「ここか……」
ワンは目的地に着いて、建物を見上げる。
聖ジュリアナ女学院。この国屈指のお嬢様たちが集まる学び舎だ。ワンはここの潜入任務を命じられたのである。ガサッと、手に持つリストを確認するワン。
「まずはこの娘からか……」
ワンが見ているリストの名前には、
高飛 車瑚 (たかとび しゃこ) 髪型はピンクロング。キラキラに装飾されたデコ団扇とデコ扇子が握られている。とあった。
「なんだこの娘は」
言わないであげて。
「デコピンしたくなるな」
そうですか。
「デコぽん投げつけたくなる」
…………。
「デコボコジャガイモ」
もう分かったって! 進めますよ! ワンさん!
気を取り直してワンは、潜入の準備をする。
その際ワンは上官のサウザンドに言われたことを反芻した。
《いいかいワンちゃん。今回の相手はジーマーで危険なの。他の構成員もフルボッコにされちゃってんだから!》
それほど厄介で強い相手なのか。
《見た目はすんごく可愛いお嬢様達なんだけどこれがまたやべーーのなんのって!》
小娘に? 大の大人が? 前例がないな。
《そのお嬢様達はね、み~んな異能力を使うんだよ!》
何、だと……? ワンは絶句した。
《驚いた? ワンちゃん? だよね~~。何しろ……》
ワンは、腕を組んで考え込んだ。
《ワンちゃんと同じ異能力者だなんてね!》
まさか、とワンは思った。自分以外に異能力者がいるとはな……。あれは禁忌といってもいい力。それをよりにもよって世間知らずと言われているお嬢様達が?
《だからワンちゃん。世界を守るためにお嬢様達のいる学校に潜入して異能力のお嬢様達を探り、圧倒してこい!》
中々無茶を言っているが……確かにこの件はワンが適任だろう。何せ彼は……この国きっての異能力者スパイなのだから。
ワンは学院内を縦横無尽に駆け回る。常人には目に追えないスピードで柱の陰に忍び込んだ。さっとスマホで学院内のマップを開く。
「このルートを使うか」
ワンは風を置いてけぼりにするくらいの俊敏さで動く。すると――
「おーーーーーーほっほっほ!」
いた。ターゲット確認。ご学友だろうか、3人横に並ぶ中、真ん中に位置して高らかに声を上げるお嬢様。
「高飛車瑚……」
車瑚は、デコ団扇とデコ扇子をババッ! と口元に引き寄せる。
「私にかかれば、空を飛ぶことなど余裕のよっちゃんなのですわ~~!」
「さすがですわ~~!」
右隣にいるお嬢様がウンウンと頷く。
「私にかかれば、あのような輩などけちょんけちょんなのですわ~~!」
「一網打尽でしたわ~~!」
左隣にいるお嬢様がキラキラと目を輝かせる。
一網打尽だと? ワンは末恐ろしいと思った。これは早急に対処する必要がある。しかし……。
「高飛様。本日の授業は小テストがございますのよ」「おーーほっほっほ! 造作もないですわ~~!」
「高飛様。ここの近くに新しいスイーツのお店がございますわ~~」
「おーーほっほっほ! お目が高くてよろしくてよ。
早速チェックですわ~~!」
お嬢様たちはスマホ操作したり、あちこち指差したりしてきゃぴきゃぴしている。いい光景だ。
「…………」
そんなお嬢様たちの様子を冷静に観察するワン。
やがてポツリと一言零す。
「隙がないな」
ワンは戦慄していた。こんな経験は久方ぶりだった。
ワンの作戦としてはターゲットに気付かれずに接近して、異能力だけを回収して、何事もなくその場を後にするつもりだったが……。
「何だ……この、凄まじい程の索敵スキルは」
面白い。ニヤリと小さく、ワンは笑った。
「ならば、正面突破するまでだ」
シンプルでいい。ワンは、そのままお嬢様たちの尾行を続けた。
高飛車瑚ちゃん登場です。お嬢様とは? という感じですね。次回はスパイとお嬢様バトります。