夢への旅路   作:梅のお酒

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 前話を書いた後にやっぱりこの世界線でヨヨコちゃんがきくりさんを慕う理由を書いた方が良いなと思い形にしてみました。
 裏設定程度のぼんやりとした構想でしたが、少しでもキャラの解像度を上げる一助になれば幸いです。

 ※今回は三人称視点で描写します。


幕間 彼女が慕う理由(前)

 様々なバンドマンが集うライブハウス・新宿FOLT。

 界隈では有名なその店も、ライブの時間でない時は存外穏やかなものだ。

 ちょっとした飲食スペースも設けられているため中にはメンバーと一緒に食事を取りながら談笑したり、併設されているスタジオで練習に精を出す者など時間の過ごし方は様々である。

 だが今日は突然、店内が急速に剣呑な雰囲気へと変わった。

 なぜなら、スタジオに続くドアが爆発したかのようなけたたましい音を立てて開かれたからだ。

 何事かと店長である吉田銀次郎も含めて皆がそちらに一斉に目を向けると、開け放たれた扉から三人のバンドマンがドガドガと足音をこれ見よがしに響かせながら出て来た。

 全員一様に顔は怒りに歪んでおり、スタジオの方向に一切目を向ける素振りすら見せず足早に出口へと進んでいく。

 

 「待って!」

 

 遅れてスタジオから出て来たのはツインテールの髪型が特徴的な少女。

 肩からギターを下げたまま出て来たその姿から彼女が焦りに満ちている事は想像に容易いが、見ている人間達からすれば同情の気持ちと同時に「あぁ、またか」といった諦め半分の気持ちも湧き上がってしまった。

 そして、遂には三人のバンドマンは少女に見向きも、言葉も交わさずに店を去って行った。

 後に残されたのは、力なく腕を下げて俯きながら立ち尽くす少女だけであった。

 

 (ヨヨコちゃん、またやっちゃったかな?)

 (あの様子ならそうだろうな)

 (ここまで続くと、流石にネー……)

 

 離れた席で談笑していたSICK HACKのメンバー、廣井きくり・岩下志麻・清水イライザは小声で声をかけあう。

 彼女達にとってはこの光景は初めてではなく、喜ばしい事ではないが見慣れた光景と言える位だ。

 とはいえ、何回見ても可愛い後輩がトラブルに見舞われているのは気掛かりであり、自分達を慕ってくれている少女を放置するほど鬼ではない。

 リーダーであるきくりが静かに立ち上がり、店長である銀次郎に目配せをすると彼は申し訳なさそうに謝るジェスチャーを返した。

 このやり取りも別段いつもの事なので、きくりも軽く手を振り返事をして、ヨヨコと呼ばれたツインテールの少女に近づく。

 

 「ヨヨコちゃん。よかったら向こうでお話しない?」

 

 声を掛けながら、ヨヨコの手を軽く両手で握りしめる。

 

 「姐さん……。ごめんなさい……」

 

 普段は勝気な表情に満ちた少女の面影はそこには無く、ただただ尊敬する先輩に対しての申し訳なさだけが浮かんでいた。

 

 

 

 

 ひと騒動の後、ヨヨコはSICK HACKの三人と一緒の席に座っていた。

 銀次郎の奢りで出してくれたジュースを一口付け、幾ばくか空気が落ち着いた所できくりが尋ねた。

 

 「えっと、ヨヨコちゃん。もしかして、またやっちゃったのかな?」

 

 声をかけられたヨヨコは悪戯がバレた子供の様にビクッと肩を震わせた後、「……はい」と小声で返事した。

 それを聞いて表には出さないが、先輩である三人は心の中でため息を吐いてしまう。

 

 「ヨヨコ。まずは何が起きたか説明出来るか?」

 

 今度はSICK HACKの参謀とも言える志麻が口火を切った。

 真っ直ぐこちらを見ながら尋ねるその姿はさながら父親の様であり、けれど自分を心配してくれているのはヒシヒシと伝わるため、ヨヨコは経緯を話し始めた。

 

 「その……結論から言うと前と同じです……。今回は言い方とかに気を付けていたんですけど、皆今までで一番腕が良かったからつい熱くなっちゃって、そのまま……」

 

 言い終わると、ヨヨコはまた落ち込んだ様子で俯いてしまった。

 大槻ヨヨコ──メタルバンドSIDEROSのボーカル兼ギターであり、類まれなる才能の持ち主。

 その才能に胡坐をかかず、トップを目指して自分に厳しく走り続ける事が出来る努力家という性分は褒められるべき部分であるが、如何せん他者との折り合いが難な少女でもある。

 ヨヨコは自分にも他人にも厳しく、求める水準はかなり高くなりがちだ。加えて、歯に衣着せぬ言い方が災いし、今日みたいな喧嘩別れはこの一年程で通算三回目にもなる。

 尤も、この展開はSICK HACKの三人には予想が付いていた。

 志麻が話を促したのはあくまでヨヨコの口から何があったかを言わせ、きちんと問題の自覚と反省を行わせる為に過ぎないからだ。

 

 「ヨヨコ、流石にここまで短期間でメンバーの入れ替えがあると君のバンドマンとしての活動も危ぶまれるぞ。悪い噂ばかりが先行して、加入しようとする人間がいなくなるかもしれないんだ」

 「は、はい……」

 「ヨヨコが頑張ってるのは分かるケド、バンド活動が出来なくなったら私たちも寂しいヨ」

 

 厳格な志麻の言葉と、バンド内だけでなく店全体のムードメーカーであるイライザの飴と鞭を浴びるとヨヨコも黙って反省せざるを得なかった。

 

 「ねぇ、ヨヨコちゃん」

 

 少しの間の静寂が訪れた後、今度はきくりが声をかけた。

 

 「ヨヨコちゃんの実力だったらソロでもやって行けると思うんだ。でも、あくまでバンドっていう形にこだわるのはどうしてかな?」

 

 普段は酔っぱらって破天荒な行動ばかりのきくりだが、この時だけは優しさに溢れた母親の様な笑顔を浮かべていた。

 別に大層な理由を求めている訳ではない。

 ただ、自分が次へ進む為の気持ちの整理として、感情を吐き出す場をくれたのだとヨヨコは感じた。

 一つ息を吐き、自分が何故バンドマンとして活動しているのかを思い返す。

 始まりは子供みたいな理由であり、運動も出来ない友達もいない自分を、好きな事で一番になって周りを見返してやろうという反骨心だった。

 トップになるなら、自分一人でも構わない。

 自分一人で、やってみせる。

 最初は、そう思っていた。

 だが、敵情視察も兼ねてFOLTを訪れSICK HACKのライブを初めて見た時……ヨヨコはそのパフォーマンスに目を奪われた。

 正確無比な志麻のドラムに、情緒的で深みのあるイライザのギター。

 そして、きくりの圧倒的な歌唱力とオーディエンスを虜にするカリスマ性。

 滅茶苦茶なパフォーマンスを披露するにも関わらず、それでもフロアは熱狂に包まれていた。

 その時感じた熱量は、今でもヨヨコの体の中に刻まれている。

 

 「私も……姐さん達みたいなバンドを作りたいんです」

 

 俯き加減だった顔を上げ、きくり達の顔を見ながら答える。

 

 「最初は一人でもやってやると思っていました。でも、初めて姐さん達のライブを見た時、自分が音楽を好きな理由を思い出したんです」

 

 声が上擦りながらも、言葉を続ける。

 

 「バラバラの個性が集まって色んな音楽が生まれる。それが楽しくて、いつか私もこんな音楽を作りたい。誰かの心を動かすような音楽を奏でたいんです」

 

 その上で一番になる事も忘れませんけど、とヨヨコは付け加えた。

 目を逸らさずに言い切った彼女の様子を見たきくり達は、それぞれが満足そうな表情を浮かべた。

 

 「いやー、ヨヨコちゃんが私達の事をそこまで想ってくれてたなんて嬉しいねー」

 「あぁ、そうだな。だがしかし、譲れない目標があるのであれば尚更コミュニケーションには気を付けないと。傍から見てもヨヨコの言葉遣いはキツイ部分があるから、遜り過ぎず、けど棘の無い様な言い方を勉強するべきだ」

 「ふぐっ」

 「まぁまぁ志麻、そこは後で追々ネ。あ、一応言っておくけどきくりのリーダー像を真似しちゃ駄目だヨ? 私達だから大丈夫なだけで、他の人がやったら絶対ブン殴られるからネー」

 「イライザひどい! そんな風に思ってたの!?」

 「思わない理由が無いだろ」

 

 さっきまでの重い雰囲気はどこかへ行き、課題は山積みだがそれでもヨヨコの心は次はどうすれば良いのかと前向きになり始めていた。

 

 (とにかくメンバーを募集している事を知らせなきゃいけないから、フライヤーを作ったりSNSや募集サイトでも発信するしかないわよね)

 

 それがかなりの手間ではあるのだが、目標の為にはやるしかない。

 善は急げと先輩達にお礼を述べ帰ろうとした時、きくりが声をかけた。

 

 「あ、ヨヨコちゃん。折角だから今回は私達も手伝うよ」

 「え?」

 

 突然の提案に、ヨヨコは一瞬きくりが何を言っているのか理解出来なかった。

 

 「事情が事情だからさ、今回は今まで以上に頑張んなきゃメンバーは集まらないと思うんだ」

 「それは私も同意だな。さっきも言ったが悪い噂が先行してしまう可能性もあるから、手伝えるなら人手は多いほうが良いだろう」

 「そんな……姐さん達だって活動があるのに、邪魔は出来ませんよ」

 「気にしないでいいヨー。私達ライブが終わったばっかりだから、しばらくは余裕あるからネ」

 「まぁ、忙しくなって来たら私達も自分の事で手一杯だから、その時はまたしばらく自分だけで頑張って頂戴」

 

 どう? ときくりがウィンクしながら尋ねる。

 ヨヨコはそれでも自分だけでやろうと考えたが、確かにきくりと志麻の言う通り今回は今まで以上にハードなメンバー集めになるかもしれない。

 それを考えると、変に意地を張らずに短期間でも先輩達の力を借り、少しでも目標への距離を縮める事が大切だと思い直した。

 

 「……すいません、ありがとうございます。なるべくお手を煩わせないようにしますので、宜しくお願いします」

 「はーい、宜しくぅ。なるべく早く決まるように頑張ろうね」

 

 なんて事はないといった明るい口調で、きくりはヨヨコを励ました。

 

 「ケド、実際何をすればいいノ?」

 「宣伝フライヤーを作ったり、ネットを使って募集をかけたりと地道な活動がメインだな。ベストはやっぱり一から対面で話せたりすれば良いんだが……」

 「となると、やっぱりアレでしょ」

 「姐さん、アレって?」

 

 何か秘策があるのかと尋ねたヨヨコに対して、きくりはニッと笑って答えた。

 

 「そりゃもちろん、路上ライブだよ」




 あまり間が空くとそのまま流されて執筆のモチベーションを消失するのが一番怖いので一回ここで切ります。
 最近こんな形の投稿が多くてごめんなさい、続きは今週中に上げられるようにします。
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