現状だとSIDEROSの曲は妄想の産物でしかないのですが、作者は作詞作曲スキルを持っていないのでいつも以上にライブシーンが薄味だと思います。
やはりぼざろ二次創作における音楽描写は鬼門です。(n回目)
危うくお姉さんが美空さんにKOされかけたのを皆で阻止して、今はフロアでライブが始まるのを待っている。
……お姉さん、美空さんに技をかけられてた時若干アヘってる様に見えたんだけどもしかしてそういう趣味なのかな……?
「お~、お客さんすごい集まってきたね」
「SICK HACKとSIDEROSの二枚看板が同じ日にライブするからね。ざっと500人くらいはいるんじゃない?」
「という事は、よっぽど人が集まらない限り文化祭もこれくらいの人数でやるかもしれないんですよね……」
虹夏ちゃん達が話しているのに釣られて私も周囲を見渡すと、いつの間にかぞろぞろと人が入って来ているのが目に入った。
「わわっ。ひ、人がたくさん……!」
STARRYとは違う圧倒的な人の波に思わずたじろいでしまいそうになったけど、そんな私の手を優しく握ってくれる人がいた。
「ひとりちゃん、大丈夫?」
声の方向に目線を向けると、美空さんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
ほんのり暖かい手の感触のおかげで、私の心は少し落ち着きを取り戻せた。
「は、はい。大丈夫です」
「ぼっち、しっかりしろ。文化祭ではこれくらいの人数の前で自分が演奏するのかもしれないんだよ」
いつもの平坦な感じとは違う、珍しく感情の籠った声でリョウさんに声を掛けられてハッとなった。
そうだ、今日来たのはただライブを見に来たんじゃなくて、文化祭に繋がるよう少しでも何かを掴むために来たんだ。
相変わらず人がどんどん入って来て圧迫感が更に増すけど、一回深呼吸をする。
皆でメジャーデビューを目指すって決めたんだ。
本当のヒーローになって、私が皆を助けるんだ。
ステージに立ってもいないのに、これくらいの人波に怯んじゃ駄目だ。
「すいません、リョウさん」
ぐるぐると頭の中を回っていた雑多な感情を振り払うように、自分のほっぺを両手でパチンと叩く。ちょっと力加減をミスって目の前にお星さまが見えたけど我慢する。
そんな私を見たリョウさんは、また珍しく誰から見ても分かるくらいの微笑みを浮かべた。
「頼むよぼっち。文化祭では見せ場を作ろうと色々考えてるからさ」
「が、頑張ります」
「虹夏先輩~! 何か二人の間に妙な絆を感じます~!」
「よしよーし。じゃあ喜多ちゃんはあたしとくっついてようか」
「はっ!? つまりこれは間接的にいつも虹夏先輩とくっついてるリョウ先輩の気分を味わえるという事ですね?」
「こっちは久しぶりに喜多ちゃんのヤバさを味わったよ」
私達らしい?ぐだぐだな空気に緊張が解けて気持ちが楽になる感じがした。
あ、そうだ。美空さんにもお礼を言わないと。
「美空さん、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「いいよー気にしないで。ひとりちゃんが頑張ってる姿を見れてお姉さん嬉しくなっちゃった」
ニコニコと笑顔を浮かべて美空さんは私の頭を撫でてくれた。
「ちなみに皆、今日の二組がどんな音楽が持ち味かは予習してきてる?」
「あたしは前からチェックしてたので分かります。SIDEROSはメタルで、SICK HACKは……サイケデリックでいいのかな?」
「私も少し聴いたんですけど、SIDEROSはともかくSICK HACKは不思議な感じって事しか分からなかったです」
「サイケデリック・ロックは、1960年代後半に発生し流行したロック音楽の派生ジャンル。最初にレコードとして登場したのは1966年とされていてアメリカ西海岸から始まったサイケデリック・ムーブメントは、1967年には世界中を席巻するようになったと言われているね。主にLSDなどのドラッグによる幻覚をロックとして再現した音楽のことを指し、浮遊感のある独特のサウンド、エキゾチックな音階、そして通常の録音方法では再現できない革新的なサウンドエフェクトが特徴で~」
「リョウ先輩すごい早口!?」
美空さんが引率の先生みたいに質問を投げかけると、リョウさんが目をキラキラさせながらマシンガントークを繰り出す。そういえばリョウさん、一人でSICK HACKのライブ見に行く位には好きなんだっけ。確かにリョウさんも不思議な人だからサイケデリックみたいな独特の世界観はハマりそう。
「リョウちゃん、素晴らしい解説をありがとう。概ね喜多ちゃんの感じた敢えて音を歪ませた不思議な曲って印象で良いと思うよ。ジミ・ヘンドリクスとかグレイトフル・デッドなんかが有名かな」
「ひとりちゃんが飼ってるワンちゃんのジミヘンってそこから来てたんですね」
「え、犬の名前がジミヘンなの?」
「あ、はい。ちなみに私の家の中のカーストは飼い犬より下です……」
「ぼっちちゃん自虐ネタに走らなくていいから!」
「アハハ……。そ、そういえばメタルもなんか種類がいっぱいあるみたいで混乱するんですよね」
「メタルもヘヴィ、メロスピ、スラッシュ、シンフォニック、デスとか色々あるからね。まぁ、今の喜多ちゃんに一番大事なのはジャンルを限定しないで色んな音楽を聴いて、自分がどう感じたかっていうのを分析しながら世界を広げていく事だと思うよ」
「……分かりました。リョウ先輩、良ければお勧めのCDをいくつか貸してもらってもいいですか?」
「ふふふ、よかろう。期待して待ってるがよい」
「リョウ好みの変な曲ばっかりじゃなくてちゃんと分かりやすい曲も貸してあげなよ」
喜多ちゃんも何か思うところがあったのか、リョウさんにお願いするとリョウさんも心なしか嬉しそうに返事をした。
そんなこんなで皆で話をしていると、フロアの照明が暗くなりステージの幕が上がった。
スポットライトが照らされたステージ上にはSIDEROSの皆が立っている。
「皆、今日は来てくれてありがとう。先鋒は私達SIDEROSが務めるわ」
控室で他のメンバーにからかわれていた時と違って、ステージ上の大槻さんは堂々とした立ち振る舞いで声をかけた。
自分とそう年が変わらないはずなのにトップアーティストを彷彿とさせるオーラに目を奪われて……ふと、大槻さんと目が合った気がした。
「私事で申し訳ないけど、今日はちょっと負けたくない相手が観に来ているからね」
そして挑発的な笑みを浮かべた後、一転して鋭い目つきで声を張り上げた。
「SICK HACKの前座だなんて言わせない! 私達SIDEROSで塗り潰してやるから覚悟しなさい!」
フロアに声を轟かせると一気に熱が高まり、お客さんの歓声がスタートの狼煙と化す。
反射的に身構えちゃうけど、予想を裏切るかのように聴こえて来たのは本城さんのギターだった。
弦を一本ずつ鳴らすアルペジオ奏法はハープの様な柔らかい音色を響かせ、穏やかそうな性格の本城さんとすごいマッチしている。
予想だともっとズンズンバキバキした感じの音楽だと思っていただけに、ほぅと溜息が出てしまった。
優しい笑顔を浮かべながらギターを弾く本城さんに私だけじゃなく周りのお客さんも静かに聞き入っていたけれど。
それは、突然牙を剥いた。
ほんの一瞬の隙間。
そこに大槻さん、内田さん、長谷川さんの三人が流れる動作で合流し、一変して重低音の大音量を響かせた。
リズムが一気に加速し、その勢いをエネルギーに変え大槻さんが歌う。
ガールズバンドとしては重く、お腹の奥にズドンと貫く様なサウンド。
けれど大槻さんはその音に負けず、力強いハイトーンボイスを繰り出す。
眠っていた獣の目覚め。
轟くサウンドは巨大な心臓の鼓動で、このフロアは狩場。
大槻さんの歌声は神話に出てくる狼の咆哮を彷彿とさせ、彼女を筆頭に四頭の獣がこちらに迫ってくるかの様なビジョンが私の脳内に映し出された。
威圧感のあるアグレッシブな歌詞と音に最初は驚いたけど、不快感は全く無い。
神秘的とも言えるSIDEROSの曲は、観ている人達の体の奥底にある感情を奮い立たせる力強さがある。
他ならぬ自分自身の心臓が高鳴り、体が熱くなっているのを確かに感じているのが証拠だ。
加えて、中盤になって差し掛かった大槻さんのギターソロは、前に美空さんが披露してくれたギターソロと同等かそれ以上のスケールを持ち合わせていた。
力強さと速さを兼ね揃えた高速弾きに、オーディエンスが引き込まれ大きな歓声が沸き上がる。
──こんなに凄い同世代が、自分たちのライバルなんだ。
山の様に高く分厚い壁が立ちはだかる事を本当の意味で実感するけど、不思議と絶望感は感じない。
むしろ、どうやって挑もうかワクワクしている自分が居た事に驚くと同時に、数十分前の控室での出来事が思い返された。
ライブ前、時間が迫り控室を出て行かなくちゃいけなくなった時、大槻さんに呼び止められた。
『姐さんとセッションしたのってあなた?』
『は、はい……』
何やら殺気立った感じで大槻さんに質問された私は小動物みたいに小さくなりながら返事をした。
そんな私を気にせず大槻さんはジッと見つめた後、ビシッと指を突き出してこう言った。
『絶対に負けないから』
言われた時は呆気に取られる事しか出来なかったけど、今は違う。
──私も、負けたくない。
大槻さんのバンドマンとしての姿を見て、彼女がどれだけ音楽に時間を掛け、努力してきたのかをまざまざと見せつけられた。
だからと言ってこのまま引き下がって良いのか?
答えは、ノーだ。
今まで経験した事のなかった、心臓の奥に感じるパチパチと弾けるような鼓動。
ギタリストとしての私の始まりは、ちっぽけな理由だったかもしれない。
でも、ギターを続けていたから結束バンドの皆と出会えて、生まれて初めて人生の大きな夢を持つ事が出来た。
虹夏ちゃんの夢を支えたい。
リョウさんともっと一緒に曲作りをしたい。
喜多ちゃんと共に喜びを分かち合いたい。
夢を叶えるために、この人達に負けたくない。
今はまだ、どうやって目の前の大きな存在を超えればいいのか見当もつかない。
それでも、ずっと一人ぼっちだった私に出来た初めてのライバルという存在は高揚感をもたらし、心の底の音楽に対してのプライドと情熱を焚き付けてくれた。
SIDEROSの曲はメタリカのBatteryがモチーフです。
作者のレパートリーが貧弱すぎる故にどんな曲をモチーフにするかで滅茶苦茶時間が掛かる、描写に迷いまくる、出来た結果が中二病臭いの三重苦でした。
この世界線だとSIDEROSはライバルキャラとしての側面を強調したいと思っているので、ヨヨコちゃんはツンデレというよりかはツンギレみたいな感じになるかもです。