夢への旅路   作:梅のお酒

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 またしても間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
 最初は今回で文化祭に入る予定だったのですが、キャラの心情とかもうちょっと描写した方が良いかな等と悩んでいたらこの有様になってしまいました。


第35話 Hero

 いよいよ明日が文化祭ライブ本番となった土曜日、私達はSTARRYで最終練習をしていた。

 チラリと目を向けると、美空さんが椅子に座りながら真剣な表情でこちらを見てくれている。

 一瞬だけ体に力が入って新しいギターの弦が切れちゃうんじゃないかと不安がよぎったけど、それは杞憂に終わりそのまま最後の曲まで演奏しきる事が出来た。

 

 「……うん、オッケー! これなら明日のライブもバッチリだね!」

 

 少し間を置いた後に美空さんが笑顔で親指を立てながら声を掛けてくれて、それが合図になったみたいに皆の口からフーと息が漏れた。

 

 「はー、良かった。美空さんにそう言って貰えるなら安心です」

 「大丈夫だよ喜多ちゃん。路上ライブっていう武者修行もしてるんだから何とかなるって」

 

 ほっとした顔で控えめな笑顔を浮かべる喜多ちゃんに対して、美空さんも穏やかな笑顔で返してくれる。

 

 「んー。ここまで来ると、ちょっとMCの方も気合入れたくなっちゃうね。売れてるバンドみたいにMCでも面白く盛り上がれないかなー」

 「面白いバンドのMCなんて無い。ファンが空気読んで愛想笑いしてくれているだけ」

 「辛辣すぎるぞ山田ぁ!」

 「現実なんてそんなもの。人気が出ればその内クソMCでも爆笑してくれるから安心しなって」

 「それって慰めてるの貶してるの!?」

 

 虹夏ちゃんとリョウさんの間で火花がパチパチ弾ける光景にワタワタと慌てふためいてしまう。

 あわわ……! 折角良い雰囲気で来れたのに一気に解散の危機!?

 

 「あ、そうだ! 美空さんはどんな風にMCやってたんですか?」

 「え、私?」

 

 『ゔ~』と小型犬みたいに唸っていた虹夏ちゃんが頭に電球を浮かべて美空さんに尋ねる。

 一方、訊かれた美空さんは予想外の質問だったのかヤド〇みたいなポヘーっとした顔で考えた後、だははーっと笑いながら答えた。

 

 「演奏で魅せればいいやって思っていたからその場のノリと勢いだけでやってたわ」

 「強者の理論すぎる!」

 「まぁまぁ虹夏先輩。美空さんの言う事も一理あると思いますから、MCはいつも通りで演奏を頑張りましょう」

 

 白目をむいて嘆く虹夏ちゃんを喜多ちゃんが宥めた後、もう一度当日の流れを確認したりしてこの日は早めに練習を切り上げたのだった。

 

 

 

 

 「それじゃ皆、明日に備えて今日はしっかり休んでね。もし緊張して寝れなくてもそれが当たり前なんだって思えば気持ちが楽になるから」

 『ありがとうございます。お疲れ様でした』

 

 日が傾く時間になってそろそろ解散になる頃、先に美空さんがお店を出るので皆でさよならの挨拶をする。

 初めてのオーディションの時から変わらず、美空さんは前日はあまり長い時間私達と一緒に居ようとしないで、最近は路上ライブの時も時間ギリギリになって合流するという形を取っている。

 これは実際にライブに出るのは私達だから自分達でどう時間を過ごしてボルテージを上げていくかを身に付けるためと教えてくれて、最初はどうすれば良いのか手探りだったけど今では当たり前の事になっていた。

 今日は店長さんもバイトを無しにしてくれたから時間に余裕はある。

 考える時間があったからこそ……私は美空さんにどうしても伝えたい事があって、それを伝えないとライブに挑める気がしなかった。

 

 「すいません。やっぱりちょっとだけ美空さんとお話してきます」

 

 皆で一緒に帰る準備をしていたけど、一言そう伝えて荷物を持たずに慌てて美空さんの後を追う。

 そんなに時間が経っていないから追いつけるはずだけど、と考えていたらちょうど階段を上がりきった所で駅の方向に歩いている美空さんの後ろ姿が見えた。

 

 「あの、美空さん!」

 

 小走りで追いつき、息を切らしながら声を掛けると驚いた表情で美空さんが振り向いた。

 

 「ひとりちゃん? どうしたの?」

 「はぁ、はぁ……。いえ、あの……ちょっと話忘れてた事がありまして……」

 

 自分の体力の無さに呆れながらも息を整える。そんな私をひとまず道の端へ案内しつつ、美空さんは黙って待ってくれていた。

 

 「えっとですね。明日、私の家族も観に来てくれる事になりまして。それで、会場で美空さんにご挨拶したいという事なので宜しく伝えておいてって言われたので」

 「あ、そうなんだ。わざわざありがとうね。こちらこそ宜しくお願いしますって伝えておいて」

 

 急に呼び止められてもニコニコと笑顔で美空さんは答えてくれる。

 ……お母さんに伝言を頼まれたのは事実だけど、本当に伝えたい事のきっかけとして家族をダシにしてしまった事に少し罪悪感を覚える。

 

 「そ、それと、もう一つ伝えたい事があって」

 

 ここまで来たのだから、言うしかない。

 そう念じて、グッと手を握り、美空さんから目を逸らさないで伝える。

 

 「明日のライブ、必ず成功させます」

 

 周りに他の人達が行き交う足音が聞こえる中でも、自分の言葉がやけに大きく響いた気がした。

 

 「勉強の事だったり、バンドの事だったり……私はいつも美空さんに助けてもらってばかりでした。だから……ずっと何処かで、恩返しがしたいって思っていたんです」

 

 心臓の鼓動が大きく、体が熱くなり、思いのままに言葉を紡ぐ。

 

 「明日のライブ、観ていてください。必ず成功させて、私が成長したんだって所を見せて、美空さんのおかげでヒーローの道を進めている事を証明してみせます!」

 

 頭の先から足の先までが熱を持ち、弾けそうな心臓と共に私は言い放った。

 

 「……ありがとう、ひとりちゃん」

 

 美空さんがか細い声でそう言うと、包み込むように優しく、私を抱きしめてくれた。

 

 「明日のライブ、頑張ってね。応援してるから」

 「はい」

 

 私も美空さんの背中に手を回して抱きしめる。

 これは、自分なりの誓いだ。

 

 絶対に、やってみせる。

 

 こんな私を、ずっと傍で支えてくれた人が居るんだ。

 その人の想いに報いる事が出来なかったら、ヒーローになんてなれないんだから……!

 

 

 

 

 

 

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 ソファの上に寝そべりながら、あたしは文化祭ライブのプログラム表を眺めていた。

 いくつかのバンド名が名を連ねる中、真ん中あたりに書かれている結束バンドの名前があたしには輝いて見えて思わず笑みが零れてしまった。

 ふふふ、えへへ。本当に皆で、文化祭でライブをやるんだなぁ。

 自分の学校では叶える事が出来なかった夢がこうして実現出来た事が堪らなく嬉しい。

 

 (ありがとう。ぼっちちゃん、喜多ちゃん)

 

 誘ってくれた後輩二人に心の中で感謝する。もちろん、終ったら直接言うつもりでもあるけどね。

 

 「なあ、重いんだけど」

 「今日くらい良いでしょ? リラックスするのも本番に向けて必要なんです~」

 

 傍に座っているお姉ちゃんの膝の上に足を乗っけていたら文句を言われたけど気にしない。

 

 「はぁ。寝るんだったらちゃんとベッドで寝ろよな。リーダーがコンディション調整ミスったなんて情けない事になんなよ」

 「分かってますよー。お姉ちゃんこそお昼からだからって寝坊しないでよね」

 「しないっての。それに、その……午前から行けばメイド服着てるぼっちちゃんが見れるんだろ?」

 「あ、それ今日だけだって」

 「え? ……行く気なくなったわ」

 「なんでさ薄情者!」

 

 あんまりな発言にガバっと起き上がってお姉ちゃんに詰め寄る。まぁ、別に本気で怒っている訳じゃないし、何だかんだで美空さんが確認がてら迎えに来てくれるって提案してくれたからね。

 そんなこんなでお姉ちゃんとじゃれ合っていると、緊張が薄れて頑張るぞっていう気力が湧いてくるのを感じた。

 

 ……不思議だな。昔はバンドなんて嫌いだったのに、今では他ならぬ自分が何よりもバンド活動を楽しんで、夢を追っている。

 

 「……お姉ちゃん」

 「ん?」

 

 今は座りながら抱っこしてもらっている形で、私はお姉ちゃんに呼びかける。

 

 「明日、結束バンドの皆と一緒に最高のライブにしてみせるね」

 「……あぁ。頑張れよ」

 

 そう呟くと、お姉ちゃんは優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。

 そっと目を閉じて、心の中で祈りを届ける。

 

 ──見ていてね、お母さん。

 

 最高の親友と後輩達と、見守ってくれているお母さんに届く位、最高のライブにしてみせるから。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ふぅ。こんなもんか」

 

 ベッドの端に腰掛け愛用のベースを肩から下げた状態で息を吐く。

 ご飯も食べてお風呂にも入ったけど、何か落ち着かなくてチューニングも兼ねて軽くライブで弾く曲を確認していた。

 これ以上弾くとスイッチが入り過ぎて寝るのに支障が出そうだから、これくらいにしておこう。

 

 「我ながら、かなり緊張しているな……」

 

 自分が取っている行動がおかしくて、自嘲じみた笑いが漏れてしまう。

 皆の前ではやらかしても痛みは四等分で済むなんて言ったけど、まさか言い出しっぺの自分がこんなに緊張するとは思っていなかった。

 

 「前のバンドでもこんなに緊張した事なかったんだけどな」

 

 そう独り言ちたけど、理由は分かっている。

 単純に、それだけ結束バンドが私の心に占める割合が大きいからだ。

 

 正直、虹夏に誘われてからもバンド活動をする事に不安はあった。

 けど郁代が来て、ぼっちが来て、そして美空さんが来て、バラバラの個性が集まって一つの音楽を紡いでいく事が、何よりも嬉しくて楽しかった。

 

 ──辛い事もあったけど、やっぱり私は音楽が、バンド活動が好きなんだ。

 

 そして、その事を思い出させてくれた親友と可愛い後輩と恩師の為に、明日の晴れ舞台を絶対に成功させたい。

 ……こんな事を口に出して言うのは恥ずかしいから絶対に直接は言わないけどね。

 

 「とは言え、何が起こるか分からないのもまたライブ、か」

 

 決まりきった結果なんて面白くない。

 会場に居るオーディエンスと合わさって想像もつかない化学反応を起こすからライブは面白いのだけれど、必ずしもそれが良い方向だけに進むとは限らない。

 

 「特にぼっちと郁代はホームだから殊更力が入っている感じがするしね」

 

 練習は問題なかったけど、いざ本番になると空気に飲まれるなんてのもザラだ。

 まぁ、その時はその時で、それもまたロックだ。

 

 「ライブを成功させる。後輩のフォローもする。両方やらなくちゃいけないのが先輩の辛い所だな。覚悟はいいか? 私は出来ている。……なんてね」

 

 緊張を断ち切る意味も込めて漫画のセリフを真似してみたけど、そのセリフは思った以上に私の中にストンと落ちるのを感じた。

 ……周りは私の事をクズだのなんだの言うけどさ。

 でも、どうせならただのクズじゃなくて、星屑の様に誰かの願い事を背負って生きたっていいでしょ?

 

 

 

 

 

 

 『一応クラスの友達にも確認してみたけどさ、全員観に来てくれるって』

 「本当!? ありがとうさっつー」

 

 寝るには少し早い時間帯、私はさっつーと電話で話をしていた。

 

 『いいって事よ。その代わり、バッチリ決めてくれよ喜多』

 「えぇ。任せて頂戴」

 『おぉー頼もしい。んじゃ、後藤さんにもよろしくと、文化祭終わったら一緒にご飯食べよって言っといて』

 「オッケー。わざわざありがとうね」

 『うーい。んじゃ、おやすみー』

 「おやすみなさい。……ふぅ」

 

 通話が切れたスマホを胸に抱いて、ぽふりとベッドの上に寝転がる。

 体の芯からじわじわと熱が溢れて来て、頭も妙に冴えている。

 ちゃんと寝れるのかな、と思いつつも今の体の変化を面白いと感じている自分もいるのが何だか可笑しかった。

 

 「私、楽しみなんだ」

 

 自分以外誰も居ない部屋の中で呟く。

 正直、自分の人生は恵まれている方だと思う。

 勉強も運動も人並み以上に出来て、友達は多い方だ。

 

 けど、何か秀でている物があったわけでもなかった。

 

 楽しくはあるけど、味気が無い人生。

 結局は普通という枠からはみ出ることなく、型に嵌った人生を送っているんじゃないかって感じていた。

 

 何かに懸ける情熱も無い。

 じゃあ、私には何が残るんだろう?

 

 一人で居るとまるで真綿で自分の首を締める様な思考に囚われた事もあったけど、STARRYでの出会いがそれを変えてくれた。

 

 リョウ先輩と虹夏先輩は一度は逃げた私を受け入れてくれた。

 美空さんは下手くそな私に根気強く音楽の楽しさを教えてくれた。

 そして……あの時ひとりちゃんが引き留めてくれたから、こんな私にも夢を持つ事が出来た。

 

 「……っ!」

 

 目元から涙が零れそうになったけど、すぐに袖でそれを拭う。

 泣くのは今じゃない。

 本当に泣いていいのは、ライブを成功させてからだ。

 

 「大丈夫」

 

 胸の前で組んでいた腕を解いて、拳を握りながら片手を天井に突き出す。

 

 ──私のすぐ傍には、最高の友達と先輩がいるんだから。




 サブタイにも使った事がありますがこの物語の山田はRAGE OF DUSTがテーマソングのイメージです。


 さて、この世界線ではぼっちちゃんは原作以上に順風満帆なバンド生活を歩めている様に見えますが、傍から見たら順調でも本人はまた別の悩みや葛藤を抱えているのが人間の性であり人生なのではないかと思います。

 そして、未来ある若者たちが頑張って困難を乗り越える尊さをこの物語で描ければいいなと思います。
 
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