元宮チアキではなく、“元”チアキ   作:元宮チアキ以外の誰か

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前4話は半年ぐらい前に書いたやつなので、急に雰囲気が変わっているかもしれません

【注意】
本作品には薬物使用を想起させる描写がありますが、作劇上の演出であり、薬物使用を示唆・助長するものではありません。


気づかれているのではなく、気遣われている

薬がバレてから数日。

 

何もなかった。

 

__どうして?

 

いや、気づかれているはず

 

「な、なあチアキ!何か食べに行かないか?おすすめの場所があるぞ!?」

「えぇ~?マコト先輩の奢りなら行きますけどぉ……?」

 

マコトは、前までそんなことを言ってこなかった。

たぶん、こちらを気遣っているのだろう。

 

それでも、『チアキ』らしく振る舞う。これしかできないから。

 

「……っ、ああ!いいぞ!あの店はすごくおいしくて……なあサツキ!」

「え、あっ、うん!おいしいわよ!」

 

何も考えていなかったのか語彙力が低下しているマコト。いきなり話を振られて動揺するサツキ。

2人とも隠すのが下手過ぎる。

 

「……語彙力がなさすぎませんか」

「イロハ!」

 

そこで指摘したらダメじゃないか。バラしているのと同義だろう。

 

『お前が言うな』

「……はいはい。マコト先輩がご馳走してくれるみたいなのでイブキも一緒に行きましょうか」

「わーい!イブキも行くー!」

 

 

 

「って、この前のファミレスじゃないですか!!」

 

辿り着いたのは、この前先生と共に訪れたファミレスだった。

 

「ま、まあいいじゃない。おいしいんだしさ」

「それはそうなんですけど……」

 

マコトの顔を見る。きっと何も考えていなかったんだ。

とりあえずチアキに何かをごちそうしようと声をかけたはいいが、どこに行けばいいかわからなかったんだろう。

 

それでも、こういうところに連れてこられるとは思っていなかったが。

……マコトらしいと言えば、そうなるけど。

 

 

 

__これでいいのか?

 

『いいワケがない』

 

チアキとマコトはこんな関係じゃなかったはずだ。

 

「キキキッ、ほらチアキ、先に選んでいいぞ!」

「えぇー?いいんですかぁ?」

「ああ、もちろんだ!」

 

マコトはそう言いながらチアキにメニュー表を手渡した。

 

「そうですねぇ……この前と同じやつで!」

 

それを私は軽く見て、返した。

 

「そ、そうか……じゃあ私はこれだな……」

「……私は、これで」

「イブキもー!」

『ご注文ありがとうございました!ドリンクバーのグラスは……』

 

マコトが『注文』のボタンを押すと軽快な効果音と共に注文内容が送信された。

 

「……じゃあドリンクバー行きますか」

「うんっ!!」

 

イロハとイブキは待ちきれない様子で駆けだしていった。

しかし、『チアキ』の両隣に座っているマコトとサツキは席を立たない。

 

「マコト先輩はいいんですか?」

「キッ!?いや、私は頼んでないからな!チアキこそドリンクバー頼まなくていいのか?せっかくこのマコト様が奢ってやるというのに……」

「いやぁ~?私は水で十分なので!」

「そ、そうか……」

 

マコトは一瞬だけシュンとしていたが、すぐにいつもの顔に戻った。そういう切り替えの早さは見習いたいものだが、それができるなら『私』はここまで苦しんでいなかっただろう。

 

「「「…………」」」

 

そしてそのままテーブルを沈黙が支配した。

気まずい。ものすごく気まずい。

 

サツキとマコトがお互いに何か話すことがないかと探っているのだが、何も話題がない。

 

『お前のせいだろ』

 

__本当に、これでいいのだろうか。

 

このまま、こんな関係を続けていっていいのか?

 

「あー、ちょっとお手洗い行ってきますね~」

 

逃げる。

2人のいたわるような視線に耐えられなかった。

 

 

『逃げてばっかり』

『元宮チアキはそんな子だった?』

 

「…………うるさい」

「チアキ……?」

「……なんでもない」

 

サツキの問いかけに、そう答えた。

そのまま振り返らずに、お手洗いへと向かう。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

トイレの鏡の前に立ち、心を落ちつける。

鏡に映っている『私』をいつも通り『元宮チアキ』にしていく。

 

『無駄なのに』

「………………」

 

__正直言って、限界だ。

 

『薬』がバレてしまったからか、薬の効き目が薄い。

今の薬では抑えきれなくなってしまったのだろう。

 

マコトやらサツキがやたらと構ってきて薬を飲む隙を作るのがなかなか難しくなったのもあるかもしれないが。

 

だから、もう、限界。

 

『最初からでしょ』

「うるさいなぁ……」

 

何が理由なのかは分からないが、幻聴が聞こえ始めてしまった。

薬の副作用か、それとも……

 

 

 

ずっと、『誰か』が何か言ってくる。

これをどうにかすることができれば、楽になれるのだろうか。

 

違う。幻聴は所詮幻聴でしかない。言っているのは『私』だ。

 

『本当に?』

「……気にしなければ済む話」

 

とりあえず、薬は飲まないと。

そう決心し、ポケットの中の薬を取り出そうとした時だった。

 

「あらチアキ!偶然ね!」

「え~?トイレに偶然とかあります?さっき行くって言ったじゃないですか」

「ア、あはは……!それもそうね!」

「じゃあ、私はお先に戻ってますね~」

 

サツキがわざとらしく入ってきた。意地でも『チアキ』を一人にしたくないのだろう。

 

申し訳ないが、邪魔をしないでほしい。

でも、『チアキ』はサツキにそんなことを言わない。『私』は薬ではなく言葉を飲み込み、マコトたちが待つ席へと戻った。

 

 

『戻る場所なんて無いのにね』

 

__うるさい

 

 

 

 

 

「あっ、チアキ先輩おかえり!もうお料理来てるよ!」

「おっ、早いですねぇ。……いただきま~す」

「いただきまーす!」

 

イブキの元気な声と共に、全員が一斉に食べ始めた。

いつの間にかサツキも戻ってきている。おおよそお花を摘んでいたとは思えない時間だった。

 

「ん~、おいしいですね!」

「ねえねえ!チアキ先輩はこの前もチーズハンバーグ食べてたけど好きなの?」

 

イブキは目を輝かせながら問いかけてきた。確かに私は前回と同じチーズハンバーグを頼んでいる。

何も知らないのであろうイブキから見れば気に入ったようにしか思えないのだろう。

 

だが、実際は違う。

『チアキ』の頼みそうなものが分からないからとりあえずマコトに同調していただけに過ぎない。

 

「キキッ!チアキもチーズハンバーグ好きなのか!私も好きだぞ!」

 

マコトは純粋に好きなのか、それとも『私』のことを分かって同調しに来ているのか。

どちらにせよ、『チアキ』の答えは変わらない。

 

「そうですね~!ここのチーズハンバーグはお肉がジューシーでおいしいんですよね~。お肉を食べてるって感じがします!」

 

『嘘』

 

__味なんてしない

 

過剰なストレスのせいか、『私』は何の味も感じることができなくなっていた。

『元宮チアキ』はどんな食べ物が好きで、どんな感想を述べるのか。それを『私』が知ることはできない。

 

それでも、この嘘は貫き通す。

罪悪感が重くのしかかるけれど、逃げ続けなければ。

 

まだ、この生活を続けたいから。

 

――

 

「…………」

 

周囲を警戒し、慎重に進んでいく。

変装はしているが、バレないに越したことはないだろう。

 

『私』がいるのはキヴォトスでも屈指の治安の悪さを誇る地域、『ブラックマーケット』だ。

連邦生徒会の手すらも及ばない闇市場であり、違法な集団や武装集団が蔓延っている。

 

もちろん、そんな場所へ一人で向かうなど危険極まりないのだが、それでも行かなければならない理由があった。

 

__薬だ。

 

正式な場所で薬を貰ってもいいのだが、そうすれば万魔殿のメンバーたちにバレかねないし、『元宮チアキ』が薬を貰っているという証拠が残ってしまう。

『チアキ』はそんなことしないので、こうしてわざわざ変装してブラックマーケットへと赴いているのだ。

 

ここに居るのは『元宮チアキ』ではなく、『精神を病んだゲヘナ生A』に過ぎない。

 

『最初からでしょ』

 

自我を殺して、周囲に溶け込む。そうして、ようやくブラックマーケットの外れにある廃ビルへと辿り着いた。

この中にいる人物が薬を売っている。

 

毎回毎回、この場所へ来るとどうにも『体』が疼いて仕方がない。

 

この清潔とは言いにくい環境のせいか、いいや違う。

 

漠然とした不安感、恐怖、罪悪感。

そして、自己嫌悪。

 

 

 

『元宮チアキ』がそれを拒んでいるのだ。

 

様々な感情、それら全てを飲み込み廃ビルの中へと足を踏み入れる。

 

「……いらっしゃい」

 

そこでは1人の少女が退屈そうに座り込んでいた。

少女はこちらを確認すると笑みを浮かべ、机の下から錠剤の詰まった瓶を取り出す。

 

「……ほら、いつもの」

「ありがとうございます」

 

そう言って、代金を渡して錠剤を受け取った。

ブラックマーケットの怪しい薬など飲めば何があるか分からない。

 

というのが『健全な』キヴォトス生徒の感覚だろう。

だが、とうの昔にその健全性を『私』は投げ捨ててしまっている。

 

「……体調はどうなの」

「あまりよろしくはないですねぇ~……あはは……お友達にもしかしたらこのお薬がバレちゃったかもしれませんし、そのせいかもしれませんね……」

「はぁ……私に火の粉をかぶせるような真似はしないでよね……」

「善処します……」

 

目の前の薬売りの彼女はかつてミレニアムで薬学を専攻していたのだが、考えが受け入れられずここへやってきたらしい。

薬に依存性を持たせて、確実に治す。危険な『副作用』があったとしても、治療できればそれでいいという考えは危険だったようだ。

 

「……もっと強めにする?見てるだけで不安になる顔してるし」

「あー……幻聴が聞こえてくるようになっちゃいましたし、貰っておきましょうかねぇ」

「……お値段はいつもの倍」

 

そんな値段、普通ならポンと出せない。

 

でも、私は違う。

『チアキ』が何をしているか知らないから、何もしない。

 

金は余っていた。

 

__本当に、これでチアキになれているのか?

 

『どんどんチアキから遠ざけてるのは自分なのにね』

 

「……どうぞ。今後もご贔屓に」

「強くしちゃいましたけど、幻聴が強くなったりしませんかね……?」

「ならない。私の薬にそんな副作用はない」

 

薬売りの彼女はきっぱりと断言した。

じゃあ、私の耳元でささやいているのは誰の声だというのか。

 

__きっと、私自身(元宮チアキ)なのだろう。

 

「この薬のせいで幻聴が聞こえてくるんじゃない。この薬を必要とするような状態だから幻聴が聞こえてくる」

「……そう、ですよね」

「できれば、あなたと会うのがこれで最後になることを期待してる。それじゃあ」

 

取引を終え、外に出た。

肌寒さに空を見上げる。

 

夜空には満月が煌々と輝いていた。

 

 

ああ、今日は満月だったのか。

 

……月は、嫌い。

 

『遥か上』から無責任に私を見透しているような気がして。

 

「……えい」

 

私は、薬売りの彼女から買った錠剤を一錠飲み込んだ。

 

この薬が効いている間は、チアキになれる。だから、ずっと飲み続けている。

でも、これもいつか効かなくなってしまう時が来るのかもしれない。

 

その時が来たら?どうなるのだろうか? また、薬を飲めばいいのだろうか? それとも、もう何もできないのだろうか?

 

「ま、チアキはそんなこと考えませんか!」

 

薬の効果で上機嫌になっているチアキは、足取り軽く帰路へと着いた。

 

 

 

「………………」

 

そして、とある廃ビルの中からチアキのことを観察している一人の少女の存在に、チアキが気づくことはできなかった。

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