俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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まさかの17000文字弱…いままでで最長記録を更新してしまいました。
では、大変長らくお待たせいたしましたが…どうぞ。


第48話 理事長とツインテール

光太郎が何故、総二がそわそわしていたのかがどうしても理解できずに数日が過ぎた。その数日の間に光太郎の腕の傷も癒え、まだ少しだけ跡があるがすっかり塞がっていた。煩わしかった包帯もようやく取ることができて、光太郎の胸は大変晴れやかだった。

…だが、嬉しい事ばかりではない。今日を以って、遂に中間テスト開始まで一週間を切ってしまったのだ。そんなこともあってか、今日の一時間目は体育館を使っての全校集会となっている。

その連絡事項も先生から生徒たちへの連絡はテストに向けて勉強をしろだの、節度ある学園生活をどうたらこうたらなど、堅苦しくつまらないものばかりだ。光太郎は欠伸をかみ殺しながら周りを見ると、光太郎と同じように暇そうにしている生徒で溢れかえっていた。

こんなことの為にわざわざ体育館に来て立たされるのかと思うと、底知れぬ虚無感に襲われるのだが、多くの生徒は暇そうにしながらも、何かを待ち遠しそうにそわそわとしていた。

隣にいる総二も嬉しそうな顔をしながら待機しているし、少し離れた所では光太郎を追っかけまわしていたあの連中達も直立不動で待機している。…実を言うと、光太郎も楽しみにしているのだが。

…何故ならば、今日の全校集会では慧理那会長のスピーチがあるからだ。凛々しく演説する彼女の姿を見たいがために一同は退屈な集会を何とか乗り切ろうとしているし、入学式以来の慧理那のスピーチを楽しみにしている生徒は星の数ほどいる。それも男女問わずだ。

そうなると、会長の電話番号まで知っているという自分の存在が何だか凄く奇妙に思えてくる。

彼女に憧れを抱いている生徒は大勢いるが、果たして連絡先まで知っている生徒は何人いるのだろうか? …まあ、慧理那から見れば、あくまでも自分は知人の一人でしかないのだろうけれど。

光太郎が並み居る生徒たちを出し抜けて、慧理那の特別な人間になれる可能性は限りなくゼロに等しいのだろうし、変に親しくなりすぎて例のおっかけの被害をこれ以上増やしたくもなかった。…ここ数日の間、光太郎はFBIの魔の手から逃げるスパイのような逃亡劇(総二たちの救援有りで)を幾度と無く繰り広げているため、これ以上人数が増えてしまったら、流石に対処ができなくなってしまう。

昨日は校庭のフェンスを登っての下校となったが、これ以上の難易度の帰宅が光太郎には想像できない。お次はターザンでもやらなければならないのだろうか? それか、ヘリコプターでもチャーターして、校庭から脱出でもするのだろうか?

(きっと、例のベルトの件が終わってしまったら、自然と接点も無くなって、そのまま…って感じに違いないだろうな。後は部室で少しくらい顔を合わせるくらいだけれど…テスト期間が終われば、あそこを使うってこともないだろうし)

もしそれが覆されるようならば、余程のことが起こらなければならないと思うのだが――。

「――生徒諸君、おはよう。さて、衣替えの時期を過ぎた今ともなれば、結婚したいと思う者も出てくることだろう。どうだ、ここらで私の婚姻届が欲しい輩はいないか?」

「メイド長、そろそろ! 慧理那様のご講話が始まりますので!!」

「おい、ちょっと待て! そろそろって私は十秒も喋っていないのだぞ! あ、こら離せお前ら、私はまだ」

「いいから下がりましょう! いやむしろ下がってくださいお願いしますから!!」

「いや待てお前ら! 数秒、数秒だけでいいから時間をくれ! それさえあれば10人くらいには渡せるから――」

…先生たちから『節度ある学園生活を』という注意があったばかりなのに、まさかその先生そのものが節度を大気圏外まで遠投するとは。

誰が、とは今更問わない。部下のメイド数人がかりでフェードアウトしていった尊先生の奇行は今に始まったことじゃないもの。

さて、気を改めて慧理那会長の番だ。皆と同じようにワクワクしながらも待っていたのだが……会長の姿が壇上に現れた瞬間、光太郎はバッドに殴られたような驚きを感じた。それと同時に、幻でも見ているのかと瞬きを数度したが、目の前の現実は変わらない。

「…………!?!?」

それは隣にいる総二も例外ではない。総二は『神は死んだ』とばかりに唖然と目を見開き、壇上の慧理那をまじまじと見つめていた。

そのリアクションも無理はないだろう……今現在、慧理那会長の髪型は、いつもみたいなツインテールではなく、見事なストレートロングへと変わっていたのだから。

いかなる時も美しく佇んでいたあのツインテールが解かれたことは、人類最高クラスのツインテール愛を持つ男子にはあまりにも残酷すぎる光景だったのかもしれない。

「あ、あの……何か、おかしいでしょうか……?」

呆然としている総二と驚いている光太郎が目に止まったのか、不思議そうに掌で髪を掬い上げる。

「そ、そんな……」

髪の毛のフワッと舞い、その一つ一つがパラパラと落ちる動きに光太郎は思わず見とれてしまったが、それを見た総二は更にショックを受けてしまったのか、全校生徒がいる中でも構わずに膝から崩れ落ちてしまった。そして力の限り、体育館の床にその拳を叩きつける。

「くっそおおおおおおおおおおお…! 俺は、俺は大切な髪型(ひと)を守ることが出来なかったぁああああああああああ…!!」

…ルビがなんかおかしいぞとか、別に総二がそこまで責任を感じる必要はないだろうとか、全校生徒がいる中でその奇行だけは辞めておけ、など色々親友にツッコみたくなったが、あまりの落ち込み様に光太郎も声をかけられなかった。

…もし、光太郎が総二の正体をテイルレッドだと知っていたのならば、その理由も充分に理解できたのだが。

数ある激闘を通して総二は、自分はツインテールにふさわしい男になれたと信じていた。せめて心だけはツインテールを名乗るにふさわしい人間になれたと思っていた。この前のエロ本の一件を通して、絆が深まったと思っていた。

だが、目の前の現実はどうだ。自分は近くに居た会長のツインテールを守ることが出来なかった…ツインテールを守れなくて、何がツインテイルズなんだ…! といった悲しみに打ちひしがれていたのだ。自分は変身しなければ、仮初めのツインテールにならなければ、あまりにも無力な存在なのだ―――と、いった絶望を味わっていたのだ。

(でも、なんで会長はツインテールをやめてしまったんだろう?)

…だが、そんな総二の事情を露ほども知らない光太郎は、友人の奇行よりもどうして慧理那がツインテールを解いてしまったのか、という方向への興味へと移ってしまった。

光太郎は、昨日の内に慧理那の属性力が奪われてしまったのか…? と考えたが、そうであったならば昨日の内に自分はアルティメギルと戦っているはずだ、とその可能性を否定する。自分が戦っていなくても、その動きが何らかのメディアに露見してるはずだ。だが、そのような動きはなかった。ニュースどころか、学校でもその手の話題を耳にすることはなかった。

(…まあ、確かに会長はアルティメギルに狙われまくっているし、いっそのこと解いちまうっていうのも、身の安全の為なのかもしれないけれど……)

第一に考えられるのは、会長自身の身の安全の為に辞めてしまった、ということだ。

アルティメギルのターゲットはツインテール。今やツインテールはメジャーな髪型へとなってきてはいるものの、奴らはより素晴らしいツインテールを、純度が高い属性力を奪おうと躍起になっている。

会長は普段から見事なツインテールをしているせいで、恐らくは相当純度が高い属性力をその身に宿しているはずだ。…それ故か、慧理那はアルティメギルのターゲットにされやすい。

初めての戦いの時も狙われていたと語っていたし、クラブギルディ戦の時だってあわやといった所まで追い込まれていた。これまでは何とか会長を救出できていたが、それが今後も続くとは限らない。

だから奴らとの接触を避ける方法として、一番手っ取り早い対策法の一つがツインテールを解いてしまう…すなわち、人前でツインテールをすることを辞めてしまうことだ。こうすれば、少なくとも今までよりは狙われる確率は下げられるだろう。

「くそぉ! くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

この件に関して、総二ほどではないが光太郎自身もショックを受けていたが…それも仕方あるまいと思ってしまう。一番大切なのは慧理那自身の身の安全だ。こればかりは背に腹は変えられない。

(…それに、今の会長も可愛いと、思うし)

ツインテール姿の慧理那しか見てこなかったせいか、壇上に上がっている今の姿が新鮮に見えてくる。

そのギャップのせいなのか、心の中で「これはこれで」といった感情が芽生えつつあった。

普段は目にすることのないストレートの髪を掬い上げる動作。あの動作は光太郎にとって、札付きの不良が子犬を救い出すくらいのギャップを感じていた。ツインテールの会長は勿論可愛いが、今の慧理那もまた、普段とは違った感じで可愛く見えてくる。

いつもの会長はツインテールだからこそ、また違った世界が見えてくる。

…それにこの仮説が間違っていて、他の理由の為にツインテールを辞めたとしても、俺たちにそれを止める権利はない。それは会長が自分で決めたことなんだから。そう、大切なのは『どうしたいか』なのだから。

だって、ツインテール好きな人間が他の髪型にしてはいけないといった法律などこの世には存在しないのだから。例えば、ツインテールな女の子がたまにはポニーテールになったりしても構わないはずだ。自由とはそういうものなのだから。

(…………総二には悪いけど、俺は今の会長も悪くないと思うよ)

床に蹲って放心寸前の総二を尻目に、そう言えば最近、会長がアルティメギルと遭遇するのを見ていないな…とぼんやり思ったその矢先。

「慧理那」

「!」

体育館中に響いたその穏やかな美声に、光太郎は何とも言えないような鋭い感覚を味わった。先ほどのショックとは違う、まるで強力な電流が身体を駆け巡るかのような強力な感覚だった。

…その感覚の正体を、総二は『ツインテールの気配』と呼んでいることを光太郎が知るのは、もう少し先の未来の話だ。

「下がりなさい、慧理那」

コツコツ、と壇の床の上を歩く音が聞こえるたびにその感覚は鋭さを増していき、遂には光太郎の身体は甲高い警報を発した。あまりにも強力すぎる刺激で、身体が悲鳴をあげているのだ。

「今のあなたに、生徒の長として説する資格などありません」

「…お母様!!」

――その人物の名は、神堂慧夢(えむ)

慧理那が母と呼ぶ人物にして、この学園の理事長でもある人物だった。

慧夢は、幼い慧理那の姿をそのまま成長させたような風格を漂わせており、勿論その髪型もツインテール。

…だがそのレベルは、娘である慧理那を圧倒的に上回っていた。ツヤ、滑らかさ、髪質や長さ…それら全てが理事長と完全に調和している。理事長が掲げる信念までもが具現化されたかのような凄まじきツインテールだった。

まるで熟成されたワインが年代を重ねることに味を深めていくのと同じように、そのツインテールも決してにわか仕込みでは辿りつけない領域まで到達していた。

「…………!」

光太郎は玉のように浮かぶ汗を拭いながら震えていた。そして、自分を必死で押さえつけていた。ツインテールという自分を暴走させる本能を、理性という鎖で縛り付ける。

…そうでもしなければ、きっと理事長のツインテールのせいで俺はとんでもない行動を起こしかねないから。

「はぁあああああ…!」

例えば、隣の総二なんかは突如立ち上がって静かに闘志を漲らせている。

…お前、つい数秒前まで地面に蹲っていなかったか? 何、しれっと何事も無かったかのように立ち上がって、壇上を眺めながら気合貯めなんかしているんだよ? 叫んだかと思えば喜んだりと…今日はいつもより増して、俺の友人は情緒不安定だ。

「ああ…あたしが、あたしがもっとしっかりしていれば、そーじもあんな行動をとらなかっただろうに…」

「ちょ、ちょっと愛香どうしたのー!?」

…そんな総二を見ながら、愛香さんは泣いていた。勿論それは感激の涙ではない、己の行動を悔やんでの涙だった。

だが騒いでいるのは総二たちのほんの一部で、体育館は咎める理事長とそれを見据えている慧理那に支配され、皆一様に押し黙っている。

「何故、ツインテールを解いたのです、慧理那?」

「私は何度も怪物に狙われています。解いたのは、ツインテイルズに迷惑をかけないためですわ」

「それらしいことを! 母の目は節穴ではありませんよ、慧理那!」

「お母様…!」

がなり立てている訳ではないのだが、理事長が言葉を発するたびにビリビリと空気が震える感覚がする。これも、理事長のツインテールが巻き起こしているのだろうか。

「…百歩譲って、怪物の驚異に怯えツインテールをやめるのならば…母として、娘の安全を願うのは当然です…多くは言いません。ですが慧理那、あなたがツインテールをやめたのは、それだけではないはずです!! ツインテールを守り戦う少女たちを心の限り応援したいと願ったあなたの気勢はどこへいってしまったのですか!?」

そう言われた慧理那の顔が強張り、何故か総二や愛香さん、トゥアールさんも同じように強張っていた。

「…家の事情を皆様の前でお話するわけにはいきません。お母様、二人っきりでお話がしたいですわ。理事長室は空いていますか?」

「…いいでしょう。そこでじっくりと家族会議を行いましょう」

そう言うと理事長は言葉短く「娘が失礼をいたしました」と明るく述べ、そのまま壇上を降りていった。慧理那も手短にスピーチを終えると、後に続くように壇上を降りていった。

「「「…………………………………」」」

残された生徒たちはただ黙っていることしかできなく、嵐が過ぎ去ったかのように呆然としているしかなかった。

数少ない例外として悔しそうに顔を歪ませているのは総二たちであったが、そんな総二たちですら、光太郎が歯を食いしばり、拳を固く握りしめていたことには気付いていなかった。…そしてそれは、光太郎自身も恐らく気付いていなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

「一時間目の体育は自習だ」

全校集会が終わった途端に尊の口から発表された突然の命令に戸惑うものの、クラスメイト達が律儀にグラウンドで適当な授業を行う中、光太郎を含んだツインテール部の面々は部室へと集合していた。幽霊部員である光太郎も例外なく蒐集されたということは、今回の慧理那の件は相当な危機であることを示していた。

「その…光太郎、ごめんな。こんな形でツインテール部の活動に関わらせるなんて…」

「いや…日ごろから世話になっているから、これくらいは別にいいんだけど…」

「そ、そうか」

「おう…」

光太郎は別に休学など今後の学生生活に支障が出ない範囲であれば、総二たちの手助けはしてもいいと思っている。特にここ数日は総二たちには口だけでは返せない恩があるし、ここらでそれを返してもいいと思ったのだ。…それに、あの理事長のことも少し気になっていたことだし。何故、ツインテールを辞めただけで怒るのか…それをどうしても確かめたかった。

「さっきのあれ、何があったんです? どうしてお母さんがでてくるんですか? 会長の縁談の妨害は失敗したんですか!?」

「縁談?」

「…ああ、そういえば、光太郎は知らなかったな。なんでも会長は…」

すると、総二の口から神堂家の家庭事情を手短に説明された。婚約のことや掟のこと、そして慧理那のツインテールのことも。

「………漫画みたいだ」

端折れる所は端折っての説明だったが、それだけでも神堂家は色々と面倒な家庭なのだな、と感じる。一般家庭で育った身分から見れば、遠い世界の話みたいだ。

本人がいない中で勝手にこんな話を聞いてしまっていいものかと思ったが、そうでもしなければこの話についていけなくなる為、これは不可抗力なのだと無理矢理納得させることにする。また、後で慧理那本人にも謝っておこうと心の中でそう誓った。

「この前の縁談はな、密偵に調査をさせたら相手がロリコンだったのだ。奥様に報告するだけでその縁談は破談になったよ」

「ええっ、なんてもったいな」

「…」

「あっ、すいません…」

トゥアールさんのその発言を、尊は婚姻届をちらつかせることで黙らせた。

…もう尊先生の婚姻届は、婚姻届という名の伝説の武具と化しているのかもしれない。ちらつかせるだけで相手を威嚇させるだなんて。彼女ならばこの間戦ったオウルギルディといい勝負が出来るかもしれない。

「しかし、慧理那様がエロ本を買いたがってアドバイスを求めているのが耳にも入ってしまったようでな。半信半疑だったらしいのだが一昨日、慧理那様のパソコンの検索履歴を見られてしまったようでな…そこから事態は急変した」

「うわあ……」

愛香さんがすっぱい顔をしながら頭を抱えたが、それは光太郎も同じだった。

パソコンの検索履歴を見られる、この行為は『されたら嫌な精神攻撃』では常にベスト10入りする程のものだろう。他人に自分の趣味や性癖が見られるのが気持ちいい奴がいるはずがない。ましてや、その趣味が一般受けしないものだった場合なんかが特にだ。内容が内容ならば、不登校になってもおかしくない代物だ。

確か少し前に慧理那さんと校門前で会った時、パソコンにフィルターが…などいった話題が上っていた。フィルターにひっからないようにと、あれこれ検索した履歴を全て見られてしまったのだろう。…やべえ、考えただけでも死にたくなってきた。

「その件につきましては私にも責任がありますし、よかったら理事長に『あなたが慧理那さんの同じ年頃にエロ本を見たことがありますか』どうかを問いただせてみますか?」

トゥアールさん、あなたなんてことを言うんですか。トゥアールさん的には理事長に目くそ鼻くそを…といった行為をやりたいらしいのだが、そのお題がエロ本って…。

その恐ろしいまでの提案を尊はやんわりと断り、話を続ける。

「…いや、奥様は怒ってはいないのだ。少なくとも、エロ本の件に関してはな」

「え?」

「むしろ喜んでいた。ヒーローのことばかり夢中になって性教育が遅れていた娘が、ようやくそういったことに興味を持ち始めてくれたのだと」

「…そんな理解度があるのに、どうしてパソコンにフィルターをかけるんですか? 別にいらない気が…」

「いや、それはお館様が…つまりはお嬢様の父君である、神堂栄華様の希望なのだよ。これがまた子煩悩がスーツを着ているような人でな…一人娘である慧理那様に悪影響を与えたくないとパソコンなどにも観覧制限を…」

気持ちは分からんでもないのだが、慧理那さんはもう高校2年生だ。あと数年でお酒が飲める齢になるのだ。いくらなんでもそこまではやりすぎな気が…。

でもそうなると、不可解なのはあの体育館のやりとりだ。

「じゃ、じゃあさっきあんなに怒っていたのは…」

「慧理那お嬢様が怒って、ツインテールを解いてしまったからだろうな…神堂家では親の顔面を殴る事よりも、意味も無くツインテールを解く方が重罪なのだ」

「お金持ちのお家って難しいんですねぇ」

「…あんたさ、ツッコむところはそこなの?」

呑気な発言をするトゥアールを呆れたような顔で対応する愛香。

「慧理那が言っていた家訓でツインテールにしているって話、本当だったんですか!?」

「お、おう…しかし観束、お前なんでそんなことを知っているんだ?」

「え、いや…その件に関しては相談されたことがありまして…」

…もう訳が分からないと、光太郎は頭を抱え始めた。

ツインテールって…髪型の一つだよな? 掟がどうこうとか、殴る事よりも重罪とか…ツインテールってもっと…こう…そんな意味じゃないような…。

「縁談話は私たちが水際で防いでいたが、それでもお嬢様はかなり前から悩んでいたそうだ。それで昨日、奥様がエロ本の件を持ち出してな。性に興味が湧いたのならば、結婚して子供を作ればいい、と。それでお嬢様の堪忍袋も限界に達したらしい」

…なるほど。ようやく理由が分かった。慧理那さんは母親である理事長に刃向う為にツインテールを解いたのか。

あの真面目な慧理那が怒るということは、相当なまでの怒りだったのだろう。しかも、慧理那には愛しの存在であるテイルファイヤーがいるのだから、その怒りも尋常ではないのだろうが…当の光太郎はそのことを微塵も気付いていないのが悔やまれる。

「もっと、俺が会長と相談をしていれば…」

「いや、これは私たちの責任だ。お前らと出会う遥か前よりお嬢様に仕えていたのに、その悩みから救ってやる事が出来なかったのだからな…」

尊はそう言うと項垂れてしまうが、愛香が慌てて支える。

「…なあ、光太郎。2人は理事長室にいるんだよな?」

「ああ、確か…会長がそう言っていた。理事長室で話し合いたいって…お前、まさか…」

総二の決意に満ちた顔を見ながら、光太郎はどこか嫌な予感がした。そして、それはものの見事に的中することになる。

「…ああ、そのまさかさ。そこへ乗り込む…!」

このままここでぼやぼやしていると、手遅れになるかもしれない。総二たちツインテール部一同は、残り一人の部員を救う為に理事長室へと走るのだった。

 

 

 

 

 

 

まだ授業中ということもあってか、廊下は物音一つない。校舎とは反対方向に位置し、特別さを分かりやすく示したような理事長室の豪華な扉の前で光太郎たちはたどり着いた。

「…何であなたもついてきちゃったんですか?」

「えっ? …いや、ノリというのかなんというのか。」

「…まあ、私はあなたが総二様とふれあわなければ、別にどうでもいいんですけどね」

「あ、はは…そうですか…」

「ええ。総二様の初めてはあなたなんかには渡しませんからね」

「………………はい」

トゥアールさんから言わしてみれば、光太郎は戦力にも値しないのだろうか。確かにこの場にいる面子で、一番頼りなさそうな人物の筆頭には上がるが…そのきつい言い方に光太郎の心は早くも壊れそうだった。

すると頑丈そうな扉の向こう側から、2人の激しい言い争いの一部始終が漏れてきた。

『私の態度が悪いから結婚を早めようなど相手方にも失礼ですわ! 私は決められた相手との結婚したいだなんて微塵も思っていません!! それにお母様は結婚の件は反故にしてもいいと言っていたではありませんか!!』

『あれも駄目でこれも駄目が通ると思いますか! 結婚の件を反故にしたのは、2年間しっかりと生徒会の仕事を勤め上げるという前提があってのことです! 学生の本分を全うするという約束すらも守れない今のあなたにそんな言い訳は通じません!!』

『ですから私には他にやる事が…!』

『ではあなたがたびたび門限を破ったり、夜間、無断で外出することについて説明は出来まして?』

『そ、それは…だから…やることがあるのですわ………』

どうも、慧理那さんの歯切れはよくないようだ。

『…それに性交のことに興味が出てきたのなら丁度いい機会ではありませんか』

『なっ……酷いですわお母様! 実の娘をそんな風に見ていましたの!?』

『あなたのパソコンの検索履歴を見てしまったら、他にどう見ろというのですか!?』

…そりゃあ、エロ本関連の情報まみれの検索履歴を見てしまったら、そう思わざるを得ないだろう。

『いいから素直に母の言う事を聞きなさい! 殿方との結婚は絶対! 断じて覆しは出来ません! ツインテールを解いたのは許されざることですが、母は少し安堵しています。今のあなたの未熟なツインテールでは、ご先祖様に顔向けが出来ませんから!!』

…その言葉を聞いて、光太郎は無意識の内に握り拳を固めた。そして総二もまた、覚悟を決めた。2人とも、もう我慢の限界だった。

「いいか皆。これから俺は理事長室へと乗り込む」

言っていい事と悪い事があるが、理事長のあの発言は間違いなく後者に当たる。そしてそれを聞き逃すことは、光太郎にとっては出来なかった。まるで最初の変身時のような不思議な感覚と共に、光太郎の心は怒りに燃えていた。

「皆は絶対に入ってこないでくれ。理事長に刃向うのは俺一人でいい、最悪、退学になるかもしれないからな…!」

「そーじ、あんた…!」

そして自分の身体に、怒りという名の燃料が注ぎ込まれる感覚を光太郎はしっかりと感じていた。そのせいか、総二が皆に向けて言っていた注意を光太郎はすっかりと聞き逃してしまっていた。

「…いいか、絶対だぞ!!」

そして総二は突き倒すがの如き勢いで理事長室のドアを開け放った。討ち入りでもするかのような決死の表情で中に踏み込んだのだが…ここで予想外の事態が起こってしまう。

「!?」

「ちょ、光太郎!?」

なんと光太郎が飛び込んだ総二につられて、共に理事長室の中へ入ってしまったのだ。

慌てて愛香達が止めようとしたが、扉が閉められる寸前に身体をねじ込むかのような勢いで入ってしまった為、それを止めることも叶わなかった。

「何やっているんですかあのモブは~~!!」

「テンパっちゃって、飛び出しちゃったのかしら…いや、光太郎ならあり得るかも…! どうする!? 今すぐこの扉を蹴り飛ばしてでも侵入する!?」

「いや、ここは鋼鉄をも溶かす毒薬で扉を溶かして殴り込みを…」

「いいから落ち着け貴様ら!」

慌てふためく愛香とトゥアールを尊が一喝させ、事態を落ち着かせる。

「…入ってしまったのならば、もうどうしようもない。私たちに出来ることは、あいつらを信じて待つことだけだ。これ以上の侵入は観束も望まんだろう」

「で、でも…! そーじならともかく、光太郎は何にも関係がないのに…!」

「あのモブがこれ以上しゃしゃりでたら、ますます総二様がBLの世界に足を…!」

「何、あいつらなら大丈夫さ…この私が、何が何でも婚姻届を渡すと決めた男たちなのだぞ?」

説得力があるのかないのか分からない言葉を聞きながら、残された面子はただただ閉ざされた扉を眺めるしかできなかった。せめて、大事にはならないようにと祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「慧理那!!」

「失礼します!!」

「…誰ですか、ノックもせずに!!」

いきなり雪崩のように入り込んで来た2人を理事長は糾弾するが、総二も光太郎もそれで止まるほどの男ではない。

「ふ、2人とも…」

乱入してきた総二と光太郎を見ながら、慧理那はうっすらと涙を浮かべていた。その光景に総二は拳を握りしめた。

「馬鹿、来るなって言ったのに」

「悪い…我慢できなくて…」

忠告を無視して乗り込んでしまった光太郎に総二は苦い顔をするが、乗りかかった船だ。こうなってしまったら、最後までやるしかないだろう。それが例え、他人の家の事情に首を突っ込むとしてもだ。

「お…」

「1年の観束総二です!娘さんのツインテールの件のことで話があります!!」

「…ほう?」

無礼を承知での殴り込みに、意外にも理事長は耳を傾けてくれた。

「すみません。さっきの話、聞いてしまいました。ですが、理事長が慧理那のツインテールを未熟だと言ったことがどうしても納得がいかなくて!」

そう言う総二は理事長に面と向かって話しているが、光太郎は黙ったまま下を俯いていた。総二が先に話してしまったため、話すタイミングを完全に逃してしまったためだ。意気揚々と乗り込んできた割には何とも情けなく、気まずいことこの上ない。もしかしたら総二は光太郎は何の関係も無い事を証明するために、わざと話すタイミングを奪ったのかもしれないが真実は定かではない。

「…観束君に丹羽君。あなたたちが来てくれたことは大変嬉しいですわ。ですが観束君、神堂家の女はツインテールにするのは家訓だと前にも話したはずです。こうすることが一番の意思表示なのですわ」

「…!」

総二が悔しそうな顔をする中、俯いていた光太郎もまた、眉間にしわを寄せる。

「…ふむ、慧理那。彼らは家の事情を話すほどに信用している人物なのですね?」

「え…いや…」

「ええ、結構です。そうでなければ、彼らはここまで乗り込んで来ませんものね」

慧理那は自分のツインテールの事情は光太郎には話していないのだが、理事長はそれを勘違いしてしまったようだ。慧理那が訂正しようとするが、そのまま遮られてしまう。

「ふむ…」

値踏みをするような目で総二と光太郎を見るが、それもほんの一瞬。

「ですが、あなたたちに言われるまでもありません」

「「…!」」

底冷えがするほどの声と共に理事長は椅子から立ち上がり、更に強い視線を2人に浴びせる。そこから感じる、恐るべきほどの気配にガクガクと膝が震えた。

ワイバーンギルディやリヴァイアギルディクラスの幹部級エレメリアンと対峙した時と同じ感覚がする。属性力が肌を突き刺し、心臓を握り絞められたような感覚がする。

改めて、この理事長はとんでもない人間だと思う。いや、本当に人間なのだろうか? ツインテールを極めると、人はここまでの領域にまで達することが出来るのだろうか…?

「無論、親ならば娘のツインテールは誰よりもよく見、よく知っています。私が未熟と言ったならば、慧理那のツインテールは未熟なのです!」

「~! それは!!」

もう我慢の限界だと総二は口を開きかけるが、それよりも早く光太郎の中で何かが弾けた。

自分の理性を縛る鎖が1本、また1本と千切れていく感覚がした。押さえつけていた反動で、何かが弾きだされる感覚がしてくる。まるで地表に出てこようとするマグマみたいに、普段は押さえつけている並々ならぬツインテールへの想いが解き放たれようとしている。

「…!!」

光太郎は自身のそれを慌てて止めようとするが―――間に合わなかった。そしてそのまま腕を振るい―――。

―――ドン!!

「「「!?!?」」」

今まで黙っていた光太郎が力任せに壁を殴ったことに、理事長室にいる誰もが驚いた。普段は温和な性格である光太郎をよく知る総二と慧理那は勿論のことだが、あれだけの威圧感を発していた理事長ですらも丸い目で光太郎を見つめる。

「…………それは、違いますよ…それはあまりにも傲慢すぎますよ…!」

まるで野生動物が唸るような声と共に光太郎は顔を上げた。

「…に、丹羽君…?」

「お、おい…」

慧理那は顔を上げた光太郎を見て、驚愕していた。

―――何故ならば、光太郎の目は、まるで火が点いたかのように燃えていたからだ。普段とはまるで様子が違う光太郎に、総二も黙るしかなかった。

「―――傲慢、とは?」

だが、いち早く体勢を立て直した理事長は冷たい目線で光太郎を睨む。

「…!」

光太郎の倍近い年月を生きている理事長が発する威圧は、もろに光太郎一人を襲う。

ターゲットを一人に絞り込んだせいで膝だけではない、更にカチカチと小刻みに奥歯が震え始めた。夏場なのに、歯が合わない…この恐怖に、光太郎の心の気温は数度下がった。

…だが、ここで屈するほど、今の光太郎は臆病ではない。ここ数か月押さえつけてきたツインテールへの想いは簡単には治まらない。燃えるような炎は消せない。

「…その前に一つ、聞いていいですか?」

「何か?」

「あなたは会長のお母さんだと聞いています。では、あなたのツインテールも掟というものに従ってやっていたのですか?」

「そうですわね。私も慧理那と同じように、掟に従ってツインテールにしていますわ。神堂家の女がツインテールになることは、雨の中で傘をさすくらいに当たり前な行動ですから」

「そうですか…」

何をしようとしているのかと総二は光太郎を見ていたが、ここで何かをはっきりと感じ始めていた。

「それが何か?」

「…身内でもない他人が、しかもただの生徒が口を挟むのはおこがましいとは思いますが…一つ言わせてください」

すう、と一呼吸置いて、光太郎はこう発した。

「ツインテールとは、掟に従ってやるものじゃあない!!! ツインテールはもっと自由で救われてなきゃ駄目なんですよ!!!!」

「「!!」」

ビリビリィ! と空気が震えた。光太郎が発した言葉は、理事長が起こす威圧とぶつかり合い、相殺された。

「こう…お前…?」

それを総二は驚愕の表情で見守る。光太郎の言葉を、片時も聞き逃すまいと耳を傾けた。…本当に、光太郎の正体を見極めたいと思ったのだ。

「理事長さん、あなたは今でもツインテールを愛していますか? …いや、聞くまででもないでしょうね。そのツインテールは素人目から見ても、とんでもないほどの思いが見て取れますから」

「……………………………」

「きっと、それは掟に従うという他に、何かあなたの中で並々ならぬこだわりがあるんでしょう。だって、嫌々やってるだけじゃ絶対にそんなにきれいにはなれませんから。もしかしたら、俺たちには分からない、あなただけが理解できる理由があるのかもしれませんね」

「…何が言いたいのですか?」

「…慧理那さんにもその時が来たかもしれないということですよ。彼女自身、掟などではない、本当にツインテールになりたいという、彼女だけのこだわりが…!」

負けじと光太郎も理事長を睨みつける。

「慧理那さんの行動はあなたから見れば、許されざることなのかもしれない…ですが今回の件は慧理那さんにとって『掟』だけではない、ツインテールを愛することが出来る新たな一歩を踏み出せるきっかけになるかもしれないって言いたいんです…!」

まあ婚約や家訓とかはいった事は俺には分かりませんがね、と付け加える。

ここで光太郎が言いたいのは、婚約の件ではなく、ツインテールを解いたことに対する発言なのだから。

結婚の件については光太郎たちの手で変えることは難しいかもしれないが、せめてツインテールだけはどうにかしたい。これでも、俺はツインテイルズの一員、テイルファイヤーなのだから。

「今日、慧理那さんは誰に言われるまでも無く、自分の意志でツインテールを解いた! ですが解いたことで、もっとツインテールのことを理解できるかもしれない! 言われるままではない、自分の意志で行った行動で何かを知るかもしれない! 他の髪型になろうとしたことでより一層、自分のことを好きになってくれるかもしれない! もっと他の理由でツインテールを愛してくれるかもしれない! あなたのやろうとしている事は、ツインテールを解いただけで怒るという行為は、そういう可能性の一切合切を根こそぎ奪う事だ!!!」

燃えるような瞳で、理事長の目を捕える光太郎に、微塵の迷いも無かった。ありのままの本心がその目に宿っていた。それは人一倍ツインテール愛を隠して来たからこその想いが込められていた。

…確かにそれはあくまでも可能性なのかもしれない。もしかしたら、慧理那さんはツインテールを辞め、他の髪型に浮気してしまうかもしれない。

…だが、それらは歩み出さなければ分からないことだ。結果は出るまで勝負は分からないし、やってみなければ全ては分からない。

ツインテールの本質は前へと進むこと。今までとは違う世界で何かを学び、それを糧として進むことも可能なはずだ。それが例え、ツインテールを解き、教えに背くことだとしてもだ。踏み込んだ世界でしか分からないことがあるはずだ。それはきっと無駄にはならないはずだ。

「…それと、あなたはさっきこう言いましたね。ツインテールにするのは、雨の中で傘をさすくらいに当たり前な行動だと…ならば、俺はこう返します。雨の中、傘をささずにいる人間がいてもいい…傘ではなく、他の道具で雨を凌ぐ人間がいてもいい……自由とは、そしてツインテールとはそういうことだ!!! 例え、あなたがどんなに素晴らしいツインテールをしていても…掟だからと、娘だからと押し付けるそれはあまりにも傲慢すぎる!! 第一! ツインテールを押し付ける行為こそがツインテールそのものを冒涜している!!! ツインテールは、命じられて行う物じゃないでしょうが!!!!」

ツインテールにしない人間がいたっていい、好きになる理由が違くたっていい、動機だってどれでもいい、男でもツインテールを好きになったっていい。だって、ツインテールはそれらにきっと寛大なはずだから。

二つに分かれ、それらが個別に宙を舞う髪型、それがツインテール…まるで自由を象徴しているみたいではないか。

例え、慧理那がツインテールを辞めたとしても、それが慧理那の全てではないはずだ。押し付けられるだけじゃなく、本人が真に納得してツインテールを結ぶほうが、本人にもツインテールにも幸せなはずだ。慧理那のツインテールは他でもない慧理那自身の物。決して誰の物でもない。ツインテイルズの物でも、アルティメギルの物でも、ましてやお母さんの物でもない。

「…だって、大切なのは『どうすればいいか』じゃない…『どうしたいか』っていうことでしょう…? ツインテールにしたい思いも、ツインテールを解く思いも…」

「………その言葉…!?」

慧理那は光太郎が最後に呟くように言った言葉に過敏に反応した。その言葉は、レイチェルが慧理那を奮い立たせたあの言葉と非常に似ていたからだ。

「…ああ、そうだよな、そうだよな光太郎!!」

長々と聞き入っていた総二もまた、悪友と馬鹿をするような嬉しそうな顔つきになり、前へと出る。

「俺も言いたいことがあるから言うぜ…俺は、慧理那のツインテールをあなたよりも知っています!」

「…!?」

畳みかけるような反撃に、理事長は初めて動揺が見えた。それに感づいたのか、総二は畳みかけるように追加攻撃をかける。

「誰よりもツインテールを見ているというのなら、この一月でどれだけ慧理那のツインテールが輝きを増したかよく分かるはずだ! だけどあなたは、些細な生活態度ばかりに目が言って、娘さんの本当の成長を見て上げなかった! それじゃあただの口先じゃないか!!」

娘の生活態度を思い、しつけをするのは当たり前。だが、理事長が叱責したのは慧理那のツインテールだ…ならば、より間近で見続けてきた総二に分がある。

「理事長、あなたは慧理那のツインテールをこれっぽっちも理解してはいない!!!」

「…!」

更に追加。理事長が一歩後ろへ下がった。

「今、慧理那はとても大切なことをしています! 確かにそのために学業や生徒会の仕事は疎かになるかもしれません! けど、それは慧理那の人生の中でも、本当にかけがえのないものになると断言できる!」

「観束君…」

この一か月、慧理那はエロ本を自力で買おうとしたり、本当の自分をさらけ出している。それと同じように、ツインテールの魅力も増している。

ならば総二に出来ることは、ツインテイルズに出来ることは、友として応援し、仲間として支えるだけだ。

「だから…今は、今だけは少しだけ目を瞑ってくれませんか。慧理那ならきっと、それすらも自分の物にして、またいつもの…いや、以前よりも凄くなって帰ってきますから」

総二は、それだけを言うと、黙った。光太郎も、慧理那も黙った。理事長も黙っている。

「………………」

言いたいことは言ってしまった。もうどうしようもない、どんな処分が下ろうと文句は言えない、引き金は引いてしまった。ここまで来てしまったら、後は理事長が寛大な処分を下してくれることを祈るしかない。

「……………………………少し、休憩を挟みましょうか」

「!」

「慧理那、続きは昼休みからです。3人とも、授業へ戻りなさい。乗り込んで来たあなたたちの処分も後に決めます、今は授業中のはずでしょう?」

「…お」

「ですが!!」

総二の口から出かけた言葉を理事長が遮る。

「その時は…会議のお題を、少し変えましょうか」

「…はい、お母様」

その顔は、どこか毒気が抜けていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

理事長室を抜けた光太郎を待ち受けていたのは、婚姻届を構えていた尊と怒りのあまり震えている愛香とトゥアールだった。

「この…馬鹿―――!!」

「ホモ野郎は地獄に堕ちろー!!」

「ひいっ!?」

愛香さんのビンタとトゥアールさんのグーパンを紙一重でかわした光太郎は、逃げるように慌てて階段を駆け下りた。

早い所、授業に戻らなければ他の生徒に怪しまれてしまう。これはここにいる面子以外は誰も知らない、秘密の体験、誰も経験のしたことのない特殊な想い出だ。色々とはっちゃけすぎて後悔はしているが、それはここから逃げてからにすることにしよう。

「…! ちょっと待て、光太郎!!」

踊り場に降り立った光太郎を、総二は慌てて呼び止める。話を聞く為に、後を追おうとする愛香達を手で静止する。

「…どうしたんだ?」

光太郎はなるだけ平静を装った。確かにあの場でははっちゃけすぎたが、それでも自分の心の奥深くにある領域にだけは足を踏み入れないようにと、理性を鎖で縛りつける。

総二のようにぶっ飛んだ発言はしていないと思うが、それでも今後の生活に支障が出ないようにと防壁を張る。

「光太郎、お前さ……やっぱり、ツインテール、好きなのか?」

「…!」

遂に問われたその問いに、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、顔が歪んだが、光太郎は顔を戻してそのまま答えた。

「……人並みにってくらいには好きだよ。でも、お前には負けるよ」

乾いたような笑みを浮かべながら、そのまま総二を見る。

「あの時、俺が言えたのは当たり前のことぐらいだよ。お前のようなぶっ飛んだ発言をする勇気も度胸も無い。ただ、俺ははっちゃけすぎちゃっただけさ…。俺が時々、椅子から転げ落ちちゃう時があるだろ? それと同じさ」

「でも、お前―――」

「…それよりもさ、俺、早く着替えなきゃ。一限目にはちゃんと出たいからさ」

これ以上追及されるよりも前に光太郎は話を切り上げると、そのまま階段を下り、駈け出した。それ以上この場にいて、総二たちに自分の心を読まれるのが嫌だったからだ。そして、総二と自分を比べてしまうことが嫌だったからだ。ツインテールを真っ直ぐ愛せる心を見るのが嫌だった。

…だって、きっと、自分の心は総二と違って、ツインテールに飢えている酷く醜いものだろうから――。




光太郎はツインテールを隠れて愛するからこそ、何かを押し付けたり踏みにじったりする人が許せない…といった感じです。これがツインテール絡みになると、特に。
理事長の描写はやりすぎかなって思いましたが…この人、ある意味で慧理那の上位に位置する人だからなぁ…もしツインテイルズだったら、と思わざるを得ません。…きっと、公式チートクラスの実力があるのでしょうか?

では次回もお楽しみに!!

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