俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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戦闘描写は難しい。


第9話 ツンデレとツインテール

変身した光太郎はレイチェルが送ってくれた座標データに従い、目的地まで最短ルートで突っ走っていた。道を走り、時には壁を登り、時には建物と建物の間を飛び越える。さながらアクションスターのように街を駆けていると、周りから色々な声が聞こえてくる。

「おい、あれ!」

「ネットの女の子じゃないか!?」

だがそれに答えている余裕もかまっている時間もない。ビルのフェンスに足を乗せ、そのまま一気にジャンプして、隣のビルへと飛び越える。そしてジャンプで得た勢いを殺さないように猛然と走り出す。

あと少しで戦いは始まる。アルティメギルが今度は何を奪おうとしているのかはまだ分からない。ツインテールかブルマかあるいはそれ以外の属性力なのか。けれど、自分が戦わなければ、誰かの属性力が奪われる。それだけは間違いない。そして、それを止める力が俺にあるのならば、俺はそれを止めなければならない。例えそれが世迷言を叫ぶ変態集団で、ひどくスケールの小さい侵略行為であってもだ。

とん、と軽い足取りで民家の屋根に着地すると、目的地までいよいよ数百メートルになる。最後に座標を確認して目的地まで一気に行こうとするが、示した場所と目の前の光景にん? と疑問に思った。

(え、小学校…?)

間違えたか? と座標を確認するが、目的地は目の前の小学校をしっかりと示している。瞬きをしても凝視してみても同じだった。座標はそこを、『私立陽月学園初等部』を示していた。

「…」

猛烈に嫌な予感がし、ぞわぞわと背中に悪寒が走り始める。

昨日と今日、アルティメギルの行動や目的を知っている身としては、彼らが戦いの舞台を小学校に決めた時点で何かしらの邪な目的があるのだろうと疑いをかけざるを得ない。ツインテールやブルマの属性力があるのならば、他にも属性力は無数に存在すると考えたほうがいい。レイチェルは、年齢や職業、人の意志や好みでありとあらゆる属性力は存在すると説明してくれた。小学校とは必然的に小学生がいる場所。わざわざそこを選んだ理由は、求める属性力がそこに集中しているからだろう。

小学生が持っていそうな属性力といえば…ランドセル、スク水? まさかロリコン属性とか言うんじゃないだろうな…。

もしそうだとしたら、俺が戦うよりもおまわりさんを呼んで対処してもらった方がいいと思うのだが。多分、一発で牢屋にぶち込めるほどの変態集団だからさ、あいつら。…仮に警察が彼らを牢屋に入れられればの話なんだけど。

「よし…!」

そう呟いて、拳を握った。ここで大人しくいても、しょうがない。とりあえず行く。いなかったら帰るし、いたら戦う。それしかあるまい。

行くか。そう決心し、光太郎は屋根の上を駆けだした。

 

 

 

 

 

 

私立陽月学園初等部の校庭。この時間帯はほとんどの生徒が授業を既に終え、放課後を迎えていた。校庭で遊ぶもの、校舎に残るもの…さまざまな生徒で溢れる場所だが、ここにいつもの光景とは違う、一人の怪人が混じっていた。

「さあ、おとなしくしていろ!」

女子小学生を脅し、次々と捕えていく怪人。身長は2メートル前後、爪や牙はそれほど発達していないが、そのかわりに体中に鋭い針を生やしている。

その怪人の名はヘッジギルディ。ハリネズミのような姿をしている怪人であり、ここに来たのも彼が持つ属性力がここに集中しているからだった。

「近寄らないで!」

「キャー、変態!」

ヘッジギルディはアルティロイドに囲まれ、怯える女子小学生にすっかり気をよくしていた。

やはり子供はいい。とりわけ、思春期を迎えたばかりの子供は、なお良い。まだ熟しておらず、青い果実のような年代の少女がヘッジギルディはたまらないほど好きだった。

何が好きなのだ? と同僚のタトルギルディに聞かれたことがある。熟していないなら、中学生や高校生もそうだし、何故貴様はそこまでこだわるのか?と。タトルギルディは体操服(ブルマ)が一番似合うのはその年代であるといつも語っている。程よい肉付きや大人っぽさ。確かにそれらは劣る要素だ。だが、小学生はそれらにも勝る要素があるのをタトルギルディは知らないのだ。

よく間違われるのだが、ヘッジギルディは決してロリコンではない。子供は確かに好きだが、性的な意味での好きではないのだ。だが、世間は子供好きというだけでロリコンのレッテルを貼る連中は多く存在するし、ヘッジギルディもまたそういった被害に合うことも多かった。自分は人を襲う立場ではあるし、聖人だというつもりはないが、ヘッジギルディは自分にそういう趣味は一切ない、ということだけは断言できる。

あいつらには分からないのだろうな。なんというのだろうか…青い果実が甘酸っぱいのと同じように、彼女らには彼女ら特有の甘酸っぱさがそこにはあって…。

「待てぇ!」

だが、ヘッジギルディの物思いは後ろから聞こえた声に途切れることになった。

「誰だ!?」

そう言い放ち、振り返る。その力強い声。まさかテイルレッドか? だがそこにいたのはテイルレッドではなかった。

幼いテイルレッドをそのまま成長させたような外見、大きすぎず、かつ小さすぎてもいない適切で美しいスタイル、アーマーにはファイヤーシンボルのペイント、そして鮮やかな焔色のツインテール。可愛さよりも凛々しさという言葉が似合う少女。

「ほう…来たか、名無しの戦士よ!」

そこにいたのは後に、「テイルレッドの姉妹派」と「テイルレッドの親子派」の終わりなき争いを繰り広げる原因になる少女…もとい変身した光太郎の姿だった。…どうでもいい話である。

 

 

 

 

 

 

「名無し…?」

怪人と対峙したと思えばいきなりそんなことを言われて戸惑う俺。

「そうだ、お前のことだ!」

そう言って怪人はビシッと光太郎に指を刺す。

「リザドギルディを殴り飛ばしたその拳、見事なツインテールに、テイルレッドに似た姿! お前以外に誰がいる!?」

ああ、やっぱりアルティメギルにも目をつけられているのね、俺。

「…」

「何だ、黙ったままか。テイルレッドと違って随分無愛想なんだな」

悪かったな、こっちはこれからのことで頭がいっぱいなんだ。カメラ対策とか、お前らの対策とか。

「俺の名前はヘッジギルディ! お前の名は何だ!?」

「…名前?」

「そうだ、俺たちアルティメギルには双方の名前を言ってから戦いを始めるという鉄の掟がある。で、お前の名前は何だ?」

俺ははたと困ってしまう。確かに俺の名前は丹羽光太郎というけれど、まさかここで本名を言う訳にもいかない。

俺によく似たあの子はテイルレッドと名乗っていた。普通、戦隊ヒーローとかだと、ブルーとかイエローなど色の名前の付けるのがお決まりの法則であり、あの子もそれに従ったのだろう。となると、俺が名乗るべきは必然的に「テイル○○」という名前になり、○○の中に似合う名前を入れる必要がある。

でも俺のメインカラーのレッドはもうあの子が使っているし、同じ名前を言うのは流石に駄目だ。どうする、何て名乗ればいい?

「どうした? さっさと名乗れ!」

ヘッジギルディが早くしろと言わんばかりに貧乏ゆすりをし、苛立ち始めている。分かっているよ、こっちだって名乗りたければすぐに名乗っているんだから。

うーん、ゴロがいい名前は何だ? テイルドラゴン、テイルサンシャイン、テイルナックル…法則に当てはめないとなるとアナザーレッド、とかか? 駄目だ、いい名前が出てこない。

「…ちょっと待って、タイムだ。レ…マネージャーと相談するから、少し時間をくれ」

俺は両手で×のマークを作って、怪人に交渉にタイムを申し込んだ。通信でレイチェルと相談して、今すぐ名前を決めなくては。

「相談? 何故だ、名乗るくらいすぐに出来るだろう」

「こっちにも色々事情があるんだよ。それにそっちだって俺がしっかりと名乗った上で戦う方がいいだろ? 雰囲気的にもさ」

「…む、確かにな。お前の名乗りを受けたうえでの初戦、シチュエーションは非常に大事だ。戦う身としては、この問題ははっきりしておいた方がいいだろう。分かった、相談とやらを認めてやる」

納得しちゃったよ、こいつ。駄目元で言ったのに、まさかの承諾を貰ってしまった。ヘッジギルディは指を3本掲げ、俺に突き出す。

「3分待つ。だが、それ以降を過ぎれば女子たちを襲うぞ、いいな?」

「ありがとう、でも逃げはしないから安心していてくれよ」

そう言って、俺は近場の木陰に引っ込むと、レイチェルに通信を送る。

『名前ぇ!? そんなもの適当に言っちゃいなさいよ。レッドだって即興で決めたんでしょ?』

一部始終を話すと、レイチェルはすっとんきょんな声を出した。こんなことで通信を貰うとは思ってもみなかったらしい。

「色が被っているんだぞ? 色がレッドと違うならすぐに出たけど、同じ赤色だから困っているんだよ」

『うーん…そうね』

「名前って、一回言ったら引っ込みが聞かなくなるんだからな。お前だって怪人と戦う俺が変な名前で呼ばれたら、嫌だろ?」

『そりゃそうよ。へんてこな名前で呼ばれちゃたまったもんじゃないわ』

巷では一目では読めない名前や暴走族の当て字のような名前が流行っているが、流石に俺はあのような名前で呼ばれながら戦っていく自信がない。万が一、そんな名前がお茶の間で流れたら、俺は多分、二度と戦えなくなるほど、心に傷を負う羽目になる。

それからあーでもないこーでもないと意見を交換し合い、3分の制限時間内ギリギリにようやく決まった。

「…て、いうのはどう?」

「うん。ゴロもいいし、被っていない。決まりだな」

急いで木陰から飛び出した。決まったぞ、もう戦えるぞと言いながら、ヘッジギルディにアピールしながら、戻る。

「ほう、そうか。では改めて聞く! 貴様の名前は何だ!!」

まるで3分前の事はなかったかのような感じで仕切り直しになる。

「俺の名前は…テイルファイヤーだ!」

そう、二人のレッドがいるのならば、俺はもう一人のレッドになればいい。だが、そのまま使うのでは駄目だ。だから、俺はこのアーマーに刻まれたファイヤーシンボルの名前からもじって、こう名づけた。炎のツインテール戦士、テイルファイヤーと。

「ほう…確かに聞いたぞ、その名を! では、炎の名を持つ戦士よ、いざ尋常に!」

ヘッジギルディはぐぐっと身を構え、戦いの体勢に入る。俺もファイティングポーズを取り、戦いの開始を待つ。

「…勝負!」

ヘッジギルディの声で、俺にとって、初めての孤独な戦いのゴングは鳴った。

 

 

 

 

 

 

先に飛び出したのはテイルファイヤーだった。拳を握りしめ、昨日の時と同じように、全速力で踏み込んでからの一撃をくらわせようとする。

そして、あと一歩のところで射程圏内に入ろうとしたその時、突然、何かが鋭い警告を発した。今、踏み込んではまずい…!

無理矢理足を突き出して、とっさに飛び退らせた。直後、ヒュン! と踏み込もうとした場所に何かが突き刺さった。

「よくぞかわした」

俺は地面に突き刺さった何かを見て、驚いた。そこに突き刺さっていたのは、10センチばかりある鋭い針だった。きわめて鋭利なそれは半分以上が地面にめり込み、ヘッジギルディがかなりの速さで射出させたのかが伺える。もし当っていたら、なんてあまり考えたくない。いくらこのギアに守られているからって、不用心でいたら危ない。

「次からは迂闊に飛び込まない方がいいぞ? 串刺しになりたくないならな」

「…そりゃどうも」

随分と紳士的だ。余裕があるのか、それとも舐めているのか。…多分、両方当てはまるんだろうな。

(くそ…)

遠距離攻撃、奴がどれほど針を飛ばせるのかは分からないが、これで迂闊に飛び込めなくなった。

ゆったりとヘッジギルディの周りを歩きながら、出方を伺う。その間にギアの情報を読み取る。何か遠距離から攻撃できる手段はないのか? このままだとなぶり殺しだ。

「来ないのか? では、俺から行かせてもらうぞ」

しらびを切らしたヘッジギルディが両腕の穴から針を出し、メリケンサックの要領で腕がトゲトゲにし、拳を振りかぶってきた。

「いいっ!?」

慌てて横に跳んで回避するが、拳がめり込んだ場所には針でできた穴がいくつもできていた。まいった、あいつ、針を射出するだけじゃなくて、出すだけ出して留まらせておくことも可能なのか。

「驚いたような顔をしているな。そう、これが俺の属性力…尖照(ツンデレ)属性だ!」

「ツン、デレ…?」

ツンデレというのは、所謂性格を表す単語の一つだ。普段は「ツンツン」して取っ付きにくい感じを出しているが、特定の条件下になると「デレッ」とするような性格のことを示している。あまのじゃく、とでも言えばいいのだろうか? つまりは中々素直になれない性格のことだ。

「そう、ツンデレという属性力は思春期の目覚めと共に目覚める物だ。そもそもこれの生まれるきっかけとなる『恋』や『異性の違い』という感情も思春期辺りから生まれるものだからな」

ヘッジギルディはブロードウェイのように歩きながら、何やら演説を始めた。

「だが、この辺りの齢になってくると、素直に自分の思いを伝えるのが難しくなってくるものだ。『やーい、あいつ○○と話しているぞ』とか『あの子、○○君と話しているわ』とか周りの声を気にしがちになる。その結果、素直になれなかったり意地を張ったりする女子が増える訳だ」

…こいつ、小学校の校庭で拳を握りしめて、何を熱く話しているんだ。

「だがな、俺はその感情の狭間で悶えたり、初々しい反応をする女子がたまらなく好きだ! 俺の同僚は『小学生は青い果実』だと言っていたが…その青い果実が俺は好きだ! 思春期を迎えて、初めての感情に戸惑ったりする幼子の姿が…たまらんっ!!!」

…こいつもやっぱり、変態だった。それにしてもツンデレ属性か。なるほどね、ツンが針を示しているのか。

「そしてだな…この属性力はお前と非常に相性がいいのだ」

何? 思わず、眉をひそめる。

「…ふ、何を、という顔だな。ツンデレに対して、ある偉人は言った。ツンデレとはツンとした鎧で固めているが、中身はデレッと柔らかい気持ちでできていると」

「何が言いたい!!」

俺はヘッジギルディの腹部を、まだ針を出していない部分を全力で殴った。完全に不意を突いた一撃であったそれは、ヘッジギルディをのけ反らしたが、ケロリとした顔で踏みとどまる。俺はその光景に愕然とした。

「俺は属性力…尖照(ツンデレ)属性を持つ怪人。ツンデレを一途に愛し、己を高めた。そして鍛錬を積み重ね、それを高めた結果…俺はツンデレの如き体を得た! 外はツンとした固き鎧に、中身はデレッとした柔らかな体になったのだ! それすなわち…打撃系の攻撃は俺には効かんことを意味する!!」

打撃を受けつけない強固な鎧のごとき外側、その衝撃を受け止める柔らかい身体。この2つを習得したヘッジギルディは驚異的な防御力を得ることに成功した。あらゆる攻撃を弾く防御。少なくとも、打撃技でこの防御を破った者は未だかつて存在しない。それ程までに強力な守りを、ヘッジギルディは持っているのだ。まさにツンデレという言葉を具現化したような存在なのだ。

「更に悪い知らせがあってな、俺の繰り出せる針は、単発ではない!」

「―っ!!」

ファイヤーは己が逃れられない状況に陥ったことに気づき、その場を離脱せんとするもそれを見通していたかのようにヘッジギルディは凄まじい速度で、いくつもの針を射出する。

あの威力の針を、しかも連射できるって!?

「畜生、正々堂々戦え!」

「ふん、何を今更! これが俺の戦いだ! ツンデレは気を許さない相手にはツンツンするものだ!」

ヒュンヒュンヒュンヒュン!

いくつもの針の嵐が、逃げ惑うファイヤーの体を襲う。目にも追えない驚異的なスピードでそれを避けるが、何発かは避けきれずに体を襲い、フォトンアブゾーバーがその威力を殺しきるのを感じとる。

だが、それも何時までもつか。全身を包んでいる防護膜、フォトンアブゾーバーは決して無限に発生できるわけではない。このままジリ貧のまま攻撃を受け続けたら、いずれエネルギーが底を突き、自分の生身の体を直撃する。

そして、奴の針が何発出るのかが分からない以上、逃げに徹するしかできない。攻撃も通じない。八方ふさがりじゃないか!

『こう…じゃなかった、ファイヤー! 逃げてばかりじゃ勝てないわ!』

「そんなこと、言われなくても、分かっている!」

今度は生身の部分に針が当たる。幸いにもフォトンアブゾーバーはまだその役割を果たしているが、いつまで持つか。

『ええ、そうね! その為に、あんたのギアには武装が積んでいるのよ!』

「んなこと、言ったって、レッドのような武器はギアには無かったじゃねーか!!」

そう、これが何よりもマズイ問題だった。この状況を打破できる手持ちの武器が無いか、自分のベルトに問いかけているが、反応はNO。即ち、このギアには素手での戦闘しか配慮していないのだ。

『ええ、確かに手持ちの武器は無いわ…』

レイチェルは「でも!」と付け加える。

『あたしが何にも武装をつけないで戦場に放り込ませるわけないじゃない! あんたの今着けている両手の籠手に、あいつを倒せる武装が搭載されているのよ!』

「何ぃ!?」

慌てて、両腕のアーマーの情報を確認する。脳裏にタイプライターが叩かれるように、左右それぞれの籠手に搭載されている武装の説明が浮かんでくる。こいつ、俺の籠手に武器を仕込んでいたのか。どうりで他の所を検索しても見つからないはずだ。

「…また、お前の趣味丸出しの武装だなぁ、これは!!」

『でも、役には立つでしょ!?』

「まあ、な!」

そして針がついにファイヤーのツインテールを打ち抜き、はらりと髪の毛が数本落ちる。が、ファイヤーは動じずに逃げるのをやめ、ヘッジギルディと真正面から向き合った。

「ほう、ついに諦めたか」

ヘッジギルディはようやく獲物をしとめられると思ったのか、とどめの針を射出する。諦める? …ああ、諦めてはいたさ、さっきまではな。

「ファイヤーウォール!!」

その声と共に突き出した左手から、紅色のバリアが展開された。

「何!? バリアだと!?」

ヘッジギルディが狼狽する。そう、これがテイルファイヤーの左手に仕込まれた固有武装『ファイヤーウォール』。体に纏うフォトンアブゾーバーを左手一点に集中して作る空間湾曲バリアだ。残り少ないフォトンアブゾーバーを左手一点に集中させたこの技は、ヘッジギルディの針を完全に防ぎ、その全てが消滅していった。

「おのれ、小細工を!」

ヘッジギルディは針の射出をやめ、近接戦闘に移ろうとこちらに走り出してきた。…お前、最初に言ったよな、迂闊に飛び込むなって。だったら、その言葉、そっくりそのまま返すぞ!

『今よ! 右手を!』

レイチェルの合図で右手を突き出すと、勢いよく籠手部分がスライドし、右手の武装の攻撃準備に入る。弓を引くように拳を振りかぶり、狙いを定める。

「ブレイク…!」

スライドした拳は高速回転を始め、うねりを上げる。それを勢いよく走って来るヘッジギルディ目がけ、殴り込む様に射出する。

「シュートォ!!」

掛け声と共に発射された拳の弾丸をヘッジギルディは避ける術もなく、腹部に直撃した。

「ぐぬ、ぐぬあああああ…!!」

踏ん張ろうと堪えるヘッジギルディの腹部では、直撃しても尚も回転を止めない拳が健在していた。

『ブレイクシュート』。テイルファイヤーの右手に内蔵されている武装であり、所謂ロケットパンチと呼ばれる、右拳ごと相手に射出する武器だ。

そしてその拳が、強固な鎧の如き身体を砕き…遂にはその身体に風穴を開ける。

「ぐあああああ!!」

その絶叫と共に、ヘッジギルディは「く」の字の姿勢で吹っ飛んだ。

『一つ教えてあげる、ツンデレの女の子はね、鎧すら打ち貫く必殺の一撃に凄く弱いのよ』

そのレイチェルの言葉を果たしてヘッジギルディが聞けたかどうかは分からない。

だが、消えゆく意識の中ではっきりとこう思った。この戦士は、テイルファイヤーは強い、と。

そしてヘッジギルディは爆散し、その身体は跡形もなく散っていった。




テイルファイヤーの武装は完全に私の趣味が入っています。いいよね、拳一つで戦うスタイル!
…え、ブルーと被っている? ブルーの武器は一応槍ですから…(白目)。
次回もお楽しみに!

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