夢への旅路   作:梅のお酒

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 なんとかキリの良い所まで書こうと思ったので今回いつもより少し長く感じるかもしれないです。


第33話 微笑みの爆弾

 指先で摘まんでいる文化祭ライブの申し込み用紙が少し湿り気を帯びていて、それを見るとライブでも無いのに緊張で自分の手がじっとりと汗で濡れているのを自覚させた。

 

 「それじゃひとりちゃん、行くわよ?」

 「……はいっ」

 

 一緒に紙を持つ喜多ちゃんの声に、意を決して返事をする。

 

 『せーのっ!』

 

 二人一緒に掛け声を出して同時に指を放すと申し込み用紙は箱の中に飲み込まれる。

 そして、一瞬間を置いてスコンと箱の底に着地した音が響くと、改めて文化祭ライブに出るんだという事を実感させた。

 

 「これでもう、後戻りは出来ないわね」

 「ま、巻き方を忘れちゃいましたからね」

 「黒龍波でも撃つの?」

 

 あ、良かった通じた。フヘヘ、さすがコミュ強喜多ちゃん。

 冗談が通じた事に私がニヨニヨ笑っていても、喜多ちゃんは「もぅ」と一つ溜息を吐きながらもどこかほっとした様子だった。

 

 「ひとりちゃん、やっぱり前に比べてポジティブになったと思うわ」

 「そう……かもしれないですね。前だったらあれこれ出ない理由を探していたかもしれません」

 

 頭の中で虹夏ちゃんが皆に夢を打ち明けた時や、ステージで堂々と歌う大槻さんの姿が思い浮かぶ。

 

 「でも、皆でメジャーデビューを目指すって決めましたし、何より私自身が出なかった事を後悔したくないっていう気持ちが強かったんです」

 

 結束バンドの皆で、最高のステージを。

 そう心の中で念じ、喜多ちゃんに向き直る。

 

 「喜多ちゃん、一緒にここまで来てくれてありがとうございます」

 「水臭いわよひとりちゃん。一緒に頑張りましょう!」

 

 いつかのお昼ご飯の時みたいに、お互いにお礼を言いあい微笑む。

 それだけでやってやるんだという気合が湧いてきた。

 

 「それに、今回はSICK HACKとSIDEROSの皆も観に来てくれるからね! 目に物を見せてあげましょう!」

 「は、はいっ!」

 

 一変して、今度は熱血キャラみたいに目に炎を灯した喜多ちゃんに少し体を引きつつも、負けたくない気持ちは私も同じなので勢いを付けて返事をした。

 

 

 

 

 話は遡ること合同ライブの日。

 

 「あの、結束バンドの皆さん。ちょっといいですか?」

 

 そろそろ交流会も終わりに差し掛かった時間、私は虹夏ちゃん達に呼びかけた。

 ちなみに敢えて美空さんは呼ばなかったけど、美空さんは気にせずニコニコと笑顔で見守ってくれている。

 

 「どうしたのぼっちちゃん?」

 「えっと、今度の文化祭ライブ、SICK HACKとSIDEROSの皆さんも招待したいなって思うんですけど……どうでしょう?」

 

 恐る恐る提案すると、皆パッと笑顔を浮かべてくれた。

 

 「私もひとりちゃんと同じ! バンドマンならバンドマンらしいお返しをしたいと思ってたの!」

 「あたしも賛成!」

 「私も。そもそもぼっちと郁代の文化祭だから、二人の好きなようにやればいいと思うよ」

 

 皆が後押しをしてくれて、決心がつく。

 改めてお姉さん達の方に向き直って、お腹に力を込めて私は話しかけた。

 

 「あの、来月の頭に私と喜多ちゃんの学校で文化祭がありまして。楽しんでもらえるように頑張りますので、もしよければSICK HACKとSIDEROSの皆さんも観に来てくれませんか?」

 「行くわ」

 

 いの一番、食い気味に返事をしたのは大槻さんだった。

 え、あの、誘っといてアレだけど他のメンバーに相談は?

 

 「だからヨヨコ先輩、一人で勝手に決めないでくださいよ」

 「うっ……。だ、だって姐さんがそこまで言う程のバンドのライブなんて気になるじゃない」

 「まぁ今回は私達も日程的に大丈夫そうですし、観に行ってみたいですねー」

 「というわけで、SIDEROSはOKですよ~」

 

 内田さんがOKを伝えてくれた事にほっとしつつ、今度はお姉さんの方に顔を向けるとニカッと笑ってくれた。

 

 「そう言われたら観に行かないって選択肢は無いよね。いいでしょ志麻、イライザ」

 「モチロン! 楽しみにしてるヨ」

 「きくりの事は心配しないでくれ。私と美空できっちり抑えておくから」

 「えー私知らないよ。志麻一人でやって痛でででででで! すいません協力します!」

 

 美空さんが拒否しようとしたら志麻さんに思いっきりアイアンクローで締め上げられた。

 美空さんがリョウさんみたいな目に遭っているのってすごいレアな光景。もしかしてSICK HACKで揃うとお姉さんとそんなに立ち位置が変わらないのかな?

 

 そんなこんなで、何とか皆来てくれる約束をしてくれて無事に交流会を終える事が出来た。

 

 「不甲斐ないライブをしたら許さないわよ!」

 

 帰り際、大槻さんにビシッと指されながら言われたのを思い出す。

 いつもだったら萎縮してただろうけど……今回だけは、自分の胸の奥にチリチリと火が灯るのを感じた。

 

 

 

 

 そして文化祭に向けて今まで以上に皆で熱心に練習する日々が続いて。

 残り一週間に差し掛かった所で、アクシデントが起きた。

 

 ──バヂン!

 

 「あっ!?」

 

 STARRYのスタジオで練習をしている時に、私の音だけが不意に途切れた。

 手元に残る嫌な感覚をそのままに、私の目にはギターの弦がプラプラとぶら下がる光景が目に飛び込んで来た。

 

 「弦が……!?」

 「はーい。皆一旦ストップ」

 

 見ていた美空さんが手を上げながら皆に声をかけ、私の傍に近づいてきた。

 

 「あらら、派手にいったわね」

 

 美空さんの言う通り、切れたのは一本だけじゃなくて六本ある内の半分が切れていた。

 

 「ひとりちゃん、ちょっとギター触ってもいい?」

 「は、はい」

 

 困惑しっぱなしの私とは違い、美空さんは落ち着いてギターを肩に掛けるとお医者さんの触診みたいにあちこち軽く触り始めた。

 少し時間を置いた後、少し眉を潜めて美空さんは言った。

 

 「触った感じ、ペグもガタが来ているみたい。これだと文化祭は間に合わないかなぁ」

 「えぇ!? そんな……!」

 

 ど、どうしよう!? いつもより力が入っていたのは否めないけど、まさかこんな事になるなんて!

 

 「落ち着いてひとりちゃん。起きた事はしょうがないから、解決策だけを考えよう?」

 

 突然の事にオロオロしていると、美空さんは私の肩に手を添えて優しい口調で語りかけてくれた。

 おかげで少し頭が冷えたけど、どうすればいいのかは分からないままだった。

 

 「あのーすいません。ギターって楽器屋さんに持っていけばすぐ直してくれるんじゃないんですか?」

 「郁代、その考えは甘い」

 

 喜多ちゃんが至極当然の疑問を口にすると、リョウさんが厳しい口調でバッサリと切り捨てた。

 

 「まず、楽器が壊れて困っているのはぼっちだけじゃない。他にもお客さんが居て、楽器屋さんは予約や持って来た順番を考えて修理しないといけないし、ぼっちのギターも年代物だから状況次第じゃ修理にかなり時間が掛かる可能性がある」

 「まぁ喜多ちゃんの気持ちも分かるけど、こればっかりは実際に体験してみないと分からないからね」

 「そ、そうだったんですね……。ごめんなさい、ひとりちゃん」

 「そんな、謝らないでください。悪いのは壊した私ですから」

 

 つらつらとリョウさんが説明し、虹夏ちゃんがフォローを入れても喜多ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 そんな様子を見たリョウさんは海外映画の登場人物みたいに肩を竦めて言った。

 

 「やれやれ、郁代もまだまだ勉強が足りないね。これは教育が必要やなぁ」

 「リョウ先輩の……教育!? あぁ先輩! どうかこの哀れな子豚めにお慈悲をください!」

 「ウチそういうお店じゃないんだけど!?」

 「おんやぁ? そういうお店が出てくるって事はそういうお店がどういうお店か虹夏は知っているって事だな?」

 「うるさーい! それを言ったらリョウだって知ってるって事じゃん!」

 「だって漫画読んでるとそういうシーンあったりするし」

 「普段どんな漫画読んでるのさ!?」

 「そういえば『無〇男』っていう漫画だとドラマーがドラムテクを活かして女王様のバイトをしてたから虹夏もやってみたら?」

 「嫌だよそんなの! そんな事したらお姉ちゃんが泣くわ!」

 「ちなみに私はアメリカ居た時に友達との野球でファッ〇ボールを披露したら大喧嘩になった事があるわ」

 「アホなんですか美空さん!? って、そうじゃなくて! 今はぼっちちゃんのギターをどうにかしなくちゃいけないんでしょ!」

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながら虹夏ちゃんが軌道修正をしてくれる。

 あぁ、やっぱり虹夏ちゃんは頼りになるなぁ。……でもセクシーな衣装を着てる虹夏ちゃんはちょっと見てみたいかも。

 

 「ぼっちちゃん何か言った!?」

 「ひぃ!? 何も言ってないです!」

 

 ギロリと店長さんみたいな顔をして虹夏ちゃんがこっちを睨んで来た。

 こういう所は血が繋がってるんだな……。虹夏ちゃんは絶対に怒らせないようにしよう。

 

 「冗談はさておき、改めてひとりちゃんのギターをどうするか考えようか」

 「美空さん、思いっきり話を引っ搔き回してましたよね?」

 

 虹夏ちゃんがジト目で言っても、美空さんは口笛を吹きながら誤魔化していた。

 

 「一番簡単なのは私のギターを貸す事かな。これだったら明日にでも用意出来るからね」

 「え、美空さんのギターをですか!? だ、駄目です! そんなの恐れ多くて出来ないです!」

 

 頭をブンブン振りながら断る。そんな事したらそれこそ変に力が入り過ぎてまた壊しちゃうか、おっかなびっくり触り過ぎてまともに演奏出来ないかのどっちかになっちゃう。

 

 「だとすると、この際新しくギターを買っちゃうしかないかなぁ。ひとりちゃんのギターってお父さんのお下がりなんでしょ? マイギターを今買ってもひとりちゃんなら文化祭までには馴染めると思うよ。もしお金が足りなかったら私が立て替えてあげるから」

 「いえいえ大丈夫です! いざという時はこの貯金箱がありますので!」

 「その豚さんまだ持ち歩いてたの!?」

 

 お母さんが私の為に結婚費用を貯めている貯金箱を取り出すと、虹夏ちゃんがグイグイ抑えて鞄の中に仕舞うように促した。

 ともあれ他に案も出ないし、もう夜な上に明日は文化祭前最後の週末なので、善は急げと次の日に私の新しいギターを皆で買いに行く流れになった。

 

 「楽器屋さんに行くんだったら御茶ノ水に行こう! お姉ちゃんが昔バイトしてたお店があるんだ」

 「楽器屋さん……多弦ベース……うっ、頭が」

 「あ、喜多ちゃんのトラウマが再発してる」

 「美空さん、実は私のベースもガタが来てて」

 「リョウちゃ~ん? 立て替えると奢るは違うからね~?」

 「アッハイ」

 

 リョウさんが言おうとしてる事を察したのか、美空さんが素敵な笑顔を浮かべながら指をバキバキ鳴らすと大人しくなった。段々と美空さんのリョウさんに対する扱いがお姉さんと同じ感じになっている気がする……。

 

 

 

 

 その後は練習を普段より早めに切り上げて解散になった。

 私の家は下北沢から遠いし、お父さんに相談する事を考えると早く帰る流れにしてくれたのはありがたかった。

 家に着いてご飯を食べると、なんだかんだでふたりが寝ちゃう位には遅い時間になってようやく私はお父さんに話を切り出せた。

 

 「お父さんごめんなさい。お父さんから借りたギターを壊してしまいました」

 「顔を上げてひとり。父さんも流石に自分の娘に土下座をされると心が痛むから」

 

 床に頭を付けて謝る私に、お父さんは背中をポンポン叩いて宥めてくれる。

 

 「それに明日、皆で楽器屋さんに行くんだろう? 逆に自分のギターを持つ良い機会だって考えればそれでいいさ」

 「それなんだけど、私バイト代もバンドの積立に行っちゃってるから新しいギターを買うお金がなくて……。お年玉とかで返すから、お金を貸してもらっていい?」

 

 今度のライブは何が何でも絶対に参加したい。

 そんな想いを胸に秘めながら話すと、お父さんは「ちょっと待ってて」と言って早歩きでどこかへ行った。

 五分も経たない内に戻ってくるとお父さんはお店で見た事あるお金を入れる小さい鉄の箱を手にしていて、パチンと開けると中にはお札がたくさん入っていた。

 

 「え!? な、何この大金……!? まさかお父さん、会社のお金を横領したの……?」

 「そんな黒いお金じゃないから! これはひとりが自分のギターで稼いだお金だよ」

 

 お父さんが言っている意味が分からなくて、私の頭は?マークでいっぱいになった。

 

 お父さんが改めてしてくれた説明だと、どうやらこのお金は一定の再生数を稼いだ私の動画の広告収入で得られたお金だとのこと。

 動画サイトのアカウントを家族共有にしていたから、何時かこうしてお金が必要な時に備えてお父さんがこっそり広告を付けておいたらしい。

 

 「まぁ、収入は二の次でひとりが練習頑張ってどんどん上手くなっていくのを見るだけで父さんは嬉しかったけどね」

 「お父さん……」

 

 嬉しそうに話すお父さんを見て、路上ライブの時に感じた胸がポワッと暖かくなる感覚が胸の中に広がるのを感じた。

 

 「ありがとう。大事に使わせてもらいます。ちなみに、これっていくら入ってるの?」

 「三十万円かな。いやー、娘がこれだけのレベルになってくれて父さんも感慨深いよ」

 「そ、そんなに!?」

 

 バイト何か月分ものお金が入ってるのを知った瞬間、箱の重さを差し引いてもズシリと岩の様に重くなったような感触がした。

 さ、三十万円……。そんな大金だったら十万円のギターを買っても二十万円は余るわけだから、しばらくバイトしなくてもいいかな……と考えたら胸がチクリと痛んだ。

 バイトしなくなったら皆と会える機会が減るわけだし、そもそも皆で頑張ってお金をやりくりしているのに私だけが急にお金を得られたからって辞めるのは……違うよね。

 今でも知らない人と会話するのは緊張するし、ライブハウスに来るお客さんはたまに気合が入った見た目の人とか居て怖いけど……自分だけが逃げるのはもっと嫌だ。

 

 頭を少し振って弱気な考えを消し飛ばし、考え直す。

 えっと、こういう時は美空さんに言われたみたいに目的から逆算して考えると、一番大事なのは明日ギターを買う事だから、必要なお金がいくらかを知らなきゃだよね。

 

 「新しくギターを買うとどれくらい必要かな?」

 「安いのだったら二万円位で買えるけど、父さん的には見た目がちゃっちくて何だかな~って感じがするんだよね」

 

 私の質問にお父さんは真剣に考えて答えてくれる。

 

 「ひとりはケースやアンプっていうギター以外の道具はもう持っているわけだから、七万円前後のギターを買っても良いと思うよ。それ位だったらちゃんとしたギターって感じの見た目で愛着も湧くと思うんだ」

 

 お父さんが教えてくれた事を飲み込み、少し時間を置いて考えた後、私は箱からお金を取り出した。

 

 「じゃあ、足りなかった時の事を考えて十万円持っていくね。残りはまたお父さんに預けてもいい?」

 「もちろん。大切に保管しておくよ」

 

 私がお願いすると、お父さんは大事そうに箱を抱えて了承してくれた。

 これから先、またお金が必要な場面が来るかもしれないし、もしバンドでCDとか作るって話になったらこのお金を出す事も私は厭わない。

 私が納得するお金の使い方であり、私が後悔しない選択をする事が大切だから。

 そんな風に考えていると、お父さんがふふっと笑うのが聞こえた。

 

 「ひとり、バンドとバイトを始めてから変わったよね」

 「え……? そ、そうかな?」

 「うん。前よりもずっと良い顔をするようになったよ」

 「……えへへ。ありがとう」

 

 思わずフニャリと笑顔になってしまう。

 けれどそれも束の間、お父さんは今度は申し訳なさそうな顔をして切り出して来た。

 

 「だから、その……もう動画のコメント欄に嘘を書く必要はないんじゃないかな……? 今のひとりは十分リア充の仲間入りをしていると父さんは思うんだけどな~」

 「あ」

 

 お父さんの言葉に私は目の前が真っ白になった。

 そうだ、家族共有のアカウントって事はお父さんもお母さんも、もしかしたらふたりも知っているわけで……。

 あれ? そもそも結束バンドの皆にも美空さんにも私がギターヒーローだってバレてるって事は、動画のコメント欄を読まれているわけであって……!

 

 「……ほぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 

 自分が犯したやらかしに気付いて、寝ていたふたりが起きてしまう程の絶叫が私の口から飛び出た。

 

 そしてその夜、私は泣きながら今までの動画のコメント欄を修正するのに必死になった。

 




 ①原作以上に練習を頑張ってる描写が欲しいなぁ。
 ②ならギター故障イベントを前倒しにしないとおかしいよなぁ。
 ③文化祭のシーンどうしよう……。←今ここ。

 いや勿論狙ってやっているのですが、原作を見返すとやっぱり原作の尊さには敵わないなぁと悩んでいます。
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