元宮チアキではなく、“元”チアキ 作:元宮チアキ以外の誰か
タイトルの通りです。
チアキ本人は出ません。
これを延々と続けるのもちょっとね……という感じなのでまとめました。
「暑い……」
和泉元エイミは、燃えていた。比喩ではなく、文字通りに。
サトカのアジトが爆発する寸前、エイミはとっさの判断でサトカとチアキを蹴り飛ばして外に出した。その代わりにエイミ自身は、燃え盛るアジトの瓦礫の中に取り残されてしまったのだ。
「うーん……」
爆発のダメージに加えて、保管されていた危険な薬品等を一気に浴びてしまったから皮膚が爛れてしまっている。
__まぁ、これに関しては待っていれば回復するから問題はない。
今いるのは恐らく地下室のような場所。その上にはかつてサトカのアジトだった3階建てのビルの残骸が積み重なっている。
どかすことはできる。
だが、その反動で今いる地下室は潰れてしまうだろう。
「…………」
サトカは、アジトを吹き飛ばしても大丈夫なように重要なデータはこの地下室に保管しているようだった。ただ、保管していた薬品が混ざって爆発の威力が増すのは想定外だったらしい。
エイミは瓦礫と共にこの地下室に叩きつけられたのだ。
「……よし」
故に、問題はない。
こうなってくると、和泉元エイミにとっての危険は『温度』と『酸素』である。
前者は我慢するしかないが、後者に関してはどうにかなる。
エイミは、『酸素マスク』を取り出して装着した。サトカがガス攻撃等をしてくる可能性があるということで酸素マスクを持ってきていたのだ。想定とは違う使い方になってしまったが、まあいいだろう。
マスクは口と鼻を覆うだけだが、内部に酸素生成剤が含まれているので無酸素状態でも5時間は持つ。
後は脱出するだけ……なのだが。
先述したように、エイミが脱出すればこの地下室は潰れる。
つまり、サトカがここに保管していたデータも消えてしまうということだ。
それは、あまり良くないだろう。サトカが逃げていることも考慮すれば、動かぬ証拠を押さえておくに越したことはない。
爆発の衝撃で通信機はどこかに行ってしまったのでリオ会長とは連絡が取れないが、きっと情報を持ち帰ることを優先しろと言われるだろう。エイミはそう考えていた。
サトカのパソコンを開き、ヒマリやチーちゃんに教えてもらった技術で機密情報を丸裸にしていく。
そのうち助けが来るだろうから、その時までにはデータの抜き取りを終わらせようとエイミは張り切って取り掛かる。
燃え盛る瓦礫の中でパソコンに平然と向かうエイミの姿は、異様な光景でしかなかったがそこに突っ込むことのできる人物は存在していなかった。
「お、重い……ちょっと!あなた体重何キロあるのよ!」
赤司ジュンコは、ただひたすらサトカを引き摺っていた。サトカの着ていた衣服は、地面に擦りつけられてかなりセクシーな格好になっているが、2人の脳内には和泉元エイミというバグが存在するのでそんなことは考えもしなかった。いや、考える余裕が無かった、という方が正しい。
「一応医者の端くれだとは思っているから健康には気を遣っているよ、身長169cmの平均体重と言えば伝わるかな」
「知ってるわけないでしょ!!」
「まぁ……あれだ、拘束具ってのは逃がさないように付けるものだから簡単に逃げられないようにかなり重く作られているみたいだね」
「むきーっ!」
赤司ジュンコには、鈍い腕の痛みとストレスが積み重なり、どんどん不機嫌になっていくだけだった。
ブラックマーケットにおいしいタイ焼き屋さんがあるとの噂を聞き付け、バイト代片手に並んでやっと受け取ったと思えば近くのビルが爆発してタイ焼きは燃えカスに。
そして訳が分からないまま情報部の生徒に手伝えと言われたにもかかわらず、協力を呼び掛けてきた情報部の生徒は元宮チアキを追いかけてどこかへ行ってしまった。
だからジュンコは、こうして『人質となっていたミレニアムの生徒』を一人で引きずって運ぶことになってしまったのだ。雑な計算にはなるが、サトカの総重量は100kg近くだろう。
先生の頼みとはいえ、受けたことをジュンコは若干後悔し始めていた。報酬としてせめてタイ焼きの5倍ぐらいの代金は求めても怒られはしまい。
「ん……?」
ふと、頭の中で文句を連ねていると、引っかかりを覚える。
あの燃え盛るビルに『サトカ』が囚われていて、それを『エイミ』が助けに来た、というのがジュンコの認識だった。
じゃあ、『情報部』と『元宮チアキ』は何のためにここに居たんだ。
あくまでこれはミレニアムの問題じゃあないのか、そこにどうしてゲヘナ学園の万魔殿と情報部が関わってくるのか。
わざわざ自分に協力を求めてきたのだから、ミレニアムとゲヘナの協力任務だったという線は考えられない。
「ねぇ、どうして万魔殿と情報部があそこにいたの?」
「うーむ……説明が難しい」
引きずられているサトカはシブい顔をしながら答えた。
「……すべては『偶然』だった、としか説明できないなぁ」
「はぁ?何よそれ」
完全にカヤの外であるジュンコの頭の中には、疑問といら立ちが渦を巻いていく。とにかく、今度先生にあったら何もかも聞き出してタイ焼きをアカリが満足するぐらい奢らせないと気が済まない。そう思いながら、サトカを引き摺っていると前方に大型車両と大勢の人影が見えてきた。
ビルの消火作業に来たのだろうかともジュンコは思ったが、そこに居るのが誰なのかが鮮明に見えてくるとどうやら予想は外れていた。
「やあやあジュンコちゃん、随分と苦労しているみたいだねぇ、手伝ってあげようか?」
「げっ、鬼怒川カスミ……」
ジュンコたちを出迎えたのは、ゲヘナでも悪名高い鬼怒川カスミ率いる『温泉開発部』であった。
こんなに大勢で一体何の用だろうか。いや、温泉開発以外に用はないとはジュンコも薄々分かっているが。
「『げっ』とはひどいじゃあないか、ゲヘナと言えば陸八魔アルと鬼怒川カスミと黒舘ハルナ、みたいなところあるだろう?」
確かに、鬼怒川カスミはジュンコの所属する美食研究会のリーダー、黒舘ハルナとよく同列に語られることが多い。
「……って、今はこんなこと話してる場合じゃない!このサトカを安全なところまで届けなきゃいけないの!」
「へぇ……安全なところって『どこ』までだい?」
「どこって……あれ、どこまで連れていけばいいんだろう……うーん、とりあえずそのうち『先生』から連絡が来ると思うし……」
ジュンコは、ハッとした。
とりあえず『安全なところ』まで運ぶつもりだったが、具体的にどこまで連れていくのかは考えていなかった。とりあえずブラックマーケットを出ればどうにかなるだろうぐらいしか考えていなかったのだ
「……『先生』ねぇ。もしかして、シャーレの先生に頼まれたのかい?」
「え、ああ、うん?間接的にはそうよ」
「間接的……というと?」
「よく分かってないけど、『情報部』の生徒が『先生』の名前を出して私に頼んできたの」
「ふぅん……その『情報部』は今どこに?」
「知らないわよ!なんか『元宮チアキ』を追いかけてどっか行っちゃったし!もう!チアキは私たちのこと嫌いだからって、ちょっとぐらいは手伝ってくれたっていいじゃない!」
「ねぇジュンコちゃん、何があったのかイチから説明してくれないか?思ったよりも状況が複雑そうだからねぇ……キミの分かる範囲で構わないよ」
妙にねっとりとした口調でカスミが訊ねてくる。
「え?まぁ良いけど……」
「そうだな、とりあえずウチの車に乗ると良い、ゲヘナ学園までは連れていってあげよう。そしたらそこの『善良な一般ミレニアム生の的場サトカちゃん』は電車か何かで帰れるだろう?」
「……けッ、分かり切ってることを」
サトカは、苛立っているようだった。ジュンコはその苛立ちの理由が分からなかったが、まあカスミが苦手な人もいるかとそこまで気にはしなかった。
最も、サトカが『善良な一般ミレニアム生』ではないと分かっているカスミが、わざとらしくそれを強調しているからというのは説明するまでもないだろう。
「ほうほう……なるほどねぇ……」
何があったのかを説明するジュンコを、カスミはジッと何かを見定めるように観察していた。
タイ焼きを食べようとしていたら、突如近くのビルが爆発。飛んできた火の粉でタイ焼きは燃えカスに、ジュンコが途方に暮れていると情報部の生徒が先生が協力を求めていると言ってきたので仕方なく情報部の生徒に着いていくことに。
爆発現場へ着いていくと手足に拘束具を付けられたサトカが転がっていて、そばには『元宮チアキ』が居た。そのあとチアキは1人で逃げてしまって、情報部の生徒もチアキを追いかけていってしまった。
そこで仕方なく一人でサトカを引き摺っていたところにカスミ達が……
「って、そうよ!早くエイミを助けに行かないと!『囚われてたサトカ』を救出して一人であの燃えてるビルの中に取り残されてるのよ!」
ジュンコが指し示したところには既にビルはなく、残骸が時折変な色に変化する炎に包まれているだけだった。
「あの中にねぇ……」
カスミは、嫌そうな顔をしていた。それは、ジュンコも同じ気持ちである。
「なぁ、サトカちゃんはあそこでなにが燃えているのか知っているんじゃあないのかい?」
カスミは小さくクツクツと笑う。
「……何が可笑しい」
そんなカスミに、サトカはいら立ちを隠せなかった。
「分かった分かった、とりあえず『美食研究会のジュンコちゃん』は『善良な一般ミレニアム生徒の的場サトカちゃん』を『先生と情報部』に頼まれて運んでいて、サトカちゃんの側には『元宮チアキ』が居た……と」
「そうよ!とにかく早く助けに行かないと……」
ジュンコは、大まかに分けるならば『悪い子』ではあるが『悪人』ではない。サトカやカスミとは違うのだ。
友達の友達とはいえ、この前おいしい菓子折りを持ってきてくれた人があのビルの中で燃えているのをそのままスルーしようとは思わない。
「よーし分かった!この鬼怒川カスミと温泉開発部が『善良な一般ミレニアム生徒』を救出して1人で燃え盛るビルの中に残ったそのエイミって生徒を助けるのに協力してあげよう!全員続けーっ!」
「「おおー!」」
カスミ率いる温泉開発部は、ジュンコとサトカを連れてサトカのアジトだった場所へと向かうのだった。
――
シャーレの先生、彼は『他人を分解して隅々まで調べたいと思っている狂人』であると噂されている。
しかし、流石にそれは嘘だろう。鬼怒川カスミは、そう考えていた。
──だが、その噂が徐々に『妙な信憑性』を帯び始めたのも事実であった。
混乱が広がっていたキヴォトス、そこに突然やってきた『先生』を名乗る大人。彼がどうであれキヴォトス、ひいてはゲヘナにも多大な影響を与えるだろう。
今後のキヴォトスでの暮らし方が180度変わるかもしれない存在、それが鬼怒川カスミから見た『先生』という肩書へのイメージだった。
故に、次調べるのは『先生』という個人について。適当に地面を掘っても温泉は出ないように、何をするにも入念な下調べというものは必要である。まぁ、しない方が楽しいこともあるがそれはそれだ。
シャーレの公式が投稿した挨拶の動画、クロノスによる取材、実際に会った生徒からの評判……集まった情報を総合的に判断すれば、おのずと答えは見えてきた。
──ああ、この人はきっと『同類』だ。
性格、目指すものは自分とは違うが、『根っこ』は同じだろう。例えるならクワガタとカブトぐらいの差異、どんな武器を持っているか、そしてそれをどう使うかの違いでしかない。根本的には同じ甲虫であるように、『先生』と『鬼怒川カスミ』は似た者同士だと、直感的にそう思えた。
カスミのその確信を決定的にしたのは、天雨アコだった。
彼女は、元々シャーレに対して不信感を抱いていたので実験台にはちょうどいいだろうと、カスミに対して取り調べをしてきた際、先生がいかに怪しくて信用できない存在なのかを煽って印象付けてみたのだ。
取り調べとは言えない取り調べが終わるころには、政治に密接にかかわる立場の生徒とは思えないほどに思想が過激に偏った行政官が誕生していた。
調書を取っていた生徒が途中からお絵かきを始めてしまうくらいには滅茶苦茶な時間だったとは自分でも思っている。描かれていたのは何故か自分とメグが絡み合っているような艶めかしい絵で……いや、それは今は置いておこう。
しかし、その天雨アコですら先生と会った数日後にはコロッと普段通りのアコに戻ってしまっていたのだ。
先生に対してツンツンした態度は取っているものの、思想が過激に偏った行政官の姿はどこにもなかった。
別に自分の印象操作も取り調べの間の短い時間で施したものに過ぎないのだが、ここまであっさりと解かれてしまうと驚くばかりである。
──対応を間違えれば『メグ』を盗られかねない。
それほどまでに『人の心』の扱いが上手い先生ならば、下手にメグを近づければ天雨アコのようにとまではいかないだろうが、持っていかれる。
それは、嫌だった。
鬼怒川カスミは、自身の中で先生への『警戒度』を引き上げると同時に興味も沸いてきた。
こうなれば実際に会って話してみるしかない。
そう決意したのだが、何かと理由を付けて風紀委員が妨害してくる。おそらくアコ経由で何かバレてしまったのだろう。
そこでどうにか隙をついて先生に会うために改めて情報を精査。そんな時に耳にしたのが先述の『先生は他人を分解して隅々まで調べたいと思っている狂人』であるという噂である。
流石にこれに関しては鬼怒川カスミも否定した。
先生はあくまで『他人の思考の隙間に入り込むのが上手い大人』だ。マッドサイエンティストではない。
仮にもしそんな大人だったとしたら『連邦生徒会長からの推薦』なんて貰えるわけが無い。尾ひれが付きまくってお洒落な金魚みたいになった噂話に過ぎないはずだ。
だが、そこでカスミはあることに気づく。
シャーレに先生が就任してからというもの『美食研究会』が風紀委員に捕まる回数が激減していた。
そこに何の因果関係があるのかと疑問に思うかもしれない。
しかし、カスミにはそれが単なる偶然とは考えられなかったのだ。
シャーレの初期メンバーには火宮チナツ、ミレニアムのセミナーからの一名、トリニティの自治組織から二名がいた。正確な順番は分からないが、そこからさらに募集した十人のうちの一人が鰐渕アカリであったらしい。
先生は何を考えてそうしたのかは分からないが、『任務』でよく鰐渕アカリを連れまわしていた。
その結果──アカリの戦闘能力は飛躍的に向上した。
理由は不明。
しかし、美食研究会を牢の中で見かける機会が激減しているのは事実であり、美食研究会が空崎ヒナを退けたという噂まで飛び交うようにもなる。
さすがに誇張が過ぎるとは思った。アカリのお茶碗のように、盛られすぎだ。いくら何でも、相手は空崎ヒナなのだから。
しかし、鰐渕アカリが不可解な強さを手に入れているのもまた、事実である。
そこで鬼怒川カスミは、天雨アコと同じように『実験』することにしたのだ。
丁度良く、トリニティにゴールドマグロという希少な魚が水揚げされ、それが水族館に展示されているという情報を掴んだ。その情報を美食研究会に流す。
そして、正義実現委員会委員長の剣先ツルギに匿名で『美食研究会がトリニティの水族館から魚を強奪しようと計画を立てている』と通報。
こうして見事に餌に釣られた両者は、深夜のトリニティで激突することとなったのだ。
「おやおや、副委員長の羽川ハスミまでいるじゃあないか、これはさすがに不利か……?」
鬼怒川カスミは、双眼鏡片手にトリニティのとある建物の屋上から、給食部トラックで進撃する美食研究会とそれを迎撃しようとする正義実現委員会の最強コンビを遠巻きに眺めていた。
「ま、どっちが勝つにしろ負けるにしろ、いいデータが取れるのは間違いないな」
結論だけ言うと、良い戦いをしていた。
「……っ!ははは……」
遠巻きに見ているだけなのに、冷や汗がカスミの頬を伝う。
『美食研究会』と『正義実現委員会の最強コンビ』の実力はどうやら拮抗しているらしい。
しかし、人数差がある。
そういう視点で見ると一人当たりの『実力』は平等ではなさそうだ。
なにせ、鰐渕アカリはほとんど『一人』でツルギとハスミを相手取っているのだから。
明らかに、おかしい。
鰐渕アカリは、確かに強い部類の生徒だった。しかし、ここまでではなかったはずである。
残りのメンバーが『マグロの刺身を食べながら』片手間に手助けするだけで、ツルギとハスミの連携と渡り合える存在に、いつの間にか成ってしまっていたのだ。
戦略がどうとかそういう次元の話ではない。
──例えるなら、『圧倒的にレベルの差があるキャラクター』を見ている様な感覚。
「なるほどねぇ……っ!」
カスミは確信した。
シャーレには何らかの手段で『レベルを急激に上げる方法』が存在している。
その実験体第一号が、鰐渕アカリだったのだろう。
気が付けば、深夜の頂上決戦はあっさりと終わっていた。
他でもない、『先生』の手によって。
後から聞いた話では『黒舘ハルナがゴールドマグロを買い取った』という形にして落ち着いたらしい。
無理がある。
しかし、それを可能にしてしまうのが『先生』の話術なのだろう。どうやら、先生という存在はかなりの強敵であるようだ。
もう少しアカリの実力をマジマジと観察しておきたかったが、こうなっては望み薄だろう。
そろそろ帰るかと、撤収の準備を始める。
その時──
「……にゃあん!」
突然頭上を銃弾が掠め、思わず情けない声が出てしまう。
恐る恐る確認すると、狙撃銃を構えた黒舘ハルナと冷たい目をした鰐渕アカリが『こちら』を見ていた。
鬼怒川カスミは、鰐渕アカリの視線を思い出しながら、思考の時間軸を現在に戻した。
「……今回は何も企んでないでしょうね!」
横ではジュンコが怪しむようにカスミを見ていた。
まぁ、そういうことがあったからジュンコに開口一番『げっ』とか言われてしまったのだ、という話である。
「心外だなぁ~、アレはもう過去のことだろう」
「まぁ、そのおかげで美味しいお刺身が食べられたから感謝してるけどさぁ……」
ジュンコは、渋々といった表情だが納得はしているようだった。
今回、カスミは『美食研究会』に対しては何も企んでいない。
カスミは、部員に運ばれている『的場サトカ』を見た。
的場サトカ。
詳細は省くが『違法な薬品のいざこざでミレニアムを飛び出した生徒』である。
ジュンコの話では、先生が『情報部経由』で『美食研究会のジュンコ』に頼み、サトカを回収しようとしていたらしい。
シャーレの先生としてサトカを捕獲するならミレニアムと協力するのが普通だろう。
では何故、ゲヘナと協力しているのか。
そこでカギになってくるのがジュンコの話に出てきた『元宮チアキ』なのではないだろうかとカスミは推理する。
そもそも、 『元宮チアキ』は『こんなところ』に用はないはずである。
元宮チアキの情報を整理しよう。
・万魔殿の書記官
・週刊万魔殿のライター
・『鰐渕アカリ』が苦手
・何故かブラックマーケットに居た
・メグ曰く、最近は何かに追い詰められている様子だった
これはあくまで仮説だが、シャーレの先生は何らかの手段で生徒を『レベルアップさせる手段』を有しており、鰐渕アカリがその影響を受けている。だが、元宮チアキはその証拠を掴んでしまった。
その『手段』には的場サトカが密接に関わっており、証拠を押さえるためにチアキはサトカへの取材を決行。
そこで先生は元宮チアキを追い詰めるために万魔殿と手を組んで……
「いや、さすがに飛躍しすぎか」
仮定に仮定を重ねているだけに過ぎない推理は何の意味も持たない。推理ではなく妄想と呼ぶのが正しいだろう。
元宮チアキは置いておいて、先生が生徒を『レベルアップさせる手段』を有しているのは確かなことだろう。
それに先生は……
「発破の準備終わりました!」
と、そこまで考えたところで思考が中断された。目の前には撫でられるのを待つ犬のような表情の部員が居たので頭を撫でながらよくやったと褒めてやる。
まぁいい、予想が正しければ『先生』はそのうちここへやってくるだろう。この状況なら『落第生の引率をしている時』には聞けなかったことも聞けるはずだ。
「よーし、みんな離れろ!3、2、1……発破ァ!」
地下を流れる配水管が盛大に吹き飛び、地面から水が温泉のように噴き出した。
火が消えたことを察知し、瓦礫をどかしている気配がしたので和泉元エイミは外に出た。データの抜き取りも終わったので問題はない。サトカの『取引先』はしっかりと記録した。
リオ会長が手配してくれたのだろうかと思って辺りを見回すが、瓦礫をどかす作業をしていたのは見慣れない生徒たち。
恰好からしてゲヘナの温泉開発部だろうと予想を付ける。
だが、なぜ彼女たちがここに居るのかが不可解だった。
「やあやあ、君がエイミちゃんだね?」
「鬼怒川……カスミ……」
カスミは、エイミの姿を確認するとニコニコしながら歩いてきた。エイミは、面識のないカスミに自分の名前が知られていることに疑問を覚えたが、その疑問はすぐに解決する。
「無事だったのね!あーよかった……」
ほっとした表情の赤司ジュンコが、猫車に載せられたサトカと共に現れた。なるほど、ジュンコが助けを呼んでくれたのかとエイミは納得した。
サトカの身柄も抑えてくれていたようなので、一安心である。
「ほら!あなたが助け出したサトカはちゃんと無事よ!」
「助け……?あー……うん。そうだね、ありがとう」
誇らしげなジュンコの横で、カスミが必死に笑いを堪えていた。どうやらジュンコはサトカのことを知らないようだったが、カスミはサトカのことを知っているらしい。
「お礼はこないだの菓子折りでいいわよ!」
「分かった。後でまた持ってくよ」
「本当!?」
ジュンコにお礼としてこの前アカリに渡した菓子折りを要求されたが、指名手配されている生徒の逃亡を防いでいたと考えれば妥当なお礼、むしろ足りないくらいである。
「おやおや、爆発で制服が焼けてしまったようだね。よし、私の白衣を貸してあげよう」
エイミとジュンコが話している間、エイミの体をじっと観察していたカスミは、着ていた白衣をおもむろに脱ぐと、エイミに手渡そうとしてきた。
「いえ、暑いのでこの格好で結構です」
「む……そうか。では、ちょっと失礼」
そう言うと、カスミは白衣を着直してからエイミの体を調べ始める。
「ふむ……火傷も傷もなさそうだねぇ……」
当たり前だ。
「悪いけど、ウチの後輩から離れてくれねーか?鬼怒川カスミ」
「ひょ?」
エイミの体を弄っていたカスミに銃が突きつけられる。
「まさかとは思うが……このビルを爆発させたのはアンタか?」
「おやおや、美甘ネルちゃんじゃあないか。お仕事ご苦労様」
「……答えになってねーぞ」
いつの間にか、C&Cのリーダーである美甘ネルがそこに居た。おそらく、自分を助けにきたのだろうとエイミは予測する。
上を見れば、ミレニアムのマークがついたヘリから残りのC&Cメンバーが降下してきていた。
「あ、えっと、違うの!確かにカスミは胡散臭くて信用しにくいけど今回はエイミを助けるために協力してくれたのよ!」
ジュンコがカスミを庇うように見せかけながら、追加攻撃する。一瞬カスミは嫌そうな顔をしたが、すぐに元に戻した。
「そうそう、ジュンコちゃんの言う通りさ。エイミちゃんは美食研究会とお友達だから、実質私ともお友達のようなものだしねぇ」
カスミが、エイミをポンポンと軽く叩く。
「ええ、まぁ……そうなのかも……しれません、ね?」
エイミとしてはイマイチ納得がいかなかったが、この前トキに『エイミ自身が思っているよりも周囲はエイミのことを好意的に見ている』と言われたのだから、もしかしたらそうなのかもしれない。
確かに、少し前にアスナ先輩が一度会話したらそれはもうお友達みたいなことを言っていた気がする。
「まぁ……ならいいけどよ……」
ネルもイマイチ納得していないようだったが、今はそれよりもやるべきことがあるのでそれ以上追求してこなかった。
「んで、サトカは……」
「ここだよー!」
アスナがサトカを俵担ぎにしながら近寄ってきた。それを確認するとネルは小さく頷き、懐から通信機を取り出す。
「もしもしリオか?サトカの身柄は確保した。……ああ、エイミも無事だ」
ネル先輩がリオ会長と通信しているのを眺めていると、エイミの体が突然横にされた。
「応急処置をするので安静にしていてくださいね」
「はぁ……分かりました」
室笠アカネが、地面にマットを敷きその上にエイミを寝かせたのだ。そのままエイミはじっとしていた。
別に受けたダメージはすでに
「あら……?どこにも火傷も傷も……」
「まぁ、治したので……」
「治したって……この短時間でですか?」
「はい。そうです」
アカネは、怪訝そうな顔をしていた。
しかし、だ。エイミにとっては治せるのが普通なのだから仕方ない。
「嘘はついてない筈だよ。出てきてすぐのエイミちゃんの体を調べさせてもらったけど、惚れ惚れするぐらいに綺麗な素肌だったな!」
仰向けのエイミをカスミが覗き込んできた。
「……ヒマリ部長が『エイミが死んでしまう!』と大騒ぎしていたので大怪我しているのではないかと思っていたのですが……杞憂で終わったなら安心ですね」
アカネは納得できていない様子だったが、とりあえずエイミに怪我がないことを確認するとホッとした様子で医療セットを片付け始めた。
「あ、そうだアカネ先輩。こちらを」
エイミは胸からUSBメモリを取り出し、アカネに渡す。
「こちらは……?」
「サトカの地下室にあったデータを抜き取っておきました。逃げ出しているだろうと考えていたので、証拠を押さえておく必要があったと思い……」
「えっと……はぁ、分かりました」
アカネは、それを受け取ると小さく溜息をついた。
「……?何か」
「ああ、いえ、よくあの中でその判断ができましたね……と、思っただけです」
「ありがとうございます」
「……褒めたつもりではなかったのですが」
アカネは、何故か心配するようにエイミを見ていた。
やはり、コミュニケーションというものは難しい。
「なぁーっ、エイミちゃん。いくつか気になることがあるんだ、ちょっと聞いても良いかな?」
「……答えられる範囲なら」
そんなささやかなすれ違いをまったく気にしていないといった様子で、カスミがエイミに訊ねてくる。
「まず、君はあの燃え盛るビルで爆発に巻き込まれる寸前、サトカと『チアキ』を助けて代わりにビルの中に取り残されてしまった……それでいいのかい?」
「まぁ、大体そんな感じですね」
チラリとカスミの後ろのジュンコを見た。携帯の画面に『話しすぎちゃダメだよ!』と表示されている。横のアカネも同じようなことを訴えるような目を向けていた。
そういえば以前、アカリがカスミのせいでちょっとめんどくさいことに巻き込まれたと愚痴をこぼしていた。
やはり評判通り鬼怒川カスミはあまり信用してはいけないのかもしれない。まぁ、もし仮に何かマズいことがあったとしても、側にはアカネ先輩がいるから止めてくれるだろう。
「じゃあ、次の質問だ。ビルの中でデータを抜き取っていたらしいが……怪我ひとつないけど、そこは安全だったのかな?」
「えっと、データを保管するつもりで作られた頑丈な地下室みたいな感じだったので……」
「そうかぁ……でも、爆発の規模はとんでもなかった。私の予想だと中の薬品と反応してすさまじい威力になっていたと思うのだが」
「回復すれば受け切れるぐらいのダメージでしかなかったので……」
「ふぅん……サトカのことだから危険な薬品も大量に保管していたと思うけどねぇ……」
カスミは、こちらを品定めするかのような目を向け続けている。
「なぁ、そのさっきも言ってた『治した』とか『回復した』ってのは一体」
「すみませんが、それ以上は……」
エイミが答えようとしたが、アカネが割り込んでくる。何かマズいことでも口走ってしまったのだろうか。
アカネからの『これ以上サトカ周りの話をするな』という無言の圧を受けたカスミは、小声で「おお怖い怖い」と呟くと、話題を切り替えてきた。
「そうかそうか、じゃあ別な話をしよう。……そうだなぁ、
後ろでは、ジュンコが「そんなことないだろ」と言いたげな目をしているが、カスミは全く気にすることなく話を続ける。
「彼女とはずいぶんと仲良しみたいだけども、やはりきっかけはシャーレの任務なのかな?」
「そうですね。シャーレでの任務でよくご一緒させてもらっているので」
「ふむふむ……じゃあ、君から見て『鰐渕アカリ』はどんな生徒だい?」
「えっと……根はやさしい……のか?うーん……」
エイミは、口を濁した。正直に言うと、答えにくかったのだ。
相手があの鬼怒川カスミというのもあるが、やはりエイミ自身は『友情』というものに疎く、良い表現方法が思いつかない。
こういう時、毎回違う名乗り口上を用意してくるどこかのハッカーならば、すらすらと答えられたのだろう。
「答えにくいか、じゃあ別なことを聞こう。任務でよく一緒になると聞いたけどもその時の印象は?」
カスミは、それを察したのか再び話題を変えた。もしや、この鬼怒川カスミはどちらかと言えば『先生』と同類なのではないだろうか。エイミの中にそんな考えが浮かんだ。
話し方というか仕草が、似ているようにも思えた。
「先輩方ほどではありませんが、後ろを任せていて頼もしくはありますね」
とりあえず、聞かれたことを正直に答える。エイミは、こうした『腹の探り合い』が苦手だった。
そもそも、この質問は何のために行われているのだろうか。
サトカならともかく、同じ学園のアカリのことを他校の生徒に聞いて何がしたいのだろう。
疑問に思うが、純粋に他校の生徒から見たアカリの印象を知りたいだけなのかもしれない。先ほどまでのサトカ関連の話題とは違い、この会話で得られるものもないだろうに。
名前を並べられることの多い温泉開発部の部長として、美食研の印象調査だろうか。
「ふぅん……やっぱり一緒に居ると戦いやすい感じかぁ」
「そうですね。先生も戦術が似ているだとか、『戦闘のレベルが近しい生徒』で部隊を編成しているようですし、そのあたりの配慮も……」
「……!」
そこまで話したところで、カスミがカッと目を見開く。その様子に思わずエイミは驚いてしまった。
「エイミちゃんは、あの『鰐渕アカリ』と強さは『同じくらい』だと、思っているんだね?」
「えっ、ええ……そうだと、思って、いますが……」
客観的に判断しても大体その通りのはずだ。何もおかしくはないだろう。
「なぁ……シャーレって何をしてるんだ?よかったら教えてくれないかなぁ~、私も興味があってねぇ……」
「うーん……、事務仕事を任される生徒と私やアカリさんのように戦闘を伴う任務を任される……」
「ああ、それは知ってる。やっぱり、先生は戦闘の時に何かしてくれるのかな?」
エイミには、質問の意図がよく分からなかった。それぐらい調べればすぐ出てくる情報だろう。
「えっと……まぁ、指示は飛ばしてくれるけども……」
「訓練とか授業は?しないのかい?」
鬼怒川カスミが、どんどん前のめりになりながら問い詰めてくる。
「しなくは……っ、無いですけど……」
なんだ。
ここまでの質疑応答の中で、いったい何が鬼怒川カスミのスイッチを入れてしまったんだ。
「それはどんな内容なのかなぁ~?いやぁ気になって気になって仕方なくてねぇ……」
「一般的な……ものだと思いますが……」
「本当かなぁ?」
カスミは、エイミの腰を掴んだ。
先ほどの体を調べているような手つきではなく、がっしりと掴んでいる。
「もしかしてさぁッ!シャーレは何か特殊な……」
「そこまでにしてください。エイミが困っています」
体格差的にそんなことはあり得ないのだが、カスミがエイミの身体を押し倒してきそうになったところで、アカネがカスミの身体を引きはがした。
「……ひどいなぁ、シンプルな質問しかしてないだろう」
「気になるなら、ご自身でアカリさんに聞くなり、シャーレに行くなりして確かめてくださいね?」
アカネは、平静を装っていたが、その表情からは静かな怒りを感じ取れた。そのままアカネはエイミの手を引いて、カスミから遠ざけるように歩き出す。
「えーっと、室笠アカネだったかな?」
アカネは、答えない。
「君も薄々感づいているんじゃあないか?」
答えない。エイミは、アカネの手に込められた力が若干強くなったのを感じていた。
「そこの和泉元エイミは、『何か』がおかしい」
「…………そんなことありません」
アカネは、カスミのその言葉に対して即答しなかった。
「いーや、そう思ってるね。間があった」
「…………」
エイミは、アカネに無言で抱き寄せられた。
メイド服からはほんのり火薬の香りがして、それに妙な安心感を覚える。だが、そんなエイミとは対照的に、アカネの表情は険しいものだった。
「常識的に考えてみるんだ。廃棄されたビルを改造しただけのアジトとはいえ、それを一瞬で崩壊させる爆発に巻き込まれてケガどころか火傷の一つもない。加えて、燃え盛る瓦礫の中でデータを抜き取る作業を平然と行っていたらしいじゃあないか」
カスミは、まるで演説をするように、いや、ドラマで犯人を追い詰める刑事のように話す。
「負った傷は『治した』?たった数分で?冗談もほどほどにしてほしいねぇ。
おそらく、カスミは『先生』を意図的に真似している。エイミにはそう見えた。
いや、カスミの本質が先生に似ているのだろう。
「さらに、あの『鰐渕アカリ』をすぐ近くで見て『戦闘力は同じぐらい』だってさ」
しかし、その口調や身振り手振りからは先生の様な雰囲気は感じられない。言語化できない微妙な感情がエイミの中で渦巻く。
「それ、本気で言ってるのか?」
エイミは、コミュニケーションに難があるとは自分でも思っている。
ただ、そういうことを抜きにしても、カスミが何を言いたいのか分からない。言われた通り、常識的に考えてみてもカスミの発言の何が『おかしい』のか理解できなかった。
「うーん、これでもダメかぁ……アカリじゃなくてキミなら聞き出せると思ったんだけどねぇ」
カスミは、やれやれと首を横に振ると、先ほどまで纏っていた雰囲気が消え去った。
「もしかして、何も分かってないのかい?」
もう一度、カスミがエイミのことをジッと見てくる。
「おい、あんまり後輩を困らせるんじゃねーよ」
そんなカスミを、美甘ネルが睨んだ。
「ハッハッハ!これは失礼!では、私はこれぐらいで退散しようかな。サトカちゃんはミレニアムが預かってくれるようだしね」
カスミは、睨みつけるネルを意にも介さず、高笑いをしながら退散の準備をしている温泉開発部員の方へと戻ろうとした。
「カスミ、あんまり他の子に迷惑をかけちゃダメだよ」
「おや先生、こないだぶりだね。あの時の『引率していた生徒』たちは無事にテストに受かったのかな?」
いつの間にか、そこには先生が立っていた。
いや、正確には横にゲヘナの行政官である天雨アコも一緒だったし、先生の背後にはジュンコが身を隠している。静かだと思ったらそこに居たのか。
「うん。無事に受かったよ。カスミがあの依頼が嘘だと……」
「先生、カスミとの会話は控えてください」
アコは、カスミを睨みつけるようにしながら先生の前に出た。
エイミの勝手な予想だが、アコも美食研と同じようにカスミの策にハマってめんどくさいことになった経験があるのだろう。そんな顔をしている。
「なーに、ちょっとした雑談をしていただけさ!」
「……そうなのかな?」
先生は、エイミの方を見ながら訊ねてきた。
「まぁ……そんな感じだったと……私は思うけど……」
エイミは、率直な感想を返したのだが、アカネに肘で小突かれた。
――やっぱり、コミュニケーションは難しい。
あの後、先生が上手く場を収めたので、ひとまずミレニアムに帰還することとなった。カリン先輩以外はヘリに乗り込み、カリン先輩は私が乗ってきた軽トラを運転して帰るらしい。
エイミは、自分が乗ってきたのだから自分が運転して帰ると申し出たのだが、それを言い終わる前に3人がかりでヘリに乗せられてしまった。
「「「…………」」」
帰還するヘリの中は重苦しい空気が充満していた。きっとそれは軽トラのいざこざのせいではないだろう。
『そこの和泉元エイミは、何かがおかしい』
カスミの言い放ったその言葉を、先輩方は気にしてしまっているのだと、エイミは考えていた。
アカネ先輩は黙って目を瞑り、ネル先輩は窓の外を見つめるだけ。アスナ先輩はそんな2人に話しかけたりちょっかいをかけようとしてやめる。それを幾度も繰り返していた。
「まぁ……その……自分が周囲からズレているのは多少なりとも自覚しているので……そこまで気にしなくても……」
分かっている。
他の生徒たちは、自分と違って服を正しく身に着けていても暑苦しくなんかないし、周囲との関わり方も……
「……アイツが言ってたことは『そういうの』じゃねーよ」
「えっ」
心の中を読まれたような気がして、思わず声が出てしまった。
違うのか。
「――まぁ、自覚は無いんだろうと薄々思ってたけどよ」
ネル先輩は、頬杖をついて窓の外を眺めながら語り始めた。
「ビルを吹き飛ばす爆発を耐えて、受けたダメージを一晩もしないどころか数分のうちに回復するなんてなかなかできることじゃない」
「……そう、なんですね」
そうだったのか、とエイミは今更理解する。
自分ができるから耐久型の生徒なら誰でもできることだと考えていたが、どうやら違うらしい。
となれば「おかしい」と言われたのも納得が……
「ただ、『おかしく』はない」
再び、心の中を読まれたように否定された。
以前までは感情が表情に出にくくて怖いと言われていたが、案外そうでもないのかもしれない。
「エイミは、『絵』って描けるか?」
「いや……」
エイミは、絵が上手いと自信を持って言える腕ではないと思っている。
「じゃあ、自作ゲームのイラスト全般を担当しているミドリのことを『おかしい』と思うか?」
「それは、違いますよね」
ミドリは、いやゲーム開発部はエイミが持っていないものを持っている。だが、それを『おかしい』と否定するのは間違っているだろう。
「そうだな。だから、この話も『エイミはすごい』で終わり」
ネル先輩は、エイミのことをまっすぐ見つめて言い切った。
「アカネも、気にすんな。あいつは先生と同じで口が上手いから乗せられただけだ」
「……申し訳ありませんでした」
「エイミちゃんすご~い!」
アスナ先輩が、頭をわしゃわしゃと撫でまわしてきた。その明るさが、ヘリの中の緊張感を緩和したような気がする。
「うし!こうしてエイミも無事だったし、後輩が頼もしいことが改めて分かったし、サトカも戻ってきたし、一件落着だな!」
窓の外には、何故か久しぶりに見たような気がするミレニアムサイエンススクールの校舎が見えてきた。
「あー……帰ったら、最初はヒマリのところに行けよ?リオへの報告はこっちでやっとくからさ」
「ヒマリ部長、ものすごい心配してましたからね……それはもう気絶するんじゃないかってぐらい慌てふためいてて……チヒロさんにお任せしてしまいましたが……」
2人は、遠い目をしながら話した。
どうやら、部長にはかなり心配をかけてしまったらしい。言われた通りに、戻ったら真っ先に部長の下へと向かおう。
そう、考えていた。
カラン。
「ん~?何コレ」
エイミのことを撫でまわしていたアスナが、エイミの服から何かが転がり落ちてきたことに気づき、拾う。
__軽トラの鍵だった。
「「「…………」」」
「あ、えっと、鍵を渡す前に先輩方がヘリに私を……」
どうやら、ミレニアムに帰れるのはもう少し先になるらしい。
――――
先生がサトカのアジトに辿り着いた時には、既に火は鎮められていて、エイミとC&C、そして何故か温泉開発部が居た。
C&Cの険悪な雰囲気と、アカネに抱き寄せられていたエイミの様子から、おそらくカスミが何か言ったのだろうと予測したが、どうやら当たっていたらしい。
それならヒナも連れてくるべきだったかと若干後悔したが、あとの祭りだ。
途中で力尽き、倒れている情報部の生徒を発見。彼女の話では先に行ってしまったらしいチアキを追いかけるよう頼んでしまったのだから仕方がない。
ヘリコプターに乗って立ち去るエイミたちを見送る。
ジュンコや温泉開発部にも事情を聴いたが、やはりチアキは既にどこかへ立ち去ってしまったようだ。
となれば自分たちも万魔殿に急いで戻るべきだろうと、撤収しようとした時のことだった。
「なぁ先生、ちょっとお時間いただけるかな?」
「いえ、お時間はありません。先生、戻りましょう」
カスミが、何かを訊ねようとしてきた。それをアコが遮る。
「……まぁ、少しぐらいなら聞いてもいいよ。こっちも聞きたいことがあるしね」
「先生!」
アコは止めようとしているが、もし仮にカスミがC&Cとの間に亀裂を生むようなことを話していたら、この場で解決しておきたい。
――亀裂を放置しておけば大変なことになるのは、現在進行形でよく分かっている。
「そうか、私が聞きたいのは1つだ。ちょうど風紀委員長もいないようだしねぇ……」
「――先生が、アカリとかエイミに『何かしらの手段』を用いて大幅な強化を加えた……私はそう考えているのだけれど」
「えっ、私というかシャーレってそんな風に思われてるの?」
カスミの言うことが信じられず、思わず『素』で驚いてしまった。
「……違うのかい?」
全く、身に覚えがない。
「ここにチアキが居たのはその『手段』にサトカの薬が関わっていて……という流れだと予想していたのだけれど」
なんだそれは。
まさか、そう考えていたからエイミたちミレニアムに変なことを訊ねてしまったんじゃあないだろうな。
「うーむ、かなり自信のある考察だったのだが……そんな『素』で驚いているのを見せられると、急にさっきまでのことが馬鹿馬鹿しくなってくるじゃあないか」
「あの2人は元からあんな強さだと思ってたけど……もしかして違うの?」
「……エイミさんの方はよく存じ上げませんが、まぁ美食研究会……いえ、アカリの捕獲率がシャーレで任務に連れ出されるようになって以降、低下しているのは事実ですね。お恥ずかしい限りですが」
アコは申し訳なさそうにしているが、その奥には別な感情が見え隠れしていた。
もしかして、アコもカスミ程の確信は持っていなかったにしても、同じように考えていたんじゃあないか?
『シャーレの先生』というパブリックイメージは、もしやとんでもないことになっているんじゃないかという予感がして、急に怖くなる。
だが、全て根も葉もない噂だ。声を大にして否定しなければならない。
ただ、それはともかくとして
アコやカスミの話では『私』が来てから『鰐渕アカリ』は奇怪な強さを手に入れた。そして、おそらく『和泉元エイミ』も。
だが、『私』には全く身に覚えがない。アカリは有名なテロリストだと聞いていたし、エイミは後々ミレニアムのエージェントと明かされた。そのせいで強さに疑問を抱かなかった。
――じゃあ、『鰐渕アカリ』と『和泉元エイミ』を強化したのは、いったい誰だ。
個人的な思想なので全然読み飛ばしてもらって構わないのですが、私は『シナリオ上の強さ』と『ゲーム的な強さ』をごっちゃにした作品が苦手です。(嫌いとは言ってない)
ミカは隕石を墜とす能力者ではありません。
その理屈が通るならミユは鳥を召喚して攻撃するし、アイリは巨大チョコミントアイスを生成できなきゃおかしいので。あくまでこれらは戦闘アニメーションによる演出であり、シナリオ的な強さとは別だと思っています。
ブルアカはそういう能力バトルものではない、というのが私の認識です。
要するに私は『シナリオ上の強さ』と『ゲーム的な強さ』は区別しています。
今回はそういう話でしたということで、また次回。