夢への旅路   作:梅のお酒

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 なんか不思議なパワーが湧いてキリの良い所まで書けたので投下します。


第3話

 「虹夏ちゃんもバンドを始めたんですか」

 「あぁ。私と違って、やってるのはギターじゃなくてドラムだけどな」

 

 再びカウンター沿いの椅子に座って、私は星歌さんから事情を聞いていた。

 なんでも、妹の虹夏ちゃんも最近バンドを結成したけれど、色々と拙いからアドバイス出来る人がいた方が良いのではないかと人知れず悩んでいたそうだ。

 

 「人を紹介してくれって頼まれたわけでもなく、糞みたいな自己満足なのは分かってる。けど、それでも虹夏の……あの子達の力になってやりたいんだ」

 

 星歌さんの言葉を、私は黙って聞いていた。

 

 

 

 星歌さんは大学生の時に、お母さんを事故で亡くしている。

 当時は虹夏ちゃんと仲が悪く、家に帰らない日が何日もあった。

 そんな中、突然訪れたお母さんの死にまだ小さかった虹夏ちゃんは耐え切れず、ある日精神に限界が来てしまったようだ。

 お母さんはもういないと泣く虹夏ちゃんを見て、そこで初めて星歌さんもお母さんの死を実感し、同時に酷く後悔したと話してくれた。

 今は二人とも仲が良くて、お互いが前を向いて生きているけれど、星歌さんの表情と言葉には何もしてあげられなかった事に対しての自罰的な雰囲気も感じた。

 私は椅子から降り、かつて私にやってくれたように星歌さんをそっと抱きしめた。

 

 「大丈夫ですよ、星歌さん」

 

 柔らかい声音で、背中をぽんぽん優しく叩きながら、私は話す。

 

 「たった一人の妹なんですから。お姉ちゃんとして力になりたいってのは当たり前だと思いますよ。だから、そんなに一人で抱え込まないでください」

 

 人間、一人でずっと考え込んでいると、暗い方向にどんどん沈んで行ってしまう。

 他ならぬ、私自身がそうだった。

 けれど、色んな人の支えがあって、立ち直ることが出来た。

 私が星歌さんにとってそんな一人になれればいいな、なんていうのはおこがましいかもしれないけど、憧れの人が悩んでいる姿を放っておけなかった。

 

 「悪いな、情けないところ見せて……」

 「お互い様ですよ。私なんて、何回も見せてたじゃないですか」

 「そういやそうだったな」

 

 抱きしめていた体を離し、私たちはお互いに笑いあった。

 うん、いつもの星歌さんに戻ったかな。

 

 「ひとまず、私の方は大丈夫ですよ。むしろ、私の方からお願いしたいくらいです」

 

 ポンと手を合わせ、私は話を切り出す。

 

 「ただ、虹夏ちゃん達に何も言わないで勝手に進めるのは駄目なので、一度話を通してください。虹夏ちゃん達が嫌だって言ったらそれで終わり。全然私に気を遣う必要はないので」

 「ありがとうな。今日話して、今週中には結論を出させるようにする」

 「お願いします。あと、星歌さんにお願いされたって言うと公平にしなくちゃいけない店長としての立場上まずいと思うので、虹夏ちゃん達の話を聞いて私から提案した、ということにしましょう」

 「色々とすまんな……」

 「良いんですよ。一期一会ってやつです」

 

 再び申し訳なさそうに言う星歌さんが安心できるように、私はニコリと笑顔で返した。

 どうなるか分からないけど、また音楽に関われる日々が送れると良いな。

 まぁ、駄目だったらその時はお店にお客さんとして通おう。

 こうして、私は星歌さんとロインを交換し、思いがけない出会いに感謝して帰路についた。

 

 

 

 「っていうお誘いがあるんだ」

 

 放課後、スタ連が終わって結束バンドの皆が揃っている状態で、あたしは話をした。

 なんでも、お姉ちゃんが後輩さんと久しぶりに会って結束バンドの事を話したら、相談役を提案してくれたとのことだった。

 あたしの話を聞いた皆は、三者三様の反応をした。

 

 「私は良いと思います。やっぱり、自分達だけでやるのは限界がありますし、見てくれる人は必要だと思います」

 

 まず、ギターボーカル担当の喜多ちゃんは賛成してくれた。

 まぁ、喜多ちゃんは物怖じしないし、自分のレベルについて思うところがあるみたいだから、この答えは予想していた。

 

 「郁代、安易に考えるのは危険。名選手は名監督に非ずという言葉がある。腕前が良くても人間性も良いとは限らない」

 「リョウが言うと説得力あるね」

 

 一方、喜多ちゃんの言う事に待ったをかけたのはあたしのクラスメイトでベース担当のリョウ。

 リョウはリョウで結束バンドよりも前のバンド活動で色々とあったから、表には出さないけど結束バンドの事をなんだかんだ大切に思ってくれているはず。

 そんな中、見知らぬ人が入ってくるのには抵抗感があるのかもしれないし、リョウはこういうスタンスだろうなっていうのも予測は出来てた。

 

 「あっ、わ、私もそう思います……。一度会ってお話するなりして決めてからじゃないと、お互いに良くないと思います」(店長さんの後輩……! 怖い人だったらどうしよう!)

 

 リョウの意見に賛成したのは、リードギター担当のひとりちゃんことぼっちちゃん。

 超が付く人見知りだから、まぁやっぱりそうだよね、といった感じであたしは話を聞いた。あと、たぶんお姉ちゃんの後輩さん=怖い人とかって考えてるのもあるんだろうな。

 

 「あたしは、喜多ちゃんの意見に賛成なんだよね」

 

 皆の意見が出揃った所で、う~んと天井を見上げながら唸った。

 やっぱり自分達だけだと気づけないことはいっぱいあるだろうし、経験もレベルも何もかも足りない尽くしのあたし達にとって今回の話は渡りに船だと思う。

 それに、お姉ちゃんの話では『私よりも遥かに上手いし良い奴』とのことなので、今ここで突っぱねてしまうのは絶対にもったいないという気持ちの方が強かった。

 リョウもぼっちちゃんも今の段階で断固拒否してる訳ではないし、やりようはあると思うんだよね。

 

 「じゃあ、一度会って話を聞くってことでどうかな。お姉ちゃんが言うには断ることに気を遣わなくて良いし、もし途中で合わないと思ったら遠慮なく言ってくださいって言ってくれてるみたいだし」

 

 あたしがまとめると、皆とりあえず賛成してくれた。ぼっちちゃんは相変わらずガタガタ震えてたけど。

 さすがに竹刀とかを持ってバシバシ指導してくるような人ではないと思うけど、会わない事にはどういう人か分からないしね。

 その後は、こういうことを聞いた方が良くない、と皆で意見を出しあって顔合わせの準備を進めたのだった。




 星歌さんが身内に甘いを通り越して激重感情にしすぎたかも……。
 時期としては1巻のアー写回と山田との歌詞相談回の間くらいを想定してます。
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