モンスターハンターかと思ったらHUNTER×HUNTERだった…   作:レイトントン

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第55話

 ダメージを与えても回復される以上、長期戦は無謀。短期決戦しかない。

 メルエムは蟻の王として配下たちより徴収した能力を使用し、ユータの命を奪おうと試みる。

 

 ユータを倒すため、メルエムがまず考えたのは蟻の神経毒だ。

 

(あの鎧の上からでは、尾の針も歯も通るまい。直接毒液を浴びせるしかないか)

 

 液体ならば、鎧の隙間から内側に届こう。

 メルエムはフットワークでユータを翻弄する。フェイントで攻撃を誘導し、ユータが剣を振ったのを躱した直後、尻尾の先端から毒液を放つ。それはユータの体に直撃した。

 

 よし、とメルエムは内心で成果に満足する。

 蟻の神経毒は、常人なら体が痺れ動けなくなる。これで少しは動きも鈍くなるだろう、と考えた。

 しかし、ユータの動きは衰えない。双剣の煌めきがメルエムを襲う。

 

「ぐうっ!」

 

 なんとか退避する。この男、毒の類が効かないのか? と訝しむ。

 が、メルエムが下がった隙に、ユータは再びアイテムBOXから薬を取り出し飲み干した。

 

「わりーな、解毒させてもらった」

「なんだと……」

 

 一体、いつどこで蟻の神経毒の解毒薬など手に入れたのか。万能の解毒薬などとはつゆ程も思わないメルエムは、次なる策を講じる。

 

 配下の能力である蜘蛛の糸を飛ばし、念で強化された粘着力で動きを封じる。

 この能力の元の持ち主、パイクは兵隊長クラスでありながら、ビホーンという師団長の中でも随一の怪力ですら引きちぎれぬ糸を有していた。

 メルエムにより更に強化された糸が、ユータの体を覆う。

 

 動きを封じたのだ。好機だと考えるのが普通だが、メルエムは無闇に突っ込むことをしなかった。それは全くの正解であり、ユータはブチブチと糸を引きちぎりながら前進してくる。

 

(しかし、僅かばかり動きは遅くなるようだな)

 

 ようやっと有効そうな手が見つかった、とメルエムは糸を連射し、ユータの動きを少しでも阻害しようとする。

 そして、十分な量の糸が絡まったと見るや、ユータの首を刈らんと高速で接近する。もちろん、次善の策を備えた上でだ。

 

 このまま、殺れる——そう思ったのも束の間。

 ユータが取り出した薬を使用すると、同時にユータに絡まっていた糸を一本すら残さず吹き飛ばした。

 

「なんだと……!」

「消散剤だ」

 

 ユータの剣戟がメルエムを襲う。しかし、メルエムの体は細かい粒子となり、剣がすり抜けた。

 

 忠臣プフの能力『蝿の王(ベルゼブブ)』。体を、本体を除いて細かい粒子に分けることで攻撃を避けることができる。

 剣や拳で、この能力を攻略することはできない。相手によっては完封することさえできる能力だ。

 

「なるほど、物理無効っぽいな」

 

 が、敵は無数の手札を持つ狩人。

 呟いた直後、ユータは双剣から盾と槍に持ち替えた。

 

(槍だと? 物理攻撃が効かないと知った上で?)

 

 疑問に思うメルエムだったが、その答えはすぐに思い知らされた。

 

 槍の先が、メルエムの体に向けられる。

 本能的に恐怖を覚えたメルエムは、効かないはずの攻撃を咄嗟に避ける。

 しかして、その判断は正解だった。

 

 爆音。

 

 槍の先から放たれた爆撃が、周囲の音を奪い去る。

 細胞を細かい粒子にしていたメルエムはその全てまでは避けきれず、本体こそ無傷なものの、体の一部は焼け死んだ。

 

「く……!」

 

 なんとか体を再構成する。一回り小さくなったメルエムは、しかしまだ手を残していた。

 

 部下の師団長、ザザンが有していた『審美的転生注射(クイーンショット)』を改め『従者ノ選定(キングスショット)』なる、尻尾を突き刺し注射のようにオーラを注入することで対象を王の配下へと変質させる力。

 

 毒液と違い直接刺さなければならないこの能力。隙を突けるのは一度きりと判断したメルエムは、ユピーの肉体変化を駆使して尻尾のリーチを伸ばした。

 今まで隠していた、リーチの伸縮。それも、プフの能力で体が縮んだ直後の行為。ユータも不意を突かれる。

 その上で、鎧同士の隙間、関節部分……特に効果が期待できそうな首の部分に、全霊の『硬』で以って針を突き立てた。

 

「チッ!」

 

 不意を突いたとはいえ、正面からの攻撃。オーラの攻防力移動により、威力は大きく殺される。それでも、僅かながら針が突き刺さる手応え。

 針さえ刺されば十分。甚だ不本意ではあるが、この最強の死神を王として自らの配下へと変えるべく、オーラを注ぎ込もうとする。しかし。

 

 ギュン、とユータの首の筋肉より異音が発せられる。

 

「なッ……」

 

 オーラを注ぎ込むどころか、ユータのオーラが逆流し、メルエムの尻尾を破壊した。

 

「ぐおおおおッ!!」

 

 メルエムはたまらず退避する。

 一方、首に一撃貰ったユータだったが、筋肉の収縮により出血さえ治まっている。

 

 メルエムは、信じられないものを見る目でユータを見る。

 あらゆる手管が通じない。

 

「く、ククク……貴様、一体何なら通用するのだ」

「ハンターだからな。毒やら何やらの対策は万全だぜ」

 

 そんな次元ではないだろう、と思いつつ、メルエムは余計な考えを振り払う。

 小細工が通じない以上、できることは一つしかない。覚悟を決め、メルエムは荒い息のまま構えを取った。

 

 メルエムの覚悟を感じ取り、ユータもガンランスから双剣に変えた上で構え直し、そして『神の不在証明(パーフェクトプラン)』の使用を封じるため、すぐさま仕掛ける。

 

 死を運ぶ剣の動きを、メルエムは正確にその目で捉える。剣を持つユータの手を正確に狙い、手の甲でパーリングすることで軌道を逸らした。

 

 生まれてから最も深い集中。体のオーラを目に集中し、『凝』の状態が出来上がる。それも『隠』を見破る目的ではなく、単純に見ることにのみ没頭した結果のことであった。

 しかし、効果は覿面。格段に向上した動体視力はユータの動きをなんとか捉え、かつ的確な体捌きでユータの双剣による斬撃を、全ていなして魅せた。

 

「ッ、すげぇ!」

 

 感嘆するユータ。メルエムにも笑みが漏れる。

 種の頂点としては受け入れられないはずの()()を、メルエムは受け止めていた。受け止めてしまった。

 

 故に、愉しい戦いも、終わりを迎える。

 

「俺もテンション上がってきた。付いてきてくれるよな」

「行けるところまで行こうではないか。そなたの剣を捌ける者など、余をおいて他に居るまい」

「確かにな」

 

 ユータの剣を捌けるだけの技量を持つ人型の生物など、今後現れまい。

 ユータもそれはよくよく理解していた。だから、メルエムとの刻を噛み締めるように、全力で。

 

「楽しかったぜ、メルエム。生まれ変わったらまた勝負しに来いよ。お前ならいつでも歓迎だ」

「勝ち誇るのはまだ早い。余を殺し、その屍の上で吼えるが良い」

 

 笑い合い、二名の姿が消える。

 直後、夜空に無数の拳と剣が交錯し合う。

 星の瞬きのように輝く火花は、最早数えることは能わない。

 しかし、やがてそれも終わりを迎える。

 

 いつの間にか、二人はすれ違ったかのようにお互いを背後において硬直していた。

 そして、メルエムが崩れ落ち、ユータが残心を解く。

 振り返り、メルエムを見る。

 あれほど激しい戦いの後だというのに、その顔はひどく穏やかだった。




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ハンターのアイテムってもしかしてズル?
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