俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero 作:IMBEL
「テイルイエロー…だと!?」
クラーケギルディは弾かれたレイピアを触手で拾い、目の前に悠然と構えるツインテール戦士に向かって叫ぶ。
「ええ、その通りです! 通称、雷の狙撃手! 第4の戦士、テイルイエローとは私のことですわ!」
「…そんな通り名あったっけ?」
レッドは記憶を探ってみるがそんな通り名を言われたことも言ったことも覚えがなかった。
「そこはツッコんではいけませんわ、レッド…! ヒーローは知らない内に決め台詞や武器の使い方を知っているものなのですわ!」
「あ、ごめん…」
イエローが真剣な表情でそんなこと言うもんだから、ついレッドも反射的にそう答えてしまった。
ああ、会長…きっと憧れのヒーローのシチュエーションを再現しようとしているんだろうな。だから無駄な通り名や技の名前とかに凝っているのか。もしかしたら今まで一人で技名のあれこれを考えていたのかもしれない。
「レッド…私は…私はもう、迷いませんわ!! 私に世界を救えるだけのツインテール属性があるかどうか分かりません、本当に戦えるのかも分かりません。…それでも、私を信じてくれたあなたの心に、報いたいのですわ!!」
「イエロー…」
「…さあ、クラーケギルディ! ここからは私が代わりにあなたの相手になりますわ!!」
スッとイエローはテイルファイヤーがするような格闘戦を挑むようなスタイルで構え、クラーケギルディを迎え撃つ。
「ふん、馬鹿な! ファイヤーに引かれていなければ弾一つ放つことも出来ない下品な乳の少女の癖に!」
「その下劣さと向き合い、一皮剥けた私は今までと違いましてよ!」
そう言い終わると、何故かイエローはクラーケギルディへと突進していった。
「…!? おいイエロー! 何で重火器を持っているのに接近戦を挑むんだ!?」
「ヒーローは拳1つで勝負するものですわ! 大丈夫です、任せて下さい!!」
「いや、イエローのギアは後方で弾幕を張るのが…!」
「スペック的には大丈夫ですわ! 見ていてくださいまし、私の真の初陣を!!」
「いやそういうことじゃ…頼む、話を聞いてくれぇ!」
レッドは頭を抱えて叫んだ。駄目だ、イエローは今までの面子と違った意味で残念になっている。自分のギアの特性を完全無視した戦法でクラーケギルディと戦うおうとしているのか、ヒーロー好きという趣味が悪い意味で反映されていた。
クラーケギルディもポカンとしていたが、すぐに戦士の顔へと戻り、接近してきたイエローとインファイトを繰り広げる。
「はああああああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
両者共にぶつかり合い、手と手を合わせて組み合う。両者共に力は互角で一歩も引けを取らない。だが…。
「はやくどけ、私は姫を迎えに行かなければならないのだ…貴様に構っている時間などない!!」
「く…!?」
ギギギとイエローの装甲に触手が絡まることで悲鳴をあげ、イエローが押され始める。触手を解放したことで自らの攻撃力を底上げしているらしい。
「くらえ、巨乳の少女! 我が触手のワルツを!」
するりと後方の触手がうねり、槍のように鋭くなる。
「! 逃げろ、イエロー!!」
レッドが吠えた。その攻撃に散々やられてきたレッドは自分の二の舞にイエローもなると咄嗟に感じた。
そして次の瞬間、イエロー目がけて触手の槍の攻撃が襲う。豪快にして変幻自在。それがクラーケギルディの触手。そしてイエローの装甲を削る音がし、クラーケギルディの高笑いが聞こえる。
「ふはははは! どうだ!?」
「…効きませんわ、そんな攻撃!」
「何!?」
イエローはニヤリと笑って、突きだしてきた触手を掴みとる。
「貴様、肩の装甲で受け止めたのか…!?」
「ご名答ですわ!」
そう、イエローは自らの厚い装甲を盾代わりに使用して、クラーケギルディの触手を防いでいたのだ。単体での威力は低い触手では、装甲が厚いイエローのギアを貫くことはできずに、ただ錨のように突き刺さっているだけであった。
そしてイエローは掴んだ触手をたぐり寄せ、攻撃の態勢に入る。
「くらいなさい、プラズマニー!!」
「ぬがおおおおおおおおお!?」
膝元の内蔵式スタンガンと膝蹴りを同時にくらったクラーケギルディは悲鳴をあげた。貫通するまでには至らなかったが、カウンター気味に電撃付きの膝蹴りを腹部に叩き込まれたそれは確かなダメージとなり、クラーケギルディを襲う。
「まだですわ! ダブルレールガン!!」
「ぬぉう!?」
「ツインニードル!!」
「があっ!?」
腰に装備された砲口と爪先のニードルガンが電のように火を噴き、クラーケギルディを吹き飛ばした。装甲に突き刺さっている触手は吹っ飛ばされた拍子に千切れ、ブラブラとイエローの装甲にぶら下がっている。それを引き抜き、地面へと落として敵を一瞥するイエローの姿はまさにヒーローだった。
「す、すげぇ…完全にイエローがギアを使いこなせている…!」
「ふふ、だから言ったでしょうレッド、任せて下さい、と」
「ああ、しっかりと使いこなせてはいるんだけど…」
イエローがしっかりギアを使いこなせていることは分かった。だが、わざわざ遠距離武器を互いの手が届くほどの距離で放つことのメリットがレッドにはどうしても分からないのだが…。
「…もっと……私を見て、くれますかレッド? こんな…私を…ありのままの、私を!」
「ああ、いつまでも見てやるぜイエロー! 今のイエローは最高にカッコいいぞ! ツインテールも喜んでいるみたいだ!」
「あ、ありがとう…ございます…!」
イエローは顔を赤くしながら、レッドに感謝の気持ちを述べた。そのことでイエローにますます自信がみなぎってくる。本当の自分を見てくれる人がいる。それがイエローの身体を火照らせ、力へと変わっていく。
そしてここにはいないが自分と繋いでくれたファイヤーが、自分を変えてくれる言葉を言ってくれたファイヤーのマネージャーが。どこか自信がなかったイエローの殻を破り、戦士へと変えてくれた者たちの存在が、イエローを支えている。
「行け、イエロー! ヒーローになる時は今しかないぞ!!」
「は、はい! あ…で、でも…私……もっと、自分をさらけ出したい…ですわ。はぁん……」
…だが、どこか駄目な方向へと剥けてしまったイエローに、レッドは残念ながら気づくことが出来なかった。そして多分、イエロー自身も「火照った身体に服が邪魔だ」と思い始めていることに気づいていなかった。
イエローがもうすぐ、とんでもない惨事を引き起こしてしまうことになろうとは、まだこの時点では誰も知らないでいたのだ。
※
津辺愛香は、テイルブルーは巨乳が嫌いだった。大きい胸が何よりも嫌いだった。
何故か? …それは自分の姉という存在が大きく関係していた。
自分よりも女らしくて、綺麗で、スタイルも良くて…。身近にいればいるほど羨ましく、妬ましく感じてしまう。姉にはあって何故自分にはない? 何故バストが72のままなんだ?
長年培ってきたそれは積もり積もって、今の愛香を大きく形成するコンプレックスとなった。最近は特にそれが酷いことになっている。
そして最近になって嫌いな理由がもう一つ増えた。それは自分と同じツインテイルズの一員であり、正体が一切分からない謎の戦士、テイルファイヤーのことだ。
どこか情けなさそうな空気をしているのに、戦闘になると空気が変わり、拳一つで戦う戦士。移動するたびに揺れ、妬ましく感じる巨乳の持ち主。レッドの姉、母、いや未来のレッド自身ではないか…正体は一切不明だが、レッドも信頼しきっている人物。それが愛香は気に入らなかった。
格闘経験のある愛香からしてみれば素人丸出しの戦い方なのに、傷つきながらも無理やり前へと出るその戦法。肉弾戦へと持ち込み、受けなくてもいいダメージを負いながら戦い、自分の身も案じていないと思われる無茶苦茶さ。そしてそんな無理矢理な戦法で毎回勝利すること。そしてそんな彼女に嫉妬してしまう自分…全てに腹が立った。
だから、あいつのマネージャーに助けを求められて、いざあいつらが戦っている舞台に来ても、素直に飛び出せる勇気がなかった。
あの時、つい「やる!」と言ってしまったものの、どうせあいつはここから逆転するんでしょ、ワイバーンギルディの時みたいに…と冷めた目で、鉄骨の陰から工場の入り口を見ていた。中では殴り合う音やぶつかり合う音が聞こえる。きっと中でドンパチ賑やかにやっているのだろう。きっとあいつが今頃テレビのヒーローみたいな逆転劇を繰り広げているに違いない。
(…あいつ、いつもそうなんだから…いつも遅れてやってくる癖に、美味しい所だけ持ってっちゃって…!)
「あぐっぅ!?」
「?」
と、ここでくごもったファイヤーの悲鳴が聞こえ、ブルーは少しだけ気になった。そして、ひょいとそこを覗いて…愕然とした。
(…あいつ!?)
なんとそこにはリヴァイアギルディの尻尾に首を絞められ、苦しそうなファイヤーがいたのだから。いつもの凛々しいあいつらしくもない、弱弱しく、折れそうな表情だった。
そして首を絞められ、今にも倒れそうなほどに顔色が悪くなっている。尻尾が捲きついているせいで、酸欠寸前のような様子で引きずられていた。
(…!)
一瞬、ほんの一瞬だけ足が止まったが…直ぐにブルーは走り出した。考えるのよりも先に身体が動いてしまったのだ。
(あたしは…全く、本当に馬鹿よね!!)
いくら嫌いなファイヤーでも、あれは流石に見逃せなかった。絞め技は使い方一つで命まで奪いかねない危険な技だ。あのままでは本当に死んでしまうかもしれない。
…それに、あんな弱弱しいファイヤーの顔が反射的にムカついた。いつもあたしよりも人気があるくせに、あんなに凛々しいあいつが、なんて情けない顔をしているのだろう。
ブルーは憤りと奇妙な義務感に突き動かせるように飛び上がり、蹴りの体勢に入る。
「安心しろ、貴様のツインテールだけを奪…!?」
ゴリッ! 嫌な音と共にリヴァイアギルディの延髄を無言で蹴り、体勢を崩した。そしてその隙を見逃さずに、がら空きの顎を蹴りで蹴り飛ばす。
するとリヴァイアギルディの尻尾から抜け出して喉を抑えているファイヤーの姿が映った。
「て、テイルブルー?」
喉を擦りながら信じられないような目でブルーを見つめるファイヤー。喉を絞められ、涙目になっている。…それが無性に腹が立った。
「…何情けない顔してんのあんた!」
「はい!?」
そしてブルーは無意識の内にファイヤーに詰め寄っておっかない声色で話しかけた。
「え、あ、いやその…」
「あんたいつもそんなんじゃないでしょ!? 何でとっととやっつけないの!? そんなにボロボロになって、何なの? ドMなのあんた!?」
「いや…そんなこと言われても……あいつ強いですし…」
「情けない事言うなぁ、あたしよりも巨乳の癖に!!」
「は、はい!」
ブルーはジト目で見下すと、腕を引っ張って無理矢理立たせた。
全くこいつはぁ…! 無駄にアンダースーツを破らせて、露出を高めさせているし…。何だ、こいつはそういった露出趣味でもあるのか!? またあいつの情けない顔を見るとムカムカと苛立ちが激しくなる。
「ったく、人がせっかく助けに来たのになんて情けない…あたしよりも人気があるくせに…。いっつもあんたがおいしい所全部持って行くのに、何であたしが助けに来なきゃならないのかしら…あの子の頼みじゃなかったらあんたなんてねぇ…」
ぶつぶつと本人が目の前にいるのにも関わらず、文句が波のように押し寄せてくる。…ムカつくけど、そういうところは自分が嫌っている超弩級変態女科学者に似てきているのかもしれない。
「あ、あの~」
「何!?」
思わず、とんでもないトーンで睨みつけてしまう。…直ぐに自己嫌悪が押し寄せてくるが、律儀にもファイヤーはブルーの精神を逆なでしにきた。
「い、いや、何で助けに来てくれたのかなぁ~って思って…ほ、ほら、私たちあまり仲、よくないじゃないですか…その、巨乳も、嫌いみたいですし…」
「……あんたよく分かっているわねぇ…!」
こいつ、わざと言っているんじゃないだろうか? …あたしがファイヤーを嫌いな第一の理由であるその胸をこれでもかと見せつけやがって。
ブルーはハン、とわざとらしくため息をついてファイヤーを見た。谷間を潰したい衝動を必死で抑え、苛立ち混じりの言葉を吐く。
「…勘違いしないでよ。あたしはあんたを助けた訳じゃないわ…あいつが憎いから、倒す。それだけよ」
ブルーはそれだけを冷たく言うと、リヴァイアギルディを睨みつけた。こいつは確かにムカつくけど、それ以上にムカつく奴が目の前にいる。あんたの部下の責任を、しっかり上司であるコイツに払って貰わなければこっちの怒りが収まらない。部下の責任は上司の責任という地球の言葉を侵略者にも叩きこまなければ。
「…………それと、あんたを見捨てたら、うちのレッドが悲しむからね」
「…はい?」
「何でもない! とっととあんたは下がってなさい!」
「り、了解です!!」
こいつ、思わず呟いてしまった独り言を聞き耳立てていやがった。全く…。
ファイヤーはそのまま更に後方へと下がり、観戦モードに入った。そしてブルーは悠然と愛用の槍を取り出し、それをリヴァイアギルディに突きつけた。
「さあ…勝負よ、この巨乳怪人!」
そのタンカと共にブルーは、リヴァイアギルディへと突撃していった。
※
早い。俺の驚きと共に、ブルーはあっという間にリヴァイアギルディとの距離を詰め、槍を振りかぶった。だがリヴァイアギルディもそれを黙って見ている訳でもなく、股の間から伸びている尻尾を振り、転がっているスクラップをブルーへとピンボールのように投げつける。
「ふん…!」
だがブルーは慌てずに、左腕に内蔵されている、
「属性玉…
脚力強化をもののコンマ数秒で済ませたブルーはぱっと地面を蹴って、空中で身体を捻り、跳んできたスクラップを回避する。
「はあっ!!」
そして真上にあるワイヤー機器を槍で切断し、それをリヴァイアギルディ目がけてブン投げた。その一連の流れはあまりにも洗練されており、力押しで進む俺とは違った戦い方であった。
「その攻撃は見えている!」
だがリヴァイアギルディの反応もまた驚くほど速かった。自身の属性力を解放し、威力を抑えた振動波を前方で押し出すことでワイヤーを粉砕する。
「分かって…いるわよぉ!!」
「何!?」
ブルーは慌てず騒がず、壁を蹴り、高速で距離を詰めて接近戦を開始する。長い槍のリーチを活かした戦法でチクチクとリヴァイアギルディにダメージを与えていく。
「はあ! りゃあ! だあ!!」
「ぐ…!?」
脛を狙い、一瞬だけ行動を封じたその隙に顔面へと槍を叩き入れ、また距離を取る。ヒットアンドアウェイ戦法でブルーは戦闘を自分のペースへと持ち込んでいっている。
敵もブルーが適度に近づいているので、あの全力の衝撃波を出そうにも出せないでいる。こうも貼り付けられたら自分までも巻き込まれかねないからだ。だが…。
「うわっ、うわっ!?」
ブルーの攻撃の余波がこっちにまで飛んでくるのだ。槍で突いたりするたびにブルーの驚異的な属性力の余波が周囲に飛び散り、時折それは俺にまで襲い掛かる。なんとか回避できてはいるが、このままではこの工場ごと潰れかねない。
「も、もう少し場所を考えてー!?」
「ああ!? あんた巨乳なんでしょ!? そのくらい我慢して!!」
「情けないぞテイルファイヤー!! ツインテイルズ一の巨乳の持ち主が弱気な発言をするな!」
「あんたたち、巨乳を理由に全ての問題を解決できるとは思わないでくれ!!」
駄目だ、ヒートアップしてしまったブルーやリヴァイアギルディには言葉が通じない。胸の争いは二人を更なる境地へと誘う。
「巨乳、死すべし!!」
「貧乳、滅ぶべし!!」
テイルブルーの目が鋭く光ると、槍の柄を使って大きく薙ぎ払うが、リヴァイアギルディもまた自身の尻尾を槍状に変化させて受け止める。
「…見事な槍使いだが、俺の武器は巨乳だけではないぞ!」
「!」
更にリヴァイアギルディはやっかいなブルーの槍を自分の尻尾で巻きつけ、弾き飛ばそうとする。
剣道三倍段という言葉がある。素手で剣道有段者に勝つには、剣道の段位の三倍の段位の実力が必要だということだ。また、剣道の高段者が、薙刀をもった初段に手も足も出ないでやられたという話もある。…つまりはリーチがあればあるほど戦いを有利に持ち運ぶことが出来るのだ。
つまりはリヴァイアギルディの槍を排除するといったこの考えは非常に理にかなっているのだが…。
「悪かったわね…あたしは
次の瞬間、ブルーは槍をギアの中へ戻し、すぐさま素手での戦いに切り替えた。対象物を失ったリヴァイアギルディの尻尾は虚しく空を切る。
「ふんっ!」
「ぐがぁ!?」
その隙にブルーのみぞ撃ちが決まる。このまさかの攻撃にリヴァイアギルディはくの字に身体が折れ曲がり、床へと叩きつけられた。
スピード特化型のブルーは、本来は接近戦には向かないはずであり、槍を使ってのヒットアンドアウェイ戦法が基本となる。だが変身者の愛香は自身の驚異的な格闘センスでその欠点を穴埋めし、きちんと拳での戦いにも対応できているのだ。
「ぐぐっ!?」
立ち上がろうとしたリヴァイアギルディは思わず一瞬、膝をつきそうになった。ブルーの攻撃に合わせて、ファイヤーから受けた傷、そして彼女に放った
だが、それで言い訳はしない。一度受けた戦闘に、そのような言い訳を持ち込むのは情けない。戦士として生きるリヴァイアギルディにとって言い訳とは、最も恥ずべき行為の一つ。
このままでは…負ける。そう思ったときだった。何かが音を立てて崩れたような感覚が襲った。
俺が負ける…? この俺が…あんな貧乳の小娘如きに、負けるだと?
その瞬間、リヴァイアギルディの中で、何かが吹っ切れた。
「この俺を…リヴァイアギルディを!
「きゃあああああああ!?」
薙ぎ払うような属性力の解放による一撃が、ブルーを吹き飛ばした。宙に舞い上がったブルーの首をリヴァイアギルディは尻尾でねしあげ、壁へと押し上げる。
「調子に乗るなよ貧乳の姫君! 俺は
「うるっさいわねぇ…! さっきから貧乳貧乳貧乳貧乳…うるっさいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ブルーは青筋を浮かべながら殴ろうとするが、首をねじ上げられてはその威力も半減以下となっていた。
「この一撃で…終わらせる!」
リヴァイアギルディの属性力が青色のオーラとなって身を包み、全身を彩る。
「! 逃げろブルー!!」
咄嗟に叫ぶが、それが何の意味もなさないことは俺自身一番分かっている事だった。
リヴァイアギルディはあの振動波を出そうとしている。あの距離からあの技を出されたら、ひとたまりもないだろう。それはリヴァイアギルディも分かっているはずだ、自分自身も衝撃波に巻き込まれる可能性があるのに、それでもかまわずに放とうとしている。
「くそっ!」
たまらず飛び出した。走るごとに身体に痛みが走るが気にしてられない。そして両腕を胸の前へと構え、まさに奥義を放とうとするリヴァイアギルディの顔面目がけて、右拳をぶち込んだ。
「!」
不意打ち気味にぶち込んだそれは、綺麗にリヴァイアギルディの顔面に入り、先ほどの焼き直しのように吹き飛ばした。吹き飛んだことで溜めていた属性力が四散し、奥義は不発に終わる。
「あ、あんた…」
ゲホゲホとむせるブルーの背中を叩いて、何とか落ち着かせようとする。
「あいつ、衝撃波を放つんですよ。俺もあれでやられましたし…」
「はやく、それ言いなさいよね…!」
だからあの時ワイヤーが…とブツブツブルーは呟く。
「…言ったってあなたちゃんとあの状況で聞けていましたか?」
「………聞けていないと思うわ」
「ほら」
ブルーは胸の話題になると、どうも頭に血が上るんだよなぁ…それが弱点となりかねない。それに敵は巨乳を司る敵。…相性は最悪といったところか。
(…こりゃ、もう少し頑張らないとな…)
拳を握りしめて、よいしょと立ち上がる。
「…で、ここは一つ共闘といきません?」
「はぁ?」
「俺とあなた、二人であいつを倒すんですよ」
「…あんた…正気? それとも馬鹿なの?」
ブルーは悪魔でも見るような目で俺を見てきたが、失礼な、俺は何時だって真面目だ。
ブルーはこのボロボロな俺が戦線に復帰するのを良しとしていないのか、それとも巨乳の俺の手を借りたくないのか…真意は定かではない。
だが、確実に分かることがある。あいつは、俺だけでも、ブルーだけでも倒すことは難しい。前者は戦闘スタイルの相性的に、後者は胸囲的な意味で相性が悪すぎるから。
だが…共闘すれば、互いの欠点をカバーすれば勝率は上がる。2体1で戦う事やぶっつけ本番で戦うなど不確定要素が多すぎるが、それでも勝つためにはこれしかないのが現状だ。
「俺はあいつを倒したい、あなたはあいつが憎い…奇しくも目的は一緒です。あなたが俺を嫌っているのは百も承知です、一緒に何て…と思うかもしれません。でも、俺たちの戦いは必ず勝たなければならない戦いなんです!!」
「…」
ブルーは何かを考えるような表情になる。
「ここで負けたら俺たちのツインテールが…いや、世界中のツインテールが奪われます。それだけは絶対に避けなければなりません」
俺が奪われるのならばまだしも、レッドやブルーのツインテールは奪われる訳には絶対にいかない。女の子のツインテールだけは絶対に死守しなければならない。それが男として、テイルファイヤーとしての意地だ。
「だからお願いです…俺と、俺と共に戦ってくれませんか!?」
精一杯の声と共に、俺はブルーの手を握る。
「あんた…」
「それとも、あなただけであいつに勝つ自信ありますか? …言っちゃなんですけど、あいつ強いですよ…!」
「わ、分かっているわよ、そんなこと…!」
ブルーはしばらく考えるようなそぶりを見せる。やはりリヴァイアギルディの実力とその奥義の恐ろしさを味わったのか、即答で断る事は出来ずにいるらしい。
そしてようやく決心したのか、俺に向き合った。
「もの凄くね…ものっっっっっ凄く不本意だけど、あんたと協力するわ…だってあいつを倒すにはそれしか方法がないもん」
「あ、ありがとうございます…」
「~! また、情けない顔しないで!」
ぺちんと軽く頭を叩かれた。…痛いよ、ブルー。
「確かにあんたは憎むべき敵、巨乳よ…でもね、あいつは巨乳を力に変えて戦う怪人。だったら優先順位はそっちに映るわ」
あ、やっぱりそう簡単に憎しみはなくならないのね…。
「…あんたは憎いけど、目の前にいるあいつはもっと憎いからそっちを倒すことにしたわ…!」
「…そりゃ、ありがたいです」
ブルーは空手のスタイルで構え、俺も同様に構える。一時的な共闘って奴だ。
「言っとくけど、あたしはあんたを助ける余裕なんてないからね。自分の身は自分で守って」
「分かってますよそんなこと…困ったら盾の代わりにでも使ってください」
そんな軽口を数度交わすと、律儀に会話が終わるまで待っていてくれたリヴァイアギルディと対峙する。
「ふ…何を相談していたかと思えば、巨乳と貧乳のコラボの実現か!!」
「お前、黙っててくれ」
「あんた、黙ってなさい」
リヴァイアギルディに揃って文句を言う俺とブルー。
「じゃあ…行きますか!」
「そうね…巨乳は倒さなきゃいけないものね!!」
そして共に、敵に向かって駆けだした。
さて、行くとしますか。最初で最後の、ブルーと2人きりの共闘の始まりだ。
イエローは原作以上に変な方向に折れ曲がっちゃうかも…?
そしてブルーとファイヤーの共闘劇…シンメトリカルドッキングでも始まるのかしら、と感想をいただきましたが…どうなんでしょうかね?
では次回もお楽しみに。そして良いお年を!