元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

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理解ではなく、誤解 その2

『なぁなぁ、行政官くん。少しだけ世間話というやつをしないかい?』

『……それは素晴らしい提案ですが、残念なことに委員長から余計な会話をするなと釘を刺されています』

『悲しいことを言わないでくれ。こうして捕まっている間は暇なんだ』

『……………』

『そうだなぁ……最近キヴォトス中で噂になっている先生の話が聞きたいなぁ』

『お話することはありません』

『そんなはずはない。行政官である君が調べていないわけが無いだろう?それに噂だと風紀委員の一人がシャーレオフィスの奪還に協力したという話じゃあないか』

『…………』

『私も少しぐらいは調べたりしてみたんだがね、どうも先生という人物は私と似ている気がするんだ』

『……じゃあなんですか?先生が妙なたくらみでもしているとでも言いたいのですか?ふざけたことはあなたのお仲間と話し合うだけにして……』

『そうだ、と言ったらどうする?』

『……はぁ?』

『既に風紀委員は毒牙にかけられている状態と言ってもいいね。おそらくだが、あの火宮チナツとかいう生徒はもう駄目だろう』

『ふざけないでください!!』

『おぉ怖い怖い。一旦落ち着いてくれ、そうだな……説明するには少し長くなるかもしれないが、付き合ってくれるかな?』

『……いいでしょう。少しだけ付き合ってあげます』

 

 

 

 

 

『ああ、チナツは今日が当番の日だったわね』

『はい。夕方ごろには帰ってくると思います』

『分かったわ。気を付けて……』

『チナツさん!!!!』

『ぎょっ、行政官!?い、いきなりなんでしょうか……?』

『あのシャーレとかいう悪魔の巣窟に行ってはいけません!!』

『えっ、と……?』

『シャーレの先生を名乗る人物は、キヴォトスの転覆、そして支配を目論んでいる悪人です!』

『いや、先生はそんな人ではないと思いますが……』

『ああ!やはりチナツはもう先生の毒牙に掛けられているみたいです!』

『チナツ、無視して行っていいわよ』

『いいんでしょうか……』

『委員長!あの先生を名乗る人物を信じるのは危険です!チナツを行かせてはいけません!』

『そう……じゃあまず、何がどう危険なのか説明してほしいところね。分かりやすくスライドにまとめてきて頂戴』

『はい!直ちに!』

 

『……アコがスライドを準備している間に全員パトロールに行ってきなさい』

『『『はっ、はい!』』』

『はぁ……散々釘を刺しておいたのに……いや、悪いのはカスミね』

 

 

 

 

『何?行政官が先生の陰謀論をばら撒いている……?』

『……そうみたいですね。風紀委員の何人かが不満を述べています』

『キキキッ!ならば好都合!そのまま先生と対立して孤立すれば、我々万魔殿が先生と協力しやすくなるというもの……はっ!ならば今が先生を懐柔するチャンスなのでは……!?』

『(イロハが先生に接触してくるのは先生を懐柔するためみたいな流れだったはずだ……!とすればここは……)あ!確かにそうかもしれませんね!』

『チアキもそう思うよな!よしイロハ!先生を我々の手駒にするべく懐柔してくるのだ!』

『はぁ……』

 

 

 

 

 

『……私が知ってるアコは、あんな感じじゃない』

『えっとカヨコ、どういうことかな?』

『多分……誰かに変なことを吹き込まれたんだと思う。そういうことをしてくる生徒に心当たりがあるし』

『ふぅん……じゃああのアコって子は話せば理解(わか)ってくれるタイプか』

『ちょっ、先生!?何を!?』

『あーもう!柴関は吹き飛ぶし!先生は一人で行っちゃうし!ホシノ先輩は来ないしで何なのよーっ!』

 

 

 

 

 

『いやぁ……先生にご迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ありません……』

『いいのいいの。理解(わか)ってくれたならそれでいいんだ』

『あら、正気に戻ったのね』

『委員長!?どうしてここに!?』

『ちょうど帰る途中だっただけよ。……それにしても、流石はシャーレの先生ね。アコを正気に戻してくれたこと、感謝するわ』

 

『(……短時間でそれが可能なのが、逆に恐ろしいけど)』

 

 

 

 

 

『何?行政官が正気に戻っただと!?まずいぞイロハ!進捗はどうだ!』

『そうですね。難航してます。難攻不落です』

『あの思想がものすごく偏っていた行政官を短時間で正気に戻すとは……先生は人心掌握のプロだな。マコト様には分かるぞ』

『あーはいはい。そうですね。だから苦戦してます』

『くっ……なかなかやるな……!』

『(どうやら無事に柴関は吹き飛んだらしい。本人たちには悪いけど、これならアビドス編は大丈夫そうだな)』

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ、そういえばそうだったな」

 

マコトは、納得した。

先生やカスミレベルに人心掌握が上手ければ、アコの様な影響されやすい生徒の性格……というよりは考え方、思考の軸を変えてしまうのは容易なことだろう。

 

『入学式以前のチアキ』とは、まだ出会って半日程度ではあるが、『何にでも興味を持つ好奇心旺盛な生徒』というイメージがマコトの中では固まりつつあった。影響されやすいかどうかは分からないが、『人の話をじっくり聞く生徒』なのは間違いないだろう。

 

故に、『そういう相手』からすればカモという訳だ。

 

「……ただ、誰がそれをしたのか、という話になるわね」

 

カスミがそんなすぐ目を付ける筈もないし、先生はまだ居ない。そうなると、サツキが催眠術でもかけたぐらいしか選択肢がない。ヒナはそう考えていた。

 

「誰がチアキを変えたのかは私にも分からない。だが、『どこの』奴がやったのかは何となく掴めてきた」

「……本当に?」

「ああ。おそらくだが……」

 

 

 

「やったのは()()万魔殿残党……まぁ、雷帝政権の復活を目論む連中だろうな」

「……それは」

 

マコトの言葉に、ヒナは目を見開いた。確かに、可能と言えば可能であるし、それをやる理由も分かる。分かるのだが、ヒナとしては納得がいかなかった。

 

「随分と話が大きくなってきたわね。根拠はあるの?」

「ある。まず『なぜチアキは万魔殿(私たち)に打ち明けられなかったのか』だ」

「確かに、あなたに対して旧万魔殿の手先だとは言えないものね」

「……私としては、言って欲しかったがな」 

「…………」

「……まぁ、それはいい。チアキが旧万魔殿の思想に賛同していた、もしくは賛同せざるを得なくなっていたとすれば、私がチアキと出会った時のあの熱意にも納得がいく」

 

雷帝の熱烈なファンなのだとしたら、あの時のチアキの熱意に筋が通るし、何かを『人質』にされていたなら必死さも理由が付く。

 

「次に、『チアキはハルナとアカリを異常なほどに避けている』こと」

「本人たちによると『前日に奢ってあげたのに忘れていて腹がたった』という話だったけれど」

 

マコトが調べたところによるとそうなのだが、ヒナはそれに納得がいっていなかった。

 

「そう。たかがその程度の話。その場でトラブルになったとしても、次の日にでも謝れば済むことだろう?」

 

マコトは、どうしてもそこが引っかかっていた。

 

今まではただ苦手意識があるだけと考えていたし、あの2人も万魔殿に苦手意識があるのも仕方ないだろうとは思っていた。しかし、原因を訊ねてみれば、ただ人の顔を忘れただけという()()()()()だ。それでチアキが一年半も避け続けるというのは、おかしい話ではないか。

 

だが、そこに『チアキは旧万魔殿の手先』と『雷帝政権崩壊のきっかけの一つはハルナとアカリである』という情報が加われば、話は変わってくる。

 

美食研究会は『怖い人』ではあるし、万魔殿との間に『微妙な気まずさ』があるのも理解はできる。(アカリ達はそこまで気にしていないようだが)なので、その場はビビって逃げてしまうというのも納得はいくことだ。

 

しかし、もし仮にそうだとしても、チアキは別の日に謝りに行ける生徒でもあると、しばらく観察したマコトは考えていた。

 

だが、逃げた後にハルナやアカリへ『会いに行きにくい事情』ができてしまえばどうだろうか。

 

「あの異常なほどの避けっぷりはそういうこと……」

 

マコトの説明に、ヒナも納得がいったらしい。

 

旧万魔殿の手先であるとするならば、政権崩壊のきっかけの一つであり、事実上の引き金でもある黒舘ハルナと鰐渕アカリを避けようとするのも、気持ちは分かる。

 

とは言っても、だ。

 

「……ただ、チアキが旧万魔殿の手先だったにしては、今の万魔殿を()()()()()()と思うのだけれど」

 

ヒナから見た元宮チアキは、マコトが率いる万魔殿の一員としての生活を楽しんでいるように思えた。

 

バカをやるマコトに乗っかり、イブキと遊び、何より週刊万魔殿などという『愛』がなければ続けられない企画を1年半続けている。現政権の崩壊を目論む連中の手先にしては、やることが不可解だった。マコトたちの目を欺くための作戦と言えばそうとも言えるが、納得がいかない。

 

「そう。それが最後の理由『どうしてチアキはここまで追い詰められてしまったのか』だ」

「……最後の理由」

「今のチアキが本来の性格だとするなら、現万魔殿と旧万魔殿、どちらが過ごしやすい環境かは考えるまでもない。旧万魔殿と現在の万魔殿は全然違う。名前が同じだけの別組織だ。私たちがそうしたのだからな」

「そうね、大変だったわ」

 

ヒナも、あの時の諸々が脳裏によぎった。その時に比べれば今のゲヘナは『マシ』と言わざるを得ない。

 

「だが、チアキはそのせいで追い詰められてしまった。旧万魔殿を取り戻す為にここにいるのに、現在の万魔殿の居心地が良すぎる。そうしてチアキは現実と理想のギャップに苦しめられてしまうことになったんだ」

「だとしても、そこまで今の万魔殿が気に入ったのなら、あなたなりサツキなりイロハなり……万魔殿に話しにくいなら私にでも相談するものじゃないの?」

 

そこで頼ったのが、本当に関係のない第三者の的場サトカだった上に、サトカにすら本心は打ち明けていないのだ。もっとどうにかできたのではないかとは思う。

 

「それは本人の心境次第だから何とも言えんが……、私の予想では、ずっと引っかかっていた『チアキは死んだ』がここに関わってくると思っている」

「……ああ、そういえばマコトはずっとそれを気にしていたわね」

 

マコトは、サツキがチアキに催眠をかけた時のその言葉がずっと気になっていた。『死んだ』だとか、ましてや『自分が殺した』など、並大抵のことではない。しかし、調べても調べても双子はいないし、姉妹や親族、友人等の『死』でそれらしいものは確認できなかった。

 

「チアキが死んだ、という言葉が意味するのは、文字通りの『死』ではなく、その旧万魔殿連中の『洗脳』の一環で、『元宮チアキを元宮チアキとして成立させている何か』を破壊されたことを指しているとしたら、どうだ?」

「……なるほど、俗に言う『尊厳破壊』というやつね」

 

尊厳破壊。

ゲヘナでは、『角や翼を取られる』という行為がそう扱われていた時期があるし、未だにその思想が残っている生徒も少なくはない。

 

相手を従わせる過程において、相手の尊厳を破壊するというのは有効な手段だった。つまりは、チアキの洗脳過程において『それ』が行われてしまったのだろう。それが何だったのかは、本人に訊ねないと分からないが。

 

要するに、『チアキは死んだ』というのは『元宮チアキを"元宮チアキ"として成立させている何か』が破壊されてしまったことを意味しているに違いない、というのがマコトの推理である。

 

「そうなると、『逆らえない』という意識が奥深くまで刷り込まれてしまい、私たちにも相談できなかったことにも納得がいかないか?」

「そうね。筋は通ってるわ」

 

マコトの推理は、筋が通っている。

 

だが、ヒナとしては妙な引っ掛かりを覚えずにはいられなかった。現時点では、具体的な否定ポイントを言語化できないのだが、風紀委員長として鍛え上げられた『勘』が何かを訴えている。こういう時は、大抵何かを見落としている時だ。

 

しかし、現状チアキに何があったのかを推理するにおいて、何も分かっていない以上、マコトの推理を軸に動いていくしかない。間違っていたとしても、()()()のことを考えれば、この方針で調査を進めておくに越したことはないだろう。

 

「はぁ……未だにそういうことを企む連中がいるとは……」

 

マコトは、軽い頭痛がしていた。考えてみれば、アレだけの支持者を集めていたのだから、残党がまだ居たとしても何の不思議もない。

 

「これは久しぶりにかなり骨の折れる事態ね」

 

それはヒナも同じことだった。確かに、何度かアカリに『私たちよりも先に"食べ溢し"の掃除が先では?』と愚痴を言われたこともある。

 

だが、所詮はその程度であり、寄せ集めの残党でしかないのでそこまでの力もない。せいぜい『実家が太いハルナ』に圧力をかけて政権奪取を試みようとしたぐらいのものだ。

 

現在のトップがマコトのままであることは周知の事実なので、事の顛末は語るまでもないだろう。ヒナが手を下すまでもなく、アカリにボコボコにされただけだった。

 

しかし、まさか万魔殿の内部に忍び込ませてくるとは思いもしなかった。それも何も知らない純粋な新入生を利用してくるとは、許し難い行為である。

 

「もし私の推理が当たっているならば、これはもはやチアキや万魔殿だけの問題ではない。このゲヘナの未来がかかった事件ということになる」

「ええ」

「……絶対に守るぞ。私と共に過ごしたチアキも、今のチアキも、そして今のゲヘナも」

「もちろん」




先生への印象(読まなくていい)











マコト
風紀委員にデマを流されて可哀想だなぁ
⇒そんな間違ってない気がしてきた

イロハ
人と話すのが好きみたいです。話題が尽きることがないので、だらだら過ごすときにぴったりですね。

サツキ
やろうと思えば催眠術できそう。

イブキ
お話ししてて楽しいよ!

ヒナ
悪い人ではない。悪い人ではないのだけど……
うーん……

アコ
警戒対象⇒悪魔⇒素晴らしい人

チナツ
人生経験が豊富で話していて楽しいです。良い先生だと思いますが、行政官で遊ぶのはやめてください。

ハルナ
食レポが上手。どうやら様々な場所を旅した経験があるらしく、色々な料理の話をしてくれる。美食研究会の名誉顧問。

アカリ
お話が上手ですね。それと時々『ハルナと食べに行きなさい』で大金を渡そうとしてくるのは何でしょうか?貰いますけど

ジュンコ
色々奢ってくれる良い人。あと値切りがうまい。

イズミ
アカリがなんか最近強くなったし、指揮もうまくて、色々知っててすごい人。後でシャーレに行ってみてもいいかも。

カスミ
同類。だから面白い。

サトカ
レスバ強そう。後でリオにぶつけてみてぇなぁ。

ヒマリ
面白い趣味をしていますね。でも、他の子たちにあんまり迷惑をかけちゃダメですよ?
……それはそれとして私とエイミを変な目で見ていませんか?

エイミ
言いたいこととかちゃんと読み取ってくれるから話していて楽しい。指揮のレベルも高いし、凄い大人だ。部長の次ぐらいには頼もしい。部長と仲良くするためのアドバイスをたまにくれるので助かっている。

チヒロ
とある後輩曰く『盗聴されてることに気が付いたら0と1で話し始めた。恐ろしい時間だった』ということらしい。ヒマリの言うように面白い人ではあるのだろう。人体実験をしているというデマが拡散されているのがかわいそうだ。

リオ
先生という人物はやろうと思えばこのキヴォトスを支配することが可能であり、すぐさま実行するための権力と能力がある。危険ではあるが、本人に『今のところは』その兆候が見られないのが幸運だ。しかし、それを持っていることには変わりない。彼と話した時に『芯』をズラさずにいられるのだろうか。それが怖くて、面と向かって正式な挨拶ができない。

トキ
(こっちの装備とか詳しく知ってるエイミが若干先生側だし、もし敵対することになったら勝てないのでは……?)

『私』
私は彼ではないし、彼も私の自己投影ではない。他人だ。

チアキ
きっと色々な場所で色々なものを見て、たくさんの人と関わってきたんだと思います。
後で時間ができたらゆっくりお話ししてみたいなぁ

ハナコ
いい授業でした。とても参考になりました。ありがとうございます
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