俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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ようやく適度なギャグを入れることができました。


第7話 万歳、ツインテール

小鳥のさえずりが聞こえ、眩い日光が差し込む朝の目覚め。そんな中で光太郎はむくりと起きる。

(痛い…)

目覚めて、最初に感じたのは背中の痛みだった。流石に座布団を敷布団がわりにして寝たのは軽率だったかもしれない。睡眠時間は多めに取ったはずなのだが、全然眠った気がしなかった。

(まあ、ベッドが一つしかないからなぁ…)

本来なら俺がそこに寝るはずのベッドには、異世界からの住人で昨日からの同居人、レイチェルが寝息を立ててぐっすり休んでいた。どうやらベッドで眠るのは随分久しぶりらしく、何度も寝返りをうってそのまま眠る、という動きを繰り返していた。

昨夜から同居を始めた俺とレイチェルだったが、そこには結構な数の問題が立ちはだかった。最大の問題だと思っていた着替えや食事の方はそこまで心配しなくてもよかった。食事は俺が作れば問題は無いし、レイチェルの身に纏っている白衣や私服はテイルギアのちょっとした応用技術が使われており、常に清潔な状態を保っているらしい。だから私の服や下着は買わなくていいわと言っていた。

しかしそこで立ちはだかった問題が睡眠スペースだった。元々この部屋は一人暮らしのため、ベッドが一つしかなく、どちらかがベッドで、どちらかが床で寝るしかないのだ。レイチェルは「一緒に寝ない?」なんて笑いながら誘ってきたけど、俺は断固拒否させてもらった。悪いが俺はロリコンじゃないのだ、幼女と一緒のベッドに寝る趣味は無い。座布団を敷いて、そのまま床で寝させてもらった。

更には食器の数が足りない、風呂はどうするんだとか…いろいろ問題はあったが、まあ、そこは週末にでも買い出しに行けばいいか。風呂はシャワーをメインに、暇な時間があれば銭湯にでも行けばいいか? と対策は考えているが…こればかりは実際に生活をしてみないと分からない問題だろう。布団は…今日の帰りにでも色々見て回ってみるか?

俺は立ち上がり、ベルトを手にそっと足を忍ばせて洗面台へと向かった。…一つ確かめてみたいことがあるのだ。

光太郎は洗面台に立ち、鏡に映る自分の顔を見た。そこには何年も見てきた馴染のある顔が映っていた。まあ、少なくともそんなに嫌われるような酷い顔じゃないよな、と確認した後、持っていたベルトを腰に着け、囁くように言った。

「…変身」

ベルトから赤い光が迸ったかと思うと、鏡に映っているのは俺の姿ではなく、昨日変身したツインテールの美少女の姿があった。

「おお…」

思わず声が漏れる。鏡の中の自分は元の俺の面影がないというか…外見からは正体はまずばれないレベルまで変身している。これを見て、俺だと判断できる人間はまずいないんじゃないだろうか。

(よし、とりあえず、外見は問題ないな)

次は色々な角度から自分の体を見てみた。腕や足は強化アーマーのような装甲が装着されている。手を握ったり、肘を曲げたり、足をブラブラさせたりしてみたが、特に違和感は感じられない。ぴったりと俺の体にくっついて、俺の動きの邪魔にならないようにできている。…やっぱりレイチェルの世界の技術は凄いんだな、それぞれのパーツが接触を起こさないようになっているんだ。

(さて、次は…)

体の動きを一通り確認した後、俺はそっと焔色の髪、ツインテールに手をかけた。おお、これが女の子の髪の毛なのか…。なんていうのか、すべすべしていて柔らかくて…男の髪と全然違う。

片方のツインテールを顔に近づけて、匂いを嗅ぐと、変な笑いが出た。おおい、どうなってるんだよ、コレ。すっごいいい匂いがするぞ、お花畑の匂いっていうのか…女の子ってすげえ!

(か、体のほうは…どうなって)

「何してんの、あんた?」

自分の胸に手を伸ばそうとした瞬間、真横から声が聞こえ、俺の心臓が跳ね上がった。そこには、眠い目をしながらも何やら面白いものを見つけたような顔をするレイチェルがいた。

「…い、いや、これは」

「何? 女の子になれてやっぱり嬉しいの? いやぁ、そこまで喜んでくれるのなら、あたしもそれを作った甲斐があるってものね」

レイチェルはニヤニヤとした顔で俺を見てきた。途端に、かあっと顔が熱くなる感覚がする。

「ち、違うって! これはあくまで、他人からどう見られるのかを多角的にだな…」

「はいはい」

「いや、お前は誤解をしてるぞ! 俺はただ」

「大丈夫大丈夫。それが若さだからねー」

あっはっはと笑いながらレイチェルは、朝食を食べている時も俺が家を出る時も母親のような暖かい目で俺をずっと見ていたが、俺はもうそれがたまらないほど恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

殺風景な下駄箱の前で靴を脱ぎながら、時計の方へと目をやった。時間はまだまだ余裕はある。よし、遅刻はしなかったな。

一安心しながら上履きに履き替え、教室へと続く廊下を歩いていると、何人もの生徒がひそひそと話しているのが聞こえた。

「えー、嘘?」

「違うんだって、これ本物だよ」

「合成でしょ、これ?」

いったい何を話しているんだろう? 教室に入り、机にカバンを置くと、教室内でも同様の現象が起きていた。

「これが噂の!」

「おー、この動画はまだ見たことが無かった!」

「だろ? 今朝出たばかりなんだ」

ふとそんな声がする方を向いてみると、何人かの男子がタブレット端末を弄りながら、熱く語っていた。辺りを見渡すと、クラス中そんなことばかりしている連中がほとんどを占めていた。

このことを無視してもよかったのだが、どうしても気になってしまい、男子グループのタブレットを覗いてみることにした。

「何見てんの?」

彼らに話しかけるのは初めてだったが、フランクそうなノリで話す。すると男子グループはじろっと俺を見たが、嫌な顔一つしないで俺を話の輪に加えてくれた。どうやら今ある話題を誰でもいいから話したくて仕方ないらしい。

「いや、これなんだけどね」

俺はタブレットを持たされ、一つのサイトを見せられる。そこは光太郎もよく使う動画サイトにある一つの動画だった。投稿日は…今日の6時? 再生数が…10万再生!? まだ2時間ちょっとしか経っていないのに何だその再生数!?

「何なんだよ?」

「いいからいいから」

数秒間のロード時間の後、動画は再生される。多少の手ブレが確認でき、そこからこれが撮影した動画であることが分かる。

何の動画なんだ? と疑問に思ったが、次の映像に映った瞬間、光太郎は腰を抜かしそうになった。

『うおおおおお!!』

「え…?」

なんとタブレットの中には昨日俺が助けた、あの赤毛色の女の子が怪人と戦っている動画が再生されていたのだ。身の丈ほどの剣で怪人の皮膚を切り裂く瞬間、相手を拘束して、とどめの一撃を放つ瞬間。戦闘の一部始終がしっかりとそこに収められていた。

「まあ、驚くのは無理もないよ! 僕も初めて見た時、そう思ったもん!」

「ああ、でもさ、やっぱり可愛いよな~、テイルレッドたん」

「ああ、時代は遂に俺たちに追いついたんだよ」

呆然とする俺を「言いたいことは分かっているよ」と言わんばかりに肩に手を回す男子たち。いや、俺が茫然としているのはそういう意味じゃないんだが…。本当にこの子が、怪人を?

「て、テイルレッド?」

「ああ、この子の名前だよ」

すると次の動画が再生され、そこにはテイルレッドと呼ばれた少女のスクリーン写真が次々と流れていた。

「「「ああ、可愛いなあ可愛いなあ可愛いなあ!」」」

その言葉を呪文のように連呼する男子たちをガン無視することに決め、タブレット内に映っている少女の姿に視線を落とす。

(確かにこの子は可愛いけどさ…)

まあ、よく色んな角度から撮ったもんだ。あたふたと慌てる姿、剣を持つ姿…確かに可愛い。昨日、彼女と生で触れ合ったから、その可愛さは十分に分かっている。

だが、そこは今重要じゃないんだ。

(俺と…同じなのか?)

気になったのはそこだ。俺の変身した姿と彼女の姿…共通点がありすぎる。今朝、鏡の前で見た姿とタブレット内の写真を照らし合わせてみる。

(テイルギア…だよな、これ)

腕や足の各パーツ、髪留め、そして…ツインテール。彼女の方が俺よりも1つか2つはレベルは上だが、似ているとかそういうレベルを超えている。たまたま? いや、それにしたって…。でも、こんな小さい子が戦いに?

と、ここで俺のことはどう思われているのか気になった。一応、俺もあの場で戦っていた訳だし…もしかしたら動画にでも撮られていたのかも? 少し怖い質問だったが、勇気をもって聞いてみた。

「あ、あのさ…テイルレッドの他にもう一人いたじゃん。あれって何なんだろうね?」

さりげなく、何ともないようにぽつりと言うと、俺の言葉を男たちはすぐに理解してくれた。

「ん? ああ、これだろ?」

タブレットを弄り、関連動画へと飛ばしてくれた。そこには変身した俺が戦闘員と戦う姿が映し出される。

おお。俺、中々カメラ映りがいいんだな。じっと食い入るように見つめるが、待て待て待てとツッコミを入れる。…これ俺自身だぞ? 自分自身の姿に見とれるだなんてそんな馬鹿な話があって…。

「でもよ~、この子本当に誰なんだろうな?」

「ああ…必要最小限の事しか喋らないし、口調も性格も分かんないもんなぁ?」

「クーデレなのか?」

「う~ん…この恰好からして、テイルレッドたんと何らかの関係があることは分かるんだけどなぁ」

「う~ん…妹、姉? でもそれじゃひねりが無いよな…大穴で娘とか? でもそれじゃ見た目が…」

誰かが呟いたまさかの発言に俺は唖然としたが、男子たちは電流が走ったが如く驚き、「その発想は無かった!」を叫んだ。

「そうか…そういうことだったのか…」

そこである男子は全ての答えにたどり着いたと言わんばかりの顔をする。

「つまり、この子とテイルレッドたんは、親子関係なんだよ!!テイルレッドたんは未来の世界から若かりしお母さんを守るためにこの時代へとタイムスリップしてきたんだよ!」

「「「「「なっ、なんだってえええええええ!!??」」」」」

お前らの頭の中では、俺とあの子はどんな設定になっているんだろう? 気になって仕方ないが、では教えてあげようと言われても聞きたくもない。

とここで、ピンポンパンと校内放送のアナウンスが鳴り響いた。全員が条件反射でその放送に耳をすますと、一時間目を中止して、緊急の全校集会を行うので、体育館に集合してくれという内容の放送が聞こえた。

ああ、昨日生徒会長も事件に巻き込まれていたし、そのことでの放送かな? あの後、安否も確認しないまま帰っちゃったから、大丈夫だったんだろうか? 怪我とかしていなければいいんだけど。

「ま、このことは後でゆっくり話そうぜ、兄弟」

タブレットの持ち主と熱い握手をし、そいつは満足そうな顔をして去っていった。どうやら俺はいつのまにか彼らの仲間入りを果たしていたようだった。

こんなバカなことから始まる友情もあるんだなぁと体育館に移動中、ぼんやりと思った。

 

 

 

 

 

 

陽月学園高等部体育館。昨日の入学式と同じように俺らはそこに集合していた。

壇の上には、昨日あの現場にいた生徒会長、神堂慧理那の姿があった。その後ろにはSPのように数人のメイドが護衛目的の為に控えていた。

新堂会長の外見には目立った外傷はなく、いたって健康そうであった。その自慢のツインテールも健在で、彼女が属性力を奪われる事態も避けられたようだ。ああ、よかった。

「皆さん。知っての通り昨日、謎の怪物たちが暴れまわり、町は未曽有の危機に直面しました」

そりゃあ、未曽有も未曽有だよ。金品や命とかを狙っているんじゃないからな。ツインテールをピンポイントに狙う怪物なんて、珍しいなんてもんじゃないだろうさ。まあ、その実態は洒落になっていないというのが、何とも言えない。

「実は、このわたくしも現場に居合わせ、そして狙われた一人なのです」

「なっ……!!」

「なんだって!」

慧理那のその衝撃の告白は、多くの生徒に衝撃を与え、それが徐々に騒ぎへと発展し始めた。

「どこのどいつだ許せねぇ!!」

「俺がぶっ潰してやるから出てこい!!」

怒りに身を包まれた生徒たちは暴徒の群れと化し始めていた。何人かの上級生はどこから取りだしたのか、バットや竹刀を持っていつでも相手を殴れる体勢に入っていった。…ノリがいいのね、先輩たち。

「皆さんのその正しき怒り、とても嬉しく思いますわ。他人のために心を痛められるのは、素晴らしいことです。まして、わたくしのような先導者として未熟者のために」

慧理那はその小さな体を身振り手振りして、熱く語る。その姿に多くの生徒が賛同していく。

「しかし、狙われたのはわたくしだけではありません。この中にも何人かいらっしゃるでしょう。まして目を学校の外に向ければ、さらに多くの女性が、危うく侵略者の毒牙にかかるところだったのです」

その発言に再び生徒たちはどよめくが、それをさえぎるように、しかしと慧理那は強めに言った。

「今こうしてわたくしは無事ここにいます。テレビではまだ情報は少ないですが、ネットなどで知った人も多いでしょう。あの場に、風のように颯爽と現れた……2人の正義の戦士に助けていただいたのです」

…正義の、戦士…? 何か、おかしな流れになってきたぞ? 猛烈に嫌な予感がするが、それは見事に的中してしまった。

「わたくしは、あの少女たちに、心奪われましたわ!!」

うおおおおお! と喝采が起きる。いや、あんた! 全校生徒の前で何言っているんだ!? 余計な騒ぎは控えててくれ! 今後のエレメリアンとの戦いに影響が出るからさあ!

「その言葉を待っていたんだ会長!」

「よかった…胸を張って小っちゃい子はあはあペロペロと言うのに、正直引け目を感じていたんだ! だけど、それは決しておかしな感情じゃなかったんだね!」

「私はもう一人の戦士が好きだわ! あの美しいスタイルに軽やかな戦い方! まさしくお姉さまと呼ぶにふさわしいお方!」

「お、お姉さまはノーマルなのかしら、それともアブノーマル、両刀…?」

男子だけでなく女子の方も大騒ぎで、体育館は無法地帯と化していた。さながらアクション映画のラストシーンで作戦成功の知らせを受け、主人公たちが大喜びするシーンが脳裏に浮かぶが、この現状はそれらが与えてくれるような感動を全てぶち壊しにしてくれた。もう、日本の未来が心配になるような発言が次々と飛び出してくる。

「これをご覧あれ!」

慧理那が右手を挙げると、メイドの一人がスクリーンを準備する。

そして、そこに映し出されたのは、テイルレッドと変身した俺の姿だった。レッドだけではない、俺がテイルレッドを助けるシーンや手を握るシーン、話すシーンに至るまで最高画質と音声で再生されていた。

「「「ウオオオオ―ッ!!」」」

俺は周囲の歓声とは別の意味で叫びたくなった。俺は昨日の観束君の公開処刑以上の惨劇をこの身で味わっているからだ。…ああ、これもう、周りに絶対、正体をばらせなくなった。ばれたら社会的に、死んじゃう。俺、学校に来れなくなっちゃう。

「神堂家は、あの方々を全力で支援すると決定しました! 皆さんもどうか、わたくしと共に、新世代の救世主を応援しましょう!」

歓声は更に高まった。誰かが「ツインテール」のコールを始めたかと思えば、それがあっという間に数人に伝染し、ついには大合唱になった。

「「「ツインテール! ツインテール!! ツインテール!!!」」」

(マジかよ…)

俺は新手の宗教が生まれる瞬間をこの目で見ているのかもしれない。そして半笑いになりながら横を見ると、俺と同じような顔をしているクラスメイト、観束総二がいた。

彼も俺に気付いたらしく、俺と同じようにどうすればいいのか分からないような顔をしていた。…昨日まで彼がとてつもない変人に見えたのだが、この状況下ではとんでもない常識人のように思えてくる。

俺はぽつりとこう呟いた。

「もうやだ、この国」

その言葉に観束君は同意するように頷いてくれた。…どうやら、また一人、俺は仲間を見つけることができたらしい。




原作よりまだマシな状況なのかな、これ? 原作最新刊まで読んでいる身としてはまだまだ手ぬるいと感じてしまう私は多分病気なんでしょうね…。
感想、お待ちしています。

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