元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

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私ではなく……②

『確かに……「先生という立場の人間」であれば生徒の人生を奪ってしまったことに絶望するかもしれませんし、私(エイミ)やチアキ書記のことを知っていたとしても、納得はできます』

 

和泉元エイミの言葉には、少しだけ含みがあるように思えた。

 

「……なんだか反論がありそうな言い方だね」

 

先生は、エイミがそういうことを言えるようになったことに対して静かに感動していたが、今はどうでもいいことである。

 

「『先生(せんせい)』ならそうかもしれないけど、『先生(あなた)』はそんな人に見えないって話よ」

 

空崎ヒナが、呆れるような視線を先生へ向けた。だがそれは、ある意味信頼でもある。

 

「そうだね。私がチアキになったとしたら、最初はショックを受けるかもしれないけど……嬉々としてその立場を活かして色んな人に突撃してると思うよ」

 

そして、万魔殿の支持率は8割を超えているだろうとも先生は思っているが、ハルナやアカリとの会話の節々から推測するに、ゲヘナ3年生の前でそういうことを言ってしまうのは良くないだろうと、口を慎んだ。

 

「……それはさておき、この推測には根拠がある」

「何だと?」

 

マコトは、思わず身を乗り出してしまった。

 

「でも、確証はないから話半分に聞いておいて」

 

先生は、そう言いながら『シッテムの箱』を取り出して、机の上に置いた。

 

「私がこのキヴォトスに『先生』として着任した時、これに私のデータを登録したわけなんだけど……『違うデータ』が最初から入ってたんだ」

「違うデータ?つまり『先生(あなた)』よりも前に『先生』をしていた人がいるかもしれないってこと?」

 

ヒナが、首を傾げながら訊ねた。サツキも、そんな話聞いたことが……と考え込んでいる。

 

「アロナ(中の人)が『デバックデータの残りとかですかね〜』って言ってたからその時は気にせずそういうものかと思ってたけど……」

 

チアキの中の人が「"元"先生」なら、話は変わってくるよね、と先生は締めくくった。

 

『まぁ……これ以上は仮定に仮定を重ねていくだけだと思うから、議論の意味はあんまりなさそうかも』

 

エイミの言う通り、これ以上は何の根拠もないやりとりしかできないだろう。

 

「……そうだな」

 

チアキの中身を考察するには、もう少し情報が欲しい。それよりは、どうやってチアキに戻ってきてもらうかを考える方が時間としては有意義であるはずだ。

 

「ま、今日はもう一旦これぐらいでいいんじゃない?みんなもちょっとお疲れみたいだし」

 

先生は、私も疲れたし、と腕をぐるぐる回した。

 

「そうですね」

 

セナが、部屋の中の全員の顔を見渡しながら肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

マコトとサツキは、共に仮眠室へ。ヒナは風紀委員本部へと戻り、代わりにチナツがサトカの監視の役目を任されることとなった。

 

「私は、しばらくチアキさんの様子を見ています」

 

セナは、気持ちよさそうに眠っているチアキを抱きかかえて、ベッドへ運んでいく。何も知らないというのは、ある意味幸せなことなのだろう。

 

「うーん……」

 

これからどうしようかと、先生は3人しかいない万魔殿議長室で物思いに耽っていた。正直な話、今自分にできることは何もない。他の皆と同じように休むべきだろうか。

 

「……なぁ、先生。少し外の空気を吸ってきてもいいか?」

 

先生がそんなことを考えていると、サトカがそんな提案をしてきた。

 

「逃げないでくださいよ?」

 

チナツが、ジトっとした目線をサトカに向ける。そもそも、チアキの件とは関係なくサトカの思想が受け入れにくいものであったために、チナツは常に警戒している様子だった。

 

「今更逃げるようなことはしないって」

 

心外だなぁ、とサトカは言っているものの、あまり目は笑っていない。

 

「まぁでも、いいかもね。私も少し歩きたい気分だったし」

 

3人で万魔殿から外に出る。既に時刻はお昼過ぎ、このまま何処かへ食事に向かうのも悪くないかもしれない。

 

先生は、そんなことを考えながら思いっきり体を伸ばした。それと同時に、肺に新鮮な空気が流れ込んでくる。

 

「それで……その、チアキさんの様子は……」

 

チナツは、心配そうに訊ねてきた。

 

「ああ、今のところは大丈夫だと思うよ」

「体の方は全然健康だったし」

 

サトカの補足は、余計な一言だった。

 

そのまま、チアキの現状を説明しながら、3人でゲヘナの敷地内を当てもなく散策し始める。相変わらずチナツとサトカの間にはどこか受け入れがたいものがあるようにも思えたが、時折医療に携わる生徒として通じ合う部分も見え隠れしていた。

 

やはり、人間同士の関係性というのはいつ見ても飽きない。

 

そういう意味では、先生としてもチアキが消えてしまいたいと言っていたことが、とても悲しかったとも言える。

 

マコトたちとは少々ベクトルが違うのだろうが、生徒のことを大切に思っているという視点では、何も変わらない。

 

「もしもチアキが、この先の未来で失敗した『先生』だとしたら……」

 

どんな先生だったのだろうか。

 

ここまでのチアキからプロファイリングした性格から推測すると、あれはきっとクラスで委員長の役割とかを押し付けられ、苦労しながらその役目を全うすることになってしまうタイプだろう。

 

今の自分と同じ立場に立つには、少々不安が残る。

 

 

「えぇ~っ!? 週刊万魔殿が休刊ですかぁ~っ!?」

 

ふと、廊下の向こうからそんな大声が響いてきた。あの方向には、確か週刊万魔殿の出版を行っているメディア編集部の部室があったはずだ。

 

「あの声……」

 

サトカは、その方向を見ながら、呟いた。

 

「サトカ、どうした?」

「いや、知り合いに似てて……」

 

まぁ、会話の内容から考えてチアキ絡みの案件であることは間違いないので、余計なトラブルを防ぐためにも行ったほうが良いだろう。

 

3人は、メディア編集部部室へと向かうことにした。

 

「それも再開未定!?!?!?!?」

「えっと、チアキちゃんは体調不良で……」

 

二人の生徒が、メディア編集部前で話し合っている。片方は、ついこの前チナツと共にチアキのことを訊ねた生徒だったが、もう片方はミレニアムの制服の見慣れない生徒だった。正確には、顔と名前は知っているが、先生との面識はない。

 

相当な週刊万魔殿のファンなのか、メディア編集部の生徒をものすごい勢いで揺らしている。

 

「よっ、相変わらず元気そうだね」

 

その二人の姿を確認すると、サトカはスッと前に出てミレニアム生徒の肩を叩いた。

 

「まっ……サトカ先輩!?」

 

どへぇ!と、妙に古臭いリアクションをしながら横転するミレニアム生徒。

 

「そんな!リオ会長に見捨てられ、一人で吾妻ミライを討伐するべく修行の旅に出ていたのでは!?はっ……まさかその修行でこのゲヘナに!?」

「変わってないなぁ……どいつもこいつも……」

 

サトカは、呆れるように言ったが、心なしかその顔は少しだけ嬉しそうである。

 

「知り合いなの?」

 

先生は、知っている情報をあえて訊ねた。その方がコミュニケーションというものは円滑に進むのだ。

 

「元後輩。専門は違うけど、同じ医療系部活ってことで仲良くしてた。……それなりに」

 

ミレニアムには、様々な医療技術を研究する部活が複数存在し、サトカが部長を務めていた薬品研究開発部もその一つである。サトカが停学になったことで解散してしまったが、残された部員は別の医療系部活に吸収されていたりと、元から部活同士の垣根というものはあまりなかったらしい。

 

まぁ、その話と報酬金目当てでサトカ捕獲部隊が医療系部活でも組まれたりしている話は、別な話だ。

 

「それで、なんだかチアキの話をしているように聞こえたけど?」

 

先生は、話を戻した。

 

「そーだサトカ先輩!私たち心理学研究部で大流行中の週刊万魔殿の編集者、元宮チアキ大先生が体調不良で休刊なんですよ!」

「……そうだな」

 

今まさにその問題と向き合ってきた直後なのだが、彼女はそんなことを知らない。

 

「そこでサトカ先輩の薬で何とかすれば……!サトカ先輩なら違法な薬品を使ってでも絶対に治すという……あだっ!なんで蹴るんですか!」

「……私でも、どうにもならないことぐらいある」

 

サトカは、少しだけ怒っている様子だった。今まさにサトカの薬ではどうにもならない案件が発生した直後なので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

ただ、力はそこまで強くないようで、足を逆に痛めてしまったらしい。

 

「あの、週刊万魔殿が人気だ……ということらしいですが、少しお話を聞いても?」

 

恐る恐ると言った様子で、チナツは訊ねた。

 

「何か気になることでも?」

「学外でもチアキさんのことを待っている人々がいるなら、戻ってくる手助けになるのでは……と」

「ふむ……一理あるね」

 

先生は、先ほどのマコトたちのやり取りを思い出す。確かに、チアキが居ないと寂しい──その言葉に、チアキは揺れ動いているようにも見えたのだ。

 

故に、ミレニアムにもチアキのことを待っている人がいるという事実は、その背中を押してくれるかもしれない。

 

「どうせ、愛用してる匿名掲示板でしょ。それなら頼めばログも簡単に手に入るだろうし」

 

サトカは、足首を擦りながら応えた。

 

「いいですねぇ~!私も見てみたいです!学外のファンの様子ってあんまり目に入らないので!」

 

編集部の生徒も、髪をゆらゆらさせながら同意している。

 

「いや、まぁ、その……」

 

だが、それとは対極的にだんだんと声が小さくなっていく心理学研究部員。

 

「もしもしエイミ?」

『はい』

 

サトカは、彼女をあえて無視してエイミに電話をかけていた。

 

「ちょっとミレニアムに戻って取ってきたいものがあるんだけども」

『わかりました……あっ、イズミさん、そういうソースをかけるのは鍋じゃなくて自分の皿でやってください……それで、一体何を取りに?』

 

エイミの後ろは、相変わらず楽しそうで騒がしい。タヌキ鍋パーティーは無事に始まったのだろう。

 

「いやね、ミレニアムの匿名掲示板のログが欲しいって……ああ、週刊万魔殿関連のね」

『それなら私から頼んでもらっておきま……あ、ジュンコさんの卵が逃げ出そうとしてますよ』

 

ジュンコの驚く声と、ジュリの謝罪する声がかすかに聞こえてくる。

 

『ええと、ヒマリ部長が管理運営しているので、私が言えばすぐ届くと思うから、先生の方に転送しておきます』

『特異現象捜査部ってヒマリさんが部長なんですね~』

『……………』

『ただの事実確認で~す』

『ふむ、ミレニアムの明星ヒマリさんと言えば、ミレニアムでもわずか三人しか取得できていないと言われる全知の学位を……』

『あの、すいません電話中なので静かにしてもらっても『あ゛ッ゛ッ゛ッ゛つ!!』『ジュンコさーん、暴れないでください』『だって私のお肉が!』『ごめんなさい!地面に触れなかった部分は洗ったら使えるかと……』『まぁ、確かにまだ食べられそうな感じではありましたけど……』『?結構美味しかったよ?』……後で掛けます。先生からヒマリ部長に言うよう伝えてください』

「楽しそうだな、そっちは」

『……すいません』

 

通話は、終了した。少し怒っているような声だが、顔は笑っている。サトカは、なんだかんだエイミのことが気に入ったのかもしれない。

 

「まぁ、そういうわけだから」

「……どういうわけですか?」

 

一方のチナツは、状況がイマイチ飲み込めていないようだ。

 

「エイミは鍋パーティーを楽しんでるみたいだから、私が代わりにヒマリに頼んでくるよ」

 

ヒマリにその旨を伝えると、10分でまとめて送ってきてくれた。相変わらず、仕事が早い。

 

 

 

 

「…………なんか、思ってたのと違いますね」

 

編集部の生徒は、先生へ送られてきたデータを印刷しながらそう言った。あからさまな作り笑いである。量が多いので印刷してから確認しようとしたのが、仇になってしまった形だった。

 

「私が言うのもなんだけど、お前さぁ……」

 

サトカは、顔を覆って動かなくなってしまった心理学研究部員に呆れた顔を向けた。

 

印刷機から出てくるのは、週刊万魔殿を「作者が病んでる」という視点で楽しんでいる人々……というよりはほぼほぼ心理学研究部員の匿名スレッドである。

 

そういえば、エイミが車椅子となってシャーレにやってきた日*1、ヒマリがそんなことを言っていた。

 

あまり規制してしまうと自分の主義に反する、と言っていたヒマリですらチアキのことを考えて少しメスを入れるべきだろうかと検討していたスレッドなのだ。

 

「匿名掲示板は、文脈の分からない人間に見せることを想定して会話しない」

 

先生の目の前でクネクネしている心理学研究部員は、スレッド内で『バイニンマン』という名前で週刊万魔殿を毎週仕入れているらしい。そのために態々ミレニアムとゲヘナを往復しているというのは、中々に熱心な生徒である。

 

とはいえ、先生としては、後で軽くお説教をしておくべきなのかもしれないが。

 

「でも……内容はともかくとして、週刊万魔殿が休刊になったら悲しむ人が学外にも大勢いるというのは、チアキさんにとっても良いことではないでしょうか」

 

チナツは、現在進行形で更新されているスレッドを見ながらそう言った。スレッドに張り付いている生徒は、週刊万魔殿が届かないことを思い思いの形で嘆いている。

 

「見方を変えれば、それだけ熱心に読んでくれてるってことでもあるからな」

 

確かに、肯定的に捉えればチナツやサトカの言う通りである。それに、このスレッドに居る人たちがチアキのことを心配しているのもまた、事実であった。

 

まぁ、その言い方と心配の仕方がアレというのはあるが。

 

どうにかして良い感じに見える部分だけ抜き出せば、ただの応援メッセージにはなるかもしれない。

 

「あの……このスレッドに『チアキさんへの応援メッセージを書きませんか?』のような提案をすることは、可能でしょうか?」

 

チナツは、こういった文化に馴染みは無いらしく、少々戸惑いながら提案してきた。

 

「うん。いいアイデアだと思うよ。早速やってみよう」

 

それなら、チアキに見せても大丈夫だろう。先生はそう判断し、ヒマリから貰ったIDで掲示板に『チアキ大先生への応援メッセージを書こう』と提案した。

 

ヤラセのようになってしまうが、スレッド内でもかなりの影響力を持つ心理学研究部員の生徒に『直接届けるからみんな書いてくれ』と言わせることで、スレッド内の流れをそちらへ持って行く。

 

ヒマリからIDを貰った時、悪用はやめてくださいね?と釘を刺されたが、こういう使い方なら問題は無い……はずだ。

 

「じゃあ、私は校内の読者さんたちから応援メッセージを集めてきますね!」

 

少々嫌悪感を示していた編集部の生徒も、今自分がチアキのためにできることを理解したようで、元気よく部室を後にした。

 

「……チアキさんには、素敵なお友達がこんなにたくさんいるんですよね」

 

チナツは、スレッドに次々と書き込まれていく応援メッセージを眺めながら呟く。

 

「そうだね」

「やっぱり、私もチアキさんには戻ってきて欲しいです。それに私たち以外のたくさんの生徒も、同じようにチアキさんが戻ってくることを願っている」

「戻ってくるよ。絶対」

 

チアキは、自分なんていない方が居ない方が良かった、と言っていたがそれは明確に間違いであると言える。

 

万魔殿以外でも、メディア編集部に、この匿名スレッドの参加者たち、そしてゲヘナ校内の週刊万魔殿読者……それだけの人が『ここまでゲヘナで過ごしてきたチアキ』を受け入れているのだ。

 

これが間違っている姿だというならば、正解なんて存在するはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしもし?先生」

 

和泉元エイミは、ハルナ宅の壁や床に飛び散ったたぬき鍋の掃除を終え、一息ついてから先生へ電話をかけた。

 

美食研究会と給食部は、一箇所に集まって談笑している。

 

『ああ、エイミ。どうしたの?』

「……いや、さっきの件はどうなったのかな、と」

 

ヒマリに任せてしまったが、何か面倒なことにはなっていないだろうか。ヒマリが作成し、管理しているあの匿名掲示板は、エイミからすると治安が両極端な場所である。

 

学内の情報交換をしている場所もあれば、的場サトカ捜索の名目で旅行写真を貼るだけのスレ、ゲームのチーター晒しスレだったり、週刊万魔殿の熱狂的なファンが集まったりしていたりと、中々個性的である。

 

エイミがこの前覗いた時は、我妻ミライガチアンチスレがものすごい勢いだった。マキが真顔で覗かない方が良いと言っていたので、エイミは覗いていない。

 

好奇心は猫を殺す。特異現象捜査部のエースとして、エイミはそのあたりの線引きはちゃんとしているのだ。

 

それはさておき、そんな場所における週刊万魔殿の評判を見せてしまって、大丈夫なのだろうかと、エイミは少しだけ心配していた。

 

『とりあえず、さっきヒマリから貰って、今はスレッドの生徒たちにチアキへの応援メッセージを書いてもらっているところ』

「応援メッセージを?」

 

ヒマリが、少しテコ入れをするべきだろうかと検討していたスレッドの住民が、そういうことをしてくれるのかと、エイミは少しだけ意外に思ったが、考え方を変えれば、ミレニアムにおいて彼女たちほど週刊万魔殿と真剣に向き合っている集団は居ないだろう。

 

まぁ、それはそれとしてあまり関わりたくはない人たちではあるが。

 

『そう。チアキが戻ってくる手助けになるかなって』

「なるほど……」

 

先生にしては真っ当な方法だと、エイミは思った。

 

『チアキの中の人はさ、きっと"自分がこうなっていること"に納得できていないんだよ。だから、周りの人たちから愛されているのに、気が付かなかった。愛されているのは、あくまでガワの『元宮チアキ』なんだと……そう思っていたのかもしれない』

「でも、それは違うんだよね?」

『うん。万魔殿、私、このスレッドの人たち……いろんな人たちがチアキのことを知って悲しんでいる。例えチアキとしては偽物だったのかもしれないけど、彼女たちにとってはチアキの中の人も"本物のチアキ"だったんだよ』

 

エイミとしては、少々耳が痛い話であった。

 

「……私もさ、こないだまでは一緒に居たい『他人』ってのがよく分かってなくて」

『そうだね。今だから言えるけど、エイミがシャーレへ最初に来た時はそんな感じだった』

 

先生は、懐かしいね、と呟いている。

 

「C&Cやセミナーとは仕事上の付き合いだから、ヴェリタスはヒマリとの関係を良好に保つため、アカリさん達美食研究会もシャーレ関係での付き合い……少し前までは、それをただの義務みたいなものだと思ってた」

 

エイミには、最近まで『ただただ純粋に隣に居たい』という関係性の存在は居なかった。でも、最近は違う。部長、C&C、セミナー、美食研究会……

 

「でもさ、ト……んん、友達に『ちょっと穿った見方をしすぎですよ』*2って怒られちゃって」

 

誤用の方の意味でだよ、と一応付け足しておく。先生なら分かっているとは思うが、念のためだ。

 

「自分はそう思っていなくても、周囲の人々は自分の想像以上にあなたのことを気に入っているはず……ほんとうに、その通りだなって」

 

距離感の掴み方やコミュニケーションの取り方が同学年の生徒と比較しても、まだまだ未熟であることぐらいは、今までずっと自覚していた。

 

エイミはそれでいい、困ることは無いと思っていたから、特に改善してこなかった。

 

それが変わったのは、リオ会長に居場所を貰って、飛鳥馬トキという友達ができて──

 

「──やっぱり、部長のおかげかな」

 

声に出した自覚は無かったが、エイミの口からは自然とその言葉が漏れ出てしまっていた。

 

「恋をしている人って分かりやすいですよね~」

「そうね。実例が目の前にいるし」

「ええと、どうして皆さんも一斉に私の方を?」

「ハルナって分かりやすいから」

「あっ、ハルナさんとアカリさんってそういう……おめでとうございます……!」

 

「悩みを打ち明けられたりだとか、ありのままの自分で居られる場所があるって、幸せなことだったんだなーって、最近は思うようになったんだ」

 

私(エイミ)も、チアキも。

 

それを分かっていなかったのだ。

 

そんな大切なことを教えてくれた『お友達(飛鳥馬トキ)』のことは、部長や先生には、まだ紹介できない。でも、いつかは紹介できたら嬉しい。いつになるかは、分からないけど。

 

「……なんか、私のことばっかりになっちゃったね」

 

エイミは、少しだけ照れ臭そうに笑う。少し前までの自分なら、こんな表情はしなかっただろう。

 

確実に、変わってきている。

 

和泉元エイミは、いつまでも同じ『和泉元エイミ』ではない。新しい環境を受け入れ、常に変化(納得)していく。

 

けれど、和泉元エイミは、紛れもなく和泉元エイミだ。

変化した結果が、『今の自分』である。

 

『まぁ、私としてはエイミの楽しそうな話が聞けたから十分だよ。それじゃあ、またね。何かあったら連絡するから』

「そうだね。また」

 

──これはきっと、そういう話だった。

*1:
参照:チアキではなく、エイミ その1

*2:
参照:チアキではなく、エイミ その2




【的場サトカ】
発見して確保するとそれなりの報酬金が貰えるので、部費不足に陥ったミレニアムの生徒が度々捜索隊を組んでいる。だが、サトカの親友が情報提供者として関わっているので全部筒抜けになっており、サトカは潜伏を続けることができた。
エイミは自認がセミナーなので報酬金を貰うつもりが無く申請していないが、ヒマリがしれっと貰っている。二人の新婚旅行に使われた
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