夢への旅路   作:梅のお酒

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 前編で言い忘れていたのですが、今回の幕間は超が百個ついても足りないくらいベタベタな話です。


幕間 彼女が慕う理由(後)

 数日後、新宿駅近くの広場でヨヨコときくり達は路上ライブの準備を進めていた。

 

 「ヨヨコ、あまり寝てなさそうだが大丈夫か?」

 「大丈夫です志麻さん、いつもの事なので」

 

 明らかに緊張で大丈夫そうには見えないガンギマリな目をして答えるヨヨコ。

 だが、志麻もライブの時は彼女がそんな調子なのは知っているので、苦笑しつつ労りの言葉をかける。

 

 「あまり無理はするなよ。何も今日だけで決めなくちゃいけない訳じゃないんだ。私達もいるから程よく思い切りやってくれ」

 「はい、ありがとうございます」

 

 口ではそう返事してもプライドの高いヨヨコの事だから全力でやるのは変わらないだろうなと志麻は思った。そこが彼女の良い点でもあるのだが。

 

 「大丈夫だってヨヨコちゃん。ここは私と志麻が出会った場所で御利益満点だから上手く行くよ」

 「え、そうだったんですか?」

 

 今度は横からニュッと出て来たきくりが励ましの言葉をかけ、知らなかった事実にヨヨコは驚いた。

 

 「ふふっ、そうだな。懐かしい話だ」

 「ここで会ってなかったら、SICK HACKは生まれてなかったかもしれないしね」

 

 そう言葉を交わす二人は懐かしそうな、それでいてどこか寂しそうな眼をしながら周囲を見渡した。

 

 (……私、よく考えたら姐さん達の事を何も知らないかも)

 

 自分の前ではしたことのない表情を見せた二人に、ヨヨコはふと思った。

 自分が知っているのは、人気バンドSICK HACKとしての彼女達だ。

 いや、普段からバンドマンとしても交流を重ね、並のファンより深い関係にあるとヨヨコ自身は自負している。

 けれどそれはあくまで表面的な部分に過ぎず、何故彼女達がバンドマンとして活動するのか、その原点といった深い部分は知らない。

 はたして、彼女達がトップバンドとして君臨する強さの源とは何なのか。

 

 「ヨヨコー。こっちは準備できたケドそっちはどう?」

 

 思考に没頭しそうになった所でイライザに声をかけられ、ハッとなってヨヨコは現実に戻った。

 

 (いけない。今は自分の事に集中しないと!)

 

 髪の毛が自分の体をビシビシ叩く勢いでヨヨコは頭を振る。

 路上ライブ中の動画撮影やフライヤー配りといったお膳立てをしてくれるのは、他ならぬ先輩達なのだ。自分が少しでも余裕をもって挑めるように支えてくれる彼女達の顔に泥を塗る訳にはいかない。

 

 「ありがとうございます、イライザさん。少し音出しして調整してきます」

 「オッケー。焦らずにゆっくりでいいヨー」

 

 そう言って機材の方へ向かって行ったヨヨコを送り出しつつ、少し離れた所でイライザはきくりと志麻に話しかけた。

 

 「美空の事、話さなくてよかったノ?」

 「うん。別に今言う必要はないからね」

 

 イライザの問いかけにきくりが控え目な笑顔で頷き、もう一度ゆっくりと周囲を見回すと、今は傍に居ない親友との思い出が昨日の事のようにフラッシュバックした。

 

 「志麻、イライザ。私、今日ここに来て良かったと思ってる。何でバンドを続けているのか、改めて心に刻む事が出来た」

 「奇遇だな。私もだよ」

 

 そう言ってきくりと志麻は、どちらからともなく笑った。

 

 「大丈夫! いつかまた、必ず会えるヨ! 私も美空に会いたいしネ!」

 

 そして、太陽の様な明るい笑顔を携えてイライザが二人を抱きしめた。

 きくりも、志麻も、共に笑顔で答える。

 

 「ヨヨコちゃんにも、一生の仲間を見つけて欲しいからね。まずは今日、私達に出来る事を頑張ろうか!」

 「あぁ!」

 「Yes!」

 

 演者も、それを支える者達も、互いの想いを胸に秘め路上ライブはスタートした。

 

 

 

 

 

 「はぁ~。こうやってぶらぶらするのも久しぶりだね」

 「そっすね。ひとまず、お互い受験が無事終わって良かったっす」

 「春からまたよろしくね、はーちゃん」

 「よろしくっす、ふーちゃん」

 

 はーちゃんと呼ばれたマスクを付けた少女・長谷川あくびと、ふーちゃんと呼ばれたおっとりした少女・本城楓子は受験が終わった事を機に新宿を散策していた。

 

 「はーちゃんは高校で何するかもう決めた?」

 「あー……。それなんすけど、もっとガチでバンドをやってみたいって思ってて……」

 

 躊躇いがちに言うあくびに、ぱぁっと明るい笑顔で楓子は答えた。

 

 「じゃあ、お揃いだね。私も、もっと本気でバンド活動をしてみたいと思ってたんだ」

 「……いいんすか? もしかしたら辛い事もいっぱいあるかもしれないっすよ?」

 「それはそうかもしれないけど、音楽が好きだからさ。やるんだったら、思いっきりやってみたいって受験で離れてる時に改めて思ったんだ」

 「はは。ふーちゃんと同じ気持ちで良かったっす」

 

 楓子の朗らかな空気に当てられて、あくびも自然と笑顔になる。

 

 「そういえばSIDEROSが今メンバー募集してるって話知ってる?」

 「あ、知ってるっす。これっすよね」

 

 そう言ってあくびはSIDEROSのSNSを見せる。

 ここしばらくは受験疲れもあってしばらくボーっと過ごしていたあくびだが、つい最近この情報を見つけまたバンド熱が湧き上がっていた所だ。

 

 「はーちゃん、もし良かったら一緒に受けてみない?」

 「それはもちろんオッケーすけど、ふーちゃんは大槻先輩の噂は気にならないんすか?」

 

 あくびは心配そうな表情で楓子に問う。

 あくび自身はヨヨコの悪い噂自体を特段気にしていない。

 所詮噂は噂、自分で目にしない限り信じないと冷静な考えを持っており、なにより憧れのバンドに加入出来るチャンスを逃したくなかった。

 むしろそれよりも、自分に付き合わせて楓子を辛い目に遭わせてしまう事の方を懸念していた。

 だが、楓子は変わらずに笑顔を浮かべて話す。

 

 「前にライブを一緒に見た時に、チャンスがあったら大槻先輩と一緒にやってみたいって話したじゃない。やらなくて後悔するよりもやって後悔した方が絶対良いと思うし、はーちゃんと一緒だったら怖くないよ」

 「……ありがとうっす、ふーちゃん」

 

 穏やかな笑顔とは裏腹に強さを秘める楓子の精神にいつも助けられている事を思い出し、あくびは感謝する。

 心地よい空気を感じる中で特に当てもなく歩き続けていると、駅近くの広場に差し掛かったあたりで何やら人が集まっているのが見えた。

 

 「あれ何だろうね?」

 「歌声とギターの音? 路上ライブじゃないすかね」

 

 元より確固たる予定もなかった二人は無意識に揃って人だかりに近寄るが、その正体を知って驚愕の表情を浮かべた。

 

 「SIDEROSの大槻先輩!?」

 「はーちゃん見て! 大槻先輩だけじゃなくてSICK HACKの三人もいる!」

 「はぁ!? 何がどうなってんすか?」

 

 楓子に袖を引っ張られて見た方向にあくびが目を向けると、新宿界隈ではSIDEROS以上の有名人であるSICK HACKが路上ライブのサポートを行っていた。

 ギターの清水イライザがカメラで動画撮影を担当し、リーダーの廣井きくりとドラムの岩下志麻が邪魔にならない位置でしゃがみながら宣伝フライヤーを掲示している。

 上手く人波をかき分けよく見える位置にあくびと楓子が陣取ると、フライヤーに書かれている内容が確認できようやく合点がいった。

 次いで、真っ先に今は目の前のパフォーマンスを目に焼き付けようと主役である大槻ヨヨコのパフォーマンスに注視した。

 

 「ふわぁ……。大槻先輩、やっぱりすごいね」

 「メタリカのマスターオブパペット。歌声もギターもとんでもないっすね……」

 

 ヨヨコのギタリストとしての腕前に二人揃って感嘆の声が漏れる。

 原曲の野太い男性ボーカルよりも幾分か高いが、それでも曲と上手くマッチする音域を演出する歌唱力。

 どれだけの鍛錬を積めば到達出来るのかと問いかけたくなる高速のギターピッキング。

 そして何より、一挙手一投足に全力を掲げるその熱量に、一番心を奪われた。

 

 あくびと楓子は同世代の中でもトップ層の実力を持つ存在だが、本人たちはそれを偉ぶったりした事は一度もない。

 ただただ、好きこそ物の上手なれを地で行き、常に上手くなるために自分達と向き合って来ただけに過ぎない。

 しかし時として高い実力は残酷であり、二人の腕に付いて行ける同世代のバンドマンは身近におらず、これまで自分達のバンドを組むことは出来なかった。

 幸い楓子の人柄の良さのおかげで喧嘩などには発展せず、ヘルプとして場数を踏む事は出来ていたがそれでも自分達でバンドを組むという夢は諦められなかった。

 そんな折、受験が本格化する前に見に行ったSIDEROSのライブが、忘れられなかった。

 ステージで倒れてしまっても構わないと言わんばかりの、魂を込めたヨヨコの熱唱。

 その姿は、まるで物語に出てくる狼の様に強く、気高く、美しかった。

 今、こうして路上ライブでも同じ姿を見せているヨヨコに、二人はあの時と同じく体の奥が熱く震えているのを感じずにはいられなかった。

 

 やがて曲が終り、僅かな余韻の後に観客達から拍手が送られる。

 ヨヨコは丁寧に頭を下げると、マイクを通して周りに呼びかけた。

 

 『ありがとうございました! えっと、今私のバンドSIDEROSはメンバーを募集しています! 興味を持った人がいれば、良ければお話させてください!』

 

 そうヨヨコが言うと、脇に控えていたSICK HACKの三人もフライヤーを配り始め「お願いします」と声をかけ始めた。

 だが、観客のほとんどはただ路上ライブのもの珍しさに目を引かれただけの人間だったのか、フライヤーを受け取ることもなくさっさと散って行ってしまった。

 けれど唯一、あくびと楓子だけは違った。

 

 「ふーちゃん!」

 「うん! 行こう、はーちゃん!」

 

 ここで何もしなかったら、絶対に自分達は後悔する。

 互いが持つ同じ衝動に突き動かされ、あくびと楓子は手を取り合いながらヨヨコの下へと駆け寄った。

 

 

 

 

 路上ライブが終った後、観客が散っていく様子をヨヨコはため息を吐きながら眺めていた。

 

 (いきなり初日でメンバーが揃うわけもないわよね……)

 

 期待していなかったと言ったら嘘になる。それでも目の前に突き付けられた現実に、さしものヨヨコも少々参ってしまう。

 だが、ここで立ち止まる訳には行かない。

 腐っていては手伝ってくれた先輩達にも申し訳が立たないと思い、気合を入れ直して自分もフライヤー配りに参加しようとした時。

 

 「あの、すいません!」

 

 真剣な表情で、自分とそう年が変わらなさそうな少女に声をかけられた。

 

 「あ、えっと、何でしょうか?」

 

 根本的には人見知りなヨヨコは、突然の事に思わずカチコチと堅い返事をしてしまう。

 少なくとも、このタイミングで話しかけてくるのはどういう事なのかを察する事が出来ない位には緊張してしまっていた。

 自分に話しかけてきたマスクをかけた少女は隣にいた可愛らしい少女と目配せをすると、声を揃えて言ってきた。

 

 『私達をSIDEROSに入れてください!』

 「……え? えぇ!?」

 

 成果が得られなかったと思っていた所に特大級とも言える衝撃が襲って来た事で、ヨヨコの頭の中は混乱の渦に巻き込まれる。

 

 「あ、自己紹介もせずにごめんなさい。自分は長谷川あくび、ドラムをやってます」

 「本城楓子です、ギターをやってます」

 

 一方の二人は落ち着いたもので、少しでも話を進めようと冷静に自己紹介をしたが、それが更にヨヨコの混乱に拍車を掛けた。

 ぐるぐると目を回しているヨヨコの様子に気付いたのか、SICK HACKの三人が駆け寄ってきた。

 

 「ヨヨコちゃん、どしたの?」

 「えっと、ごめんなさい。自分達SIDEROSに入りたいんですけど、大槻先輩が固まっちゃって」

 「Wow! ヨヨコ、やったネ!」

 「頑張れヨヨコ! 気をしっかり保つんだ!」

 

 イライザが抱きしめ、志麻がガクガクと揺さぶるとようやくヨヨコは息を吹き返した。

 改めてあくびと楓子に向き直るも、これまでの経験から話さなくてはいけない事が多すぎて中々二の句が告げられなかった。

 

 「大丈夫だよ、ヨヨコちゃん」

 

 ヨヨコの傍に居たきくりが、優しく背中をぽんぽん叩く。

 

 「一個ずつ、ゆっくりで良いんだよ。自分の言葉で、ちゃんと話してみな」

 

 そう声をかけ、ヨヨコの背中を軽く押し出す。

 一歩前に詰めた事で、ヨヨコもようやく決心がついた。

 一回深呼吸を挟み、あくびと楓子に話しかける。

 

 「えっと、まずは私からも自己紹介ね。SIDEROSの大槻ヨヨコよ、よろしく」

 『よろしくお願いします』

 「それで、その……SIDEROSが何回もメンバーが変わっている事は知っている?」

 「あ、はい。それは知ってます」

 「自分で聞いといてなんだけど、怖くないの……?」

 「うーん。自分で見ない限りは信じないですし」

 「それよりも大槻さんと一緒にバンドをやってみたいって気持ちの方が大事です」

 

 さしたる動揺を見せることなく言ってのけたあくびと楓子に、逆にヨヨコが一瞬押されてしまう。

 だが、本当に話したかったのはこんな事ではないと思い直し、今度は真剣な目つきで二人に問いかけた。

 

 「私はトップを目指す為にバンドをやっている。遊びじゃなくて本気でやって、その……口下手だから、厳しい事もいっぱい言うかもしれない。

 ──それでも、一緒に付いて来てくれる?」

 『もちろんです』

 

 一切の迷いなく、あくびと楓子は言い切った。

 

 「そんな大槻先輩の真剣な姿に、自分は惚れたんです」

 「私も同じです。SIDEROSのライブを見たから、あんな風になりたいってずっと練習を続けることが出来ました」

 

 二人の真摯な姿に、ヨヨコもまた胸の奥が熱くなった。

 自分がSICK HACKのライブで心を打たれたように、自分も誰かの心を動かすような音楽を作る事を夢見ていた。

 だが、心の奥底では解散ばかり繰り返している自分の音楽ではそんな事は到底不可能ではないのかという不安があったのだ。

 けれど目の前の二人は、そんな自分の音楽を心に刻んでいてくれていた。

 初めて沸き上がった嬉しさに涙が出そうになったが、ギリギリの所で我慢する。

 

 「……ありがとう。これからもよろしくね。それと皆からは名前で呼ばれているから、私の事はヨヨコって呼んで」

 「はいっす。これからもよろしくお願いします、ヨヨコ先輩」

 「よろしくお願いしますね、ヨヨコ先輩」

 

 一陣のそよ風が祝福の様に吹く中、共に笑顔を浮かべながらヨヨコはあくびと楓子と握手をした。

 

 

 

 

 月日が経ち、一学期が終わり夏休みに入った頃、FOLTでは今日もヨヨコの声が響き渡っていた。

 

 「だ・か・ら! 三人共演奏が淡白で味気ないのよ! もっと曲への情熱を持って攻めた演奏をしてみなさいよ!」

 「もー、この前までは周りと合わせろって言ってたじゃないすか」

 「どっちなんですかヨヨコ先輩~」

 「ダブスタは良くないと思いますぅ」

 

 そんなヨヨコの叫びはどこ吹く風か、指摘された三人はブーブーと口を尖らせて文句を言う。

 これもいつもの光景であり、今までのメンバーとは違うリアクションにヨヨコがぐぬぬと声を詰まらせるのがお決まりであった。

 そしてまた、そんな彼女達にSICK HACKのメンバーがフォローするのもお約束だ。

 

 「まぁまぁヨヨコちゃん。先ずは落ち着いて、具体的に言わないと」

 「うっ……。すいません、姐さん」

 「あくび達もすまんな。ヨヨコも悪気があるわけじゃないんだ」

 「まぁ、それは大丈夫っす」

 「前に比べてヨヨコ先輩の事が分かってきましたから」

 「打てば響く所なんて可愛くて面白いですからねぇ」

 「私の事バカにしてる!?」

 「はいはい、ヨヨコ。ドウドウ」

 

 イライザがヨヨコを羽交い絞めにして抑え込むも、その場の雰囲気は穏やかなものであった。

 あくびと楓子の二人が加入した後、程なくしてベースの幽々が加入したことでSIDEROSの活動は早々に本格化した。

 全員が元から腕が立ち、その上モチベーションも高いためメキメキと実力をつけ、半年も経たない内にFOLTではSICK HACKとの二枚看板と言われるまでに成長したのだ。

 

 「いいわね!? 今度は姐さん達との合同ライブがあって、来年は未確認ライオットで優勝を目指すんだから気合入れて行くわよ!」

 『はーい』

 

 燃え上がるヨヨコとは対照的に三人の反応は緩いものであったが、それでも今までのSIDEROSにはない一体感というものをSICK HACKは感じていた。

 

 (頑張ってね、ヨヨコちゃん)

 

 後輩達に振り回されながらも充実した日々を送れているヨヨコを、きくりは心の中でそっと応援した。

 

 

 

 

 

 「姐さん、少しいいですか?」

 

 しばらくしてミーティングが終わり、あくび達が先に帰った所でヨヨコはきくりに話しかけた。

 

 「どうしたの?」

 

 心なしか堅い雰囲気で訪ねて来たヨヨコを不思議がりながらも、きくりは返事をする。

 ヨヨコはグッと手に力を入れ、拳を握りながらお願いをしてきた。

 

 「SICK HACKの一番初期の音源があったら、聴かせてくれませんか?」

 「……理由は?」

 

 予想もしていなかった話にきくりは一瞬呆けてしまったが、直ぐに鋭い目つきで返す。

 普段とは違う、初めて見た殺気が籠っていると言っても良い位の眼光にヨヨコは引きそうになるが、歯を噛みしめ足を踏ん張ることで言葉を続ける。

 

 「この前、ふと思ったんです。私、姐さん達の事を何も知らないんだって」

 

 ゆっくりと、ヨヨコはきくりを見据えながら話す。

 

 「姐さん達がバンドマンとして活動を続ける事が出来る強さって何なんだろうって、その源が何なのか知りたいんです」

 

 頭で整理するよりも、言葉が先に溢れてくる。

 

 「決して、ただの興味本位で聞いているわけじゃありません。私は姐さん達を尊敬しています。けれど、一番を目指すなら憧れるだけじゃなくて、超えなくちゃいけないライバルとして、全てを知った上で勝ちたいんです」

 

 ほんの数秒の言葉であったにもかかわらず、全力疾走をした後の様に息を切らしながらヨヨコは言った。

 正直、溢れる想いが先走り過ぎて、自分でも最後の方は何を言っているのか怪しかった。

 だが、そんなヨヨコをきくりはジッと見つめた後、いつもの様に笑顔を浮かべて話しかけた。

 

 「つまり、ヨヨコちゃんは私達をこれからはライバルとしても見てくれるって事だよね?」

 「は、はい」

 「……オッケー。分かった」

 

 感慨深げにうんうんときくりは頷いた後、「ちょっと待っててね」と声をかけ、楽器ケースをあさり始めた。

 ややあって取り出したのはケースに入った一枚のCDであり、ジャケットには自分と同じ位の年齢と思われるきくりと志麻と、見知らぬ人物が写っていた。

 

 「あの、このギターの人は?」

 「その子は美空って言ってね。一部では『幻のメンバー』なんて言われてるんだけど、聞いたことある?」

 

 きくりの質問に、ヨヨコは黙って頷いた。

 『幻のメンバー』は古参ファンからたまに聞く名前であり、SICK HACKの礎を築いたと言われるギターボーカルの事だ。

 曰くきくりやイライザともまた違うパワフルなパフォーマンスが印象的だったらしいが、ヨヨコがSICK HACKを知った時は既にいなかった。

 

 「美空は私と志麻に音楽を教えてくれた師匠でもあり、同じ学校に通ってた親友でもあるんだ。今は……ちょっと事情があって離れちゃったけどね」

 

 そう話すきくりの表情は、路上ライブの前に見せた儚げな表情であった。

 

 「そのCDは美空が居た時に作った、最初で最後のミニアルバム。私にとっては御守りで、今でもバンド活動を続ける原動力になってる」

 

 手渡されたCDを受け取ったヨヨコは、それを慎重に手の中に収めた。

 

 「姐さん。そんな大切なものを渡してくれて、ありがとうございます」

 「お? ヨヨコちゃんビビってる? 全部知った上で私達を追い越すんじゃなかったのか~?」

 

 少し震える声で礼を述べるヨヨコに、おどけた風にきくりが返す。

 とは言え、きくりのリアクションも照れ隠しが大半であり、今度はヨヨコが不敵な笑みを浮かべて返した。

 

 「姐さん達の強さの秘密を知ったら、私達すぐに追い越しちゃうかもしれませんよ?」

 「やれるものならやってみな。そんな簡単に抜かせるほどヤワじゃないから」

 

 初めて交わした、憧れの先輩との舌戦。

 だが、不思議とそこに怖さはなく、やがてお互いからくつくつと笑い声が漏れた。

 

 「負けないからね、ヨヨコちゃん」

 「えぇ。私もです、姐さん」

 

 可愛い後輩でも、尊敬する先輩でもなく。

 バンドマンのライバルとして、きくりとヨヨコは宣戦布告代わりの握手を交わした。




予定以上に詰め込み&長くなってしまったので以下補足です。


・あくびちゃんと楓子ちゃんはお互いをあだ名で呼んでいる描写があるからか、作者の脳内では喜多ささコンビみたいにバンド加入前からの付き合いで同じ学校に通っているというイメージがこびり付いていました。公式でこの二人の関係が明らかになっていたらごめんなさい、この世界線ではこういう設定ということでお願いします。

・幽々ちゃんに関してはある日FOLTにふらっと訪れてぬるっと加入したという設定です。神出鬼没な方が彼女らしいというのと、丁度いいバックボーンが作者の頭じゃ思いつかなかったという理由が半々です。幽々ちゃんスキーの方ごめんなさい。

・路上ライブの時のヨヨコちゃんの印象が美化されすぎじゃね?
→ぼっちちゃんと同じで普段は小動物だけどステージではかっこいい理論です。
 ぼっちちゃんは虎、ヨヨコちゃんは狼のイメージです。

・きくりさんと志麻さんは高校の時からバンド活動をしていたという設定なので原作よりもSICK HACKのレベルが上がっています。

・SIDEROSも原作よりレベルが上がっている設定です。結束バンドも原作よりレベルが上がっていますが、相対的なSIDEROSとのレベル差は原作とそう変わらないかもう少し離されてるくらいになってます。
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