俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回はテイルイエローの初陣編となります。


第28話 砲撃とツインテール

光太郎の部屋では、レイチェルはパソコンと睨み合いながら、テイルドライバーの最終チェックをしていた。

「…はい、修復は完了したわ。武装、スペック、オールグリーン。問題なしよ」

「サンキュー」

ポイと、レイチェルから投げられたテイルドライバーを俺はキャッチする。

「まさかギアが傷ついていただなんてな…」

「そりゃそうよ。属性力の強さだけなら、ワイバーンギルディレベルなのよあいつ?」

「マジか…どうりで強いはずだ」

げんなりした顔で光太郎は答える。レイチェルも疲れたような顔をしながら整備用のプログラムを終了させた。

土煙に紛れて逃げた際、レイチェルは何かが気になったらしく、帰宅早々ギアの状況を調べられた。そして内部にいくつかの損傷を受けていたのを発見したのだ。

「幸いにも戦闘には支障は出ない程度だから良かったけど…あの攻撃が原因とみていいわね」

「まあなぁ…」

思い浮かぶのは、戦いが中断される直前のリヴァイアギルディのあの奇妙な咆哮だった。ただ叫んだだけではあり得ないほどの衝撃と振動。拳の衝撃を中和したばかりか、それを上回る衝撃と破壊の嵐。

奴の属性力が招いた現象であるのは間違いないであろうが、どんなトリックで使われているのかが分からず、苛立ちばかりが募る。

「やりずれぇなぁ、あいつ…」

「ほんとにね。あんたとはとことん相性が悪いわ」

あれがどんな理屈で打てるのか、何発使えるのか…それを分かるだけでも戦いを有利に運ぶことが出来る。戦闘スタイルが超近接戦特化となっているファイヤーは攻撃しようとしたらどうしても相手の懐に入らなければならない。一応、光線反射という手段もあるが一度あいつに見られている以上、あいつもそう易々と使わないだろうし、これに頼るという手段は現実的ではないだろう。

ただでさえ、接近戦でリヴァイアギルディとファイヤーは互角なのに、そこにあの強烈な咆哮を混ぜられてはこちらの身が持たない。…せめて、何らかの対策が取れればいいのだけれど。

「とりあえず私は少ないデータから解析をしてみるわ。そこから攻略法を探してみる」

「すまねぇ…こういうことには何の役にも立てなくて」

「いいわよ。それがあたしの仕事なんだから。あんたをワイバーンギルディの時みたいには絶対させないわ」

「本当にすまない…」

「いいわよ」

レイチェルはニヤリと笑って俺にサムズアップしてきた。偶然にも、あの夜の時と立場が逆転した構図となった。

「任せておいて、天才のあたしがなんとかするわ」

そう言うとレイチェルはパソコンと睨めっこする作業に戻り、俺は中間試験の勉強に費やすことにした。まだ当分の時間はあったが、この先アルティメギルの進行が続くのならば、テスト勉強の時間があまりとれなくなる可能性が高くなるからだ。

しばらくの間、キーを叩く音とペンが紙の上を走る音しか聞こえなかった。両者ともに集中していた為、再び会話らしい会話が出たのはそれから1時間も後のことだった。

「あんたそういえば、さ」

「うん?」

問題の解答時間を計るために使っているテイルリストのストップウォッチ機能を止め、顔を上げた。レイチェルも同じように顔を上げている。

「あいつらの正体、気にならないの?」

「…あいつらって?」

「レッドとブルーよ」

…予想外の質問だった。レイチェルも「変な事聞いてごめん」みたいな顔をしている。

「そろそろ一緒に戦って一月ちょっと経つでしょ? …そろそろ、お互いの正体を明かしてもいいんじゃないかって思ったのよ。少なくとも、レッドだけには明かしておいた方がいいかしらって」

「…まあ、なぁ…」

「何ならあたしと一緒にくっついていく?」

確かにそれは、光太郎自身何度も思ったことだ。あの子たちに正体をばらす、その選択は取ろうと思ったが、その度にいつも踏みとどまっていた。それは、メリットもあるだろうけれど、デメリットの方が遥かに多いからだ。

これにより生じるメリットは無いわけじゃない。まず、作戦や連携が今よりももっと取りやすくなること。俺はあまり使わないが、集めた属性玉の共有など…少なくともバラバラで戦う今よりも戦いやすくなることは間違いないだろう。それに正体を明かせば信頼してくれるという何よりの証明にもなるし、険悪なブルーとの関係も今よりかはマシになるかもしれない。

デメリットの方は…言うまでもないだろう。テイルファイヤーの正体が男だということを彼女たちにばらさなければならないことだ。

…少なくとも、このことだけは精神的に避けたかった。協力はできてもその一線だけは頑として光太郎は譲れなかった。それは羞恥心もそうだけど、レッドのことが少し関係していたからだ。

テイルレッドは、俺のことをときどきどこか尊敬するような目で見ている気がするのだ。

ピンチの度に助けに入るたびに見るあの目。所謂憧れの目で見られているような、そんな気がするのだ。…彼女と俺の姿が非常に似ているだけあって余計に。もしかしたらレッドはアルティメギルの連中が喚いているように、本当に俺をお姉さんみたいに思っているのかもしれない。

ショッピングモールの戦いの時も「一緒なら安心」みたいに言っていたし、もしかしたら俺の正体を知ったことで幻滅してしまうんじゃないか…とか思ってしまうのだ。中身が男という事だけに、余計に。

(俺は、そんなに大した奴じゃない)

―それは俺がいつも思うことだ。

レッドに憧れられるような、彼女が思い描いているような、世間が崇拝しているような…俺はそんな大層な人物じゃない。いつも正体がばれるんじゃないかとか、アルティメギルはいつも変態だとか…そんなことを考え、びくびく怯えながら戦っている、どこにでもいるようなただの男子高校生なのだ。ツインテールが好きという変わった性癖を持っているというだけで、生まれ持った素質や宿命何て何処にも持っていない。

ツインテールの力を出力に変えて戦う正義の味方。その正体が女ならともかく、男というこの事実は、ほいほいとレッドに言えることじゃないことは確かだろう。

あんなに小さな身体で、敵の前に出て戦っているレッドの方がよほど尊敬できる相手だと俺は思う。

光太郎は目を瞑りながら、唸った。

「…もう少しだけ、待ってくれないか? 俺の心の準備ができるまで…もう少しだけ待ってくれ…」

「…あ、あたしも冗談半分で言っただけだからあんまり気にしないでちょうだい」

レイチェルも相当悩んでいる俺を見て気の毒に思ったらしい。でっかい汗を浮かべながら優しく語りかけてくれた。

「まあ、あの子たちのギアをね、少しばかり弄ってみたいって思ったのよ。もし、一緒になった時にでも色々試したい…」

だがレイチェルの言葉はそれ以上続かなかった。パソコンから鳴り響くアラートが2人を戦士の顔へと変貌させた。レイチェルは急いで座標の検索を始め、俺も持っていたシャーペンを放り投げて、ベルトを構える。

「場所は!?」

「…ええと、待って…市内の中学校の校門前ね。敵は…うん、大丈夫、あいつじゃないわ。怪人1匹に戦闘員が多数ね」

「分かった!」

テイルリストを左腕に、テイルドライバーを腰に装着して、転送の準備に取りかかる。

「転送ゲートオープン!! いつでも行けるわ!」

「了解…変身!」

光のゲートに飛び込みながら、俺はテイルファイヤーへと変身を遂げて、現場へと駆けつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

レッドとブルー、そして今回から戦いに加わる新米のイエローはファイヤーよりも一足早く現場へと駆けつけていた。

「うむ、やはり中学生こそ至高! それ以降の年齢の女子は全員ババアだ!!」

中学校正門前で、万死に値する暴言を吐きながら腕組みをしているのは、この間ブルーに惨たらしく惨殺されたバッファローギルディと瓜二つの外見の怪人であった。ただしこちらの怪人には角が無く、ベルのようなデザインの首飾りが付けられたマントを留めている。それは先日現れたクラーケギルディの物と大変酷似しており、彼の何らかの関係者であることが伺えた。

「さあ、アルティノイドよ! 胸囲がAカップ以下の女子だけ集め、それ以外は無視しろ!!」

「「モケー!!」」

「さあ行け!!」

戦闘員がわらわらと散って、下校中の女子学生を捕えていく。

「…いい。やはり貧乳は良い。動くだけで揺れる乳などに存在感はない…貧乳こそ、始まりにして全ての終わりを示す乳なのだ!!」

「なかなかあいつ良い事言うわね。でも乳にこだわっている以上あいつは倒さなくちゃいけないわ」

「正義の味方の発言じゃねえ」

「何か言った? あいつはあたしが倒すわ…胸のことを口にする奴は全員敵よ」

「ううん、何も言っていないよブルー」

レッドは冷淡なツッコミをブルーへと入れた。最近は胸のことばかりこだわる怪人が多いため、ブルーは非常に苛立っている。そして今日はイエローのこともあったからその苛立ちはレッドゾーンへと達しようとしている。

ブルーの中では、胸のことを話題に出した怪人=抹殺対象という公式が出来上がっているらしい。あいつの命運も、ここで尽きたな…。

「現れたなツインテイルズ! 我が名はブルギルディ!貧乳属性(スモールバスト)を司る、クラーケギルディ隊長の懐刀なり!」

「うん、知ってたよ」

レッドは疲れた顔でそう答える。もう分かりきっていることにリアクションをすることすら疲れている。

ここのところ、巨乳貧乳しか喚かない怪人のバーゲンセールだったから、予想は容易についた。しかも校門前で聞くに堪えないことを口走っていたもんだから誰だって分かるだろう。

それにあいつはブルーに公開処刑物の告白をした、あの問題児クラーケギルディの部下か。…ふとレッドは疑問に思ったことを聞いてみた。

「でもお前の上司のクラーケギルディは『子供の貧乳は別物だから狙わない』って言ってたぞ! どうして子どもを狙うんだ!?」

それはファイヤーとリヴァイアギルディが猛烈なバトルを繰り広げている合間に起こったことだった。貧乳を理由にブルーに告白してきたクラーケギルディであったが、それを認めたくないブルーは「レッドの方が貧乳だ」と口走ったのだ。幼馴染に密告されたということは衝撃的であったが、敵のクラーケギルディの方もそれを上回る衝撃的発言を言い放った。

クラーケギルディは「子供は小さいから貧乳であるのが当たり前。貧乳とは成長しているのにちっぱいだから、貧乳と言えるのです。だから私はあなたのような絶壁が大好きなのです」と言ったのだ。しかもこれに便乗してトゥアールも通信でブルーの悪口を言う物だからもう収拾がつかない。…正直、あのまま続けていたら大勢の民衆の前でクラーケギルディは惨殺されてしまっていたかもしれない。あいつが撤退してくれて本当に良かった、これ以上民衆の前で何かをやらかしたら、限りなくゼロに近いブルーの人気がマイナスの領域に達してしまうだろう。

この事から分かるように、クラーケギルディは「子供は狙わない」というスタンスをとる怪人なのだ。しかしその部下であるブルギルディはそのスタンスに当てはまらない侵略方法を取っている。何故なのだろうか?

「…私がこの年頃の少女が好きだからに決まっておろう!!」

「黙れ」

まさかのロリコン発言だった。一気に脱力するレッド。

「ちなみに貴様もターゲットだぞテイルレッド!!」

「うん、聞きたくなかった」

駄目だ、意志の疎通が全くできない。しかもあちら側も統率が全くとれていない。まあ、隊長からしてあの性格だから、しょうがないかもしれないのだけれど…。

「ふん、イエロー。見せてもらうわよ、あんたの正義の力ってやらが生み出す力がどれほどのものかを。もし口先だけだと感じた時は容赦なくあんたのブレスを奪うから。その忌々しいおっぱいはあたしのものとなるのよ」

聞きようによってはとんでもない発言だが、イエローは「よくってよ」と自信たっぷりに答える。

…うん、そこは答える所じゃないと思うんだけどな。女の子同士が胸の貸し借りでこれだけもめるとは思わなかった。

「必ず…必ず仲間として認めていただきますわ! だって…あなたたちの戦いをずっと見てきたんですもの! 鍛錬だって積んできましたわ!!」

心熱くなることを言い、敵の前に颯爽と躍り出るテイルイエロー。そんなイエローの態度に、むむむと唸っている。

「何ぃ!? 新たなツインテイルズだと!?」

ブルギルディの大げさなリアクションに満足したように、イエローは高らかに名乗りを上げる。

「私の名はテイルイエロー! 雷を司る、第4のツインテイルズですわ!!」

『…本当は「第5の」なんですけれどね―』

通信でトゥアールからのツッコミが入る。一応、トゥアールはフルフェイスマスクをつけて『仮面ツインテール』という名でアルティメギルの前に現れることがあるので、自分が先だと抗議したいのだろう。…正直、よく分からない立ち位置にいる為、微妙な所なのだろうが。

「さあいきますわよ! 我が雷を重ねし武具よ、今こそ姿を表せ! ヴォルテックスブラスター!!」

髪を束ねるパーツ、フォースリヴォンをかき上げるように触れると、バチバチと電流が走り、両腕に拳銃型の武器が装備される。

…流石はヒーロー好きなだけはある。無駄にカッコよくするために武器の名前に無駄な濁点を付け忘れていないし、変な詠唱も入れている。2丁拳銃というのも無駄なカッコよさに拍車を掛けている。あれってあまり意味がないらしいし。

「さあ、これまで多くの人々を危険にさらしてきた罪、今こそ購ってもらいますわ!!」

「モケ!?」

ジャキン、と山吹色の銃を戦闘員へと向けるイエロー。確かに初陣は戦闘員というのが相場だ。今まで散々やられてきた恨みもあるだろうし、ここでそのお返しというのも悪くない話だ。

「くらいなさい!」

イエローは戦闘員に狙いを定めて、拳銃の引き金を引いた。まさに、稲妻のように弾丸が敵を貫く様を想像したのだが…現実はそうでなかった。

「…モケ?」

縁日の射的を思わせるような弱弱しい弾道で弾丸は空を飛び、コツンと戦闘員に当ったはいいものの簡単に跳ね返ってしまった。

倒されると覚悟していた怪人たちは一体どうしたんだと一番驚いていた。

「い、一撃で倒れないとは、やりますわね!」

大げさなリアクションと共に、今度は両手の銃を同時に打つが、結果は同じ。射的の的を倒せるかすら怪しい弾丸が戦闘員に通用する訳もなく、弾だけが無駄に消費されていく。

戦闘員たちは何か自分たちが悪い事でもしてしまったかのように気まずそうに立ち尽くしていた。

「う~! う~!」

イエローはムキになって乱射するものの、とうとう両方の銃の弾が尽きた。カチカチと引き金を引く音だけが虚しく響く。

「い、イエロー! 気合だ! 気合でギアのスペックを引き出すんだ!!」

「そ、そうですわね! 闘志で自己のスペックを超える展開こそヒーローというもの! 威力不足は私の気合で補いますわ!!」

スペックは十分なはずなのだが、どこか勘違いしたような発言をかますイエロー。レッドは段々心配になってきた。ブルーやトゥアールとは違う意味で残念さが滲み出てきている。

「私の武器が銃だけとは思わないでもらいたいですわ!!」

銃をしまい、グッと身構えるとイエローを覆う数々の装甲が展開する。

ギアの背中にあるブースター一対が長い砲身へと変形し、回転して肩越しに相手を狙う。腰につけられていた砲身も連動して展開、腕のアーマーも開き、両足、肩など全身のありとあらゆる装甲から武器が現れる。

「そうか…イエローのギアは重装甲じゃなく、重火力タイプだったのか!」

「どうでもいいから早く戦わせなさいよレッドぉ! あいつを、ふんぞり返っているあいつを殴らせて!!」

「それは駄目だブルー!! イエローが頑張っているんだから落ち着け!!」

レッドはブルーを落ち着かせながらも、冷静に解説に徹する。

イエローのギアが重装甲なのは、大量の重火器を搭載し、圧倒的弾幕火力で反撃を許さず孅滅するというまさにロマンを体現したようなスペックだからだったのだ。

新型のテイルギアは、ヒーローに憧れる変身者、慧理那の意志が非常に反映されたような性能へと仕上がっているのだ。

「さあ…断罪の時間ですわ!!」

合図と共に一斉に放たれる砲口…そこで威力も凄ければ申し分なかったのだが。

「あ、あら…?」

レーザーは味噌汁が垂れたかのようにヘロヘロだし、ミサイルはあらぬ方向へと飛んでロケット花火みたいに空中でポンと爆発、レールガンやバルカンは相手に届かずに全部地面に落ちるという有様だ。

「…」

戦闘員同士が「どうしよう」といった風に焦り始めている。ブルギルディは苛立ち始め、レッドはフォローしきれるか? といったしかめっ面をし、ブルーはどこか嬉しそうにはしゃいでいた。

「見た!? おっぱいからミサイルが出たわ!! 偽乳だ偽乳!! あんたの乳、どっか飛んでいったわよ!!」

『あ、愛香さんそれはいくらなんでも…うぷ、うへっへへはあははははははは!!』

「『あははははははははははははははははは!!!』」

レッドはもう見てられなかった。胸のことでイエローに負けたことを根に持っている幼馴染はお返しとばかりにプライドの欠片もない罵りを始めるし、通信先のトゥアールもゲラゲラ笑っている。くそっ、味方陣にまともな人間がいねぇ…!

「う…ううう…」

イエローはもう涙目だった。自分の武器は通じないし、イメージ通りにはいかない。もっと…こう、重火器でバタバタなぎ倒していくのが理想だったのに、現実は上手くいかない。

怪人たちは日曜日にごっこ遊びに付き合う父親みたいに、当ってもいない弾丸を当ったフリをして倒れる奴も出る始末だ。「うわーやられたー」みたいにわざとらしく地面を転がり、ガクリと力尽きる。だがその優しさが凶器となってイエローを襲った。

「て、敵に…敵に情けを…う、うう…うわーん!!」

とうとうイエローはへたり込み、泣き始めてしまった。

「…! ええい、戦えもしないのにのこのこと戦場にやってくるなぁ!!」

この茶番にブルギルディはとうとうキレた。背中に装備してある武器ハルバードを投げ槍の要領でへたり込んでいるイエロー目がけて投げた。ギュン、と風を切る音で見る見るうちにイエローに近づく。

「! ヤバい!!」

レッドはようやく危機的状況に気付いたが、今からゲラゲラ笑っているブルーは頼りにならない。剣を取り出しても、今から間に合うかどうか…!

だが次の瞬間、誰かがレッドの横を猛スピードで駆け抜けた。

「!?」

それは正に紅い風ともいえるべきスピードだった。そしてへたり込んでいるイエローを抱え、持ち上げた瞬間。ハルバードが地面へとぶつかり、大きな衝撃音と爆風が巻き起こる。

「ふん…忌々しい奴…め…!?」

だが、舞い上がった土煙から飛び出すように人影が出てきた。お姫様抱っこでイエローを抱え、悠然とブルギルディと向き合う戦士が一人。

「て、ててて…」

ブルギルディが唸った。そして抱えられているイエローは嬉しそうに顔を赤くし、レッドは唯一の味方がようやく来てくれた! と手を叩いてガッツポーズをとった。…ブルーは面白くなさそうな顔をしていたが。

「テイルファイヤー!!」

「やったぞ、コレで安心だ!!」

「…あいつなんでいつも来るの遅いの!?」

そう、遅れながらも炎の戦士が戦場へと乱入してきたのだった。

 

 

 

 

 

 

俺が今一番欲しいのはこの特異な状況の説明だと思う。咄嗟に助けに入った彼女は何者なのだとか、戦闘員が何で死んだふりをしているのだとか…ツッコミどころは上げればキリがない。

「あ、と…とりあえず…あなたは何者なんですかね?」

胸の中でとろんとした表情でいる黄色の女性に話しかける。女性は待っていましたと言わんばかりにニコッと笑顔になる。

「おほん! 私、雷を司る戦士、第4のツインテイルズ!…その名も…」

だが胸の女性の言葉はそこで途切れた。地面に刺さったハルバードを回収しようと接近してきた怪人の処理をしなければならないからだ。言葉を聞く余裕はそこで消え失せる。

「ふん! むん! はぁ!!」

「…!」

俺は女性を抱えながら、牛型怪人の猛攻をかわし続ける。両腕が塞がっている以上、ここでは回避に徹した方がいい。

テイルファイヤーが素手なのに対し、ブルギルディの方は武器を持っている。普通に考えるならブルギルディが圧倒的に有利だ。だが、奴が持つハルバードという武器は長いうえに重く、軽々と扱うには向いていない武器だ。地面に突き刺した時の音や空を切る際の風切り音でそれは判別できる。

使い方も振り回す、振り下ろす、突くの三つのみに限られるし、しかも戦場は校庭。下手な段差もないし、足場も悪くない為、地形に左右されることもない。悠々自適に動き回れる。

いくらフェイントがおり交じるとはいえ、限られた動きを予測して動くなど、ファイヤーには雑作もない事だった。事実、ブルギルディのハルバードは空を切るか、地面を叩くかのどちらかだ。

「この…ちょこまかと…!」

「動きが遅すぎるんだよ! 牛だから思考も鈍いのか!?」

「! 貴様!!」

そして何よりもブルギルディ自身が鈍いということもある。ワイバーンギルディやリヴァイアギルディのあの素早い動きに比べればドン亀もいいところだ。

「ぬおががあああああ!! ちょこまかと動くなぁああああああ!!」

「!」

遂にブルギルディがやけくそを起こし、ハルバードをブン投げるという奇行に走った。だが、それが通じるのはさっきの不意打ちくらいだ…2度目はない。

投げられたハルバードを軽々と回避し、隙だらけになった怪人目がけて走る。両腕が使えないのなら、攻撃する手段は限られるが、一応はある。

「だあああああああああああ!!」

俺は勢いよく飛び上がり、空中で右足を思いっきり天へと伸ばす。…正直、足技は得意ではないが、やるしかない。

「おりゃああああああああああ!!」

そして、奴の脳天目がけてかかと落としをくらわせた。

「決まりましたわ!」

「いや…!」

まだだ。まだ、決まってはいない。ダメージは与えたが、それは決定的ではなかった。事実、怪人は頭を痛そうに押さえるだけで致命的な一撃とはなりえなかった。怪人は投げたハルバードを回収して、距離を取り、再び構える。

レイチェルもこの状況が芳しくないと感じ始めていた。原因は勿論、この黄色い女性だ。

放っておくと先日のあの民衆みたいに的になるだけだし、抱えて戦うにしても得意の拳を放てない。

『…このままじゃジリ貧だわ! ちょっとそこの黄色いの!』

「!? あ、あなた誰ですの!?」

突然、黄色い女性が喚きだした。

『ええと…あたしはこいつのマネージャーみたいなもんよ! あんた何者って聞いているのよ!!』

そして俺も女性も、レイチェルが通信を彼女にかけているのにようやく気付いた。

「よ、よくぞ聞いてくれましたわ! 私、雷を司…」

『時間がないんだからとっとと説明しなさいこのウスラトンカチ!!』

「…私、テイルイエローですわ」

残念そうに語る女性は俺に右腕に装着されている黄色のブレスを見せてきた。レッドとブルーと同じデザインのそれで、ようやくピンときた。

「テイル…イエロー? もしかして」

「は、はい! 私、つい先日デビューしたばかりのツインテール戦士で、今日が初陣なのですわ!」

なるほど、新しいツインテイルズなのか。レッドは新しい仲間を見つけたらしい。…羨ましいな。

しかも初陣ときたもんだ。なるほど、それであんなに動きが鈍かったのか。

『…とりあえず、あんた…ええと、テイルイエロー? あんたは属性玉変換機構(エレメンタリーション)を使って、項後属性(ネープ)の属性玉を使って頂戴』

「え…?」

『このままファイヤーに抱えられているよりも、そうしてくれた方が何倍も役に立つわ。…ぶっちゃけ、今のあんた、お荷物だもの。壁にもなりゃしないわ』

「おい!」

いくらなんでも言い過ぎだ、俺はそう思った。

『だって事実でしょ? 武器を使うことも出来ない、ロクに殴ることも出来ない、ただ突っ立っているだけの戦士なんか戦場には必要ないわ!!』

「…!」

『だからあたしの言うことを聞いて! 悔しかったら少しでも役に立って!!』

淡々と怒りの感情を滲ませながら通信するレイチェルに、イエローは苦渋の表情をする。

「分かり、ましたわ…」

そしてイエローは折れた。認めたくはなかったが…幼き少女の言い放ったそれは正論であるが故に、どうしようもなかった。

イエローは属性玉を自らのギアへと転送し、それを左腕のアーマー部分、属性玉変換機構(エレメンタリーション)へとセットする。

「属性玉――項後属性(ネープ)…」

そして項後属性(ネープ)の能力が解き放たれた。イエローの見事なツインテールがうねうねと動いたかと思えば、それが俺の両腕へと巻きついた。

「うわ、なんだこれ!?」

イエローのツインテールの動きは更に激しさを増し、毛先がギアの内部にまで侵入し、接続される。

『落ち着いて、今から説明するから! イエローは砲撃特化の戦士よ、でも今のままじゃイエローはロクに弾を飛ばすこともできない! だからあんたがそれを補助するのよ!』

「ええとつまり?」

『あんたがイエローの補助輪になるのよ! 遠距離からの攻撃で、敵を近づけさせないで倒して!!』

…要約すると、俺はイエローの電池ということらしい。イエローは力のコントロールが上手くできないため、ギアのスペックを十分に生かし切れていない。ならば外付けの属性力…つまりは俺と接続することで無理矢理ギアのスペックを引き出してもらおうという魂胆らしい。

『さあファイヤー!イエローの背中に抱きついて!!』

「…気は確かかお前!?」

『そうした方が属性力が伝わりやすいのよ! しょうがないでしょ、こういう仕様なんだから!!』

絡みついているツインテールはあくまでも最低限の繋がり。最も効率のいい属性力の接続方法は、相手と密着…すなわち抱きつくことだという。

「ええと…その…イエロー、すまない!!」

「きゃあ!?」

がばっとイエローの背中に抱き着く俺。正直、あまり取りたくはない方法だけどレイチェルが言うのならば信じるしかあるまい。自分の胸がイエローの背中に当って苦しいけれど…しょうがない、我慢するしかない。

「ええと…イエロー! 思いっきり撃ってくれ!!」

「で、でも私…足手まとい…」

「支えるから大丈夫だ!!」

俺はグイッとイエローの手を握り絞める。

「俺の力をイエローへと託す! だから君は…好きなだけ撃ってくれ!!」

「…!」

その言葉がイエローに火が点いたのか、イエローは腰の装甲を展開して、構える。

「…貴様、馬鹿にしているのか!?」

もっとも、ブルギルディから見れば、今のイエローの態勢は、背中にファイヤーを抱かれているという奇妙な光景でしかないのだけれど。しかも巨乳コンビというのが彼のいらだちに拍車をかけているらしい。

「!?」

イエローの怯えは握った手ごしでも伝わってくるが、安心させるようにギュッと握り返した。

「ゆっくり…落ちついて。心の引き金に思いを乗せて…!」

俺はイエローに同じ射出系武器であるブレイクシュートを使う時の感覚をアドバイスしながら、力を注ぎ込むように強く構える。

「は、はい!」

イエローはターゲットを怪人へと定める。ピピッとロックオンが完了した音が聞こえる。

「…狙い…打ちますわ!!」

「!」

ゴウッ!! 腰に装備された砲口が火を噴き、その反動で数メートル後ろへとのけ反りかけるが、俺が踏ん張ることで何とかこらえる。超スピードで空を飛んだ弾丸は、見事に怪人へと着弾した。

「ぬがあっ!?」

いきなりの攻撃にブルギルディは吹っ飛んだ。着弾した弾丸は彼の羽織っているマントを焼け焦がし、胸には弾丸が奴の身体を打ち抜いた跡が見えた。

「…き、気持ちいい…ですわ…」

「は?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!!」

『気を抜かないで! 続けて撃って!』

「分かった! イエロー、もうひと頑張りだ!!」

「! 了解ですわ!!」

ガシャン! 肩、背中、足元…イエローの全身にある、ありとあらゆる砲門がブルギルディを捕える。

「き、貴様らああああああ!!」

ブルギルディはハルバードを振りかぶって、こちらへと走って来るが、もう遅かった。こちらの準備は整っている。

「行けぇぇぇぇぇぇ! イエロォォォォォォー!!」

「…! ジェネレイト!フル!! バーストォ!!!」

イエローの技名と共に、全身の砲門が一斉に火を噴いた。それは先ほど見せたような弱弱しい砲撃などではなく、正しく稲妻の如き破壊力を持った強力な砲撃だった。

「う、うおおおおおおおおおおおお!?」

レーザー、レールガン、ミサイル…全身を重火器で貫かれたブルギルディは遂に大爆発を引き起こした。

「やった…! やればできるじゃないか、イエロー!!」

「…あたしが倒すはずだったんだけどね、あいつは」

観戦していたレッドが喜びの声を上げた。ブルーは対照的に暗いトーンで俺たちを見ているが…まあ、敵は倒せたんだ! 良しとしよう!!

「はぁ…はぁ…これが…ファイヤーの力…太くて熱くて…たくましいですわ…!」

「あの…言い方は気を付けた方がいいと思うよ…テレビ局来てるし…」

シュウシュウと砲門が熱を帯びている中、イエローは顔を真っ赤にしながら怪しいことを口走っている。

「…よし」

俺は戦いが終わったと感じ、腕に絡みついているツインテールを振りほどこうとするが、イエローは逃がさないといった感じで手を握り返してきた。

「あの…もう少しだけ…こうしても…いいですか…?」

わらわらと逃げ出す戦闘員を眺めながら、イエローは俺の手をスルスルと擦る。

「あ、あの私…私…あなたの力の…はぁん…」

…何だかイエローの様子がおかしいことが気がかりだったが、まずは彼女へ勝利の喜びを噛みしめてあげよう。初陣ご苦労様、と思いつつ、俺はイエローの手を握りしめた。

こうして、テイルイエローの初めての戦いは、俺の補助という助けを借りながらも勝利することができたのだった。

 

 

 

 

 

 

「手間がかかる新人なことで…」

レイチェルは苦笑しながらも、通信先の映像を切った。イエローをその気にさせるためにあんな臭い芝居をするこっちの身にもなってくれないものか。ああいう悪役はあたしには似合わないわね、と感じながらもパソコンの電源を落とそうとするが、ここで何者からか通信がかかってきた。

「…!?」

通信を拒否する間もなく、強制的に通信が始まった。

『あの! あなたレイチェル!? レイチェルですよね!?』

「…!」

『私です! あなたの友達、トゥアールです!!』

映像こそ映っていないが、画面の向こう側では聞き慣れた声が聞こえる。…間違いない、あいつだ。

(やっぱり…生きて…いたの…あんた…)

だが、喜びたい本心とは裏腹に、レイチェルは画面の向こう側の人物に冷たく言い放った。

「人違いじゃないの? あたし、あんたなんか知らないわ」

『…嘘、言わないでください! 今、使っていたのあなたが作ったプログラムですよね!? あれと項後属性(ネープ)を組み合わせてイエローと接続したんじゃないんですか!?』

「…勘違いじゃないの?」

『いいえ、違います! あの数値と現象は、私とあなたで一緒に…』

「うるさい、切るわね」

『!? ちょ、ちょっ…!』

プツンと強制的にパソコンを消し、通信を終わらせた。

「…ごめんなさい、トゥアール」

その言葉は、通信先の人物に聞こえたのかそうでないのか…それは誰にも分からない事であった。




レイチェル「発動…承認!!」
イエロー「待っていましたわぁ!!」
ファイヤー「ツール…コネクトォ!!」
…今回の戦闘、大まかに表すとこんな感じです。

原作では僅か数行でブルーに殺されてしまったブルギルディですが、今回は頑張ってもらいました。武器や技とか、全部捏造してしまったもんなぁ…。
それと今回戦ってもらったイエローですが…こっからどんどんおかしくしていこうと思います。ぶっちゃけイエローの魅力はそこにあると思いますしね。

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