夢への旅路   作:梅のお酒

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 最近、描きたい映像は浮かんでいるけどそれを文章化するのに滅茶苦茶時間がかかるという現象に悩んでいます。
 今回もその影響で1シーンで区切ってます、中々話が進まなくてごめんなさい。


第31話 ワタシダケユウレイ

 その後のSIDEROSのパフォーマンスは全てが圧巻の出来だった。

 スタート前に美空さんが言ってたみたいにメタルにも色んな種類があって、一番最初のヘヴィな感じ一辺倒では無く、同期を駆使してバイオリンの音を加えたシンフォニックな物や一層重くて低いデスメタル風の曲なんかもあった。

 単に曲数を揃えてライブを成立させるだけじゃなく、お客さんを飽きさせない為の曲のバリエーションとそれに対応できる演奏スキル、そして大槻さんの歌唱力は疑いようのなくトップレベルなのだと痛感した。

 

 「くぅ~堪らん! 学生でこんなに高いレベルのバンドだなんて観に来て良かったわ~!」

 

 ステージの幕が一旦下がりバンド交代の準備が進む中、美空さんがすごいご満悦な様子で息を吐いた。

 前に一緒にご飯を食べた時に聞いた美空さんがバンドを始めたきっかけだったり好きな曲の傾向を考えると、確かに美空さんには滅茶苦茶刺さりそうな感じだったかも。

 

 「笑いごとじゃないですよ美空さん」

 「美空さんはどっちの味方なの?」

 「ごめんごめん。そんなに怖い顔しないで」

 

 同世代のバンドとの実力差を叩きつけられたこともあってか、虹夏ちゃんとリョウさんが美空さんの態度に不満そうな言葉を投げかけると美空さんは苦笑しながら両手を上げて謝った。

 ……実は私も手放しにSIDEROSを褒める美空さんに胸の中がモヤモヤした感じがするから、虹夏ちゃんとリョウさんがそういう言葉を投げるのに心の中で同意してしまう。

 

 「実際問題、レベルが高すぎて何が何やらって感じで……」

 「私もひとりちゃんと同じです。山が高すぎてどう立ち向かえばいいのか全然イメージ出来ないです……」

 「むふふ。私は今の皆のリアクションで希望があると思ったわよ」

 

 私と喜多ちゃんもぽつぽつ感想を言うと、すっかりお約束になった顔の前で人差し指だけを立てるポーズを美空さんは見せた。

 美空さんがこうする時は大事なことを言う合図になっていて、私たちは反射的に背筋を伸ばして聞く姿勢を取る。

 

 「まず皆、今のSIDEROSの演奏を聴いて純粋に凄いと感じたでしょ?」

 

 美空さんの問いかけに私たちは揃って頷く。

 

 「それが大事で、ライバル相手でも凄いものは凄いと言える。斜に構えないで素直に相手の実力を認めるあなた達の素直さは大切な美徳よ。それが出来なくちゃ相手との実力差を正しく受け入れて自分達の練習に活かすなんて出来ないからね」

 「えー……? それって当たり前の事じゃないんですか?」

 「そんな事ないわよ。大人でもこれが出来なくて周りが~とか、環境が~とか言い訳する人間なんてたくさん居るんだから」

 

 喜多ちゃんが不思議そうな顔で問いかけると、美空さんは困った顔をしながら答えた。その表情で何となく美空さんが会社で色々大変そうな事を経験しているんだなというのが察せてしまった。

 

 「ま、それはともかく」

 

 ちょっと話が逸れそうになってしまったのを感じたのか、ポンと手を合わせて美空さんが続ける。

 

 「前にも言ったけど、まずは超えるべきは昨日の自分だって事を忘れないで。相手が誰だろうと、まずは自分を超えなきゃ本当の意味での上達は無い。そして、そのための道案内は私に任せて頂戴」

 

 そう胸を張りながら言う美空さんに、私は大きな頼もしさを感じた。

 あ、そうか。

 

 『皆、美空に教わってるなら大丈夫。私が保証する』

 

 お姉さんが前に言ってたのって、こういう事か。

 いや、もちろん今までも美空さんにお世話になりっぱなしで、特に私なんか一番助けてもらっている。

 でも、進むべき道が分からなくなっても、美空さんならその道を照らしてくれるという確かな安心感を生んでくれる事を今一番実感した。

 

 「確かに、SIDEROSとのレベル差だけを考えててもしょうがないしね。悩むくらいだったら練習して前に進む方が建設的だよね」

 「実際、これだけのハコを埋めるバンドに音楽を教えていた実績が美空さんにはあるわけだしね。ただ、これも前に言ったけど美空さん頼りじゃなくて私達も自分で考える術を身に付けて行こう」

 『はい!』

 

 先輩二人の言葉に私と喜多ちゃんが揃って返事をすると、それが合図かの様にフロアの照明が消えステージの幕が上がった。

 

 「あ、SICK HACKの演奏が始まるから見ようか」

 

 美空さんが私達を促して目線を変えると、ステージ上にはお姉さん達が立っていた。

 

 「はいは~い。皆さんこんばんは~! トリを務めますは我々SICK HACKで~す!」

 

 大槻さんとは違うゆるーい感じでお姉さんが挨拶をする。

 っていうかお姉さん、顔が赤いし足元は怪しいしで本当にお酒飲んでライブしてるんだ……。

 そんな私の心配を他所にお姉さんは変わらずに話を続ける。

 

 「SIDEROSとちょっと言いたいこと被っちゃうんだけどさ、今日は大切な人が観に来てくれてるんだよね」

 

 ニヤリ、とお姉さんが笑みを浮かべると──纏う空気が一瞬にして変わった。

 

 目をガッと見開き。

 ギザギザの歯をむき出しにし。

 下駄でステージを力一杯ズガンと踏みつけ、吠えた。

 

 「最初からフルスロットルだ! 行くぜ! 志麻! イライザ!」

 

 男性ボーカルも顔負けな圧力の声を轟かせると、カウントも無しに息ぴったりなお姉さんのベースとイライザさんのギターが鳴り響く。

 むず痒さを感じる不思議なメロディーが紡がれるも、ワンテンポ遅れて合流した志麻さんのドラムが加わる事で一気に目が覚めたみたいな立体感が増す。

 

 『間違い探しの夜更かし あら楽しい 迷い子が手招く 夢の国へ』

 

 歌い始めたお姉さんの声は普段とは違う低めのハスキーな感じで、それは誘い込まれるような蠱惑的な魅力を持っていた。

 段々と曲が進むにつれて、先の見えないジェットコースターの様な緩急で曲は紡がれる。

 そのメロディーに頭の中をかき回されるみたいな感触がするも、それでいて心地よさを感じる酩酊感がすごい楽しい。

 もっと味わいたいと思わず一歩踏み出し、危うく前に居た人とぶつかりそうになった所で私は自分が何をしようとしたのかに気付けた。

 そして、自分の意志とは関係なしに体が動いてしまったSICK HACKの音楽に、ゾクリと背筋が震えた。

 

 SIDEROSの音楽は聴いている人をドカンと吹き飛ばしかねない迫力が魅力だったけど、SICK HACKは真逆だ。

 煙の様に聴いている人に絡みつき、気付かれないまま虜にしてしまう。

 浮遊感と中毒性を直接脳に流し込む、正にサイケデリックの世界観を構築するその表現力とメンバーの実力にただただ見惚れていた。

 

 見失いそうになる変拍子を完璧に叩く志麻さんのドラム。

 感情的でありながらも奥底には聴いている人を誘うロジックが詰め込まれたイライザさんのギター。

 全てを支えるベースの音の壁を作り出し、オーディエンスを熱狂に引き込むお姉さんのカリスマ性。

 

 『ワタシダケユウレイ アナタモユウレイ』

 

 曲が終わり、僅かな余韻がフロアを包むのも束の間。

 すぐに爆発的な歓声が沸き起こり、ライブハウスを壊すんじゃないかと思うくらいのとてつもない熱量に支配される。

 

 「イエーイ! サンキュー!」

 

 Vサインを掲げながら満面の笑顔を浮かべるお姉さんは、格好良くてキラキラ輝いていた。

 お客さん全員がステージに釘付けになって、演奏を通して多くの人達が一体になる。

 ステージに立つ演者は、ヒーローになれる。

 それを体現した今日のお姉さんの姿は、紛れもなく私の思い描いていた理想のヒーローだった。

 

 ──私も、あんな風になりたい。

 

 そのためには、もっともっと練習して頑張らないと。

 そして、その中で結束バンドの皆と最高の景色を見れたら……それはどんなに嬉しい事なんだろうな。

 あ、でも今一番嬉しいのは美空さんかもしれない。

 だって、昔からの友達がこんなにすごくて立派なバンドになっていたら私だったら自慢しちゃうもん。

 きっと始まる前みたいな良い笑顔をしているんだろうなと思い美空さんの顔を見ると……その予想は全く違うものだった。

 

 美空さんは、確かに微笑んでいた。

 けれどその笑顔は、前に見せた儚げな物で……SICK HACKを見るその目は、あまりにも眩しい輝きを直視する事を恐れている様にも見えた。

 喜びと、寂しさと、悲しみが混ぜ合わさった複雑な表情。

 

 私は、反射的に美空さんの手を握ってしまった。

 だって、こうしないと……美空さんは今にも、誰にも、何も言わずに何処かへ去ってしまうような気がしたから。

 

 「どうしたのひとりちゃん?」

 

 美空さんに呼ばれ、意識が現実に戻される。

 

 「え、あ……。えっと、その……」

 

 美空さんが消えちゃうんじゃないかと思った、なんて素直に言えるわけが無いので頭の中で必死に次の言葉を考える。

 

 「あの、お姉さん達すごかったですね! この人達に教えていた美空さんもすごいです!」

 「……ふふ。そうだね。きくり達、すごかったね」

 

 本心だけど小さい子供みたいなレベルになってしまった私の賛辞でも、美空さんはいつも通り頭を撫でながら笑顔で答えてくれた。

 

 でも、一瞬……ほんの一瞬だけ、美空さんは感情が消えた能面みたいな表情を浮かべた気がして。

 今浮かべている笑顔も、いつもとは違う底が見えない何かを宿している様な気がして。

 

 その時初めて、私は美空さんを怖いと思ってしまった。




 オリ主の内面は結構面倒くさい事になってますが、そこら辺も含めて今後の物語を書いて行きたいです。
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