ホグワーツは世界一安全(仮)!   作:こんいろ

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#04 9月1日 愛しきレイブンクロー

 レイチェルが大広間に着くと、先に到着した生徒達が既に各寮のテーブルに分かれて座っていた。レイブンクローのテーブルへと進んで辺りを見回してみたものの、パメラとエリザベスはまだ来ていないようだ。代わりに知っている顔がレイチェルに気づいて手を振ってくれたので、レイチェルはその向かいに空いた席へ座らせてもらうことにした。

 

「久しぶり。チョウ、マリエッタ。休暇はどうだった?」

「楽しかったわ!レイチェルは?」

「まあまあよ」

 

 真っ直ぐな黒髪を下ろしている東洋系の美少女はチョウ・チャン。ブロンドの巻き毛がマリエッタ・エッジコム。外見は対照的なこの2人は、どちらもレイチェルの1学年下の後輩だ。

 お互いの夏休みについて楽しくおしゃべりをしていると、レイチェルはチョウの視線がちらちらと教職員テーブルの方へと向かっているのに気づいた。つられてそっちを見てみると、そこには椅子が置かれ、古びた黒い山高帽子が恭しく鎮座している。言わずと知れた、組み分け帽子だ。組み分け帽子がどうかしたのだろうかとレイチェルが首を傾げると、チョウが照れたように微笑んだ。

 

「去年のこと思い出しちゃって……私、組み分けのとき、すっごく緊張してたの」

「ああ。組分けは緊張するわよね」

「そうそう、お前に相応しい寮なんてない!なんて言われたらどうしようってね。レイチェル、席一つ詰めてくれる?」

「パメラ、エリザベス」

 

 遅れてやって来たパメラとエリザベスが席につくと、チョウとマリエッタは少し驚いたようだった。パメラもエリザベスも上級生と仲が良いので、去年はあまり下級生と話すことはなかったのだ。パメラは外見が派手だから怖そうだと思われていたみたいだったし、エリザベスは美人だからか黙っていると近寄りがたいらしい。

 

「レイチェルはどうしてレイブンクローを選んだの? セドリックはハッフルパフでしょう?」

 

 可愛らしく小首を傾げるチョウに、レイチェルはぱちりと瞬きをした。幼馴染なのにどうして寮が違うのかと不思議に思われることは少なくない。レイチェルの母親はレイブンクロー出身だけれど、父親はハッフルパフだ。おじさんとおばさんはセドリックとレイチェル2人ともハッフルパフに入ればいいと思っていたようだったし、レイチェルもハッフルパフは好きだ。もしもレイチェルがどうしてもハッフルパフにしてほしいと頼めば、組分け帽子はきっとそうしてくれただろうと思う。

 

「シンボルカラーが青だからって言うのが1番かしら……私、赤とか黄色とか派手な色似合わないのよね」

「えっ、そんな理由?」

 

 拍子抜けしたように言うマリエッタにレイチェルは頷いた。7年間毎日身に付けるのだから、シンボルカラーは重要だとレイチェルは思う。どうせなら好きな色を身に付けたいと考えるのは、そこまで奇妙なことではないはずだ。

 それに、1番の理由はそうだけれど、他にも理由はある。セドリックは誰が見てもハッフルパフに相応しいけれど、レイチェルはそうじゃない。セドリックが居るから、おじさんとおばさんがそう望むから。そんな風に誰かを理由にして寮を選ぶのは、ひどく子供っぽくて無責任なことに思えた。もしもハッフルパフに組み分けられて上手くいかなかったら、レイチェルはきっと心のどこかでセドリックやおじさん達のせいだと考えてしまっただろう。それが嫌だったから、レイチェルはレイブンクローを選んだ。もっともこんなこと、誰かに言うつもりはないけれど。

 

「私よりパメラの方がもっと適当よ」

「私はマグル生まれだからどの寮がいいとかよくわからなかったし、ホグワーツ特急で会ったかっこいい男の子がレイブンクローの監督生だって言ってたから」

「貴方達、動機が不純すぎるわ……」

 

 悪戯っぽく笑ってみせたパメラに、チョウとマリエッタは今度こそ驚いたようにぱかっと口を開けた。エリザベスは呆れたように溜息を吐いたけれど、組分けなんてそんな単純な理由でもいいんじゃないかとレイチェルは思う。レイチェルはレイブンクローが好きだし、レイブンクローに組み分けられてよかったと思う。けれど、入学する前から特別レイブンクローに愛情を持っていたわけじゃない。レイブンクローでできた友達や先輩後輩、そして寮監のフリットウィック教授のおかげだ。大切なのは、どの寮に組み分けられるかよりも、そこでどんな風に過ごすかだ。

 

「あ、始まるみたいよ」

 

 大広間の扉が開いて、マクゴナガル教授に引率された1年生達がゾロゾロと入って来る。緊張で顔が強張っている子。きょろきょろと忙しなく辺りを見回す子。夜空を映す天井を見上げて驚く子と、皆初々しくて可愛らしい。レイチェルがさっき汽車の中で会った女の子を探していると、左の脇腹を肘でつつかれた。振り向くと、同級生のロジャー・デイビースが興奮を抑えきれない様子でヒソヒソと囁いた。

 

「なあ、レイチェル。ハリー・ポッターってどれかわかる?」

「さあね。顔、知らないし」

 

 素っ気なく答えてレイチェルは再び例の女の子を探すことに集中したが、どうやらまたしても異端なのはレイチェルの方らしかった。ハリー・ポッター。ポッター。ポッター。レイブンクローのテーブルだけでなく、大広間のあちこちから囁く声がする。レイチェルの正面に座っているチョウやマリエッタも、どうやら彼のことが気になっているようだ。去年も名の知れた純血家系の子なんかが居ると話題には上っていたが、いくら何でもここまでではなかった。レイチェルは改めて、魔法界の英雄がいかに有名かを思い知らされた。目の前では次々と新入生が組み分けられているけれど、生徒達の関心はやはりあの有名なハリー・ポッターがどこの寮に組み分けられるかにあるらしい。

 レイチェルがさっき会った女の子はハーマイオニー・グレンジャーと言う名前らしく、グリフィンドールに組み分けられた。レイブンクローに入ってくれればよかったのにと少し残念には思ったけれど、嬉しそうなハーマイオニーの横顔を見てレイチェルは素直に祝福の拍手を贈った。

 

 

 

 

 

「レイブンクロー!」

 

 可愛らしい双子の片方のパドマ・パチルと言う女の子の組分けが終わると、周囲は一層ざわざわし出した。頭文字がPまで来たと言うことは、いよいよお待ちかねのハリー・ポッターの組分けだからだ。皆、もう少し他の新入生の組分けにも関心を持つべきなんじゃないだろうかとレイチェルは拍手をしながら小さく溜息を吐いた。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 マクゴナガル教授の凛とした声が響き、大広間が水を打ったように静まり返る。いくら何だってあからさますぎるとレイチェルは頬を引き攣らせた。よっぽどの目立ちたがり屋でなければ、この空気は居心地が悪いだろう。皆が熱心に視線を向ける先では、痩せた黒髪の少年が自信なさげに帽子に向かって歩いて行く。恐る恐る帽子を被ったその顔を見て、レイチェルは思わず目を見開いた。

 

「あの子……」

 

 レイチェルがダイアゴン横丁で話しかけたあの少年だ。あの男の子がハリー・ポッターだったなんて。どうやら知らないうちに、レイチェルは魔法界の英雄としっかり関わり合いになっていたらしい。

 帽子は随分と長い間迷っていたようだったけれど、やがてグリフィンドールとしわがれた声が叫んだ。グリフィンドールのテーブルからワッと歓声が上がり、割れるような拍手が大広間中に響く。もう一度言おう。いくら何だってあからさますぎる。

「ポッターを取った!ポッターを取った!」

 

 双子のウィーズリーが肩を組んで騒いでいる。新入生を歓迎するのは当然だけれど、いくら有名だからって新入生を戦利品のように扱うのはどうなのだろう……。けれど、グリフィンドール生の誇らしげな顔を見ると大多数が同じことを思っているのは明らかだった。双子は素直に口に出すだけ、却って清々しいのかもしれない。

 

「あーあ、やっぱりグリフィンドールか」

 

 レイチェルの隣でロジャーがガッカリしたように溜息を吐いた。レイブンクローにはたぶん来ないだろうと予想はしていたらしい。魔法界で英雄と呼ばれる人は、大体グリフィンドール出身だ。なぜかと言われても、そう言う寮だからとしか言いようがない。勿論レイブンクローやハッフルパフにだって有名人は多いけれど、有名の種類が少しずつ違うのだ。

 ウィーズリー家の6男の組分けが終わり(レイチェルはあの家にはまだ兄弟が居たのかと驚いた)、思い思いに校歌を歌い終えると、テーブルの上に様々な料理が現れた。あっと言う間に皆ごちそうに夢中になり、カチャカチャとナイフとフォークを動かす音がそこかしこから響いていた。

「私ね。今年、クィディッチの選手に立候補しようかなって思ってるの。シーカーのポジションに空きが出たらしいから、やってみようかなって」

 

 レイチェルがローストビーフを取り分けていると、チョウがはにかんだ顔でそう打ち明けてくれた。レイチェルは驚いたが、すぐにニッコリ笑顔を浮かべる。とても素敵な考えだ。チョウは1年生の時から飛ぶのが上手かったし、努力家だ。レイチェルがセドリックの練習に付き合っている時も、よく校庭の端っこで練習をしているところを見かけた。

「チョウならきっと大丈夫よ。チョウは身軽だし、すばしっこいもの。シーカーに向いてると思うわ」

「ありがとう。そう言ってくれると心強いわ。……レイチェルは選手にならないの? 飛ぶの、すごく上手じゃない」

「セドの練習に付き合ってよく乗ってるってだけよ……私は全然ダメ。あんな大観衆の中でプレーするなんて、上がっちゃってきっと失敗するもの」

 

 チョウの質問に、レイチェルはとんでもないと首を振った。箒で飛ぶのは好きだし、そこそこ上手く飛べるとは思うけれど、数百人の生徒が見守る中でクィディッチをするなんてとても無理だ。残念そうな顔をするチョウには申し訳ないけれど、たとえチョウの頼みでもレイチェルはクィディッチをやる気はない。緊張してミスをして、あっと言う間に医務室送りになると想像できてしまう。

「話は変わるけど」さっきまでミートパイを頬張っていたパメラがふいに口を開いた。

 

「さっきダンブルドアが言ってた立ち入り禁止の廊下って一体何が隠してあると思う?」

「さあ……わからないわ。何か貴重な物でしょうけれど…… レイチェルはどう思う?」

「ドラゴンとか? ダンブルドアならやりそう……何にしろ、関わらない方がいい物だってことは確かだと思うわ。うっかり近づかないようにしなくっちゃ」

 

 たとえば動く階段の悪戯なんかで、迷い込んでしまわないとも限らない。貴重な物にしろ危険な物にしろ、まだ3年生のレイチェル達が関わったらロクな事にはならないだろう。レイチェルは減点も罰則も遠慮したい。

 千里眼を持っているなんて言われるダンブルドア校長なら、無意味な忠告なんてしないだろう。ダメと言われたことには素直に従っておくのが賢明だ。

 

「あーあ、それにしても残念だよなあ。ハリー・ポッターを獲得出来たら、きっと来年のレイブンクローは新入生がザックザクだったのに」

「しつこいわよ、ロジャー」

 

 まだ諦めきれないらしいロジャーに、レイチェルは眉を顰めた。

 アルバス・ダンブルドア。それに、ハリー・ポッター。偉大なる魔法使いを輩出した寮として、これから100年くらいはグリフィンドールは人気を集めるのだろう。来年は、ハリー・ポッターと同じ寮になりたいからとグリフィンドールを選ぶ新入生も出てくるかもしれない。けれど、大切なのは新入生の数よりも、彼らがレイブンクローで居心地良く過ごせて、レイブンクローを好きになってくれることだ。……確かに、寮杯のことを考えると、優秀な1年生が入ってくれた方がいいけれど。

 

「今年こそ、レイブンクローが優勝したいわよね!去年も一昨年も、あとちょっとの差でスリザリンに負けたんだもの。いい加減、鼻を明かしてやりたいわ!」

 

 パメラの言葉に、その場に居た全員が深く頷く。少なくとも、今年のクィディッチに関しては優勝杯をもらえるだろうとレイチェルは思った。

 こう言っては失礼だけれど、スリザリンのシーカーのヒッグズは飛び抜けて上手いわけではないし、グリフィンドールはまだシーカーが見つかっていないらしい。ハッフルパフのシーカーはセドリックだから手強いけれど、チョウの方が小柄で華奢なぶん小回りが効いてシーカーとしては有利だ。それに、幼い頃からレディファーストをおばさんに叩きこまれているセドリックはチョウ相手だときっと無意識の内に遠慮してしまうだろう。チョウがシーカーなら、十分にクィディッチの優勝杯を狙える。今年こそ、レイブンクローが優勝を獲得するのだ。そのためには、ロジャーやチョウに頑張ってもらわなければならない。レイチェルはデザートのカスタード・プディングをせっせと二人の皿に取り分けることに専念した。

 

 今年こそ、皆で優勝杯を獲得したい。偉大な魔法使いの出身寮じゃなくたって、ハリー・ポッターが居なくたって、レイチェルはレイブンクローがとても好きだ。

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