俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回はあまり進みません。その代わり、うちの幼女が頑張ります。


第31話 助っ人とツインテール

「光太郎!?」

レイチェルは思わずパソコンを掴み、大声で叫んでいた。ファイヤーウォールが砕け散り、敵が発する衝撃波に飲み込まれた光景を画面上で見せられ、叫ばざるを得なかった。本名で叫んでいるのにも気づかずに大声で呼びかける。

「ちょっとあんた!? 応答して、光太郎!! あたしの声に答えて!!」

映像は奴が発した衝撃波の影響で乱れに乱れ、砂嵐しか発していない。映像が分からない以上、通信で訴えかけるしかない。

『あっ…がぁ…はぁあ…』

すると蚊が鳴いたような微かな声と共に、ガラガラと瓦礫が動くような音が聞こえた。そしてノイズ混じりの映像が回復していく。

「――! あんた、大丈夫なの!?」

『耳元で…怒鳴らないでくれ…レイチェル…』

「うるっさい!! 誰だってあんたの恰好見たら心配するわよ!!」

映像に映ったテイルファイヤーの恰好は悲惨そのものだった。左腕の武装は完全に砕けて使い物にならなくなっているし、右腕だってヒビが入っている。装甲全体に亀裂が生じており、まるでテイルギアそのものが悲鳴をあげているみたいだった。自慢のツインテールも見るまでもなく汚れており、満身創痍という言葉がこれほど似合う状況がないというくらいボロボロだった。

(ギアの破損状況65%…!? これで身体に何にも影響がないのが奇跡だわね…!)

パソコンのギアのコンディションを見ながら唸る。左手はレッドアラート(危険領域)に達しており、ファイヤーウォールを使うことができない。奥の手として隠しておいた属性玉変換機構(エレメンタリーション)もイカレてしまい、使用不可能になっている。右手もダメージの損傷が酷く、ブレイクシュートが使えるのもあの1、2回が限界だろう。正直、かなりマズイ状況だ。

だが、心の底から安堵もしていた。何はともあれ、光太郎は生きていたのだ…これほど嬉しい事はない。

『ふっ…やはり生きていたか…!』

「!」

その声と共に土煙を割りながら、悠然と出てきたリヴァイアギルディはニヤリと口角を上げて笑う。その表情はまさに怪人であり、ボロボロのテイルファイヤーとは対照的に目立った外傷は肩の傷以外に見当たらなかった。

『理不尽にもほどがあるぞ畜生…!』

『まあ、そう言うな。まだ貴様と戦えるのだ…これほど胸がときめくことがあるか!』

胸の前に拳を突きだした瞬間、強烈な衝撃がファイヤーを襲う。防ぐ暇も避ける暇もなく、ファイヤーはされるがままに攻撃を食らった。

「光太郎!」

テイルファイヤーは食らった衝撃で吹っ飛び、地面に叩きつけられ、下半身のアーマーが粉々に吹き飛んだ。ギアの破損状況がさらに進む。

『さあどうした!? ワイバーンギルディを倒した時のように立ち上がってみせろ!! 人間の可能性を、巨乳の底力を俺に見せてみろ!!』

『うる、せぇ…なぁ…!!』

ガクガクと足を震わせて立つファイヤーであったが、この調子で戦っても絶対に勝てないとレイチェルは確信してしまう。ワイバーンギルディの時と状況が違い過ぎる。両者の相性が悪すぎる為、気合や根性などの精神論で戦局が変わるとかいう領域の話ではなくなっている。

『あああぁっ!?』

すると今度はレッドとクラーケギルディが戦っている方から悲鳴が聞こえる。映像を映すと、そこには剣を折られ、全身に切り傷を負ったレッドの姿が映っていた。

『ふふふ、あなたの貧乳もなかなかですね。…ただ、姫の美しさには劣りますがね!』

『…それ、ブルーが聞いていたら、発狂しているぜきっと…!!』

レッドも息絶え絶えで喋るが、それも強がりにしか聞こえない。目はどこか自信が無さげで虚ろだし、彼女の立派なツインテールも今はどこか陰りが見えていた。こちらも、このまま1対1で戦闘を続けていたら、間違いなくレッドは敗北してしまう。

「~!」

レイチェルは声にならない悲鳴をあげながら通信用のプログラムを開き、ある人物へと通信をかけ始める。今のままでは確実に2人は負ける。だったらあがきにあがいて1%や2%でも、勝てる確率を上げる。それが私の仕事だ。

「頼むわよ…! 早く出てよ…!!」

ワンコール、ツーコール…中々出ない通信先に苛立ちが募る。そして遂にその人物と連絡が繋がる。

『…誰!?』

その不機嫌そうな声色で、お目当ての人物と通信が繋がったと確信する。レイチェルはふう、と一息ついて口を開いた。

「落ち着いてくれない? …テイルブルー」

『!? 何で私の名前…』

向こうは焦ったような声をして、怪訝そうに言い返してくる。その反応を待っていた。

「自己紹介が遅れたわね。私はテイルファイヤーのマネージャーをやっている者よ」

『はぁ? マネージャー? 応援でもしているの?』

「…あなたの所にいるおっぱい科学者的なポジションの人間ってこと」

『…ああ! あんたイエローが言っていた奴!?』

「まあ、そんな所ね…」

あいつと同じという説明をするのに抵抗はあったが、こういった方が向こうも分かりやすいだろう。光太郎と同じでブルーにも難しい説明をすることを今後は避けようと決意する。

『で、巨乳で美人なテイルファイヤーさんのマネージャーが何の用?』

「あのね…妬みやひがみを今は辞めてくれない? あんた今誰とも戦っていないんでしょ? …だったらウチのファイヤーの救援に向かって欲しいのよ」

『…絶対嫌』

…その間僅か、コンマ0.1秒。やはりそう易々と協力に応じてはくれないか。画面の向こうでは頑固親父のような表情で通信に応じるブルーの姿が確認できる。

(…ま、こちとらそんな簡単に物事が進むとは考えていないけれどね…!)

ブルーとファイヤーは仲が悪いことはツインテイルズのファンの半ば常識と化している。どっちかといえば、ブルーが一方的にファイヤーを嫌っていると考えていいだろう。説は色々あるし、どれが正しいのかは誰にも分からないが、ただ一つ分かるのはこの2人が肩を並べて戦うシチュエーションは今後絶対に見ることはできないということだ。

水と炎という対極のコンビが肩を並べて戦うのは天地がひっくり返ってもありえないというのがファンの語り文句となっている。

(それをやろうってんだから、無茶苦茶な話よねぇ…)

ここからは彼女の機嫌を損ねないように、慎重に進んで交渉を行わなければならない。ハッキングをかける時に感じるような独特の緊張感がしてきて、額に浮かんだ汗を拭う。

「まあまあ、話を聞いてよ。…色々、あなたに伝えなきゃならないこともあるから、ね」

『…何よ?』

よし来た。レイチェルはブルーが撒餌に引っかかって、やってくる1匹の魚をイメージしながら話す。

「あなた、バッファローギルディは覚えている?」

『…忘れる訳ないでしょ? あの忌々しい巨乳牛を忘れられる訳ないでしょ!?』

メラメラと怒りの炎を燃やしながら、ブルーのボルテージは上がっていく。バッファローギルディ戦で見せたブルーのあの惨事はあっという間にネットやテレビで拡散され、それがブルーの不人気ぶりにますます拍車をかけていたこともあり、ブルーには忘れられない怪人らしい。

「ええ、私も流石にあれは酷いと思ったわ。あなたは必死に頑張っているのに、あんな言い方はないわよねぇ……」

『そ、そうよねぇ!! あたしだってねぇ! 一生懸命頑張っているのに…まな板とかタイラブルーとか…!!』

よしよし。繊細な性格だと思ってはいたが、意外にブルーは単純な性格なのかもしれない。

「それでね、あなたに話があるのよ。アルティメギルはここの所、胸のことばかりにこだわった怪人ばかり出しているでしょ? その理由がようやく分かったのよ」

『…どういうこと?』

来た来た、針に垂れている餌に気付いた。レイチェルはニヤリと一瞬だけ笑みを浮かべる。

「ええ、これはあくまでも推測なんだけど…」

レイチェルは分かりやすくブルーに説明した。アルティメギルは多数のチームを組んでいて、個性の分断化を図っていると。互いの自己主張で部隊が空中分解しないようにあえて戦力を分け、侵略が効率よく進むようにしていると。

しかし今回、何の因果か運命か、別々の属性力を持った2つの部隊が合流してしまっていると。部隊間の中は悪く、協調性もないと。それが相反する属性力を持った、巨乳軍団と貧乳軍団なのだと。

「…そして今、その互いの親玉が現れている。更にあんたを不人気に陥れたバッファローギルディの上司と思われるエレメリアンがウチのファイヤーと戦っている…このことが分かる?」

『…どういうことよ?』

「ふふ…」

レイチェルは大変意地が悪い笑みを浮かべて、甘く囁くようにブルーにこう言った。

「―――今、私たち側につけば、あなたはその親玉様に直接復讐ができるわよ?」

『!!』

「…勿論、無理にとは言わないわ。あなたがファイヤーを嫌っていることは百も承知。そいつと共に戦うなんてやりたくないでしょうね。でも、この機会を逃せば、あなたは二度と恨みの対象に復讐できる機会が無くなるわ…もしかしたらうちのファイヤーが倒しちゃうかも、ね。…さあ、どうするの!? 嫌っている私たちと一時的に手を取り合って復讐を成すか! それとも意地を張ったままその怒りをぶつけることなくこのまま終わるか! あなたが選ぶ道は二つに一つよ!!」

悪役か何かがやるような交渉条件ではあるが、ブルーは迷っている。彼女がそのような反応を見せていることは本気で悩んでおり、自分を信頼しきっていることだ。

(後は…!)

だがもう一押し。この交渉を確実に進める勝利の鍵がまだ残っている。恐らくはそろそろ来るはず…。

『だ、駄目に決まっているじゃないですか――!!』

来た! ニヤリとあくどい笑みを浮かべて、通信をわざと受ける。そこには自分が待ち望んでいた人物が血相を変えて通信してくる映像が映っていた。彼女を心の底から待ち望んだのは生涯で初めてのことだろう。

『テイルブルーにはあの貧乳の騎士様と戦って求婚してもらわないと困るんですよ!! あの人とブルーの貧乳はお似合い…』

『はあ!? ふざけないでよトゥアール!!』

『いや、ブルー! あの怪人こそあなたの運命の…』

『あんた、いい加減にその口閉じろ! 殺すわよ!?』

ブツブツと早口で現れた超弩級変態科学者、トゥアール。この交渉を成功させる最後の鍵が今まさに降臨した。レイチェルはスッとエンターキーを叩いて、テイルブルーのギアに密かに作っていたあるものを送信する。

『大体! あなたもどうしてブルーなんかに肩入れするのですかレ』

プツン! 丁度いい所で通信が切れた。…いや、正確にはこちらがそうするように仕向けたのだが。

『…あんた今、何したの!?』

ブルーは驚いたような声を出してきた。突然、通信が途絶えたのだから驚くのは当たり前か。

「…まあ、あの女が色々と邪魔だったから、特殊なプロテクトをかけさせてもらったわ。以後6時間に渡り、あなたはあいつからの通信を受けることが出来なくなるわ」

『何で…』

「今回の戦いを有利に進める為の策よ、あの人とは結構仲悪いみたいだし、ね」

「え…まあ、うん…結構っていうかかなりというか…」

「でも、これで信用してくれるかしら? あたしはあなたに協力したいの」

そう、レイチェルはトゥアールの妨害を止めることでブルーの信頼を得て、最後の一押しをする。普段から仲の悪いブルーとトゥアール。この関係を利用させてもらったのだ。

思い描いていたシナリオだったが、まさかこんなにも上手くいくとは。状況も数々の偶然に助けられたとはいえ、今自分ができる最高の仕事をしたつもりだ。

元々、ブルーのギアはトゥアールがかつて使っていたギアのおさがりを使っている。トゥアールがかつての設定のまま放置していたことが幸いした。昔、自分がアイツのオペレーター担当だったこともあり、裏コードなどトゥアールですら正確に把握しているか分からない部分まで全てが手に取るように分かっている。

…だから、ブルーのギアに対応したプロテクトを作り、通信妨害なんて容易いことだった。しかもトゥアールの癖などもしっかりと理解しているから、わざとあいつが解除しにくい方法で組んだし、更に解除に失敗したらパスワードなどの情報が全て変わるように設計してある。

時間さえかければ解除されてしまうかもしれないが、少なくともこの短時間でそれを突破するのは、ほぼ不可能といってもいい。

『あんた…いい仕事するじゃない…』

「ありがとう。まあ、ちょっとしたサービスよお礼はいらないわ。じゃあ…改めてお願いするわテイルブルー。うちのファイヤー、助けてくれない?」

ニヤリと悪役も真っ青な顔で交渉に励むレイチェル。後に彼女はこう語る。

『女を舐めるな、更に幼女を舐めるな』と。

 

 

 

 

 

 

「…」

神堂慧理那はジッと腕のブレスを見つめたまま、誰もいない生徒会室の椅子に腰かけ、自問自答を繰り返していた。このままでいいのかと。このままただ、後ろで控えていればいいのかと。

『私は…ヒーローに、なりたいのです…!』

思い出すのは昨夜の特訓だ。総二と愛香、トゥアールが使われていない採掘所で、慧理那に特訓をしてくれたのだ。弱いのなら強くなればいい。だから特訓をしよう! と、総二が提案してくれたのをきっかけに。

慧理那自身、そういうシチュエーションは大好きであった。ヒーローが特訓で強くなるというのはよくある話だし、燃える展開だ。

慧理那は少し前まで見せていたようないじけた目を辞めて、真剣に取り組んだ。そうでもしなければいつまでたってもツインテイルズのお荷物でしかない。レッドやブルーにくっついている訳にはいかない。

それに、いつまでもファイヤーに繋がれている訳にはいかなかった。自分一人の為に、貴重な戦力を一人潰すことはどう見てもマズイ。ファイヤーはバリバリの格闘スタイルで遠距離攻撃が主体のイエローとは壊滅的にポジションが合わない。繋がれたままだと、ファイヤーは相手の懐に入る事すらできず、イエローの電池役として全うするしかないのだから。ツインテイルズのファンとして、電池役で終わるファイヤーの姿は見ていて気持ちのいいものではなかった。

…が、慧理那の意気込みも虚しく、特訓は上手くいかなかった。総二は『ツインテールの鼓動を感じるんだ。会長の中にそれは何時だってある!』と言っていたが、それでも弾丸の威力は少し上がった程度だけ。ファイヤーと繋がった時に放たれた弾丸には及ばなかった。…これでは実戦にはとても使えない。

『もっと長い目で見よう、特訓は始まったばかりだからさ』と総二は励ましてくれたものの、それは自分には素質がないと言われているみたいで何だか悔しかった。

愛香には『世界中で笑いものにされている中、あなただけが仲間だと応援してくれた。辛いことがあっても乗り越えていけると言ってくれて、凄く嬉しかった』と励ましてくれた。また『一緒に今後も付き合ってやるけれど、辞めるとか弱気を吐いたらブレスを奪い取る』と自分を奮い立させてくれているのか脅しているのか良く分からないことも言われた。

トゥアールには『イベント満載になるはずだったゴールデンウィーク全部をそれにつぎ込んだんですからね! 責任を取って、何としても使いこなして貰わないと困るんですよ、この中古女!!』と半ば貶しているに等しい発言をされた。…すぐに愛香に半殺しの刑に処せられたけれど。あの人はどうして殴られるって分かっているのに何度も同じ過ちを繰り返すのだろうか?

ちなみに中古女とは『テイルギアを中古にしてしまった女』の略である。またえらく悪意のある略し方をしたものだ。

(あと…一歩。…あと、ほんの少しで分かりそうなのですが…!!)

そう、慧理那はテイルギアをどういった風に動くかは分かってはいる。自分の意志を動力に変えて動くデバイス。それが強ければ強いほど、ギアは答えてくれるということも十分に知っている。知っているからこそ、上手くいかない自分がもどかしい。

今の慧理那を分かりやすく例えるのならば、自転車がどういう風に動くかは知っている、ただその漕ぎ方が上手くいかない…という状況だろう。数メートル進んだだけで転んでしまうけれども、経験者からしてみればもう少しで漕ぎ出せるのに…といった感じだ。

ギアを使う時の感覚。こればかりはどうすることも出来ない。慧理那自身の感覚で掴んでいくしかないのだ。

(あの、感覚を…)

ギュッと右腕にあるブレスを握りしめ、物思いに耽る。

『俺の力をイエローへと託す! だから君は…好きなだけ撃ってくれ!!』

思い出すのは、テイルファイヤーと繋いだときのあの感覚。あの時の感覚を思い出し、ギアを扱うコツを掴めれば、今よりもマシになるかもしれない。そう思い、慧理那はイメージトレーニングを始める。

「ゆっくり…落ちついて。心の引き金に思いを乗せて…」

あの時、テイルファイヤーが耳元で呟いた言葉を囁きながら、ゆっくりとあの時の状況を振り返ってみる。

弾を放ち、ブルギルディを吹き飛ばした時に感じたあの心地いいとも言える瞬間。背中に当っていたあの人の胸の感覚、握り絞められたあの人の手の感覚、耳元で聞こえるあの人の息遣い、凛と響くあの人の声。そして…自分の身に注がれていくあの人の、炎のような熱い熱い属性力…。

(勇ましく太ましくたくましく……あの感覚。…私、私は…)

次に思い出すのは、昨夜の総二たちとの特訓だった。レッドが剣で地面を斬り抉り、ブルーが大岩をぶつけてきて、トゥアールの罵り。あの時、身体が何故か火照ったような感覚がして、少しだけ動きやすくなったような気がした。

「あぁっ…はぁっ…」

気がつけば、慧理那は身を捩じらせながら、官能的な吐息をし始めていた。体が妙に熱く感じ、無意識の内に制服を着崩す。普段の几帳面な慧理那からは考えられないような痴態を見せていた。

「はぁはぁ…あの時の……感覚を…感覚、を…」

…そして慧理那は無言で変身を遂げ、テイルイエローの姿を現す。その変身スピードは初回の時よりも早く、タイムラグも短かった。

(こ、効果が…現れて、いますわ…あんなに遅かった変身が、一瞬で…できている…)

この感覚を、今感じているこの感覚を忘れない内にギアで実践して見なくては。慧理那はよろよろとおぼつかない足取りで構える。

室内で重火器をぶっ放すわけにはいかない。だが、テイルイエローには近距離用の武装が幾つか内蔵されており、膝のアーマーにあるスタンガンもその一つだ。それを試してみようと決意する。

「で、では…行きます…わよ」

スタンガンを起動させようとした瞬間、ザザッというノイズが耳元から聞こえてくる。

「!?」

思わず、慧理那は立ち上がった。それから間もなく、聞き覚えのある人物からの通信がかかってくる。切羽詰っているのか、焦ったような吐息が聞こえてきた。

『…ああ、良かった! あなたにも通じた!!』

「!? あ、あなたはテイルファイヤーの…」

『ええ! そうよ、久しぶりねテイルイエロー!!』

そう、それはテイルファイヤーのマネージャーからの通信だった。

『あなた今、どこにいるの!?』

「わ、私は鍛錬をしていましたわ!」

突然のテイルファイヤーのマネージャーからのコールに驚いたものの、しっかりと受け答えをする。今自分は何をしているのか…全てを伝えると、相手は満足したような声をする。

『…そう、都合がいいわ。今ね、レッドとファイヤーが敵と戦っているの!』

「!」

『映像、そっちに送るわ!』

パッと目の前に映像が映し出され、思わず悲鳴が上がった。

テイルファイヤーは拳が砕け散り、倒れており、レッドは剣が折れ、地面に転がっていた。

二人とも全身傷だらけで、満身創痍であった。そんな彼女らに対するのは海竜型と海洋型のエレメリアン。2体とも余裕そうに立っており、相手を見下している。

「これ…!!」

『そう、前に現れた2体のエレメリアンよ! …こいつらは強いわ、あなたの力を借りたいの!!』

「わ、私の…!?」

自分の力を借りる…? 通信から聞こえてきたその言葉に固まってしまう慧理那。

この映像が本物なら、レッドとファイヤーがピンチだ。このままではやられてしまう。…でも、自分が行ったところで何かできるのだろうか? 属性力もまともに扱えない自分が…弾丸をまともに扱う事すらできない自分が。

『このままだとファイヤーとレッドは確実に負けるわ!! 1対1じゃあいつらには勝てないの!! でも、あなたがいればその確率は上がるわ!! 少なくとも、反撃の糸を掴める!!』

「…あ、ああ…」

慧理那は震えていた。テレビの前のヒーローだったらすぐさま行くのだろう。通信を切って、颯爽と駆け出し、敵の前へ現れるのだろう。

…でも、自分は、神堂慧理那は果たしてツインテイルズの危機を救うことが出来るのか? 行った方がいいのは頭では理解できている、ただ自分が加わったことで更なるピンチに陥ってしまうのではないか…。

『…じゃあ、質問を変えるわ。この際、あんたの理屈や信念、迷いなんかは関係ない! たった一つの質問に答えて! あなたの本心を聞かせて! あんたは『どうしたいの』!?』

「…!」

『本当のあんたは、胸の底にある本当の答えは何!? 答えて!!』

「わ、私…!」

『テイルイエロー!! 本当のあなたを、ありのままの姿を私に見せて!!!』

その絶叫は、何故か慧理那の心に深く響いた。本当のあなたを見せて…本心を見せて、答えて。

神堂家の一人娘でもなく、生徒会長の立場でもない。ただの神堂慧理那としての本心を、ありのままの答えを通信先の人物は欲している。そしてマネージャーの相棒のテイルファイヤーも欲している。

「わ、私の、私の本心は――!」

どうしたいか? …そんなの、決まっているではないか。自分がいつも思い描いていた、本物のヒーローがするべきことは、ここでやるべきことは、言うべきことは、ただ一つしかないではない。

レッドやファイヤー、ブルーがいつもやっていることだ。あの時、自分と繋いで励まして、握りしめて、抱きしめてくれた…あの人たちがいつも、いつもやってくれたことを私はやりたい! あの人の、ツインテイルズを――。

「――助けたいですわ!! 弱きを助けて、悪を倒す!! それが、本物のヒーローなのですから!!」

『―いいわ、イエロー!! 凄くいい、ありがとう! じゃあ、ここが今戦っている場所よ!』

すると慧理那の脳裏にタイプライターが打ち込まれたかのように詳しい地図の情報が教えられる。

『ええと…あなた、転送の装置、持っている?』

「ええ。トゥ…私たちのコマンダーが用意してくれていますわ」

危うくトゥアールの名前を出しそうになり慌てて留まる。うっかり名前を出してはいけない。こういうのは、仲間になってから正式に明かす方が盛り上がりが今後の展開的においしい。

『そう…じゃあ至急急いで! …それと、さっきのあんた、凄くカッコよかったわ! …この間、あんたを足手まといなんて言っちゃって、謝らなくちゃね』

「え…」

『あんたは立派なツインテイルズの一員よ。その考えを、本心を出せたのなら…ギアはあなたの声に、きっと答えてくれる』

待っているわテイルイエロー、という言葉を最後に通信は切れた。

「ありのままの、私を…本心を…」

不思議と身体が軽い気がする。重い荷物を降ろして、一時的に軽くなったような、そんな気分だ。

「…ありのままの私を、皆に見せますわ!」

慧理那は生徒会室の窓を開け、恐れもためらいも感じないで飛び降りた。そして、懐に忍ばせておいた転送用のペンを掲げ、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

事態は一向に良くならない。

左手の装甲は砕けたし、右手ももうもたない。ワイバーンギルディ戦よりも事態は悪化する一方だ。

「はぁ…はぁ…このぉ!」

「ぬがぉ!?」

ドゴォ! 満身創痍の身体を引きずって、リヴァイアギルディの顎にアッパーを当てて吹き飛ばす。

「ぁっ!?」

だが、途端にファイヤーの声にならない悲鳴が上がる。殴った瞬間に左手に痛みが走った。

装甲が砕けて裸拳で殴ったせいか、殴る自分にもその強烈な反動が弾き返っている気がする。身体を覆っているフォトンアブゾーバーもまともに機能していないのかもしれない。

(けど…倒れるのは、まだだ…。例え、倒れても、前のめりに…!)

殴られたリヴァイアギルディは地面を転がったが、それほど遠くには行かなかった。尻尾を錨のように地面に突き刺し、それが原因で奴を止めたのだ。…くそ、こいついい加減に…。

「馬鹿め!」

「!?」

すると僅かな隙を突いて、リヴァイアギルディの尻尾の先端が開いて勢いよく突きだした。そしてそれは猛スピードで接近し、ファイヤーの喉元を掴む。

「あぐっぅ!?」

いきなり喉を掴まれ、声にならない悲鳴と息苦しさが襲う。そしてリヴァイアギルディが勝負あったという顔になる。

「…油断し過ぎだ、テイルファイヤー! 勝負が決まらぬ内に気を緩めるのは3流のすることだ!」

尾がリヴァイアギルディの方へ戻されると、捕えられたファイヤーはなすすべもなく奴の方へとずるずると引きずられる。

「ぐ…!?」

何とかファイヤーは尻尾を殴って脱出しようとしているが、首を絞められた状態ではまともなパンチを放つこともできない。

(やば…意識が…!?)

意識が飛びそうになるのを必死で堪えるが、ほぼ酸欠状態のファイヤーはいつ意識を失ってもおかしくはなかった。

「安心しろ、貴様のツインテールだけを奪…!?」

だが次の瞬間、何かがめり込んだ音と共に、リヴァイアギルディの声が途切れ、彼の小さな悲鳴が聞こえた。

「!?」

その途端に喉を掴んでいた尻尾が力を緩めた。ファイヤーは何とか首を絞めていた尻尾を解き、後ずさる。

ゲホゲホと喉を撫でながら顔を上げると、そこには自分の見知った人物が平然と延髄蹴りを放っている光景が目に映った。そして駄目押しの顎蹴りを放つと、悠然と俺の前へと着地する。そしてようやくその人物の全貌が明らかとなった。

青色のスーツに、露出が高いデザインに透き通るような青色のツインテール。世間からの人気が無いに等しいが、戦闘力はツインテイルズ一と言われている戦士。…その名は。

「て、テイルブルー?」

喉を擦りながら信じられないような目でブルーを見た。いつもは俺のことなんて気にも止めないはずなのにどうして助けるみたいな行動を…?

「…何情けない顔してんのあんた!」

「はい!?」

すると途端にブルーは怒りの形相で詰め寄ってきた。

「え、あ、いやその…」

「あんたいつもそんなんじゃないでしょ!? 何でとっととやっつけないの!? そんなにボロボロになって、何なの? ドMなのあんた!?」

「いや…そんなこと言われても……あいつ強いですし…」

「情けない事言うなぁ、あたしよりも巨乳の癖に!!」

「は、はい!」

ブルーはジト目で見下すと、俺の腕を掴んで無理矢理立たせられる。俺も理解が追いつかないから、きっとかなり馬鹿みたいな顔してるんだろうな。

「ったく、人がせっかく助けに来たのになんて情けない…あたしよりも人気があるくせに…。いっつもあんたがおいしい所全部持って行くのに、何であたしが助けに来なきゃならないのかしら…あの子の頼みじゃなかったらあんたなんてねぇ…」

ぶつぶつとブルーの小言が俺に聞こえる。それも語り出したら止まらない勢いでだ。

「あ、あの~」

「何!?」

鬼のような形相で俺を見るブルー。正直怖すぎるけど、ここは双方の今後の為にも一歩近づきたい。

「い、いや、何で助けに来てくれたのかなぁ~って思って…ほ、ほら、私たちあまり仲、よくないじゃないですか…その、巨乳、嫌いみたいですし…」

「……あんたよく分かっているわねぇ…!」

いや、あなたが前言っていたことですしね、巨乳嫌いは…。

ブルーはハン、とため息をついて不本意ながら俺を見る。

「…勘違いしないでよ。あたしはあんたを助けた訳じゃないわ…あいつが憎いから、倒す。それだけよ」

「は…はぁ…」

ブルーはそれだけを冷たく言うと、リヴァイアギルディを睨みつけた。…敵の敵は味方ってやつなのか。でも今は、救援に来てくれただけでもありがたい。

「…………それと、あんたを見捨てたらレッドが悲しむからね」

「はい?」

「何でもない! とっととあんたは下がってなさい!」

「り、了解です!!」

ぼそぼそと何か呟いたらしいブルーに怒鳴られ、俺はそのまま更に後方へと下がる。そしてブルーは悠然と愛用の槍を取り出し、それをリヴァイアギルディに突きつけた。

「さあ…勝負よ、この巨乳怪人!」

 

 

 

 

 

 

「うぉりゃあ!!」

「無駄です」

「!」

レッドは渾身の左ストレートを放つが、クラーケギルディの触手に遮られる。そして左手のアーマーにヒビが入る。もう左手も限界に近づいているのか…。

「この…!」

続けて飛び上がると、回し蹴りを放つが、それも難なく防がれてしまう。

「…あなたでは私には勝てませんよ」

「いいや、まだだ!」

レッドはもう1本の剣を取り出し、猛然とクラーケギルディ目がけて振り下ろした。

「ツインテールなだけに剣は2本あるんだよ!!」

倒れるとしても一太刀でもいいから奴に与える。その思いが剣の刀身に膨大な属性力を込めさせる。だが…。

(ヒン)ッッッ!」

「!」

無残にもその一撃は奴が作り出した貧乳の壁に遮られ、剣は真っ二つにへし折られた。刀身と取っ手が綺麗に分かれ、地面を転がる。レッドも地面に身体を叩きつけられた。

「…くそ!」

「どうやら、ここまでのようですね」

クラーケギルディは持っていたレイピアを倒れているテイルレッド目がけて突きだした。

(…これで、終わるのか!?)

これまでのツインテールに対する愛が、レッドの頭を一瞬のうちに駆け巡っていく。

(これで…終わり…?)

レッドが無念そうに歯を食いしばり、自分へと近づいてくるレイピアを見つめたその瞬間であった。

ガァン! 突然、どこからか飛んできた弾丸が、クラーケギルディのレイピアを弾き飛ばし、目の前で攻撃を妨害した。

「え…!?」

今、誰かが助けてくれた? ――援軍か?

「…誰ですか、決闘を妨害した不届き者は!?」

弾丸が飛んできたのはここからすぐ近くのようだった。クラーケギルディはどこに伏兵が潜んでいるのか探している。

「…このツインテールの気配は!?」

だがレッドには弾丸を放った人物が誰なのか分かった。辺りに感じるツインテールの感覚を探り、それを追った先に、その人物はいた。

廃工場の入り口。むき出しの鉄骨の横には、手には一丁の山吹色の銃。その銃口からは煙が昇っており、今まさに弾丸を発射したような形跡があった。

「…何とか、間に合いましたわね」

その言葉と共に佇む人物は、悠然と笑った。黄色の装甲と豊潤なスタイル、そして麗しいほどのツインテールが風に揺れていた。

「テイル…イエロー!?」

レッドの声に、イエローは銃を構え、呼び声に応じる。

「ええ、テイルイエロー! 遅れながらもただ今参上ですわ!!」

その戦士の名はテイルイエロー。雷を司る4人目の戦士が今、戦場へと降臨した。




今回、レイチェルがブルーと通信している際の顔は「ゲス顔をしている幼女」といったイメージでいてください。
ちなみにイエローと通信している際の顔は「綺麗な顔をしている幼女」といったイメージです。
…女って怖いね! では次回もお楽しみに!!

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