夢への旅路   作:梅のお酒

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 いっぺんに人物がたくさん出て来た時全員を会話に参加させようとすると冗長になるのである程度割り切ってコントロールしています。


第36話 リトルブレイバー

 ピンポーン。

 

 「店長、起きてますかー?」

 「開けろ! デトロイト市警だ!」

 『うるせぇ! 朝っぱらからでけぇ声出すな!』

 

 自分だってでけぇ声出してるじゃんかよ。

 心の中でそうツッコミつつドアの向こうからドタドタ音が聞こえた後、しばらくして不機嫌な顔をした星歌さんが中から出て来た。

 

 「はい店長、おはようございます。もうお昼ですけど」

 「そんな顔してるとSIDEROSの子達が怖がっちゃうんでシャンとしてくださいよ」

 「誰のせいでこうなったと思ってんだよ。おら、さっさと行くぞ」

 

 PAさんと私に対して仏頂面のまま階段の先に向かって星歌さんが顎で促し、三人でSTARRYの入口へと向かう。

 今は文化祭ライブが始まる一時間くらい前。虹夏ちゃんは先に出てしまうため星歌さんが寝坊していないか心配だったので、PAさんと一緒にお迎えに来たわけである。

 

 「偉いですね店長、ちゃんと起きれて」

 「その言葉、そっくりそのまま返すわ」

 「ふふふ。今日は虹夏ちゃん達にとって最高の思い出にして欲しいですからね。応援しようと頑張っちゃいました」

 

 ヤンキーの睨みに対しても余裕綽々といった感じでPAさんは口元を袖で隠しながら笑う。一人でもこういう風に応援してくれる人が居るって本当に有難い事だよなぁ。

 

 「ありがとうございますねPAさん」

 「気にしないでください藤原さん。好きでやっている事ですから」

 「どうせ暇なんだし対して変わらんだろ」

 「あ、失礼ですね。私だってお店の事以外で色々頑張ってるんですよ」

 「へー。他に何か副業とかしてるんですか?」

 「え……? あ、あーそうですねー……。新時代コンテンツについてのオンラインサロン的なものを開いてます」

 

 何か一気に胡散臭くなったぞ? さっきとは違ってすっごい目を泳がせてるし。

 まぁ本人が何やろうがそれはPAさんの自由だし、気にしてもしょうがないか。

 

 「伊地知先輩おはようございまーす」

 「先輩、お久しぶりです」

 「おー岩下、久しぶりだな」

 「あれ、私は無視?」

 「お前は後。んで、そっちの外人さんが……」

 「ハジメマシテー! 清水イライザです! よろしくお願いしマース!」

 「初めまして、よろしくお願いしますね」

 

 丁度会話の切れ目で合流した所で先に星歌さんがきくり達と挨拶を始め、その流れでPAさんも自己紹介をした。

 その間、私は少し離れた所に居たSIDEROS組と挨拶をする。

 

 「美空さん、おはようございます」

 「ヨヨコちゃんおはよう。長谷川さん達も今日はありがとうね」

 「いえいえ。こちらこそお誘いありがとうございます」

 

 お互いに軽く会話をした後、チラリと星歌さん達の方に目を向けると向こうはどうやら一息ついたようなのでSIDEROSの子達を案内する。

 

 「こちらが虹夏ちゃんのお姉さんで店長を務めてる星歌さん。隣の黒髪の人がPAさんね」

 「虹夏から話は聞いてるよ。よろしくな」

 「よろしくお願いしますね~」

 「よ、よろしくお願いします」

 

 代表という事でヨヨコちゃんが挨拶をするけど、見た目ヤンキー&ピアスゴリゴリの美女という組み合わせに少し腰が引けているようだった。

 

 「大丈夫だよヨヨコちゃん。PAさんは優しい人だし、星歌さんも見た目ヤンキーだけどぬいぐるみを抱いて寝るくらいには可愛い人だから」

 「お前その写真どうした!?」

 「虹夏ちゃんがくれました」

 「消せ! 今すぐ消せ!」

 「せんぱ~い。ここにも可愛いネコちゃんがいますよ~。ほれニャーンニャーン」

 「保健所に叩き込むぞお前」

 「ぶぎぎぎぎぎぎぎ!」

 

 お酒の匂いをぷんぷんさせながらきくりが星歌さんにくっつこうとすると頬っぺたを鷲掴みにされて万力みたいに締め上げられた。

 っていうか今日のきくりはマジでお酒臭いな……。匂いだけでこっちが酔いそう。

 

 「きくり、何でいつにも増してお酒臭いのよ」

 「学校じゃ飲んじゃ駄目だって言われたから今の内に飲み溜めしてきました」

 「ちょっとー志麻ー。あんたが居ながらどういう事なのよ」

 「これでも頑張った方なんだ」

 「最初はお水だって嘘ついてペットボトルに入れて持ち込もうとしてたんだヨー」

 

 そこまでして飲みたいのかお前……。

 なんでこんな酒カスになってしまったのかと、まるで不良になった自分の子供を見ている気分だった。

 

 「まぁまぁ。今日はひとりちゃん達の晴れ舞台だし、ちゃんと我慢するって。それに」

 

 こっちの気持ちは知らずにきくりはそう言って私の腕に抱き着いて来て、

 

 「何かあったら美空が止めてくれるんでしょ?」

 

 とニヤニヤ笑いながら言った。

 私が他の皆に目線で助けを請うても我関せずとばかりに明後日の方向を向き、志麻にいたっては『逃がさん、お前だけは』と言わんばかりに睨んでいる。

 

 「……はぁ~~~。分かったわよ。とりあえず時間が無いからさっさと行きましょう」

 「はーい! それじゃレッツゴー!」

 

 私の体にくっついたままのきくりが意気揚々と声を上げ、皆で秀華高校へと出発するのだった。

 

 「ちなみに私を止めるとしたらどう止めるつもり?」

 「お腹に一発ブチ込んで強引に吐かせる」

 「それ死んじゃうって!」

 

 

 

 

 

 歩くこと数分、道中は星歌さんとPAさんが気を利かせてくれたおかげで満遍なくアイスブレイクが出来て程よい距離感が生まれながら無事に目的地へたどり着く事が出来た。

 

 「おー。当たり前っすけどやっぱり学校が違うと雰囲気も違うっすね」

 「そうだねー。華やかで皆すごい楽しそう」

 「ふふ。この学校の方々は良いオーラを纏っていますね」

 

 長谷川さん達がそれぞれの感想を述べるのを聞きながら、私も辺りを見回す。

 出店が並び、仮装した生徒が宣伝しながら歩き回ったりしていて皆が楽しそうな表情を浮かべている。

 自分の高校時代もこんな感じだったなと懐かしんだと同時に、もったいない気持ちも湧いて来た。

 

 「皆ごめん。よくよく考えたらもう少し早く来た方が文化祭そのものを楽しめたよね」

 「別に構いませんよ。一番の目的はライブを観る事なので」

 

 私の謝罪にヨヨコちゃんがピシャリと言い切る。

 そのあまりのストイックさに思わずたじろいでしまう。

 

 「とか言っちゃって、ヨヨコ先輩本当は少しくらい見て回りたかったんじゃないですか~?」

 「来てからすごいソワソワしてますよぉ」

 「ち、違うわよ! ただ他の学校ってこんな感じなんだって関心してただけよ!」

 

 本城さんと内田さんがからかった途端ヨヨコちゃんはワタワタと慌て始めた。私にはそっけなく見えたけど、やっぱり近くに居るメンバーだと分かるものなのかな。

 

 「ヨヨコちゃんの学校の文化祭はどんな感じなの?」

 「うちの学校はもっと固い感じですね。軽音部も無いからライブなんてやらないですし」

 「そうなんだ。虹夏ちゃんとリョウちゃんと同じ感じだね」

 「あ、だったら来年は自分達か幽々ちゃんの高校でライブしましょうよ」

 「え、そんなの許されるの……?」

 

 長谷川さんの突然の提案にヨヨコちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 

 「大丈夫な可能性はあると思うよ。虹夏ちゃんとリョウちゃんは別の高校だけど今日のライブに出させてもらってるし、なんだったらもし許可が取れたら来年はここで結束バンドとSIDEROSの対バンなんてやってみない?」

 「おー! 良いですね藤原さん! やりましょうよヨヨコ先輩!」

 「そっすよヨヨコ先輩。良い思い出になると思いますよ」

 「アウェーでお客さんを引き込めたら格好いいでしょうしねぇ」

 

 私が一つの可能性を提示すると他の三人がここぞとばかりに猛プッシュして来た。

 さながら娘達のおねだりを聞くお母さんみたいな状況にヨヨコちゃんはうんうん唸りながら考えた後、少し顔を赤くして答えた。

 

 「……仕方ないわね。幽々の言う通り敢えてアウェーで経験を積むのも大事だから、それも計画に入れておくわ」

 「もー、素直じゃないんだから」

 「すいません藤原さん。そういう事なので話をしてもらっていいですか?」

 「もちろんOKだよ」

 

 笑顔でサムズアップしながら私も答える。

 目標に向かって一生懸命なのは大事だけど、それとはまた別で一度しかない学生生活の思い出は皆にも作って欲しいからね。

 

 「あ、マネージャーさん! こんにちは!」

 

 これも青春よね~としみじみ感じていたら声を掛けられた。まぁ人をこんな呼び方する人物は限られてるけど。

 声がした方向を向くと、案の定1号さん、2号さん、三森ちゃんのお馴染みトリオが居た。

 

 「こんにちは。三人も来てくれたんだ」

 「当然です! 結束バンドある所に我らありです!」

 「我ら三人、生まれし日、時は違えども姉妹の契りを結びしからは心を同じくして推し活し、結束バンドを救わん!」

 「何故に三国志?」

 

 唐突な長台詞と共に手を高く掲げて乾杯みたいな姿勢を取り始めた三人に長谷川さんがツッコミを入れる。何気に博識なのね。

 コントじみたやり取りが終った後、ふと三森ちゃんがこっちを見るとクワッと目を見開いて震えた声で尋ねて来た。

 

 「せ、先輩……? 何かそちらのお方と距離が近くないですか……?」

 「んー? あぁ、これは気にしないで。いつもの事だから」

 

 説明するのが面倒なので腕にくっつきっぱなしのきくりの事は投げやりに答える。

 そういえば前STARRYでライブをやった時は三人は前の方にいたからこの状態を見るのは初めてか。

 まぁ別にいいか、と流そうとして改めて三森ちゃんの方を見ると、何かブツブツ独り言を言っていた。

 

 「先輩が私以外の人と……。いえ、これはこれで……ありね!」

 「どうした三森ちゃん?」

 「いえ先輩、私は大丈夫です。人間は破壊と再生を繰り返して強くなる生き物。今日の経験を糧に私の脳はまた一つ強くなって栄養を補給できましたよ」

 「とりあえず病院行っとく? 頭の」

 「お気遣いなく先輩はどうぞごゆっくり! 行きましょう1号さん2号さん、早く行かないと結束バンドをベストスポットで観れなくなっちゃうわ!」

 「あ、待ってください3号さん!」

 「すいませんマネージャーさん、失礼します!」

 

 変なテンションになった三森ちゃんを残りの二人も後を追って行った。何なんだ一体……。

 

 「……美空、随分懐かれてるね」

 「いでで! 何で抓ってくんのよ!?」

 「お前、刺されないように気を付けろよ」

 「だから何で!?」

 

 私、なんもしてないじゃん!

 

 

 

 

 

 不本意なひと悶着があった後、会場である体育館に移動する。

 中からは結束バンドより順番が前のバンドが演奏するのが聞こえ、入口の方へ向かうとまた声を掛けられた。

 

 「こんにちは、藤原さん」

 「美空おねーさん、こんにちは!」

 「どうも、ひとりがお世話になっております」

 「あ、こんにちは。直接ご挨拶するのは初めてですね」

 

 入口近くでばったり会ったのは、ひとりちゃんのご家族だった。

 初対面の挨拶そのものはかなり前にリモートでしており、今でもひとりちゃんとの勉強会の後に何回か軽く話をしたりしている。

 でも顔見知りとは言え、流石にこちらが大所帯のままで話し込むのもどうかと思ったので先に他の皆に手短に伝える。

 

 「ごめん皆、ちょっと先に行っててくれない? あ、星歌さんは残ってください」

 「わ、分かった」

 「了解~。先に場所取ってるね」

 

 星歌さんは少し緊張した様子で頷き、きくりも何となく事情を察してくれて私の腕から離れて皆を連れて中に入って行った。

 

 「星歌さん、こちらがひとりちゃんのご家族です。お父さんお母さん、こちらが私の先輩でひとりちゃんのバイト先の店長の星歌さんです」

 「初めまして、ひとりの母の美智代です」

 「父の直樹です」

 「妹のふたりです!」

 「初めまして、店長の伊地知星歌です。ふたりちゃん、ちゃんと挨拶出来て偉いね~」

 

 見た目はヤンキーだけどここら辺はしっかり大人として星歌さんも挨拶する。……ふたりちゃんを撫でながら浮かべる笑顔がちょっとニチャってて気持ち悪いけど。

 

 「伊地知さん、ひとりがいつもお世話になってます。あの子、人見知りがすごいから心配で」

 「大丈夫ですよ。ぼ……ひとりちゃんはいつも頑張ってくれてます」

 「ほんと~? お姉ちゃんすごいめんどくさい性格してるからふたりも心配なの」

 

 う~ん、ふたりちゃんのこの小さい子特有のキレッキレな発言。

 リモートでひとりちゃんも交えて話をした事あるけど、仲が悪いわけじゃないと思うんだけどな~。ただ、ひとりちゃんに姉としての威厳がどうかと言われると正直悩ましくもあるのよね。

 どう答えればいいのかと悩んでいると、星歌さんがさっきとは違う、優しい微笑を浮かべるのが目に入った。

 

 「はは。確かにひとりちゃんは気弱な所が目立つかも。でもね」

 

 そして、しゃがんでふたりちゃんと目線を合わせながら語りかけた。

 

 「ひとりちゃん、やる時はすっごい格好いいから」

 「だからふたりちゃん。今日はお姉ちゃんの事、思いっきり応援してあげて」

 

 言霊、っていうのはこういう事を言うのかな。

 近くで大きな音がしているにも関わらず、星歌さんの声には不思議と心に響く熱量が宿っていた。

 それを直感で感じ取っているのか、ふたりちゃんはポカンとした表情をして固まっていた。

 私もしゃがんでふたりちゃんと目線を合わせ、声を掛ける。

 

 「ふたりちゃん、私からもお願い。ひとりちゃんが頑張ってる所、しっかり見てあげて」

 「……うん!」

 

 そしてふたりちゃんは、満面の笑みで答えてくれた。

 

 「お父さんお母さん、早く行こ!」

 「分かった分かった。他の人の迷惑にならないようにな」

 「伊地知さん、藤原さん。ありがとうございます」

 「いえいえ。私達も連れがいますので、どうぞお気になさらず観てください」

 

 お互いに軽く会釈をしながら、先に中へ入って行く後藤さん一家を星歌さんと一緒に見送った。

 私はフッと笑みを浮かべながら星歌さんの肩をポンポン叩いた。

 

 「さっすが。音楽の力で妹と仲直りした人の言葉は違いますね」

 「茶化すな。私は事実を言っただけだ」

 

 そっぽを向いたままの星歌さんに頭をガシガシ撫でられるけど、今はそれが心地よかった。

 

 「……じゃ、しっかり見届けますか。私達の妹の晴れ舞台をね」

 「あぁ、そうだな」

 

 星歌さんと互いに拳を軽く合わせ、共に熱気が満ちる会場の中へと足を進めた。




 作者は毎年文化祭の日に部活の試合があったので文化祭エアプ勢です。

 次からはようやっとライブシーンに入ります。
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