元宮チアキではなく、“元”チアキ 作:元宮チアキ以外の誰か
「なるほどねぇ……ははぁ…………」
先生の口からは、乾いた笑いしか出なかった。
「ごめんなさい先生、もう少し早く伝えられていれば良かったのかもしれないけど……」
空崎ヒナが、申し訳なさそうに俯く。
イズミと話したあの後、先生は結局チアキを見つけることが叶わなかったのでこれ以上の捜索は時間の浪費だろうと判断。一旦ホテルに戻り、イロハの話を聞いてチアキに何があったのか、そして万魔殿やヒナたちが裏で何をしていたのかを理解した。どうも事態は思ったよりも深刻らしい。
「いや、気にしないで。今こうして話せているのだから、手遅れなんてことはないはずだよ」
とは言うものの、実は手遅れに近いと先生は考えていた。
キヴォトスではどうなのかはまだ不明瞭だが、ほぼ違法な薬に手を出していると言うのは、先生の価値観では余裕でアウトである。
__まあ、そういった子供に手を差し伸べるのが『大人』であるべきだと考えてはいるが。
「……うん、そうだね。サトカとは、私が話してくる」
「先生がか?確かに先生のことは信頼しているが相手は……」
マコトがやや心配するように訊ねる。
「いや、まぁ……相手は『武力』で危険な生徒ではないし……どちらかといえば『思想』が危険な生徒……かな」
先生が軽く自分で調べた限りでは、自分の間違った考え方が受け入れられなかったことに対して反抗している生徒、という印象だった。
「なら、負けるはずがないよ」
「「「………………」」」
マコトもヒナもサツキも、全員が黙った。
「……キキッ、そうだな。先生は『人を丸め込む』ことに関して天賦の才があるから、無用な心配だったな」
先生自身、そのことに関しては否定したかった。生まれつき強かったのは『他人への興味』でしかない。そういった『観察眼』だとか『技術』は自分で勉強しただけのことである。
もっとも、それは指摘しない。
してもしなくても変わらない指摘を、いちいちやっていると話が全く進まなくなってしまうからだ。
「ええ、護衛は必要だと思うけれど、説得に関しては問題ないと思うわ」
空崎ヒナも、先生のその『才能』の恐ろしさを間近で味わった生徒の一人だった。
『委員長!こんな詐欺師みたいな奴のことなんか信じてはいけませんよ!』
そう言っていたアコは、気がつけば普通に仲良くしていた。それだけなら和解して仲良くなったのだなで済む良い話なのだが、それでは終わらない。
当番として呼ばれた際、アコと仲良くなったのねと雑談のつもりで話を振ってみれば、アコみたいなタイプはコントロールが割と楽だからね、と冗談混じりに返されたのだ。どうしてもヒナにはそれが冗談には思えなかった。
もっとも、そのあたりがやや怖いだけで『善人』ではあるし、頼りになる大人でもある。言い方を変えれば相手の心情を把握しやすいという、まさに『先生』にうってつけの存在だろう。
__ただ、それはそれとして『鬼怒川カスミ』とは会わせたくないなとは思っているが。
閑話休題。
「それで、チアキは今どこで何を?」
先生としては、逃げてしまったチアキの行方が気になって仕方がなかった。
「……あ、えっと、チアキを見張ってる
サツキが若干不安そうに話す。
「……連れ戻してくるか?」
「いや、ここは見逃そう。火薬庫に火を持ったまま近づく訳にはいかないしね」
チアキは、何か『きっかけ』があれば爆発しそうな状態であると先生は考えていた。
このタイミングでブラックマーケットに行けば、薬を取引されているところに出くわしてしまう可能性がある。
そういった意味では、スルーせざるを得ない。
ふと、先生は腕時計を見た。
「……ああ」
この調子じゃあ、週間万魔殿の原稿は間に合わないだろう。
事務仕事で文章を書くことに慣れている先生でも、今からブラックマーケットに行って帰って原稿を書き上げるなんてことは流石にできない。
何故かできると思われている節があるが、できないことはできないとはっきり声を大にして言う。
だから大人の自分も生徒に助けて貰っているのだし、自分も生徒を助けるのだ。
「ごめん、ちょっと電話するね」
一応断りを入れて、胸ポケットから携帯を取り出す。
「もしもし?」
『先生ですか、どうなさいました?』
かけた相手は、メディア編集部だった。
「週間万魔殿、間に合わなそうなんだ。チアキもちょっと色々あるみたいでね。だからその……チアキが来てもあんまり責めないであげてね」
『大丈夫です!いつも頑張ってくれてますから、今日ぐらいは労ってあげますよ!』
「うん、お願い」