俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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ついに来ますよ、例のあれが!


第4話 目覚めよ、ツインテール

見つけたとは一体全体どういうことなのだろう? 確かに昨日、俺はあの子とぶつかったけど、何か恨まれることでもしたのか?

混乱してしまっている俺を置いてけぼりにして、少女は俺へと近寄ってくる。尻餅をついている俺ににじり寄って来る少女。ますます訳が分からない。

「やっと、見つけた。これを使える人間が、ここに…。しかも昨日の内に会ってただなんて…」

少女はそんな俺の事を完全に無視して、じりじりと近寄ってくる。その姿はさながら獲物を見つけた狩人のようにギラギラしてて、それに恐怖を感じた俺は後さずりをするが、足がすくんでしまいすぐに追いつかれてしまう。

「ねえ、あんた…名前は?」

少女は逃げられないように、俺の腹を跨いで座り、馬乗りの姿勢になった。所謂マウントポジションというやつだ。

「に、丹羽光太郎だけど」

「そう、私はレイチェルっていうわ。よろしくね」

マウントポジションを取られながら自己紹介をするという、恐らく世界初の体験をしながら、俺たちは互いの紹介を終える。

レイチェル、っていうのか。外人の名前みたいだけど、日本語がもの凄く上手い。光太郎はちらりとレイチェルの目を覗き込んだ。瞳の色はブルーであり、日本人ではあまり見られない。 ハーフかなんかなのか?

「じゃあ、光太郎、一つ質問するわ。質問はイエスかノーではっきり答えて」

するとレイチェルはごそごそとポケットから電子機器を取り出し、一呼吸置いてこう述べた。

「あんたさ、ツインテールは好き?」

…世界が静止した。そして俺の口からため息とあきらめが一つ飛び出る。ああ、君もなのかい。もう、今日だけでツインテールって単語が何回出て来るんだろうね。ツインテールって日常生活でそんなに使わない単語のはずなんだけど、今日だけで20回以上は聞いた気がするんだ。

「い、いや…嫌い、だけど」

思わず、好きと言いかけて、あわてて口を閉じた。

ここで正直に答えてしまうと絶対にマズイと察した俺は、わざと本心と逆のことを言った。と、いうかほとんど初対面の人にツインテールが好きだなんて言わないと思うんだけどな。

しかし、レイチェルは電子機器とにらめっこしながら、簡単に俺の嘘を見破った。

「嘘、つかないでよ」

別に嘘なんてついていない、と言いかけたがレイチェルは「ふーん」と呟いて、俺よりも先手を打った。

レイチェルはひょいと腰まで届くであろう長髪を二つに分けるように持ち、悪魔のような笑顔でニコリと笑ったのだ。2つに分けるようにできた髪型は迷うことなきツインテール。奇しくも昨日、「彼女がツインテールだったら」と妄想した光景が目の前にあった。

「!!」

そんな顔で、そんな眼で、そんな髪型で俺を見ないでくれ! ツインテール絡みになると俺は自分を押さえられなくなるのにぃ!

「ちょろいわねー、あんた。やっぱツインテール好きなんじゃない」

「…!」

ハッと気づいた時にはもう遅かった。ツインテール姿を見て、条件反射で興奮してしまった光太郎を指差しながらケラケラと笑うレイチェルがそこにはいた。

「うう…」

光太郎はさっと顔を手で覆ってうめき声をあげた。もう、情けなかった。ツインテールとなると見境もなく興奮してしまう自分がもうみっともなくて言い訳をする気力も失せていた。

「…じゃあそんなに好きならさ、何にも言わないでちょっとこれを着けてくれない?」

「は?」

突然、レイチェルは白衣からベルトのバックルらしきものを取り出して、俺の腰につけようとしてきた。ススッと腹部をなぞられ、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

「ちょ、ちょっと待て!」

身の危険どころか命の危機、いやもっと大事な物への危機を感じた光太郎は慌ててその手を振り払った。振り払った拍子にレイチェルの手首に手が当り、カチャンとそれが膝元に落ちた。その途端にレイチェルは分かりやすいくらい不機嫌に歪む。

「…何よ」

「話が見えない。なんでツインテールが好きならこれを着けてって話になるんだ?」

話しの順序が滅茶苦茶だ。三流のセールスマンでももう少しうまい具合に話を進められるぞ。支離滅裂もいいところじゃないか。

「あのね、私には説明している時間がないのよ。だから大人しくこれ着けて。大丈夫よ、人体には影響はないわ…多分」

「おい、最後ぼそっと言ったのは何だ。多分って何だ?」

レイチェルは光太郎の腹部にベルトを無理やり着けようとする。それを叩き落とす光太郎。拾うレイチェル、落とす光太郎。何度もそれを繰り返していき、それがようやく止まったのがあの怪人の大声がした時だった。

「さて、余興は十分に堪能した! すぐに任務へと戻るぞ!!」

「「モケ!!」」

怪人の声を聞いた瞬間、弾かれたようにレイチェルは動いた。腹の上から体をどかして、思いっきり俺の体を踏んづけて、数分前の俺と同じように茂みから顔を出して様子を伺う。俺も踏まれた部分を擦りながら、先ほどのように様子を伺うことにした。

「…何だあれ?」

光太郎が茂みから顔を出して、目の前の光景を見た第一声がそれだった。

俺の目の前に広がる光景。それは惨劇といってもいいほどの物だった。

まず駐車場のど真ん中あたりのスペースに何やらでかい金属のリングが宙に浮いていた。サーカスで火の輪潜りの時に使われるような人間なら余裕で通り抜けられる程の大きさで、その後ろには生贄を待つ子羊のように大勢の女子が並ばされていた。

そして、先頭に並ばされていた女の子がそのリングの中に通される。どうやら怖いのか、女の子は泣きじゃくっていた。が、戦闘員は気にする由もなく、女の子を無理やりリングの中へ放り込んだ。

すると、ツインテールに束ねていた髪が解け、がっくりと気を失ってしまった。よく見てみるとリングの周りには女の子と同じように横たわっている人が数人確認できる。

自然と体がグッと強張った。あれって、もしかして死んでいるんじゃ…。

「死んではいないわ、奪われただけよ」

隣でレイチェルがぽつりと答えた。…一体、何を奪われた? まて、あいつは最初何て言っていた? ゆっくりと、理解が兆していく。

「…ツインテールを…奪われた?」

俺は半信半疑でそう呟いた。確かに怪人はツインテールを奪うと言っていた。でも、それって物理的な意味での奪うなのか? 例え一度奪ったからって、髪型くらいは自分の好きに弄れるのに、何で?

「あんたが想像している『奪われる』とは訳が違うわよ」

またレイチェルが口を挟んだ。どこか偉そうな口調なので文句の一つでも言いたくなったが、説明してくれるのはありがたい。光太郎は黙ったまま、レイチェルの言葉を待つ。

「文字通り全てを奪われるのよ。彼女たちがツインテールにかけていた思いも愛着も全てね。そして最後は…ツインテールを愛していたという事実さえ忘れてしまう」

光太郎は雷を受けたように硬直した。ツインテールを奪われる。話だけ聞くと馬鹿馬鹿しいが、これほど残酷な行為が果たして存在していいのだろうか。髪を切り取られるとかもうそういったレベルじゃない、全てをねこそぎ奪われるのだ。そこにあった意志も、思い出も、全て奪われてしまう。それがあの怪人が言っていた『奪う』という行為だったのだ。

それがどれだけ恐ろしい行為か、怪人がやっているのはどんなに非情なことなのか。それを理解した時、光太郎は自分でも気づかぬうちに拳を固く握りしめていた。

目の前では流れ作業のようにツインテールが奪われていく。淡々と、そのツインテールに秘めていた彼女たちの思いを踏みにじるように、あっけなく奪っていく。

「…だから、これがあるのよ」

レイチェルは先ほどから光太郎に必死で着けようとしていたベルトを掲げる。炎のように赤く輝くベルト、まるでそれは魔力のようなものが備わっているような気がするほど、熱く輝いていた。

「これは奴らに対抗するために作ったものよ。こいつはツインテールを愛するものが使えば、あいつらに対抗できる姿へと『変身』できる」

レイチェルは意味ありげにこちらを見ている。光太郎は、レイチェルの視線が自分の拳に向いていることに気がついて、慌てて拳を開いた。そして、レイチェルは光太郎に向かって、はっきりとこう言った。

「あんたにこれを着けてあいつらと戦ってほしいの」

…耳を疑った。俺が怪人と戦う? 対抗するためのベルト? ツインテールを愛するものが使える?

「俺が、戦う…?」

これがテレビ番組のヒーローならば、すぐさま変身できるのだろう。目の前に飛び出して、かっこよく変身ポーズを決めて、名乗りをあげて。

「なんで、俺なんだ?」

声が掠れていた。どうして俺なのだ、と言わずにはいられなかった。

「あんたが人並み以上…いや、それ以上にツインテールを愛しているからよ」

どうしてそこにツインテールが関わってくるんだ? 分からない、どうして? こんな気持ち悪い趣味の俺が何故? いつものツッコミにもキレがない。それほどテンパっているのだろうか。

「確かに無茶苦茶な話よ、こんなこと信用しろっていうのが無理あるわ」

でもね、とレイチェルは言葉を続ける。真剣な目で見つめる。

「あなたは戦える力を持っている。そして私は、あなたに戦ってほしい。これは、私の切実な願いよ」

遠くで、何かが焦げる音やブレーキがかかる音、誰かの叫び声が聞こえる。でも、俺にはまるで遠い出来事のように何も聞こえなかった。どうすればいいんだ? 誰かに助けを求めるように、俺は外を見渡した。だれでもいい、この出来事をどうにかしてくれ。

…そして俺は見た。俺のすぐ目の前、赤毛のツインテールの女の子が怪人に襲われそうになっている光景を。女の子は怯えているのか、その場で立ち尽くしていた。あのままでは瞬く間に襲われてしまうだろう。

「…!」

それが分かった途端に、自分の中で何かが動き出したような気がした。

あんな小さい子が、襲われる?どうしたいんだ? ここで逃げ出すのか、逃げてあの子を見捨てるのか? 今動けば助けられるかもしれないのに? どうすればいい、どうする。俺は…俺は、俺は!

光太郎は、レイチェルの手を掴んでいるのに気がついた。

「どうすればいい?」

「え?」

「どうすれば…変身できる? あの子を、ツインテールを助けられる!?」

俺は完全に吹っ切れてしまっていた。例え、気持ち悪くてもいい。あの子を、あの女の子を助けられるのならば、何だっていい! ここで逃げたら、俺は今まで以上に自分が嫌いになる!

「だから、これの使い方を教えてくれ!」

俺のその態度が伝わったのか、レイチェルは力強く頷いて、俺の腰にベルトを当てた。するとバックルだけだったベルトがしっかりと俺の腰に巻きついた。

「心の中で強く念じて。今から変身するって強い意志で念じて」

それだけでいいのか? 拍子抜けしたが、この際どうでもいい。大切なのはあの子を助けられる力だ。あの子を助けられるのなら、俺は悪魔にだって…!

そして、ベルトが光り輝き、その光が全身を包んだ時、その『変身』は完了した。

そして、自分の姿が変わったことをしっかりと確かめないまま、光太郎は走り出していた。今は一秒でも時間が惜しい。そう感じたのだ。

…だがその焦りのせいで光太郎は気付かなかった。自分の髪を風でなびかせながら走っていたことを。その髪がツインテールだったということを。

 

 

 

 

 

 

観束総二は怯えていた。何にと言えば、目の前にいる怪人にだ。鼻息を荒くして、「そのツインテールでぺちぺちと俺の頬を叩いてくれ」などとほざいているそいつに全力で怯えていた。それは今の総二の姿と密接に関係していた。

今の自分の姿―、黒色のボディスーツに、甲冑のような赤色の装甲。短髪だったはずの髪は総二が愛してやまないツインテールへと変わり、160センチほどあった背も120センチほどに縮んでいた。低かった声も可愛らしいソプラノボイスに、そして股にいつもぶらさがっていたはずの男の証が綺麗さっぱり消えて、代わりに女性の証である小ぶりな乳房が胸に付いていた。

そう―、今の総二はどこからどう見ても完璧なツインテール幼女にしか見えないのだ。

どうしてこうなった?

それもこれもトゥアールという女科学者に渡されたブレスのせいだった。目の前のツインテール狩りに激怒した総二は、このブレスを使って変身し、意気揚々と怪人の前に飛び出したはいいものの、怪人のリアクションに戸惑った。男のはずの自分に幼気だの究極のツインテールだのと抜かしたからだ。

…そして、車のフロントガラスにちらりと映ったこの姿に驚いた。そこには自分とも似ても似つかないツインテールの女の子が呆然とした顔つきでこちらを覗きこんでいたからだ。総二が手を振ると、ガラスの中の女の子も手を振った。首を傾げると、一緒になって首を傾げる。

「や、やだぁ…」

そして現在に至る。現実を受け止めきれずにうろたえる総二を怪人は怪しい笑みを持って近づいてくる。

「むう、自ら我の物になる心づもりか、ありがたい! さあ、丁重に」

だが、怪人の言葉はそれ以上続かなかった。…何故なら、この場に音もなく現れた何者かが怪人の右頬を思いっきりぶん殴ったからだ。怪人は骨が軋むような鈍い音とともに吹っ飛び、遠くの石垣へと激突した。

「!?」

この場にいる全員が目を見開いた。驚き? 恐怖? それは分からない。それは総二も同じだ。あいつは何者だ? でも、その姿を総二はきっと忘れられないだろう。自分の目の前で悠然と立っているその人の事を。

「あ、ええと、その、君! 大丈夫!?」

そう言うと、その人物は総二を心配そうに覗きこんだ。その姿を見て、表情が驚愕に染まった。

優しそうに微笑むその人は今の自分の姿と瓜二つだった。背丈こそ元の総二ほどあるが、同じような赤毛色のツインテールに同じような甲冑のような恰好。装飾品や装甲の色、声色こそ違うが、まるで生き写しのような恰好の美少女がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

観束総二と丹羽光太郎。同じ学校に通う、同じクラスの男子。両者の愛する者はツインテール。彼らは互いの正体も知らないまま、戦士として出会うのだった。…両者とも、女体化というオマケつきで。




あれ? このままじゃヒロインはテイルレッド?
真面目な展開が続いていますが、次回以降はギャグに持っていきたいなぁ。

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