夢への旅路   作:梅のお酒

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 作者は頭が固いのでやりすぎだと思うくらいの方がぼざろキャラを表現できるのではないかと最近思い始めました。


第27話 友達百人できるかな

 あぁ……遂にこの日が来てしまった……。

 天国だった夏休みとは正反対の、地獄の学校生活。

 もう既に朝から体調が悪くて吐きそうなレベルだったけど、喜多ちゃんや美空さんが新学期に向けて色々協力してくれたから行かない訳にもいかず……。

 産まれたての小鹿みたいな足取りで、なんだかんだ言いつつ教室の前まで来る事が出来てしまった。

 

 「オハヨウゴザイマス……」

 

 漫画なんかだと夏休みを過ぎて急に人が変わったキャラが出たりして、それに倣って元気よく挨拶しようと思ったけどやっぱり私には到底そんなこと無理なわけで……。

 ドアを開けた後に蚊の羽音よりも小さい声で挨拶だけして、いつもの様に席に着く。

 どうも皆さんこんにちは、モスキート後藤です。

 芸人さんみたいに心の中で挨拶してみても、やっぱり何も起こらなくて……。

 ……でも、これで良いんだ。少なくとも夏休みは充実したバンド活動が出来て皆で江の島観光もしたわけだし、ちょっとずつ良い方向に変われて来てるはず。

 ここで学校生活も劇的に変わるなんて望んだら罰が当たr

 

 「あれ、後藤さん今日は制服なんだ」

 「へあ!?」

 

 ずぶずぶと思考に沈んでいたら、以前も話しかけてくれた私の前の席の子に話しかけられた。

 

 「あ、えぅ、服、その……」

 

 考え事をしてる所に急に話しかけられたから、頭が真っ白になって過呼吸みたいになってしまう。

 お、落ち着くんだ私ぃ……! ライブを乗り越えられた私ならなんとでもなるはずだ……!

 えっと、えっと、こういう事態を想定して美空さんがくれたアドバイスは

 

 『会話は常に直ぐ返事をしなくちゃいけないっていう先入観を無くして、落ち着いて相手が言ってる事を把握してみよう』

 

 だったっけ。

 そうなると、まず相手は単純に私の服装のことを聞いている。

 今日は、って言ってるから普段ジャージだった私が何で制服着てるのか疑問に思ってるってこと、だよね?

 あ、そうだ。喜多ちゃんが

 

 『制服の事を聞かれたら私に勧められたって言っていいから』

 

 ってアドバイスしてくれたっけ。

 

 「あ、そのですね、制服の方が良いって喜多ちゃんに勧められて、それで……」

 「おー、流石喜多ちゃん」

 「ジャージよりもそっちの方が似合ってるよ」

 「へ? あ、えっと、ありがとうございます」

 

 思いがけないお褒めの言葉を頂けて、考えるより先にお礼が出ちゃった。

 よく考えたら他のクラスの喜多ちゃんを知ってるかどうかも分からないのによく会話が成立したなぁ……。

 ありがとう喜多ちゃん、喜多ちゃんが有名人で助かりました。

 ……うん? けど制服の方が似合ってるってことはいつも着ていたジャージはダサいってこと?

 そ、そんな……私が持ってる服の中ではロックでイカしてる一張羅なのに……。

 

 「そういえば後藤さん、ライブやったんだって?」

 「え? あの、どうしてそれを?」

 「喜多ちゃんと同じクラスに友達がいて話だけ聞いたんだ」

 「ねぇねぇ、良かったらギター弾いてみてくれない?」

 

 こ、これは!? 夢にまで見たシチュエーション!?

 ほあああああああああ!! あまりの状況の変化に頭が沸騰しそうだよおおおおお!!

 皆さん離れてください!! ぼっち司令官が爆発します!!

 

 「ひっひーふー……! ひっひーふー……!」

 「何故にラマーズ法!?」

 「その、ごめんなさい。こういうこと言われたの初めてでビックリしちゃって……」

 「あ、そうなんだ。なんかごめんね」

 

 向こうが申し訳なさそうに謝ってくれたのが逆に申し訳なくて、そのおかげでちょっとだけ頭が冷えた気がした。

 頭の中の小人さんがわちゃわちゃ動く様な、脳みそがフル回転している感覚を総動員して考える。

 弾くこと自体は大丈夫だけど、どの曲を弾けばいいのかな……?

 あ、そうか。これを言葉にすれば良いのか。

 

 「ギターを弾くのは大丈夫ですけど、どんな曲を弾けばいいですかね?」

 「うーん。じゃあ、折角だから後藤さんのバンドの曲を聴いてみたいかな」

 「わ、分かりました。あ、歌うのは喜多ちゃんの領域で私は下手くそなので、そこは期待しないでください……」

 「あはは。そんなに難しく考えなくて大丈夫だよ」

 

 お許しが出たので、いそいそとギターを用意する。

 

「じゃあ、一曲やらせて頂きます。曲名は『ギターと孤独と蒼い惑星』です」

 

 ペコリと頭を下げると、わーっと小さな歓声と控えめな拍手を送ってくれた。

 前髪越しにチラリと相手の顔を見てみると、前にお姉さんと路上ライブをやった時と同じで、敵意を持って見ている人なんていないわけで……。

 そこにいたのは、興味深そうにニコニコと笑顔を浮かべていてくれるクラスメイトだけだった。

 

 ──これなら、大丈夫。

 

 フッと軽く息を吐き、私はギターを奏でた。

 同時に、空いている片足で軽く床をトントン踏みリズムも取る。

 いざ弾いてみるとアンプに繋いでないからペケペケした音しか出ないけど、教室の中だしむしろこれくらいが丁度良いかな。弦さえしっかり押さえればそれなりに綺麗な音は出せるしね。

 あと、大きな声を出すのは恥ずかしいから小さ目な音の方が歌いやすいし……。

 そんな調子で弾き語りをやっていると、目線は薄目でギターに向けているからちょっと見れないけど、何だか私の周りに人の気配が多くなっているような気がした。

 そして、ひとまず区切りの良いサビの部分で終わると、

 

 『おぉ~~~!!!』

 

 と明らかに最初の二人よりも多い声が響いた。

 ぎょっとしながら顔を上げると、目の前には教室にいたクラスメイトが全員集まってるんじゃないかってくらい人がいて……。

 

 「後藤さんすご~い!」

 「スピーカーに繋いでなくても綺麗な音って出せるんだねー」

 「あ、えっと、ありがとうございます」

 「ねぇねぇ、他にどんな曲が弾けるの?」

 「他だと、そうですね。テレビで紹介されてるレベルの有名な曲だったら大体弾けますけど……」

 「ほんと!? じゃあ──」

 

 矢継ぎ早に繰り出される会話の波になんとか乗ってリクエストに応えると、教室内はちょっとしたカラオケ大会みたいになった。

 私がギターを弾いて、誰かが歌って、皆が笑顔になってくれて……。

 

 あ、この感覚しゅごいよおおおお! 胸がポワポワするのを通り越して頭がキラキラしちゃうううううう!!

 何百回も妄想していたシチュエーションを体験して頭の中がとてつもないスパークを起こしちゃってる! 私の中の承認欲求モンスターが虹色に輝いて大回転している幻覚も見えてきた!

 うへへへぇ……! 今だったら美空さんが言ってた机の上に乗ってスカートおっぴろげちゃう気持ちも分かるかもぉ……!

 よぉし、じゃあここで一発ぶちかまして私も伝説を作りますか!

 

 そう意気込んだ後、ふらふらした足取りで立ち上がり椅子の上に足を引っかけようとした所で

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 とチャイムが鳴った。

 

 「あ、ホームルーム始まっちゃう」

 「後藤さん、ありがとうね。よかったらまたお話しよう」

 

 クラスの人達がパタパタとそれぞれの席に戻り始め、その音に意識が引き戻されハッとなる。

 あ、危なかった……。私は今、何を……?

 一気に頭が水をかけられたみたいに冷静になり、冷や汗がドバッと出て来た。

 ……いくらテンションが上がったからって、スカート御開帳なんてしたらそれこそ学校にいられなくなるよね……。美空さんには申し訳ないけど。

 いきなり色々ありすぎてボーっとする頭のまま、なんとかギターをしまった所で先生が教室に入って来てホームルームが始まった。

 

 

 

 結局ホームルーム中も、私の頭の中はさっきの光景がずっとリピートされていた。

 やっぱり、自分の演奏で皆が笑顔になってくれたのは嬉しかったな。

 それに、心の隅っこでは私もギターボーカルをやってみたいって考えていたけど、今日実際にやってみて喜多ちゃんってすごいんだなとしみじみ感じた。

 一番注目される上にギターも弾きながら大声で歌うって、あがり症の私にはとてつもない重労働だ。なのにまだ半年も経ってないのにあそこまで出来る喜多ちゃんって、実は天才なんじゃないかな?

 って、だめだめ。喜多ちゃんがたくさん練習してるのは私も見てるんだから、才能なんて言葉だけで片付けちゃだめだ。

 ……私も頑張って練習して、いつか喜多ちゃんとツインボーカルなんて出来たりしないかな。

 そう言えばリョウさんも歌上手いんだっけ。三人でボーカルをやるバンドもあるからそれも夢があって良いなぁ。

 リョウさんって作曲も出来るからなんだかんだで音楽方面のスキルすごいよね。普段の生活は……アレだけど。まだカレーのお金返してもらってないし。

 虹夏ちゃんはドラムやりながら一緒に歌うのは体力的に難しそうかな。あ、でも本人は歌うの下手って言ってたっけ。そもそも運営のことは虹夏ちゃんに任せっきりだから、これ以上あまり負担が増えるのも申し訳ないし……。

 よくよく考えると虹夏ちゃんも超人じみてるよね。勉強も出来てバンド活動もして、バイトもやって家事もやって。

 うん、虹夏ちゃんの頑張りは報われて欲しいし、夢も叶って欲しい。だから、もっともっと私も頑張らないと。

 

 結束バンドのことを考えると、体の奥からグツグツと熱が湧いてきた。

 

 

 ──本当のヒーローになるんだ。そして、私が皆を助けるんだ。

 

 

 心の中でそう念じて、私は強く自分の拳を握りしめた。




 最初はぼっちちゃんがコミュ障を発揮してやっぱり今回も駄目だったよ、的な展開にした方がそれらしいと思ったのですがお膳立てしといてそのオチは可哀想すぎたので優しい世界にしました。
 その分、バンド活動で試練を与えて行きたいなと思います。
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