からは、下校する生徒が次々と出てくる。

 

この校舎で自分の帰りを待っているヒマリ部長のためにも、そしてリオ会長にこれ以上心配をかけないようにサッサと済ませよう。

 

夕日に照らされた校舎を見て、エイミは決意を固める。

 

「……行ってきます」

 

――それに応えるかのように、各務チヒロの怒号が校舎から響いた。

 

 

 

 

 

エイミは、聞かなかったことにして軽トラのエンジンをかけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。