俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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ほぼ原作と変わらず…です。


第11話 青のツインテール

アルティメギルより恐ろしかった小学生軍団から命からがら逃げてきたその翌日。

俺はテレビの前で、ニュース番組を見ながら絶望感に打ちひしがれ、落ち込んでいた。

『我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』

テレビでは昨日流れた宣戦布告映像と共にアルティメギルのことが紹介されていた。このせいでアルティメギルの情報が一気に広まり、奴らの事を知らない一般人はほぼいなくなってしまった。これでもう、秘密裏にあいつらと戦うことができない。隠しておきたかったことが世間の目にさらされてしまった。昨日の時点で半ば分かりきっていたことだったが、こうして現実を突きつけられると、落ち込みもする。できれば皆には何も知らないまま普通の生活を送ってほしかったんだけど。

…だが、そこはまだいいんだ。うん、そこは重要じゃない。問題は今、テレビに映っているこの映像なんだ。

『名前を! 名前を教えてください!!』

『あ……テ、テイルレッドでs……うわ、ちょっと!』

『素敵です! お姉さまと呼ばせてください!!』

『妹に決まってるでしょ! ハァハァ、一緒に着替えっこしましょう!!』

なぜか大勢の女生徒に揉みくちゃにされ、涙目になっているテイルレッドの姿があった。大勢の女子生徒の中にはあきらかにヤバそうな目をしてるやつも何人かおり、ほのぼのとしていてその中に狂気を感じる、朝っぱらから流してはまずいであろう映像がそこには流れていた。…そんなテイルレッドが可愛いと思ってしまった俺は情けなくなってしまい、自らの右頬を殴った。

『そしてもう一人の少女の映像がここに―』

そして問題の映像に切り替わる。その瞬間、俺は血反吐ものの映像が映し出される。

『駄目だぁぁぁ! それ以上引っ張ったら、服が脱げるぅぅぅ!!』

…そこには小学生軍団に戦闘服を引っ張られ、見えそうな胸や股の部分を手で隠し、顔を真っ赤にしているテイルファイヤーの姿があった。…俺のテレビデビューが女体化して、小学生に服を脱がされる映像だなんて。しかも、この出来事はしっかりと誰かに録画されていたとは。

もう、できることならテレビを叩き割って、現実を逃避したい。テレビの前に蹲りながら、俺はめそめそと泣いた。アルティメギルより小学生の方が恐ろしい事この上なかった。

小学生の何が怖いって、恐れを知らないで色々なことをやれちゃうことなんだと思うのだ。カエルの肛門に爆竹を突っ込んだり虫の足や頭を千切ったりするが如く、モラルより楽しさが勝ってしまう。ヒーローの服を脱がすなんて発想、どうやったら考え付くんだろう?

「あんた、凄いことになっていたのね…」

流石のレイチェルも引き気味で、服を脱がされている俺の姿が映っているテレビを見ていた。この事態を引き起こした張本人が引いているんじゃねーよ! そう言いたかったが、言う気力も湧かない。

「俺、これからどうなっちゃうんだろう…」

世間からの注目は減るどころかますます増え、うなぎ上りだった。ネットでは俺たちのまとめブログや考察サイトがいくつもあり、話題もこれでもちきりだった。俺からすれば何を纏めて、何を考察するのかが理解できない。考察サイトは海外版もできており、「日本人は未来に生きている」「これが日本のくのいちか?」「ニンジャだ、伝説のニンジャの降臨だ」とか色々日本が誤解されそうなことになっているコメントばかり。海外の皆さん、世界のどこにバリアを張ったり、ロケットパンチを飛ばす忍者がいるんだい?

『警察はこの少女たちの情報を引き続き求めていく方針で―』

おまわりさん、そんなことよりアルティメギルの方を捜査してくれ。これ以上情報が広まったら、俺もう戦えなくなるぞ。まだ2回しか変身していないのに、俺、心が壊れそうだよ…俺たちの意志とは裏腹に世界レベルで祭り上げられていくレッドとファイヤー。もう戻れない所まで来てしまった気がして、改めてとんでもないことに首を突っ込んでしまったということがひしひしと感じてくる。

「あ、そうだ。あんたにこれを渡しておくわ」

俺の気を遣ってくれたのか、テレビのスイッチを切ったレイチェルは何か思い出したようにポンと俺に何かを渡してきた。蹲っていた俺は、畳の上に落ちたそれをのろのろと拾う。

「何これ…腕時計?」

「そう。でもただの腕時計じゃないわよ。あたしのお手製」

それは高校生くらいの年代だったら誰でも持っていそうなデザインのデジタル時計だった。テイルファイヤーと同じ焔色の時計で、時計のベルト部分にはツインテールのマークが彫られていた。

「それはテイルリストっていって…平たくいえば、腕時計型通信機みたいなもんね。昨日、そこら辺の廃材を使ってちょちょっと作ってみたのよ」

昨日の公衆電話の一件で、何らかの連絡手段を確保しないとマズイということにレイチェルも気付いたらしい。本当なら携帯を買えばいいのだが、回線とかの問題で緊急時の連絡ができなくなったら面倒なのでということで通信用の専用ツールを開発したのだそうだ。

「通話だけじゃなく、文字でのメッセージ交換もできるようにしてあるから。これなら授業中でも連絡できるし、いちいち携帯開くよりも楽でしょ? テイルギアと同じで小型の認識攪乱装置が内蔵されているから、通話内容やメッセージも他人に見られたり聞かれたりする心配もないわ」

まかない作ったみたいな感覚で渡されたテイルリストだったが、使い勝手はすごく良さそうだ。確かに連絡の度に携帯を開いていたんじゃ怪しまれるかもしれないし、会話も盗み聞きされるかもしれない。それを防げるというのは確かに大きい。

テイルバンドの機能はまだまだあった。戦車に踏まれても壊れない耐久性能、衛星携帯と同じように砂漠のど真ん中からでも通話が可能、GPS、防水機能、水圧対策、体温計や血圧計、カレンダーや血液型占いなどその他機能。…最後辺りのやつはいらない機能ばかりじゃないのか?

「しかし、こんな凄い物、昨日の今日で作れんのか? つーか貰っていいの?」

ここまでの高性能な時計を簡単に貰ってもいいのだろうか? 今更ながらに心配になる。

「あー、大丈夫よ。あんなもの作ろうと思えばいくらでも作れるし、壊したら新しいのをあげるわ。…しかし、何か今一つもの足りないのよね。改良型にはじゃがいもの皮むきや湯沸かし器でもつけてみようかしら?」

いや、確実にこのままの方がいいよ。時計に皮むきや湯沸かし器機能なんていつ使うんだよ。どんな事態を想定してつけようとしているんだ?

「ま、今後はアルティメギルに関する連絡はこれでするから、いつでもつけていて。もしかしたら早速今日使うかもしれないから」

勘弁してくれ、と思いながらテイルリストを腕につけ、眺めてみる。

どっからどう見てもただの時計にしか見えない。まさか通信機能があるだなんて夢にも思わないだろう。これなら怪しまれる心配もないし、時計としても普段に使えそうだ。

「流石に昨日2体もやられたってなると、あっちも来ないだろうよ」

「…ま、そうだったらいいんだけどね」

 

 

 

 

 

 

登校する前からクタクタになった光太郎は、ようやく、やっとのことで放課後を迎えた。学校はもうテイルレッドとテイルファイヤーの話題でもちきりであり、いちいちその話題が上がるたびに嫌な気分になってくる。

「あー疲れた…」

椅子に寄っかかり、へばる俺に、昨日の3人組が「よっ、兄弟」と顔を出してくる。

「お、おう」

軽く手を上げ、それに答える。

「でさ、お前はどう思うのよ」

「…どう思うって?」

まるで明日世界が滅ぶかどうかの瀬戸際のように真剣な顔の男子生徒に、半ば諦めかけた顔で答える。…次、あいつらが何て言うか見当がついているからだ。賭けてもいい。それくらい見当がつくことだ。

「だから、テイルレッドたんとテイルファイヤーさんの関係だよ! 兄弟同士の意見も聞きたいんだ!」

…これである。もう、嫌だこの学校。朝から何回この話題を熱く語れるんだろう。

テイルレッドに似て、彼女よりも凛々しく、たくましい戦士。己の拳だけで敵を薙ぎ払い、まさに炎のように敵を倒す少女、テイルファイヤー。

名前が判明した赤き新戦士はテイルレッドに勝るとも劣らない話題になっていた。腕に装備したバリアとロケットパンチで敵を倒す豪快さ。それとは対照的に小学生に服を脱がされかけ、涙目になる乙女のような姿。そしてレッドとファイヤーの『姿が似ている2人の関係は?』という話題。新たに投下された燃料は業火の如く燃え上がり、光太郎に襲いかかろうとした。

「さ、さあ…赤の他人じゃないのかな?」

この手の話題はもうお腹いっぱいだから勘弁してくれとあしらおうとするが、男子生徒は手に肩を置いて、熱く語る。

「鈍いぜ兄弟! お前だって見当がついているくせに! もはや似ているってレベルじゃないぜ、あれは! テイルファイヤーさんはなぁ、テイルレッドたんのお姉さんだって」

「それは違うわ!」

バン! と誰かが机を叩き、振り返る。そこには異議申し立てると言わんばかりの女子たちがいた。

「テイルファイヤー様はお姉さんじゃないわ。お母さんよ! あのレッドに向けた目は慈愛に満ちた聖母のような母性ある…」

「何ぃ!? そんな訳あるか! お母さんだったら、あんな人前で素肌を見せるような行為を…」

「何よ!」

もうね、こんな会話が朝から、しかも学校中で巻き起こっているんだ。疲れない訳がないだろ? テイルファイヤーの変身者が男で、ここでげんなりとした顔で座っているだって言ったら、多分こいつら全員泡吹いて倒れちゃうぜ。もしくは「馬鹿なことを言うな!」って殴られるかのどっちかだ。

何とかここから逃げ出す言い訳を考えていると、自分の腕につけてあるテイルリストからビー!とかん高い音が鳴り響き、びくっと体が跳ねあがる。

「うん? どうしたんだ、兄弟?」

「あ、いや、何にも…」

あんな大きな音がしたのに、俺にしか聞こえていないみたいだ。認識攪乱がしっかり作動しているのを確認した後、トイレに行ってくるよとだけ言い残し、廊下に出る。

「…どうしたんだよ!」

ピッと側面の通話ボタンを押して、通信に出る。誰にも聞かれる心配がないと言われても反射的に声が小さくなってしまう。

『アルティメギルが現れたわ。場所は郊外のハイキングコース』

途端に俺は嫌な顔になる。お前ら、毎日毎日出てくんなよなぁ…。

『と、いうかこれ…どういう状況なのかしら?』

「…どういうことだ?」

『今、そのアルティメギルとレッドが戦っているのよ。でもなんか様子が変というか…』

既にレッドが戦っている? それに人の属性力を集めるアルティメギルが郊外という人が集まりにくい場所に現れたのも妙な話だ。

『…とりあえず映像回すわね』

そして画面に現れたのは…等身大のテイルレッドの人形の手を取りながら優雅にダンスをしている怪人の姿と、その光景を見ながら絶叫しているテイルレッドの姿だった。

『うっぎゃあああああ!!』

跪いたレッドの絶叫が響く。自分と全く同じ姿をした人形であれこれされているのがたまらなく気持ち悪いみたいだ。…というか、怪人も鼻息が荒いというか…あらぬ妄想をしているというのか。確実にあれだろ、アレな妄想をしているだろ!?

『ふっ……これ、走ってはいけませんよ。まだ身体が拭き終っていないのですから、湯冷めしてしまいますよ』

『想像の中で俺に何してんだ、てめえええええええ!!』

こいつ駄目だもう! 怪人は妄想の世界に入り込みながら、人形のテイルレッドと妄想劇を繰り広げている。しかも、湯冷めとかの言葉からシチュエーション的に怪人は裸のレッドで何かしているってことになる。

(気持ち悪いぃぃぃ…!)

ゾクゾクと鳥肌が立つ。人形相手に意気揚々と話しかけている怪人の事や幼女の裸を想像している事とか、もう色々とありすぎてぞわぞわしてきた。

『どうするの光太郎…助けに行くの?』

「…行くよ。とりあえず、行かなきゃレッドがかわいそうだ」

どうやら今回のエレメリアンは肉体的な苦痛ではなく精神的な苦痛で攻めてくるタイプのようだ。これ以上放っておくと、レッドの精神が持ちそうにない。レッドの目がヘドロの如く濁ってきていて、錯乱状態になっている。

「それじゃあ、座標データを送って…」

『その必要はないわ』

「どうしてだ?時間がないんだぞ!?」

『慌てないで。こんなこともあろうとね…テイルリストにつけておいた機能があるのよ!』

バサッと大げさに白衣を纏う音が画面越しに聞こえる。

『その名も転送ゲート機能! テイルリストには私が指定した地点まで移動できるワープできる機能を搭載しているのよ! これを使えばブラジルだろうが島根だろうが一発で移動できるわ!』

「お前何でそんなこと重要な機能を黙っていたんだ!? 占いとか体温計以上に重要な機能じゃねーか!!」

するとレイチェルはフッと小馬鹿にしたような顔をして、ドヤ顔を決める。

『科学者にとってね、『こんなこともあろうかと』っていうのは憧れのセリフなのよ! いやあ、一回言ってみたかったのよね、この王道のセリフ! 昨日言いたかったんだけど、すっかり忘れちゃっててねぇ!!』

「さいですか…」

超マイペースだ、こいつ。画面の隅ではレッドの悲鳴が聞こえているのに、自分の発明品の演出を優先するだなんて。

『それじゃあ、通話ボタンの横にある赤色のボタンを押して』

これか。ぽちっと押すと、俺の目の前に人一人が通れそうな丸い光のゲートが現れた。

「変身して、そこのゲートに飛び込めば、すぐにあの地点へ行けるわ!」

言われなくともやるさ。さてと、レッドを助けなくちゃ、な!

「変身!」

その掛け声と共に、俺はゲートに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

『駄目だ…俺にはあの人形は破壊できない!』

「何やっているのよ、総二!」

同時刻、観束家の秘密基地内で愛香はやきもきしていた。今回現れたエレメリアン、フォクスギルディは髪紐属性(リボン)人形属性(ドール)の2つの属性力を持つ怪人。その能力で等身大のテイルレッド人形を作りだされ、それを使った吐き気のする気持ち悪い妄想劇を画面越しで愛香は見せられていた。

無論、対策法はある。あの人形のせいで妄想劇が繰り広げられるなら、人形そのものを破壊すればいい。人形を壊せば、即総二は戦いに復帰できる。だが、テイルレッドの姿を模したその人形を総二は破壊できない。たかが人形。だがそれでも、その人形の髪型はツインテールをしており、ツインテールを愛する総二はそれを破壊できないのだ。

「何か対策は無いの!? このままじゃあいつ…」

「……こうなれば、もう…」

トゥアールは拳を握りしめ、震えていた。苦渋の決断をしている、そういった風に愛香は感じ取れた。

「…愛香さん、お願いがあります」

普段の痴女っぷりからは想像できないようなシリアスさで愛香と向き合うトゥアール。そのことからただ事ではないという風に感じる愛香。

「何? それはあたしにできること!? 総二を助けられるならあたし、なんでもできるわ!」

「――では、変身してくれますか!」

「わかったわ、変身すればいいのね!!」

咄嗟に返事したものの、意味が分からず静止する愛香。ようやく理解した頃には当然のリアクションをしていた。

「は? 変身って…何?」

「私は前に言いましたよね。テイルギアは2つあって、既にもう一人の候補者がいると」

愛香は頷く。それは一昨日トゥアールが言っていたことだった。トゥアールが元居た世界から持ってきたテイルギアは2つあり、一つは総二の手へと渡り、もう一つのギアの変身候補者は既に決めている。ただし、その変身者に渡すかどうか迷っていると。

「それが愛香さんなのです。この世界でもう一人、テイルギアを使える人間。誰よりも総二様と近くいたあなたこそ、テイルギアを使えるのです」

「-嘘、でしょ。そんなご都合主義がある訳が」

「嘘じゃありませんよ」

トゥアールは真剣な目で答える。

「同じツインテール属性を持つからこそ、引かれあい、導かれたとも考えられます」

運命。その言葉にどこかロマンティックな気分になるが、愛香は「ちょっと待て」と止める。

「…あんたさ、この前こんなこと言っていなかった?もう一人の好捕者は破壊を楽しむような蛮族とか暴力に染まりきった凶獣とか」

「だって事実じゃないですか!」

真顔でそう答えるトゥアールに、一昨日以来のグーパンが顔面に飛んだ。

「ごふぇう…!」

「そうね、確かにあたしは蛮族かもしれない…でも、そんなあたしでも、総二は助けられるわ!」

愛香は決然とそう告げる。

「あ、愛香さんが何かカッコいい事言っています…言っていることと行動はあれなのに」

「うるさいわよあんたぁ!」

「ごぽぺぇ!」

流れ作業のように、今度はリバーブローを決める。

「そりゃあ、あたしだって戦うのは嫌よ。相手があんな変態軍団ならなおさらね。でも、戦力は多い方がいいでしょ!? どうしてあんたはそんなに変身者を明かすのを拒んでいたの!?」

「それは…愛香さんを、巻き込みたくなかったからです。あなたを戦いに巻き込ませれば、総二様も悲しませてしまいますから…。それに、あなたはこの世界でできた大切な友達です…そのような争いを知らずに平穏に過ごしていてほしかった…」

涙目になりながら悲痛な叫びを訴えるトゥアールに愛香は戸惑った。だが、その隙に白衣のポケットに『目薬』と書かれていた小さな物をそっと隠そうとしているのを見逃さなかった。

「…で、本当の理由は?」

「え、と、その。初めての戦いの後に説明したじゃないですか。テイルギアの力を維持するには私の生体データを総二様の体内に取り込む必要がある…と。それっぽい嘘をついて、総二様と如何わしいことをしようと思っていたのですが、そうなると愛香さんにテイルギアを渡してしまうとあなたとも如何わしいことをやらなきゃいけなくなるからそれは嫌かなと…」

「このド痴女がああああああああ!! ど直球に言っているんじゃねえええ!!!」

最後まで言い終わらない内に今度はコークスクリューをぶち込んだ。

「あああ、思ったことを何でも言ってしまうこの体質が憎い!」

「なんであんたは!そういつもいつもエロいことばかり考えるのよ!」

「メスがオスに発情して何が悪いんですか!!」

「開き直るにも言葉を選べあんたはあああああ!!!」

ドッゴオン!今度はジャーマンスープレックスをかまして、トゥアールを沈める。

「まあいいわ! あんたがあたしのこと嫌いなのは十分に分かったわ! でも今は総二を助けたいの、だからあたしにテイルギアを渡して!」

「…嫌いだなんて思っていませんよ、あなたは大切な友人だっていうのは本当です。私がやろうとしていることは結局の所、復讐です。あなたをそれには巻き込みたくなかった」

むくりと起きあがったトゥアールはそう言う。今までの行動から嘘っぽく聞こえてしまうが、その言葉に少しだけ嬉しくなる愛香。

「ただ、覚悟はありますね?一度変身してしまったら…もうあなたは戦いから逃げ出せなくなります。それでもかまいませんね?」

「承知の上よ」

不器用ながら初めての気遣いを感じ、愛香がしっかりと頷いたことを確認したトゥアールは青色に光るテイルブレスを取り出した。

「愛香さん、約束してくださいね。何があっても―」

一蓮托生。ブレスを託すトゥアールの覚悟が見て取れる。

「――総二様の初めての女になるのは、この私に任してもらえると」

「…おい」

何かおかしなワードが入っていたぞ、てめえ。愛香の顔が阿修羅のように変わっていく。

「さあ、時間がありませんよ! いいからはいと言ってください! でなければこれは渡せませんからね! それともあれですか、今からヒーローになろうとしている方が、まさか力ずくでブレスを奪おうとでも考えているんじゃないでしょうね!」

「…」

「愛香さんはそんなこと考える人じゃないですよね……」

愛香はニッコリ笑いながら、指の関節を鳴らし―、トゥアールに襲い掛かった。

ドゴッ、バキッ、グシャ、メキボキ、バコン、ガオン!

ヒーローとはなんなのだろう? 津辺愛香にとってそれは悪と決めた奴らをぶちのめす存在だという持論があった。だから悪と決めた奴には基本、容赦はしない。

「さあて、行きましょうか…テイル、オン!」

関節がいくつか外れ、床に転がっているトゥアールを放って、ブレスを装備した愛香は変身機構起動略語(スタートアップワード)を叫び、変身を完了させる。総二の赤色とは対照的な青色の戦士へと変身が完了する。

「待ってて、総二! 今助けに行くから!!」

…だがこの時愛香は気づいていなかった。後ろのモニターではテイルレッドとテイルファイヤー、二人の戦士の共闘が映っていることに。このまま自分が行かなくても、何か事態が解決しそうなことに気づくことがないまま、愛香は走り出していた。




さあ、次回はいよいよ蛮族さんのデビュー戦です。…出番はあるのかなぁこれ?多分、扱いはひどくなると思います。
次回もお楽しみに!

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