午後の授業は魔法史だった。
ただでさえ、子守唄よりよっぽど安眠効果があると言われるビンズ先生の講義に、昼食後の満腹感を加えたらどうなるか。答えは簡単に導ける。教室の約半分の生徒は、机の上に頬杖をつくか、上半身ごと机に突っ伏して寝息を立てていた。残り半分の起きている生徒も、別の教科の内職をしていたり、教科書に隠してファッション誌などの趣味の読書に励んでいたり、メイク直しに精を出していたり。真面目に魔法史の授業を受講している生徒は、教室の約4分の1程度だった。その生徒の鑑とも言える模範的な姿勢を貫くエリザベスの横顔を見ながら、レイチェルもあくびを噛み殺して板書を写し取る。一応試験まで2ヶ月を切っているので、きちんとノートを取っておかないとまずい。真面目なのではなく、魔法史の試験勉強に時間をとられるのが嫌なのだ。できれば、授業中に終わらせてしまいたい。眠気と戦いながら羽根ペンを動かしていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「ねえレイチェル、実はお願いがあるんだけど……」
アンジェリーナだった。隣にはアリシアも居る。意外に感じて、レイチェルは少し驚いた。いつもなら2人は────と言うかグリフィンドール生達は、教室の後ろの方に座っていることが多いのに。こんなに前の方に座っているのは珍しい。振り返ったまま2人の言葉を待っていると、アンジェリーナがヒソヒソと囁いた。
「今日、レイブンクローって魔法薬学あったよね?」
「ええ。あったけど……」
「内容は?」
「混乱薬」
「ああ、やっぱり! お願い、その分のノート貸して! この時間の間に写して返すから!」
「私達の授業、一昨日だったんだけど……ワリントンが大鍋を爆発させたせいで途中で授業が無茶苦茶になっちゃったの」
それは災難だ。必死な顔で手を合わせる2人に、レイチェルは同情した。混乱薬の調合は、ここのところ扱った薬の中ではかなり複雑な調合だったし、実技か筆記かはわからないけれどきっと試験に出るだろう。そのノートが揃っていないと言うのは、かなり不利だ。課題のレポートを書かなければいけないので貸しっぱなしになると困るけれど、この授業の間に返してくれるのなら何の問題もない。レイチェルは快く了承した。
「勿論よ。私のでいいなら……」
「ありがとうレイチェル! 愛してるわ!」
アンジェリーナとアリシアがパッと顔を輝かせた。足元に置いてあった鞄を膝の上へと引き上げ、中からさっきの授業のノートを探し当てる。アンジェリーナ達が何度もお礼を言うので、大げさだなあと苦笑した。試験勉強がキツいのはお互い様だし、たったこれだけで友人の役に立てるならレイチェルも嬉しい。
「2人とも、試験勉強だけじゃなくクィディッチの練習もあるんでしょ? 大変よね……」
「正直きつい。寝不足だし……」
「まあでも、ウッドなんてOWLの勉強しながらやってるんだもの……仕方ないかなって思うわ」
「レイブンクローには負けないわよ!」
文句を言いつつも、クィディッチの練習自体は好きなのだろう。懸命にレイチェルのノートを写し始めた2人に、自分も授業に戻ろうと前を向く。どうやら、話している間に板書が進んでしまっている。「マグルの迫害が高まったことによる魔法界の変化(1)1692年 常時杖を携帯する権利」羊皮紙にそっくりそのまま書きつけて、レイチェルはあくびを噛み殺す。
やっぱり、魔法史ってちょっと退屈だ。