元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

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頼っているのではなく、縋っている

『私』は、ブラックマーケットに足を踏み入れた。

 

その奥深くへと進むたび、空気が濁っていく。

 

たむろしているのは、制服を着崩した不良たちと、血と煙と、壊れた欲望の残り香を纏った大人たち。目を逸らしたくなるものばかりが、視界の端を満たしていた。

 

――もっとも、一番目をそらしたくなるのは自分自身なのだが。

 

 

 

原作では、こんな連中は背景だった。文字通りのモブ。

 

だけど今は違う。彼らは生きていて、そこにいて、私を見ている。――気がする。実際はどうなのか分からない。

 

そんな中を、『私』は一人で歩いている。

 

まるで、異物として。

 

 

 

私は『元宮チアキ』であるべきだと、自分に言い聞かせ続けている。

でもそれは、「チアキのふり」をしているだけだと、内心ではずっと分かっていた。

 

今こうして週刊万魔殿が書けない時点で、もう答えは出ているのだ。

 

チアキは、ペンを止めない。薬を必要としない。こんな嘘をつかない。

 

今の私は?

原稿から逃げて、薬に逃げて、人に頼りながら、自分の名前すら偽っている。

 

こんなもの、チアキじゃない。

 

それなのに、それを自分で認めてしまったら、もう立ち直れない気がする。

だから、私は今日も「チアキのふり」を続けている。誰かが見ていなくても、誰にも責められなくても。

 

 

 

幻聴がひどくなっている。

 

誰かが私の名前を呼ぶ気がする。振り返っても、誰もいない。

 

『偽物だ』

『お前なんかが』

 

――そんな声が、背後から追いかけてくる。

 

現実の声じゃない。でも、現実より重い。現実より痛い。

 

以前と比べると明らかに口調が強くなってきた幻聴は、逃げても、どこまでも追いかけてくる。

 

逃げ場なんて、どこにもない。

 

 

 

 

 

 

私は、サトカのいる廃ビルへ向かっていた。

 

どうして、あの子には頼ってしまうのだろう。

 

サトカは「よくない生徒」だ。表面的には頼りになる生徒でも、裏では何を考えているかわからない。

 

それでも、頼ってしまう。

 

なぜ?

 

たぶん……彼女は原作に存在していなかったからだ。

 

私の記憶に、彼女の姿はない。物語の中で、彼女は出番を与えられていなかった。

 

だから、私は彼女に「ストーリーに影響されることを怖れずに」接することができる。

 

原作を壊さない。彼女を巻き込んでも、ストーリーは変わらない。

 

勝手な理屈だとわかっている。けれど、それに縋らなければ、誰にも頼れない。

 

原作に居ないのだから、頼っても原作に影響は出ない。

 

『私』も原作には居ないのだから、画面の外でモブが会話しているだけのこと。

 

中身は元宮チアキではないのだし、今は変装もしている。

 

元宮チアキはこの瞬間、キヴォトスから完全に消失しているのだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

ため息が、自然とこぼれる。

 

薬の効果が薄くなってきている。体が重い。頭が痛い。

 

薬なしでは原稿も書けない。心が静まらない。

 

それでも、『私』は『元宮チアキ』であるべきなのだと、自分に言い聞かせてきた。

 

そうしないと、自分が空っぽであることがバレてしまう気がして。

 

 

 

チアキになれなければ、自分の存在に意味はない。

 

そんな強迫観念が、骨の内側まで染みついている。

 

でも――でも、本当はわかってる。

 

私は『チアキ』じゃない。

今の私はただの、名前を借りた幽霊だ。

 

 

 

マコトは、私の異常に気づいているだろうか?

 

気づいていて黙っているのか、それとも本当に気づいていないのか。

 

……それでも、どこかで期待してしまう自分がいる。

 

「どうして助けてくれないの」と、子供のように泣きつきたくなる瞬間がある。

 

でも、それをやってしまったら、私の中の『チアキ』が完全に壊れてしまう気がする。

 

だから、黙っている。

ただ、淡々と、壊れていくだけ。

 

 

 

「元宮チアキ」は、こんなところで救われてはいない。

 

そんな姿を、私は見たくない。

 

例え私がどうなっていたとしても。最終的に『元宮チアキ』が残っていれば、それでいい。

 

 

 

 

 

サトカの隠れ家へと向かう途中、ふと足が止まった。

 

「…………」

 

少し離れた場所に停められた軽トラ。それがやけに気になった。

 

陰に隠すように置かれているのに、逆に目立っている。

 

何度も通った道だ。普段なら、あんな車があるはずがない。だから、違和感にすぐ気づいた。

 

思わず息を止めた。

 

 

 

私は『元宮チアキ』ではない。

 

でも、それでも、記者だったチアキの残滓が、まだどこかに残っていたのだろうか。

 

それとも、正体不明の恐怖が、好奇心という形に偽装しているだけか。

 

どちらにしても、足が軽トラへと向かってしまっていた。

 

 

 

誰も乗っていなかった。エンジンも切れている。

 

だけど、違和感がある。

 

外観はボロボロ。サビも目立つし、塗装も剥げていた。だけど――

 

内装が、新品のように綺麗だった。

 

座席にはホコリもなく、ダッシュボードには光が走っている。まるで、昨日納車されたばかりのような違和感。

 

「……変なの」

 

思わず呟いたその言葉に、自分自身が反応する。

 

まるで、自分のことを言っているみたいだった。

 

――私は、外側だけ『元宮チアキ』を名乗っている。

 

中身はとっくに壊れていて、薬でしか保てなくて、それでも誰にも言えなくて。

 

軽トラの逆。

 

私は、あれとは正反対の存在だ。

 

 

 

理由は分からなかったけど、ほんの少しだけ、涙が出そうになった。けれど、ぐっと飲み込んだ。

 

泣いてはいけない。感情をこぼしたら、もっと壊れてしまう。

 

だから私は、何もなかったように歩き出した。

 

 

 

誰も、気づかないふりをしている。私自身も。

 

だけど、心のどこかでは、誰かに気づいてほしいと――思ってしまっている。

 

 

 

……そんな自分が、いちばん嫌だった。




【現状】(新しい情報はあんまりない)

・元宮チアキ
居ない。

・『私』
そろそろ限界が近い。
多分マコトたちや先生にはバレてる。消えたい。でも、ここで消えたらエデン条約がどうなるか分からない。助けて。
その前に、週刊万魔殿を完成させないといけない、けど、薬が無い。貰いに行こう。ネタも、その途中で見つかるはず、きっと。

・先生
チアキは少し精神面が不安な生徒だろう。心配だが、思春期にはありがちなことだ。そこでサトカに頼ってしまったのは少々残念だが、まだ巻き返せる。特殊な環境のキヴォトスならなおさらだろうし、そこで万魔殿というゲヘナを背負う立場になって、エデン条約という今後のキヴォトス全体にも影響する条約が控えているとなれば精神的な負担も大きいに違いない。急ぐべきことではあるが、急に進めすぎては逆効果だ。出会って1,2ヶ月の自分よりも付き合いの長い万魔殿の生徒同士で解決できるならそれに越したことはない。とりあえず、サトカとはチアキ関係なく一度話してきた方が良いのかもしれない。ミレニアムとゲヘナを仲介してなんとか解決できないか検討中。

・サツキ、マコト
チアキは違法な薬に頼らなければいけないような状態であり、『過去』に何か問題があると見て調査中。サツキの部下たちがC&Cとセミナーの動向を監視して、サトカをミレニアムに確保されないようにしている。エデン条約も控えているのでチアキに余計な刺激を与えないよう慎重になっている。

・ヒナ
状況の理解度はマコトたちとほぼ同じ。マコトからこういう時に頼れるのはヒナしかいないと言われて少し嬉しい。が、エデン条約が近くなってきて忙しさがやばい。

・イロハ
状況の理解度はマコトたちとほぼ同じ。マコトの指示でイブキを心配させないように2人で旅行をして万魔殿から遠ざけている。

・イブキ
なんか最近みんな忙しそうで顔が怖いなぁ。

・情報部
C&Cとセミナーに動きはないから大丈夫だな!ヨシ!
それはそれとして最近サツキさんがちょっと思い詰めてて不安。自分たちが支えてあげないといけない。

・アカリ
理由は後述するがチアキに少しイラっときてちょっと脅かしたら全く近寄らなくなってしまった。そこまで気にしてはいないが、チアキが美食研に一回も取材に来ていないことを悲しそうに話していたハルナがかわいそうだとは思ったので、話してこようとしたことはあるがチアキがすぐ逃げてしまうのでどうしようもない。シャーレの活動開始直後に任務でエイミとよく一緒になっていたから仲が良い。

・ハルナ
タヌキ肉を注文した。届くのが楽しみで仕方がない。

・セナ
状況の理解度はマコトたちと同じ。刺激を与えないようにするのは良いけども、それにしたって遠巻きに見守りすぎじゃないかとは思っている。もう少し今の本人と向き合ってあげるべきではないだろうか。隙をついて接触を試みている。

・チナツ
セナから大体のことは説明された。好きで始めたのであろう週刊万魔殿が義務になっているならば、やはり先生の言うように一度休ませるべきだろう。

・アコ
本編に一切登場していないが、ヒナ委員長が最近万魔殿によく呼び出されていて、少し怒っている。が、委員長の顔がいつも以上に真剣なので何かあるんだろうとは思っている。

・メディア編集部
チアキ書記はいつも頑張っているが、最近はちょっと空回り気味で見てて不安になっていた。そのあたりをきちんと理解していた先生やマコト議長はさすがだなぁと思っている。この様子だと締め切りに間に合わなそうなのでミレニアムのお得意さんには来週からしばらく休刊になることを伝えておかなければ。

・エイミ
チアキが不安定な理由はよく分かっていないが、エデン条約で若干ピリついているゲヘナに首を突っ込み過ぎるのは危険だろう。リオ会長曰く危険な生徒であるサトカを捕まえるのが最優先。こうなった以上は、チアキのことは当初の予定通り先生に任せた方がうまく行くと思う。サトカの身柄を確保してコントロール下に置いておいた方が向こうもやりやすいに違いない。今頃部長がデータをまとめて先生に報告している頃だろう。そろそろサトカのアジトに着く。

・トキ
自分と同じような立場でありながら愉快なお友達が増えてきたエイミを少し羨ましく思っている。それはそれとしてゲヘナのテロリストとかとばかりと仲良さそうなのが、本人は大丈夫と言っているが若干不安。

・リオ
まさかサトカが見つかるとは思っていなかった。チアキの様子がおかしいのはサトカが原因の一つだろう。ゲヘナはエデン条約前で忙しいだろうから迷惑をかけるのは避けたいし、サトカに逃げられる前に一刻も早く自分たちで捕まえにいかなければと考えている。サトカを『奉仕活動』に従事させてチアキを治療する予定。

・ヒマリ
軽い気持ちで人助けしようと思ったら想定以上に大事になってきて驚いている。サトカという優先事項が出てきてしまった以上、チアキのことは先生に任せるべきだろうとデータをまとめていたが、その最中に各務チヒロが『後輩を椅子にしていたこと』に対してガチで怒りに来たので作業が止まった。

・サトカ
薬を強くしたは良いが量産体制が整っていない。これ以上強くしてもチアキは何も変わらないだろう。というか薬学専門だから人の心とか分かんねぇよ。一旦ミレニアムにこっそり戻って心理学とかに詳しい後輩でも引っ張ってこようかと検討中。

・バイニンマン
明日には週刊万魔殿の今週号を仕入れに行こうと思っている。サトカほどではないがそこそこ薬品に詳しい。

アリウス
手を組むはずだったマコトが全然連絡を返してくれないし、急に万魔殿のガードが固くなったし、風紀委員長がすぐそばに居るようになった。計画がバレたか?
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