夢への旅路   作:梅のお酒

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 大分間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
 私生活の方が落ち着いてきましたのでまた以前の様なペースで投稿して行きたいなと思います。


第29話 Welcome to the Jungle

 週末に合同ライブを控えた週の平日、私はSTARRYで結束バンドの皆と緊張した面持ちで丸テーブルを囲んで座っていた。

 

 「……それじゃあひとりちゃん、見せてもらえる?」

 「は、はい」

 

 私が尋ねるとひとりちゃんは鞄から数枚の答案を取り出してテーブルの上にパサパサ広げ、それを喜多ちゃんと二人で穴が開くほど見つめる。

 秀華高校の赤点は30点未満。

 何回も見直したけど赤点に該当する点数は一つも……無い!

 

 『やったぁ!!』

 

 喜多ちゃんと声が重なり、二人してひとりちゃんに抱き着いたのも同時だった。

 

 「すごいじゃないひとりちゃん! ひとりちゃんはやれば出来る子なのよ!」

 「喜多ちゃんの言う通り。バンド活動とか色んな事と並行してよく頑張ったね」

 「……う、うぅ~~~……! 喜多ちゃん美空さん、ありがとうございますぅ~!」

 「おーよしよし。泣かない泣かない」

 

 感極まって顔をくしゃくしゃにして泣き始めたひとりちゃんの頭を撫でながらハンカチで目元をぽんぽん拭ってあげる。

 点数自体はギリギリとはいえ、ほんの少し前までは全教科赤点だったのを考えると大躍進だから感動もひとしおでしょう。

 まぁ、ひとりちゃんの顔つきを見た時からこれは大丈夫そうって思ったけどね。もし赤点を取っていたら絶対顔に出ていただろうし。

 

 「喜多ちゃんもありがとうね。正直、私一人で全部教えるのは無理だったわ」

 「いえいえ、こちらこそありがとうございます。誰かが欠けていたら掴めなかった皆での勝利ですよ!」

 

 満面の笑顔で答えてくれた喜多ちゃんに私も笑顔になり、ひとりちゃん越しにハイタッチを交わした。その光景を見ていた虹夏ちゃんが腕組をしながら満足そうにうんうんと頷いている。

 

 「ぼっちちゃんもリョウも無事に赤点を回避できたし、これで心置きなくライブを見に行けるね」

 「私もやれば出来る子。褒めて褒めて」

 「普段の行いと相殺プラマイゼロです」

 

 虹夏ちゃんが容赦なく切り捨てると流石のリョウちゃんも目に見えて落ち込んだので、慌てて虹夏ちゃんが慰め始めた。虹夏ちゃんもなんだかんだでリョウちゃんには甘いわよねー。

 ちなみに虹夏ちゃん曰く、ライブの事を聞いたらリョウちゃんは今までに無い勢いで勉強を始めたらしい。

 形がどうあれ、きくり達のライブを楽しみにしてくれているファンが居るんだという事を実感すると私の心の中に微かな暖かさが宿るのを感じた。

 

 

 

 

 そして迎えた週末。

 私は新宿駅で皆と待ち合わせをして、今は揃ってFOLTに向かっている最中だ。

 

 「あのー美空さん、行くにしても時間が早すぎないですか?」

 

 道すがら虹夏ちゃんが不思議そうな顔で訊いてくる。彼女の言う通り、このまま行くと到着するのは開始の一時間半前くらいになるのだがこれには理由がある。

 

 「ライブ前にちょっとした交流会をしようかって話になってね。特にSIDEROSは同い年だからお互い良い刺激になると思うんだ」

 「確かに、私達他のバンドとの交流って無いですからね」

 「ステージ上ではライバルだけど、それとは別で仲良くなれる機会は貴重だからね」

 「それよりも私はSICK HACKのサインが欲しい」

 「リョウは自分の欲望に忠実すぎ」

 「あはは。まぁ良いんじゃない? ファンにサインねだられて気分悪くするような面子じゃないし」

 

 そんな風に談笑していると、あっという間にFOLTまで到着した。

 店内に入り、フロアに通じるドアを通り抜けると丁度パタパタと忙しそうに準備している銀次郎さんと出くわした。

 

 「お疲れ様です、銀次郎さん」

 「美空ちゃん、いらっしゃい。あ、もしかしてその子達が噂の結束バンドちゃんかしら?」

 

 私の後に続いて皆が入ってくると、パンクスタイルのオネエという銀次郎さんのインパクトに皆ぎょっとしていた。

 そんな彼女達の緊張を解そうと、私から皆に銀次郎さんを紹介する。

 

 「この人は店長の銀次郎さん。見た目は濃ゆいけど優しい人だから大丈夫だよ」

 「は、初めまして。結束バンドです」

 「は~い初めまして。店長の吉田銀次郎37歳で~す。今日は楽しんでいってね♪」

 

 代表して虹夏ちゃんが挨拶をして、皆揃ってお辞儀をすると銀次郎さんは笑顔で返してくれたが、直ぐに困ったような表情を浮かべ私に話しかけてきた。

 

 「もう少しお喋りしたいけど、今バタバタしてるから中でゆっくりしてて頂戴」

 「大丈夫です、お忙しい所ありがとうございます」

 「ごめんね~。きくり達は楽屋にいるから」

 

 じゃあね~、と銀次郎さんは言い残すとそのまま忙しそうな足取りでスタッフさん達の所へ向かって行った。

 

 「なんていうか、インパクトのある人でしたね……」

 

 喜多ちゃんが皆の気持ちを代弁するかの様に呟くと、他の皆も頷いていた。

 

 「見た目はあんな感じだけど、中身は乙女な人だから心配しないでいいよ。それに、この後も個性的な人達に会うんだから気にしない気にしない」

 

 バンドマン関係の人なんてインパクトのある人ばっかだし、むしろ銀次郎さんは相対的にまともな方なんじゃないかな。

 

 「とりあえず、皆待ってると思うから楽屋の方に行こうか」

 

 まだ少し呆然としている皆に手をポンと叩いて促し、そのまま楽屋へと入室する。

 中にはSICK HACKとSIDEROSの皆が揃っており、きくりが一早くこちらに気付いて声をかけてきた。

 

 「皆さんいらっしゃーい! 今日は来てくれてありがとうねー!」

 

 そのままこちらにズンズン近づいて来て、結束バンドの皆一人一人の手を掴んでブンブン握手をした後に

 

 「というわけで皆ー! こっちも集合―!」

 

 と他のメンバーに声をかけた。

 事前にお願いしていた通り、お互いが向かい合うような形になったので私が先に虹夏ちゃんへ挨拶を促す。

 

 「虹夏ちゃん、まずはこっちから挨拶しようか」

 「あ、はい! 結束バンドのリーダーでドラムの伊地知虹夏です! 今日はご招待してくださってありがとうございます!」

 「ベースの山田リョウです。宜しくお願いします」

 「ギターボーカルの喜多郁代です! 宜しくお願いします!」

 「え、えっと……。リードギターの後藤ひとりです。よ、宜しくお願いします」

 

 結束バンドの皆が挨拶をすると、幾分か空気が和らぐのを感じた。

 ちなみに今日のチケットは私の奢りという事は秘密にして、あくまでSICK HACKが招待してくれたという事できくり達とは話を合わせている。

 

 「ご丁寧にありがとう。SICK HACKのドラム担当、岩下志麻だ。美空とは高校からの付き合いで伊地知先輩にもお世話になっていたよ。宜しく」

 

 まず志麻が率先して挨拶をして、大人の余裕といった感じで穏やかに言葉を交わすと結束バンドの皆も安心した様子を見せた。

 

 「ハイハーイ! 清水イライザ、ギター担当だヨー! イライザって呼んでいいから私とも仲良くして欲しいネー!」

 

 喜多ちゃん以上の明るさでイライザが挨拶すると、そのまま結束バンドの皆にむぎゅむぎゅとハグをしていく。海外の人特有の挨拶に皆面食らってしまっていたようなので慌ててフォローをする。

 

 「イライザ、いきなりハグはびっくりしちゃうって」

 「Oh、ソーリー」

 

 私がぽんぽん背中を叩いて促すと、イライザは慌てて最初に立っていた位置に戻っていった。一瞬間が空いてしまったので、そのままヨヨコちゃんにパスをする。

 

 「ヨヨコちゃん、SIDEROSからも自己紹介お願いしていいかな」

 「……SIDEROSのリーダー兼ギターボーカル、大槻ヨヨコよ。宜しく」

 

 ……んん~? ヨヨコちゃん、やたら不愛想だな。前に私に挨拶してくれた時はこんな感じじゃなかったのに、どうしたんだろう。

 

 「ヨヨコ先輩、挨拶くらいちゃんとやりましょうよ。自分はドラムの長谷川あくびです。宜しくお願いします」

 「リードギターの本城楓子ですー」

 「ベースの内田幽々です」

 

 不穏な空気を感じ取ったのか、長谷川さんがすかさず挨拶をして、本城さんと内田さんも笑顔で挨拶をしてくれた。

 

 「すいませんね。ヨヨコ先輩、ライブになると緊張してこんな感じになっちゃうんすよ」

 「ちょっとあくび! 言わなくてもいいでしょ!」

 「でもヨヨコ先輩、同世代のバンドと仲良くなれる機会なんて中々ないじゃないっすか」

 「そうだよーヨヨコちゃん。ヨヨコちゃんメンバー以外に友達いないし友達作る良い機会だと思うけどな~」

 「そんな事ないですよ姐さん! ライブに来てくれる人とか、フォロワーさんとか友達いっぱいいます!」

 「ヨヨコ先輩、それは苦しすぎますよー」

 「なんか、ぼっちみたいな人だね」

 「え、えぇ? 私はクラスにちゃんとお友達いますよ?」

 「ぼっちちゃんそんな所でマウント取らなくていいから!!」

 

 長谷川さんの一言を皮切りにさっきとは違うわちゃわちゃした空気になり始めた。

 ま、まぁ殺伐とした空気になるよりかは良いかな……?

 っていうかヨヨコちゃん、努力家でメンタル強そうだと思ってたけど意外と繊細だったのね。

 

 「でも、人気バンドの人達でもやっぱり緊張するんですね。そういうのに慣れてて、常に余裕を持って演奏出来てると思ってました」

 「そんな事ないですよー。私達も毎回緊張しっぱなしです」

 「ヨヨコ先輩がこんな様子だから一周回って冷静になれますけどね~」

 

 喜多ちゃんが感じた疑問を口にすると、本城さんと内田さんが苦笑しながら答える。

 

 「あ、あの……それはやっぱり、お姉さん達も同じなんですか?」

 

 そしてひとりちゃんがきくり達の方に問いかけると、きくりも、志麻も、イライザも、様々な感情が入り混じった笑顔を浮かべた。

 

 「そうだね。もちろん、緊張するよ」

 

 穏やかでありながらも、真剣な眼差しで皆を見据えながらきくりが答える。

 

 「だが、緊張するからこそ自分たちはそれだけ音楽に打ち込んで来たんだと実感するんだ」

 「ソノトーリ! 音楽は国境を超えるし、聴いてくれる人にパワーをあげられるならへっちゃらネ!」

 

 志麻とイライザも、それぞれの想いを、力強く皆を見据えながら答える。

 真摯に、それでいて積み上げてきた物の深さを感じるその言葉に、私も思わず聞き入ってしまった。

 一瞬時が止まった様な錯覚を覚えたけど、すぐにきくりがにぱっと笑顔を浮かべて話を続けた。

 

 「ま、今日はSIDEROSの皆も大船に乗った気持ちで大丈夫だよ。多少やらかしてもお姉さん達が盛り返すから任せなさ~い」

 「いや、自分らがどんなライブしようが最後は滅茶苦茶になるじゃないすか」

 「……何? きくりもしかして、後輩と一緒にライブやってもとんでもパフォーマンスしてるの?」

 

 私がドスの効いた声で訊ねると、ガマの油みたいな汗を流しながらきくりが弁明しようとしてきた。

 

 「い、いやぁだってほら、多少ハメ外さなきゃライブなんて出来ないし実際お客さんも楽しんでもらってるし……」

 「その分お店壊した分の修理代をギャラから引かれてるけどネー」

 

 イライザがジト目で呟いた瞬間、私はきくりにアームロックを極めていた。

 

 「やるにしても限度を弁えなさいよ! 迷惑系オーチューバーかお前は!」

 「んほぉぉぉぉぉぉ! やめて美空! 折れちゃう、折れちゃうぅぅぅ!」

 『やっちゃってください藤原さん!』

 「いや止めなさいよあんた達!」

 「美空さんそれ以上いけないです!」

 

 楽屋にはきくりの叫び声と、ここぞとばかりに囃し立てる長谷川さん達、そして必死に止めようとするヨヨコちゃんと虹夏ちゃんの声が木霊した。




 原作を読み返すと意外とSIDEROSと顔合わせするのに時間が掛かっていたので今後の展開を考えると早めに顔合わせした方が便利だったのでこういう展開にしました。
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