「じゃ、まずは路上ライブお疲れ様でしたー」
『お疲れ様でしたー!!』
路上ライブが終わり一段落した後、私は結束バンドの皆とファミレスで少し早い夕食も兼ねた打ち上げをしていた。
夕方である程度気温が下がったとは言え、それでも暑いものは暑い。
乾杯をした後、皆は砂漠の中で水を見つけた人みたいにジュースを一気にグビグビと飲み干している。
ちなみに、今日は星歌さんも気を利かせてくれてこの後のバイトは無しにしてくれた。
「皆、暑い中頑張ったね。今日は私の奢りだから好きなだけ食べてね」
「ありがとうございまーす!」
「どうせなら焼肉とかお寿司が良かったな」
「こら! ご馳走してもらってるのに偉そうなこと言うな!」
リョウちゃんの発言を聞いた虹夏ちゃんが容赦なくスパーンと頭を叩いた後、別の事を思い出したのか今度は私に向かって頭を下げてきた。
「あと、美空さん。相談も無しに三曲目をやってごめんなさい」
「あぁ、いいのいいの。お客さんも盛り上がってたしそれもまたロックでしょ」
虹夏ちゃんが申し訳なさそうに何回もペコペコ頭を下げて謝るけど、私は手をヒラヒラ振り気にしてないという風に答える。
それに、私も昔は場を繋げる為に本来の予定になかった事をアドリブでやりまくったりしたしね。
経過はどうあれ、お客さんが楽しんでくれればそれもまたヨシの精神だ。
「ただ、そうだね~。何であぁしたか、っていう理由は聞きたいかな?」
それはそれとして、なるべく威圧的にならないよう穏やかに私は尋ねた。
別に本当は怒ってるとかじゃなくて、ただ純粋に理由を聞いてみたいというのが本音だ。
けど、若干の後ろめたい気持ちがある虹夏ちゃんからしたら、努めて優しい口調で尋ねてもどこか詰問されているような感じは拭えないだろう。
現にどう説明しようか悩んでいるみたいで口をもごもごさせているし、一瞬だけリョウちゃんをチラリと見た。
たぶん、言い出しっぺはリョウちゃんなんだろうけどそれだと責任を押し付けるみたいなのが嫌なのかな?
むぅ、少し話を急ぎすぎたか。
と私も悩んでいると、マイペースにフライドポテトをもぐもぐ食べていたリョウちゃんが手を挙げて答えた。
「提案したのは私。まぁ、敵を騙すにはまず味方から的な? 折角だしサプライズがあった方が面白いでしょ」
「あの、美空さん。本当にごめんなさい」
「あはは、リョウちゃんらしいね。私もその精神に賛成だよ」
半ば愉快犯の様な答えに虹夏ちゃんがまた謝るけど、私は笑って答えた。
ライブってのは見てくれるお客さんがいて成り立つからね。
リョウちゃんは思考がストレートだけど、彼女なりにどうすれば盛り上がるかを考えた結果ならばそれに異論は全くなかった。
だからこそ、他の三人も反対しないで決行に至ったのだろう。
概ね予想していた回答に私が納得していると
「それに」
珍しくリョウちゃんが目に力を宿らせて、私の目を真っ直ぐに見据えながら話を続けてきた。
「美空さんのアドバイスを受けないで、純粋に私達の実力がどの位なのかを試してみたかった」
普段のアンニュイな感じとは違う、覇気を含んだ言葉と表情に私も思わず固唾を吞んでしまい、この理由は聞いていなかったのか他の三人も押し黙っている。
「もっと言えば、今は言われた事をこなすのに精一杯だけどそれだけじゃ駄目。アドバイスを物にして、その上で自分達で考えてブラッシュアップしていかないと面白くないしね」
淡々とリョウちゃんは話をしていく。
一方で、普段はだらしないけど、やっぱりリョウちゃんの音楽とバンドに対する想いは誰よりも熱いという事を改めて知れた気がして、嬉しさと頼もしさも感じた。
自然と笑みが零れ、もう少しその先を聞きたくなりリョウちゃんに尋ねてみる。
「うん、なるほどね。ちなみに、リョウちゃん的には今日の路上ライブの出来はどう思う?」
「んー、30点くらい? 曲のネームバリューに助けられた感はあるし、新参者って事でベテランのお客さんも手加減してくれてたんじゃないかな。美空さんは?」
「私も大体同じ意見だね。良くはなっているけど、それでもまだまだSIDEROSには遠く及ばないかな」
期せずして反省会となり、リョウちゃんと私の意見を聞いていた三人の表情を伺う。
今までだったら落ち込んでいたかもしれないけど、今日は違った。
喜多ちゃんが己を奮い立たせる様にグッと拳を握り、割って入って来た。
「でも、0点じゃないってことは良い所もあるってことですよね!? そして悪い所は出来るようになったその先を想像して直す、違いますか!?」
喜多ちゃんにしては珍しくそのまま詰め寄る位の勢いで身を乗り出し、吠える様な声で意見を求めてきた。
……ふふふ、喜多ちゃんもバンドマンらしくなってきたじゃない。
リョウちゃんも同じ気持ちなのか、待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべて答える。
「その調子だよ、郁代。まず、郁代のボーカルとしての音域の広さは武器になる。おかげで曲の幅に広がりが持てそうだから、発声とギターのレベルも上がればトップ層にも負けないはず」
「ガッテン承知です、先輩!!」
「あまり気合入れ過ぎて喉を壊さないようにね。後でケアの事も話そうか」
テンションが上がりすぎてフンスフンスと鼻息を荒くする喜多ちゃんを私が宥め、リョウちゃんが今度はひとりちゃんに向かって話す。
「ぼっちも、自信を持って大丈夫。やっぱりぼっちのギターソロは一発で場を覆せる力がある。オリジナル曲もギターソロに重きを置いて作っていくと思うから、頼りにしてるよ」
「リョウさん……。分かりました、任せてください」
ひとりちゃんも、しっかりとリョウちゃんを見て力強く頷く。
それで良いんだよ、ひとりちゃん。
ちょっとずつだけど、ヒーローとしての道を歩めているから自信を持って。
「虹夏」
そして、最後に虹夏ちゃんに声をかける。
「う、うん」
喜多ちゃんとひとりちゃんとは対照的に、虹夏ちゃんは少し怯えている様な表情で返事をした。
そんな虹夏ちゃんに、リョウちゃんは表情を崩して優しい声音で話し始めた。
「虹夏も、着実に上手くなってる。だから、もっと自分を出して感情を乗せても大丈夫だよ」
「……ありがとう、リョウ」
リョウちゃんが片手を背中に添えてポンポンすると、虹夏ちゃんは少し気持ちが楽になったのか控えめな笑顔でお礼を言った。
リーダーとしての責任感もあるんだろうけど、恐らく虹夏ちゃんの場合はそれだけじゃないんだろうな。
そしてそれは、私が今まで唯一気がかりであり、先送りにしていた部分と重なっているのかもしれない。
と、そこまで考えた所で一旦頭を振ってリセットする。
今は、まずライブの事に集中しよう。
折角そのためにこれまで準備を進めて来たんだから、ここでわざわざ皆に新しい悩みの種を植え付ける必要はない。
今はまだ、バンド活動を楽しんでくれればそれで良い。
……けど、目標であったライブが終わった、その後は……。
今度こそ私も含めた、結束バンドの未来への分岐点になるのかもしれない。
「あ、あとアレだ」
「ん? リョウちゃんどうしたの?」
「美空さんだって自分の生活があるじゃない? あんまり私達の手間がかかると店長みたいに行き遅れになりそうだし、早く独り立ちしないとね」
「私の感動返して!」
「そもそも一番世話かけてるのはお前だろうが!!」
湿っぽい感じで終わるのも嫌だなって思ったんですがオチを付けるって難しいです。