「……と言うことです。わかりましたか、ミス・グラント」
「はい。どうもありがとうございました」
マクゴナガル教授はレイチェルの質問に対して丁寧に順序立てて説明をしてくれたので、変身術の教室を出る頃には結構な時間が経ってしまっていた。門限ギリギリと言うほどの時間でもないけれど、寄り道はせず真っ直ぐに寮に帰った方がいいだろう。そんなことを考えながらすっかり人気のなくなった廊下を歩いていると、レイチェルは前方に見知った後ろ姿を見つけた。
「セド!」
「レイチェル」
名前を呼んで駆け寄ってみれば、やっぱり思った通りセドリックだった。こちらを振り返って穏やかに微笑むセドリックは、制服のローブではないラフな格好をしていた。髪は風に吹かれたように少し乱れていて、そして片手には箒を持っている。
「クィディッチの練習だったの?」
「うん。今、終わって寮に戻るところだよ」
「お疲れさま」
レイチェルは心をこめて言った。セドリックは何でもなさそうな口調だったし、実際クィディッチが好きでたまらないから何でもないのかもしれないけれど────試験勉強と通常の課題だけでも大変なのに、その上クィディッチの練習まであるなんて。レイチェルだったら音を上げてしまいそうだ。
「試験前くらい、練習休みにすればいいのにね。ハッフルパフはもう今シーズンは試合ないでしょ?」
「でも、来年もあるし……今サボって、勘が鈍っちゃったら困るしね」
そんなものなのだろうかとレイチェルは首を捻った。レイチェルの感覚だと、来年のクィディッチより、今年の試験の方が切実な気がするけれど。頭ではそう考えていたとしても、やっぱり体力的にはきついのだろう。あくびを噛み殺しているところを見ると、セドリックも寝不足らしい。
「セド、寮に戻ったらこれから勉強?」
「うん、薬草学のレポートがまだ少し……レイチェルは?」
「私は防衛術のレポートの仕上げ。あ、あと今日のマグル学の感想レポートもできたらやっちゃいたいのよね」
そんな会話をしていると、分かれ道に差しかかった。レイブンクロー寮は上、ハッフルパフ寮は地下だ。寮に帰るためにうんざりするような長い階段を上る必要がないのは、ハッフルパフ生が少し羨ましい。しかしレイチェルはレイブンクロー生なので、これから塔のてっぺんまで階段を上らなければいけないのだ。もう慣れてしまった階段へ足を踏み出す。そうして数段上ったところで足を止め、レイチェルはくるりとセドリックを振り向いた。
「おやすみ、セド」
「おやすみ、レイチェル。いい夢を」
階段を下っていくセドリックのつむじを見下ろしながら、レイチェルはほんの少しだけ心配になった。セドリックはちゃんと寝ているのだろうか? クィディッチをやってないレイチェルでさえ寝不足なのに。試験前だからと言って課題は減らないし────むしろ増えている気さえする────おまけに、10科目分も覚えなきゃいけないことがある。時間がいくらあっても全然足りない。レイチェルは苦手な科目を上級生に手伝ってもらったりしているけれど、セドリックは違うだろう。きっと、ほんの少し助言を求めるだけで、ほとんど自分の力でやっているはずだ。真面目と言うか、馬鹿正直と言うか、いや、まあ、本来セドリックみたいに自力でやるのが正しいのだけれど――――他の人より忙しいんだから、どれかひとつくらい手を抜いたっていいのに。
本当、セドリックってお利口さん。レイチェルは小さく溜息を吐いた。