俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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いつの間にかランキングに乗っていて驚いているIMBELです。
今回は繋ぎの回です。


第14話 ツインテールの静けさ

「ブレイク、シュート!!」

「ぬおおおおおお、無念だー!!」

テイルファイヤーの右拳に貫かれたアルティメギルの怪人は断末魔を残して爆破し、散った。怪人が倒されるその光景を物陰から見ていた市民は、テイルファイヤーの勝利にわっと歓声を上げて、飛び出してくる。

「お姉さま、素敵です!!」

「ありがとうテイルファイヤー!!」

「あ、はは。どうもー…」

倒した怪人の属性玉を回収し、半笑いでひらひらと手を振りながら市民の歓声に応えるテイルファイヤーこと丹羽光太郎。

正直こういった行為は苦手なのだが、レイチェル曰く、市民の歓声に応えるもヒーローの役目みたいだ。仕方ないが頑張らなくては。

(これで10体目のエレメリアン撃破か…)

初めて俺がテイルファイヤーに変身してから今日で20日余りの時が過ぎた。最初のころよりはペースこそ落ちたもののアルティメギルの侵略行為は未だ続いているが、レッドとブルー、そして俺の3人のツインテール戦士の手によってその侵略行為は全て未然に塞がれていた。

そして倒した怪人はとうとう2桁という大台に上がり、そろそろアルティメギル側も何らかのアクションを起こしそうな気がしてならない。最近はどうも手ごたえのない弱い敵ばかりが出てくるし、何か嫌な予感の前触れのような気がするのだ。俺はこのまま何も起こらずにアルティメギルがとっとと侵略行為を諦めてくれないだろうかと考えているのだが…。

「すいませーん!」

と、人ごみをかき分けてトコトコと俺の方に近づいてくる女の子が一人。髪型は最近流行りのツインテール、しかもテイルファイヤーと同じようなツインテールに仕上げている。

(ツインテールをする子が多くて嬉しいんだけど…何だかなぁ)

そう、ここ最近、俺たちの活躍と比例するようにツインテールの髪型の女の子が非常に増えている。俺としては嬉しい反面、ツインテールの髪型を狙って、アルティメギルに襲われるリスクが高まったり、思わず目のやり場に困ってしまうなど、複雑な心境だ。…できれば、こういったブームは早く去って欲しいんだけど。

色々と複雑な気分に浸る中、ピタッと俺の前に女の子は止まると、ぺこりと頭を下げてきた。

「あの、テイルファイヤーさん! サインをお願いします!」

すっと色紙を俺の前に見せ、女の子は頼んできた。

…やっぱりそれか。半ば予想できたことであったが、やはりこういう事を頼まれることが最近多くなってきた。

「えー、えーとサインはちょっとね…」

「えー? サイン駄目なんですか!?」

「うん、そうなんだ…。ごめんね?」

女の子ががっかりする顔に罪悪感が芽生える。

「わ、私、テイルファイヤーさんの大ファンで! あなたの髪型を真似するほど大好きなんです! それでも駄目なんですか…?」

ジワリと目に涙を浮かべる女の子。それとシンクロするように女の子のツインテールもしょんぼり悲しんでいるように見えてくる。

…これは少し困ったことになった。ここで逃げても全然かまわないのだが、逃げたら逃げたらで面倒くさいことになりそう。テイルブルーの一件でメディアの恐ろしさが身に染みて理解できているつもりだ。事実、あれからテイルブルーは妖怪か悪魔か何かのような扱いを受け、皆の恐怖の対象になっている。

街中で戦ったときにはテイルブルーが現れた途端に市民全員が悲鳴を上げながら一斉に逃げだし、人々を襲う側の怪人もへっぴり腰になりながら戦っていたしな。そして俺はブルーからひどく嫌われて、睨まれるようになってしまったし…。ああ、俺、何か悪い事しちゃったかな?

そして今、この状況をどうするべきか。それが問題だ。

できることならサインの一つや二つ書きたいんだけど…でも、俺そもそも字が汚いしなぁ。この子が望むような女の子っぽい可愛らしい字が書けなくて、テイルファイヤーへの夢を壊したくはないし、かといって…。

幸いなことに対策法はすぐ思いついた。…ただ、これでこの子が納得できればだけど。

「やっぱりサインはちょっとね…。あ、でも、その代わり、握手なら全然大丈夫だよ!」

「! ほんと!?」

「うん、大丈夫!」

女の子の目線に合わせるように屈んで、すっと右手を差し出して握手の姿勢になる。

「じゃ、じゃあ…失礼します!」

「あ、そんなにかしこまらなくてもいいんだけど…」

女の子はすりすりと俺の手を擦りながら、荒い息をしながら握手を交わす。俺も笑顔でしっかりと女の子の手を握る。

「はあ…これが、これがテイルファイヤーの手…綺麗…素敵…」

俺の手をさする時の動きが少し卑猥に見えたのは気のせいかな? 握手というよりはまるで手コ…。

(うおおおおおおおおお-い!!)

一瞬、とんでもない下ネタを連想してしまって、ギリギリの所で理性を取り戻す。

馬鹿たれ、今の俺は幼き女の子と握手しているんだぞ!? 女の子はそういった邪な事を一切考えていないというのに、俺がこんな淫らな事考えるだなんて変態か!?

1分近く続いたと思われる長い握手がようやく終わると、女の子は満足したかのような顔になっていた。

「えへへ、ありがとうございます! 私、この手は二度と洗いません!」

一応洗ってほしいんだけどな。そう言いたかったけど、女の子の夢の為にここは黙っておこう。

「うん、ありがとう」

「じゃあ、今日は本当にありがとうございます! 頑張ってください!」

「…うん、頑張るよ!」

グッとサムズアップを交わして、女の子は人ごみの中へと消えていった。

(あー、上手くできた…)

俺は女の子を喜ばせた嬉しさとヒーローとしての仕事をやりきった満足感に浸っていた。

…だが、これが更なる騒動へと発展することになるとは全く予想できなかった。

「お姉さまが握手を…!?」

「バリアのようにガードが固かったファイヤーさんが…?」

「幼女と握手を、交わした!?」

「テイルファイヤーさんが握手をしたぞ、俺たちも続けー!!」

「あわよくば!!」

「俺たちも!」

「―ええっ!?」

一度例外を認めてしまったら、二度目の例外も認めてしまったも当然。例えそれが、男が女へと性転換したヒーローの握手でもだ。

「「「テイルファイヤー! 握手をしてください!」」」

この危機を俺はテイルギアのスペックを最大限に生かし、驚異的なスピードで一瞬でその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

アルティメギル秘密基地の廊下。

その廊下をカツカツと早歩きで進む怪人が一人いた。細身の体を持ちながらもパワー、スピード共に他の怪人と一線を引く実力を持ったエレメリアン、ワイバーンギルディその人だった。

(何故だ…何故だ!?)

ワイバーンギルディはとある怪人を追っていた。先ほど開かれた会議、それを取りまとめ、勝手に話を進めてしまった上司。彼が決めたことがどうしても納得がいかなかった。だから、ワイバーンギルディは上司を問い詰めるため、追っていた。会議が終わってからそんなに時は経っていない。だから、まだこの辺りにいるはず…。

そして曲がり角を曲がり、ようやくその姿を捕えた。竜の身体を持ち、その身を強固な鎧で身を包み、身の丈を超えるほどの大剣を背負う怪人。一目見るだけで強者のオーラが滲み出る怪人。間違いない…隊長だ。駆け足で詰め寄る。

「ドラグギルディ隊長!!」

ワイバーンギルディは唐突に声を発して、自分が探していた上司、ドラグギルディ隊長を呼び止めた。ドラグギルディはピタリと止まり、振り返った。

「控えよ、ワイバーンギルディ! この方を誰と知って…!」

ドラグギルディのそばにいた側近がワイバーンギルディを見るなりたしなめるが、無視する。確かに上司に対する反論や追及は重罪に値する行為。だが、それでも。ワイバーンギルディはこのことを知るまでは止まれなかった。

「よい」

「ですが…!」

「よいと言ったのだ」

だが、ドラグギルディは興味を引かれたようにワイバーンギルディの無礼を許し、側近を黙らせた。

「…お前は先に戻っておけ」

「は?」

呆けたように答える側近。

「この男、俺が預かろう」

「しかし!」

「二度も言わせるな!」

しぶしぶと側近が下がった後、ドラグギルディは口を開いた。

「俺に用とは何だ、言ってみるがいい」

「…!」

隊長の許しを得たワイバーンギルディは、前へと進み出て、悔しそうに大声で問うた。

「何故、俺を戦場へと行かせてくれないのですか!?」

―それは先ほどの会議が原因だった。

同胞10名・戦闘員127名。それがこのアルティメギルが20日間で失った戦力だった。

日数を考えれば、かなり大きい痛手だ。こちらが得た属性力はゼロのまま、犠牲者だけがどんどん増えていく。この状況に、いよいよアルティメギル側も焦り始めていた。

だが、ワイバーンギルディにとってこの状況は望んでいたことだった。犠牲者が増えるこの状況、出撃させる怪人も強者へと厳選されるようになってきた。少なくとも、アルティメギルが怪人を選ぶ基準やその法則など、ワイバーンギルディはある程度の予想がついている。その法則が正しければ、次は俺が選ばれるはず。

人間たちの力が見せつけられているこの状況で、手柄を立てることができれば、俺は更なる高みへ上ることができる…。

だが、ワイバーンギルディが望んだ通りの展開には至らなかった。

『ならん、次の戦いには俺が行く』

『隊長!?』

本来なら若手ナンバーワンの実力を持つワイバーンギルディは他の怪人からの猛アピールを受け、次の出撃へと至るはずだった。だが、それを上司であるドラグギルディが制し、隊長自らが出撃するような状況へと変えてしまった。

それが納得できなかった。何故だ、この人は俺を信頼していないのか!?

「俺が、弱いからですか…?」

確かにドラグギルディ隊長は強い。怪人が行う修行の中でも修めるのが非常に困難な五大究極試練の一つ、スケテイル・アマ・ゾーンを乗り越えたただ一人の怪人。通販で買ったものが一年間透明な箱で梱包され届けられるという、精神面で非常に負荷を背負うその修行を乗り切り、隊長という地位を手にした強者。

確かに隊長と実力を比べると、俺は劣るのかもしれない。…だが、それでも納得できない。

「いや、そうではない」

しかし、ドラグギルディは予想に反した返答をしてきた。

「ワイバーンギルディ。貴様は俺が今までに出会った、お前と同年代のエレメリアンの誰よりも強い」

「…! ではなぜ…!!」

「だからこそだ。お前は俺を超え、新たなる戦力となれるやもしれない逸材だ。だからこそ、今はこの戦いから身を引き、修行に励め。己の属性力を高めろ」

そして一呼吸置いた後に、ドラグギルディはこう述べた。

「今のお前では、ツインテイルズは倒せん」

優しくも厳しい声でそう言った。それは実質、ワイバーンギルディの戦力外通告を意味する発言だった。

「俺が人間に劣るとでも!?」

ダン! 悔しさが滲み出るような叫びで、ワイバーンギルディは壁を叩いた。その手からは血が滲み出ており、ワイバーンギルディの悔しさがうかがえる。

ツインテイルズ。テイルレッドやテイルファイヤーなど人間の身でありながらアルティメギルと戦う少女たちの愛称。恐れと尊敬の意味を込めていつの間にか広まった愛称。

しかし、ワイバーンギルディに言わしてみればツインテイルズなどたかが人間。現に今まで侵略してきた世界に、人間は数多くいたが、どれもこれも歯ごたえが無い。

皆が何故、あれほど人間に執着するのか、よく分からなかった。確かにワイバーンギルディにも人体のとある部分への属性力はあるが、それはあくまでその部位だけが好きなだけであって、人間そのものには興味が一切湧かなかった。ワイバーンギルディはそういった意味ではどこか他人と違った一面を持っていた。

「ワイバーンギルディ。貴様は人間をどのような存在だと思っている?」

「人間を…?」

「そうだ、どう思っている?」

突然聞かれたこの質問に、ワイバーンギルディは戸惑った。どのように答えるか少し迷ったが、自分に正直になり、はっきりこう答えた。

「倒すべき相手です! 俺たちが属性力を奪うためだけの存在です!!」

だが、ドラグギルディは残念そうに首を振り、ため息をつく。

「…俺が言った意味が分からないのならば、貴様は永遠にツインテイルズを倒せないだろうよ」

そしてドラグギルディは畳みかける。

「奴らを見くびるな、ただの下等な生物として見るな。我々にない物を奴らは持っている。それを理解できないのなら、お前は所詮、そこまでの男だったということだ」

ドラグギルディはそこまで言い、踵を返す。

「待って下さい、隊長!」

「ワイバーンギルディ、貴様は謹慎だ。明日、俺とツインテイルズの戦いをその目に焼き付け、その意味を理解しろ!」

それだけを言い残し、ドラグギルディは去っていった。

残されたワイバーンギルディは悔しさに肩を震わせた。プライドがズタズタにされていた。

隊長にそう言われただけじゃない、他の怪人にも、そして自分が普段から見下す人間にも劣っていると遠回しに言われたような気がしたからだ。

(俺は…俺は!!)

生まれて初めて経験するような感情だった。血液が沸騰するような激怒に駆られた。

自分が何をしようとしているのか、自分自身がようやく気付いたのは己の属性力を解放し、隊長に襲い掛かろうとした時だった。

ちくしょう…ちくしょう…。

殴ろうと構えていた腕を解き、ワイバーンギルディは膝から崩れ落ちた。自分の掲げてきた誇りにかけて隊長を殴る事なんてできない。最後の一線を越えることはできない…。

ふと、自分が泣いていることに気付いた。そしてふらふらと歩き始める。

隊長は言っていた。人間を理解しろと。ならば…。

(明日、俺は…行動を仕掛ける!!)

隊長がそこまで言うのならば、俺は自分の行動で人間を見極めてやる。ツインテイルズが本当に強い存在なのか、自分自身で確かめてやる。

ワイバーンギルディは焦る気持ちを抑えながら、明日行う計画の構想を練り始めた。




スケテイル・アマ・ゾーンを乗り越えたドラグギルディは間違いなく強者ですね、私なんかやったら3日ももたねぇ…!
さて、次回もお楽しみに。

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