俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回は少しボリュームアップしてみました。


第25話 胸囲とツインテール

長かった連休もようやく終わり、いつも通りの生活が戻ってきた。

HRの終了を告げるこのチャイムの音もすっかり馴染んできたなと感じる。

「ふぁ~」

光太郎はあくびをかみ殺し、大きく伸びをしながら、一限目に控えている化学の授業準備をする。

「つ、遂にあれが完成したのですか!」

「ええ、放課後になったら試運転してみましょうか」

「ありがとうございます、トゥアール様!」

クラスの端っこでは愛香さんとトゥアールさんが何やら話していた。何故か愛香さんが奇妙な敬語を使っているのが少しだけ気になったが、まあ、転校生のトゥアールさんもようやくこのクラスに馴染んできたみたいで、よかった。

最初は変人かと思ったトゥアールさんも、なんとかクラスに馴染めている。

この学園に転校する際に受けた編入試験も満点でパスしたらしく、クラスでもその天才ぶりをいかんなく発揮している。そのおかげなのかどうか分からないが、少なくとも馬鹿ではないのだということが分かり『たまに変なことを言う少し残念な優等生』という奇妙なポジションに彼女は落ち着いた。

ただ、トゥアールさんは事あるごとに総二の親戚だ! ということを露骨にアピールしているのが気になるのだが…そしてその度に愛香さんがとても怖い顔をするのも気になるそんな2人が今日はとても仲が良いように見えるのも凄く気になる。

光太郎も、総二の友達という繋がりで彼女とも何回か話したことがあるが、近寄りがたいという雰囲気はなく、今の所愛香さんと同じ、仲の良い友達という関係で収まっている。

「光太郎、いこうぜ」

「おう」

近くに来た総二と共に理科室へと移動する。この学園は近隣の高校の中でも最大級の規模を誇る為、無駄に広い。その為、こういった移動教室の際は早めに移動しないと間に合わないのだ。

「ああ、ここにいましたのね」

すると、背後からかけられた。その声に聞き覚えがあった光太郎と総二は同時に振り返った。

「生徒会長…」

「あら、お久しぶりですね、観束君」

そこにいたのは生徒会長の神堂慧理那さんであった。休み明けだというのにも関わらず、眩い笑顔と可憐なツインテールを見せてくれる。何か用でもあるのだろうか?

「何か用でもあるんですか?」

一度、ツインテール部について会長からツッコミが入ったことがある総二はまたそれ関連の話題なのかと身構える。ツインテール部何ていう奇妙な部活の存在をツッコんでくれた会長は、変人が蔓延るこの学園では数少ない常識人だと思う。

「いえ、そうではないのですよ。今日は丹羽君に聞きたいことがあるのです」

「え?」

面食らった。用があるのは総二ではなく、俺?

「丹羽君」

「はい…」

真剣な目で会長は俺を見る。俺も自然と身構える。

「一つ、聞きたいことがあるのです」

何か用でもあるのだろうか? 俺が会長に会ったことなんて、あのぶつかった一回だけなのに。何か恨みでも売ってしまったのだろうか?

「あの…」

「お嬢様!!」

「尊!?」

だが会長の言葉はそれ以上続かなかった。階段を駆け上ってきたメイド先生こと、尊先生が会長を呼び止めたからだ。相変わらずのメイド服姿で会長へ近づいてくる。

「何をしているのです。一限目は体育のはずでしょう。早く着替えないと授業に遅れてしまいます」

「で、ですが…」

「いいから早く!」

尊先生は会長の手を握ると、無理矢理引っ張っていってしまった。会長は何か俺に言いたげそうな顔をしていたが、それも叶わず俺たちの前から姿を消した。

「な、何だったんだ…?」

「さあ…?」

総二は何故か右腕を抑えながら、不思議そうに俺を見た。俺だって総二に聞きたいぐらいだ。会長とは個人的な付き合いもないし、何か仲良くなったきっかけもない。せいぜい、あの時ぶつかってベルトを見られた程度。

(まさか…な)

会長は俺の正体に勘づき始めてでもいるのだろうか?

でも、ベルトの時はしっかりとフォローもしたし、正体バレに繋がるような要素も無いはずなのだ。ショッピングモールの時もうっかり口を滑らしたが会長も気づいていないようだったし…。

「うわぁ!」

と、隣にいた総二が足元を見て悲鳴をあげた。俺も見てギョッとする。

足元にA6サイズの封筒が2枚、突き刺さっていたのだ。恐らくは去り際に尊先生がやったのだろう、中身はその…聞くまでもないだろう、婚姻届に違いない。

「愛香に破いてもらおうか…これ」

「そうだな…」

ちなみに封筒は床にかなり深く刺さっており、相当な力を入れないと抜けなかった。何なんだろうあの人は…。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた放課後。総二家の地下室では愛香にとって、待ちに待った瞬間が訪れていた。

「ついに…ついに完成したんですね、巨乳ブレスが!」

「テイルブレスだ愛香」

総二が冷静な訂正を入れるが、愛香には目の前に置かれている新たなテイルブレスにしか眼中になく、総二の声は届かなかった。

「さあ愛香さん。どうぞ、これが第3のテイルブレスです!」

愛香は嬉々として自分の腕にある青色のブレスを外し、真新しい、黄色のブレスをつけた。

「変身の方法は前使っていたブレスと同じですから安心してください」

「分かったわ…いくわよ!」

「おう」

「あたしは巨乳に変わるわよ!」

「おう」

総二はこんなにはしゃいでいる愛香の姿を見るのは久しぶりだった。そしてそれと同時に嫌な予感が胸を走った。『可能性に殺される』…嫌な言葉が頭に浮かぶ。

「テイルオンッ!!」

力強く発したその言葉に反応して、ギアは愛香の身体を光で包…まなかった。

「あれ…?」

愛香は何が起きたのか分からないように呆然としていた。その反応を見ると、ますます嫌な予感が広がる。

「テ、テイルオン! テイルオン!」

愛香は何度も何度も、いつも変身する時と同じように叫ぶがブレスはうんともすんとも言わない。失敗しているというより、ブレス自体が反応していないみたいだった。

「ど、どどどうなっているの!? これ壊れているんじゃないの!?」

遂に愛香は癇癪を起こし、腕のブレスを振ったり壁に叩きつけたり、噛みついたりしていた。その姿はまるでトゥアールの言葉を借りるのならば、蛮族そのものであった。

「いえ、そんなはずはありません! 変身はできるはずなんです!」

「じゃあ何でできないのよぉー!!」

巨乳になれると希望を抱いていた愛香。その希望が理不尽にも奪われてしまい、落ち込んだ愛香は泣きながら蹲った。まさしく愛香は『可能性に殺された』のだ。

…ああ、とうとう。とうとう恐れていたことが起こってしまった…!

愛香が落ち着きを取り戻し、この製作期間中、目の前の憎き敵にやられてきた数々の屈辱を思い出した時、この地下室は名探偵が飛び込んでくるような凄惨な殺人現場へと早変わりする。我が家を、日常を、そして親友を守る為に総二にできることは、この現場を殺人現場に変えさせない、愛香が心の底から納得できる理由を早急に解明する必要があった。

「なあ…トゥアール。もしかして、最初に使ったブレス以外は使えないってオチじゃないよな?」

「いえ、それはありえませんよ! 確かに敵に奪われて悪用されないようにセーフティは組み込んであります。が、そもそもテイルギアは世界最高峰クラスのツインテール属性がなければ使えない装備なんです。本人以外使えなくするような機能はつけていませんよ」

「それ本当なんでしょうねぇトゥアール!? もし嘘だったら…!」

「私がこの状況で嘘を言うと思いますか!? そんなことしたら私、愛香さんに殺されちゃいますよ!!」

もの凄く説得力のあるセリフをありがとう、トゥアール。

「あ、そうだ。総二様も使ってみますか? 巨乳ブレス」

もうその呼び名で定着しているのな。総二は少しだけ迷い、自分の右腕にある、真紅に輝くブレスをしばらく見つめる。

「俺は…いいや。こいつでいい」

総二はトゥアールに自分のブレスを見せ、笑う。…そして同時に理解する。

そうか…そういうことだったのか。総二は愛香が何故変身できない理由に思い当たった気がした。

「…いいんですか?」

「ああ。俺のブレスは、最初からこれだからさ。今更替えるなんてできないよ。俺は、あの人と同じ赤色の…このテイルブレスじゃなきゃ駄目なんだよ」

総二の脳裏にはピンチの時に幾度となく助けてくれた、あの憧れの焔色の女性の姿が映った。

「愛香。お前が変身できない理由がなんとなく分かる気がする」

「え?」

「お前はさ、きっと無意識の内に新しいギアじゃなくて、テイルブルーのギアじゃなきゃ駄目だって思っているんだよ。だから、その新しいギアを使えないんじゃないか?」

この一月。数々の戦いの中で、総二と愛香はこのブレスと共に戦ってきた。その中で総二はこのブレスには不思議な愛着を持っていたし、いまさら手放そうだなんて考えたこともない。

相棒。こいつは、そう感じる何かがあった。そしてそれはきっと愛香も同じなんじゃないだろうか。例え、憎き敵が開発したブレスでも、総二たちはそれでここまで戦って来れたのだから。世界を守りたい、開発者の一途な思いが赤と青色のギアには備わっているのだから。

「だからさ、そのブレスは、本当に託すべき人物に使わせるべきなんじゃないかって思うんだ」

「総二様…でも愛香さんは、それを使わないと巨乳になれないんですよ…?」

すると愛香は納得したのか、涙を拭いて立ち上がった。

「ううん、もういいわトゥアール。多分ね、最初っからあたしは間違えていたのよ。新しいブレスにくら替えしてしまえば、簡単に巨乳になれるとか…そう思うのがそもそも浅はかだったのよね」

総二の言う通りだ、そう言わんばかりに愛香は晴れやかな顔をしていた。

「気軽に着せ替えできるような、そんな軽いもんじゃないのよね、テイルギアって。あんたが言う通り、コイツは意志を乗せて動くデバイス…心に嘘をついて動かせるものじゃないのよ、きっと」

黄色のブレスを外し、テーブルに置く。けど、愛香には未練はなさそうだった。そんな愛香にトゥアールは意を決したように告白する。

「愛香さん…私、あなたに復讐するつもりだったんです。本当は身体変化の属性力とのハイブリット機能を備えたギアなんて、机上の理論で、成功する確率が限りなくゼロに近かったんです。意気揚々と使って落ち込む愛香さんを指さして『異世界の力を使っても愛香さんの胸は結局、A以下なんですよぎゃはははは!』なんて笑おうと思っていたんです…」

「それはこっちも同じよトゥアール。目的のものさえいただいてしまえば、後はあんたをぎりぎり生かしながら散々苦しませた挙句、ボロ雑巾のように捨てて、血祭りにあげようって思っていたんだから…」

「愛香さん…」

「トゥアール…」

何なんだろう、これ。

何か愛香とトゥアールの間では綺麗に物事が解決しているような感じなんだけど、総二から見ると何一つ解決していないように見えるこの感じは。

どう考えても今後の付き合い方にフォロー不可能なほど、溝の深さが出来上がったこの告白は何なんだろう。

総二が何も言えなくなってしまったその時、けたたましいアラートが鳴り響いた。そして、このタイミングで出現してくれたアルティメギルに感謝したくなった。

「敵か!?」

すぐさまトゥアールはモニターを確認し、顔が険しくなる。

「ええ! 都心にエレメリアン2体出現です! しかも…もの凄い力の属性力です!!」

「なに!?」

「ええ、総二様が戦ったドラグギルディ、ファイヤーが戦ったワイバーンギルディと同格か…あるいはそれ以上の反応を示しています!」

それはあの死闘を思い出せば絶望的な報告のはずだった。…けれど、何故か今の総二は負ける気がしなかった。

「そうか! なら尚更、ほっとくわけにはいかない!」

「ええ、そうね総二!」

「「テイルオン!!」」

総二と愛香はトゥアールに見守られながら、基地の通路を走る。

―そうさ、これが俺たちなんだ。

新たなテイルブレスは残念ながら戦力にはならず、愛香の胸は大きくしてくれなかったけど、俺たちの決意は大きくしてくれた。今日確かめあったその思いは、間違いなくかけがえのない、得る価値があったものだ。

身体の奥底からほとばしるような思いを感じながら、光のゲートに飛び込み、現場へと駆けつけ…。

「この摩天楼を颯爽と闊歩する、ツインテールで巨乳の女子はおらぬか!」

「違う! 我らはツインテールで貧乳の女子を求めなければならぬのだ!」

…盛大にずっこけた。

 

 

 

 

 

 

俺が都心にエレメリアンがいるという連絡を聞いて変身して駆けつけた時、最初に目に入ったのは、ヘッドスライディングのようにずっこけているレッドとブルーの姿だった。

「だ、大丈夫ですか!?」

コンクリートを抉りながらずっこけたレッドとブルーに慌てて駆け寄る俺。敵の戯言を小耳に挟みつつ、救出作業を行う。

「…何よ、なんなのよ。何で最近のあいつら、乳ばっかりこだわっているの!?」

道路にめり込んだ顔を上げながら、ブルーは俺に向かってそう叫んだ。

「…さ、さあ? でもいつものことじゃないですか!? あいつらの戯言はもう大概聞いていますから、大丈夫ですよ!」

「あたしは大丈夫じゃないのよね! あたしは乳を力に変えて戦う全ての存在が許せないのよおおおおおおおお!!」

そして俺の胸をキッ! と睨むと不機嫌そうに倒れているレッドを抱えて敵の前に立った。

…なるほど、ブルーが俺に嫉妬していたのは、胸の大きさで負けていたからなのか。

「ふっ…ついに現れたな、ツインテイルズ!!」

そして2体のエレメリアンは俺たちの登場に気付いたのか、正面から向かい合った。海竜型の怪人に海洋型の怪人。2対3、数の上では勝っているが…。

(くそ、場所がまずいな…)

俺は上唇を舐めながら、奴らとどう戦うかを考えていた。

そう、今回の戦いの舞台は都心ビル群の大型プラザホール前。何かのオーディション会場が行われていたらしく、人が密集していた。また、ビル群ということもあって、今まで以上に狭い。攻撃が外れ、辺りに被害が出ないように戦わないといけないだろう。

更に一番まずいのはここに留まっている人たちの存在だ。最近は『エレメリアンはむやみやたらに人間に手を出さない』という中途半端な知識だけが世間に広まってしまっているらしく、エレメリアンが出ても逃げないでそのまま見物したり、録画を始める輩が非常に多いのだ。ただでさえ狭い空間に、たくさんの人が押し寄せている。この事実は戦いを進めるに大いにやっかいな障害となっている。

「これだけの人が密集している場所であいつらとやりあうなんて…!」

いつの間にか隣で立っていたレッドも同じようなことを考えていたのか、非常にやりにくそうな顔をしている。

目の前にいる2体のエレメリアンは、ワイバーンギルディと戦った時に感じたあの独特の圧迫感が感じられる。恐らくその実力も他のエレメリアンとは一線を超えているはずだ。

もし、攻撃の余波や奴らがギャラリーを狙って攻撃されたら…!でも手加減なんてできない。していたら、こっちがやられる。

「くそ…やるしかないってか…!」

「いくぞ、レッド!」

スッと剣を構えるレッドとファイティングポーズを決める俺。その姿に恒例のべた褒めタイムが始まる。

「こ…これが噂に聞く『 紅の姉妹(クリムゾン・シスターズ)』か! 姉のファイヤーは勿論のことだが、妹のレッドもなんという素晴らしいツインテールを持っているのだ…!! 惜しい、実に惜しい! 後数年遅ければ、2人の4つのたわわに実った果実が揺れる光景が見れたものの…!」

海竜型の怪人は俺たちを、正確には俺とレッドを見ながらべた褒めする。というか、何か俺たちの知らぬ間に、勝手に変なあだ名がつけられているぞ…しかも微妙に中二病臭い。

すると横にいたもう一体のエレメリアンが怒号を上げた。

「妄言はそこまでにしろ! レッドの美しさは既に完成されているではないか! 彼女をファイヤーのような醜き果実をつけ、台無しにする気か、リヴァイアギルディ! 芸術品に泥を塗りたくるようなその行為こそ恥を知れ! それに残りの一人のツインテイ、ル、ズ…も……」

何故か海洋型のエレメリアンは急に口を閉ざしてしまった。その視線はツインテイルズ最後の刺客、テイルブルーへと向けられている。

ブルーはこめかみに青筋を浮かべながらも、そういうことねといったリアクションを取っている。

「はいはい分かっているわよ、どうせあたしのことをタイラブルーとかマナイタブルーとか言いたいんでしょ? 分かっているのよ、あたしだって分かるんだからね、こんなこと何回目だと思って…」

だが次の瞬間、そのエレメリアンは音もなくブルーの眼前へと接近してきた。

「「「!?」」」

俺たちは目を見開いた。こいつ、ブルーが見せたほんの一瞬の隙をついて、気配を極限まで殺して懐に入ってきた! しかもその腰には剣が握られている!

(ヤバい!)

ブルーが斬られる。俺は反射的に拳を放つが、奴には当たらなかった。何故なら奴は何の冗談か、いきなりブルーの前で跪き、まるで王に忠誠を誓う騎士のような態度で片膝をついて礼をしたからだ。俺の拳は空を切り、虚しく空振りする。

「!?」

早い。こいつ、今の動作も非常に早かった。…やはりできる、実力はけた違いだ。

だが、何故奴はいきなりブルーに接近してきたんだ? やられているブルー本人も訳が分からないといった感じで突っ立っていた。

「…なんと、なんと……美しい……」

「は?」

レッドが呆れた声を出すが、全くその通りだと俺も思う。

「美しい…なんと美しいのだ! 麗しき貴方と敵として出会ってしまうとは…何という悲劇か! ああ神よ、何故こうもあなたは運命を弄ぶのですか!?」

そしてそのエレメリアンはミュージカル風の台詞を息継ぎなしで喋ると、腰に携えた剣を抜き、刃に手を添えてブルーへと差し出した。

「私の名はクラーケギルディと申します。我が剣を貴方に捧げたい…愛しの(プリンセス)よ」

「気は確かか、てめぇ?」

俺は思わずツッコミを入れていた。そうでもしなきゃこの訳が分からない状況に耐えられなかった。

「ふっ…笑わば笑え、テイルファイヤー。私はいつだって正気だ。私は彼女の、(プリンセス)の美しさに魅せられてしまった…テイルブルー様、どうか私の愛を受け取ってくれませんか?」

「ええええ!?」

流石のブルーも困惑していた。いきなりの告白にいささか戸惑う様子であったが、それも仕方ないだろう。

何しろブルーに対するエレメリアンの反応は大体2つのパターンに限られるからだ。『怯えられるか』か『馬鹿にされるか』のどちらかしかない。そしてそのどちらかの反応を見せた奴は惨たらしく惨殺されるか、殺される一歩手前まで追い込まれる。

だがこの一月で判明しかけていた法則が今、目の前で崩れたのだ。目の前のエレメリアンはブルーを敬い、剣を差し出した。これぞまさに忠誠を誓うポーズ、騎士が守るべき主に向けるポーズではないか。

「むう…とうとう出たか奴の悪い癖が!」

苦虫を噛みしめたような顔で語るのは、リヴァイアギルディと呼ばれていたエレメリアンであった。腕を組み、額からは焦ったような汗を流している。

「奴は騎士道を重んじる堅物…一度ああなってしまったら止まらんぞ!」

「さあ、愛しの(プリンセス)! わが想いを受け取ってください!」

「ちょ、ちょっと待って! いきなり、そん、なの、困る…私たち、敵同士だし……」

ブルーは普段俺に見せるような不機嫌で恐ろしいな顔をどこかに吹き飛ばしてしまったかのように狼狽しきっている。

公然の場での告白。ブルーはその恥ずかしさで顔が茹でダコのように真っ赤になってしまっている。だがこの反応を見て、クラーケギルディは照れているのだと誤解したのか、駄目だしの一打をかました。

「私は心奪われたのです……!最高の貧乳(スモールバスト)を持つ、麗しき(プリンセス)、 あなたに!!!」

「…………は?」

ブルーは完全に虚を突かれた反応をし、茹でダコのように真っ赤だった顔がスッと元に戻った。

そしてこれ以上この空気に耐えられなくなったのか、リヴァイアギルディが俺に喋りかけてきた。

「さあテイルファイヤーよ! 我が部下、バッファローギルディの弔い合戦だ! 貴様に1対1の決闘を申し込む!!」

「え…ああ! 分かった! その決闘受けたぞ!!」

俺もリヴァイアギルディの助け舟をとてもありがたく思った。だってこれ以上、ブルーの方を見ていられなかったのだから。

だってチラリと聞いただけでも「美しく光り輝く貧乳」とか「ツインテールにはあなたのような完全なる貧乳が似合う」とか完全にブルーに喧嘩を売っているとしか思えない発言がズバズバと飛び出してくるんだから。

しかもクラーケギルディがこれを大真面目に話すもんだから、もう見ていられない。大勢の前でこの公開処刑はあんまりすぎる。

「行くぞぉ、テイルファイヤー!!」

「来い、リヴァイアギルディ!!」

テイルファイヤーとリヴァイアギルディの戦いの幕は切って落とされた。

「あたしは…巨乳になるのを拒んでなんかいないのよぉおおおおおおおお!」

「素晴らしき貧乳を持つ姫! 私の思いを受け取ってくれませんか! 姫ぇええええええええええええ!!」

…誰かと通信しながら怒っているテイルブルーの怒号と貧乳と叫びまくるクラーケギルディの声をBGMとして。

 

 

 

 

 

 

「だぁあああああ!」

まずは猛スピードで接近し、拳の弾幕を張る。かつてワイバーンギルディにやられた時と同じように、リヴァイアギルディの顔や腹を、拳で打ち込んでいく。

「ぐぅ…!」

だがリヴァイアギルディは一歩も怯まず、股から伸びている尾をピンと伸ばした。そしてそれを鞭のように薙ぎ払い、テイルファイヤーを叩きのめそうとするが、ファイヤーはこれを地面すれすれまで身体を捻らせることで回避する。

「はぁあああ!!」

そしてそのままの体勢から、低空アッパーをリヴァイアギルディの腹部に叩きつけた。

「ぬおうっ…!!」

リヴァイアギルディの巨体が浮かび上がり、苦しそうに唸るが負けじと拳を構える。右腕を大きく振りかぶり、それを打ち込もうとするのを視線が捕えた。

「! ふん!」

すぐさまファイヤーは右拳のアーマーを高速回転させ、低空アッパーの体勢から跳び上がった。そしてドリルの如く回転する右腕とリヴァイアギルディの右拳が、空中で真正面からぶつかり合う。

「「!!」」

そして大型トラック同士が正面衝突したかのような轟音が響いた直後、テイルファイヤーとリヴァイアギルディ、両者共に弾きとんだ。その際に生じた衝撃で、駐車してあった車のガラスがいくつか割れる。

リヴァイアギルディはプラザホールの正面玄関方面に、ファイヤーは駐車場付近に身体を叩きつけられる。テイルファイヤーはガリガリと背中でアスファルトを数メートル抉り、ようやく止まった。

(…あいつ…強い!)

起き上がり、ふうっと息を吐きだしてリヴァイアギルディが吹き飛んだ方向を見ながら、拳を構える。先ほどぶつけ合った右拳は焼け焦げたような匂いを放っている。

奴は、リヴァイアギルディは思った通りに強かった。あの鞭のような尻尾に気を付けなければヤバい…。

そして、吹き飛ばされた際に生じた土煙を割って、何発かの光線がこちらへと打ち込まれる。

「行けー、テイルファイヤー!!」

「負けないでー!!」

「頑張って下さいまし! テイルファイヤー!!」

光線を回避しようと足を動かすが、後ろから聞こえる声の存在に気づき、慌てて踏みとどまる。回避するのは容易いが、そうすれば後ろのギャラリーに光線が当ってしまう。すぐさま己の行動を回避から防御へと変更する。

「ファイヤー…ウォール!!」

左手から展開されるバリアはいつものように光線を防ぐが、ここでいつもとは違うある変化が起きた。

いつもならただ攻撃を防ぐだけのバリアの表面に、防いだ光線の熱量が蓄積され…そのエネルギーが円形状の塊へと変化したのだ。

「…なんだこれ!?」

『それを相手にぶつけて!!』

「何!?」

レイチェルの通信が入った。これがもしかしてアップデートの…!?

『いいから早く!』

土煙を割って接近してくるリヴァイアギルディが目に入る。このまま猛スピードでの接近を許すわけにはいかない。

「くそ! その言葉、信じるぞ!」

右腕のブレイクシュートを放つ時の要領で、左腕で円形状の塊を押し出すと、勢いよく飛び出し、それがリヴァイアギルディへと当った。そして、ぶつかった拍子に大きく燃え上がる。

「何だと!?」

突然の発火に、たまらんとリヴァイアギルディは後退した。そしてレイチェルから再度通信が入る。

『どう? ファイヤーウォールで防いだとき、相手の光線の熱量をバリアに蓄積し、反射できるように改良してみたの! …勿論、反射できるのにも限度があるけどね』

「最初に言ってくれ…心臓に悪いぞ」

ゴールデンウィーク中にアップデートしておく点ってこれのことだったのか。

『あはは! こういう秘密兵器はとっておきがお約束! でしょ?』

「ハハハ…そうだったな!」

相変わらずの科学者っぷりに苦笑が漏れる。だが、これで遠距離の防御に関する強化ができた。後は接近戦でどれだけ相手と渡り合えるか。目の前で炎まみれになるリヴァイアギルディを一瞥する。

「ぬ…うおおおおあああああ!!」

すると、リヴァイアギルディは叫び声と共に気合を入れると、全身に回っていた炎をかき消した。その身体から消化の後の際に起こる煙が立ち昇る。

『…嘘でしょ? いくらなんでも復帰が早いわよ!? 計算ではもっと燃えているはずなのに…!!』

レイチェルの焦った声から俺はリヴァイアギルディへと意識を向ける。こういう時、データよりも目の前のことを信じるべきだ。そこは気合で何とかしたんだろうさ、きっと!

「やはり…貴様は一筋縄ではいかんな! 流石はツインテイルズ一の胸囲の持ち主だ!!」

リヴァイアギルディは尾をビン! と鋭く張りつめさせ、槍のような高速の突きを放つ。

「!」

テイルファイヤーの顔目がけて打ち込まれたそれを、接近しつつ紙一重で回避する。そして右腕をリヴァイアギルディの顔面目がけて振りかぶる。

「来たぞ!」

「いっけえええテイルファイヤーお得意の!!」

「カウンター攻撃ですわ!!!」

後ろに控えているギャラリーはテイルファイヤーの勝利を確信する。

そう、放たれた拳はリヴァイアギルディの顔面をとらえるはずだった。だがその一撃は…。

「…(キョ)ォォォ!」

「!?」

ビリビリビリィ!! 拳が顔面に当る直前、リヴァイアギルディが発した強大な叫び声でかき消された。

しかも拳の威力がかき消されただけではない、声と共にテイルファイヤーは大きく吹き飛び、受け身も取れずに地面に叩き落とされたのだ。

「ぐっぅ…!?」

「この技を、貴様に使うことになるとはな…!」

リヴァイアギルディは苦しそうに顔を歪ますが、一矢報いたと云わんばかりに笑う。

対する俺は訳が分からずに混乱する。背中の痛みよりも訳が分からずに呆然としていた。何だ、何が起きたんだ!? なんでパンチが声だけでかき消されたんだ!?

(俺は一体、奴に何をされたんだ!!??)

すると突然、このシリアスモード全開を吹き飛ばす声が聞こえてきた。

「さあ(プリンセス)!! これが私の本気だと分かってくれますか!?」

丁度俺たちの真横ではクラーケギルディによるテイルブルー公開処刑ショーが繰り広げられていたのだが…。

「いやあああああああああああああああああ!?」

「ブルー?」

なんとクラーケギルディが全身から生えている無数の触手をうねうねと動かしていると、突然ブルーの絹を裂くような叫び声が聞こえてきたのだ。いきなり蛇に睨まれた蛙のように怯え始めた。

「触手…触手ぅぅぅぅぅぅ!?」

「ひ、姫!?」

「いや―――!! 触手やだ―――!!やだ、やだ、やだ――――――っ!!」

こんなにも怯えるブルーを見たことがなかった。悪鬼羅刹と恐れられているテイルブルーを倒すには今しかないのではないか? という程隙だらけだった。多分、赤子の手を捻るが如く簡単なはずだ。

「何故怯えるのです!? これは我が求婚の儀! あなたへの溢れん限りの愛を表した、愛の証明なのですよ!?」

「いやあああああああああ触手に告白されたぁああああああああああああ!!」

クラーケギルディが広げた無数の触手が1本1本うねうねと動く光景に、ブルーはとうとう泡を吹き、白目をむいて気絶してしまった。

「おい、しっかりしろブルー! ブルー!?」

『そうか…クラーケギルディの奇妙な触手の動きは、クジャクが羽を広げるのと同じように、ブルーに求婚を伝える動きだったのね…!』

一人で納得したような感じになるなレイチェル。こっちはわけが分からねえんだよ。

「…ちっ!!」

そしてリヴァイアギルディはわざとらしい素振りで舌打ちをした後、戦いの構えを解いた。

「…興ざめだ! 今日はテイルレッドの小手調べまで行いたかったのだが、これでは勝負どころではないではないか!」

リヴァイアギルディは一跳びでクラーケギルディに近づき、肩を掴んで退却を促す。

「テイルレッド、そしてテイルファイヤーよ! 今日の所は勝負を預けよう! 次の戦いまで不甲斐ない仲間を慰めておけい!!」

「お前…」

「ふっ…また会おうぞ、テイルファイヤー! このリヴァイアギルディ、貴様との再戦を楽しみに待っているぞ!!」

「姫、姫ぇぇぇぇぇぇ!!」

拳を突き出し、ニヤリと笑うリヴァイアギルディと名残惜しそうに叫ぶクラーケギルディ。

触手が踊りながら光のゲートに消えていく。そして最後の1本が消え、辺りに静寂が戻ると、突然ブルーの身体が眩く発光した。

『まずいわ! 光太郎、思いっきり地面を殴って!』

「!?」

意味は分からなかったが、とっさに全力を込めた一撃をアスファルトへと叩き込む。すると、舗装されたアスファルトの下から土ぼこりや砂が舞い上がり、辺りを包んだ。

「うわっ何だ!?」

「ゲホゲホ!!」

「うぇええ!!」」

「…そうか、そういうことか…! ありがとうファイヤー!!」

『さあ私たちも退却するわよ!』

叫び声や咳き込みの中でレッドの感謝する声が聞こえたような気がしたが、そんなこと構う余裕もなく俺も退却するのだった。

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった…!」

人気の少ない路地裏に駆け込み、ブラインド代わりに展開していた拘束用ビーム、オーラピラーを解除する。

案の定、オーラピラーの中には変身が解除され、元の姿に戻って気絶している愛香の姿があった。

ゼーゼーとレッドは息をしながら壁に寄りかかり、乱れたツインテールを整える。

「あの人の…テイルファイヤーのとっさの判断がなかったらヤバかったかもしれない…!」

気絶してしまったブルーをブレスは変身を維持できる体調(コンディション)を下回ったと判断したのかもしれない。そのせいで大勢の前で変身が解除されるというトラブルが起こってしまった。

だからテイルファイヤーは自分たちが逃げられる時間を少しでも稼ぐために地面を殴って土ぼこりを起こしたのだ。

あとほんのちょっとでも遅れていたら、全世界にテイルブルーの正体がばれていたかもしれない。そう考えると背筋が寒くなってきた

『次からは気絶しても変身が解けないように、ブレスを改良しますね』

トゥアールの申し訳なさそうな声が通信で聞こえてくる。

「そうしてくれた方がありがたいよ、トゥアール。流石に今回は肝が冷えた」

レッドはそんな軽い口調を叩きながら元の姿、観束総二へと戻ろうとする。

(やっぱりファイヤーさんは凄いな。あんなメチャクチャな空気の中でもシリアスに敵と戦えているんだから…俺も見習ってツインテールを鍛えて…!)

『! 総二様、変身を解除しては駄目です!!』

「え」

だがトゥアールの警告もむなしく、テイルレッドは観束総二の姿へと戻ってしまった。

瞬間、総二の眉間に電流が走る感覚がした。…それは鮮烈までのツインテールの感覚。あの美しき金髪の、舞踏会に現れた姫のようなツインテールの感覚。

そして背後から自分の身体に影が入り込んだ瞬間、総二は息を呑んだ。

「…観束…君?」

後ろを振り返り、路地裏の入り口を見るとそこには…。

「生徒…会長…?」

そこには肩で息をしながら、呆然と総二と愛香を見つめている、神堂慧理那の姿があった…。




トゥアール「……希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする! それを与えてやるのが、私のファン……サァァアビスゥゥゥゥウ!!!!」
愛香「トゥアァァァァーール!! 貴様ぁぁぁぁ!!」

さて、生徒会長に総二たちは正体がばれ、物語は次回から大きく動くかもしれません…。では嘘予告でもいきましょうか!?

※この予告は“例のあの声”と”あのBGM”で再生してください。

次回予告

君達に最新情報を公開しよう!

神堂慧理那に、自らの正体がばれた総二と愛香!

そんな二人に更なる危機が迫りくる! そしてそれは関係のないはずの光太郎にまで降りかかり…?

空席と化した、第3のブレスの所有権は一体誰の手へと渡るのか!?

The Another Red Hero ネクスト!『黄色の砲撃戦士』

次回も、このチャンネルでファイナルフュージョン承認!!!

これが勝利の鍵だ!! 【項後属性(ネープ)
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