俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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第8話 ツインテール、出陣

「ほんと、世の中馬鹿ばっかりね」

「俺もそう思うよ…」

「以下同文です」

放課後、げんなりとした顔で歩く3人の生徒の姿があった。彼らの人生が始まってまだ15年程度だったが、これほどまで疲れた日は無いと言わんばかりの哀愁が体から滲み出ていた。この疲れに比べればまだ受験の方がマシだったと思えるくらいに今日は疲れた。

丹羽光太郎、観束総二、津辺愛香。この3人は今朝のバカ騒ぎについていけなくなった大変貴重な生徒たちであり、あの体育館での出来事がきっかけで彼らは知り合った。

あの騒ぎの後、学校は収拾がつかないほどの不法地帯と化した。ネットには俺とテイルレッドの画像や動画がガンガン拡散しているし、周りの生徒たちの発言も理性を振り切ったような世迷言だらけで、ぞわぞわと悪寒が走るほど酷いものばかり。

『俺巨乳好きだったんだけど、目覚めちゃった』

『その拳と剣で俺の体をバラバラにしてくれないだろうか』

『幼女が好き? …そんな恥ならとうの昔に受け入れた! そして今俺はここにいる!』

『馬鹿ね、性別何て壁、愛の前では無力なのよ!』

『私のお尻を叩いて、いや舐めて! 愛しのお姉さま!』

これから日本の未来を背負う奴らがこんなことばかりほざいているのだ、まともな精神を持っている奴ならば疲れるのは当然だった。そうして気がついてみれば、クラスの隅で同じような顔をしている男女が3人。…俺たちが結束を深めるのは必然だったのかもしれない。

そして俺たちは互いの傷を舐めあうように、放課後も一緒に行動を共にしているのだった。

「あいつらには恥ってものがないのかな」

「…多分恥ずかしいとか、そういう概念をもう飛び越えちゃっているのよ」

観束君の発言に頭を押さえて、げんなりとした顔をする津辺さんが見事な回答を出してくれた。どうやら彼女の女友達も変態発言をほざくようになってしまい、相当参っているらしい。

「帰ったらトゥアールを締め上げて、ファイルを消させましょう。あいつならできるわ」

「お前は少し、暴力以外の解決手段を取れ!」

「まどろっこしいのは嫌いなのよ、あたし」

シャドウボクシングをしながら何やら物騒なことを津辺さんは話している。結構武闘派なのね、彼女。トゥアールという人の身が心配だ。

「…」

そんな愛香の姿を自然と目で追いながら、いつのまにか光太郎は会話の内容とは違う想念で占領されていた。

(ああ、それにしても。やっぱりいつ見ても凄いツインテールじゃないか)

シャドウボクシングでゆらゆら揺れるツインテールを目で追う。天然ものでそこまで凄いツインテールに仕上げられるとは…凄い、なんて凄いのだろう。

俺が変身すれば彼女に匹敵するほどのツインテールにはなれるが、彼女は変身前から既にレベルが高いツインテールを維持している。…髪のケアとかには気を使っているんだろうな、きっと。女の人は髪の洗う時間も凄くかかるって聞いたことがあるし、俺が今朝触った時の感触…。

「ねぇ!」

誰かがぐいっと通学カバンを引っ張られる感覚で、光太郎は現実に思考を戻される。またやってしまったと我に返ると、津辺さんが心配そうな顔で俺を見ていた。

「ねえ、あんた…大丈夫?」

「えっ!? ああ、いや、うんその…大丈夫! うん、大丈夫だよ!」

何だか俺を変人みたいな目で見始めている津辺さんに、俺は必死のフォローを入れる。違うよ、俺は変人じゃないよ、たまたま物思いに耽っていたごく普通の高校生だよと云わんばかりのアピールが伝わったのかどうか分からないが、津辺さんは怪訝そうな顔をしながらも、それ以上何も言ってこなかった。

「いや、愛香。俺たちだけで喋っていたから、光太郎が会話に入ってこれなかっただけだろ?」

「…あ、そうだったの?」

ここで観束君のフォローが回ってきた。どうやら彼は俺が黙っていた理由を勝手に解釈してくれたようだ。観束君の言葉で津辺さんも俺が会話に加われなくて困っていたという風に解釈してくれたらしい。

ありがとう観束君、おかげで津辺さんの誤解も解けそうだよ。昨日、心のどこかで君を馬鹿にしていたことを謝りたい。

「あ、ええと、うん、そうなんだ。ごめんね、観束君」

この波に光太郎は乗った。怪しまれないように、少しだけ、腰を低くした。

「あーと、総二でいいぜ。名前で呼ばれるのは慣れないからさ。ついでに敬語も無しにしてくれ」

ここでフォローは完了した。これで俺は「津辺さんのツインテールを見ている男子」ではなく「会話に入れなくて戸惑っている男子」という風に解釈されたはずだ。しかもここで更に追い打ち。名前呼びまで許してくれるだなんて、寛大じゃありませんか。

「じゃあ、…総二、ごめんな」

少しだけ、図々しくしてみる。彼が呼び捨てでいいと言うのならばこれくらいの方が印象は良いだろう。

「俺もすまなかったよ、光太郎」

総二は両手を合わせて、俺に謝ってくれた。

こうして、光太郎と総二は互いのことを知る事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

それから俺たちは会話をしながら、ブラブラと歩いていた。

話の内容は勿論、テイルレッドと変身した俺のことや侵略者のことだ。

特に後者は俺も非常に関心があった。どれくらいのペースで攻めてくるのか、戦力は何匹くらいなのかなど。ある程度の戦力が分かればモチベーションも保ちやすいんだけどな。

「それにしても、何時までこの騒ぎが続くのかしらね」

愛香は疲れたような顔で、そこら辺の通行人を見た。

既に昨日の事は何人もの人に知れ渡っているらしく、どこへ行っても話題には尽きなかった。中には学校の連中と同じような発言をするような輩とも遭遇した。…おまわりさん、捕まえるなら今だぜ?

「すぐに収まればいいんだけどな…」

そう答えた総二も泣きそうな顔になっていた。うん、その気持ち、凄い分かる。ただの一般人の総二ですらそう思っているのだ、身元バレの危険と隣り合わせの俺にとってはこの手の話題は一刻も早く消えてほしい話題だ。…ただ、どこか確信もあった。

これはあくまで希望的観測だが、しばらくすれば徐々に消えていき、最後は忘れられる、そんな風に物事が運ぶのではという確信は心のどこかにあった。

新しいものが目まぐるしく変わり、数日程度で新たな話題が上がる現代。それを楽しむ民衆は新たな話題にすぐ食いついて、前の話題を次第に忘れていく。テレビの前のスキャンダルや事件と同じだ。だからどうせこの事態も次第に風化していって忘れられるんじゃないか。そう光太郎はタカをくくっていた。

(しばらく波が治まるまで、変身は気を使わないとなぁ…)

まさか男の身で「ネット流出」という現象に怯える日が来るとは思わなかった。戦闘中ならばともかく、変身前後の姿は絶対に見られないようにしなければ。少なくとも、特撮ヒーローみたいに敵のド正面での変身は絶対に行ってはいけないだろう。よくあんなことできるよな。

カメラとか動画は必要最小限しか撮られないようにして、戦闘が終わったら、早く離脱するように心がける。…このこともレイチェルと話し合った方がいいな、うん。それに、テイルレッドのこともレイチェルに聞こう。何故、テイルギアを彼女は持っているのか? 俺と彼女の関係は? それに、もし、彼女自身が戦いを拒んでいるのならば…俺は何らかの行動を起こす必要があるかもしれない。一桁の年齢の子を戦いに参加させるのは、俺自身引け目を感じているからだ。できることなら、彼女のそのツインテール姿を戦場で見せることは避けて欲しい。

「あいつらまた来ますかね?」

「まっさかー、昨日の今日で…」

津辺さんは俺の発した言葉に苦笑しながら、角を曲がり、そして…。

『この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』

突然、空中に巨大スクリーンが浮かび上がったかと思うと、津辺さんは盛大にカバンを落とした。津辺さんだけじゃない、総二も俺も、カバンを落とした。

聞き覚えのある名前に嫌な予感がし、空を仰げば、竜の姿をした怪物が偉そうに足を組みながら玉座に座っていた。

『我らは諸君らに危害を加えるつもりはない! ただ各々の持つ心の輝き(ちから)を欲しているだけなのだ! 抵抗は無駄である! そして抵抗をしなければ、命は保証する!!』

これは所謂、宣戦布告ということなのだろうか? 町中にあるテレビやラジオ、電子機器類から同じような声や映像が聞こえてくる。総二も携帯のワンセグを起動させると、どのチャンネルを回しても空のスクリーンと同じ映像が流れていた。

(ああ…こいつらやりやがった)

もう、駄目だ。とっさにそう思った。

学校の奴らだけじゃなく、一般市民にもアルティメギルの存在が、ばれた。これ絶対、間違いなく面倒なことになる。

『だが、どうやら我らに弓引く者がいるようだ…。抵抗は無駄である! それでもあえてするならば…思うさま受けてたとう! 存分に挑んでくるがよい!!』

すると、偉そうにしていた怪人から、亀のような外見の怪人へと映像が変わった。

『ふはは、わが名はタトルギルディ! ドラグギルディ様のおっしゃる通り、抵抗は無駄である! 綺麗星と光る青春の輝き…体操服(ブルマ)の属性力を頂く!!』

ブルマ…? ツインテールの次は体操服のブルマ? 髪型ならまだ理解は及んだんだけど、衣服の好みでも属性力って存在するのか。というか、ブルマって絶滅危惧種ものの服装だぜ。

俺の思考とリンクしたように、申し訳なさそうに一人の戦闘員がそっと耳打ちをする。

『……何、この世界では、今はほとんど存在せぬだと! おのれおろかなる人類よ、自ら滅びの道を歩むかああああああああ!!』

絶叫する怪人と、絶句する俺たち。

『タトルギルディ? 終わったのか?俺の出番はまだか?』

『うわ、馬鹿! まだ貴様の出番ではないぞ、ヘッジギルディ!』

『何!貴様ばかりずるいぞ!』

『うるさい馬鹿者ぉ!! まだ私の演説は終わって』

亀怪人がいったい何を言いたかったのか最後まで分かることは無く、ぐだぐだのままプツンと映像は途切れた。

「「「……」」」

俺たち3人は顔を見合わせ、あははと力なく笑っていると、俺と総二の携帯が同時にけたたましく鳴り響いた。

「「うわぁ!」」

2人はすっとんきょんな声を上げ、慌てて画面を開いてみると、見たこともない番号からの電話だった。

総二も画面を開いて、俺と同じようにどこか戸惑っているみたいだった。とりあえず、津辺さんに「電話出てくるね」とだけ言い残し、少しだけ離れて通話ボタンを押した。

「もしもし?」

『あたしよあたし!』

出てみると、レイチェルの甲高い声が聞こえてきた。心なしか、受話器越しの彼女はゼーゼー息が上がっている気がする。…こいつどっから、掛けてきてんだ?

「お前、どっから電話掛けて…」

『駅前の公衆電話よ!! しょうがないでしょ、あたし携帯持っていないんだから!!』

その言葉で納得する。ああそうか、こいつ携帯持っていないから、俺に掛けるとしたら公衆電話から掛ける以外方法が無いんだ。…駅までわざわざダッシュして掛けてきたのか、レイチェル。

『そんなことよりも、来たわよ、あいつらが! アルティメギルがこの付近に出現したわ!』

「えっ!?」

嘘だろ!?普通、怪人は1週間に1回のペースで出現するもんじゃないのかよ!!

『とにかく、相手の座標の位置はテイルギアに転送したわ。変身すればあんたを自動的にナビゲートしてくれるから!』

それだけを言い、レイチェルは電話を切ってしまった。

「ちょ、ちょっと待っ…」

相手はいったい何を求めているのかとか、はたしてそいつはブルマを狙う怪人なのかとか、この状況を切り抜けるにはどうしたらいいのかとか。聞きたいことはいっぱいあるのに、勝手に電話を切られてしまった。

呆然としていると、丁度総二も電話を終えたらしく、こっちに向かってきた。

とりあえず、ここから抜け出さなくては。黙って抜けると逆に怪しまれる、ここはあくまでも自然に、現実の範疇でありえる急用ができたと言えば…。

「総二。そ、その…俺、急用ができちゃって…今、俺の家に来ているいとこが外出中に迷子になっちゃって、探しに行かなきゃならないんだ…」

まあ、なんて下手くそな嘘なんでしょうか。俺が今咄嗟に浮かんだ精一杯の嘘がこれだった。これだったら何も言わないで立ち去った方が何倍もマシだと、言ってから気付いたが、もうどうしようもない。

「お、俺もそうなんだ。母さんが病気で倒れてさ…病院にいかなきゃならないんだ…」

ほら、総二の方が本当の急用じゃないか。お母さんが倒れただなんて…。

「へ、へーそうなんだ…」

「そ、そうなんだよ」

周りの空気が一気に死んでいくのを感じ、俺はもう耐えられなくなって、逃げた。

「そ、それじゃあね!」

「お、おう! また明日な!」

脇目も振らずに猛烈にダッシュし、近くの路地裏に入る。そしてテイルドライバーを腰に着け、コンマ数秒で変身を完了させると、半分涙目になりながら俺は街を駆けだした。

(あああ、もっとマシな嘘があっただろうに! 絶対怪しまれたぞ、俺の馬鹿野郎!!)

そう叫びながら、俺はアルティメギルの反応がある場所まで懸命に走った。

 

 

 

 

 

 

「これ、持っててくれ!」

総二は愛香に自分の荷物を預けると、勢いよく走り出し、光太郎が駆け込んだ側と反対に位置する路地裏で変身アイテム、テイルブレスをかざして、一瞬でテイルレッドへと変身を完了させる。

そして先ほど光太郎についた嘘を後悔していた。

(家の母さんが病気? ああ確かに病気にかかっているよ、中二病という名の不治の病にな! つーか、家の母さんが病気で倒れるとか、天地がひっくり返ってもあり得ねー!むしろ邪気『癌』という名の病原菌をばら撒く側だぞ!?)

自分の母親のエキセントリックな行動を普段から見ている総二は、自分が放った言葉がどれだけあり得ないか十分に理解できていた。一児の母にして未だ現役の中二病患者である母は、かれこれ20年近く病気にかかったことすらない。総二自身、母は病原菌か何かの生まれ変わりなんじゃないかと本気で思うほどだった。

更に母はたびたび行う奇行のせいでご近所からは悪い意味で有名になってしまっている。あんな嘘、すぐにばれる。もっと上手い嘘を言うべきだった、いとこが迷子だなんて光太郎の方がよっぽど急用じゃないか。

…こうしてお互い誤解し、すれ違ったまま、2人の戦士はそれぞれの戦場へと向かうのだった。




次回、ついに光太郎単体での初戦闘です。
感想お待ちしております。

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