夢への旅路   作:梅のお酒

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 今回の話を書いている中で「こういうシーンあった方が良かったかも」と思い、6話中盤にある結束組の会話シーンを少し加筆しました。
 誤字や小さな表現のサイレント修正は随時行っておりますが、多少なりとも物語の印象が変わる場合は別途報告していきます。


第21話 Starry Heavens

 「んじゃ、無事ライブが終わった事を祝して」

 『かんぱ~い!!』

 

 店長さんが音頭を取った後に、カチンとお互いがグラスを鳴らし合う音が響く。

 私達は今、初ライブの打ち上げに居酒屋さんでご飯を食べに来ています。

 

 「よく頑張ったな。今日は私の奢りだから、遠慮しないで食べな」

 「あざーっす! 先輩大好き~!」

 「お前は後でちゃんと払えよ! 金持ってねぇクセにバカスカ飲みやがって!」

 「え、きくりそんなに飲んでたんですか?」

 「軽く五杯は飲んでたぞ。きっちり帳簿に付けてんだから、覚えておけよ」

 

 そう言いながら店長さんはお姉さんの頭をグリグリげんこつで締め上げる。

 ちなみに何でお姉さんもいるのかと言うと、ものすごい駄々をこねたから。

 それはもう、幼稚園児も引くぐらい床をゴロゴロ転がりながら『打ち上げ連れてってくれなきゃヤダー!』って喚くものだから、店長さんも美空さんも渋々連れて来ざるをえなかったという。

 借金してる上にここまで図々しく出来るメンタル、逆に羨ましいかも……。

 

 「ゔーっ。いいんですかそんなこと言って。私は結束バンドの恩人みたいなモノですよ?」

 「はぁ? どういう理屈だよ」

 

 涙目になりながら反論するお姉さんを店長さんがジト目で問い詰める。

 

 「だって、ひとりちゃんが私と路上ライブを経験したからこそ今日のライブに繋がったワケですから。言うなれば、私は美空と同じくらい貢献しているということです!」

 「無いですね」

 「おこがましいと思わないんですか?」

 「うえーん! ひとりちゃーん! 皆がイジメるー!」

 

 虹夏ちゃんと喜多ちゃんに容赦ない言葉を浴びせられたお姉さんが私に泣きついて来た。

 うぅ……。けどお姉さんとの路上ライブがきっかけで掴める物があったのは事実だし、実は路上ライブも今日のライブも家のトイレにずっと籠って行くかどうかの瀬戸際だったけど、あの経験があったから勇気が持てたわけだし……。

 

 「えっと……、私はお姉さんに感謝しています。一緒に路上ライブをやってくれたから一歩進めたと思いますし、なかったら今日ステージに立てたかどうかも怪しかったかもしれないです」

 「やったー! ひとりちゃんありがとー!」

 

 表情をころころ変えながら、今度は私に抱き着いてほっぺをむぎゅむぎゅ押し付けてきた。

 ふごっ、お酒臭い! それにお姉さん、すっごい細い。喜多ちゃんより細いかもしれないけど、ちゃんとご飯食べてるのかな……。

 

 「はいはい。高校生に気を遣わせるんじゃないの」

 「お? もしかして美空妬いてるのか~? 私がひとりちゃんに褒められてジェラってるのか~? 愛い奴め~」

 「ええい、クソ暑いのにひっつくな!」

 

 見かねた美空さんが私からお姉さんをベリベリ引きはがそうとすると、今度はお姉さんは美空さんの方に飛びついていった。

 ……美空さん、口では色々言うけど表情は満更でもなさそうなんだよね。

 

 「けど、実際今日のライブは初めてなのにすごかったと思いますよ。最後までお客さんも盛り上がってましたし」

 

 PAさんがそう言ってくれると、胸の奥がポワっと暖かくなる感じがした。

 

 「うん、私もそう思う。個人的に今日のMVPは郁代かな。一番経験が少ないのに良く頑張った」

 「せんぱぁ~い♡ もっと褒めてくださ~い♡」

 「いやいや、何でリョウが上から評価する立場なのさ」

 

 したり顔のリョウさんに虹夏ちゃんがツッコミを入れる。

 そして喜多ちゃんはデロデロに溶けて何かスライムみたいになっちゃってる……。私も気絶したりしてる時はあんな感じなのかな……?

 

 「……折角本職の人がいるので伺いたいんですけど、廣井さんから見て今日のライブはどうでした?」

 

 こほん、と咳ばらいをしてから、今度は虹夏ちゃんが真面目なトーンでお姉さんに質問する。

 質問を受けたお姉さんを見ると……一瞬目がスゥっと細くなった後に、答えた。

 

 「そうだね~。前に見せて貰った時よりは一段良くなった、って感じかな? まぁ、まだまだ私達にもSIDEROSにも到底及ばないけどね~」

 

 だははーって笑いながらお姉さんは答えるけど、何となく目の奥は笑っていない気がした。

 お姉さん、普段はだらしないけどやっぱり音楽にプライドを持ってるんだ。

 言い方は厳しいかもしれないけど、私にはお姉さんなりに虹夏ちゃんへ一つの道を提示した様に聞こえた。

 

 「こら、プロがそんなに意地悪するんじゃないの。虹夏ちゃん、今日来てくれてた梶原店長が後で感想を送ってくれるって言ってたから、それも参考にして修正して行こうね」

 「あ、そうなんですか、ありがとうございます。でも悔しいなー、今日こそは廣井さんにギャフンと言わせられると思ったのに」

 

 虹夏ちゃんも笑いながら話しているけど、逆に私には無理をして取り繕っている様に見えた。

 そういえば、路上ライブの後に出来栄えを話している時も、一瞬だけ何かを怖がっているみたいな表情を見せていたけど……大丈夫かな。

 

 「まぁ、焦らずに続けていればファンも増えて、それがモチベーションになってレベルアップするさ。そうやって一歩ずつ頑張って行けば良いんだよ、ノルマの為にもな」

 「最後の一言で台無しだよお姉ちゃんのバカ!」

 「上等じゃないですか! ノルマどころかお客さん全部結束バンドファンで埋め尽くして、いつか店長から出演を土下座でお願いさせてみせますよ!!」

 

 あれぇ? 喜多ちゃんのテンションが何か変な方向に振り切れてる……。もしかして元ヤンとかだったりします?

 と、ここである事に私は気がついた。

 

 「あ……。これからもライブをやる時は、毎回ノルマがあるんですよね……?」

 「そうですねぇ。その部分だけはどうしても避けられないですからね」

 

 私の質問にPAさんが申し訳なさそうな表情で答える。

 あばばばばばばばばばばば。

 や、やっぱり!

 どどどどうしよう!? ファンのお姉さん達は応援してくれてるけど、どうしても外せない用事とかがあって必ずライブを毎回観に来てくれるとは限らない。

 そもそも私のノルマはお姉さん、美空さんとその伝手で来てくれたサングラス店長さんがあってようやく達成出来たものだし、それがなかったら相対的に一番お客さんを呼び込めなさそうなのは間違いなく陰キャぼっちの私!

 それどころか私が下手な演奏をしたら折角結束バンドのファンになってくれた人も離れちゃって、在学中にビッグになれなかったら一回就職しなくちゃいけないだろうし……。

 

 

 ──突如私の脳内に溢れ出した、存在するかもしれない未来。

 

 

 『えー、今月のところてんの営業売上は後藤さんが最下位でした』

 『ヒソヒソ……また後藤さん……』

 『ヒソヒソ……部長も意地悪よね。後藤さん辞めさせたいからってわざと営業に異動させて……』

 

 『あ、あの……ところてん買ってください。今ならおまけで洗剤も付きますので……』

 『いらないって言ってるでしょ!』

 

 『あー……何で私生きてるんだろ……。生きてても何も良い事ないのに……』

 『ひとりちゃん、お願いだからドアを開けて! またお母さんと一緒にご飯食べよう……』

 

 

 「おぎゃああああああああああ!! やっぱりニートぉぉぉぉおおおお!?」

 「あ、ぼっちが壊れた」

 「ひとりちゃん、大丈夫だよ」

 

 泣き叫ぶ私を、美空さんが優しく抱きしめてくれた。

 

 「ちょっとずつひとりちゃんは前に進めているし、バンドでも、バイトでも、勉強でも、頑張ってきた事は必ず自分の糧になるから」

 

 そう言いながら、私の頭と背中を撫でてくれる。

 

 「それに、誰だって得意な事と苦手な事は必ずあるよ。もし一回働くにしても、ひとりちゃんだったらギターの先生なんて道もあるかもしれないから、そんな深刻に考えすぎないで」

 「うぅ……美空しゃん……」

 

 泣きじゃくる私を美空さんはよしよしと慰めてくれた。美空さんのおっぱい弾力があって気持ちいいから抱きしめてくれるとすごい安心する。

 

 「まぁ、美空の言う通り深刻になりすぎないで楽しくやるのも大事だよ。成功することばっかり考えると辛いからね」

 「そうですねぇ。あまり根詰めすぎると楽しい事も苦しくなっちゃいますから」

 「だな。夢を叶えていくプロセスを楽しむ気持ちを忘れないでくれ」

 

 お姉さん、PAさん、店長さんが励ましてくれる。

 顔を上げて聞いていると、虹夏ちゃんが一瞬苦しそうな顔をしたのが視界の端に入った。

 ……まただ。虹夏ちゃん、本当に大丈夫かな?

 虹夏ちゃんには助けられてばっかりだから、力になってあげたいけど……。

 

 「っていうか、そう言う先輩はそもそもどうしてバンドを辞めちゃったんですか?」

 「え? 店長さんもバンドをやってたんですか?」

 

 お姉さんの発言に思わず聞き返してしまった。

 

 「どんなバンドだったんですか? 顔面を白塗りにしてピエロみたいなメイクでもしてたんですか?」

 「お前が私の事をどう思っているかよーく分かったよ」

 「きゃー! 痛い痛い! 暴力はんたーい!」

 

 今度は喜多ちゃんが店長さんに頭をげんこつでグリグリされている。

 正直、似たようなこと思っちゃったから言わないで良かった……。

 

 「それがね、なんとレーベルにもスカウトされるくらいだったんだよ。なのに急に解散しちゃってさー。もったいないよねー」

 「うるせぇな。人の人生なんだから何だって良いだろ」

 

 お姉さんが文句を言うと、店長さんは肩をすくめてため息を吐きながら続ける。

 

 「……ステージに立つよりも、同じ夢を追っている奴らを支える事に興味が出ただけだよ」

 「だったら私もお店でライブさせてくださいよー」

 「嫌だって言ってんだろ。お前みたいなのがライブしたら店の品位が地に落ちるだろうが」

 「なぁにが品位ですかぁぁぁぁ! ヤンキーが店長やってる時点で品位もクソもありませぇぇぇぇぇん!」

 「どうやら死にてぇみたいだな!!」

 「二人ともやめなさい!」

 

 こうして取っ組み合いを始めた店長さんとお姉さんを止めるために、美空さんを筆頭に全員総出で抑える羽目になりました……。

 

 

 

 危うく出禁になりかけたけど、その後は皆で仲良くおしゃべりしながら無事に打ち上げは進みました。

 けど、途中で私は虹夏ちゃんがいない事に気が付いた。

 

 「あ、すいません。私トイレ行ってきます」

 

 そう一言残した後に、何故か胸がざわつく感じがして虹夏ちゃんを探し始めた。

 虹夏ちゃんに限って勝手にどこか遠くに行くはずはないだろうけど、今日の様子だと心配だ。

 もしかして、前に言っていた本当の夢と関係あるのかな……?

 

 

 

 

 

 

 打ち上げ会場を出て、あたしはお店の軒下で一人佇んでいた。

 深く息を吸って、また深く吐いて呼吸をする。

 こうすれば少しは胸の苦しみが取れるかと思ったけど、残念ながら効果はさほど感じなかった。

 

 (駄目なリーダーだな、あたし……)

 

 思わず、そう自嘲してしまった。

 今日のライブは駆け出しバンドとしては間違いなく大成功と言える。

 リョウも、喜多ちゃんも、ぼっちちゃんも、皆が全力をかけて掴んだ大きな経験だ。

 あたしもお店の手伝いをしながら色んなバンドを見ているから、相対的に見てもこの評価は決して過大評価ではないはず。

 

 けれど、前に進めば進むほど、目指す頂の高さに恐怖を感じてしまう。

 

 廣井さんに会ってからネットでSIDEROSはもちろん、それ以外の同世代のバンドもリサーチするようになった。

 なんだったら、SICK HACKのライブ映像だってチェックしている。

 どのバンドもオーラがあって、技術もファンの数もあたし達とは比べ物にならない。

 そして、夢を叶えるために外の世界を知れば知るほど、自分が井の中の蛙だという事を思い知らされる。

 

 空を見上げると、雲一つない空に星々が淡く輝いていた。

 けど実際には、見えていないだけでもっと多くの星がたくさんあって……。

 仮に見えたとしても、その輝きも大小様々で、名前を付けてくれる星なんてほんの僅かで……。

 

 ──まるで、バンドマンみたいだ。

 

 テレビに出るような輝きを持っていて、名前を憶えてもらえるような存在は、ただの一握り。

 輝きを放つことが出来ても消えてしまうバンドもいて、存在を知ってもらえないまま終わるバンドもそれこそ星の数ほどいる。

 手を伸ばせば掴めそうなのに、どれだけ伸ばしても届かなく、逆に自分が呑まれそうになってしまう。

 星空に美しさを見出すのではなく、その奥の深い闇が、どうしようもなく怖かった。

 

 「ごめんなさい、お母さん……」

 

 虹夏は、弱い子です。

 自分の考えの甘さに、嫌気が差す。

 皆の前ではいつも目標はメジャーデビューだなんて言っていたのに、今は進むべき道に怯えている。

 おかしいよね。

 皆をリーダーとして引っ張らなきゃいけないのに。

 皆を茨の道に巻き込む事になっても、その果てに皆と道を分かつ事になっても、それすらも覚悟して前に進まなくちゃいけないのに。

 私の為に居場所を作ってれたお姉ちゃんの分まで頑張って、お母さんに輝きを届けなくちゃいけないのに……。

 

 「あ、虹夏ちゃん」

 「──っ!?」

 

 声の方向に顔を向けると、いつの間にかぼっちちゃんがいた。

 没頭している中で急に声を掛けられてたから、本当に心臓が止まるかと思った。

 

 「ぼ、ぼっちちゃん、どうしたの?」

 「あの、虹夏ちゃんがいないから、どうしたのかなって……」

 「アハハ。心配かけてごめんね。ちょっと風に当たりたくてさ~」

 

 最近はすっかり自分の気持ちを押し殺すのが得意になった気がする。

 上手く誤魔化せたと思ったけれど、ぼっちちゃんは何も言わず、ゆっくりとこっちに近づいて尋ねてきた。

 

 「もしかして、何か悩んでいますか?」

 

 飾り気のない核心を突く言葉に、あたしの心がひび割れそうになる。

 何もかもぶちまけたい。

 不安を吐いて、泣いてしまいたい。

 けど、それは駄目なんだ。

 あたしはリーダーとして、先輩として、ぼっちちゃんを引っ張らなくちゃいけない。

 あたし自身気持ちの整理がついていないのに、ぼっちちゃんに余計な重りを背負わせるわけにはいかない。

 

 『何も悩んでいないよ』

 

 そう返せば良いだけのはずなのに、あたしは声を出すことが出来なかった……。

 

 「虹夏ちゃん」

 

 名前を呼んだ後、ぼっちちゃんは両手であたしの手を包んで、こう言った。

 

 「えっと、悩んでいいと思います!」

 

 予想もしていなかった言葉に、呆けてしまう。

 けどそんなあたしを気にせず、ぼっちちゃんは続ける。

 

 「あの、ほら、私だってギターヒーローの事を秘密にしていたじゃないですか。それですごい悩んでましたけど、結局は自分がどうしたいかが大事なんだと思います」

 

 ゆっくりと、綺麗な瞳を真っ直ぐに向けて、一生懸命に言葉を紡いでくれる。

 

 「だから虹夏ちゃんも、後悔しない納得のいく道を選んでください。その中で、私に出来る事があれば言ってください。私はいつも虹夏ちゃんに助けられてばっかりですから、私も虹夏ちゃんを助けたいです」

 「ぼっちちゃん……」

 

 涙が零れそうになるのを、我慢する。

 ここで泣いてしまったら、それこそリーダーとしても先輩としても失格だ。

 そんな風に強がっていたら、急にぼっちちゃんはいつもみたいにアタフタし始めた。

 

 「って、私なんかが言っても頼りないですよね! あっ、美空さん! 美空さんに相談すればもっと良いアドバイスしてくれますよ! 私もそうでしたし!」

 

 タコみたいな顔をして手足をバタバタさせるぼっちちゃんがおかしくて、不思議と胸が軽くなった気がした。

 

 「ありがとう、ぼっちちゃん」

 

 小さく笑顔を作り、彼女の手を握り返しながら、返事をした。

 ぼっちちゃんの助けたいっていう気持ちは嬉しい。

 けど、その優しさに甘えるわけにはいかなかった。

 話すならこの場でぼっちちゃんだけじゃなくて、リョウも、喜多ちゃんも、皆がいる中で話さなくちゃいけない。

 自分自身がちゃんと覚悟を決めて打ち明けないと、本当に前に進んだ事にはならないんだ。

 

 「今、ここで直ぐに言う事は出来ない。けど、近い内に、必ず話すから」 

 「……はい。私、待ってます」

 

 煮え切らないあたしの返事にも、ぼっちちゃんは優しい笑顔で返してくれた。

 

 「そろそろ戻らないと心配かけちゃうよね。行こっか」

 

 繋いだ手はそのままに、二人でお店の中へと足を進める。

 その手から感じる暖かさが、今のあたしには何よりも嬉しかった。




 原作と違う展開を書く時は本当にこれで良いのかな……とぼっちちゃんばりの情緒不安定になりながら書いてます。(14話ぶり二度目)
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