モンスターハンターかと思ったらHUNTER×HUNTERだった… 作:レイトントン
オーラが見える者にとって、その光景は異常だった。
「ベンジャミン殿! あれはもしやユータ氏の……」
「うむ……警戒にあたると言っていたが、まさか巨大な『円』とはな……」
ブラックホエール号を覆うように現れた、自らと比較するのも馬鹿馬鹿しい巨大な『円』。
円に触れれば、念能力者であれば相手の力量もある程度は把握できるものだが、その必要すらない。
見ただけで分かる、圧倒的なまでの質と量。
人間の放つオーラとは考えられない。
「彼を神と呼ぶ者がいるのも頷けよう」
「……味方でいる内は頼もしい限りですな」
今はハンター協会とカキンは友好的な関係を築けているが、もし罷り間違ってアレと敵対することになったら……考えただけで、ベンジャミンの腹心であるバルサミルコは鳥肌を立てる。
彼の経験上、オーラの多寡で戦闘の結果は決まらない。正面戦闘で勝ち目がないなら、不意打ちや暗殺といった手管もあるだろう。
もしベンジャミンを脅かすようなことがあれば、靴に仕込んだ細菌兵器の使用も厭わない。
しかし、それすら通用しないのではないかと思わせる、空を覆うオーラの輝きはどうだ。
(敵対を避ける。それが取るべき道に思えてならぬ……そして恐らくその直感は正しい……!)
あの力が無造作に振るわれれば、なす術なく船は沈むだろう。
カキン国王であるナスビー=ホイコーロも、ユータの乗る船内で継承戦を行うのはリスクが高過ぎると判断したのか、継承戦の延期を各王子に通達した。
『壺中卵の儀』にはカキンの国宝が複数使用されておりルールには不可侵となっている。が、もしユータが誰かしらの王子に協力し、儀式中に船外に連れ出すようなことがあれば、いかに国宝の持つチカラとて、ユータの守護を掻い潜り王子を害することは難しいだろう。
脱出による継承者候補の離脱が発生した場合、『壺中卵の儀』が失敗に終わるばかりか、国宝の力が失われる可能性すらある。
(ならば、今無理に船内で継承戦を行う理由もないでホイな。暗黒大陸に着いた後でも、いくらでも機会は設けられるでホイ)
カキンという大国の国王にまで登り詰めた傑物であるナスビー=ホイコーロは、極めて冷静な判断の下、継承戦の開始を見送った。
これには下位王子や(殺し合いだと知らずに)継承戦そのものは了承しつつも、得心のいっていなかったハルケンブルグ第九王子は胸を撫で下ろした。
一方、王子の中には納得しない者もいる。
世界が己の思い通りになると考えて憚らないカミーラ第二王子と、念を使えず、また継承戦の直前にはベンジャミンからの電話に宣戦布告を返したツェリードニヒ第四王子だ。
「どうして!? ようやく鬱陶しい兄弟たちが皆死んでくれると思ったのに!」
ナスビー=ホイコーロは王子たちに、継承戦の延期に関して理由を伝えなかった。伝えようが伝えまいが、不満は出るだろうと踏んでいたからだ。
だから、カミーラとツェリードニヒに理由を問われようとも、答えは変わらない。
「国王としての判断だホイ。お前たちに口を挟む権利はないホイよ」
そう父たる国王に伝えられようが、次期国王は自分だと信じて疑わない王子たちは苛立ちを抑えきれない。
(何故父は急に意見を翻した……? 直前にあった出来事で目立ったことといえば、出航直前のセレモニーか、ちょっと前に話題になったハンター、ユータのパフォーマンスくらいのはず……)
「テータ、さっきのハンターを呼び出せ! 理由は任せる」
「……かしこまりました」
苛立ちから、ちゃん付けをしないままテータに命令を投げるツェリードニヒは、彼女の自分を見る目が厳しいことに気付かなかった。
テータは以前より、ツェリードニヒの天才性と、何よりその残忍さを危険視していた。
恐らく、彼が念を覚えたら惨事が起きる。そんな予感の下、テータはこれまで極力ツェリードニヒが念に関わる機会がないよう立ち回ってきた。
そのタイミングでの、ユータとの接触。
危険だ、とテータは感じていた。
ユータの、念能力を明るみに出すのを厭わない姿勢は、念を秘匿しようとするハンターとしては考えられないもの。
幸い、ツェリードニヒはユータの会見での言葉を比喩だと思っており(テータがそのように誘導した)、それが念という超能力のようなものによる瞬間移動だとは思っていなかった。
しかし、折角ハンターと接触するような機会を絶ってきたというのに、まさかここでツェリードニヒの方から呼び出すことになるとは。
(どうする? ツェリードニヒ王子が呼び出している以上、会わせない選択肢はない。第四王子による召喚となれば、ハンター協会の会長といえど素直に応じるはず。念のことを口止め……何を交渉材料に?)
考えが纏まらないまま、テータは遊戯室で友人らしき男たちとギャンブルに興じるユータのところへ足を運んだ。
「だー、ヒソカ強すぎだろ!」
「イカサマしてんじゃねぇだろうな?」
「ふふ、ボディチェックでもしてみるかい♠︎」
どうやら、最強のハンターも賭け事には弱いらしい。
「お楽しみのところ失礼いたします」
「どちら様ですか?」
ユータを庇うように、男女二人がテータを遮る。方や金髪で童顔の男。方や胸元を大きく開けた鷲鼻の女。
「ツェリードニヒ第四王子の私設兵、テータと申します。実は王子が先ほどのハントに感銘を受け、是非居住エリアにお呼びしたいと」
「ユータ様はお忙しい」
「いやいや! 忙しくねーから、遊んでるだけだから! テータちゃんだっけ? ありがとね、行く行く」
ユータは部下二人、黒髪の青年と大柄な野生味溢れる男を引き連れ、テータに追従する。
「第四王子、ツェリードニヒ殿だったよね。モンスターの狩りに興味があるとは知らなかった」
「……それだけ、ユータ様の弓の腕前が素晴らしかったということです」
煽てるための言葉ではあったが、それはテータとしても本心だった。
弓であれだけ離れたモンスターを狙い撃てる上、その威力はモンスターの命を一撃で奪うほど。
カキンほどの大国にもあれほどの威力、精度の遠距離攻撃ができる使い手はいない。
「そう? ありがとね」
ユータは、振り返ったテータの目を真っ直ぐに見て言った。賞賛の言葉が、テータの心の底からの言葉であると見抜いているかのような錯覚を覚える。
テータは思わず目を逸らした。
結局、念のことについて言及できないまま、ユータをツェリードニヒの居住区へと連れてきてしまった。扉を一枚隔てた先には、ツェリードニヒがいる。
「二人は外で待ってて」
ボディガードにそう言い残し、いやオレたちも入ります、など反論を受けつつも、結局ユータは一人でツェリードニヒの部屋に入った。
ユータに続いて王子の待つ部屋に入りながら、テータは祈る。ツェリードニヒが念を覚える事などあってはならない、と。
結果として言えば彼女の期待は裏切られ、ツェリードニヒは念の存在を知ることになるのだが、同時に彼女の懸念するようなこともまた起こらなかった。
ツェリードニヒは後に語る。
神を見たと。
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テータとユータ、名前紛らわしい