元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

36 / 39
前回までのあらすじ
 
チアキの人生を奪ってしまった挙句、薬物濫用及び週刊万魔殿の休載までしてしまった『私』。
 
その行動が周囲にバレてしまったことにより、自分の中にあった「元宮チアキ」のイメージが崩壊。現実に耐えきれなくなってしまった『私』は引きこもってしまう。
 
だが、心の奥底に引き篭もってしまった『私』の代わりに「元宮チアキ」が目覚めたことで事態は一変。真実に辿り着けていないマコトたちは、チアキが諸々のストレスにより記憶を失ってしまったと考え、一年半共に過ごした『本来のチアキ』を取り戻そうと行動を開始する。

そこで、サツキの催眠術を使ってチアキの記憶を呼び起こそうと試みるが……?


(エイミと美食研究会はジュリが産み出してしまった毒ぶんぶく茶釜と戦っている)


私ではなく……①

「じゃあ……やるわよ」

 

サツキは、チアキの前に「いつものアレ」をぶら下げてからマコトの方を向いた。それを見て、静かに頷くマコト。

 

来客用のソファーに深く腰掛け、リラックスした姿勢にはなっているものの、どこか緊張した顔付きのチアキ。

 

それを見守る先生、ヒナ、サトカ、セナ。

 

サツキは、全員の顔を一度ずつ見てから、覚悟を決めたように催眠セットを揺らし始めた。

 

あの時と同じように深い静寂が部屋を包んでいた。優しい声で語りかけてくる。

 

「さあ、リラックスして……私の声だけを聞いて……深く、もっと深く……あなたの心の奥底に触れる扉を、少しずつ開いて…………」

「おぉ……なんか本格て……き…………」

 

 

==

 

 

マコトは、寝息を立て始めたチアキを見て、少しだけ安堵した。まずは第一関門突破と言ったところか。

 

「サツキ、続けてくれ」

「分かったわ」

 

だが、本番はここからだ。

 

「あなたは忘れていることがある……昨日までのこと……私たちのこと……」

「うーん……」

 

サツキが優しい声で喋るたび、チアキが頭を揺らしながら寝言を返す。聴こえてはいるのだろう。

 

「目が覚めたら、全部思い出す……そして…………」

 

サツキの表情が少しだけ強張ったのを、マコトは見逃さなかった。

 

「サツキ」

「大丈夫よ、マコトちゃん。そして、チアキちゃんは……全部話してくれる……はいっ!」

 

言い終えると同時にチアキの全身から力が抜け、揺れていた首が項垂れる。

 

「……成功しているなら、目が覚めたら思い出しているはずよ」

「キキッ!当然だ。サツキの催眠術が失敗したことなどあったか?」

 

それは自分にかけられたら百発百中だからだろうという視線を、ヒナがマコトに向けていたが、当然本人は気にしていない。

 

「マコト」

「む、どうした先生」

 

じっとチアキの様子を伺っていた先生が、おもむろに口を開く。

 

「チアキのヘイローが変わった」

「なに?それはどういう……」

「うぅん……」

 

どういう意味だとマコトが訊ね返そうとしたが、その前に『元宮チアキ』が目を覚ましてしまった。

 

「おはよう、チアキちゃん。気分はどう?」

 

サツキが、チアキの横に座って優しく声をかけた。チアキは、眠そうな仕草をしながら、周囲を見回す。

 

「……え?」

 

そして、数テンポ遅れてその状況を理解した。

自室で眠っていたはずなのに、制服を着て万魔殿に居て、ヒナやセナ、先生までもが同じ部屋でこちらを見ているという状況を、理解したのだ。

 

「なんで……ここに……」

「大丈夫よ、チアキちゃん」

 

サツキは、チアキの肩に手を置き、子供をなだめるように優しく抱き寄せた。不安そうにサツキの顔を覗き込むチアキ。

 

「えっと……」

「大丈夫。大丈夫だから、ね?」

 

ゆっくりと、チアキの背中をさするサツキ。情報を聞き出す前に、まずはチアキを落ち着かせる。それが催眠術を使用する上での、先生との取り決めだった。

 

無理矢理聞き出すことも可能なのだろうが、先生としてはそれをヨシとしないのだろう。マコトも、同じ意見だった。今回の件は、自分とチアキとの間に『信頼』が不足していたから起きたと言っても過言ではない。

 

チアキが、自分から話してくれるような関係になれていたのなら、ここまで事態は拗れていないのだから。

 

故に、またも無理やり聞き出すような真似をすれば、チアキとの亀裂はより大きくなってしまうだろうというのが、先生とマコトの考えである。上に立つ者がそういうことをしていては、付いてくる者も付いてきてはくれない。

 

「あ……」

 

ふと、チアキは何かに気が付いたようだった。目線の先には、サツキの催眠セット。

 

「催眠を……やったん……ですか?」

 

浮かんでくる、当然の疑問。

 

「そうよ。催眠術であなたを……」

 

サツキは、『包み隠さず』答えようとした。チアキから無理やり聞き出すようなことをしないためにも、こちらも隠し事はしない。正面から向かい合うのだ。

 

だが、物事というのは、そう簡単に進むものではない。ここまでもそうであったように。

 

瞬間、先生が小声で「マズい」と零す。数瞬遅れて、マコトも今の『順番』がまずかったことを理解した。

 

「催眠術で……私をここまで連れてきたんですか!?」

 

この状況では、チアキの視点だと、サツキの催眠術で無理やり連れ出されたようにしか見えない。

 

だから先に落ち着かせようとしていたのだが、こうなってしまっては──

 

「なんで……そこまでして……!!」

 

チアキは、サツキを振り払って立ち上がった。

 

「ち、違うの!チアキちゃんは、自分の足でここまで……」

「そうでしょうねぇ!だって催眠術で歩かせたんだから!」

「そうじゃなくて……」

 

サツキの目が、潤み始める。

 

「じゃなかったら、どうして私がここに居るんですか!私がここに自分の意志で来るなんて……」

「待ってチアキ、まずは私たちの話を……」

「『先生』は黙ってて下さい!」

 

サツキを庇おうと、先生が前に出たが、すぐさま一蹴されてしまう。先生は、相手の懐に潜りこむことは得意なのだが、その手段が『会話』である以上、相手がこちらの話を全く聞こうとしなければ、その辺にいる一般男性でしかないのだ。

 

普段であれば、じっくりと外堀から埋めていく相手なのだが、いかんせん今回は時間が無さ過ぎた。

 

「……帰ります。自分の足で」

 

チアキは、踵を返して出口に向かおうとする。

 

「チアキ」

 

故に、マコトが前に出た。結局のところ、これは自分がどうにかしなければならない問題なのだ。

 

「マコト先輩も……!!」

「お前は、ついさっきまで記憶喪失になっていたんだ」

「記憶が……?」

 

チアキは、足を止めてマコトの方へ振り返った。

 

「おそらく、ストレスが限界を迎えて記憶が飛んだってことだろうな」

 

サトカが、何かあったらすぐにでも逃走が可能な姿勢でマコトの後ろに着く。

 

「さっきまでの『元宮チアキ』には、『入学式以降の記憶』が無かった」

「…………そうですか」

 

チアキは、相変わらず何もかもが嫌になってしまったような表情だった。だが、少しだけ揺れているような気がする。

 

「『何も知らないチアキ』は、自分の足でここへ来た。そして、失われた記憶を取り戻すために、サツキが催眠をかけた。……それだけは信じてくれ」

 

言い終えると、チアキはしばらく黙ったままだった。マコトも、何も言うことなく、チアキの次の言葉を待つ。

 

「『私』ではない『元宮チアキ』が、さっきまで起きていたってことですか」

 

チアキが震えながら返してきた言葉は、少しだけズレているような気がした。

 

「……?ああ、『記憶を失ったチアキ』が……」

「違う!」

 

今まで聞いたことも無いようなチアキの大声。背後にいたサトカが、小さく悲鳴を上げながら飛び跳ね、先生の後ろへ逃げるように戻っていった。

 

「何が違う?」

「さっきまで起きていたのは──」

 

 

 

「──『私』ではなく、『元宮チアキ』なんです」

 

 

 

「……どういう意味だ?」

 

マコトは、チアキが何を言っているのか分からなかった。今、自分が話している相手が元宮チアキでないならば、誰なのだ。

 

元宮チアキは目の前の存在、情報部がチアキに関する情報を隅々まで調べ上げて出した結論である。

 

だが、チアキからしたら違うらしい。

 

『元宮チアキは、2人いる……という意味ではありませんか?』

 

若干ノイズ交じりの声が聞こえる。声の発生源は、先生の持っている携帯電話。

 

『昨日までのチアキ書記と、ついさっきまでのチアキ書記は、同じ体でありながら別人だった』

『もっと言えば、私たちが初めて会ったチ(・)ア(・)キ(・)と、私と入学式後に会った時のあ(・)な(・)た(・)は別人ということでしょう?』

 

電話の向こうからは、エイミとアカリの声がしている。どうやら、ヒナが言っていた毒ぶんぶく茶釜とやらは片付いたらしい。

 

「なるほど、そういうことですか」

 

どうやら、セナは話を理解したようで、その横の先生とサトカも同じように頷いている。

 

「待て、勝手に話を進めるな」

 

だが、マコトとしてはイマイチ話を飲み込めていないし、サツキもオロオロとしたままである。

 

「要はチアキが二重人格だったのかもってこと。心がふたつある~ってやつだね」

 

先生が何かの物真似のように言ったが、誰にも伝わっている様子は無いし、ふざけている場合ではない。

 

「まぁ……医学的に報告が無いわけじゃあないな。ちょっと違う気がするけど」

 

あいにくそっち系は専門外なのでね、とサトカは苦笑いしているが、マコトとしては、自分の様な素人の意見よりは参考になるのでありがたい限りである。

 

『状況から考えると、入学式からずっと”今のチアキ”が体の主導権を握っていた……いや、握ってしまっていた、が正しいかもしれない』

「ふむ……」

 

電話の向こうのエイミは、チアキを刺激しないよう言葉を選びながら喋っているのか、少しだけぎこちない話し方だった。

 

「流石は、特異現象捜査部のエースだね。ちょっとの情報で、真相に近づいてくる」

「……?」

 

視界の端のサトカが首を傾げていたのを、マコトは見逃さなかった。何に引っかかったのかは分からないが、先生たちが何も言わない以上、少なくとも自分が今この場で気にすることではないだろうと、マコトはスルーする。

 

『別に私だけの力で真相に近づいているわけじゃないと思うけど……』

「だからこそ、ですよ。ここにいる……万魔殿以外の皆もいろんなことを知って、いろんなことが分かっているのに……」

 

いつの間にか、チアキの頬には水滴が流れて始めている。

 

「どうして『私』のことは分かってくれないんですか!」

 

「……それは」

 

論戦において百戦錬磨とも噂されていた先生ですら、言葉に困っていた。

 

分かっているから、助けたい。この場において、全員の見解はほぼ一致している。

 

だが、全員の理解が少しずつズレてしまっていた。それ故に起きてしまった悲劇なのだ。

 

──いや、例えズレていなくとも、いつかは起こっていたことか。

 

マコトは、心の中で割り切った。

 

「本物のチアキが戻ってきた!これで万魔殿もゲヘナもキヴォトスも元に戻る!」

 

悲痛な叫びが、万魔殿に響く。

 

「"元"から明るく元気で、週刊万魔殿も心の底から楽しそうに書けて!そんなふうに過ごすのに薬を頼る必要なんかなくて!」

「…………まぁ」

 

視界の端のサトカは、渋い顔をしていた。

 

「そんな元宮チアキが戻ってきたんですよ!?私なんかと違って!」

 

チアキは、笑ってこそいるが今すぐにでも壊れてしまいそうな笑顔だった。

 

「……それで、いいじゃないですか。ようやく何もかもが正しい姿に……元に戻って……チアキの人生を奪った偽者も消える……」

 

「だからもう、"私"のことは放っておいてください……」

 

「最初から私が居なければ、こんなことにはならなかった……その方が世界は幸せなんです……」

「──ああ、そうだな」

 

マコトは、いきなりチアキの言葉を肯定した。その姿に、横のサツキが驚いたような顔を浮かべる。

 

「お前が『元宮チアキ』でないことは、よーく分かった」

「よかったです。じゃあ、もう私は……」

「だがな!」

 

 諦めたようなチアキの言葉を、マコトは勢いよく遮った。

 

「それはこのマコト様の前から勝手に消えていい理由にはならん!!」

「マコトちゃん……」

 

サツキの顔は、少しだけ明るくなった。それでこそマコトだ、とでも思っているのだろう。

 

「今の万魔殿だとかキヴォトスが正しい姿だの間違ってるだの……そんなことは知らん!そもそも何をもって『正解』とするんだ?」

「……っ、それは!」

 

マコトの反論に、チアキは言い淀むことしかできなかった。

 

「それに……」

 

マコトは、チアキの肩にそっと手を乗せる。

 

「お前がチアキじゃない?だからなんだ」

 

そんなことは、偉大なマコト議長からすれば、些細な問題である。

 

「ここに居たくないと言うのならそれで結構。私もこれ以上無理に引き止めはしない」

「じゃあ……!!」

「だが!」

 

 手を離してくれ、チアキがそう言うよりも先に、マコトが口を開いた。

 

「お前がチアキであろうがなかろうが──」

 

 

「ここまでの思い出を無かったことにはさせん!」

「……っ!」

 

それはチアキにとって全く予想もしていない反論だったのか、何も言葉が出てこなかった。

 

確かに、ここまでの生活はチアキにとっては辛く苦しいものだったのかもしれない。

 

「イロハは、記憶のないチアキに『初めまして』と言われてショックを受けていた!」

 

それでも、全てが辛く苦しい思い出だったとは、言わせない。

 

「イブキは、今までの思い出が消えて泣いていた!」

 

共に過ごした仲間だからこそ、チアキが楽しんでいた瞬間を、知っているのだ。

 

「──私も、『チアキ(お前)』がいないと、さびしい」

 

ヒナには聞こえないように、マコトは小声で言った。

 

「私も、みんなと同じ気持ちよ」

 

サツキは、そっとマコトを抱き寄せた。

 

「…………」

 

なんと返せばいいのか、チアキは分からない。考えてすらいなかったのだ。

 

「……ここに居たくないのなら、それで構わん。だが……自分は居ない方が良いだとか、勝手に消えようとするのは……止めてくれ……」

 

マコトも、珍しく泣きそうな声だった。

 

「わたし、は……」

 

チアキが、何かを言いかける。

 

 

 

──その瞬間、チアキの体から力が抜け、倒れ込んでしまった。

 

 

「……おっと」

 

床に叩きつけられる前にマコトが抱き止め、そのまま優しくソファーに寝かせる。

 

「時間切れ、ね」

 

サツキの催眠は、長く続かないようにしていた。チアキへの負担を考えての約束である。

 

「ま、言いたいことは言えたし、聞きたいことも大体は聞けたな」

 

返事は聞けなかったがな、とマコトは少しだけ残念そうに呟いた。

 

「というワケだ。今日はもう解散で良いだろ」

 

マコトは顔を上げ、部屋の中の全員に語りかけた。

 

「……まぁ、そうね。ここから先はあんまり私では力になれなさそうだし」

 

ヒナは、そう言うと立ち上がって部屋を出ていこうとする。エデン条約に影響が出かねないからチアキの問題に向き合ってくれていただけで、風紀委員長と言うのは常に忙しい立場の者なのだ。

 

チアキが雷帝絡みの案件でなく、『当人』の中の問題である以上、ある意味部外者であるヒナにできることはあまりない。ここから先は、万魔殿内で解決していくべきことだろう。

 

「……すまなかったな。巻き込んで」

 

別れ際にマコトが発した言葉。思いもよらなかったその行動に、ヒナは思わず足を止めて振り返る。

 

「……びっくりした。マコトが私にそういうことを言うなんて」

「なんだ。文句があるなら、取り下げるぞ」

 

マコト自身も、柄でもないことを言ってしまったな、と驚いている様子だった。そんな2人を、サツキが微笑みながら見つめている。

 

「いえ、驚いただけよ。それじゃあ、頑張って」

『あの、お忙しいのは分かりますが、少しお時間を頂けませんか』

 

ヒナは再び呼び止められる。その声が発されたのは、先生の携帯電話。即ち、和泉元エイミである。

 

そういえば通話中であったな、とマコトは今更思い出した。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

そんなことを全く悟られないように、マコトは言葉を続ける。

 

『先ほどまでの会話を遮りたくなかったので黙っていましたが、一点……確認したいことがありまして』

「なんだ、言ってみろ」

 

マコトはそう言いつつも、所詮はサトカの監視の為に派遣されてきた『セミナーの生徒』に何か分かることでもあったのだろうかと、心の中では思っていた。

 

『──「特異現象捜査部」を、皆さんはご存知なのですか?』

「……言われてみれば、だね」

 

先生は、先ほどまでの会話を思い出す仕草をしながら、どこか納得したような表情だった。

 

「ん?私は知らんが……セミナーの……まぁ、そういう部署だろ」

 

だから何だ、マコトがそう言う前に、サツキが口を開く。

 

「マコトちゃん、私(・)も(・)知らないわ」

 

情報部のトップである京極サツキも、「知らない」と発言した。

 

「サトカのことが分かった時、こちらの事情を知らないミレニアムにサトカを捕らえられないよう、情報部がセミナーとC(・)&(・)C(・)の動向を監視していたでしょう?」

「──けれど、実際はそれをすり抜けてエイミがサトカに接触した」

 

つまり、そのレベルで『秘匿』されている組織ってことよ、とヒナがまとめる。

 

「だから私も、エイミに奇襲されるまで一切察知できなかったんだけども……言っていいのか?その辺」

 

サトカが、痛かったなーと呟きながら先生の携帯電話の方を見た。サトカから見て、和泉元エイミという生徒は、表向きはセミナーの下っ端で、その正体はリオ会長の『私兵』……という存在であった。

 

『必要であれば、開示してしまっても構わないとは言われていますので』

 

それに加えて、今この話を聞いている人は不用意に情報を漏らさない人たちだろうと、エイミは言っているが、ヒナはマコトに対して訝しむような視線を向けている。

 

『特異現象捜査部というのは、軽く説明するとセミナーの秘密部門……私はそこの所属ということです』

 

離れた場所にいるマコトたちは知る由もないが、エイミは背後にいるアカリの視線が強くなっているのを背中で感じていた。

 

「簡単に言えば、『公になると社会に混乱を招きかねない特異な現象』を調査する部活だよ。私もちょっと協力してるから……まぁ、怪しい部活ではないよ」

 

先生が嘘ではない補足をしてくれたが、変な噂が多い先生が『怪しくない』と保証してもあまり意味はない。

 

とはいえ、エイミがセミナーの下っ端にしてはかなりの強さを誇っているのも、そういう理由なのだろうと、ヒナはある程度納得することにした。

 

そもそも、今は政治をしている場合ではない。

 

「ウチの情報網をすり抜けたのも、そういうことね」

 

サツキは、そういえばゲヘナの情報部にもかつてそういう部門があったな、と思い出していた。あの頃は、オカルトだろうが何だろうが何でも利用しようとしていたのだ。

 

まぁ、あまり触れたくないことなので、わざわざ口にもしない。

 

『──それで、サツキさんも知らないようなことを、どうして「元宮チアキ」が知っていたのか、という話になりますが』

 

特異現象捜査部という組織が何であるかは一旦置いておくとして、確かにサツキやマコトも知らなかったような組織のことをチアキが知っているのは不自然。

 

他校の生徒と仲良くしていたから、という理由で手に入る情報でもない。その上、エイミがエースであるという情報までも、万魔殿の書記でしかないチアキが知るのは、確かに妙だ。

 

「つまり、ただの『二重人格』ではないということですね?」

「まぁ、確かにおかしい言動はいくつかあったけれども」

 

サトカとセナの医療チームが、それぞれの意見を言った。どちらもエイミの言うことには、納得しているらしい。

 

「まさに『特異現象』ってところかな」

 

先生がそうまとめると、じゃあもう私要らなくないか?と、サトカは溜め息を吐きながら帰りたそうな顔をしていた。

 

事情があったとはいえ、他校の生徒に薬物投与をしていた事実があるので帰れるわけがないのだが、それはそれだ。

 

『皆さんも何となく分かっているとは思いますが、チアキ書記の中にあるもう一つの人格は……本来の人格からストレスで分裂したとかではなく、全く別のところからやってきた……分かりやすく言うなら別の『魂』でしょうか』

「そうだね。もう一人のチアキが起きた時、ヘイローが変わってたから多分それであってる」

「なら、そういうことか」

 

マコトは、先生に続いて肯定した。確かに、この仮説なら、チアキの言動にもある程度納得はいく。

 

『そして、ここからは完全に私の予想でしかないのですが……チアキ書記の体に入り込んだ魂は──

 

 

 

 

 

──全く別の『時間軸』からやってきたのではないかと』

 

 

 

エイミは、一呼吸挟んでから言い切った。

 

『そうでもないと『特異現象捜査部のエースである和泉元エイミ』とか『本来のチアキ』なんて言葉は出てこないと思うよ』

 

なるほど、確かに特異な現象を調査する部活のエースだ。マコトは、心の中でエイミを誉めた。

 

昔はゲヘナにもそういう部門があったが、サツキが『そういうこと』が苦手な都合で完全になかったことになっているので、ウチに欲しい人材である。

 

まぁ、捕らぬ狸の皮算用でしかないのだが、それはそれだ。

 

「とするとアレか、未(・)来(・)から来たとかそういうやつか?」

 

マコトは、ついこの前イブキと共に見た映画の影響で、タイムマシン開発の指示を出したことを思い出していた。

 

「そうだとすれば、チアキがする行動をあらかじめ知っていたような言動にも納得がいくぞ」

 

万魔殿や週刊万魔殿に拘っていたのも、そういうことなのかもしれない。

 

「でも、体を奪ってしまったらあそこまでショックを受けるぐらい『本物のチアキちゃん』のことが大好きで、『ミレニアムの秘密組織のエース』のことまで知っている生徒なんて……全く思いつかないわよ?」

 

サツキは、うんうんと考えながら意見を述べた。

 

確かに、その意見も尤もである。

 

中に入ったチアキが何故そのような考えに至っているのかを考えなければ、真の理解には至れない。

 

故に、「チアキになる前」が何だったのかぐらいは、ある程度予想をつけなければならないだろう。

 

だが、サツキの言った条件を『どちらも』満たす生徒など、マコトですら全く思い当たらなかった。

 

チアキのことならまだしも、特異現象捜査部という存在を開示されるような生徒はそう多くはないだろう。もしかしたら何か重大な事件が起こったとかで多くの生徒に情報の開示が行われたのかもしれないが、それならチアキがもう少しそれに向けた活動をしていてもおかしくはない。

 

というか、どちらも『生徒会』の内側までかなり詳しく知っていることになると、そんな『存在』はそれこそ──

 

「……まさか」

 

マコトは、そこまで考えてから、ハッと顔を上げた。

 

いる。

 

成り変わったらショックを受けてしまうぐらい『チアキ』のことを愛していて、よく知っていて。

 

ミレニアムで何重にも秘匿された『特異現象捜査部』のエースまで把握している。

 

その条件をどちらも満たしかねない存在が──

 

 

 

目の前に、いるではないか。

 

 

 

「……もしかして、『私(先生)』か?」

 

先生は、どこか確信を得たような顔つきで、そう言った。




実装直前に勢いで投稿したはいいけど、2着目までに完結させられなかったせいで言わせたかったことを先に原作にやられてしまった哀れな小説の姿を見よ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。