・男性だったら→ぼっちちゃんが打ち解けるのにすごい時間が掛かりそうなのでボツ。
・男の娘だったらワンチャンいけるか?→それでもSICK HACK周りの話がやりづらいのでボツ。
・いっそオネエならどうだ!?→銀次郎さんと被るからボツ。
といった流れがありました。
SICK HACKとSIDEROSの合同ライブは大盛況と言える結果で終了した。
帰り際の物販コーナーでもお客さんがたくさん居て、メンバーの皆はファンサービスも兼ねた対応で忙しそうだった。
私達も記念と今後の目標を忘れないという意味も込めてCDを買って、改めて楽屋でお疲れ様会が始まるまでフロアで待っていた。(ちなみにリョウさんはSICK HACKのグッズを爆買いしようとしてお金を喜多ちゃんにせびっていたら虹夏ちゃんにシメられた)
皆でライブの感想を話しながら待っていると、吉田店長が撤収作業を終えた事を教えてくれたので楽屋に向かうと。
「ふ、ふふ……。ど、どうだったかしら私達のライブは? ゴホッゴホッ。私達はトップを目指しているからね。これ位のパフォーマンスは当然よコヒューコヒュー」
「駄目だってヨヨコちゃ~ん、折角観に来てくれたのにそんな言い方しちゃゲロロロロロロロロ」
『なんか死にかけてるーーー!?』
息も絶え絶えでソファにもたれ掛かっている大槻さんと、真っ青な顔で口元にビニール袋を覆っているお姉さんが居た。
「え、これ大丈夫なんですか?」
「ヨヨコ先輩は大丈夫っすよ。まぁ今回はいつも以上に気合入れ過ぎてたんで少し時間掛かるかもしれないっすけど」
「きくりも大体こんな感じだよ。いや、今回は奇跡的に破壊行為がゼロだったから大人しい方か」
「お水飲ませておけばその内元通りになるヨー」
「家庭菜園か何かですか?」
「あ、じゃあ今の内に志麻さんとイライザさんにサイン貰っていいですか」
「お前本当にブレないな!?」
「もちろんイイヨー。やっぱりファンとゆっくり話せるのは嬉しいネー」
「いつもはきくりのやらかしのせいで謝罪巡業だからな……」
「……心中お察し致します」
「ねぇねぇ、SIDEROSって普段どういう風に練習しているの?」
「そうですね~。もっぱらヨヨコ先輩がガミガミ言いながら修正点を洗い出してる感じですかね~」
「幽々ちゃん、それじゃ説明にならないよー。あ、折角だからロイン交換しない? 練習風景の動画とか送るから良かったら参考にしてみて」
「ありがとう!」
あぁ、どうしよう。流れでそのまま私以外の人達が会話を始めちゃった……。こういう時に隙を見て合流するのは陰キャには高難易度すぎる……。
あ、でもお姉さんと大槻さんに改めてお礼は言った方が良いよね。むしろ今しか言うタイミグなんて無いし。
グロッキー状態の二人には申し訳ないけど、恐る恐るソファに座っている二人に近づいて私は声を掛けた。
「あの、お姉さん、大槻さん。今日はありがとうございました」
「気にしないでいいよ~。こっちこそ来てくれてありがとう」
「ふん。そもそもこの二組でライブするなんてプレミア物なんだからね」
「も~ヨヨコちゃんまたそんなこと言う~」
「あ、いえ。その通りで、どちらのバンドも凄かったです」
お姉さんがとげとげしい態度の大槻さんを宥めるも、本当にライブのクオリティはハイレベルだったから私は何も言い返せなかった。
むしろ、虹夏ちゃん達と同い年なのに大槻さんの堂々とした貫禄は尊敬に値するものだった。
「大槻さん」
「何?」
だから、私は訊いてみたかった。
「大槻さんは、失敗が怖くないんですか?」
「……はぁ?」
尋ねた瞬間、大槻さんはヤンキー漫画の睨み合いみたいに『ビキィ』という効果音が聞こえてきそうな表情でこっちを見てきた。
「ひぃ!? す、すいませんごめんなさい!」
私は慌てて謝り倒す。
普通に考えればそんな事を考えてちゃライブなんて出来るはずがないんだから、大槻さんの態度は至極当然の事だ。
床に擦り付ける勢いで頭を下げていると、今度は「はぁ……」と大槻さんの溜息が聞こえて来た。
「私だって、怖いわよ」
恐る恐る顔を上げると、口をへの字に曲げた大槻さんがいた。
「ライブ前に姐さん達だって緊張するって言ってたじゃない。プロだってライブ前に緊張するのも、失敗を思い浮かべてしまうのも当たり前。でも、その不安を打ち消そうとするから一生懸命練習するし、怖くなくなったら逆にバンドマンとして終わりだと思うわ」
淡々と、さも当然といった様子で大槻さんは話す。
「要は気持ちの持ち様ね。やるんだったら良い方向に考えないとやっていけないわ。……っていうか、何で敵にこんなアドバイスしなくちゃいけないのよ!? そもそもあなた姐さんとセッションして認められた位なんだからウジウジしてんじゃないわよ!!」
「あぇぇ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
こ、今度は逆ギレ!? やっぱり大槻さん怖い!
「ヨヨコちゃん、ストップストップ。ひとりちゃん、ヨヨコちゃんはこんな調子だけど根は良い子だから。これからも仲良くしてあげてね」
「は、はぁ……」
「元はと言えば誰が原因だと思ってるんですか!」
今度はお姉さんがタコみたいににゅるにゅる絡みながら大槻さんを宥め、大槻さんは口では抗議の声を上げながらもなすが儘になっている。
なんていうか、自由なお姉ちゃん相手に手を焼いている妹って感じで二人の間には私の知らない絆みたいなのがあるんじゃないかと感じた。
「あれ、そう言えば美空さんは?」
ふと、大槻さんが質問を投げかけた。
「あ、なんか暑くなっちゃったからちょっと外で涼んでくるって言ってました」
「えー。そこは真っ先に私を労りにくるポジションでしょー」
「えっと、直ぐに戻ってくると思いますから……」
お姉さんが口を尖らせながらブーブー文句を言う。
あ、そうだ。ちょっと伝言を頼まれてたんだ。
「美空さんも良い物が観れたって言ってました。その、私もお姉さんキラキラ輝いて格好良いと思いましたし、これだけ凄かったら美空さんは心強かったんじゃないですかね」
私がそう言うと、お姉さんはキョトンとした表情を浮かべていた。
あ、あれ? 私、何か変なこと言っちゃったのかな?
「もしかして、美空から昔の私の事聞いていたりしない?」
「へ? いえ、何も聞いてないですけど」
「……私ね、昔は教室の隅っこでずっと本読んでる陰キャだったんだよ」
「え”!?」
「はぁ!? 初耳ですよ姐さん!?」
「あ、ヨヨコちゃんにも言ってなかったっけ」
驚く私と大槻さんを他所に、お姉さんはカラカラと笑う。
……お姉さんが私と同じ陰キャ? し、信じられない。
「ずっと何か変えたいって思ってても、何をすれば良いのか分からなかった。そんな時に美空の音楽を聴いてさ、勢いでバンドに入れてくださいって頼んだら美空は受け入れてくれたんだ。そこから、私の人生は少しずつ変わっていったの」
照れくさそうに、けれど隠しきれない嬉しさを溢れさせながらお姉さんは話を続ける。
「ま、何が言いたいかって言うとさ。勇気さえあれば誰でも輝けるよ。ひとりちゃんも今は不安がたくさんあるかもしれないけど、路上ライブもハコでのライブも出来たんだから自信を持って大丈夫! 傍に居るのが美空なら尚更ね」
お姉さんの屈託のない笑顔に私も手を握り締め、自分を奮い立たせる様にして答える。
「はい! 私、頑張ります。必ず、二人にも負けない位のバンドマンになります」
「……ふん。何よ、良い顔出来るんじゃない」
私の答えに、大槻さんも何処か満足そうな表情を浮かべていた。
「っていうか姐さん。昔の姐さんの話にもびっくりしましたけど、何がどうなったら今はそうなるんですか?」
「むふふ。大人の女は秘密の一つや二つ持っているものだよ」
質問に対して、お姉さんは微笑を浮かべながら口元に人差し指を当てて秘密のポーズを取る。
うっ、ちょっとだけかっこ可愛いって思っちゃった。
そんなこんなで、最初の頃よりも打ち解けられてそうな空気になったかなって思っていたら、楽屋のドアが開く音がした。
「ごめん、お待たせ」
「あ! 美空遅~い!」
美空さんが申し訳なさそうに入ってくると、お姉さんは犬みたいにトテトテと近づいて美空さんにじゃれつき始めた。
「ねぇねぇ、今日のライブどうだった?」
「うん、凄い良かった。本当……見違える位だった」
「えへへ。でしょでしょ~? もっと褒めて褒めて~」
お姉さんはだらしない顔をしながら美空さんにむぎゅむぎゅ抱き着いて、美空さんもそんなお姉さんに苦笑を浮かべながら頭を撫でていた。
……良かった。美空さん、ちょっと心配だったけどいつも通りの美空さんだ。
やっぱり、あの時見せた表情は気のせいだったのかもしれない。
やがて他の皆も一緒に混ざって話をして、この日の合同ライブは私達結束バンドにとってとても大きな収穫が得られる物となった。
遡る事数分前。
ライブが終った後、私はライブハウスの外に出て一人佇んでいた。
建物の壁に背を預けて、夜の街の灯りに照らされながら道を行き交う人々の雑踏を眺める。
これで煙草なんか吸っていたらMVのワンシーンに使えるかな、等と考えた所でかぶりを振る。
煙草なんて吸うつもりは毛頭ないし、そもそもお医者さんには病気が悪化するから煙草は絶対に吸うなと厳しく言われている。
「すぅ……はぁ」
いい加減に現実逃避を終え、一つ深呼吸をして今日のライブを思い返す。
SIDEROSのパフォーマンスを生で見て、やはり彼女たちは紛れもなく世代ではNo1の実力を持っている事を再確認した。
もしかしたら大学生も含めて、学生界では右に出るものはいないレベルかもしれない。
このままライブを重ねていけば順当にレーベルからのスカウトも来てメジャーデビューにこぎつけると思うけど、そこはヨヨコちゃんの考え方次第かな。
ヨヨコちゃんは妥協を許さない性格っぽいし、仮にスカウトが来たとしても銀次郎さんが傍に居るから情報収集も兼ねて相談をして、もしかしたらインディーズとして自分達のやり方と力だけで活動を続ける可能性もある。
それでも成功してしまうと思える程、彼女達の実力は頭一つなんてレベルでは言い表せない位凄まじかった。
そして、そんな彼女たちを上回る盛り上がりを見せたSICK HACK。
私が居た頃を遥かに凌駕するパフォーマンスは、目を閉じればありありと情景を思い出せる程記憶に刻まれた。
志麻、格好良かったな。
元々リズム感が良いのは知っていたけど更に磨きがかかっていて、その上に経験を重ねたからか細かいニュアンスの表現も巧みで正に曲の心臓とも言えるドラムの役割を担っていた。
YMOのドラマーさんなんかは「機材が壊れてもあの人のドラムを頼りにすれば大丈夫」と言われる位の信頼感があったみたいだけど、志麻もその領域に辿り着けていると思えるレベルだった。
イライザは普段の明るい性格とのギャップがあって、艶やかな色気を感じさせる演奏姿は私でも見惚れてしまった。
繊細なタッチで紡がれるギターを観て感じたのは、彼女のギター経験はおそらく私以上に長い。しかも、ロックだけじゃなくブルースやジャズといった情緒的な音楽の心得が豊富で、それがサイケデリックという変則的な曲調の深みを引き出す役割を担っている。
私よりも年下なのに私以上にフレーズの引き出しや表現力といった巧みな業を持つ彼女の実力に、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
そして、バンドの顔として先頭に立つきくり。
正直、ベーシストとしてのきくりの実力は全く心配していなかった。
何故なら、きくりは天賦の才の持ち主だからだ。
学生の時から私が一年経って身に付けた事を、きくりは半分以下の時間で身に付けていた。
本人は卑屈な性格だったから否定していたけど、日に日に力を付けて、やがて背中を預けられる相棒と言えるまでに成長したのが頼もしかった。
むしろ気がかりだったのはボーカルの方だけど、堂々と歌い切るその姿にかつての気弱な姿は微塵も感じさせない。
自分の音楽を見つけた今のきくりの姿は、間違いなく昔には無かった輝きを放っていた。
──私なんかが、今更友達面して観に来て良かったのかと思う程に眩しかった。
「いいの? 楽屋に行かなくて」
影の様に這いずるざわめきを体の奥に感じた瞬間声をかけられ、私の意識はそちらに引き戻される。
顔を向けると、銀次郎さんがいつの間にか傍に立っていた。
「きくりが拗ねるわよ?」
苦笑を浮かべながら銀次郎さんは言う。
「あはは……。色々クオリティが凄すぎてびっくりしちゃったんで、ちょっと涼んでました」
本音と誤魔化しを半分ずつ混ぜた返答に、今度は心臓の奥に針で刺した様な痛みが走った気がした。
「……美空ちゃん。これだけは忘れないで」
一つ息を吐いた後、銀次郎さんは久しく見る真剣な表情を湛え言った。
「あの子達は、ずっとあなたに感謝していたわ」
静かでありながら力強く、まるで教師の様に諭す言い方に私は押し黙ってしまう。
「あの時、きくりと志麻は音楽を辞める事だって出来た。でも、あの二人は辞めずに続けて、辞めなかったからこそ今がある。そしてその今は、間違いなくあの子達があなたと一緒に駆け抜けた経験が芽吹いているからこそ掴み取れた物なのよ」
私の肩に手を添え、ゆっくりと銀次郎さんは語りかける。
「いつだってあの子達は、あなたの事を想って待っていた。それだけは……心に留めていて」
「……ありがとうございます、銀次郎さん」
痛い程伝わる銀次郎さんの優しさに笑顔で返すと、銀次郎さんもいつもの穏やかな笑顔を浮かべてくれた。
「さ、中に入りましょう。段々涼しくなってきたから、風邪を引いちゃうと大変よ」
そう言いながら銀次郎さんは私の背中をぽんと押し、楽屋へと促してくれた。
ずっときくり達を傍で見てくれていた銀次郎さんにこう言って貰えた私は、間違いなく幸せ者だろう。
けれど……ごめんなさい。
銀次郎さんのお心遣いは嬉しいです。
きくり達が自分の事を想ってくれていたのも、理解しようとしているんです。
それでも私は、自分を許す事が出来ません。
楽屋に辿り着くまでの数分、笑顔というテクスチャーを張り付けた私は自分の中で蠢く感情を抑えるのに必死だった。
ひとまず文化祭までを第一部といった感じで区切ろうかなと思ってます。
たぶん後3,4話くらいなので、一つの節目を目指して頑張ります。