夢への旅路   作:梅のお酒

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 色々と思う所があり、今回から試験的に少し文体を変えてみました。
 アンケートを設置していますので、よろしければご意見頂けますと幸いです。

 ※アンケートは終了しました。ご協力ありがとうございました。


第13話 sailing day

 「まず、ここの文章を読んでみようか」

 「あ、はい。あ、I was born to love you」

 「うん、段々発音良くなってるよ。じゃあ、意味は何かな?」

 「んと、『私はあなたを愛する為に生まれてきた』です」

 「そうそう。じゃあ、『君は僕を愛する為に生まれてきた』だとどういう文章になるかな?」

 「えっと、えっと、Youの過去形だからYou were born to love meですか?」

 「おけおけ。仮に意味が分からなくても音読が出来るようになるだけで英語は楽になるから、この調子で頑張って行こう」

 「は、はい。……ところで、こんなキザなセリフ言う人実際にいるんですかね……?」

 「どうだろう。イタリア人なら言いそうじゃない?」

 

 いや、流石にこれは偏見すぎるか。全世界のイタリア人の方々、ごめんなさい。

 

 

 

 

 7月も終わりに差し掛かる頃、今日も私はひとりちゃんとSTARRYのバックヤードで勉強会に勤しんでいた。

 今やっているのは英語で、内容はぶっちゃけ中学生レベルも良いところである。

 ただ、ひとりちゃんと話し合った結果、急がば回れというやつで今の彼女のレベルから考えると、これくらいのレベルから復習した方が今後の成績に結びつくと判断した。

 まぁ、別に高得点を取る必要はなくて赤点さえ回避できればそれで良いからね。

 それに、ひとりちゃんは電車の中での勉強とか言われた事をコツコツとちゃんとやってくれるし、習熟度はゆっくりな超晩成タイプっぽいけどちょっとずつ前に進めている手応えもあるしね。

 ちなみに、本人は英語の勉強に対してのモチベーションが一番高いようで、理由を聞いてみたら前に私とご飯を食べた時に英語を勉強しておくと音楽に色々役立ちそうだと思ったからとのこと。

 これは結構光明では? と私は感じ、教科書での基礎知識の勉強と並行して、有名な海外の曲の歌詞も教材として使うことで少しでも勉強に対しての苦手意識を取り除こうと試みた次第である。

 

 

 

 

 「──はい、じゃあ今日はここまでね。お疲れ様でした」

 「お、お疲れ様でした」

 

 時間が経ち今日の分の勉強会が終わると、疲れからかひとりちゃんはプシューっと息を吐きながらツチノコ状態へと変身してしまった。

 今ではひとりちゃんの奇行にも慣れたもので、労いの意味も込めて頭を撫でると照れた様子でプルプル震えた。

 他にもメンダコに変身したりもするけど、この時のひとりちゃんってプニプニした不思議な肌触りで触ってて気持ち良いのよね。

 とりあえず、このままでも意思疎通は取れるので、そのまま少しお話をするのも私にとっては大切な日常であった。

 

 「毎日やることがいっぱいあって大変だよね」

 「う、うぅ……。やっぱり無理ですよぉ……。今までこんなにたくさん一度に何かを進めたことなんてないのにぃ」

 

 涙声になりながらひとりちゃんはムムムムと頭を振る。

 あちゃぁ、無理無理モードに入っちゃったかな。

 

 「やっぱり、高校中退して音楽一本に絞った方が……」

 「え、そんなこと考えてたの?」

 

 う~ん、流石にそれは後押しできないなぁ……。どっちにしろひとりちゃんの性格を考えると、それはそれで周りとの学歴コンプレックスで自滅そうだし。

 

 あ、そうだ。

 

「ひとりちゃんの学校にも文化祭ってあるよね?」

「あ、はい。ありますね……」

「文化祭に結束バンドが出演したら『後藤さんこんなにかっこいいんだ~』って周りから注目されるかもしれないよ」

「っ!」

 

 あ、耳が生えてきた。

 

 「二年生の時にも出たら今度は後輩から『後藤先輩かっけぇ~!』って一目置かれるかも」

 「っ!?」

 

 あ、ちょっとずつ人の形に戻って来た。

 

 「三年生で皆注目のラストライブ! サプライズに卒業式でもライブが組まれて将来ドキュメンタリー番組の映像に使われたりするかもしれないよ」

 「~~~~っ!!!!」

 

 あ、完全に人の形に戻った。

 

 「そ、そうですねぇ。そう考えると、なんか頑張れそうな気がしてきました、ふへへ」

 「うんうん。ちょっとずつ出来るようになってきてるのは事実だから、頑張って行こうね」

 

 よし、何となくひとりちゃんの扱いが分かってきたかも。

 

 「あ、そうなると渾身のモノボケも練習しないと」

 「それはやめとこうか」

 

 ひとりちゃんの提案をにべもなく切り捨てると、またツチノコ形態に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 「あの、美空さん」

 「うん?」

 

 しばらくしてひとりちゃんが人間形態に戻って帰り支度をしている中、今度はどこか思い詰めたような表情で話しかけてきた。

 

 「えっと、その……」

 

 言おうかどうか迷っている様子だけど、私は言葉をかけずにじっくりと待つ。

 ややあって決心がついたのか、ひとりちゃんは私に向かって尋ねてきた。

 

 「正直、私の歌詞ってどう思いました……?」

 

 ……あぁ、その質問が来ちゃったか。

 

 いや、ひとりちゃんの性格を考えると今まで我慢していた方かもしれない。

 リョウちゃんと色々話してオリジナル曲が出来たとは聞いていたけど、来週に大事なオーディションが控えているから不安になっちゃったんだろうな。

 

 けど、この質問に対しては答えが決まっている。

 

 私はひとりちゃんの正面に向かい合い、視線を真っ直ぐに合わせながら答えた。

 

 「ごめんね、ひとりちゃん。その質問には答えられないんだ」

 

 一瞬ひとりちゃんの肩が小さく揺れたけど、続ける。

 

 「作詞と作曲の部分って、そのバンドの色を表す大事な部分だからさ。私が何か言って、少しでも皆の色を変えてしまう可能性があるのが嫌なんだ」

 

 ゆっくりと、けれど目線は逸らさずに私は言い切る。

 

 彼女達との距離感が縮まろうとも、私は所詮メンバーではない外部の人間にすぎない。

 だから、バンドの根幹を担う質問をされたらこう答えるというのは、最初から決めていた事だったし、これからも変わらない。

 ……今まで散々口出しをしてきてこの回答は矛盾しているだろうし、恨まれようが、無責任と言われようが構わない。

 けれど、今こうしてバンドを組んで、仲間と一緒に演奏して、自分達を表現できるという唯一無二の幸せを、邪魔したくはなかった。

 

 私達以外誰もいないバックヤードが少しの間、シン……と静まり返った。

 やがて、ひとりちゃんは目をつぶって大きく深呼吸すると、ペコリと頭を下げた後に口を開いた。

 

 「ありがとうございます。その、たぶん、美空さんならそう言うんじゃないかなって、思ってたんです……」

 「ごめんね、役に立てなくて」

 「い、いえ! そうじゃないんです! その、私は……結局、肯定して欲しかっただけだったんだと思います……」

 

 ひとりちゃんは身振り手振りで、頑張って言葉を繋げてくれる。

 

 「けど、そこで『良かったよ』とか言われても、言わせてしまったと思って自分が情けなくなって、結局モヤモヤは収まらなかったと思いますし……。美空さんの答えを聞いて、やっぱり自分の気持ちを大事にして、後悔しない選択をするのが大事だって、改めて思えたんです」

 

 そう言うひとりちゃんの表情は少し固かったけど……真っ直ぐに、綺麗な蒼い瞳でこっちを見据えていた。

 

 「……じゃあ、今回の歌詞、自分の気持ちを大事にできた?」

 「はい」

 「後悔しないで、どういう結果になっても頑張れそう?」

 「はい」

 「……そっか」

 

 ひとりちゃんは、私が思っているよりもずっと強い。

 

 私がふっと笑みを浮かべると、ひとりちゃんも笑ってくれた。

 

 「星歌さんも、完璧で非の打ち所がない演奏を求めてるわけじゃないと思うんだ。ありのままの、今の自分達の全力を叩き出せば、結果は自然と付いてくると思うよ」

 「は、はい。あ、けど……店長さんの前で演奏する事を考えると、胃が……」

 

 張り詰めていた空気が緩んだのもあったのか、さっきまでの頼もしさはどこへやら、ひとりちゃんはしおしおと萎びてしまった。

 やれやれ、と苦笑しつつ、私は一つ言葉をかける。

 

 「ひとりちゃんはさ、思い切って開き直るくらいが丁度いいと思うよ。『聞いて 聴けよ わたし わたし わたしはここにいる』ってね」

 「あっ……は、はいっ!」

 

 私が軽くウインクしながらそう言うと、ひとりちゃんの顔がパァッと明るくなった。

 うん、これなら大丈夫そうかな。

 

 「おっとっと、あまり長居すると星歌さんに申し訳ないから、出ようか」

 「そ、そうですね」

 

 そう言いつつ、二人していそいそ出ようとしてドアを開けた時、

 

 「わっ!?」

 「おぉっ!?」

 

 丁度、虹夏ちゃんとかち合ってしまった。

 

 「あ、ごめん虹夏ちゃん。怪我してない?」

 「大丈夫です、びっくりさせてごめんなさい」

 

 ぱっと見た感じ、本当に何事もなさそうなので私はほっと胸をなでおろした。

 大事な時期なのに怪我とかしなくてよかった……。

 気を取り直して、私は虹夏ちゃんに尋ねる。

 

 「もしかして、星歌さんがそろそろ出てけってお冠だったりする?」

 「あ、いや……。少しだけ、ぼっちちゃんと話がしたくて」

 「へ?」

 

 突然の展開に、ひとりちゃんはポカンとしている。

 ほう、これは少し珍しいかも?

 けどまぁ、虹夏ちゃんはひとりちゃんにとって一番話しやすい相手だろうから、この場合私はお邪魔虫ですかね。後のことは若人に任せましょう。

 

 「じゃあ、私はここで失礼するね」

 「は~い。お疲れ様でした」

 「え、あ、お、お疲れ様でした……」

 

 未だに状況が呑み込めていないひとりちゃんを虹夏ちゃんに任せて、私は一足先に帰路へと就いた。

 

 

 

 

 美空さんと入れ替わる形で、今度は虹夏ちゃんと二人きりになった。

 私に話って、何だろう?

 先輩と、二人っきり……。

 はっ、まさかこれは呼び出しというやつでは!? ヤキを入れてやるってこと!? 熱々の鉄板の上で土下座とかさせられちゃう!?

 

 「ぼっちちゃん、何か変なこと考えてるでしょ?」

 「んへっ!?」

 

 想像の世界から引き戻されると、たまにリョウさんに向ける猫みたいなジトっとした目で虹夏ちゃんが私を見ていた。

 

 「……もう。そんな取って食いやしないよ」

 

 ちょっと頬をぷくっとさせて虹夏ちゃんは不貞腐れたように言ったけど、すぐにいつもの元気が貰える笑顔を浮かべながら話を続けてくれた。

 

 「来週にオーデションがあるじゃない? その前に、ぼっちちゃんに改めてお礼を言いたいなって思ったの」

 「え? あの、お礼を言われるようなことやりましたっけ……?」

 「うん!」

 

 虹夏ちゃんは満面の笑顔で答えるけど、対照的に私の頭の上には?マークが浮かぶだけだった。

 そんな私の疑問を解消するかのように、虹夏ちゃんは優しい声音で話しかけてくれた。

 

 「ほら、ぼっちちゃんが結束バンドに入ってくれたのって、その場の成り行きだったじゃない? 何のためにバンドしてるとかも聞いてないし、ギターヒーローの活動もあるのに無理にあたしに付き合わせちゃってるのかな、って思ったんだ」

 「え、あ、そんな! 無理になんて、全然思ってないです!」

 

 慌てて私は頭をブンブン振って否定する。

 ……正直何のためにバンドしてるかって言われると……チヤホヤされたいっていうのは今も変わってないから、これは言わない方が良いよね。

 

 けど、今だからこそ、伝えたいことはある。

 

 「それに、お礼を言いたいのは私の方です。虹夏ちゃんが誘ってくれなかったら、一生バンドを組む機会なんてなかったかもしれないですし、動画の世界とは違う楽しさを知れました。だから、その、ありがとうございます」

 

 私が頭を下げると、虹夏ちゃんは頭のてっぺんの髪の毛をぴょこぴょこ揺らしながら、変わらずに笑ってくれた。

 

 「ふふ。じゃあ、お互い様だね。あたしこそ、ありがとう!」

 

 そんな虹夏ちゃんの笑顔に引き込まれるように、私も自然と笑顔になった。

 

 「よーし、このまま突っ走ってそのままメジャーデビューだ!」

 「あ、それなんですけど……虹夏ちゃんは、どうしてメジャーデビューが目標なんですか?」

 

 私は、前から感じていた事を尋ねてみる。

 

 メンバー集めに奔走したり、ライブに出るためバイトを頑張ったり、写真撮影を提案したり。

 

 常にバンドのリーダーとして頑張る虹夏ちゃんの姿は、私みたいに俗っぽい理由で有名になりたいとかじゃなくて、もっと大きな理由があるんじゃないかと思える確固たる意志を感じた。

 

 けど、虹夏ちゃんはいたずらっぽい笑顔を浮かべながら、

 

 「本当の夢はその先にあるんだけど……今はまだ、ぼっちちゃんにも秘密かな♪」

 

 と、口元に指を当てながら答えた。

 

 あ、あざとい! けど可愛いから許しちゃう!

 

 ……逆にこんな可愛い子が近くにいたらクラスの男子とか大変だなぁ。思わせぶりな態度を見せて期待させといて、いざ告白すると全然そんな気はなくて、逆恨みにストーカーとかされちゃわないか心配かも。

 はっ!? その腹いせに男子達が徒党を組んで虹夏ちゃんにあんなことやこんなことを!? やめて! 虹夏ちゃんに乱暴する気でしょ!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!

 

 「……ぼっちちゃん、今度は失礼なこと考えてるでしょ?」

 「ほげっ!? あ……、そのぉ、えへへぇ」

 「も~~~~!」

 

 図星を差されて誤魔化そうとすると、今度は虹夏ちゃんは頬を膨らませながらポコポコ叩いてきた。

 そのままひとしきり虹夏ちゃんのサンドバックになったけど全然痛くなかったし、すぐに気が晴れたのか虹夏ちゃんはいつもの明るい表情に戻ってくれた。

 

 「来週のオーディション、頑張ろうね!」

 「はいっ」

 

 帰り際にそう約束して、お店の前で私達はさようならをした。

 

 

 

 

 帰り道の電車の中で、私は考え事をしていた。

 美空さんと出会ってから、この時間は勉強時間だったり、気持ちの整理をする時間へと変わっていった。

 相変わらず想像が飛躍しすぎて変なことを思いついちゃうことはあるけれど……それでも、前に比べたら建設的な考えも少しは浮かんできてるようになってる、と思う。

 

 まず考えていたのは、虹夏ちゃんが言っていた本当の夢。

 秘密にされちゃって気にならないといったら嘘になるけど、今すぐに問いただしたいとも思わない。

 私もギターヒーローのことは黙っていたし、虹夏ちゃんが話したいときに話せばそれで良いんだ。

 だから、この話はひとまずおしまい。

 

 こんな感じで、一つずつ、今日の出来事を思い返して整理していく。

 

 次に考えたのは、じゃあ自分は何のためにバンドをしているんだろう、ということ。

 美空さんと話したことも思い出して、その時の自分の気持ちを整理すると……うん、やっぱりチヤホヤされたいという気持ちは変わらない。

 ただ、そこで終わるんじゃなくて、海の底に潜るみたいにゆっくりと、自分の心の奥をもう少し探ってみる。

 今はインターネットが発達しているから、そもそもギターヒーローの活動だけを続けていても、もしかしたら注目されるチャンスはあったのかもしれない。

 動画サイトやSNSで話題になってそこからメジャーデビュー。

 会場をお客さんで埋め尽くして、皆が私に注目してくれて、声援を送ってくれる。

 それでそれで、渾身のモノボケも炸裂して、皆が笑顔になってくれたり!

 ……いつもだったらここでそのまま妄想の海に浸っちゃうけど、なんとか我慢して改めてイメージをする。

 

 大勢のお客さんからステージの上の私は喝采を浴びるけど……すぐ傍に、虹夏ちゃんも、リョウさんも、喜多ちゃんも、結束バンドの皆はいない。

 

 その景色を想像した時……私の心は、ぽっかり穴が開いた様な感覚に包まれた。

 一瞬、心臓の奥がビクッとしたけど、目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。

 

 落ち着いて、落ち着いて……。

 

 そこで虚しさを感じたということは、私にとって、やっぱり結束バンドの皆は大切な存在なんだ。

 チヤホヤされたいっていう想いは変わらない。

 けど、それは自分だけじゃない。

 この四人じゃないと、意味がないんだ。

 私を受け入れてくれた、虹夏ちゃんの夢も叶えてあげたい。

 

 ──だから、こんなオーディションなんかで、止まるわけにはいかないんだ!

 

 

 

 

 

 電車から降りた私の足取りは、不思議と軽かった。

 駅を出て、歩きながら空を見上げると、雲一つない夜空に星々が輝いていた。

 その時、ふと美空さんに言われたことが頭に浮かんだ。

 

 『ひとりちゃんはさ、思い切って開き直るくらいが丁度いいと思うよ』

 

 思い出したら、なんだか可笑しさと一緒に、不思議な力が湧いてきた。

 そうだ、今私に出来ることを、思いっきりやれば良いんだ。

 馬鹿な私には、ギターしかないんだから。

 だから、思いっきりぶちまけちゃえば良いんだ。

 あの星々にも、届くくらいに。




 話が進むほど

 ①プロット見直す
 ②「ここ直した方がいいな」の修正地獄
 ③プロットが意味を成してなくてマヂ狂い

 という状況になっております。
 2,3日置きとかに投稿できる人って本当にすごいと思います。
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