今後の投稿はサブタイが無かったり1シーンで一旦切ったりする亀展開が多くなるかもしれませんが、ご了承の程お願いします。
さて、遂にやってきましたライブ本番。
まだ開店前だけど、私は特別にお店の中に入らせてもらっています。
店内ではスタッフさんや結束バンドも含めた複数のバンドが音合わせ等の準備を進めているんだけど……。
「ん“ん”ん“ん”ん“ん”ん“ん”~~~~~~~~~~」
「うるっせぇよ! 何でお前が緊張してんだよ!」
携帯のバイブレーションみたいに貧乏ゆすりをしていたら、星歌さんに怒られました。
いやね、自分でも分かってるんだけどさぁ……。
「だって、路上ライブと違ってお客さんはお金を払って観に来てくれてるわけじゃないですか。対価として相応しいパフォーマンスを見せなくちゃいけないし、そもそも世の中お金を払ってるからって無茶苦茶言ってくる人間もいるし皆可愛いから変な要求されないか心配で心配で」
「お前、普段どんな社会人生活してるんだよ……。そんな奴が居たら秒で通報するから安心しろ」
呆れたという風に「はぁ」と星歌さんにため息を吐かれる。
「ここまで来たら後はやるしかないのは嫌って程知ってるだろ。お前がそんなんであの子達に変な空気が伝わったらどうすんだ。堂々と構えて観てろ」
「……うっす」
星歌さんに頭をグシャグシャ撫でられて、ようやく私の中で踏ん切りがつけた。
そうだよね。私が不安がっても悪い影響しか出ないし、変な心配をかけるのはあの子達を信じていない事になる。
ステージの上でスタッフさん達と話しながら黙々と準備をしている彼女達を見ると、自分が情けなくなってきてしまった。
うん、そうだ。私は皆の応援をする。それしか出来ないし、それで良いんだ。
「それに、今日廣井の奴も来るんだろ……? あいつを抑えられるのお前しかいないんだから、マジで頼むぞ」
「アッハイ、ソッスネ」
二人して「でへへ~」ってだらしなく笑いながら酔っぱらってるきくりの姿が頭に浮かび、揃ってため息が出てしまう。
とりあえず気分を変えようと、私は星歌さんに一つ質問をする。
「気になってたんですけど、今の時期にライブってちょっと中途半端じゃないですか? 先週だったらお盆で皆休みだろうから、そっちの方が集客が見込めたんじゃないですか?」
「あの子達の客層を考えると、お盆だと親の実家に帰省したりして来れない人が多そうだろ。それに、その時期は大型フェスとかイベントも多いからそっちに人が流れちゃうんだよ」
星歌さんの説明に思わず私は唸ってしまった。
実際、昨日皆に誘ったお客さんの動向(主に学校の友達)を聞いてみたら特にキャンセルはなくて、予定通り人は集まりそうだという返事だった。
それに、先週だったら台風が来ていたから客足も間違いなく激減していただろうし、結果として星歌さんの判断は大当たりだったわけだ。
ちなみに私の会社はカレンダー通りでお盆休みという概念は無く、代わりに11月までに定められた日数の休みを好きな時に取ってくださいね、という方式である。
「なんて冷静で的確な判断力。随分経営の勉強をしましたね、まるで店長だ」
「店長なんだよ! お前いっぺんブン殴るぞ!」
「殴った後に言わないでくださいよ!」
「二人とも、静かにしてください」
折角人が褒めたのに容赦なく頭を叩いてきた星歌さんに抗議をしていると、今度はPAさんに怒られました。
……叩かれた頭は痛かったけど、そういえば昔もこんな調子で星歌さんとじゃれ合ったっけ、と懐かしい気持ちになったのは秘密だ。
それからしばらくして、お店の開店時間となった。
結束バンドの皆は楽屋に待機はしておらず、自分達で呼んだお客さんを出迎える為にギリギリまで客席側に居るという事にしていた。
今日は天気が良いからなのか早くもお客さんが店内に流れてくると、結束バンドの皆とそう変わらない年頃の子達がちらほら見えた。
「虹夏ちゃん、山田さん、来たよー」
「ありがとー! 今日は楽しんでってね!」
「ウェルカム」
「おーい郁代ちゃーん。来てやったぞー」
「さっつー! その呼び方はやめて!」
「そんなカリカリすんなって。おかげで緊張が解れただろ?」
各々が挨拶をする中、一番目についたのはライムグリーンのショートカットヘアーかつ爽やかな印象の女の子だった。
喜多ちゃんを名前でイジれるって事はよっぽど仲が良いのかな? 偏見で申し訳ないけど、喜多ちゃんの友達って皆本人と同じでキャピキャピしている感じだと思っていたから意外だった。
「あ、そんでもしかしてそっちの子が噂の後藤さん?」
「アッヒョ!?」
今度は喜多ちゃんの傍にいたひとりちゃんに話を振って来た。
案の定ひとりちゃんは人見知りを発動して、グー〇ィーみたいな声を出しちゃっている。
が、頑張ってひとりちゃん! 交友関係を広げるチャンスよ!
そんな私の願いが届いたのか、喜多ちゃんが間を取り持ってくれる。
「ひとりちゃん、さっつーは私の中学からのクラスメイトなの」
「どもー、佐々木次子です。よろしく」
「あ、は、初めまして後藤ひとりです! よ、よろしくお願いします、さ、ささささん!」
「あはは、緊張しすぎだって。後藤さん面白いね」
佐々木さんは特にひとりちゃんの人見知りを気にせず、カラカラと笑っている。
すごいサッパリした良い子だなぁ。これを機にひとりちゃんと友達になってくれないかなぁ。
と私が考えながら見ていたら、思いっきり佐々木さんと目が合ってしまった。
「あと、さっきからあのお姉さんがこっちガン見してんだけど」
「あ、そうだ。折角だから紹介しましょうか。美空さーん!」
グワーッ! やってもうた! これじゃ私が不審者みたいじゃない!
うぅ、しょうがない。ここで無反応なのも印象悪いから行きますか。
喜多ちゃんも他意はないだろうけど、フォローありがとうね。
「初めまして、喜多ちゃん達の相談役をしている藤原美空です。今日は来てくれてありがとうね」
「あ、ご丁寧にどうも。初めまして、佐々木次子です。喜多がいつもご迷惑をおかけしてすいません」
「ちょっと、どうして私が迷惑かけてる前提なの?」
折り目正しく挨拶する佐々木さんに、喜多ちゃんがツッコミを入れる。
けど佐々木さんは柳に風といった飄々とした笑顔で答える。
「いやだってさぁ、喜多って変な所で思い切ったら一直線じゃん? 姉貴分としては気になってしょうがなくて」
「誰が誰の姉貴分ですって!?」
わざとらしくヨヨヨと噓泣きする佐々木さんに喜多ちゃんが猫みたいにシャーと威嚇する。
ふふ、本当に仲が良いんだな。これくらいの事が言い合える間柄ってのは貴重だからね。
「そんな事ないよ。喜多ちゃんはいつも上手くなろうと必死で、その情熱がバンドにエネルギーをくれている。だから、私も頑張らなくちゃって思えるんだ」
嘘偽りない本心で、私は答える。
その言葉に佐々木さんは一瞬目をパチクリさせた後、
「あはは、そうですか」
と満足そうに笑った。
「藤原さん、後藤さん。喜多の事よろしくお願いしますね。こいつ、これで中々心の壁が厚いんで」
「いい加減怒るわよ!」
遂に我慢の限界が来たのか、喜多ちゃんが佐々木さんをポコポコと叩き始める。
まぁ、傍から見ても全然力を入れていないのは分かるし、佐々木さんもケラケラ笑いながら受け流しているから大丈夫でしょ。
「ひとりちゃーん、こんにちは!」
喜多ちゃん達を眺めていると、今度はまた別の声が聞こえてきた。
声の方向に振り向くと、路上ライブでチケットを買ってくれた女子大生二人と三森ちゃんが一緒に来ていた。
「あ、お姉さん達……! 来てくれたんですね」
「もちろん。私達ひとりちゃんのファンだから!」
「今日も頑張ってね、応援してるから!」
「はい。頑張りましゅ!」
肝心な所で噛んじゃったけど、一回会ってるからかひとりちゃんは頑張ってコミュニケーションをとろうとしている。
そんな彼女を見守りつつ、私は私で三森ちゃんに挨拶をする。
「三森ちゃん、休みなのにありがとうね」
「とんでもないです! 新しいお友達に初めてのライブで、私すごい楽しみなんですから!」
ムフーっと屈託のない笑顔を浮かべて三森ちゃんは答えた。
お友達って女子大生二人の事なんだろうけど、あなた達まだ知り合って二週間よね? もうそこまでの関係になれてるってすごくない? 流石コミュ力お化け。
「私達まだ大学生なんですけど、3号さんに色々進路とか就職の事とかでお話を聞いてもらってるんですよ」
「身近にこういう話聞ける人いないんで、すごいありがたいです」
「あら、三森ちゃん偉いじゃない」
「へへへ、若人を支えるのも年上の役目ですよ」
照れくさそうに三森ちゃんは人差し指で鼻の下を擦りながら笑うけど、三森ちゃん私の二個下とかじゃなかったっけ? あなたも十分若者でしょうに。
「あと、その3号さんってあだ名はどうしたの?」
「よくぞ聞いてくれました! ずばり、私達が結束バンドのファンであるという証明です!」
「私がファン1号!」
「私がファン2号!」
「そして私がファン3号です! 先輩、結束バンドのファンクラブが出来た日には是非ともこの番号で登録お願いします!」
『お願いします、マネージャーさん!』
いやだから私はマネージャーじゃないんだけど……なんかもういいや。半ばあだ名みたいになってるし、訂正するのも面倒だからそれでいいか。
「あ、けど二人とも。推しを推したい気持ちは分かるけど、周りに迷惑をかけないようにね。皆で頑張るから尊いんだ、絆が深まるんだの精神を忘れずにね」
『は~い!』
三森ちゃんがそう促すと、1号さんと2号さんは素直に返事をした。引率の先生かな?
「後藤さんすごいじゃん。もうファンがいるんだ」
「あへへぇ。そ、そうなんですよぉ。ま、まぁ? 私達は将来世界を相手にツアーをするくらいですし? ささささんも今の内にサイン貰っておきます?」
「距離の詰め方エグ。フルコンタクト空手かよ」
あぁ、気が付いたらひとりちゃんが調子に乗って奇行に走ってる。
佐々木さんは笑ってくれてるけど、そういう人の方が希少なんだからね、ひとりちゃん。もう少しコミュニケーションの勉強が必要ですねこれは。
そんなこんなで親睦を深めていると、今度は何やらスタッフさんが血相を変えて星歌さんの所に駆け寄って来るのが見えた。
「て、店長! 大変です!」
「ん? どうしたの?」
「や、ヤクザです! ヤクザがカチコミに来ました!」
スタッフさんの一言にその場にいた全員がざわ……となる。
あ、もしかして。
「ごめん、ちょっと私見てくる」
「え、美空さん?」
そうひとりちゃんに軽く告げると、私は急いで受付へ足を運んだ。
案の定、受付の前にはスキンヘッドにサングラス、道を塞ぐ程の大柄な男性が立っており、その周りはモーゼの海割の如く他の人が道を開けていた。
「あ、あのう……本日はどのような御用件でしょうか……?」
「いや、御用件も何も、ライブを観に来ただけなんですけど……」
スタッフさんが泣きそうになりながら尋ね、梶原店長は困った様に頭を搔きながら答えている。
「店長! こっちです!」
声を出しながら、私は傍に近づく。
「すいません、この人私が招待したお客さんなんです。店長、チケットありますか?」
「あぁ、これだよな」
「というわけで、後は私が案内しますね。失礼しました~」
そうして店長の手を引き、私はそそくさと受付を後にした。
なんか後ろから『店長? 組長じゃなくて?』とか聞こえたけど、気にしない。
そのまま店長を引き連れてフロアに降りると、やっぱり皆からドヨドヨと驚きの声が聞こえてきた。
ひとまず星歌さんの所に連れて行き、私が間を取り持って紹介を進める。
「えっと、星歌さん。この方が、私がお世話になってるスタジオの梶原店長です。梶原店長、こちらの方が私の先輩でこのお店の店長の伊地知星歌さんです」
「どうも、初めまして。音楽スタジオ『Power』の店長、梶原龍輝と申します。以後お見知りおきを」
「は、初めまして。『STARRY』の店長、伊地知星歌です。藤原がいつもお世話になっています」
「いえいえ、美空ちゃんにはいつも楽しませてもらってますよ」
ニカっと笑みを浮かべながら丁寧に挨拶をしつつ、店長は星歌さんと名刺交換をする。
「いやぁ、しかしすいませんね伊地知さん。自分は慣れてるんですけど、なんせこんな風体なもんですからどうしても皆驚いちゃって」
「いえ、こちらこそスタッフが失礼しました。今日は遠慮しないで楽しんでいってください」
「ありがとうございます。まぁ、こんだけタッパがあるおかげで見物には苦労しないんで、始まったら隅っこの方で見させてもらいますよ」
冗談めかしながら笑い、梶原店長は気にしてないという風に話す。
そんな店長の優しい人柄が伝わったのか、星歌さんも含めて遠目で見ていた人達もホッとした様子で緊張を解いてくれた。
よくよく考えれば私も初対面はその筋の人だと勘違いしてたし、すっかり慣れてたから感覚が鈍ってたな。体のデカさで言えば刃〇の花〇レベルだし、そりゃビックリするよね。
店長にも星歌さんにも後で私の方からお詫びしとかないと。
しかし、何とか穏やかな空気に戻ったのも束の間、またスタッフさんが星歌さんの傍に駆け寄って来た。
「店長! 大変です!」
「……今度はどうしたの?」
「酔っ払いです! 酔っ払いがお店を荒らしにきました!」
あっ(察し)
「……藤原、頼んd」
「イェ~イ! ひとりちゃん! 美空~! 応援に来たよ~!!」
星歌さんが言い切る前に、下駄の足音をガランガラン響かせながらきくりがフロアに降りてきた。
すかさず私はきくりの傍にダッシュで駆け寄り、無言で手首をむんずと掴んで星歌さんの前まで連行する。
「やん美空、そんな情熱的なお誘い……何だこのおっさん!?」
「うるせぇ! 来て早々秒で周りに迷惑をかけるな!」
梶原店長を目にして失礼な事を言うきくりの頭を、星歌さんが鬼の形相でスパーンと叩く。
「店長、ごめんなさい。いきなり失礼な事を……」
「いや、別に構わねぇけどよ……。もしかして、そっちのお姉ちゃんはSICK HACKの廣井きくりか?」
「え、おっさん私の事知ってるの?」
「まぁ、この業界にはそれなりにいるからな。色んな意味であんた達は有名だよ」
「う~ん。遂に私達も裏社会にまで有名になっちゃオゴっ!?」
「いい加減にしなさい! この人は私が普段お世話になっているスタジオの店長さんなの!」
「ず、ずびばぜんでじだ……」
相も変わらず失礼な事を言うきくりに肘鉄を叩き込んで黙らせる。それに、店長が言ってたのはどう考えても含みのある言い方だったでしょ。
「しかし、美空ちゃんとはどういう関係なんだ?」
「え? あ、えっと、その……」
「良い質問だね。美空は私の親友で音楽の師匠なんだ」
「……ほう」
言い淀んでいた私の代わりに早くも復活したきくりが得意げに答える。
すると梶原店長は顎に手を当て、何やら合点がいったかのように頷いていた。
「あの、店長。実は私……」
「あぁ、その話はまた今度でいいだろ。今はライブを楽しんでなんぼだ」
私が言いかけた事を察したのか、店長はそれ以上何も聞かずに流してくれた。
「それに、そろそろ準備しないとマズいんじゃないか?」
「え? あ、もうそんな時間!? 皆、そろそろ準備して!」
話に花が咲きすぎたのか、私も含めて思ったよりも時間が経っていたのに気づかなかった。
結束バンドは今日のトップバッターなので、私は慌てて皆に声をかける。
「ごめんね皆、また後で!」
「頑張ってね虹夏ちゃん、山田さん!」
「ふっ。期待してて頂戴」
「喜多―。後藤さーん。面白いの見せてくれよー」
「あ、それなら秘伝の一発芸を……」
「さっつー! 余計なこと言わないで!」
皆がバタバタと舞台袖に駆け込むも、交流会をしていたのが功を奏したのかリラックス出来てそうな表情にひとまずホッとする。
……後は皆を信じて待つのみ、か。
「大丈夫だよ、美空」
そうきくりが声をかけてくると、私の腕を優しく抱きしめてきた。
「私が今バンドを続けられているのも美空に教えてもらったからなんだから、自信を持って」
「……ありがとう。っていうか、別に腕組んでくる必要はないんじゃないの?」
「美空が昔言ってたじゃない。人間って不安な時は人と触れ合うと落ち着く事が出来るって」
「……今回だけでいいから」
何だか気恥ずかしくなってしまい、つい顔を背けてしまう。
けれど背ける前に見たその笑顔と、組まれた腕越しに感じる暖かさが……ゆっくりと、心の中の不安を溶かしてくれていった。
思ったより会話シーンが長くなってしまったのでライブは次回に持ち越します。
あと、この世界線では美空さんの影響できくりさんはぼっちちゃんの事をひとりちゃんと呼ぶ体で行きます。