拙作ではありますが、今年も本作を宜しくお願い致します。
前話まではプロローグみたいな物だったので、今後は他の原作キャラとの掛け合いも増やしつつ、完結に向けて頑張っていきます。
一騒動があった日の翌週、私はSTARRYを訪れた。
「こんにちは~」
『こんにちは!』
私がスタジオに入ると、結束バンドの皆は傍に駆け寄って挨拶してきてくれた。
「藤原さん、もう体調は大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。もう良くなったから、心配しないで」
虹夏ちゃんの質問に、私はニコリと笑顔を浮かべて答える。
実際これは強がりでも何でもなく、先週は回復と様子見に専念した甲斐があってか今は普段通りの足取りの軽さに戻れている。
ひとまずは元気そうな私の回答に、皆ホッとした表情を浮かべてくれたのが幸いだった。
「あの、藤原さん」
挨拶もそこそこに、今度は後藤さんが声をかけてきた。
「この前は、本当にありがとうございました。もっともっと頑張るので、これからもよろしくお願いします」
「……うん。私こそ、これからもよろしくね」
ペコリと頭を下げてお礼を言ってきた後藤さんが愛おしく、思わず私は彼女を抱きしめてしまった。
一瞬ビクリと後藤さんは体を震わせたが、特に抵抗をすることもなく受け入れてくれたのが嬉しかった。
とはいえ流石にずっとそのままでいる訳にもいかなかったので、名残惜しいが後藤さんと体を離した後、本来の目的に行動を移すべく皆に声をかけた。
「じゃあ、早速始めようか」
私がそう言うと、まずは今後の方針を話すべく、皆と一緒に円を作るように椅子に腰かけた。
「まず改めて、私を選んでくれてありがとう。私も皆を支えられるように一生懸命頑張るから、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
私が頭を下げると、結束バンドの皆も良い声の返事と共に頭を下げてくれた。
「それで、まず今後のバンド活動において、二つの事を覚えておいて欲しいの」
一本目の指を立てながら、皆に話を続ける。
「一つ目は、毎回の練習にしっかり集中すること」
一つ一つの言葉を丁寧に響かせる様に、私はゆっくりと話す。
「これは当たり前のことだけど、ただ『頑張るぞ』ってがむしゃらに練習するのではなく、その時その時の課題を意識して取り組むということね」
『課題』という言葉にそれぞれ思う部分があったのか、結束バンドの皆の表情が引き締まるのを感じた。
「課題を意識するということは当然、自分が出来ていない事に目を向ける必要がある。それは辛い作業だけど、出来ない事を恥じるんじゃなくて、出来ない事を出来るようになったその先を想像して楽しみながらやって欲しいな」
『はいっ!』
淀みない皆の返事に、私は笑みを浮かべて頷く。
「それじゃ、二つ目なんだけど」
今度は二つ目の指を立てながら話を続ける。
「二つ目は、勉強を疎かにしないこと」
私がそう言うと、結束バンドの皆は直接的には音楽に関係ない様な話にキョトンとした表情を浮かべていた。
「先に言っておくと、何も学年トップの成績を目指すとかじゃなくて、赤点を回避できればそれで良いって話ね。理由は単純で、追試で時間を取られるのがもったいないから」
補足の説明を話すと、至極簡単な理由に今度は納得してくれたようだ。
「てっきり、『バンド活動も頑張るなら勉強も学年トップを目指そう!』みたいな話かと思いました」
「ははは、流石にそこまでは求めないよ。私も別にそんな気持ちでやってなかったし」
喜多さんの発言に笑って答えると、後藤さんと山田さんがホッとした表情を浮かべていた。
……ふむ、この反応を見るに二人は『そっち側』の人かな?
ひとまず話を進めるべく、私は更に補足を加える。
「あとは、親御さんを安心させるためっていうのもあるかな。皆はバイトをしながら活動費用をやりくりしているけど、普段の根本的な生活は親御さんの支援があってこそ。学生の本分である勉強を疎かにしない事がバンド活動の説得力と親御さんの安心にも繋がるから、頑張っていこう」
「はい!」
「はーい!」
「……はい」
「ゔおぇ」
少し前までは皆揃って良い返事だったのに、山田さんと後藤さんの返事だけがあからさまにテンションだだ下がりだった。
うん、これは確定みたいですねぇ。
「というわけで」
私が笑顔を浮かべながら前置きをすると、件の二人は何かを察したのか一気に顔面が青ざめる。
「直近のテストの結果見せて♪」
そう言うと、山田さんと後藤さんは死刑宣告を受けた囚人の様な顔になった。
まぁ、いくら勉強が苦手といっても、せいぜい赤点が一つか二つってレベルでしょ。
流石に漫画みたいに全科目赤点レベルなんて、ねぇ。
……数分後、そう楽観的に考えていた私だが、その考えは余りにも甘かったという事をこれでもかと思い知ることになった……。
「……」
「藤原さん、大丈夫ですか……?」
某オヤジ司令の様に顔の前で両手を組んで硬直していた私に、虹夏ちゃんが声をかける。
目の前に広がるのは、赤点の答案の海。
そういえばあのアニメに出てきた海も赤かったなぁ、と現実逃避めいた考えが浮かぶが、このままではどうしようもないので意を決して話を進める。
「山田さん」
「はい」
「山田さんって、いつもこんな感じ?」
「はい」
一瞬の迷いもなく即答しおった……。
「失礼なのは百も承知だけど、どうやって今まで乗り切ったの?」
「まぁ適当に」
「えっと、リョウは一夜漬けの追い込み型で、今までもそれでどうにかしてたんですよ」
答えになってない答えに虹夏ちゃんが慌ててフォローを入れてくれる。
ぶっちゃけそれもそれで納得のいく答えにはならなかったけど、現に進級は出来てる訳だから一番身近にいる虹夏ちゃんがそう言うのなら信じるしかなかった。
「ただ、反動で音楽の事は忘れちゃいますけど」
そう虹夏ちゃんが言いつつ山田さんの頭を両手で振ると、カラコロと小石が入っている空き缶みたいな音が響いた。
「いやぁーーー!! リョウ先輩のイメージがーーー!!」
一連の光景を見た喜多さんがホラー漫画のキャラみたいな顔をして叫んでいる。
かく言う私も同じ境地だったけど、なんとか抑えられた。
人間、自分より取り乱している人がいると逆に落ち着くって話だけど、こんな形で実感したくなかったなぁ……。
しかし、まさかここまでとは予想外も予想外だ。
事前に直近の中間テストの答案を持ってくるようにお願いしており、いざ見てみると優秀組と赤点組の差が正に天と地の差だった。(ちなみに山田さんの分は何故か虹夏ちゃんが持っていた)
まず、虹夏ちゃんは全教科90点台という非の打ち所がない成績であり、二年生の時点でこれならしっかりしてそうな彼女の性格を考えるとよっぽどヘマをしない限り今後も大丈夫だろう。
喜多さんも全教科80点台という安定感。ただ、彼女はまだ一年生だからこれからどう転ぶか分からない部分もあるから、油断は禁物かもしれない。
……まぁ、それ以前に残りの二人をどうにかしないとマズイんだけどね。
何せ、山田さんは答える気の無い真っ白答案でオール0点。
──もうさァッ無理だよどうすれば良いのかわかんないんだからさァッ!!
思わずそう叫びたい衝動に駆られたけど、ギリギリの所で我慢して虹夏ちゃんに尋ねる。
「……虹夏ちゃん、山田さんの勉強を見てもらっていい?」
「ですよねー。いつもの事だから大丈夫ですよ」
私がお願いすると、どうやら想定内だったようで虹夏ちゃんはタハハと笑いながら答えてくれた。
あぁ、虹夏ちゃんってば天使。心なしか羽が生えて光が差している様に見える。
ひとまずこの件は虹夏ちゃんを信じるしかないけど、それでも大きな問題は残ったままだ。
なぜなら、同じような状況の子がもう一人いるからである。
「後藤さんは、普段はどうしてるの?」
私はなるべくプレッシャーにならないように、後藤さんに柔らかく話しかけた。
「あ、えっと……、ノートは取ってあるんですけど、ごめんなさい……。頭の悪いゾウリムシで……」
後藤さんはフヘヘ……と虚ろな目つきで自虐的な笑いを浮かべながら答えた。
本人にはとても言えないけど、ある意味彼女の状況は山田さんよりも深刻だと思った。
答えを書いては消してが見える形跡がありノートも綺麗に取ってある。
本人なりに頑張っているのにも関わらず回答が全部間違っているという、結果が結びついていない状況だからだ。
されど、だからと言って駄目な子で片づける訳にはいかない。
出来る限りのアプローチをしないと、このままじゃ後藤さんの留年も含めたバンド活動の危機なのだから。
「後藤さん、喜多さん。持ってる教科書全部見せてもらっていい?」
「え。あっ、はい」
そう私が言うと、戸惑いを浮かべながらも二人は鞄からドサドサと教科書を取り出してくれた。
いくつかパラパラとめくりながら、私は熟考する。
……これくらいのレベルなら何とかなる、かな。
読んでいた教科書をパタンと閉じて、喜多さんに問いかける。
「喜多さん、後藤さんに理系科目だけ教える事って出来る?」
「出来ますけど……、文系科目はどうするんですか?」
「文系科目は、私が教える」
そう言い放つと、虹夏ちゃんと山田さんも含めた四人はギョっとした表情を浮かべた。
「そんな、そこまでしてもらうのはいくら何でも申し訳ないですよ!」
「大丈夫。これでも私、成績優秀だったのよ?」
喜多さんが立ち上がり反論してくるけど、私は問題ないという風に軽くウインクをして返事をした。
まぁ、実際は療養生活の時に病気を理由に何も出来なかった自分が悔しくて、一般教養も含めて勉強に打ち込んでいた時期があったって話なんだけど、これは流石に理由が重いから皆には言えない。
それに、実際に成績優秀だったのは特定の科目だけだしね……。
私は喜多さんの肩を両手でガシッと掴みながらお願いをする。
「ただ、理系科目だけは本当にお願い。私、そっち方面だけは見てて吐き気がするレベルで苦手なの」
たぶん、今の私の目は黒いクレヨンで塗りつぶしたみたいな感じになっていると思う。
理系科目は本当に駄目で、特に数学は群を抜いて嫌いだった。
それこそ因数分解ってなんだよ。勝手に分解すんなよ。自然のままにしておけよ。等と呪詛じみた言葉が出るレベルで嫌いだった。
「わ、分かりました! 分かりましたからそんな怖い顔しないでください!」
私の圧力に押されてか、ひとまずこの場は喜多さんは何とか了承してくれた。
ごめんね、喜多さん……。
けど、一応理由はあるから後でちゃんと説明するね。
「……ひとまず、心掛けて欲しい事はこんな感じかな」
色々と乱れていた心を落ち着かせ、改めて私は今後のバンド活動の方針を皆と話していく。
「それで、後はバンドとしての具体的な目標なんだけど、そこら辺はどう考えてる?」
「あ、はい。一学期が終わったら夏休みに入るから練習の頻度を増やして、8月中にライブをやりたいと思ってます」
「うんうん、プラン自体は現実的で良いと思う」
虹夏ちゃんの回答に答えつつ、少し考えを巡らせる。
8月にライブだとすると、今から2ヵ月ない位。
今のレベルを考えると、練習だけだと厳しいかもしれないな……。最悪、オーディションで落とされる可能性もあるし……。
「となると、今のままだとほぼぶっつけ本番に近いから、練習と並行して路上ライブもやっていこう」
「ろ、路上ライブもですか……」
色々な可能性を考えた上で提案すると、皆の顔が強張った。
そんな彼女達の緊張を和らげる様に、明るく話す。
「さっきも言ったけど、どうせなら楽しめるように考えよう。本番を最高のものにするために路上ライブをやる。もちろん、その時その時のベストは尽くすけど、路上ライブという名の練習くらいの楽な気持ちで良いと思うよ」
「まぁ、タダで経験値積めるしやらない理由もないしね」
「……そう、だね。あたし達に失う物なんてないから、出来る事は何でも思い切ってやってこう!」
「ですね! 後藤さん、頑張りましょう!」
「あ、は、はへぇ……」
経験者故の語り口か、山田さんの言葉を皮切りに皆が賛成した。
後藤さんは……たぶん人前に出る事を考えて尻込みしてるんだろうけど、可愛い子には旅をさせよって言うしね。これも修行だよ、後藤さん。
「あ、そうだ。あと、お店のライブの話なんだけど、今後バンドマンとか関係なく一社会に出る人間として覚えておいて」
そう言い、再度人差し指を立てると皆の視線が集まった。
「事前の連絡や根回しは、しっかり早目に取っておくこと」
改めて真剣な表情と声音で皆に顔を向けて話す。
「例えば、これからライブをやるとしたらSTARRYでやると思うけど、予定をきっちり立てて早い段階で星歌さんに打診しておくとかね。星歌さんは身内であると同時に店長だから、お店のお金と利益を踏まえてあなた達以外のバンドの出演も考えなくちゃいけないし、それこそ一回のライブの為に何日も前から準備をしないといけない。お金のやり取りが発生することは責任が伴うって事だから、身内だからって甘えていると自分達の首を絞めるよ」
そう話すと、虹夏ちゃんは何か思い当たる節があったのか、一瞬目を伏せた後に引き締めた表情を向けてきた。
「分かりました。じゃあ、後で皆の予定をもっと詰めて、具体的な日付を決めてロインしますね」
「うん、よろしくね」
その後も路上ライブに向けての場所や選曲等も話していく事で、今日のミーティングは無事に終わりを迎えられた。
「藤原さん、少しいいですか?」
「うん?」
ミーティングが終わって練習前の小休憩に入り、少し皆から離れた場所で喜多さんが申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。
「やっぱり、私が後藤さんの勉強を全部見た方が……」
「あ~……。それなんだけどね……」
ちらり、と後藤さんの方を見る。
幸い彼女は山田さんも含めて虹夏ちゃんと何か話しているようで、こちらには気づいてなさそうであった。
あまり本人には聞かれたくはないので、喜多さんの耳元に顔を寄せて小声で話す。
「正直、ミイラ取りがミイラになるのが一番怖いのよ。喜多さんも音楽方面ではやらなくちゃいけない事が多いから、なるべく他の事で負担は増やしたくないの」
私の言葉に、喜多さんは頷きながら聞いている。
「それに、もしメンバー四人の内三人が補修で練習が組めないってなったらそれこそ致命的な遅れになる。最悪、虹夏ちゃんと喜多さんだけでもいれば少しは練習として成り立つから、成績優秀組はそのままでいて欲しい」
「な、なるほど。そういうことですか」
虹夏ちゃん以外誰もいないスタジオを想像したのか、冷や汗を浮かべながら喜多さんは納得をしてくれた。
「ありがとうございます。その代わりって言うのも変ですけど、音楽のご指導ビシビシとお願いします!」
「もちろん。早速、今日の練習から頑張っていこうか」
やる気に満ちた喜多さんの眼差しに頼もしさを覚えつつ、私の心にも火が灯るのを感じた。
喜多ちゃんはぼっちちゃんに付きっきりで教えて成績が下がって60点台という描写でしたので、下がる前はこのくらいの点数だったのかなと想像しています。
それが5巻では30点台まで下がってるんだから、そりゃお母さんも心配しますわ。