俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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感想にも書かれていたのですが、他の感想への言及・横レスは禁止事項ですので、今後は控えてください。
…では、始まります!…最近、筆が進まねぇ…。



第30話 赤殺しとツインテール

そして次の日。俺は最後のHRの時間をぼうっと聞きながら席に座っていた。担任は間延びした声で何かを言っているようであったが、心ここにあらずといった様子で話を全て聞き逃していた。机にじっと仏像のように動かずに、俺はある一つのことに悩み続けている。

(あいつ、なんで元気なかったんだ…?)

その悩みは、昨日のことが原因だった。出撃前はあんなに元気だったレイチェルは、帰って来てみればどこかしょんぼりとして、元気がなさそうだった。明らかに様子が変だった。

当のレイチェル本人は明るく振る舞ってはいたものの、その元気には空元気さが見え隠れしている。無理して元気を絞り出しているような、そんな気がする。…俺がいない間、ブルギルディの戦いの間に何かあったのは間違いないと思うのだが、あいつは何も話さないし、俺がそれの話題を振っても綺麗にかわされてしまう。

しかもその悩みはテイルイエローのことではないらしい。…俺はてっきりあの時言い過ぎてしまったことを悩んでいるのかとおもったのだけれど、今朝、はっきり違うと言われてしまった。あいつが嘘を言っているとは思えないし…。結局、何も分からず仕舞いでこうやって一人でもんもんと悩み続けているのだ。

(…そういえば、俺、あいつのこと、あんまり知らないんだよな…)

戦い続けて一月経つが、分かってきたことよりも分からない事の方が遥かに多いのが現状だ。そろそろあいつが隠していることをいろいろ聞いてみてもいい時期なのではないかと思う一方で、まだ早いんじゃないかと思うこの頃。

(俺自身も怖いのかな…この関係が崩れるのが…)

どこか一歩を踏み出す覚悟が足りない。そんな自分に少し嫌気がさしながら周りを見渡すと、丁度HRが終了していた。皆、潮が引くように帰っていく。

…うわ、もう終わっていたのか。

「ねえ光太郎、どっか調子でも悪いの?」

すると愛香さんが心配そうな顔で、こっちにやってきた。

「え?」

「え、じゃないわよ。あんた今日ずっと下向いているしボーとしてるし…総二とどっか身体でも悪いんじゃないかって話していたのよ」

保健室行く? と言ってくれる愛香さんを見ると、このクラスでも数少ない常識人だと改めて認識できる。

「え、と。特に悪いっていうんじゃないんだ。少し、考えたいことがあってね」

「…まあ、あんたには色々悪いことにつき合わせているって感じはするし、考えたい気持ちも分かるわ」

「あ、はは…」

「ほんっとに総二の馬鹿に付き合わせちゃってごめんなさい…」

愛香さんは申し訳なさそうな顔をして、ぺこりと頭を下げてくる。彼女が謝っているのは、幽霊部員とはいえツインテール部なる怪しい部活へと俺を誘ってしまったことだった。

俺がツインテール部という謎の部活に所属していると周りに知られてから色々と面倒なことになっている。ツインテイルズ大好きな男子たちからは「お前もようやくこっちに来てくれたのか」「新たなツインテールを求める勇者の誕生に乾杯」とクラスから一歩引いたポジションにいた俺を、ツインテイルズ好き仲間だと迎え入れてくれた。…そのツインテイルズの一員が俺なのだけれど、もうこのツッコミをするのも飽きてきてしまっている。今月に入ってから何回目だこれ?

要するに、変な部活に入っている俺はクラスから好奇の目に晒されており、自他ともに認めるツインテール馬鹿の総二と同じような扱いを受けているのだ。総二や愛香さんの弁明で何とかその疑いは晴れつつあるが、それでも「総二の手下」「ツインテール部最弱の刺客」「劣兵」などという良く分からない異名が与えられ、それが俺のあだ名みたいになってしまっている。

しかもそのことが関連して尊先生にことあるごとに婚姻届を渡されるようになってしまっている。オーソドックスの手渡しから、手裏剣のように投擲、ティッシュ代わりに渡されるなど最近はその渡し方にも変化が見られている。

…婚姻届ってそう易々と渡すものではないと思うんですけど。

その度に愛香さんは不良生徒の保護者みたいな顔つきで俺に謝ってくる。本当にごめん、総二が受けるのは全然かまわないんだけど幽霊部員のあんたまでとばっちりが…と判に押したように同じ言葉をかけてくれる。

「うん…」

ありがとう、と言おうとしたその瞬間だった。突如、ビー! と甲高い音が左腕につけているテイルリストから聞こえ、驚きのあまり、俺は椅子から転げ落ちた。

「!? あ、あんた大丈夫!?」

愛香さんはいきなり転げ落ちた俺を見て、何事かと狼狽していた。

テイルリストの認識攪乱が作動している為、俺以外には鳴り響いた音が聞こえない。その為、端から見ればいきなり転げ落ちた挙動不審の男にしか見えない。俺は心配そうな愛香さんにうん大丈夫だから、馬鹿なことしているけど大丈夫! といったジェスチャーをする。

…この通信のやり方は毎度のことながら心臓に悪すぎる、もっと改良する余地があると思う。

すると愛香さんの方もきゃっと、驚いたような声を上げ、ポケットから自分のスマホを取り出した。

そんな光景を見ながら俺は、ああきっと家からの通話か何かなんだろうな、と平和なことを考えていたのだけれど、次に彼女が発した言葉に度肝を抜かした。

「ぎゃはははははは!! 生肉が食いてええええええ! 生、生がいいんだよぉ、あたいは!」

…耳を疑った。あの常識人筆頭の愛香さんが通話開始直後に発した、その魔界言語に俺は呆然せざるを得なかった。

「う、ぷぷ…」

そして、教室の端でそんな愛香さんを面白そうな顔で見ているトゥアールさんがいた。何故か愛香さんとお揃いのスマホを持って、どこかに通話しているみたいだ。あ、丸見えの画面から通話相手が見える。その通話相手は…愛香さんだ。

「うぉららああああああああああああああああ!!」

僅か数秒で通話を切った愛香さんは、甲子園決勝のラストイニングを思わせる渾身の投球でスマホを黒板へと叩き込んだ。この行動で、トゥアールさんが何かスマホに細工をして、愛香さんを困らせているのは一目でわかった。

「あ、あなた何してるんですかああああああああ!?」

「あんたさ、いい加減学習能力って無いのかしら…? これ2回目よね、前に忠告をしたはずなんだけど…!」

愛香さんは怒りの形相でツインテールを逆立て、拳の関節を鳴らし、トゥアールへ詰め寄った。まるでテイルブルーの生き写しみたいなその摩訶不思議な光景を尻目に、俺はテイルリストの音声をようやく繋げた。

『出んの遅いわよ!!』

「…悪かった、こっちで少し野暮用があって。で、エレメリアンか?」

『…そうよ、しかもあの2体組に間違いないわ。あんたが戦った奴に前回の付添いも一緒ね』

…! 奴が来たか、リヴァイアギルディ。付添いの奴とはテイルブルーに告白したクラーケギルディのことを言っているのだろう。遂に、奴とのリベンジマッチが幕を開こうとしている。…汗で滲んできた両手を制服の裾で拭う。

「場所は?」

『ええと、場所はここから…』

「死ね!死ね死ね!! おっぱいなんてみんな死ね!!!」

「ぎゃああああああああああああああああああおっぱい千切れるぅぅうううううううううう!!!」

「『!?』」

だが、俺が敵の現れた場所を聞く前に、トゥアールさんの断末魔が原因で、通信が遮られる。俺も、通信先のレイチェルも驚いたように息を上げた。

「うわー、津辺さん技かけるの上手いなー」

「関節技がトゥアールさんに決まっているぜ!! 嗚呼、おっぱいが潰れて…!」

「…あ、いい! 凄くいい!! 薄い本が厚くなるわ!!」

クラスメイトの世迷言が通信に割込み、シリアスさが微塵も無くなってしまった。さっきの緊張感を返せ。

「…あー、その、悪い。変な音声が入っちゃって。今の、ウチのクラスメイトの声だ、気にすんな」

『…ト、トゥ…トゥアール?』

「?…おい、おい…レイチェル?」

『!? え!? …ああ、ごめんなさい!! そ、そうよね………他人の空似よね? 同姓同名よね? 私の勘違いよね?』

ぶつぶつと独り言を呟くレイチェルに俺はいよいよ心配になってくる。

「…お前、本当に大丈夫?」

『………うん………うん。…大丈夫、大丈夫よ! ええと、敵の出現場所だったわね。ちょっと待ってね…!』

何だか言葉を発するまでに間があったけど、あいつ本当に大丈夫なのか? まあ、愛香さんとトゥアールさんのど突きあいはもうクラスの名物みたいになっているので、俺たちは騒がなくなったけど、初めてのレイチェルにとっては驚きだよなと思いながら、俺はこっそりと教室を抜け出して、階段を下りる。人が多いここでは現場までの転送ができないからだ。

「と、と。ごめんなさい、ね。間通して、くれ、よっと」

丁度、HR終了時刻ともあり、人ごみの合間を縫って、俺は小走り気味に走る。…ふとその人ごみの中に、下を俯いている生徒会長が紛れ込んでいる事に気付いた。…が、俺はすぐにそれを頭の中から消し、戦場へ向かう為に駆けだした。

 

 

 

 

 

 

奴らが今回出現した場所は、市街地から相当離れた場所にある寂れた工場跡であった。サビだらけの鉄骨やひび割れだらけのコンクリートから、長らくここに人が立ち寄っていないことが分かる。人っ子一人立ち寄らないであろうここを戦場に選んだ理由は、聞かなくても分かる。

全力で、俺たちと戦う。それだけの為にこの舞台を選んだのだろう。…決戦の時だ。

「…来たか!」

「遅いですよ、(プリンセス)

2人のエレメリアン、リヴァイアギルディとクラーケギルディは揃って腕を組み、こちらを睨みつけている。

対するはツインテイルズ。レッド、ブルー、ファイヤー。いつもの面子だが、何故かイエローの姿はない。

「あれ、イエローは?」

「まだ実践に出せるレベルじゃないのよ、イエローは。悪いけど置いてきたわ」

俺の疑問を淡々と答えてくれるブルーは、顔色が悪そうだった。…原因は目の前のクラーケギルディのせいだろう。ブルーを見た途端、猫が尻尾を振るみたいに触手をうねうねと動かしたのには俺だって気持ち悪いと思ったもの。

イエローが来ないのは、まだ戦力にならないからだと説明してくれた。

イエローはまだ属性力のコントロールに手間取っているらしい。あの射的の銃レベルの弾道からエアガンレベルまで何とかスキルアップは果たしたそうだが、それでも実戦に彼女を加えるのには危なっかしいとの判断らしい。イエローには元々、強制的に戦えとは命じていないので来なくても別に怒りはしない、問題はないとブルーは言っていた。

またレッド曰く「後一歩で壁が破れそうなんだけど、その一歩がどうしても分からない」だそうだ。素質はあるのだが、それを十二分に発揮できるきっかけがまだ分からないらしい。どうやら俺と一緒に放った銃弾レベルに達するまで時間はかかりそうだった。

「姫…先日は取り乱しお見苦しい所を…申し訳ありませぬ。しかし、私の気持ちは変わりません」

早くもクラークギルディは片膝をついて、騎士の構えを見せてきた。求婚モード全開の触手のうねりに、ブルーは口元を押さえて必死で悲鳴をかき消している。

そんなクラーケギルディは立ち上がり、ブルーへと近寄ろうと歩み始める。

「待てよ」

するとそれを遮るように、レッドが剣を取り出してクラーケギルディの前に立ちふさがった。そんなレッドに途端に不快感を露わにするクラーケギルディ。

「…幼子よ、そこをどきなさい。それとも、あなたのツインテール属性から先に奪われたいのですか?」

「悪いな騎士かぶれ。姫を守るのも、騎士の務め…お前の相手はこの俺だ! ブルーには指一本触れさせねえ!!」

そのタンカと共に剣を構えるレッド。そんなレッドに関心したかのような顔つきになるリヴァイアギルディ。

「ほう…その幼さにして、戦士の面構えか…流石はドラグギルディを倒しただけはあるな。クラーケギルディよ、奴はただの幼女ではない、戦士だ。…舐めてかかるなよ?」

「分かっているリヴァイアギルディ…私は騎士。ウサギを狩るときにも全力を尽くす戦士だ!!」

スッと腰にある鞘からレイピアを抜き、構えるクラーケギルディ。レイピアをレッドに突きつけ、叫ぶ。

「よかろう幼き騎士、テイルレッドよ…貴様に決闘を申し込む!!」

「ああ、その決闘受けたぞ!」

決闘前の光景に満足そうに頷くリヴァイアギルディ。そしてグルリと俺へと視線が移動し、俺の鼓動が早まる。

「ふ…待たせたなテイルファイヤー。貴様との再戦、心より待っていた」

嬉しさのあまり、尻尾から変な汁が垂れだしているリヴァイアギルディ。尻尾の位置的に、股間からから出る汁っていうのが変な連想を生んでしまいそうになるが、慌てて取り消す。

「…俺は待ちなくはなかったけどな」

そんな呟きを吐きながら俺はこの前と同じように構える。

「ふっ、情けないことを言うな。貴様ほどの戦士はドンと構えているのが丁度いいぞ? 度が過ぎた謙虚さは己の力を鈍らせるからな」

「…アドバイス、ありがとう」

結局の所、奴の奥義の攻略法を発見するには至らなかったものの、奴がどんな攻撃パターンをしかけてくるかは大体の見当はついている。テスト範囲がこれならば、70点は取れるんじゃないかという理解度は得ていた。後は実戦でそれを暴いていくしかない。

「…では、茶番はここまでだ。ここからは戦だ」

リヴァイアギルディは静かに腕組みを解き、身体に絡みついた尾をほどいた。そして槍を持つかのような構えを取る。顔つきも凛々しくなり、戦士としての面構えとなる。

「…始めようか、テイルファイヤー」

「…ああ、これでケリをつけるぞリヴァイアギルディ」

奴らがこの人のいない現場を舞台として選んだ理由は、全力で己の力をぶつける為…ならば俺もその全力で立ち向かおう。

そしてテイルレッド、テイルファイヤー、リヴァイアギルディ、クラーケギルディ。この場にいる4人の漢の叫びが同時に重なった。

「「「「いくぞ!!」」」」

その叫びと共に戦いの幕が上がった。

「…あたし帰っていい?」

「それは駄目ですぞ、姫!」

「とりあえずはファイヤーの援護に向かってくれ、ブルー!」

…一人だけ余ったブルーを置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

「はあああああああああああああ!!」

「ぬおおおおおおおおおおおおお!!」

テイルファイヤーとリヴァイアギルディの拳がぶつかり合い、初戦と同じように互いが吹っ飛んだ。リヴァイアギルディは朽ちた機材に突っ込んだが、俺が叩き込まれた工場の壁は老朽化したためか脆く、受け止めてはくれずに工場の中へと叩き込まれる。

「ぐ…!」

やはり正面同士のぶつかり合いでは奴の方が一枚上手か。体格、重量。どれをとっても俺よりも上だものな。

「ふんっ!」

「!」

ぐるりと身体を捻らせて回避すると、先ほどまで俺が寝転んでいた地点に尾が叩き込まれ、軽いクレーターができた。リヴァイアギルディは工場中へと入った俺を追撃に来たのだ。

身体を起こし、体勢を立て直す為に距離を取ろうとするが、リヴァイアギルディがそれを許さない。常に前進してきて、俺との距離を一定に保とうとしている。

「くそっ!」

苛立ち混じりの悪態をつくが、そんなことでどうにかなる訳じゃない。

(距離を、離してくれない…!)

リヴァイアギルディの戦い方が前回と違うのは、一度戦い、手の内をある程度分かっているからなのだろう。やはり予想通り、遠距離攻撃はしてこない。あの光線反射を警戒しているのだ。

「はあっ!!」

「があっ!?」

またもリヴァイアギルディの拳が飛んできて、辛うじて反撃を試みるが、結果は俺の負けだ。

まともではない体勢からの拳では奴には通用せずに、俺の身体はガクンと沈みかける。踏ん張ろうとしていた膝が折れ曲がり、地面へと膝が点きそうなほどの衝撃が襲った。その決定的な隙をリヴァイアギルディは逃さない。

(けど…!)

「む!?」

リヴァイアギルディは自分の尾を鞭のようにしならせて、俺を叩こうとするが、間一髪、地面をギリギリまで身体を落としたスライディングで滑り、無理矢理回避する。

「…手の内が分かっているのはそっちだけじゃないんだ!!」

一度技を見ているのはそっちだけじゃない。こちら側にだって、お前らの手の内は分かっているんだ。

そしてそのままの体勢から飛び上がり、低空アッパーの構えをするが、リヴァイアギルディは待っていたとばかりにガードの構えをする。

「馬鹿め、その一撃は読めている!!」

奇しくも前回と同じようなシチュエーションだが、前回とは違うのは…。

「ブレイク、シュートォ!!」

腹部を狙わずにそのまま上を目指し、零距離から射出用武装、ブレイクシュートを放ったことだった。

「ぬ、ぐがぁ!?」

零距離からのブレイクシュートがリヴァイアギルディの右肩を打ち抜く。腹部に来るとばかりに予想していたリヴァイアギルディは、右肩に走る痛みに顔を歪め、体勢を崩す。

『やったわね!』

「ああ…零距離でのこれは初めてだったからな、上手くいくかヒヤヒヤしてた」

『かっこいいわよね、零距離って!!』

「お前、好きそうだもんな、こういうの」

嬉しそうな声をあげるレイチェルにそう反応する俺。やっと一撃らしい一撃を与えることができたのだから大声で喝采したい気分だが、それを何とか抑え、緊張の糸を緩ませない。

…単なる拳、肉弾戦だけでは奴を追いつめることはできない。奴の切り札も何かもまだ判明していない。切れるカードが少ないこちら側の方が追い込まれる可能性が高い。

ならば、奴が切り札を使う前に、戦いに響くような一打を敵に与えること。手の内が分かっているからこそあえてそれを利用する。そして自分が切れる最高のカードを切る。それがレイチェルと立てた作戦だった。

リヴァイアギルディは前回の戦いから、一撃を避けた次の動作は腹部への攻撃に来るはずだ、と予想していたに違いない。事実、俺が今まで行っていた攻撃は腹部への一撃が主な手段であり、隙あれば他の部位を狙うのがセオリーであった。

零距離から右肩への一撃はさぞかし強烈であったことだろう。本来、ブレイクシュートはこういった用途には使わないのだが、まさか俺も射出武器を零距離でぶっ放すとは思ってもいなかった。

「ぐ、ぐぐ…!」

この戦い、初めて与えた決定的なダメージに、狼狽するリヴァイアギルディ。右肩には拳大の穴がぽっかりと開いている。

そんな俺は距離を取って、奴の動作を注意深く観察する。…まだ奴は切り札を隠し持っているはず。それが判明するまで、何度でも奴の懐に潜り込んでやる。気を抜くな、その隙を相手に狙われる。

「ふ、ふふ…いや、まさか…貴様の右腕に貫かれるとはな…」

「…」

嫌な予感がじわじわとする。この感覚がしたときは大抵碌なことにならない。両腕の武装をいつでも展開できるように構える。

「貴様と俺は敵同士…しかも貴様は全力でぶつかるに値するほどの敵。しかも相手は素晴らしきまでの巨乳の持ち主…。こんなに胸がときめいたのは久しぶりだ…だから、俺も…本気を出そう…!」

『…ファイヤー! 気を付けて、あいつ、奥の手どころか全力を出してすらいなかったわ!!』

「!」

弾かれたかのように、俺はリヴァイアギルディの方へと駆けだした。敵が何をしてくるか分からない。ならば、何かされる前にこっちが手を打つ!

「させるかあああああああああああああああ!!」

右腕を振りかぶって、武装を展開、回転。更に装甲を展開させ、炎のドリルを作り出す。…今、俺が行える全力の一撃を奴へと叩き込む!

「ふんその勢いは良し…だが! 既に遅し!!」

リヴァイアギルディの闘気が青色のオーラとなって身を包み、全身を彩る。そして両腕を胸の前へと構え、何かを打ち出すような体勢へと入る。

「我が巨乳属性(ラージバスト)の奥義…とくと味わえ!」

「…!!」

揺れる巨乳の一撃(バイブバストインパクト)!!」

その声と共に、放たれた奥義。それはあの時の同じような異常な振動と共に始まった。ピシリ、と何かにヒビが入る音が聞こえ、咄嗟にヤバいと感じ、前進を辞める。

「ファイヤーウォール!!」

右手と左腕を突きだし、無理矢理この攻撃を防ごうとするが、エネルギーの大波を止めるには至らなかった。バリアが途端にきしみを上げ、周りにあるあちこちの物が粉々に粉砕されていく。壁や機材、放置されているスクラップが見る見るうちに小さくなり、跡形もなく消える。

『…! 振動波!?』

通信越しで聞こえてくるレイチェルの悲鳴。その中にあるキーワード、振動に俺もようやく奴の奥義についてのからくりを見破った。

「強烈な振動による…破壊か!?」

バリアにヒビが入り、更にギアの装甲も軋むような音が聞こえた。そして俺の反応に、リヴァイアギルディは嬉しそうな声をあげる。

「その通りだ、よくぞ見破ったテイルファイヤー! 揺れる乳…乳揺れの如く、我が巨乳属性(ラージバスト)の振動を放出する! これぞ我が巨乳属性(ラージバスト)の奥義なり!!」

乳揺れ。それは文字通り、女性の乳房が動くことを意味する言葉だ。歩いたり着替えたりといった、なにげない動作でも起こせるものであり、まさに巨乳の女性にしか起こらない現象。それをリヴァイアギルディは奥義レベルの技へと昇華させたのだ。

「俺は女性ではない、巨乳でもない…だが、巨乳を愛することはできる!―そして俺は己の愛で巨乳属性(ラージバスト)で、乳揺れを起こすことに成功した!! 自らが巨乳となる…これが巨乳属性(ラージバスト)を持つ者の本分だ!!」

超音波と超振動。これを己の属性力巨乳属性(ラージバスト)で引き起こし、分子レベルで周囲を破壊する。これぞ、リヴァイアギルディの奥義であり、奥の手であった。

(だから…あの時…!!)

俺があの時吹き飛ばされたのは、叫び声と共に起こされた強烈な振動波によるものだったのだ。幸いにも咄嗟に奴が発したことで、威力が大幅に下がっており、ギアの中身が損傷を受けるだけという軽い被害を受けるだけで済んだのだ。

…だが、今のそれはあの時とは状況が違う。本気の一撃を奴は繰り出している。そしてその一撃はまさに俺を呑み込もうとしている…。

(バリアがもう…持た、ない…!)

(キョ)ォォォォォォォォォォ!」

「!!」

リヴァイアギルディの叫び声と共にバリアは砕け、テイルファイヤーは属性力の大波に呑まれ…工場が大きな音と共に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

「ほらっどうしたのですか小さき騎士(リトルナイト)!」

ギィンギィンギィン! レッドの剣とクラーケギルディのレイピアがぶつかり合う。だがテイルレッドとクラーケギルディの戦いは、レッドの方が劣勢であった。

「手数が…多すぎる!!」

レッドが苦言を漏らすが、それでも状況は変わらない。クラーケギルディは腰に巻かれている触手で突きを放つ。その単純な動作は、洗練されており、達人が放つ槍の動作に酷似していた。

「ふふふ…どうしたのです、テイルレッド。やけに苦しそうではないですか…姫に助けを読んでみてもいいのでは?」

「うるせえ! お前は、俺が倒す!! ブルーを呼ぶまでもねぇ!!」

「そうですか…ではもっと私を楽しませて下さい!」

クラーケギルディは己の全身にある触手を巧みに使い、突き、払い…触手で行えるありとあらゆる攻撃手段でレッドを翻弄していく。クラーケギルディの触手10本、腕2本。この計12本の圧倒的までの攻撃にレッド一人では裁ききれない。

「このぉ!!」

しかも隙を見つけ、レッドが剣を水平に薙ぎ払っても…。

「おっと」

クラーケギルディは面白そうに呟いて触手でガードを行い、ばいぃん…と風船を叩いたような音と共にレッドを弾き飛ばす。軟体動物である己の身体を最大限に活かした技で、力任せにやって来るレッドをカウンターで弾き飛ばしていた。

「こ、このぉ…」

弾かれたレッドは首を振りながら、剣を杖代わりに立ち上がる。その身体はフラフラで、あちこちにアザができていた。

「ふふ…どうしましたか? 戦いはまだ始まったばかりですよ?」

「…チッ!」

レッドは苛立ち混じりに舌打ちをして、剣を構えるが、その剣もまたヒビができており、息も上がっていた

(ドラグギルディとは…違う意味で強え…!)

真正面からパワー勝負で挑んできたドラグギルディとは違う強さがクラーケギルディにはあった。一つ一つの一撃は弱いものの、それを何十回も繰り返してくる。塵も積もれば山となる…まさにその言葉のように、小さな攻撃をコツコツと積み重ねて、レッドをここまで追いつめているのだ。

(一気に勝負を決めなければ…負ける! 愛香を、テイルブルーを守れない!!)

「…! オーラピラー!!」

「む?」

左腕から放たれたレーザーがクラーケギルディを捕え、絡め取るように拘束させていく。そして円柱のような空間へと変化して、クラーケギルディの身動きを封じた。彼の触手もまた拘束され、身動きを封じられる。

ここで勝負をかけるのはあまりにも無謀すぎる。だが…残る体力を振り絞って、奴を倒さなければ、本当にやられてしまう。決めるのなら…今しかない!

「ブレイク…レリーズ!!」

剣の先が変化し、そこから炎が噴き上がり、必殺技の体勢に入るレッド。それを悠然と見るクラーケギルディ。

腰部分にあるブースター『エクセリオンブースト』から膨大なエネルギーが噴出し、剣を構えたままのレッドを超スピードで加速させる。

「…これはまずいかもしれませんね」

剣の切っ先に込められた並みならぬ属性力に顔色が変わったクラーケギルディは己の属性力を解放する。

「グランド、ブレイザアアアアアアアア―――!!」

そしてレッドの掛け声と共に剣は円柱ごと切り裂く…はずであった。

「…貧乳絶壁(スモールバストクリフ)!」

その声と共に膨大な属性力を身に纏うクラーケギルディ。そして…。

「!!」

バキィィィン! …レッドの必殺の一撃は、クラーケギルディの身体を切り裂くにはいたらなかった。逆にレッドの自慢の剣、ブレイザーブレイドの刀身を、粉々に粉砕させてしまった。

「なっ……!?」

目の前で砕け散る刀身を見て、呆然とするレッド。それは当然だろう、今まで必殺技のグランドブレイザーが破られたことなど、ただの一度だってなかったのだから。

「レッド。あなたの今した行為はAカップの女性にEカップのブラジャーを与えているようなもの…つまりは、無意味な行為なのですよ」

そのグランドブレイザーが奴には通用しなかった。真正面から破られた。その衝撃で目を見開くレッドと余裕のクラーケギルディ。…状況はますます敵側へと傾いていく。

「…テイルレッド、あなたは貧乳属性(スモールバスト)の力を舐めすぎましたね。貧乳とは、貧しい胸を意味します。…ですが、貧しさは罪なのでしょうか? …私はそうは思いません。その思いと共に、私は己の属性力を高めてきました」

クラーケギルディは分かりやすく今の状況を説明していく。

「私は女性ではないですし、貧乳である姫の気持ちも分かりません。…ですが貧乳を愛することはできます!―そして私は己の愛で貧乳属性(スモールバスト)を高め…そして私の属性力は鉄壁を超える、絶壁と化したのです!!」

鉄壁はあらゆる攻撃を弾く防御。だが絶壁はその攻撃すら受けずに、全てを打ち砕く。先ほどのレッドの攻撃を真正面から砕いたように、あらゆるものを砕く最強の防御力を得ることに成功したのだ。

「…! それが…どうした!!」

レッドは砕けた剣を投げ捨て、素手だけでクラーケギルディに立ち向かう。武器が無くなったからといって、まだ負けたわけではないと云わんばかりにレッドは拳を振りかぶる。

「…(ヒン)ッッッ!」

だが、レッドの拳はクラーケギルディには届かず、しかも殴りかかった右手のアーマーが無残にも砕け散った。弾き飛ばされたレッドはそのまま、地面へと倒れる。

「あっ、はあ…ぐっ…!?」

「さあ、テイルレッド…私は姫を迎えに行かなければならないのですから…早く退いてくれませんか? こんな所で時間を潰すわけにはいかないのですよ…!!」

その言葉と共に、倒れたレッドに剣を突きつけるクラーケギルディ。それは、レッドの自信ごと打ち砕かんとする程、絶望的な状況であった…。




胸のことでこだわるこの2人にはドラグギルディみたいな奥義がなかったので、勝手に作ってしまいました。…ネーミングセンスが壊滅的にないから技名がダサい…。
攻撃の巨乳と、防御の貧乳。さて、ツインテイルズはこれに立ち向かえるのでしょうか…? 次回もお楽しみに!!

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