モンスターハンターかと思ったらHUNTER×HUNTERだった… 作:レイトントン
ネフェルピトーは生後間もなくして『恐怖』という感情を覚えた。
ラモットという下級兵隊が調子づいていたのを諌め、隠れ潜むレアモノから情報を奪い。
兵隊たちを念能力に覚醒させる選別作業を行っていた矢先、ピトーは己の円に触れる者がいることを認知した。
ラモットとは比にならない念の使い手。が、同胞、キメラアントではない。つまりは敵。
迎撃は必須であり、生まれたばかりのピトーが自らの性能を確かめようとすることは必然であった。
泥と糞で建築された巨大な蟻の王宮。その一角から外に出たピトーは、並外れた視力でもってかの人間の姿を捉える。
大腿部を爆発的に膨らませ、溜めた力を一気に解放することで、距離を一瞬で詰め、その男の右腕を容易に刈り取った。
ピトーは二人から目を離した。
それが、ピトーの生まれて初めてのミスだった。
ピトーが視線を逸らした時。怒りと己への不甲斐なさで激昂したゴンを、キルアは全力で殴り気絶させた。
加減はできなかった。過去受けた中で、類を見ないほど凶悪なオーラ。己の兄よりもさらに強大な悪の波動を受けて、キルアの脳内に刺さった針は、全速力でこの場を逃げるよう指示を発している。
「いい判断だキルア。そのままゴンを連れて逃げろ」
カイトは、命を賭して時間を稼ぐ気でいる。
それを理解したキルアは、全力で叫んだ。
「すぐに助けを呼ぶ! それまで……それまで、耐えてくれ、カイト!」
フ、とカイトは笑う。
どんなに頑張っても、助けが来るのには間に合うはずもない。それが気休めであることは分かっていたが、キルアらしくもない言葉に、いよいよ自分の死期が近いのを感じていた。
『
どうにか、少しでも戦闘を長引かせる。二人が逃げ切るまで。
その覚悟で、カイトは勝ち目のない戦いに臨んでいた。
キルアは身を隠せるまでカイトたちから離れると、NGL入国の際に渡された注意事項の記載されたパンフレットの中で白紙の箇所を破り、己の親指を噛んで血を流すと、文字を書き殴った。
ユータの能力、『
報酬については考えを巡らせる余裕はなく、キルアは自らの口座に入金されている全額を渡すこととした。ヨークシンで賭けに負けたりしたせいで500万ちょっとでしかないが、それ以外に思い付かなかったのだ。
狩猟地点はNGL自治区。狩猟対象は、名前が分からないため、猫人型のキメラアントとしか書きようがない。
これで受理されるのか甚だ不安ではあったが、もう賭けるしかない。祈りながら、キルアは手近な岩壁に紙を叩き付け、己の爪を硬化させ、刺し、留める。
すぐに紙は煙と消えた。恐らく、受理されたのだろう。ひとまずの安堵を覚えたキルアは、ケータイでユータに連絡しようとして、気付く。
NGL内は電子機器の持ち込みが禁じられている。当然、ケータイも置いてきてしまった。
こうなれば、もうユータが依頼をすぐに見て実施してもらうのを祈るしかない。
両手を合わせて祈っていたところに、すぐに神は降りた。
気が付けば、キルアの隣には、キルアの知る限り最強の人間が立っていた。
「キルア? 大丈……」
「ユータ、頼む! カイトを……カイトを助けてくれ!」
一も二もなく、キルアは自らが見捨ててしまった男の救いを懇願していた。
それに対してユータは何も問うことなく、キルアの頭に手を乗せた。
「分かった。任せとけ」
大きな掌だった。
その温かい手が自らの頭に乗せられただけで、キルアはどうしようもなく安心感を覚えた。
急いで来てくれたのか防具を身に付けていないため、ユータの表情がよく分かる。優しい表情から一転、彼は真剣な面持ちで、少し目を細めた。恐ろしく静かに、速く、そして恐らくは途方もない距離に。彼の『円』が展開した。
それに触れたキルアは、改めてユータの規格外を認識した。
過去触れた中でもっとも凶悪なオーラを発していた、あの猫人型キメラアントでさえ霞む、圧倒的なまでに巨大な温かいオーラ。
害意がないからこそ、この太陽のような男のオーラを間近で受けてもなんともない。が、もしピトーのような悪意をこの男が持てば、たちまち自分は衰弱死するだろうと、そう確信できてしまう。
「あいつか」
一秒もしないうちに、ユータは獲物を認識した。数百メートルは敵から離れたはずだが、彼の円は少なくともそれほど先までカバーしていることが分かる。
「待ってな、キルア。すぐ終わるから」
円で件のキメラアントに触れただろうに、そう嘯くユータ。その言葉には偽りも誇張もないことが、キルアには分かった。
ユータの姿が消える。
ピトーは、突如己の身に触れた巨大なオーラに驚愕した。
これまで感じたことがないほどのあまりの強大さに、果たしてこれが自らの纏うオーラと同じものであるのか、判断するのに一瞬を要するほどに。
「なんッ……」
まさか目の前の男が?
違う。自らと曲がりなりにも多少はやりあえている、という程度の実力の男が、これだけのオーラを発することができるはずがない。寧ろ、男でさえ驚いている様が見て取れた。
ならば、これは一体?
答えはすぐに現れた。
男はどこからともなく飛んできた。恐らくはピトーと同じように高速で移動してきたのだろうが、その様子を捉えることはできなかった。
彼は目の前の腕を失った男と、一言二言言葉を交わしている。
隙だらけだというのに、攻撃することができない。下手な動きは自らに死をもたらすと、ピトーは直感していた。
やがて、彼がピトーの方を向いた。
片腕の男に向けた視線と違い、こちらには全く親しみのない、獲物を見る目だった。
「人間に近い姿だな。喋れるのか?」
「お前は……何だ?」
思わず、ピトーは問う。
目の前の男が、とても今まで自分たちの種族が狩ってきた『
「モンスターハンターだ。お前を狩りにきた」
それは無慈悲な死刑宣告だった。
ピトーは己のうなじに汗が滲むのを感じていた。
無意識に足が後ろに進もうとするのを感じ、驚愕する。
馬鹿な。自分は女王直属護衛軍、軍団長だ。女王の、王の剣となり、盾となるのが役目。
役目を放り出して逃亡しようとする?
ありえない。
ピトーは自らを恥じた。己が恐怖に囚われそうになったのを無理やり抑えつけ、キメラアントという種の本懐を思い出す。
目の前の、巨大な力の塊を、女王の下に向かわせる訳にはいかない。
少しでも足止めをする。
奇しくも、自らが腕を奪ったカイトと同様の覚悟で、ピトーは勝ち目のない戦いに臨む。
(こいつを一歩たりとも女王に近付けるわけにはいかない。少なくとも、ボクの命がある間には)
女王のため。そして、いずれ産まれる種の王のため。
あの『円』は、恐らく女王の住まう巣にまで届いた。ならば、念を使える者たちは避難の判断を下しているはず。
逃げる時間を僅かでも稼ぐため、この命、ここで使い切る。
ピトーは己の役割を確信した。
ユータの『
種の頂点を守る。
死という生物の根源的な恐怖に勝るほどのキメラアントとしての本能が、ピトーに戦闘を選択させた。
全霊を以て、ピトーは跳んだ。それは、ユータの後ろで見ていたカイトには捉えられないほどの速度であった。只人であれば何が起きたか理解できぬまま、首が飛んでいる。
が、次の瞬間には、ピトーの動きは止まっていた。
「速いな」
ユータは左手で、突き出されたピトーの腕を掴んでいた。
必死に抵抗するも、どれだけ力を込めてもユータの腕はびくともしない。
このままでは、死に等しい攻撃が来る。ピトーは即座に判断して、自らの腕を千切り、後退した。
この程度の接触で、腕一本を支払わされた。
ユータはピトーの腕をぽいと捨てる。
「良い判断だな。なら、動きを止めるか」
ユータの呟きの直後、ピトーの視界ががくりと歪む。
「!?」
痛みはないが、体に凄まじい負荷がかかる。
流れていく景色が一瞬、白色に染まる。そこを突き抜けるとやがてピタリと体が止まり、重力に従って落ち始める。下方には、今自分が突き抜けてきた雲が見える。
(放り投げられた!? 雲の上まで!?)
今度は上から落ちる形で雲を抜けしばし経つと、豆粒のように小さく見えるユータとカイトの姿があった。
ピトーの背筋が凍る。猫の柔軟性で体勢こそ整えられたが、翼のないピトーに落下を防ぐ手段はない。
気が付けば、ユータの右手には、武器が握られていた。
それは鈍器だった。何やら凄まじい生物の骸を使って作られたらしい、巨大なハンマーだった。
それを両手に構え直す。落下してくるピトーにタイミングを合わせて、全力で振るうつもりだろう。
あれを受けたら、間違いなく死ぬ。
(能力、をッ! 生き延びるための力を!)
生み出すしか、道はない。
蟻としての生存本能、特質系というピトーの才覚、そして生まれたてで全く念能力の容量を消費していないという要素が組み合わさり、咄嗟に生み出されたのは、本来ピトーが発現する『
ユータとの接触のぎりぎりに、ピトーの残った腕に、オーラを効率的に放出するための銃のような機構が取り付く。
能力に名を付ける余裕すらないまま、ピトーはあらぬ方向にオーラを射出。反動により自らの体をユータの攻撃範囲から逸らした。
「へぇ」
しかし、ユータの全力で振るわれたハンマーは、攻撃の余波で凄まじい暴風を引き起こす。ピトーの体は容易く吹き飛ばされ、同じく風に煽られ、折れそうになる大木に激突した。
「ガッ、ハアッ!!」
当たってすらいない攻撃でこの威力。
(正面戦闘では勝ち目がない!)
放出系能力を獲得したのは、近接戦を避けようとしたピトーの無意識による結果でもあった。
ピトーが体勢を立て直そうとする間にも、ユータはずんずんと早歩きで近付いてくる。
死神が早歩きで近付いてくるのを拒否するように、手に入れた能力を振るう。ピトーはユータに向けて無数の念弾を放った。
ユータの背後には、腕を失ったカイトがいる。
(片腕の男がいる以上、避けられない!)
ピトーの思惑通り、ユータは避ける素振りを見せない。
想定外だったのは——念弾を受け続けてなお、その歩みの勢いが全く衰えないことだった。
「なッ……」
ほぼ全ての念弾が直撃しているにも関わらず、全く意に介さないまま歩き続けている。
ただただ一定の間隔で足を動かしているのだ。それは、ピトーの念弾が全く効いていないことの証左だった。
「く、そッ……!」
女王のいる巣が視界に入るほど近い以上、退がる選択肢は、ピトーにはない。
故に、歩み寄る死に対し、ピトーは挑むしかなかった。
ピトーはユータの周りを素早く動き回り、翻弄するように動いた。ユータはピトーを速いと称した。それを信じるのであれば、速度が唯一、ピトーに見出すことのできた可能性だった。
しかし。ユータの背後を取り、あるいはカイトを襲い人質にしようと踏み込んだ瞬間、カチリと何かが作動する感触。
ピトーの体に、稲妻に打たれたかのような
「ぐっ……!?」
「
ゆっくりと歩み寄るユータは、今度こそハンマーを両手でしっかりと構える。痺れる体で、ピトーは残った片腕を前方に、どうにか防御姿勢を取る。
だが、それも無意味だった。
ユータのハンマーが振るわれた瞬間、世界から音が無くなり、
ピトーの上半身がこの世から消え去った。
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