俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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いよいよ原作組が登場します。


第2話 ツインテールはお好きですか?

今日は俺が3年間通うことになる私立陽月学園の入学式の日。

右も左も知らない顔ばかりの環境での入学式は正直緊張しまくりだったけど、入学式の後にすぐ行われた新入生オリエンテーションが俺の緊張感を上手い具合に緩和してくれた。

各部活が主催で行われるそれは素晴らしいクオリティで、ここでの学園生活を否が応でも期待してしまう。…どうやら、昨日までしこりのようにあった心配事が少しだけ無くなった、そんな気がする。

そしてオリエンテーションの興奮が冷め切らない中、俺たち新入生は教室へと戻り、担任からの諸注意を受けていた。学園での過ごし方、今後のスケジュール。でも、俺はその諸注意を完全に聞き逃していた。

勿論、あのオリエンテーションに浮き足立っていることも原因がある。でもそれ以上に俺にとって重要な事件があったからだ。…何故かって? 今日のこの短い時間で素晴らしいツインテールの持ち主を見つけてしまったからだ。しかも2人も!

だから俺は必死で自分の思いを封じていた。今騒ぐのは不味い、昨日のようになりたくなかったら落ち着け。血が滲むほどの強さで両手を握りしめる。自分の気持ちを押さえつける。

(…しかし、見れば見るほど、凄いツインテールだ)

凄まじいツインテールの持ち主の一人は光太郎の席の前方にいた。確か…津辺愛香(つべあいか)さん、だっけ?自己紹介の時、そう言っていた気がする。

背丈も高く、すらっとしたスタイル。鮮やかな青色の髪を綺麗に2つに分け、凛とした空気を帯びている少女。それを例えるなら武士、とでもいうべきだろうか。

凛とした彼女の雰囲気と幼げな髪型のツインテール。このどこかギャップが見られる組み合わせは見事に成功している。まるで真逆な組み合わせが見事に噛み合って、絶妙なハーモニーを引き出している!

光太郎は数秒間彼女に見とれ…直ぐに目を逸らした。これ以上見ていると、自分自身、胸の高鳴りを押さえていられるか分からない。

そして光太郎が感激したもう一人の凄いツインテールの持ち主は今この場にはいない。それは光太郎にとって幸いだった。あんなに見事なツインテールを目のあたりにしたら俺はもう正気でいられるかどうか…。

「おい、早くしてくれよ」

と、前の席の男子が光太郎の机を叩く音で、我に返る。

「え?」

面食らった顔をしている俺に男子が「プリント」と苛立ちそうに言った。その言葉で俺はようやく理解する。

「あ、はいはい」

ごめんねと呟いて、先ほど渡されていた部活希望アンケートを男子に渡した。そうだそうだ、今の時間はこれの記入時間だったんだっけ。早めに書き終わって、ツインテールのことで頭が一杯ですっかり抜け落ちていた。

(…いかんな)

光太郎はツインテールが関わると、暴走する自分を律した。とりあえず、今後はツインテールの事はあまり考えないようにしなければ。何せクラスメイトにツインテールが存在するのだ。あれに見とれてもしうっかり暴走でも引き起こしたら…。

「あれ、名前が未記入のものがありますね~」

と、担任のどこか困ったような間延びした声が聞こえた。その声につられ、全員が視線を動かす。

「あ、それ多分俺です。慌ててて」

前方にいる赤髪の男子生徒が名乗りを上げた。

「あ、観束君だったんですか~」

どうやら観束(みつか)という生徒が名前を書き忘れていたらしい。…良かった、俺じゃあなかったらしい。

が、次の瞬間、耳を疑う言葉が聞こえた。

「…ツインテール部? あら、この学校にツインテール部なんて部活ありましたっけ?」

は?今…先生は何て言った? ツイン…テール…部?

「あ、新設希望の部活ですね!でしたら観束君、あとで職員室で申請の手続きを~」

「え!? いや、俺は、その…」

観束君は勝手にどんどん会話を進める先生の行動にテンパってしまっている。そりゃあそうだろう。聞き間違えじゃなければ今「ツインテール部」と先生は言ったはずだ。…つまり彼はさっきのプリントの部活新設の欄に「ツインテール部」って書いたのか?

(…何書いてんだよ、あいつ)

光太郎は戦々恐々といった様子でその光景を眺めていた。俺の他にもツインテール好きがいたことには驚きだが、それ以上に彼はいったいどうなってしまうのか、それが問題だった。まさか俺にまで火の粉が飛んでくるなんてことはないだろうな…。

「そうですか~、ツインテール部ですか~。観束君はツインテールがとっても大好きなんですね~」

おい、その辺でもうやめましょうよ、先生! それ以上、観束君の心を抉るのはやめようぜ、おい! こっちもおっかなくてしょうがないんだよ! 光太郎はキリキリ痛む心の中でそうツッコんだ。

「はい、大好きです!!」

それで観束(お前)はなんでそう答えた!? なんで条件反射でさも当然のようにドヤ顔で答えた!? もっと良い回答があったはずだぜ、なんで君は地雷を盛大に踏み抜いたんだい!?

そしてそれを言った瞬間の観束君の顔は、もう説明できないほど悲惨な顔をしていた。…ああ、こいつ絶対何にも考えないで勢いだけで言っちゃったな。

…今の観束君の心は目も当てられないほどの大惨事と化していると思う。先生の言葉のナイフが黒ひげ危機一髪の如くグサグサに観束君の心に刺されているに違いない。

「それでは皆さん、これを持ちましてHRを終わりますが、最近この辺りで不審者が増えているそうですから注意してくださいね♪」

しかも先生は最後に盛大な爆弾を置いていきやがった! 終わる直前という気が緩んだ瞬間という最悪のタイミングで爆弾を起爆させやがった!

「そのタイミングでそれを言うことか!? 先生、待ってくれ! 俺は本気でツインテールが大好きで!! あ…違…その」

あーあーあ…。光太郎は言い訳無用の大惨事を引き起こしてしまった男子生徒、観束君を憐れむような目で見つめた。

幸いにも自分に火の粉は降りかからなかったものの、彼の今後の3年間の高校生活を考えると、もう憐れ以外の言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

同時刻、陽月学園から数キロ離れた路地裏。

子供どころか大人も近づくことを拒みそうな暗闇の世界に、一人の少女がいた。科学者の象徴の印である白衣を身に纏い、煤汚れた壁へと寄りかかる。

「…駄目、ね」

電子機器を動かしながら、少女は呟いた。彼女が持っている電子機器には何やら測定器みたいな目盛がついており、少女は不機嫌そうな顔で目盛とにらめっこを繰り広げていた。

(何人かは反応があったけど、どれもこれも弱すぎる…あれを扱えるレベルじゃないわ)

ため息をついて電子機器を白衣のポケットに戻すと、その代わりに厳重に梱包してある包みを取り出した。ガムテープを剥がし、何重にも巻いてある包装紙を丁寧に取り除く。その中から出て来たのは、小さな小箱。その側面にあるスイッチを押すと、そこには赤く煌めくベルトのバックルが収められていた。

(今思えば、昨日、大物を取り逃がしてしまったのが痛かったわね)

忌々しげに唇を噛む。そう、上手くいけば昨日、全ての方がついていたはずのだ。…あの忌々しい全速力の男にぶつかって、このベルトを託すに値するほどの力を持つ人間を見失うまでは。

あれは迂闊だった。この広い街であれほどの属性力を持った人間にもう一度会えるとは思えないのに、自分は余裕を持ち過ぎていた。人前で騒いで余計な目をされるのを気にして、冷静にしていた行動が完全に裏目に出てしまった。

(とりあえず、あの男とぶつかった地点を捜査してみるしかないわね。運が良ければ会う事ができるかも…)

少女は小箱の蓋をそっと閉めると、路地裏から出るために歩き始めた。

そう、何としても見つけ出さなければならない。このベルトを扱える人間を、最強の属性力を持つ人間…ツインテールを愛する人間を探さなければ。

 

 

 

 

 

 

「都会って物が高いんだなぁ」

この町一の大きさを誇る多目的ホール『マクシーム空果』の屋外駐車場のベンチに腰掛けながら、光太郎は手元の紙袋を眺めた。街角の露店で買ったパンがそこには入っている。

入学式は午前中に終わり、特に用事がない俺にとって、午後は完全フリーの時間であった。お腹が減っていたし、どこか見晴らしが良い所でご飯が食べたかった光太郎は、高台にあるここへと立ち寄った。

「んじゃ、いただきまーす」

食べる前のいただきますを言って、アツアツのパンをモソモソと口に運ぶ。

ああ、ここに友達の一人でもいたらなぁ…どこかアンニュイな思考でお腹を満たしていく。今日はこの景色が俺の友達か。ロマンチストかそうでないのか。

「に、してもあいつ…」

変な奴だったな。頭に浮かぶのは、最悪の高校生デビューを飾ったクラスメイトの観束君のことだ。

ツインテールが好き、ね。俺だって勿論大好きだけど、あそこまで公言出来るほどじゃあない。…やっぱり、ツインテールが絡むと碌なことにならない。彼の明日からの学園生活が少しだけ心配だ。

俺はああならなくてよかったと光太郎はしみじみと思う。やはり世間一般から見てツインテール好きとは「おかしい存在」だったのだ。あの全てが終わった後のみんなの視線は痛々しい物があった。

もしかしたら、あれは一種の警告じゃないだろうか? 常識というレールを外れてしまった者の末路。もし、失敗してしまったら、ああやってさらし者にされる。

しかし、ツインテール部、ね。どこまで観束君は本気なんだろう? あれはただウケを狙いたかっただけなのか? …それとも本気で書いたのか?

だとしたら、凄い。俺にはそんな度胸はない。さらし者にされてまで、自分の好きな物を好きと言える自信はないのだ。俺は臆病だから、人当たりがいいように自分を常に偽ってしまう。

「あーあ…」

俺にも、彼みたいな度胸が少しでもあれば、少しは…。

と思った次の瞬間。凄まじい轟音と共に、白い閃光が世界を一色に染め上げた。

「!?」

ドーン!という耳を裂くような爆音の後、光太郎は前のめりに吹っ飛んだ。凄まじい衝撃で手元にあったパンが地面に転がった。

何があった? テロか、放火か? 突然の出来事にそう考えるのが精一杯だった。

じんじんと痛む耳を押さえながら、必死に目を凝らして立ち上がる。…そして気付いた。粉塵の向こう側に誰かがいるー。パッと期待したが…すぐに何かが変なことに気付く。

「何だ、あれ?」

のっしのっしと粉塵を横切りながら、人影はこっちに近づいてくる。が、それはどう見ても人とは言い難い何かだった。

そいつは2メートル以上の身長で爬虫類に分類されるのかよく分からない何かの見た目をしていた。体重が相当重いのか、ただ歩くだけでも足元のコンクリートにヒビを入れている。更に恐竜のような鋭い牙と爪。極めつけは人間にはついているはずがないトカゲのような尻尾。…どれを見ても、人と認識するのに無理がある。

それを一言で説明するならば…「怪人」。テレビやアニメで見ているお馴染みの奴らが、次元の壁を突破して、そのまま出て来たような姿だった。

これは何だ? ドッキリかなんかか? でも、カメラマンや仕掛け人が見当たらないんだけれど…。

そして、頭の中がグチャグチャな光太郎を置いてけぼりにして、奴は開口一番にこう叫んだ。

「ふははははは!!この生きとし行ける全てのツインテールは我々の物だ!!」

…ああちくしょう、ツインテールが絡むと本当に碌なことにならない!光太郎は心の中でそう叫んだ。




はい、というわけで総二の登場です。…本格的な絡みはもう少し先かな?

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