俺のクラスメイトが全員東方キャラになっていた件 作:マジカル赤褐色
「あらあら〜。妖夢に新しいお友達ができたのね。うれしいわ〜、うふふ、」
その時、俺の真後ろにある襖が開いて誰かがやってきた。
「誰だ!?」
「あらここは初めて?私はこの白玉道場の主にして、茶道部部長の、西行寺幽々子お姉さんよ〜」
──────俺の名前は『(名前)』。
帰宅部のくせに剣道場にいる高校2年生だ。
現在、俺は通っている学校が幻想郷化し、生徒たちが東方キャラに変換されてしまう異変に見舞われている。
うちの剣道部は校内に作られている剣道場で練習をするのだが、その剣道場が幻想郷の冥界に存在する白玉楼という屋敷に変わってしまっていた。
そして剣道場のエースとされている生徒は庭師魂魄妖夢と化していた。
練習相手がいなくて困っている妖夢を手伝うことを約束した俺だったが、その時俺たちの間に彼女が現れたのだった………
「ゆ、幽々子様!?」
妖夢は目をまん丸にして驚いている。
それもそのはず、茶道部の部長として現れたのは妖夢の主、西行寺幽々子だったのだ。
妖夢が言うには、茶道部の部室はこの道場に隣接されている模様。
騒ぎを聞きつけて部室から現れたのだろう。
「彼女は?」
「3年C組の幽々子様です。茶道部の部長で、私の恩人なんです」
「茶道部…………」
「そうだ〜。こんな硬い床でお話するのもなんだし、私の部室へいらっしゃい。お茶でもご用意するわ」
そして俺達は半ば強引に茶道部室へと連れ込まれた。
「……………いや、広ーっ」
茶道部の部室は白玉楼の屋敷の居間だった。
茶道部の部室とは狭苦しくて正方形で、真ん中に囲炉裏がある………みたいなイメージだったのは俺の偏見だったのだろうか。
「はぁ〜…………畳は気持ちいいわぁ〜」
なんと幽々子は真っ先に部室に飛びこむと、横向きに寝っ転がりながら机の上のおせんべいを食べ始めたのだ。
「…………………………………茶道部長ですよね、」
「そうよ〜」
茶道とは文化を通して日本の行儀や礼節や、正しいマナーについて学び、心を綺麗に磨く事を目的とした分野だと俺は思っていたのだが、違ったのだろうか。
「さぁお二人も座って〜。机の上に美味しいお菓子があるわよ。食べなかったらぜんぶ私が食べちゃうわよ〜」
机の上には雰囲気だけある申し訳程度の漆塗りの中に袋に詰められた和菓子がたくさん入っている。
とりあえず、小さなお盆の上にお茶っ葉と急須があったのでお茶だけいただくことにした。
ついでに食べようかと思っていた、昼休みの終わり際に買った惣菜パンを置いておいた。
「おぉ…………『』さん、綺麗にお茶を淹れられるのですね」
「ん?まぁな、昔からお袋がマナーにうるさいんだ」
俺のお袋は食べる時のマナーにうるさく、俺は幼い頃からマナーの英才教育を受けて育った。それはもう良家のお坊ちゃまかってぐらいに。
洋食のマナーから和食の食べ方。
食器の置き方や食べ終わった時の後始末………小学生高学年にもなる頃にはサンマの正しい順番での食べ方ぐらいはできていた。
お茶汲み程度ならそれなりにできるさ。
「はい。妖夢もどうぞ、」
「あっ、これ私の分でしたか!ありがとうございます、いただきます!」
なんで俺がおもてなししてるんだ?
目を向けてみれば幽々子は先ほどの体勢でお菓子7つ目行っていた。ヤバいぞこの人、絶望的に行儀悪い。
「お、美味しいです!茶道部のお茶は何度かいただきましたが、こんな美味しいお茶は初めてです!」
妖夢は俺の淹れたお茶を大絶賛のようだ。
するっと小馬鹿にされたように感じたのか、ムッとした幽々子は身体を起こす。
「お茶汲みぐらい、私にもできるわよ」
そしてそのまま急須を手に取ってお茶を淹れ始める。
めちゃくちゃ飛び散ってるぞ茶道部長。
「あちちっ!」
ほら跳ねた。
「あっ………あ~ん!妖夢〜!たすけて~!ヤケドしちゃった〜…………」
言わんこっちゃねぇ。
「なっ………ななななななんですと!?大丈夫ですか幽々子様!!!今すぐ救急車を………」
「ちょっオイやめろバカヤロウ!!!」
抜刀術みてぇな神速で懐からスマホを取り出した妖夢からスマホを奪い取って通報を阻止する。
幸いまだかけていなかったようだが、画面には電話アプリが開かれて『118』と表示されていた。
ヤベェぞこいつガチでかけようとしたのか。
…………てか番号これ海上保安庁の緊急ダイヤルじゃねぇか。海難事故の時にかける番号だろそれ。
「ど、どうしたらいいの〜!よ、妖夢〜!指舐めてよ〜!たぶん治るかもしれないから…………!」
んなわけねぇだろ。
「大丈夫です幽々子様!今すぐ私が舐めさせていただきます!」
「お前らほんとにアホだろ!!!」
妖夢は幽々子の手を引き出すと、妖夢は火傷した親指にゆっくりと舌を這わせ始めた。
オイオイオイオイアウトアウトアウト!!!!
センシティブ食らうぞカットだこんなもん!!!
いや、何しろ音と顔と体勢と見た目がめちゃくちゃ良くねぇんだよ!
しばらくしたあと、幽々子の手当ては普通に俺がした。
「『』くん、ありがとう。手際が良いわね〜。思わず見直しちゃったわ〜」
何その最初は俺のこと舐めてたみたいな言い方。
別にめちゃくちゃ器用なわけでは無いが、料理男子だから親指怪我することはたまにあるからな。それぐらいの処置はできる。
「これなら貴方に安心して妖夢を任せることができちゃうわ。素敵な男性ね、」
「ちょっと幽々子様!?」
………………………………!!!
「はい、お任せくださいお義母さん」
なんか俺を妖夢の彼氏と勘違いしているようだが都合いいから乗ってやろう。
「貴方も急に何言い出してるんですか!?」
妖夢は予想外の連続に狼狽えている。
だが信頼している幽々子と俺の言っていることが一致しているから下手に責めれないようだ。
「けれども、妖夢を任せるにはまだまだこんなものではないわよ。ちょっとお茶淹れるの上手くて手先が器用っていうだけのスペックでは私の妖夢に見合わないわ」
お見合い試験かよ。
「貴方が本当に妖夢を任せるに相応しいか、この白ひげ危機一髪で決めるわよ!」
「なんでだよ!!!」
「なんでですか!!」
あと白ひげ危機一髪って何!?
俺が知ってるのは黒──────
「というわけで今から私と貴方の二人で勝負ね。この樽に剣を刺していって、もし私に白ひげの身体に風穴を開かせたら貴方を認めるわ」
白ひげの身体に風穴は草。
「てか、こんな事して俺の何を試すんですか………」
「運」
運かよ。
よりにもよってそれかよ。
信頼とか愛の重さとかそういうのを試せよ。
「だが………………」
面白い。ゲームは好きだ、受けて立つ。
「真剣勝負とならば手加減はしない。全力で行くぞ!」
ゲームでよくあるんだよこういう天界。
歴戦の武器を手に入れる時、その力に相応しいか神とかに試練を課されるんだよな。
「『』さん、気をつけてください。幽々子様はこの学校で、白ひげ危機一髪最強と言われています。歴代4298回の勝負で負け無しの強者です…………」
「4298回これで遊んだのか!?」
幽々子も付き合ってやった対戦相手もどんだけ暇なんだよ。
「では、私がセットいたします」
この手のゲームって、分解してみると人形飛び出すスイッチが樽の中にあるんだが、その位置を覚えることでイカサマが可能なので、今回は妖夢にセットしてもらった。
妖夢がセットすると言っても顔色一つ変えないばかりか自信すら見えてくる。
さすがにこんな幼稚なルールでまさかズルして最強になったわけないか。
ちゃんと公平な戦闘で勝利し続けたのだろう。
「行くわよ!まずは私の番!!!」
そう言うと幽々子は短剣を4本手に取った。
赤き刃が二本、青き刃が二本。
それを手にした瞬間、幽々子の身体から猛烈な闘気が溢れ出てきた。
流石は東方妖々夢の6面ボス。一筋縄ではいかない強敵だ。
「まさか…………4本の剣を同時に差し込むというのか…………!!!」
「そうよ!これが私の覚悟!覚悟とは犠牲の心ではない!」
「それじゃあ貴様の言う覚悟とはなんだ!」
「覚悟とは!暗闇の荒野に、進むべき道を切り開くことよ!」
なんかどっかで聞いたことあんぞ!!!
「私の愛する妖夢を守るためならば4つの命をも賭けるわ!妖夢を預かる者ならば、この私の覚悟を超える覚悟を見せなさい!!!」
幽々子はちゃぶ台の上に置かれた樽に飛びかかる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その様相には、先ほどまでのぐうたら茶道部長の片鱗も残っていない。目の前にいるのは4つの刃を閃かせて戦場を駆け抜ける戦闘者。
4本の刃のうち1本が手に握られた。
幽々子は両手でそれを握ると目にも留まらぬ速度で樽に突っ込んでいく。
狙いは1点。中央よりやや斜め下。
人形の左脇腹を狙う。しまった、左脇腹は急所ではない。ここを刺しても白ひげの命には届かない!しまった、先手を譲ったのが敗因か!
だが時を巻き戻すすべはない。
幽々子の攻撃は始まってしまった。
「どっせーい!!!!!」
幽々子の刃は樽に刻まれた孔の中に飲み込まれていった。
幽々子の1本目がついに樽に突き刺さったのだ!
白ひげが空を舞う。俺は勝った。
「あっ、勝った」
「嘘でしょ…………!!!」
幽々子は情けなく机に伏せる。
勝ったぞ。
「し、しまった…………いつもの勝負と勘違いしてしまって、スイッチを狙ってしまったわ…………」
「は?」
「いつもスイッチを押したら勝ちだから………」
人形飛んだら勝ちってルールで最強なのかよ!!
「俺の勝ちだ!約束通り、妖夢を任せてくれるんだろうな!」
「えぇ…………認めるわ。貴方のような豪運の持ち主こそ、」
お前が勝手に自滅したんだろ。
「悔しいけれど、貴方こそ妖夢の人生の伴侶にふさわしいわ………」
「あっ、私らそういうんじゃないんで」
「えぇぇぇぇっ!?妖夢の彼氏じゃないの〜!?」
そんな顔面蒼白で言う事じゃねぇぇぇぇぇ!!!
「単純に私の練習のお手伝いをしてもらうだけです」
「あっそうなの」
「あっそうなの」
「なんで『』さんが把握してないんですか」
そっか俺、途中から幽々子の勘違いを都合よくマジにとってただけか。
「勝負したら腹減ってきたな。惣菜パンがそこにあったから食べるか……………あれっ?」
惣菜パンが消えている。
「パンがない………誰か持っていったか?」
「いえ、私ではありません…………」
「パンなんてあったかしら、」
幽々子がちゃぶ台の上のお菓子入れに手を伸ばすが、妖夢がスッと奪い取った。
「幽々子様ー?」
状況証拠からして犯人が誰なのかは一目瞭然だ。
では、お約束のやつ行ってみるか。
「………………タベチャッタンデスヨネ?」
「あっ………えーっとぉ〜、そのぉ〜」
「何笑ってんだお前。妖夢、刀貸せ」
「やめてあげて『』さん────!!!」
本来心も身体も音も静かにあるべき茶道室がこの日の夕方だけは異様に騒がしかったというというそうな。
そしてこの日の晩に騒がしくなるのはこの道場だけではなく、
……………俺の自宅もまた新たな騒動に困らされるのだった。