俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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遊戯王タッグフォーススペシャルにドハマリしてしまったIMBELです。遊戯王はやっぱり面白いけれど…環境が高速化しすぎてやしませんかねぇ!? それに昔の禁止カードが次々と釈放されている現状に愕然としていますwww
そして今回もまた、アルティメギルサイドでお送りいたします!


第40話 喪失とツインテール

異空間を漂う、とある一隻の小型艇。

その一室では欧米の自宅にあるような暖炉が焚かれており、木製の椅子に座って穏やかそうに編み物を楽しんでいるエレメリアンが一人いた。

そのエレメリアンの爪は鋭く、口には犬歯があり、頭はなんと3つもあった。まるで地獄の番犬、ケルベロスを思わせる風貌であったが、その表情は大変穏やかであった。

まるで一瞬、恐ろしげな外見であることを忘れてしまう程、優しげな光景が繰り広げられていた。

「…なかなかの出来だな」

先ほどまでせわしなく動かしていた編み棒を横にあるテーブルに置き、怪人は完成したセーターを広げる。丁度胸元あたりの位置に、毛糸で編まれたツインテールの模様が浮かぶようにした、手作りのセーターだ。

「ふふ…」

それを満足そうに眺めていると、自室のドアのロックが解除される音が聞こえ、首の一つをセーターからドアへと移動させた。

「ケルベロスギルディよ」

挨拶の一つもなく、いきなり入り込んで来た人物から名前を呼ばれても、特に何も思うことは無かった。ここ最近、何度も繰り返されているやりとりだったからだ。

部屋の入り口付近には、グラスギアを見せつけるようにマントを翻したダークグラスパーの姿があった。

「…何度来ても同じだ。会う事はないと申し上げたはずだが」

地獄の処刑人の異名を持つダークグラスパーを前にしても、そのエレメリアンは座したまま態度を変えなかった。まるで乾いた老人。定年退職をしたようなサラリーマンのような雰囲気があった。

「そうもいかぬ…今回は大仕事での。…恥ずかしい話じゃが、早速手痛い洗礼を受けた所なのじゃ」

ダークグラスパーは悔しそうな顔をしながら、ロッキングチェアに座っている三つ首型エレメリアンであるケルベロスギルディにそう言った。

「これまでとは違い、ブレイクが酷く遅く、行き詰っている。まるで地球の侵略状況みたいにな…」

「送られてきた映像は一通り見たが…あれでは駄目だ。ただの模倣ではないか。アイドルとは生物と同じ…過去のブームが今も通じるとは限らんし、ブームなどいくらでも変わる。過去にすがりついているだけでは頂点へは行けぬぞ」

「流石じゃな、もう問題点を見抜きおったか」

「何時までも真似っ子をしているだけでは高みへは昇れぬ。個性が必要なのだよ、何事もな」

ツインテール模様のセーターを丁寧に畳むケルベロスギルディは、そっとテーブルに置きながらため息をついた。ダークグラスパーの悩みの種はとっくに見当がついている。

「…ツインテイルズ人気の煽りがそこまで来ているらしいな」

「その通りじゃ。敵の立場ではあるが、わらわも敬意を表する最強の戦士はここでも立ちふさがってきたのじゃよ」

この世界の守護者であり、強敵であるリヴァイアギルディとクラーケギルディの胸囲コンビを倒したツインテイルズ。その人気は下手なメジャーアイドルよりも上であり、彼女らが与えた経済効果は計り知れない。先日のニュースでもハリウッドでの映画化が決定するなど、その人気は火を見るよりも明らかだ。

…まあ、映画化の件は大部分のエレメリアン達にとって不評だったが。曰く「レッドはあんなババアじゃねえ、別の俳優をよこせ」とか「ファイヤーさん役の女優の胸がデカすぎる。デカければいいってもんじゃないのに」とか「イエローが脱ぐあの光景を映画化? 無理だな、ただのストリップショーになるよ」とか「そもそもブルーの俳優がどうして筋肉モリモリマッチョマンのスキンヘッド男なんだ?」とか色々あった。

ちなみにテイルブルー役に抜擢された世界的アクション男優、デック・ニールソンはこの件に関して『確かに僕はテイルブルーに比べたらちょっとだけ筋肉がモリモリだけど、後はさほど差がないって思っているから心配はご無用さ。監督の指名でこの役を受けたんだけど、やる気は満々だよ。ツインテールもカツラじゃなくて、自分の髪を伸ばしてやりたいね』と大変爽やかなコメントをしてくれた。おかげでエレメリアンたちは「あー、なるほどね」「このデックって男の胸筋はテイルブルーそっくりだもんな」と納得した。

それについ先日にあったパピヨンギルディ戦で見せたイエローの脱衣行為も全世界に公開されてしまったせいでエレメリアンだけでなく、人間たちも大いに混乱し、世界各地のテレビ局には電話が殺到したらしい。何故か、その内容のほとんどが抗議や批判ではなく『どうして彼女は脱ぐのですか?』という疑問の電話だったらしいが。

…とまあ、良くも悪くも世界中の話題をかっさらっているツインテイルズ。生半可な話題では太刀打ちできなかった。

「それほどの強大な偶像(アイドル)を前に、同じツインテールに対抗しても無駄だ。同じ土俵では明らかにあちらの方に分がある。ここは別の土俵で短期決戦を…別のアプローチで勝負を仕掛けるべきだ」

「ほう、では貴様ならば…何を以てツインテールに挑む? 今現在、ツインテイルズ人気にあやかろうとしてアイドルのほとんどがツインテールにする中で、何で勝負を仕掛けるつもりだ?」

「……三つ編みだ」

それだけを言うと、ケルベロスギルディは首を戻して、パチパチと燃える暖炉へと視線を向けた。

「助言は与えた。とっとと帰ってくれないか」

「流石じゃな、貴様の着眼点や観察眼…いさかも衰えてはおらぬではないか。何故それを有効に使わない? 腐らせるには惜しい才能だと思うが」

「首領様には既に退職の許可は頂いている、文句は言わせぬぞ。私は戦いに疲れたのだ、何もかもに疲れてしまった」

ケルベロスギルディはくたびれたような声を漏らし、椅子を揺らした。この小型艇には部下も戦闘員もいない、乗っているのはケルベロスギルディただ一人。…その理由は、ケルベロスギルディ自身が語った通りだった。

ケルベロスギルディはアルティメギルを抜け、戦いを放棄した。それは云わば、属性力を奪うことを辞め、生きることすら諦めたということだ。

エレメリアンの身体は属性力で出来ている。その構成には人間の食事などと同じく定期的な摂取が必要不可欠であり、摂取しなければ自らの身体は崩壊を始めるのだ。補給事態にさほど頻度が必要な訳ではないが、ケルベロスギルディはその補給すら放棄している。

自らに迫りくるお迎えが来るその日をそっと待っているのだ。

「我が属性の未来の為に、私はあなたと共に戦ってきた。しかし、我が属性は何人もその滅びを止めることは出来ないのだ。…それはあなた自身が証明してしまったではないか」

「言うたであろう。ここが正念場じゃ。最後にもう一度だけ力を貸して…いや、貸すのじゃ」

説得はいつしか命令に変わっていた。ダークグラスパーの語調が強くなったことにケルベロスギルディも気付いていたが、その態度は変わらない。

「くどい」

だがその言葉とは裏腹に、ケルベロスギルディの身体の周りには静かに闘気が立ち上るのをダークグラスパーの眼は見逃さなかった。

「その割には貴様の心とその言葉は矛盾していると思うのだがな」

「………」

そう指摘されてもケルベロスギルディは無言を貫き通した。

「…戦いを捨てる自由の為、戦いも辞さぬか。少々荒療治になるが…致し方あるまい!!」

瞬間、ダークグラスパーはグラスギアの背中にある一つのパーツを引き抜いた。獣の尻尾のように垂れ下がっているパーツを鞭のように振るい、ケルベロスギルディを座っている椅子ごと叩きつけた。

「…む?」

だがダークグラスパーは途端に違和感を感じた。確かに叩きつけ、奴にダメージを与えたのだがあっさりしすぎている。手ごたえが無さすぎる…。

「!」

するとダークグラスパーの手を掴み、暗闇の中からケルベロスギルディが襲いかかって来た。その狙いは首元であり、自慢の犬歯でかみ殺すつもりなのだろう。その頭部は、何故か3つから2つへとなっていた。

「眼鏡ェッ!!」

だがダークグラスパーは焦ることなくそう叫び、自分の眼鏡から光線を放つと、ケルベロスギルディを吹っ飛ばし、地へと打ち付けた。

「ぐおっ…!」

「ふん…番犬風情が処刑人に噛みつけるとでも思うたのか?」

鞭を手にしながらケルベロスギルディを見下すダークグラスパー。眼鏡越しの冷たい視線は強者の余裕が…いや余裕すら超越した「当然」といった感情があった。

「力比べで劣っていては、ならず者を統率することも叶わぬからな…伊達にこの鎧を纏っている訳ではないぞ?」

「ぐぬぬ…ひ、一思いに殺せ…!」

ケルベロスギルディは身体を大の字にして、「さあやれ」とアピールするがダークグラスパーはとどめを刺さなかった。既に戦いに興味を示しておらず、鞭をギアに戻すとダークグラスパーは自らのツインテールを弄り始めた。

「ふん、そのままでいい、わらわを見ておれ。勝利の鍵は三つ編み…か」

ツインテールを大雑把に掴むと、ダークグラスパーは自らのツインテールを三つ編みへと仕立て上げていく。元々彼女の髪はおさげのようなツインテールなので、弄りやすいのだ。

「む…ぬ、ぐぐ…」

だがダークグラスパーは自らの髪を編もうと四苦八苦するが、お世辞にもそれは綺麗だとは言い難かった。人形遊びをする幼稚園児の方がもっと器用に弄れるのではというほど、不器用だった。何とか編めても、その三つ編みは乱雑でごわごわしていた。

そしてそれを見ているケルベロスギルディもまた段々苛立ってきた。ああ、そこじゃない、そこは…。

「~んもうっ! 見ていられないわっ!!」

紳士風の口調だったケルベロスギルディが突如、変貌した。口調も態度も一変し、くねくねと身体をねじらせてダークグラスパーににじり寄った。

「な、何をするのじゃ!?」

「雑だわ! 手抜きで不器用で…なんてド素人なのかしら!! 素材はいいのにどーして何時まで経っても自分じゃからっきしなのかしらねー!!」

ケルベロスギルディは軽く髪をなでると、あれほどごわごわしていた三つ編みがあっという間に解けて元のツインテールになる。そしてまるでセーターを編む時と同じ要領で手を高速で動かし、ダークグラスパーのツインテールを編み込んでいく。

壁のように大きなケルベロスギルディがくねくねと動きながら編む姿は、見ているこっちの方が目を回しそうなほどだった。

「ああ、お手入れもなっていないじゃない! またお風呂入るのサボったわね!」

「…別にいいではないか」

「駄目なのよ駄目なのよ! 髪はすぐ痛みやすいんだから! キューティクルが壊れちゃっているわ~! スプレーをシャワァーとかけて…!!」

トリートメントスプレーをまぶしながらもアミアミと髪を織り交ぜて。あっという間に見事な三つ編みが出来上がった。

「ああその三つ編み…嫌いじゃないわ!! ――――はっ?」

歓喜を感じたのは一瞬のことであった。ケルベロスギルディは我に返ったように後ずさると、わなわなと震えていた。自分の手を見つめて、足元から震えが這い上がっているかのように怯えていた。

そう、ケルベロスギルディは所謂…オカマだったのだ。

「流石じゃな…腕は落ちてはおらぬ。女のように繊細な手さばき、男のような大胆さ。そしてそれらを兼ね備えた技術…まさに職人じゃ」

編み込まれた髪を嬉しそうに触りながら、ダークグラスパーはケルベロスギルディに賞賛の言葉を送った。だがケルベロスギルディは逆に、黙れとでも言いたげな目をダークグラスパーへと送る。

「―――これが最後だ…。ただし、私のことは、部隊の皆には黙っておいてもらおう。この本性を知られたら、士気に関わる」

「ふん、これで7回目の『最後』ではないか…じゃが、あるいは本当にそうなるやもしれぬな。存分にプロデュースの手腕を振るってもらうぞ! アルティメギル一のメイクリスト、ケルベロスギルディ!!」

「…ならばすぐに取りかかるぞ。今、素敵な三つ編み(インスピレーション)が下りてきたのでな」

ダークグラスパーとケルベロスギルディは互いに頷き、握手を交わした。今ここに、協定は結ばれた。

「ではわらわも全眼鏡全霊を以て、これに挑む。貴様の言う通り、既にこの世界はツインテール属性が根付いている。別の属性力を広げぬことでは、本丸を落とすことは叶わぬからな」

そう言うと、ダークグラスパーは不敵な笑みを浮かべた。

そう、アルティメギルの新たな侵略は、今始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

 

その頃、アルティメギルの秘密基地では。

スワンギルディは細長い小包を片手に基地を歩き回っていた。目的はとある人物を探すためだ。

そこら辺をうろついていた戦闘員の話によると、移動艇が置かれている格納庫に目的の人物はいるらしいのだが…。

格納庫にたどり着いたスワンギルディはしばらく歩き回って、その脇にある小さな住居へと足を進めた。

スワンギルディは緊張しながらも、テントの入り口を軽く叩くと、その中からしわがれたような声が聞こえてきた。

「誰だ?」

その声を聞くたびにスワンギルディは悲しくなるが、何とか気力を振り絞って声を出す。

「私だ、スワンギルディだ」

「…何の用だ?」

「お前に届けたいものがあるのだ。……中に入れてくれないか、フェンリルギルディ?」

するとテントの扉が開かれ、入ってこいという声が聞こえてくる。スワンギルディはテントに足を踏み入れ、目の前にいるフェンリルギルディの姿に居た堪れない表情を浮かべる。

組織から配給された毛布を座布団代わりにして両者は座り、何気ない世間話から会話を始めた。

「調子はどうだ?」

「あんまり良くはないな」

「…そ、そうか」

「罰の後遺症だ」

そう言うフェンリルギルディの腕はしわが広がっており、この数週間でどれだけの苦痛があったのかは想像するに容易い。

反逆という行為を行い、粛清を受けたフェンリルギルディは積み上げてきたキャリアや地位も全てをはく奪され、雑用係まで転落してしまった。今現在、フェンリルギルディは戦闘員よりも地位が下なのだ。このエレメリアン2人が入っただけでぎゅうぎゅうになってしまう程狭いテントが今のフェンリルギルディの住居だ。

フェンリルギルディはあと一月余りで雑用係から復帰できるものの、その後もあらゆる局面で様々な不利な条件が付きまとうだろう。奴が行った『ツインテールを軽んじる』という反逆はそれほど重い行為なのだ。いかなる理由があったとしても、罪を犯してしまった以上、罰は背負っていかなければならない。

(…しかしだ)

スワンギルディは首を振った。

その為に、ここまで過酷な罰が行われていいものだろうか。スワンギルディはそう思っている。

確かに問題児ではあったものの、何かを変えようと燃えていたフェンリルギルディを尊敬しているエレメリアンも少なくはなかった。

スワンギルディもその一人であり、粛清が執行された後、皆何となく避けがちになっているエレメリアンたちの中では珍しくこうやって話し相手になったり、差し入れをあげたりしているのだ。

「テント生活はどうだ?」

「辛いな。夜は寒いし、昼は熱い。地面が固いから眠りにつけない…飛空艇が格納される時は絶対に起きてしまう」

「私が空いている住居スペースに入れるように申請してやろうか?」

「お前らまで厄介ごとに巻き込みたくはない」

そう言うと、フェンリルギルディが机代わりに使っている段ボールの上に置かれた携帯電話がチカチカと点滅しているのにスワンギルディは気付いた。

「携帯、鳴っているな? 出なくていいのか?」

「…今、私は軽作業中ということになっている。携帯なんて仕事中には見れないだろう?」

「…?」

「つまりはそういうことだ、電話やメールなんて見る暇はないのだ。SNSなんて以ての外だ」

だがそれでもスワンギルディは察することが出来ないのか、首を傾げている。呆れたフェンリルギルディはため息をつきながらこう言った。

「…地獄の処刑人様からの連絡だ」

「!」

「ついでに言えば、私の携帯も奴にやられた」

フェンリルギルディが所持している深海魚が威嚇しているようなラメラメの携帯電話。機種変更するにはあまりにもハデハデし過ぎるそれに、皆驚いていたが、これも奴にやられていたのか。

「奴め、メールアドレスを手打ちで入力したあげく、携帯まで勝手に改造しやがった。これは配給品だというのに、お構いなしにやられた」

「………………」

「SNSにも勝手に登録されてな…奴のIDも無理矢理入力された。…仕事中、3分に1回は携帯がなるんだ。休日は1分に1回か?」

「そ、それは…」

「更にスリーサイズも教えられた」

「あ、あ…!」

ダークグラスパー曰く、『好物や趣味などが互いに伝達できなくて何がアドレス交換じゃ』らしいが、余計なお世話だという他ない。

仲間内ですら誕生日までの個人情報ぐらいが精々なのに、それ以上の情報を望まぬのに次々に与えられるのは恐怖でさえあった。あまつさえ、それほど親しくもない上司のスリーサイズなんて誰が知りたいというのだ。

しかも年相応の、それほど実っていない少女のスリーサイズを知ったということは何だか援助交際でもしている気分で、フェンリルギルディは気持ち悪くなってしまったほどだった。あまりにも重すぎた。

「他の皆に今すぐ機種変しろと伝えろ。確か倉庫に、電話連絡しかできない機種があったからな、それに変えておけ」

「…分かった、伝えておく」

「それと最近は振動音ですら奴は見抜いてくる。マナーモードでは危険だ、サイレントマナーが最適だ」

フェンリルギルディはやつれた顔でそう漏らした。もはやダークグラスパーの方が侵略者と化している今、雑用係であるフェンリルギルディがあらゆる意味で被害を受けていた。云わばフェンリルギルディが受け皿になっている状態なのだ。

「すまない…お前ばかり痛みを負ってしまって」

「別にお前らの為ではない。このままでは別の意味で組織は終わるからな…」

そう言うフェンリルギルディの姿は哀愁に塗れていた。それでしばらくの間、会話は途切れていたが、スワンギルディは何かを思い出し、脇に置いてあった小包を掲げた。

「…ああ、そうだ。お前にな、渡すものがあったんだ」

「何だ?」

「まあ見ておけ…」

小包から取り出したのは1本の鞘に納められた刀であった。鞘を抜き、スワンギルディは刃を見せる。

「フェンリルギルディ。お前の、刀だ」

「…!」

「お前の私物は全部没収されてしまったが…これだけは何とか無事でな」

反逆者となったフェンリルギルディの私物は紙切れに至るまで全て没収され、鍵のかかった倉庫へとしまわれているが、ダークグラスパーの手によって折られた刀だけは処分という形でゴミに出された。

そしてスワンギルディはそれをこっそりと回収し、鍛冶屋に頼んで折れた刃の修繕を頼んだ。そしてつい先ほど、修繕された刀が戻ってきた。渡したいものとは、これだったのだ。

「さあ、収めてくれ」

スッと差し出された刀にフェンリルギルディの腕が伸びかけるが、何故かそれを突き返した。

「いらぬ」

「何故だ? …ああ、金のことは心配するな、はした金では無」

「そういうことではないのだ!」

フェンリルギルディは怒鳴り声をあげ、拳を地面に叩きつけた。その声はテントだけでなく、格納庫中へと響き渡った。

「~わざわざ直すなんてことしなくてもよいのだ!」

地面の上に涙がぼたぼた落ちた。歯を食いしばっているが、それでも泣き声が漏れてくる。

「もう私には、剣を握れるほどの属性力などないのだ…!」

「!」

「私が愛していた、下着属性(アンダーウェアー)はもう…何も応えてくれない。自分の属性力が衰えているのだ…」

それはエレメリアンにとって死にも等しい宣告だった。

自分の身体が、属性力の力が衰え始めている。それはエレメリアンにとって何よりも恐れることだった。

エレメリアンの身体を構成している属性力はその強弱でもろにスペックに反映される。だが人間と同じく、衰え始めるとその力は弱くなり始めるのだ。…そして最終的には死に至る。

人と違って死ぬときの苦しみはないが、その分じわじわと圧力をかけられるような恐怖がそこにはあった。

「戦士フェンリルギルディは、死んだ。もう私には何の価値もない。その刀は質にでも収めてくれ」

「しかし…!」

「二度も言わせるな!!」

再び怒鳴ると、かつての相棒であった刀をひったくり、スワンギルディへと投げつけた。

「帰ってくれ!!」

そしてスワンギルディを締め出すと、その入口を閉め、閉じこもってしまった。

「フェンリルギルディ!」

スワンギルディは叫ぶがテントの中にいる人物は何も答えてはくれなかった。何度か呼びかけたが、何も反応がないことに遂にスワンギルディは折れた。

「…また、来るぞ?」

それだけを言い残して、スワンギルディは格納庫を去った。彼の手にある、主を失った刀がまるで泣いているかのように煌めきを発していた。

 

 

 

 

 

 

テントの中にいるフェンリルギルディは毛布に包まりながら泣いていた。自分が今陥っている状況に、泣いても何も変わらないのだということは分かりきっていたが、それでもやるしかなかった。

「私は…!」

フェンリルギルディはいつも一人だった。下着属性(アンダーウェアー)という属性力を持ったせいで、いつも爪はじきにあっていた。

自分が愛している属性力を誰にも理解されずに、外道だ卑劣だと罵られ…いつしかフェンリルギルディは同胞のエレメリアンたちがどこか嫌いになっていた。

属性力だけで差別され、比べられ、軽蔑されて。それに疲れたフェンリルギルディは自分を認めてもらう為に、己の力を磨いた。きっと実力が上がれば、皆も認めてくれる。それだけを心の支えとして。

だが、何も変わらなかった。むしろ地位が上がれば上がるほど、周りは自らの属性力を馬鹿にすることが増えていく。そしてその過程で、珍しい属性力を持つエレメリアンたちは肩身が狭い思いをして過ごしているということも知った。

フェンリルギルディはそれを変えたかった。だから出世欲は人一倍あったし、若手ナンバーワンのワイバーンギルディとまでいかなくても、それなりの地位についていた。ツインテール属性だけが優遇され、他の属性力がないがしろにされたりしている現状をどうか変えたかった。

だが…結果として、その願いは叶えられることはなかった。今まで築き上げてきた地位も名誉も何もかもが信じられない程あっさりと奪われ、雑用係にまで転落してしまった。

(ツインテールばかりが…何故、優遇されてしまうのだ!?)

フェンリルギルディは悔しかった。ツインテールをただ一度だけ蔑ろにした発言だけで自分は何もかもを失った。唯一の心の支えだった自らの属性力すらも奪われ、戦えなくなった。

だからスワンギルディのあの行為は、余計にフェンリルギルディの心をズタズタにしてしまった。自分はもう力などない。それなのに、何故かつての武器を直してここへ持ってきたのだ? どうせなら捨てたままでも良かったのに、どうしてわざわざ拾ってきたんだ? 惨めになっている自分を笑いにでも来たのか?

(力が、力が欲しい!)

それはフェンリルギルディが今一番望む物であった。そこまでツインテールが優遇されるのならば…それと同格か、あるいはそれ以上の力が欲しかった。ツインテールばかりを優先するアルティメギルに一矢報いたいという思いが、フェンリルギルディの胸にはあった。

でもそれは、きっと永遠に叶わない願いであるのだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

地球のどこかにある、巨大な粗大ごみ置き場。

既にそこには大小さまざまなゴミが散乱しており、何時の日からか一人のエレメリアンがそこで暮らしていた。

組織から離れ、野良エレメリアンと化したそいつは自由気ままな生活と修行に励んでいたが、もうすぐここを発つことに決めていた。

ここには少しばかり長居し過ぎた。環境に慣れる前にここを発ち、新たな場所での修行に励もうと、そのエレメリアンは世界各地を旅しているのだ。

全ては己を高める為。そしてとある相手へのリベンジを挑むためだ。その為にこのゴミ置き場は修行には最適な場所だった。このゴミの山は誰にも見つからない秘密の特訓場…次の場所にもこういった空間があればいいのだが…。

「ん?」

ふと自分の足元に新聞が落ちていた。ボロボロの手でそれを拾って、日付を見てみると、今日の新聞だった。

「ありがたいな…最近読んでいなかった」

近くにあった古タイヤをベンチ代わりにして、新聞を読みふけることにした。人目を避けて生活している今、情報の収入源はこういった新聞くらいしかないのだ。そして情報は新しければ新しいほどいい。

「! ほう…」

その新聞の一面には面白そうな記事があった。先日新たにデビューして、何故かいきなり身に纏った鎧を脱ぎだした戦士、テイルイエローに関する記事だった。

だがそのエレメリアンが興味を抱いたのは残念ながらイエローではなかった。一面を飾る写真に写っている、一人の人間。いや、正確に言えばツインテイルズの一員に目を惹かれた。

写真から見るだけでも、そいつの成長ぶりが分かった。身に纏うツインテールが、何よりも雰囲気が違った。強者との戦いを乗り越えた、貫録が見て取れた。

「貴様も随分、実力を上げたらしいな…テイルファイヤー」

そのエレメリアンはテイルファイヤーの一部分を…彼女を象徴する部位である『手』を見て、嬉しそうに笑った。




ケルベロスギルディの所では「あれ? 俺いつアイマスの続き書いてんだっけ?」って思っちゃいました。早く続き書きてぇんだけどなぁアイマス…。
フェンリルギルディは後に本編でも語られることになる「ツインテール属性の割を食ったエレメリアン」の立場にいます。彼は果たしてどうなるのか…。
そしてラストのエレメリアンは…何者なんでしょうねぇ~(ニヤニヤ)
では次回もお楽しみに!

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