モンスターハンターかと思ったらHUNTER×HUNTERだった…   作:レイトントン

54 / 76
第54話

 蟻の王は本来、誕生するのは一月は先のこととなるはずだった。それが早まったのは、ユータの『円』により警戒に当たっていた蟻が全て巣へと帰ってきたこと、その強大さを異口同音に語ったこと。なにより、最強戦力であるネフェルピトーが同じタイミングで狩りに出たきり戻らないこと。

 それらの要因を踏まえ、蟻の女王が決断した結果だった。

 

 種の母としての女王が、王を確実に、万全の状態で産むために作り上げた能力は、己の命を削り、生誕までの成長を助けるという強化系能力だった。

 

 命を差し出す強力な制約。それにより、まずは産まれてくる王に仕える二匹の従者を誕生させた。

 己の得た能力が十全に機能するのかを試すこと、いざ危機が訪れた際に盾にすることが目的であったが、女王の能力はシャウアプフとモントゥトゥユピーを無事に誕生させた。

 

 

 そして、王。

 

 女王の献身により、蟻の王は万全の状態で誕生した。

 女王は王にメルエムと名を与え、そして力尽きる。王は命を賭して自らを産んだ母の死体を喰らった。

 腹が減っていた、からではない。本能が感じ取っていた。自らの命を脅かす存在が近付いていることを。

 

 シャウアプフ、モントゥトゥユピーは王直属護衛軍として、王の意向に反対するはずもなかった。どころかプフは鱗粉による操作能力を用いることで、蟻の巣にいる全ての蟻を王の下に集め、自ら命を差し出させた。

 

 王の能力は、食えば食うほど強くなる。

 

 ピトーの功績が、ここでも如実に現れていた。

 ラモットに指示し、念能力に目覚めさせた者の中には、己の生態と噛み合った能力を発現する者もいた。代表格がメレオロンである。

 彼は己を透明化する能力に加え、『神の不在証明(パーフェクトプラン)』という息を止めている間、他者は己の存在に気付けないという強大な能力を有していた。

 それだけ強力な能力を持っているにも関わらずメレオロンが師団長に収まっていたのは、彼自身の身体能力が兵隊蟻程度のものでしかないからに過ぎない。

 

 では、身体能力が蟻で最も高いメルエムがその能力を有したら?

 それに加えて、最強の外敵を打ち破るため、護衛軍の忠臣二匹をも喰らったら?

 

 その答えは今、最強の狩人の前に現れていた。

 

 

 

 

 ユータは己の体にダメージが蓄積しているのを感じていた。骨は軋み、身体中に鈍痛が走る。

 完全なる意識外からの攻撃。いかに防具を纏っていたとして、メルエムが使っているだろう『硬』はユータの『堅』を突破してくる。

 怪物じみた身体能力とオーラ量のユータをもってしても、攻撃を完全に受け切ることは不可能。

 明らかにユータが不利なこの状況。しかし……より驚愕しているのはメルエムの方だった。

 

(この男、本当に人間……いや、生物か? 余の『硬』で仕留めきれないばかりか、十を越える数を食らってなお立っているとは……)

 

 人間とは思えないほどの生物としてのランクの違い。鎧で防護しているとはいえ、これほど頑強な生き物は、自身をおいて他に見たことがない。

 だが、さすがのユータも肩で息をしている。

 このまま戦いを進めていけば、有利なのは自分だと、メルエムも実感していた。

 

「はーッ。やるなぁメルエム。ここまで一方的にやられるとは思わなかったわ。……本当に強いなぁ、お前」

 

 ぞわ、とメルエムの背筋が凍る。

 殺気がメルエムに叩き付けられる。種の頂点として忠誠の感情のみを捧げられてきた王にとって、それは初めて己に向けられた殺意だった。

 

 無意識のうちに、メルエムは『神の不在証明(パーフェクトプラン)』を発動しながらも、翼で空に退避した。それは紛れもなく、目の前の存在への畏れから来るものであるが、それに気付くことはない。

 

「息を止めている間、敵に認識されない能力か」

 

 独り言のように、ユータは呟く。

 動揺を誘う手だろうが、姿を隠したメルエムはユータの観察眼を高く評価した。能力の詳細としては正確ではないが、現状見せている内容からユータの取捨選択した情報は、彼に必要十分なものであった。

 

「なら、分かってるよな? 俺に一撃もらって、息を止めてる余裕があると思わない方がいい」

 

 メルエムも、それは実感していた。

 ユータの攻撃力は、メルエムのそれを遥かに凌駕している。通常なら、メルエムがわざわざ攻撃を避けることはしない。

 受けた上で倒す。それが王道だからだ。

 

 しかし、ユータの攻撃を前に、そんな余裕はない。あの剣の鋭利さは、自身の体を切り裂くだけの威力があるだろうと理解する。

 

 少なくとも、攻撃を受けて息を止め続けることはできない。

 息の根は止まるかもしれないが。

 

 メルエムは迷う。『硬』で仕留め切れない以上、遠距離攻撃は意味がない。接近した上で攻撃を重ねるのが最も効率的だろう。しかしそれは、反撃を受ける可能性も高まるということ。

 

 しかし、ユータの策は、メルエムの迷いすら無意味と化すものだった。

 

「ゴリ押しでわりーけど……他に攻略法もなさそーだしな」

 

 ユータはぐ、と体に力を込め、それを解放した。

 放出系能力者によくある能力が、念弾の放出。ユータは接近戦を好むため、普段この手の能力を使わない。が、できないわけでもない。それも、一般的な放出系能力者よりも遥かに高いレベルで。

 

 全身から全方向へ。無数の念弾が、ハリネズミの針のように拡散する。

 

「な……」

 

 弾幕の量と速度重視で、威力は抑えた。しかしそれも、ユータの基準での話だ。十分すぎる数と質の念弾が、メルエムの体の至るところに直撃する。

 

「ガハッ!」

 

 結果として、メルエムの肺から空気が吐き出される。

 空気が吐き出される、つまり、呼吸をしてしまう。

 

「そこか」

 

 死神が、敵を『円』で感知する。ユータの姿がブレて、メルエムの視界から消えた。

 直後、双剣の斬撃がメルエムの羽根を斬り飛ばし、更にダメ押しの踵落としでメルエムは地に叩き落とされた。

 

「がっ……!」

 

 さっきまでとは桁違いに、速い。動きも、人間のソレを超越している。空中で軌道を変えるなど。

 どくどくと、割られた頭から血が滴り落ちる。メルエムには初めての感覚である。

 

「はあ……ッ」

 

 メルエムのダメージも甚大だが、ユータも追撃しないまま地に降りる。

 息が整わない上、出血していては『神の不在証明(パーフェクトプラン)』は使えない。能力も発動条件を満たせず、満たしたとしても血で居場所がバレてしまうからだ。

 が、ユータも相当なダメージを負っている上、あれだけのオーラの放出。威力、量ともに凄まじく、故にユータの消耗は相当なものだと分析する。

 まだ、僅かに自分が有利。メルエムはそう()()していた。

 

 気が付けば、ユータの隣には大きな箱が出現している。

 

「念能力か」

「アイテムBOXって言ってな。中からアイテムを取り出せる」

 

 簡潔な説明のあと、ユータは何やら緑色の液体がなみなみと入った小瓶を取り出した。そして、鎧の上からだというのに器用に飲み下した。

 

「ぷはっ!」

「なに……!?」

 

 メルエムは目を凝らすまでもなく、現状を把握した。

 明らかに、ユータの体力が戻っている。

 

「なんだ、その液体は」

「回復薬グレートだ。ケガやダメージを回復する薬だな」

「馬鹿な……」

 

 王はまたも驚愕する。

 

(傷やダメージをほぼ一瞬で回復する薬だと? 恐らく途轍もない副作用があるはず……それだけの覚悟ということか)

 

 もしやこれも念能力で作られたものか、とアタリを付ける。事実は異なっているが、メルエムにとってはどちらにせよ変わらない。

 状況が、一気にメルエムの絶対的不利に傾いた。




閲覧・お気に入り・感想・評価・ここすき・誤字報告していただいた皆さん、ありがとうございます。

回復薬グレートはハチミツが混じってるから甘そう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。