夢への旅路   作:梅のお酒

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 喜多ちゃんに面白い曲を歌わせてみたかった。

 あと、いつまでも出しっぱなしなのもだらしないので文体に関してのアンケートを締め切りました。
 回答してくださった方々、ありがとうございました。
 アンケートを踏まえて自分の気持ちと向き合った結果、文体は今の状態を継続します。
 統一感の為に既存の投稿分も随時修正して行きますので、ご理解の程お願いします。



第17話 マシンガンをぶっ放せ

 ライブ二週間前の土曜日、第二関門である路上ライブの日がやって来た。

 現在、私は結束バンドの皆と一緒にライブ予定地で機材の準備を進めている。

 

 「音は波と同じで機材の前に自分が立つと防波堤になっちゃう。ぼっちと郁代は特に注意して、自分もお客さんも音が聞こえる位置に立つって事を忘れないで」

 「は、はいっ」

 「分かりました、先輩!」

 「虹夏も、屋内より音が響かない事を頭に入れておいて。気持ち強めに、けどリズムが走り過ぎないように頑張って」

 「了解!」

 

 私が特にアレコレ言うまでもなく、リョウちゃんが主導してセッティングの準備は滞りなく進んでいる。

 やっぱり、経験者が一人でも居るっていうのは大分違うわね。

 音楽が絡むとリョウちゃんのやる気は頼りになるし、この様子なら次からは私は手伝わなくても大丈夫そうですかね。

 ……このやる気をな~。もっと勉強とかバイトにも向けてくれればな~。

 まぁ、そこら辺は虹夏ちゃんにお任せしますか。私が言うよりも近い友達に言われた方が色々効くだろうし。

 

 「よし、じゃあ機材のセッティングはこんなもんかな。皆、熱中症には気を付けてね」

 「あ、はい。ありがとうございます」

 

 粗方準備が出来た所で、事前に多めに買っておいた麦茶やスポーツドリンクを皆に差し入れる。

 ちなみに時刻は夕方の四時前くらい。

 ここ数年はホント気温がバグってんじゃないかってくらい暑いからね。

 お昼過ぎくらいにやるのは危なすぎると判断して、皆と話し合って今の時間になった次第である。

 これが功を奏したのか、今は何とか出来るくらいの気温ではあるし、人通りもまだ結構あるから上手くいけばお客さんはそれなりに引っ掛けることが出来そうだ。

 

 「けど、美空さん」

 「うん?」

 「どうしてスーツ姿なんですか?」

 「もしかして、今日お仕事だったんですか?」

 

 虹夏ちゃんと喜多ちゃんが不思議そうな顔をしながら尋ねてくる。

 そう、今日の私の服装は上はブラウスに下はパンツスーツという仕事着スタイル。靴だけは動きやすいようにスニーカーだけどね。

 もちろん、伊達や酔狂でこんな格好をしているわけではない。

 

 「ほら、この方がぱっと見て『売り出し中のバンドのマネージャー』って感じで話を聞いてくれそうじゃない?」

 「あ~。そういう狙いがあったんですね」

 「てっきり、実は休日出勤なのかと思ってました」

 「うふふ、そんなもんは繁忙期だけで十分なのよ」

 

 虚ろな目で答えた私に皆は苦笑していた。

 朝一出勤、終電間際、終わらない書類の山……うっ、頭が……。

 いけないいけない。今日は大事な日なのに、私が鬱になってどうする。

 こほん、と咳ばらいを一つした後、頭を切り替えて改めて皆に話を続ける。

 

 「じゃ、私はそろそろ宣伝フライヤーを配り始めるね。目安は10分くらいだから、皆はそのまま準備を進めていて」

 『はい!』

 

 そう言い残し、傍らに用意してあったフライヤーの束を手に取り、私は道行く人に声をかけ始めた。

 

 「こんにちはー、結束バンドですー! 良いバンドなので良かったら聴いていってくださーい!」

 「おー。新しいバンドかー」

 「こういうの、下北って感じで良いよな」

 「折角だし聴いてみようぜ」

 

 おぉ、流石音楽の聖地。路上ライブに対して好意的だ。

 これはアレか? 思ったより人が集まってくれそうな気配かな?

 宣伝効果を上げるには、とにかく見てもらう人の絶対数を増やす事だからね。

 ふふふ。この感じ、昔の自分の路上ライブを思い出してワクワクしてくるな。

 よし、この調子でガンガン声をかけていくぞ!

 

 「お姉さん達も良かったらどうですかー?」

 

 少し離れた所で興味深そうに見ていた大学生っぽい女の子二人組に私は声をかけた。

 

 「え? あの、私達こういうの聴くの初めてなんですけど、良いんですか?」

 「もちろんです。たとえ路上ライブでも生で聴くと迫力が全然違いますからねー。これを機に音楽の楽しさを知るきっかけになって欲しいかなーって」

 「どうしようか?」

 「特に予定もなくてぶらぶらするだけだったし、聴いてみようか」

 

 ぃヨシ! さらにお客さんゲット!

 

 「ありがとうございます! あ、良ければこのチラシもどうぞ。近々ライブハウスでちゃんとしたライブもやりますので」

 「へぇ~。すごい本格的なんですね」

 

 女の子二人組は渡されたフライヤーをしげしげと眺めている。

 っと、時間も無くなってきたからもう少しペースを上げないと、と私が考えていたら。

 

 「先輩、何してるんですか?」

 「ほえ?」

 

 聞き覚えがある声の方向に顔を向けると、そこには会社の後輩ちゃんこと三森ちゃんがいた。

 

 「あれ? 三森ちゃん何してるの?」

 「私は普通に遊びに来てるだけですけど……。むしろ、先輩が休日なのにスーツ着て何やってるんですか?」

 

 むぅ、ごもっともな意見です。

 冷静に考えればこの場合、変なのは私の方ですね。

 

 「実は、かくかくしかじか、あのバンドの子達に色々教えてるのよ」

 「え、先輩音楽が出来たんですか!?」

 

 事情を話すと、三森ちゃんは心底驚いたといったリアクションをしてくれた。

 あ、そういえば私が音楽出来る事と結束バンド教えてる事って、会社の誰にも言ってなかったっけ。

 

 「はぁ~……。お仕事もバリバリ出来る上に音楽もこなせるなんて、先輩素敵です!」

 「え、あ、うん。あ、ありがとう?」

 

 私の話のどこが琴線に触れたのか、三森ちゃんは目をキラキラさせている。

 何かこの雰囲気、リョウちゃんに対する喜多ちゃんのアレに似てるかも?

 三森ちゃん、素直な良い子なんだけどたまに何がツボなのか良く分かんないのよね……。

 

 「まぁ、それはさておき、三森ちゃんこの後時間ある? 良かったら人助けだと思って聴いていってくれないかな?」

 「オッケーです! 私、こういうの初めてなんで楽しみです!」

 「サンキュー! やっぱ持つべきは良い後輩よね~」

 「えへへ~」

 

 私が三森ちゃんの頭をナデナデすると、仔犬みたいな笑顔を浮かべてウットリとしていた。

 

 「あ、あそこの女の子二人組も初めてみたいだから、もし一人で見るのが寂しかったら一緒に見てみて」

 「承知しました!」

 

 元気な返事をすると、三森ちゃんは物怖じせずに女子大生二人組に話しかけに行った。

 残っているフライヤーを配りながら横目でチラリと見ると、早くも女子大生二人組と仲良く話せているようだった。

 仕事ではおっちょこちょいな所があるけど、全く邪気を感じさせないコミュ力お化けだから社内だけじゃなくてお客さんにも可愛がられてるのが凄い所なのよね。

 

 さてさて、時間が来たので一旦フライヤーを配るのを止めて、一度皆の所に引き上げる。

 軽く見回すと、十人を超えたくらいはオーディエンスがいるかな?

 オッケーオッケー、上等上等。

 最悪、一人もいないのを覚悟していたからね。予想以上に見てくれる人がいるだけで感謝ですよ。

 

 「皆、準備は大丈夫?」

 

 私が声をかけると、結束バンドの皆が集まって来た。

 オーディションに受かった事が大きな経験になったのか、緊張感は保ちつつも良い顔を……

 

 「ふーっ……! ふーっ……!」

 

 ひとりちゃん顔怖っ!? 絶食してる時のドカ食い望○さんみたいな顔になってる!

 

 「ひとりちゃーん、顔が怖いよー」

 「ふげっ!? あ、ご、ごめんなさい」

 

 私がほっぺを軽くむにむに揉んであげると、何とかひとりちゃんは表情を崩してくれた。

 まぁ、ひとりちゃんに関してはしょうがないかな。

 正直、ギリギリまでトイレとかに引きこもって出てこない可能性とかも考えてたからね。

 けど、今ここにこうして居るって事は、やっぱりきくりとの路上ライブが凄い良い経験になったってことなんだろうな。

 ……少し、妬いちゃうかも。

 

 「大丈夫だよ、ぼっちちゃん。オーディションの時だってあんなに緊張してたのに上手くいったじゃない。どんな時でも、思いっきりやれば行けるよ!」

 「そうよひとりちゃん! やるんだったら、全力で楽しみましょう!」

 「少しくらいミスってもその方がライブ感があってロックだし」

 

 虹夏ちゃんとリョウちゃんの先輩コンビが励ましの言葉をかけ、喜多ちゃんの明るい言葉が更に前へ進むのを後押ししてくれる。

 私の知らない所で彼女達が精神的に成長している事に嬉しさを感じつつ、ついでに私も一言伝えてみる。

 

 「そうそう。それに、歌でもあるじゃない。『やりたいこと やったもん勝ち 青春なら』ってね」

 「美空さん腐女子説」

 「おぅ忍〇まと腐女子を無条件で結びつけるのは止めて差し上げろ」

 「じゃあ初恋のキャラは?」

 「ス〇ライドのカズ〇」

 「男の子の味過ぎません!?」

 「美空さんがバイオレンスな理由が何となく分かりましたね」

 「喜多ちゃ~ん、後でお話しよっか?」

 「あ、あの。そろそろ始めるんじゃ……」

 

 危うく脱線しかけた所を、ひとりちゃんが引き戻してくれる。

 おぉ、何気にひとりちゃんが自己主張っぽいことを!?

 ひっそりと私が感動していると、虹夏ちゃんが手招きしながら声をかけてきた。

 

 「折角なんで、今日は美空さんも円陣を組みましょう!」

 「え? いや……、私はメンバーじゃないし……」

 「まぁまぁ、今日くらい良いじゃないですか! お店とは違って同じステージに立ってるようなものですし!」

 「お、喜多ちゃん良い事言うね!」

 「実際、Stage of the groundって曲もあるしね」

 「美空さん。お、お願いします」

 

 皆の言葉に、私は胸に暖かい気持ちが広がるのを感じた。

 そこまで言われたら、断るのは無粋だよね。

 

 「……それじゃ、お言葉に甘えて失礼します」

 

 私も加えた五人で円陣を組むと、虹夏ちゃんがニカッと笑いながら発破をかけた。

 

 「やることはいつも一緒! 思いっきり、出し惜しみ無しで楽しむだけ!」

 

 そこには、かつての小さな女の子ではなく、リーダーとしての頼もしさを兼ね備えた立派なドラマーが居た。

 

 「結束バンド、行くよ!!」

 『おーーーーー!!!』

 

 全員の掛け声が開幕の合図となり、お客さんの拍手に迎えられながら路上ライブの火蓋が切って落とされた。

 急いで私が星歌さんから借りた三脚で固定されたカメラの所へ戻り、ちゃんと録画が機能している事を確認してから手を挙げて合図する。

 

 「はじめまして、結束バンドです! 路上ライブ、というよりこうしてお客さんの前で演奏するのも初めてですけど、一生懸命頑張ります!!」

 

 笑顔で明るくハキハキと喜多ちゃんが挨拶をすると、お客さんはまた拍手を送ってくれた。

 うん、やっぱり喜多ちゃんがフロントマンで正解だったね。

 余計な事を言わずに端的に、それでいてフレッシュさが溢れていて最高の第一印象だ。

 これなら就活の面接でも大丈夫でしょう、と思わず社会人並の感想が浮かんでしまった。

 

 「それでは一曲目、ASIAN KUNG-FU GENERATIONで『リライト』!」

 

 喜多ちゃんが曲名を宣言し、虹夏ちゃんがスティックを鳴らすことで、路上ライブはスタートした。

 一体感のある軽快な音を響かせると、一部のお客さんの目の色が変わった気がした。

 

 「お?」

 「へぇ、良いな」

 「思ったより上手いじゃん」

 

 ベテランっぽい雰囲気の人達から良さげな反応が聞こえた。

 三森ちゃんも含めた女の子組にも目を向けると、曲自体は知っているのか体を揺らしながら一緒にリズムをとって聞き入ってくれている。

 よしっ、スタートは上々。

 

 この曲は私が合流する前から結束バンドの皆で課題曲として練習していた曲で、初めて 私の前で披露してくれた曲でもある。

 初心者向けの曲として紹介される事もあり、特に喜多ちゃんが担当するパートはコード進行がシンプルで彼女の負担をどれだけ軽く出来るかという意味でも良いチョイスだ。

 最初はリョウちゃんが『アニメのタイアップ曲をやったらにわかと思われて嫌だ』だの文句を言ってたみたいだけど、個人的にはアニソンって侮れないと思うのよね。

 期間中は同じ時間に毎週流れてて宣伝効果はあると思うし、普段そのアーティストの曲を聴かない層を取り込めるチャンスになるかもしれないしね。

 それに、不思議な事にアジカンのメンバーって結束バンドの皆と全員名字が一緒だから、彼らみたいな大きなバンドになれるようにっていうゲン担ぎの意味としてもこれ程ベストな選択は無いでしょう。

 

 「消して リライトして くだらない超幻想 忘れられぬ存在感を」

 

 サビに入っても、良い勢いは維持出来ている。

 一瞬だけお客さんの方に目を向けると、ほんの数人また足を止めて見てくれる人が増えたようだった。

 男性ボーカルの場合、男の人から見たら高いキーの曲でも女性から見たら低すぎるということはよくあることだ。

 けど、喜多ちゃんはその部分を問題なくこなせており、やはり彼女のボーカルとしての才能はかなりのモノだと改めて実感した。

 

 「……ありがとうございました!」

 

 一曲目を歌い切ると、最初の時以上に大きな拍手が送られた。

 

 (うしっ、うしっ)

 

 良い手応えにうんうんと小さく頷きながら、私は撮影を続ける。

 大勢の人が知ってそうで、かつノリの良い曲でまずはお客さんを掴む。

 けど、次の曲は今日で一番の難関だ。

 下手したら、ここで一気にお客さんが離れるかもしれない。

 油断は禁物だよ、皆。

 

 「続きまして、二曲目行きます! Deep Purpleで『Highway Star』!」

 

 喜多ちゃんが曲名を宣言すると、恐らく音楽経験者であろう人達は『おぉ~』と声をあげ、逆に女子大生組や三森ちゃんはピンと来ないのか『?』といった感じで見ている。

 むーん……。海外の名曲と言えど、知らない人は知らないだろうからこのリアクションはしょうがないか……。

 まぁ、だからこそそういう人達もどれだけ引き込めるか、やりがいがあるんだけどね!

 期待と不安が入り混じった感情で私が見守る中、虹夏ちゃんの合図で曲が始まると、一曲目とはまた違った軽やかなリズムと音色の曲が奏でられる。

 

 「Nobody gonna take my car I'm gonna race it to the ground」

 「海外の歌!?」

 「すごーい!」

 

 喜多ちゃんが歌い始めると、女の子達はお手本にしたい位の良いリアクションをしてくれた。

 いやしかし、これに関しては喜多ちゃんが器用かつ成績優秀で本当に良かった。

 海外の曲を歌うには歌詞通りに歌うんじゃなくて発音を圧縮したりコツがあるけど、私が重点的に教えた甲斐もあってか喜多ちゃんは初心者とは思えない綺麗な発音で歌えている。

 普段あまり音楽を聴かない人相手だったら今の女の子達みたいにハッタリが効いて驚いてくれるかもしれないけど、ベテランリスナー達にはそうはいかないようだった。

 

 「んー、さっきのに比べると……」

 「完成度低い感じはするかなー?」

 

 ぐぬぬ、流石音楽の聖地の住人。目が肥えている。

 正直、この曲を選んだのは宣伝目的という側面が大きい。

 日本の歌だけじゃなくて海外の歌も披露することでインパクトを残して、バンドの存在を印象付ける。

 ただ、リライトに比べて練習期間は短かったから、完成度は確かに劣る。

 

 けど、そんな事はこっちだって百も承知よ!

 

 この曲には、海外バンド特有の長いギターソロがある。

 そして、ギターソロと言えば、結束バンドにはあの子がいる!

 ひとりちゃんなら、全体の完成度を覆してオーディエンスを引き込ませる事が出来る!!

 曲がギターソロ部分に差し掛かる頃、思わずカメラを抑えている私の手に力が入った。

 

 ──やっちゃえ! ひとりちゃん!!

 

 私が心の中でそう叫ぶと、獲物を狙う肉食獣の如く、ひとりちゃんの髪の毛がボゥっと逆立ったようなオーラが見えた。

 そしてひとりちゃんのギターソロが始まると、あの時と同じでアンプから放たれた音が空間を染め上げ、まるでライブ会場にドームが作られたかの様にひとりちゃんのギターがその場にいた全員を包みこむ。

 その流麗な指使いから紡がれる音色は、見る者全てを虜にする鮮やかな物であった。

 

 『かっこいい~!』

 「上手い!」

 「あのピンクの子、すげぇな!」

 

 オーディエンスの全員が感歎の声を漏らし、ひとりちゃんのギターに熱い眼差しが向けられるのを感じた。

 

 (っしゃあ! ったあ!)

 

 カメラを回しながらも、自然とガッツポーズと一緒に喜びの声が入ってしまった。

 けど、しょうがないじゃん! 嬉しいもんは嬉しいんだからさ!

 一気に盛り返した空気の中、後方古参ファン面しながら私は満足げに頷いた。

 へっへっへ、そうだろそうだろ? ひとりちゃんのギターはすごいだろ?

 これを聴いて何も感じない奴は、よっぽどの不感症かイ〇ポ野郎だぜ!

 ……おっとっと、テンションが上がりすぎて変な事を口走りそうになっちゃった。

 落ち着け美空、KOOLになるんだ。素数を数えるんだ。

 

 そしてそのまま、曲名を体現するかの如く疾走感溢れた演奏を最後まで終えると、また一つさっきよりも大きい拍手が送られた。

 

 「ありがとうございましたー!」

 

 喜多ちゃんもその事には気づいている様で、お客さんに答えようとより大きい声と明るい笑顔で返事をした。

 カメラから目を離し周囲を見回すと、ひとりちゃんのギター効果がかなり大きかったのもあるのか、私達を囲むようにちょっとした弧を描く位には人が集まっていた。

 いやもう、初めてでこの結果を大成功と言わずしてなんとする。

 ここまでお客さんが集まってくれたのは嬉しいけど、残念な事に今日はこれでお終いなのよね。

 理由はあくまで本命はライブ当日のオリジナル曲だし、あまり路上ライブの為に曲を組みすぎても皆の負担が大きくなると思ったからだ。

 後は撤収作業をしつつライブの宣伝をやるけど、せめて一枚くらいはチケット売れないかな~と私が考えていたら、

 

 「名残惜しいですけど、次がラストです! 最後は、皆さんと一緒に盛り上がれたら良いなと思います!」

 

 と、喜多ちゃんが驚きの発言をした。

 ……え? あれ? 三曲目あるの? 私、知らないんだけど?

 私が怪訝な顔をしながら首を傾げているのに気づいたのか、虹夏ちゃんは申し訳なさそうに頭をペコペコ下げて、逆にリョウちゃんはドヤ顔をしながらこっちを見ていた。

 はは~ん? さてはリョウちゃんのアイディアだな?

 別に無断でやった事に怒りはしないけど、私に言ったら止められると思ったのかな。

 けど、仮にそうだとしたらそのレベルの曲って何だろう? マンピーのG★SPOTとか?

 う~ん、流石にそこまで行くと虹夏ちゃんが止めるだろうしなぁ。

 そんな私の疑問に答えるように、喜多ちゃんが笑顔で曲名を言い放った。

 

 「最後は、SEX MACHINEGUNSで『みかんのうた』です!!」

 

 喜多ちゃんの宣言と同時に、知っている人からは『あははは!』と笑い声が聞こえた。

 

 そ……ッッ、そうきたかァ~~~ッッッ!

 

 え、喜多ちゃんがアレ歌うの!? マジで!?

 ……やべぇ! すっげぇ見てみたい!!

 すっかり終わったと思っていたので慌ててカメラを構え直すと、虹夏ちゃんが『もうどうにでもなれ!』といった表情でスタートをかけた。

 ハイテンポ、かつそれぞれの音が激しく主張する私好みのメタルテイストの音楽が奏でられる。

 そう、メロディは凄いかっこいいのよね、メロディは。

 そのまま喜多ちゃんは笑顔を崩さずに、歌い始める。

 

 「みかんは! 色々! あるけれど~! 愛媛の! みかんは! 一つだけ~!」

 

 そして、この歌詞である。

 この曲は本家のボーカルさんが故郷愛を込めて作った曲であり、激しい曲調とユニークな歌詞のギャップが魅力な一曲だ。

 けど、まさかこのタイミングで披露するとは想像もしていなかった!

 いや楽しくてカラオケで歌えばバカ受けする私も大好きな曲なんだけど、喜多ちゃんが歌うとギャップが凄まじい!

 

 「みかんみかんみかん! みかんみかんみかん! みかんみかんみかん! みかーん!!」

 

 喜多ちゃんの熱気の籠ったみかんコールが響くと、会場はお客さんの笑顔と笑い声でヒートアップする。

 

 「みかんを! 粗末に! する奴は~! みかんに! やられて! 死んじまえーーー!!」

 

 そして更に喜多ちゃんの渾身のシャウトが木霊すると、お客さんは『いいぞー!』と歓声をあげてまた盛り上がる。

 うん、盛り上がるのは良いんだけど、喜多ちゃん気合入りすぎ! なんて言うか、顔がうるさい! 折角の美少女フェイスがすごい事になっちゃってるじゃん、宮○○守か!

 

 「ひとりちゃん!」

 

 曲が中盤を過ぎた辺り、喜多ちゃんがひとりちゃんを呼ぶ。

 そしてひとりちゃんが前に出ると、今日一番と言える激しくも正確無比なギターソロが炸裂する。

 素人目でも分かりやすく凄さを伝えられる速弾きを前面に押し出して披露することで、会場の盛り上がりは最高潮に達し……って、ひとりちゃんも無理にパフォーマンスしなくていいから! 髪を連獅子みたいに振り回さなくていいから! 元のバンドはやってたけど! 

 

 『みかんみかんみかん! みかんみかんみかん! みかんみかんみかん! みかーん!!』

 

 こうして、最後はお客さんも含めた大合唱のみかんコールで、初めての路上ライブは大盛況のまま終わりを迎えた。

 

 『ありがとうございましたー!!』

 

 〆の挨拶として皆で合わせてお客さんに感謝の言葉を伝えると、初の路上ライブとは思えない大きな拍手が送られた。

 

 「今日は皆さんと一緒に盛り上がれて嬉しかったです! 実は、二週間後にこの近くのSTARRYっていうお店で今度はオリジナル曲を中心にしたライブをやるので、よかったら見に来てください!」

 

 喜多ちゃんが宣伝をし、すかさず私が余っていたフライヤーをお客さんに配り始める。

 ただ、皆フライヤーを受け取ってはくれるけど、その場でチケットの事について聞いてくれる人はいなかった。

 ……まぁ、しょうがないか。路上ライブを聴いてくれたのと実際にライブに来てくれるかどうかは別だしね。

 これにへこたれず、今後も地道に路上ライブをしていってちょっとずつファンを増やしていくしかない。

 とは言え、あんなに皆が頑張ったのにチケットが一枚も売れないのは流石に悔しいな……と私が項垂れていたら。

 

 「マネージャーさん、すいません」

 「ん? あぁ、すいません。どうかしましたか?」

 

 私が声をかけた女子大生二人が三森ちゃんと一緒になって声をかけてきた。

 別に私はマネージャーじゃないんだけど、まぁいっか。

 

 「ライブのチケットって、今買う事って出来ますか?」

 

 ……え? これって、もしかして……!?

 

 「私達、今度のライブを見に行ってみたいです」

 

 と、一番聞きたかった言葉が聞けた。

 うおーーー!! マジで!?

 思わず叫びそうになっちゃったけど、グッと我慢して対応を続ける。

 

 「あ、ありがとうございます! あと、その、参考に聞かせて欲しいんですけど、どういう所が良かったですか?」

 「私達素人ですけど、それでも彼女達が凄い頑張ってるんだなっていうのが伝わってきたんです」

 「自分よりも年下なのにそういう姿を見ると、こっちも頑張らなくちゃなっていう気持ちと応援したい気持ちが一緒に沸いて来ました」

 「一応言っときますけど先輩。別に身内のよしみで気を遣ってチケットを買う訳じゃないですからね。私もこの二人も、応援したいから自分で決めたんですからね」

 「……ありがとうございます、ありがとうございます」

 

 女子大生コンビと三森ちゃんの言葉に、私は目が潤んでしまった。

 うぅ、最近涙腺が脆くなってきたな。まだそんな年じゃないのに。

 

 「じゃあ、チケットをお渡ししますので……あ、よかったら少しメンバーの子達と話していきませんか?」

 「ぜひぜひ! 私、ギターソロの子に一目惚れしちゃいました!」

 

 おぉ、やっぱりひとりちゃんのギターは魔力がありますね。

 これを機に、またひとりちゃんに自信がついてくれれば良いな。

 

 その後、チケットのお渡しも兼ねてひとりちゃんとの挨拶を行ったけど、案の定ひとりちゃんは人見知りを発揮してガチガチに緊張していた。

 喜多ちゃんが間に入って取り持ってくれたけど、その姿はどう見てもひとりちゃんを人形にしている腹話術状態だった。

 まぁ、そんな姿でも女の子達は可愛がってくれてたから結果オーライだけどね。

 あぁ、人の優しさってこんなにも暖かいんやな……。

 ちなみに、事前にチケットのノルマはひとりちゃん以外の三人と話をして、満場一致で『ひとりちゃんが一番厳しそう』という意見になったので、今日売れた分はひとりちゃんのノルマとしてカウントされました。

 これで私ときくりと梶原店長の分も合わせればおつりが来るレベルでノルマを達成できたから、あとは本番に向けて全力で準備するだけだね。




 やっぱり音楽関係の描写はぼざろ二次創作における鬼門だと思います。(12話ぶり二度目)

 あと、作者は原作を単行本で追っているのですが、『深酒日記』の四巻で今作の根本を覆す過去が明かされて「あ、どうしよう」となりました。
 ……まぁ、オリ主が元SICK HACKのメンバーな時点で原作と大きく改変されていますので、今作は今作という事で軽く流して頂くと幸いです。

使用楽曲コード:01770608,06538932,0H028575,11696982

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