たぶん次の話は4月頃になると思います(半ギレ)
ただ、ぼざろ二期が発表されたのでそれを糧に頑張って行こうと思います。
関係者の方々に改めて感謝を。
個人的にメタルが好きなのでSIDEROS組のCVや曲、SICK HACK組にも新しい曲が来たりしないか楽しみです。
『昨日の演奏、どうでしたか?』
「そうだね、過去一で良かったと思うよ。練習以上の成果が出てたんじゃないかな」
『や、やった。えへへ』
「けど、星歌さんが言ったみたいに実際にお客さんが居る前で歌うとまた別の緊張感があるからね~。そこをどうにかしなくちゃいけないのが次の課題かな」
『うぅ……。そう、ですよね』
「週明け辺りに皆で路上ライブの場所の下見に行こうか。実際の人波とかを見るだけでもかなりイメージが付くから、焦らずにやって行こう」
『……分かりました』
「じゃあ、今日はここまでにしようか。またミーティングで会おうね」
『はい。ありがとうございました』
オーディションから一夜経った日曜日の午前中、リモート勉強会が終わった後に私はひとりちゃんと話をしていた。
内容は主にオーディションの出来に関してであり、昨日の出来は今までで一番良かったというのは紛れもなく本心である。
ただ、課題もまだまだあるのは事実なのでその部分も話すと、ひとりちゃんは反省をしながらもちゃんと私の話に聞き入ってくれた。
……最近、ひとりちゃんは少し変わったような気がする。
前は全ての事にアタフタしてた感があったけど、今は少し落ち着いたって言うのかな?
なんて言うか、目の前の問題に対してまずは自分に出来る事をやると良い意味で開き直った感じがした。
実際に勉強でも問題を解く時の選球眼と正答率も少しずつ上がっているし、虹夏ちゃんと二人で話した後ぐらいから顔つきが良くなった気もする。
「私も少しは役に立ててるの、かな……?」
自分以外誰も居ない部屋でポツリと呟いた後、頭を振った。
いや、私の事はどうでもいいか。
ひとりちゃんが良い方向に変われているとしたら、それは他ならぬ彼女の努力なのだから。
それに、今は夏休みで平日も練習に時間を充てられるから一時的に日曜日を勉強会だけにしてもらっているけど、学校が始まったらそうもいかなくなるしなぁ……。
「ふわ、あぁ……」
話し相手がいなくなり色々と考え事をしていたら、ふと欠伸が漏れてしまった。
最近は結束バンドの練習にひとりちゃんとの勉強会に備えた予習復習ってやる事がかなり増えたからか、流石に疲れが溜まっていたようだ。
「……昼寝して、その後にご飯でいいか」
これ以上回らない頭を回してもどうしようもないので、そう結論付けた。
ただし、夕方にはまた予定があるから寝過ごしは厳禁だ。
段々と重たくなってくる瞼に頑張って力を入れて目覚ましをセットすると、程なくして私の意識は現実から切り離された。
「店長、こんちわーっす」
「おう、いらっしゃい」
近所の音楽スタジオ『Power』に足を踏み入れると、相変わらず厳つい外見の梶原店長がカウンター越しに挨拶をしてくれた。
「すいませんね、お時間作って貰っちゃって」
「なに、気にしなさんな。んで、話ってのは?」
「まぁ、単刀直入に言うとライブのお誘いです」
そう言って、私は鞄から結束バンドの宣伝フライヤーを店長に見せた。
今日、スタジオでの自主練前に時間を作って貰ったのは、この話をするためであった。
「あ~、今美空ちゃんが教えているっていうバンドかい?」
「ですです。正直な話、梶原店長には一番見て欲しいって思ってるんですよ」
真剣な声音でサングラス越しの店長の目を真っ直ぐに見ながら、私は続ける。
「私だと、彼女達が頑張っている姿を見てるからどうしても『前より良くなってるな』っていう贔屓目が入っちゃうんですよ。なので、音楽に見識があって完全な第三者である店長に、客観的な評価をして欲しいんです。もちろん、相応に鍛えてますから純粋にライブを楽しんで欲しいという気持ちもありますけどね」
「なるほどな」
私のお願いに、店長も顎に手を当てつつ真剣な表情で考えてくれた。
星歌さんやPAさんも客観的に見てくれているけど、それでも結束バンドからしたら身内なのは否めない。
まだ全員が発展途上という意識がある内に厳しい評価をしてくれた方が、今ならダメージよりも発奮材料になると私は考えたから、今回こうしてお願いしたのである。
そんな私の考えを悟ってくれたのか、店長はニッと笑って答えてくれた。
「他ならぬ美空ちゃんの頼みだ、喜んで行かせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
「それに、そっちにとってもノルマの足しになって一石二鳥だろ?」
「へっへっへ、どんな時でも売り込みを忘れない営業の鑑と呼んでください」
「なんだったら、そのままバンドのマネージャーになったらどうだ?」
「今の会社クビになったらそうします」
そんな他愛のない冗談を言いながら、練習時間までの束の間を過ごしていた。
「しかし、美空ちゃんも最近は前以上に練習に精が出るな」
「いや~、だって教える方が下手くそだったらカッコ悪いじゃないですか」
「ははは、ちがいねぇ」
そう、結束バンドの練習を見るようになってから、平日は予約が取れるなら閉店間際でも通ったり、休日は前よりも長く時間を取ったりするようになった。その分お金の消費速度もアップしたけど、元からそんなに他の事に使う事もなかったから全然苦にはなっていない。
むしろ、新しいやりがいに出会えて楽しいくらいだ。
「それに、表情も良くなったよ。会ったばかりの頃は今にも死にそうなツラだったのにな」
「あ、あの時は色々と悩んでたからしょうがなかったんです! 今はもう、大丈夫です!」
からかってきた店長に対して、私は抗議の声をあげた。
まぁ、確かにあの頃は心が空っぽで苦しかった時期だけど、今は笑い話にできるくらいには立ち直れた。
それに、そんな私にきっかけをくれたのは他ならぬ梶原店長だったしね。
「ま、どんな時でも音楽を楽しむ気持ちを忘れないでくれ。一人でもそうなって欲しいって思ったのが、俺がこの店を始めた理由だからな」
「はい。ありがとうございます」
店長の言葉に対して、私はいつも通り笑顔で答えた。
「っと、そろそろ時間だな。もう準備はしてあるから、使ってくれ」
「了解です。んじゃ、行ってきまーす」
そう言い軽く手を振りながら、私はスタジオへと足を進めた。
その日の練習はなんだかいつも以上に集中出来て、あっという間に時間が過ぎ去ってしまったのであった。
さて、週が明けていつも通り仕事帰りにSTARRYへ立ち寄ると、その日は明らかにいつもとは違う異様な空気を感じた。
『ふざけんな! 営業妨害で警察呼ぶぞ!』
入口から続く階段の下から、星歌さんの怒号が聞こえた。
え、何!? まさか、その筋の人間に妙な因縁を付けられたとか?
すぐに外に出て警察を呼ぼうかと思ったけど、早合点だったら逆にお店に迷惑をかけてしまうかもしれない。
迷ったけどまずは直接状況を確認するのが先決だと考え、念のため持っていた鞄を武器にできるよう両手で持ちつつ、お店の中へ進んでいく。
「え~、良いじゃないですか~。可愛い後輩が遊びに来たんですよ~?」
「だったらその酒臭ぇのどうにかしろ!!」
店内が見える所まで来ると、何やら犯人と思われる人物と星歌さんが手四つで取っ組み合いをしているのが見えた。
犯人はこっちに背中を向けているから顔は分からないけど、スカジャンにスカートに下駄という中々ファンキーな格好をしている。
ざっと店内を見回すと特に荒らされた形跡もないし、他に仲間がいるわけでもない。
結束バンドの皆は……あ、良かった。星歌さん達を遠巻きに見ているだけで全員無事だ。
よぉし、なら後はあの不審者をとっちめるだけか。
星歌さんが力負けしていないなら私でもどうにかなるだろうし、いざとなったらアメリカ仕込みの格闘技でぶちのめしてやる! 実際はUFCをテレビで見ていただけだけど。
「ちょっと! 星歌さんから離れなさいよ!」
不審者の肩を掴んでこちら側に体を向かせた瞬間……私は言葉を失った。
あどけない顔立ちに、ワインレッドの髪の毛。
アメジストを彷彿とさせる、深い紫色の瞳。
忘れもしない。
忘れるわけがない。
もう一度会いたいと願いながらも、それは許されないと思っていた──親友。
「美空……?」
「あ……」
名前を呼ばれて現実に引き戻されるも、砂漠みたいに干上がった喉からは上手く言葉が紡げない。
私の名前を知っているって事は、やっぱり……本当に、きくりなんだ。
「えっと……。その、きくり、久しぶ」
「美空ぁ~~~~!!!」
「ごべっ!?」
何とか声を絞り出した瞬間、ラグビー部もびっくりな勢いで思いっきり抱き着かれた。
んぎぎぎぎぎ! あっっっっっぶねぇ!
リハビリも兼ねて体を鍛えておいてよかった、鍛えてなかったら危うく後頭部から倒れてるところだったぞ!?
「今までどこに行ってたの!? ずっと心配してたんだよ!!」
当の本人はまるで親を見つけた迷子の子供の様に、グスグスと泣きながら私の体に力いっぱい手を回していた。
……あぁ、昔からきくりのこの顔には弱いんだよな。
私は泣きじゃくる彼女の背中と頭に手を添えて、子供をあやす様にゆっくり撫でた。
「その、色々あって、ごめん……って酒臭っ!? あんた本当にきくりか!?」
そして、自分の記憶とはだいぶ違う部分もある親友との予期せぬ再会に、私の頭は再び混乱の渦に飲み込まれた。
『お騒がせして申し訳ありませんでした』
一連の騒動に区切りがついた後、私はきくりと一緒に記者会見をする偉い人みたいに頭を下げていた。
突然現れた乱入者に結束バンドの皆は困惑を、星歌さんは仏頂面を浮かべて見ていた。
ひとまず私がきくりの事を紹介するのが先かなと思っていると、珍しく目をキラキラさせたリョウちゃんが質問を投げかけてきた。
「もしかして、きくりさんってSICK HACKの廣井きくりさんですか?」
「お、私のこと知ってるの?」
「はい。ライブも見に行ったことあります」
「嬉しいね~。新宿以外でファンの子と会えるなんて」
リョウちゃんの反応に気を良くしたのか、きくりはデレデレと笑顔を浮かべている。
「リョウ先輩、どんなバンドなんですか?」
今度は喜多ちゃんが私も気になっていた部分を質問する。
「泥酔しながら酒吹きかけたりするロックなバンド。私も顔面踏みつけられたことあって超テクな演奏も楽しかったけど、売れないのが残念」
「こんなバンドがメジャーになったら世界の終わりだよ」
楽しそうに話すリョウちゃんとは対照的に、星歌さんはげんなりとした表情で呟いた。
かく言う私も、同じ心境であった。
な、なんつーバンドだ。
とてもきくりがやれるとは思えないぶっ飛んだパフォーマンスに、私は頭を抱えたくなった。
「そもそも、なんで美空さんはこんな人と知り合いなんですか?」
こんな人って……。虹夏ちゃん、たまにすごい毒を吐くよね。
けど、きくりは何も気にしないであっけらかんとした表情で答えた。
「美空は私の親友で、音楽の師匠なんだ」
「あ、この前言ってたのって美空さんの事だったんですね……」
「そうそう。そんで、SICK HACKの結成メンバーでもあるんだよ」
「ということは、『幻のメンバー』って美空さんの事だったんですか?」
「何それ?」
聞いたことのない言葉に疑問を感じ、私の気持ちを代弁するかのように虹夏ちゃんが問いかける。
「古参ファンの間では有名な存在。私が知った頃にはもう居なかったけど、SICK HACKの黎明期を支えたギターテクと歌声の持ち主って話」
饒舌に話すリョウちゃんとは裏腹に、本当はいけない事だと分かっているけれど……私は自分の眉間に物凄い力が入るのを感じた。
確かに、あの頃の私は自分のバンドに、SICK HACKに絶対の自信を持っていた。
けど、それは決して私一人だけの力じゃない。
私だけのワンマンバンドだなんて思った事は、一度もない。
きくり達は初心者だったのに、必死に私が教えた事を身に付けようと練習してくれた。
その結果、ほんの二年くらいで同世代には負けないくらいの実力を付けてくれて、この子達と一緒だったら、どこまでも行けると信じていた。
けれど所詮、今となっては私は途中で諦めてしまった人間に過ぎない。
私なんかとは違って……きくり達の力は、本物なんだ。
それは、夢中になって語ってくれているリョウちゃんみたいなファンがいるから、証明してくれている。
「……昔の話だよ。今のSICK HACKがあるのは、間違いなく全部きくり達の実力よ」
言い終わった後に、自分でも驚く位の低い声が出てしまった事に私はしまったと思った。
チラリと周りに目を向けると、皆もビクッとした様子で私の事を見ていた。
……くそ、大人としてしっかりしなくちゃいけないのに、また感情に振り回されたか……。
どうしようかと内心焦っていると、少しわざとらしいと思いながらも、空気を変えようと私はさっきの会話の中で気になった事を質問した。
「っていうか、ひとりちゃんはきくりと面識あるの?」
「あ、はい。この前地元で路上ライブしようとしたら助けてくれて」
「ひとりちゃん、自分だけで路上ライブしようとしたの!?」
予想外のひとりちゃんの回答に、私は思わず椅子から立ち上がりながら声をあげてしまった。
「は、はい……! 少しでも人前に慣れようと思ったんですけど、お姉さんと会ってなかったらずっと立ってるだけで終わってました……」
私の大きなリアクションにひとりちゃんはびっくりしていたけど、一方で私の中にはさっきまでの嫌な感情を吹き飛ばすかのような感動が広がっていた。
「ひとりちゃん、偉い!!」
「わぶっ!?」
気づいた時には、私はひとりちゃんを思い切り抱きしめていた。
そっかぁ、ひとりちゃんが自分で路上ライブを……!
考えれば考える程嬉しくなって、更にひとりちゃんの頭を撫でたりして揉みくちゃにしてしまう。
「み、美空しゃん……。苦しいでふ……」
「あ、ごめんね。つい」
思いっきり抱きしめていたせいで顔がタコみたいになっていたひとりちゃんを放してあげる。
いやぁ、けど嬉しいなぁ。
まさか引っ込み思案なひとりちゃんが、自分で路上ライブに挑戦するなんて!
結果としてはソロでは出来なかったみたいだけど、自分から一番大きな課題に挑戦しただけでも大金星だ。
あー、やばい。感動して泣きそうかも。
「あの時は私も楽しかったし助かったよ~。お水とかお粥とかご馳走様ね」
続いて横から飛んで来たきくりの発言に、喜んでいた私の体が凍り付いたみたいにピシッと固まった。
……今、聞き捨てならない事を聞いたような?
「きくり、もしかしてひとりちゃんに奢ってもらったの?」
能面の様に無表情のまま、ターミネーターの如くキリキリと首を向けるとあからさまにきくりは『あ、やべぇ』みたいな表情を浮かべやがった。
「あ、いや~……。あの時は打ち上げでついパァっとね? 次のライブのギャラが入ったら返すから」
「星歌さん」
「おう」
私が声をかけると星歌さんはきくりの後ろに回ってチョークスリーパーを、私は足に四の字固めを極める。
「あ・ん・た・ねぇ~!! 大人が高校生にたかってるんじゃないわよ!!」
「あぎゃーー!! ギブギブ!! 骨が変な方向に曲がっちゃうーー!!」
私がプロレス技で締め上げるときくりはデスメタル系ボーカルみたいな悲鳴をあげる。
あぁ、嘆かわしい。まさかあの大人しかったきくりがこんな風になるなんて……。
「ごめんねひとりちゃん、必要だったらひとまず私が立て替えるから」
技をかけながらひとりちゃんに話しかけると、ひとりちゃんだけではなく結束バンドの全員が私の事を引いた目で見ていた。
「え、皆どうしたの?」
「いや……。美空さんって、結構バイオレンスな人だったんですね……」
苦笑いしながら虹夏ちゃんが答えた。
あ、あれぇ? もしかして、私が怖がられてる?
「こいつ、元からこんな感じだぞ。私に対してもちょいちょいナメた口きいてくるしな」
いや星歌さん、そこはせめて先輩として何かフォローを……。
「高校の時も机の上に乗ってギター弾き始めた上に『スパッツ履いてるからパンツ見えませーん! 残念でしたー!』とか言ってスカートの中見せたりもしたよね」
「ちょあーーーーー!? あんた何でそんな事覚えてるのよ!?」
「いやだってあれは忘れたくても忘れられな痛ででで!! あ、頭が割れる~!!」
とんでもない黒歴史を暴露したきくりの頭をアイアンクローで締め上げると、結束バンドの皆は可哀想な人を見るような目をしながら更に私から距離を取った。
「違うの皆あれはクラスの子にギター弾いてみてって言われたからついテンションが上がっただけで」
「どう考えても痴女です、本当にありがとうございました」
容赦ないリョウちゃんのツッコミに、私は膝から崩れ落ちた。
「ちょっとリョウ、事実でもそれは言い過ぎだよ」
「私達は美空さんが本当は優しい人だって知ってますから……」
「あ、アメリカではそういうのが普通なんですよね? スクールオブロックってやつですよね?」
他の三人から慰めの言葉?が入るけど、かえってそれは私の心にグサグサ突き刺さる
だけであった。
う、うぅ……あァァァんまりだァァアァ~~~~!!
「で、きくりは何しに来たの?」
ひとしきり時間が経って落ち着いた後、顔面が梅干しみたいに変形したきくりに私は質問を投げかけた。
「結束バンドってどんな感じなのかな~って気になってさ」
「だったらせめてライブまで待ちなさいよ」
「こういうのは思い立ったが吉日って言うじゃない。練習はあるんでしょ?」
……アポ無しで来た上に見ていく気か。
「皆、嫌だったら遠慮しないで言って。叩き出すから」
「あっ。わ、私は見てもらいたいです……!」
「私も。一線級の人に見てもらうなんてそうそう無いし」
「全てはチャンス! 当たって砕けろってやつですね!」
「いやいや喜多ちゃん、砕けちゃダメだよ」
意外な事に、率先して切り出してきたのはひとりちゃんとリョウちゃんのダウナー組であった。
リョウちゃんはファンでもあるからまぁ分かるとして、ひとりちゃんが一番最初に言ってきたのは正直驚いた。……よっぽどきくりと良い経験をしたのかな?
まぁ、とにかく本人達がそう言うならやるしかないよね。
ということで、早々に全員でスタジオに移動した後、きくりにオーディションでもやった『ギターと孤独と蒼い惑星』を聴いてもらった。
「どうだった、きくり」
「ん~……。悪くはないけど、飛び抜けて良くもないって感じかな」
聴いた後のきくりは特に大きなリアクションをするわけでもなく、少し思案した後に淡々と言った。
……今の演奏は、オーディションの時と遜色ない出来だった。
けど、それでもプロとして活動している人間には『その程度』という評価でしかなかった。
あー、くそ。覚悟はしていたけど実際に言われると悔しいな。今ならワンチャンあるかと思ったけど、流石にそれは甘すぎたか。
けど、当然ながら言われた本人達はもっと悔しいだろうし、結束バンドの皆からは落ち込みよりも悔しさの方が大きいのが表情から見て取れた。
「ただ、可能性はすごい感じるね」
そんな私達の気持ちを知ってか知らずか、きくりはマイペースにのほほんと笑顔を浮かべながら続けた。
「折角だから、これを見て欲しいな」
そう言って、画面がバリバリに割れてるスマホをきくりは取り出した。
「SIDEROSってバンドでね、SICK HACKと同じ新宿のライブハウスを拠点にしてるんだ」
ちゃんと動くのか心配だったけど、スマホからはガールズバンドのライブ映像が流れてきた。
ちょっと荒い映像だったけど、それを聴いた時、私も含めて結束バンドの皆は自然に
『上手い……』
と口から感想が漏れていた。
いや、これは本当に凄いな……。もしかしたら全員がひとりちゃんレベル、それこそプロでも通用する腕前だ。
「この子達も君達と同じ高校生だから、良いライバルになって欲しいな」
自分達と同じ位の年齢だと知って、結束バンドの皆は更に目を見開く。
かく言う私も同じ心境であり、つまりそれはこの先、結束バンドの前には彼女達が立ちはだかることも意味していた。
一転して重い空気になってしまったものの、きくりは諭す様に話を続ける。
「そんなに不安にならなくていいよ。皆、美空に教わってるなら大丈夫。私が保証する」
「酔っ払いが適当な事を……」
「……本当の事だよ?」
恨みがましく私は言ったけど、きくりは……昔と同じはにかんだ柔らかい笑顔を浮かべて返してきた。
……あー、もう。こういう時だけそういう顔をするのはずるいんだよ。
けれど、言葉とは裏腹に……そう言って貰えた事に、私の胸の中は不思議な高揚感が生まれていた。
目を閉じながら、ふぅと息を吐く。
プロとして活動してる人間にそう言われたら、やるしかないよね。
私の反応を見て満足したのか、きくりは再び酔っ払いモードになってだらしない笑顔を浮かべながら話してきた。
「今日来たのは今度のライブ、私も行ってみたいって思ったからチケット買いに来たんだ。というわけで、一枚お願いします」
そう言って、きくりはポケットからお金を取り出して星歌さんに渡した。
「そもそも、チケット買うよりひとりちゃんにお金返しなさいよ」
「うっ。そ、そこはまた今度で! 必ず返しますから何卒~!」
「ちゃんと私の方で記録つけておくからね。それに、帰りの電車代とかもちゃんと持ってるの?」
「そこはちゃんとあるよ!」
偉そうに言う事じゃないでしょ、まったく。
そんなこんなで、チケットを受け取ったきくりはご機嫌な様子で踵を返した。
「じゃ、今日はこれくらいにして帰るね。まだ日付は未定だけど、SIDEROSとの合同ライブを企画中だから見に来てね。あ、伊地知せんぱ~い。結束バンドともここで合同ライブしましょうよ~」
「断る。機材ぶっ壊したり何だったりっていうお前の悪評は有名なんだよ」
星歌さんが容赦なく切り捨てるも、懲りない様子できくりは『ちぇ~』と口を尖らせながら出口へ進んでいった。
「それじゃ、またね~」
帰り際に嬉しそうに手を振りながら、きくりは去って行った。
……はぁ。色んな事が重なりすぎて何か疲れちゃったな。
けど、きくりが元気そうで良かった。
それに、私がこんな事を思う資格はないけれど……それでも、きくりがバンド活動を続けているという事実が、一番嬉しかった。
胸を抑えながら様々な感情を鎮めるように佇んでいると何やら出口から足音が聞こえ、そちらに目を向けるときくりが申し訳なそうな顔をしながら戻って来た。
そして、きくりは私に頭を下げてこう言った。
「……ごめん美空。やっぱりお金貸して」
すかさず私はきくりに卍固めを極めた。
何か変な音が聞こえたけど、私は一切悪くない。
スピンオフの『深酒日記』を読んでて一番びっくりしたのはイライザさんがSICK HACKの初期メンバーでは無い事でした。そこから妄想が始まって今作に繋がった次第です。
なお美空さんときくりさん達の過去話は考えてありますが、個人的に本編の合間に過去編を挟む展開はダレてあまり好きじゃないのでどうしようか考え中です。
そもそも本編がどれくらいかかるか分からない&下手したら二期が始まっても今作が終わってない可能性が……。